(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697810
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】掴線器及び該掴線器を用いた活線振り分け工具
(51)【国際特許分類】
H02G 1/04 20060101AFI20200518BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
H02G1/04
H02G1/02
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-556266(P2017-556266)
(86)(22)【出願日】2017年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2017014714
(87)【国際公開番号】WO2017179550
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2019年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-81380(P2016-81380)
(32)【優先日】2016年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591083772
【氏名又は名称】株式会社永木精機
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一出
(72)【発明者】
【氏名】水取 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】野内 秀男
【審査官】
土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−242477(JP,A)
【文献】
特開2004−304969(JP,A)
【文献】
特開2011−067007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/00−1/10
B25B 25/00−33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部の上部に設けられた、電線を上方から把持する上部把持部と、前記上部把持部と当該電線を挟んで対向配置され、前記基部に対して上下に移動自在に設けられた下部把持部と、
前記下部把持部の下部に前記下部把持部と別体として設けられた矢部と、
前記矢部を挟んで前記下部把持部の反対側に配された支持体であって、前記基部の下部に設けられた下部支持部に螺着され前記基部の長手方向に延びるネジによって前記矢部を押圧する支持体と、
前記下部把持部を前記基部から離間しないように保持する保持部
を備え、
前記保持部が、
前記下部把持部に形成され、前記矢部が移動自在に嵌入される空洞部と、
前記下部把持部が前記基部を跨ぐ二つの脚部と、前記基部を介して該二つの脚部同士を連結するガイド部
からなり、
前記矢部が前記下部把持部の下部に別体として設けられ、
前記基部が前記上部把持部の延設方向に対して垂直方向に延設する
ことを特徴とする掴線器。
【請求項2】
前記保持部が、前記下部支持部に取り付けられ、前記基部の長さ方向に延びる保持板からなり、
前記基部と、前記下部支持部によって構成された空間内に前記矢部が移動自在に嵌入され、
前記矢部が前記下部把持部の下部に前記下部把持部と別体として設けられ、
前記基部が前記上部把持部の延設方向に対して斜め方向に延設する
ことを特徴とする請求項1に記載の掴線器。
【請求項3】
前記下部把持部の前記上部把持部と対向する面に複数のスパイクが設けられてなる請求項1または請求項2に記載の掴線器。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の掴線器を二つ用いた活線振り分け工具であって、
前記二つの掴線器が電線に対して互いに離間して掴持され、
伸縮自在の伸縮棒の一端に、前記二つの掴線器のうちの一方の掴線器の矢部が連結され、前記伸縮棒の他端に前記二つの掴線器のうちの他方の掴線器の矢部が連結されてなる
ことを特徴とする活線振り分け工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は掴線器及び該掴線器を用いた活線振り分け工具に関する。さらに詳しくは、2本の電柱間に架設された通電状態の電線を切断する際に用いる掴線器及び該掴線器を用いた活線振り分け工具に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の電柱間に架設された通電状態の電線(以下、単に「活線」という)を切断する工法として、電線の切断されるべきカ所を挟んで互いに離間した二つの位置に、一方の掴線器及び他方の掴線器を掴持し、然る後に当該一方及び他方の掴線器を夫々引張具に接続した状態で、この引張具によって当該一方及び他方の掴線器を夫々引っ張り、前記電線の切断されるべきカ所を挟んで互いに離間した二つの位置の間の活線に弛みを生ぜしめ、活線を弛ませた状態で切断具を用いて切断する活線振り分け工法が従来知られている。そして、かかる活線振り分け工法として、特許文献1(
図9参照)には、伸縮操作可能な伸縮棒(52)の両端にそれぞれ掴線器(53、54)を取付けるとともに、一端の掴線器(53)は伸縮棒(52)に対して回動自在に連結した活線振り分け工具(51)を用い、一方の掴線器(53)を活線(W)の切断カ所の一側部に引っ掛けた後、伸縮棒(52)を活線に沿わせて他方の掴線器(54)を切断カ所の他側部に引っ掛け、次に遠隔操作棒(55)にて伸縮棒(52)を操作して収縮させることで、二つの掴線器(53、54)によって活線(W)を強く掴持するとともに二つの掴線器(53、54)を互いに接近移動させてそれらの間の活線(W)を弛ませ、この弛んだ部分を切断具(56)にて切断する活線振り分け工法が開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の活線振り分け工法の場合、活線振り分け工具(51)の一端の掴線器(53)が伸縮棒(52)の一端に回動自在に連結されているので、活線振り分け工具(51)の作業場所への運搬時や準備作業中などに、伸縮棒(52)の一端の掴線器(53)が不用意に首振り動作して伸縮棒(52)や周囲の器材などに衝突し、掴線器(53)自体又は周囲の器材を損傷させる虞があった。
【0004】
かかる特許文献1の欠点を解消したものとして、特許文献2には、伸縮操作可能な伸縮棒の両端に、それぞれ第1電線把持部及び第2電線把持部が配設され、第1電線把持部に、その把持機構を伸縮棒の軸心方向に沿った姿勢と略90°屈曲した姿勢との間で揺動自在に伸縮棒の一端に連結する第1連結手段を設け、第1連結手段に把持機構の自在な揺動に制動力を付与する制動手段を設け、第2電線把持部に、その把持機構を伸縮棒の軸心方向に沿った姿勢で伸縮棒の他端に連結する第2連結手段を設けた活線振り分け工具が開示されている。
【0005】
特許文献2によれば、第1電線把持部の把持機構を略90°屈曲した姿勢にして伸縮棒の他端側を持って活線の切断カ所の一側部に装着し、次に遠隔操作棒にて伸縮棒の他端側を持ち上げて伸縮棒を活線に沿わせ、第2電線把持部の把持機構を切断カ所の他側部に装着し、その後遠隔操作棒にて伸縮棒を操作して収縮させることで、第1及び第2電線把持部の把持機構にてそれぞれ活線が強く把持されるとともに両電線把持部が互いに接近移動してそれらの間の活線が弛み、この弛んだ部分を切断具にて切断することで作業能率よく切分工法を実施することができるとともに、第1の電線把持部の把持機構を伸縮棒の一端に揺動可能に連結する第1の連結手段に制動手段を設けているので、把持機構が不用意に首振り動作して伸縮棒や周囲の器材などに衝突し、把持機構自体や周囲の器材を損傷させる虞が無く、把持機構の不用意な首振り動作によるトラブルの発生を防止することができるとしている。
【0006】
電線を引っ張った状態で2〜3日放置しておくような場合には、電線における電線把持部で把持する部位の絶縁被覆層を剥ぎ取り、電線把持部の一対の掴線部で素線を直接把持させるようにしていた。このことは、上記特許文献1及び特許文献2の場合も同様である。しかし、活線振り分け工具の伸縮棒の両側に、それぞれ電線把持部を備えているので、電線の把持すべき2カ所の絶縁被覆層に対し寸法を測って所要長さだけ剥ぎ取るという煩雑な作業を必要としていた。さらに、活線振り分け後に、電線の絶縁被覆層を剥ぎ取ったカ所を修復する必要があり、非常に面倒である。しかも、長時間において雨風にさらされると、修復カ所から雨水が浸入して漏電する虞もある。
【0007】
絶縁被覆層を剥ぎ取る作業を要せずに、電線の把持状態を保持できる電線把持部が提案されている(特許文献3および特許文献4参照)。しかし、特許文献3及び4の電線把持部では、
図10に示すように力点(枢軸(59))と作用点(枢軸(60))とが鉛直線上に位置する状態になると、これから以降は、連結部材(50)の引っ張り力が可動側掴線部(53)の押し上げ力として効果的に作用しないので、電線(54)が細いものである場合には、この電線(54)を確実に把持することができない。
【0008】
かかる特許文献3及び4の欠点を解消するものとして、特許文献5の電線把持部では、係止小片は、芯線の外周面に対応した曲率半径で湾曲した直線状の歯部が芯線の軸線に対し直交方向に食い込んでいることから、従来の電線把持部に設けられている円錐形状のスパイクからなる係止部に比較して格段に大きな抑止力が芯線に対し作用するので、電線を引っ張った状態で2〜3日の間放置しておくときに、何らかの原因で電線把持部に対し衝撃力が加わった場合には、芯線に僅かに食い込んでいる各係止小片が両掴線部から電線が抜け出るのを確実に防止することができるから、両掴線部の間から電線が抜け出るといったトラブルが発生するおそれがない。また、係止小片は、その歯部を芯線に僅かに食い込ませるだけで大きな抑止力を発揮するので、スパイクからなる係止部のように芯線の素線に対し径の1/3程度まで食い込ませる場合に比較して、芯線に与えるダメージを軽減できる。さらに、この電線把持部を用いる場合には、電線の絶縁被覆層を剥ぎ取る工程が不要となる。また、従来の掴線器では、ホットプラーに電線を把持(チャッキング)させるときに、電線の心線の位置を正確に特定するという極めて厄介な作業が必要であった。
【0009】
さらに
図11、
図12に示される掴線器も従来知られている。この掴線器は上部把持部(52)と、該上部把持部(52)に平行な下部把持部(53)と、該上部把持部(52)及び下部把持部(53)にそれぞれ一対のスパイク(58、58)、(59、59)を介して一対のリンク(51A、51B)が回動自在に連結され、一方のリンク(51A)の上部把持部(52)の側のスパイク(58)に一端が固着され、他方のリンク(51B)には雌ねじ部(F)と螺合する雄ねじ部(M)が設けられ、一対のリンク(51A、51B)の端部(59、59)に回動自在に棒状体(50)が設けられている。
【0010】
この掴線器は、雄ねじ(M)を締め付けると、
図12に示されるように、雄ねじ(M)がスパイク(58)の回りを時計方向に回転して、下部把持部(53)に接近していく。
【0011】
この掴線器の場合、雄ねじ(M)の締付力(雄ねじ(M)の長さ方向の力)が垂直方向成分と水平方向成分とに分散してしまうので強い締付力が得られないこと、上部把持部(52)と、該上部把持部(52)に平行な下部把持部(53)との間に挟持される電線に一様な掴線力(締付力)が得られないことが問題点として存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−083309号公報
【特許文献2】特開2010−088256号公報
【特許文献3】特許第2948786号明細書
【特許文献4】特許第3015352号明細書
【特許文献5】特開2004−304969号公報
【特許文献6】特開2014−193085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
叙上の特許文献2記載の発明の場合、第1電線把持部の把持機構を略90°屈曲した姿勢にして伸縮棒の他端側を持って活線の切断カ所の一側部に装着するという作業工程を要し、作業者に無理な姿勢を強いるという問題があり、そのうえ、第1の電線把持部の把持機構を伸縮棒の一端に揺動可能に連結する第1の連結手段に制動手段を設けることを要件としているので構成が複雑であるという欠点がある。また、特許文献5記載の発明の場合、両掴線部から電線が抜け出ることを、芯線に僅かに食い込んでいる各係止小片に依存しているので、芯線に僅かに食い込んでいることの客観的な判断が難しいという欠点がある。
【0014】
本発明は叙上の特許文献1乃至5並びに
図11乃至12の掴線器の欠点を取り除き、電線への把持(掴線)が容易かつ確実で、大きな掴線力(締付力)を得ることができ、そのうえ部品点数が少ない掴線器及び該掴線器を用いた活線振り分け工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様(請求項1)は、基部の上部に設けられた、電線を上方から把持する上部把持部と、
前記上部把持部と当該電線を挟んで対向配置され、前記基部に対して上下に移動自在に設けられた下部把持部と、
前記下部把持部の下部に前記下部把持部と一体的に、又は別体として設けられた矢部と、
前記矢部を挟んで前記下部把持部の反対側に配された支持体であって、前記基部の下部に設けられた下部支持部に螺着され前記基部の長手方向に延びるネジによって前記矢部を押圧する支持体と、
前記下部把持部を前記基部から離間しないように保持する保持部
を備えてなることを特徴とする掴線器に関する。
【0016】
また、前記保持部が、
前記下部把持部に形成され、前記矢部が移動自在に嵌入される空洞部と
前記下部把持部が前記基部を跨ぐ二つの脚部と、前記基部を介して該二つの脚部同士を連結するガイド部
からなり、
前記矢部が前記下部把持部の下部に別体として設けられ、
前記基部が前記上部把持部の延設方向に対して垂直方向に延設する
ことが好ましい(請求項2)。
また、前記保持部が、前記下部支持部に取り付けられ、前記基部の長さ方向に延びる保持板からなり、
前記基部と、前記下部支持部によって構成された空間内に前記矢部が移動自在に嵌入され、
前記矢部が前記下部把持部の下部に前記下部把持部一体的に設けられ、
前記基部が前記上部把持部の延設方向に対して斜め方向に延設する
ことが好ましい(請求項3)。
【0017】
また、前記下部把持部の前記上部把持部と対向する面に複数のスパイクが設けられてなることが好ましい(請求項4)。
【0018】
本発明の第2の態様(請求項5)は、請求項1乃至4に記載の掴線器を二つ用いた活線振り分け工具であって、
前記二つの掴線器が電線に対して互いに離間して掴持され、
伸縮自在の伸縮棒の一端に、前記二つの掴線器のうちの一方の掴線器の矢部が連結され、前記伸縮棒の他端に前記二つの掴線器のうちの他方の掴線器の矢部が連結されてなる
ことを特徴とする活線振り分け工具に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様(請求項1乃至2)に係る掴線器は、基部の上部に設けられた、電線を上方から把持する上部把持部と、前記上部把持部と当該電線を挟んで対向配置され、前記基部に対して上下に移動自在に設けられた下部把持部と、前記下部把持部の下部に前記下部把持部と一体的に、又は別体として設けられた矢部と、前記矢部を挟んで前記下部把持部の反対側に配された支持体であって、前記基部の下部に設けられた下部支持部に螺着され前記基部の長手方向に延びるネジによって前記矢部を押圧する支持体と、前記下部把持部を前記基部から離間しないように保持する保持部を具備しているので、電線への把持(掴線)が容易かつ確実で、そのうえ部品点数が少ないという優れた効果を奏する。
また、前記保持部が、前記下部支持部に取り付けられ、前記基部の長さ方向に延びる保持板からなり、前記基部と、前記下部支持部によって構成された空間内に前記矢部が移動自在に嵌入され、前記矢部が前記下部把持部の下部に前記下部把持部一体的に設けられ、前記基部が前記上部把持部の延設方向に対して斜め方向に延設する構成を具備すると、作業性が一層良くなるという利点がある。
【0020】
本発明の第2の態様(請求項5)に係る活線振り分け工具は、請求項1乃至3に記載の掴線器を二つ用いた活線振り分け工具であって、前記二つの掴線器が電線に対して互いに離間して掴持され、伸縮自在の伸縮棒の一端に、前記二つの掴線器のうちの一方の掴線器の矢部が連結され、前記伸縮棒の他端に前記二つの掴線器のうちの他方の掴線器の矢部が連結されてなる構成を具備しているので、電線への把持(掴線)が容易かつ確実で、そのうえ電線の絶縁被覆層を剥ぎ取り、且つ工事終了後にテーピング作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る掴線器を用いた活線振り分け工具を示す説明図である。
【
図2】
図2は本発明の他の実施形態に係る掴線器の電線への取り付け前の状態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は平面図をそれぞれ示す。
【
図3】
図3は
図1の掴線器が電線に取り付けられた状態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図をそれぞれ示す。
【
図4】
図4は
図2および
図3の掴線器の矢部が伸縮棒に接続された状態を示す図であって、(a)は伸縮棒に対して引っ張り操作を行う前の状態を示し、(b)は伸縮棒に対して引っ張り操作を行った状態を示す。
【
図5】
図5は本発明の掴線器を構成する矢部を示し、(a)は平面図、(b)は側面図をそれぞれ示す
【
図6】
図6は本発明の矢部の作用効果を示す説明図である。
【
図7】
図7は本発明の矢部の実施形態の変形例を示す斜視図である。
【
図8】
図8の(a)は本発明の更に他の実施形態に係る掴線器の正面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(a)のB−B線断面図である。
【
図9】従来の活線振り分け工具を示す説明図である。
【
図10】従来の活線振り分け工具に使用される掴線器の電線への取り付け前の状態を示す説明図である。
【
図11】従来の掴線器の掴線前の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照して本発明の実施形態にかかる掴線器および該掴線器を用いた活線振り分け工具について以下に詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る掴線器を用いた活線振り分け工具を示す説明図である。
図2は本発明の他の実施形態に係る掴線器の電線への取り付け前の状態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は平面図をそれぞれ示す。
図3は
図1の掴線器が電線に取り付けられた状態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図をそれぞれ示す。
図4は
図2および3の掴線器の矢部が伸縮棒に接続された状態を示す図であって、(a)は伸縮棒に対して引っ張り操作を行う前の状態を示し、(b)は伸縮棒に対して引っ張り操作を行った状態を示す。
図5は本発明の掴線器を構成する矢部を示し、(a)は平面図、(b)は側面図をそれぞれ示す。
図6は本発明の矢部の作用効果を示す説明図である。
【0024】
[実施形態1]
図1−5を参照して本発明の実施形態1に係る掴線器について説明する。本実施形態の掴線器(1)は、電線(W)を上方から把持する上部把持部(3)と、上部把持部(3)と電線(W)を挟んで対向配置され、基部(2)に対して移動自在に設けられた下部把持部(4)と、下部把持部(4)の直下に配置され、下部把持部(4)と接する横方向に延びる面(5a)と、斜面(5b)とを備えた矢部(5)であって、前記基部(2)の上下方向に進退自在に前記基部(2)に設けられたネジ(Th)を、前述の下部把持部(4)と当接不能に受け入れる長穴(G)が穿設され、基部(2)に対して横方向と上下方向に移動自在に設けられた矢部(5)と、矢部(5)の斜面(5b)と当接する斜面(6a)を備えた支持体(6)であって、前記ネジ(Th)を挿通する孔(6g)が穿設され、前記ネジ(Th)を挿通し、かつ前記ネジ(Th)に固定された環状部材(7)によって支持される支持体(6)を具備している。ここで
図5を参照すると、矢部(5)の横方向に長さ(L)に亘って長穴(G)が穿設されている。
ここで
図2の(a)を参照すると、本実施形態において上部把持部(3)はXY座標系(直交座標系)のX軸方向が延設方向であり、基部の延設方向はY軸方向である。
図1−
図6に例証された実施例では、長穴(G)は矢部(5)の上面を貫通していない。すなわち、本発明の矢部(5)の長穴(G)は、
図5の紙面の下部の斜面(5b)から上方に上面(5a)を貫かずに長さ(L)だけ抉られた溝である。しかし、かかる構造は必須ではない。例えば、
図7に例証されるように、矢部(5)の一部に切り欠き部(5D)を設け、ネジ(Th)の頭部に脱落防止リング(ThR)を設けたものも本実施形態に含まれる。
図7に示される実施形態の場合、掴持されていた電線(W)を掴線器(1)から取り外す際にネジ(Th)を緩めても矢部(5)や支持体(6)が基部(2)から脱落しないという利点がある。またこの実施形態においては、保持部(4L、8p、8s)は下部把持部(4)に形成され、矢部(5)が移動自在に嵌入される空洞部(4c)と、下部把持部(4)が基部(2)を跨ぐ二つの脚部(4L)と、基部(2)を介して該二つの脚部(4L)同士を連結するガイド部(8p)か構成されている。
【0025】
ここで
図6を参照する。支持体(6)の斜面(6a)の傾斜角をθとし、支持体(6)が固定されているとする。そして矢部(5)を紙面右方に力Fで距離Dだけ移動させると、仕事量はF・Dである。一方矢部(5)の紙面上方(垂直方向)の移動距離はD・sinθである。
【0026】
図2の(b)を参照すると、下部把持部(4)の、上部把持部(3)と対向する面(4a)に複数のスパイク(P)が設けられている。
図2の(a)には6本のスパイク(P)が示されているが、スパイク(P)の数は6本に限定されることはなく、本実施形態の掴線器(1)が適用される電線の種類に応じて適宜決められ得る。
図6を参照すると、矢部(5)の紙面上方(垂直方向)への力をXとすると仕事量はX・D・sinθとなるので、X=F/sinθとなりθは0<θ<π/2であるので、sinθ<1である。よってX>Fとなり、矢部(5)の紙面上方(垂直方向)への力Xは、矢部(5)の紙面右方への力(引張力)Fに比して増大する。
【0027】
つぎに、
図2の(b)を参照すると、本実施形態においては、基部(2)の上部と下部にそれぞれ上部支持部(2a)と下部支持部(2b)が前記基部(2)に対して垂直方向に形成される。そして、
図2には、上部支持部(2a)と下部支持部(2b)が前記基部(2)と一体的に形成されたものが例証されているが、かかる構成に限られない。例えば、上部支持部(2a)および下部支持部(2b)を前記基部(2)に溶接によって接合したものも採用され得る。
【0028】
本実施形態においては、上部支持部(2a)に上部把持部(3)が着脱自在に取り付けられ、下部支持部(2b)に雌ネジ(Thf)が刻設され、ネジ(Th)が該雌ネジ(Thf)と螺合する。そして、ネジ(Th)の最下部にアイ(Tha)が形成されており、作業者が棒状の治具(図示されず)を用いてネジ(Th)を締め付けたり、緩めたりする。
【0029】
本実施形態の掴線器(1)は叙上のとおりの構成を具備しているので、電線(W)への掴線器(1)の取り付けは、従来のリンク機構を採用した掴線器と異なり、つぎのように行う。
【0030】
(1)まず、
図1を参照すると、電線(W)に二つの掴線器(1)を、治具を用いて同時に取り付ける(例えば、紙面下側)。その際、
図2の(b)に示されるようにアイ(Tha)を、治具(操作棒)を用いて回転操作して緩め、上部把持部(3)と下部把持部(4)との間を電線(W)の直径より大きく開ける。
【0031】
(2)ついで、操作者は電線(W)を上部把持部(3)の凹所(3a)に嵌入し、然る後に操作者は治具を用いてアイ(Tha)を回転操作してネジ(Th)を締める。そうすると、ネジ(Th)が上方に向かって上昇する。ネジ(Th)の上昇に伴って前述の環状部材(7)に支持された支持体(6)も上昇する。そして支持体(6)と当接している矢部(5)、及び矢部(5)と当接している下部把持部(4)も上昇し、下部把持部(4)に設けられたスパイク(P)が電線(W)の外皮に食い込む(
図3の(b)参照)。
【0032】
この状態になると、作業者は、最早、手動によってはこれ以上ネジ(Th)を締め付けることができない。本実施形態では、電線(W)への取り付けを、従来とは異なりネジ(Th)の締め付けによって下部把持部(4)を、電線(W)を挟んで上部把持部(3)に押圧することと、スパイク(P)の電線の外皮に食い込むことで達成しているので、ネジ(Th)が緩まない限り掴線器(1)が電線(W)から脱落しない。
【0033】
(4)ここで
図1と
図4を参照すると、二つの掴線器(1)それぞれの矢部(5)に設けられたアイ(5c)に伸縮棒(10)の両端に設けられた連結部(10a、10b)を例えばピン(図示されず)を介して両方の掴線器(1)の矢部(5)と従来公知の伸縮棒(10)(例えば特許文献2及び5参照)を同時に連結する(
図4の(a)参照)。
【0034】
こうして二つの掴線器(1)の矢部(5)と伸縮棒(10)が連結されると、伸縮棒(10)を治具(図示されず)により操作して一方の掴線器(1)に対して引張力Fを印加する。同様に他方の掴線器(1)に対して引張力(−F)を印加する。そうすると、二つの掴線器(1)間の電線に弛みが生じる。そして前述のとおり矢部(5)の紙面上方(垂直方向)への力Xが発生する。力Xは、矢部(5)の紙面右方への力(引張力)Fに比して増大するので電線(W)より掴線器(1)が脱落することはない。
このように本発明の掴線機(1)によれば、ネジ(Th)の締め付けにおいても、矢部(5)の左右方向の移動においても、下部把持部(4)は左右に移動することなく上方に移動するので、スパイク(P)に負担がかからないという顕著な効果を奏する。
【0035】
[実施形態2]
本発明の実施形態2は、実施形態1の掴線器(1)を二つ用いた活線振り分け工具(20)である。この活線振り分け工具(20)は、前記二つの掴線器(1)が電線(W)に対して互いに離間して掴持され、伸縮自在の伸縮棒(10)の一端に、前記二つの掴線器(1)のうちの一方の掴線器(1)の矢部(5)が連結され、前記伸縮棒(10)の他端に前記二つの掴線器(1)のうちの他方の掴線器(1)の矢部(5)が連結されてなる。
ここで注目されるのは、
図1の紙面左側の掴線器(1)と右側の掴線器(1)とでは、矢部(5)の向きが異なっている。これは掴線器(1)の矢部(5)が基部(2)に対して作業者が、同一の視線方向から見て二つの掴線器(1)が正しく電線(W)に装着されていることを確認できるようにするためである。
【0036】
[実施形態3]
図8を参照すると、本実施形態の掴線器(1)も前述の実施形態1の掴線器と同様に、基部(2)の上部に設けられた、電線を上方から把持する上部把持部(3)と、上部把持部(3)と電線を挟んで対向配置され、基部(2)に対して上下に移動自在に設けられた下部把持部(4)と、下部把持部(4)の下部に下部把持部(4)と一体的に設けられた矢部(4a)と、矢部(4a)を挟んで下部把持部(4)の反対側に配された支持体(6)であって、基部(2)の下部に設けられた下部支持部(2b)に螺着され基部(2)の長手方向に延びるネジ(Th)によって矢部(4a)を押圧する支持体(6)と、下部把持部(4)を基部(2)から離間しないように保持する保持部(8p、8s)を備えている。
ここで
図8の(a)を参照すると、本実施形態において上部把持部(3)はXY座標系(直交座標系)のX軸方向が延設方向であり、基部の延設方向は、Y軸に対して角度α(0<α≦30°)を成す方向に延設する(即ち、X軸に対して斜め方向に延設する)のである。
本実施形態においては、基部(2)の長さ方向は
図8に示されるように、垂直方向に対して角度θだけ傾いたY´軸方向に平行であり、これにより、矢部(4a)を押圧する支持体(6)が前述の実施形態1の傾きθの斜面を有する支持体(6)と同じ効果を奏し得る。
【0037】
保持部(8p、8s)は、下部支持部(2)に取り付けられ、基部(2)の長さ方向に延びる保持板(8p)からなり、基部(2)と、下部支持部(2b)によって構成された空間(SP)内に下部把持部(4)及び矢部(4)が移動自在に嵌入されている。更に支持体(6)には突起(6p)が形成され、基部(2)にはガイド溝(2C)が基部(2)の長手方向に形成されていて、突起(6p)はガイド溝(2C)に嵌入されている。また、支持体(6)にはバネ(6S)を介して球体(6B)が進自在に埋め込まれているので、支持体(6)を基部(2)と保持板(8p)の間に均一な姿勢で保持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の第1の態様(請求項1乃至2)に係る掴線器は、基部の上部に設けられた、電線を上方から把持する上部把持部と、前記上部把持部と当該電線を挟んで対向配置され、前記基部に対して上下に移動自在に設けられた下部把持部と、前記下部把持部の下部に前記下部把持部と一体的に、又は別体として設けられた矢部と、前記矢部を挟んで前記下部把持部の反対側に配された支持体であって、前記基部の下部に設けられた下部支持部に螺着され前記基部の長手方向に延びるネジによって前記矢部を押圧する支持体と、前記下部把持部を前記基部から離間しないように保持する保持部を具備しているので、電線への把持(掴線)が容易かつ確実で、そのうえ部品点数が少ないという優れた効果を奏する。
また、前記保持部が、前記下部支持部に取り付けられ、前記基部の長さ方向に延びる保持板からなり、前記基部と、前記下部支持部によって構成された空間内に前記矢部が移動自在に嵌入され、前記矢部が前記下部把持部の下部に前記下部把持部一体的に設けられ、前記基部が前記上部把持部の延設方向に対して斜め方向に延設する構成を具備すると(請求項3)、作業性が一層良くなるという利点がある。
【0039】
本発明の第2の態様(請求項5)に係る活線振り分け工具は、請求項1乃至4に記載の掴線器を二つ用いた活線振り分け工具であって、前記二つの掴線器が電線に対して互いに離間して掴持され、伸縮自在の伸縮棒の一端に、前記二つの掴線器のうちの一方の掴線器の矢部が連結され、前記伸縮棒の他端に前記二つの掴線器のうちの他方の掴線器の矢部が連結されてなる構成を具備しているので、電線への把持(掴線)が容易かつ確実で、そのうえ電線の絶縁被覆層を剥ぎ取る工程が不要となる。また、従来の掴線器では、ホットプラーに電線を把持(チャッキング)させるときに、電線の心線の位置を正確に特定するという極めて厄介な作業が必要であったが、本発明の掴線器によれば、そのような作業が不要になる。
【符号の説明】
【0040】
1 掴線器
2 基部
2a 上部支持部
2b 下部支持部
3 上部把持部
4 下部把持部
4a 上部把持部と対向する面
5 矢部
5a 上面
5b 斜面
5c アイ
5D 矢部の切り欠き部
6 支持体
6a 斜面
6g 孔
7 環状部材
10 伸縮棒
10a、10b 連結部
20 活線振り分け工具
Th ネジ
Tha アイ
Thf 雌ネジ
ThR 脱落防止リング
W 電線