【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
本実施例で用いるPQQジナトリウム塩としては、三菱瓦斯化学製BioPQQを使用した。なお、その他の化合物については、特に断りがない限り、和光純薬製の試薬(特級)を用いた。また、PQQフリー体(塩を形成していないもの)はピロロキノリンキノンジナトリウム水溶液に濃塩酸を加えてpHを1としたときに析出した固体を乾燥することにより得た。
【0046】
〔製造例1:PQQTME(PQQトリメチルエステル)〕
PQQフリー体32gを、30℃程度に加温したN,N−ジメチルホルムアミド300gに溶解させた。この溶液に炭酸カリウム30gを加え、硫酸ジメチル350gを混合すると30分後に溶液温度が50℃に上昇した。溶液温度が室温に下がったところで、炭酸カリウム30gをさらに混合した。この溶液を3日間室温で攪拌し、水1L中に得られた溶液を加え、2NHCl30gを混合した。溶液を濾過し、ろ物(PQQTME)をイソプロパノールで洗浄した。NMRの結果を以下に示す。
1H−NMR (CDCl
3):3.98ppm,4.01ppm,4.18ppm,7.49ppm,8.90ppm
【0047】
〔製造例2:モノメチルPQQ〕
特開平5−70458に記載の方法を改良してモノメチルPQQを得た。具体的には、PQQTME4gをアセトニトリル400gに混合し、K
2CO
35.5gを含む水400g溶液をこれに加えた。その後、2日間室温で混合し、得られた溶液に濃塩酸12.5gを加え、続いてエバポレーターでアセトニトリルを除去した。溶液中に析出した固体をろ過し、減圧乾燥して4.07gの固体を得た。NMRの結果を以下に示す。得られた固体のNMRは、文献(特開平5−70458)と一致した。
1H−NMR (dmso−d
6):3.87(Me)pmm,7.27pmm,8.61pmm
【0048】
〔製造例3:還元型PQQ〕
PQQジナトリウム塩(三菱瓦斯化学製BioPQQ)3.0gと水1.2Lとを混合して水溶液を調製した。他方、アスコルビン酸30gと水120gと2N塩酸2.5gとを混合し、温度を12℃にした。ここに水溶液を2時間かけて攪拌しながら加えた。混合終了後、20℃で18時間攪拌した。得られた溶液に2N塩酸2.5gを混合し、1時間攪拌した。その後水溶液中に析出した固体を濾過し、2N塩酸5mL,50%エタノール,水8mLで洗った。減圧乾燥を室温20時間行い、下記式(6)で表される還元型ピロロキノリンキノンの含水結晶3.35g得た。
【化2】
【0049】
〔細胞によるNADPH酸化酵素活性の測定方法〕
細胞としてはヒトfibrosarcomaであるHT1080を用いた。過酸化水素の測定にはペルオキシダーゼ存在下で過酸化水素と反応し蛍光性のResorufinとなるAmplex red試薬(Life Technologies)を使用した。各遺伝子を安定的に発現する細胞株やAmplex redを用いた過酸化水素測定方法に関しては非特許文献3および4を元に実験を行った。試薬培地はナカライテスク特級を用いた。
【0050】
まず、非特許文献3に従い、線虫Dual OxidaseであるBLI−3とその活性化に必要であるTSP−15およびDOXA−1を安定的発現する細胞株を作製した(細胞株A)。次いで、ヒトDual Oxidase 1とその活性化に必要であるDual Oxidase Activator 1、もしくはDual Oxidase 2とその活性化に必要であるDual Oxidase Activator 2を安定的発現する細胞株を作製した(細胞株B)。
【0051】
細胞株A及びBを5×10
4/100μLの濃度で96穴黒色プレートにまき、ウシ血清10%を含むDulbecco’s modified Eagle medium (DMEM)培地にて一晩培養した。ネガティブコントロールとしては遺伝子を導入していないHT1080細胞を使用した。
【0052】
緩衝液として、0.9mM CaCl
2、0.49mM MgCl
2、1g/L glucoseを含むダルベッコ組成Phosphate buffered saline (D−PBS)、あるいは10mM HEPES pH7.4を含むHanks balanced salt solution(HBSS)を用意した。
【0053】
培養後、培地を除き、上記緩衝液で細胞を数回洗浄した。そして、終濃度50μM Amplex red、0.1U/mL horseradish peroxidase (HRP)を含む緩衝液に、各測定濃度でサンプルを加え、37℃で1時間培養した。ヒトDual Oxidaseにはカルシウム刺激が必要であるため、終濃度1μMとなるようにionomycinを加えた。
【0054】
波長544nmの励起光を照射し、波長590nmの蛍光を測定した。なお、各実験で予め濃度の分かっている過酸化水素水を用いて標準検量線を作製した。そして、各ウェルの蛍光値から培養上清中に存在する過酸化水素濃度を検量線を用いて換算した。
【0055】
〔実施例A〕
〔実施例A1:ピロロキノリンキノンジナトリウム10μMでのNADPH酸化酵素発現細胞〕
線虫のNADPH酸化酵素であるDual Oxidaseの遺伝子BLI−3と、BLI−3と結合しその活性化に必要であるテトラスパニンをコードするtsp−15遺伝子と、Dual Oxidase 活性化蛋白質をコードするdoxa−1遺伝子を共発現させたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にピロロキノリンキノンジナトリウム10μMを添加して、過酸化水素発生量を測定した。その結果、過酸化水素が11.8μM発生していた,一方、これらの遺伝子群を発現していないHT1080細胞(non−trf)では、過酸化水素が2.2μM発生していた。
【0056】
〔比較例A1:ピロロキノリンキノンジナトリウムを添加しないNADPH酸化酵素発現細胞〕
実施例A1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)に添加物は加えず、過酸化水素発生量を行った。その結果、過酸化水素が1.9μM発生していた。
【0057】
〔比較例A2:イミダゾロキノンを添加したNADPH酸化酵素発現細胞〕
実施例1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にイミダゾロキノン10μMを添加して、過酸化水素発生量を測定した。その結果、過酸化水素が2.5μM発生していた。
【0058】
上記実施例A1及び比較例A1の結果より、細胞に対してピロロキノリンキノンジナトリウムを添加すると、細胞が通常で発生している過酸化水素量の5倍以上の過酸化水素が発生することが分かった。また、上記実施例A1及び比較例A2の結果より、ピロロキノリンキノンの類似体であるにもかかわらず、イミダゾロキノンは過酸化水素発生を促進する効果はほぼないこともわかった。
【0059】
〔実施例A2:ピロロキノリンキノンジナトリウム50μMにおけるNADPH酸化酵素発現細胞〕
実施例A1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にピロロキノリンキノンジナトリウム50μMを添加して、過酸化水素発生量を測定した。その結果、過酸化水素が12.4μM発生していた。一方、これらの遺伝子群を発現していないHT1080細胞(non−trf)では、過酸化水素が3.4μM発生していた。
【0060】
〔実施例A3:NADPH酸化酵素阻害剤 DPI添加時〕
実施例A1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)に、ピロロキノリンキノンジナトリウム50μMと、NADPH酸化酵素阻害剤(DPI)とを添加して、過酸化水素発生量を測定した。その結果、過酸化水素が0.9μM発生していた。
【0061】
上記実施例A2とA3を比較するとNADPH酸化酵素阻害剤により過酸化水素の発生が大きく阻害されていることがわかった。この結果は、本実施形態のNAPH酸化酵素活性化剤がNADPH酸化酵素を活性化していることを示している。
【0062】
〔実施例A4−7:濃度を変えた実験〕
実施例A1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にピロロキノリンキノン0.1〜2.5μMを添加して、各々の細胞の過酸化水素発生量を測定した。
【0063】
その他、HT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にピロロキノリンキノン0〜50μM又はイミダゾロキノン0〜50μMを添加して、各々の細胞の過酸化水素発生量を測定した結果、HT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にピロロキノリンキノン50μM又はイミダゾロキノン50μMとNADPH酸化酵素阻害剤(DPI)とを添加した結果、及び、HT1080細胞(TSP/DOX/BLI)にNADPH酸化酵素阻害剤(DPI)のみを添加した結果を
図1にまとめて示す。
【0064】
〔実施例A8−15、比較例A3,4〕
NADPH酸化酵素であるDual Oxidaseの遺伝子BLI−3と、BLI−3と結合しその活性化に必要であるdoxa−1遺伝子、を発現させたHT1080細胞(DOX/BLI)を用意した。HT1080細胞(DOX/BLI)にピロロキノリンキノンジナトリウム0〜50μMを添加して、各々の細胞の過酸化水素発生量を測定した。また、比較例A3として、ピロロキノリンキノンジナトリウムを添加していない細胞の過酸化水素発生量を測定し、比較例A4として、ピロロキノリンキノンジナトリウムに代えてイミダゾロキノン0〜50μMを添加した細胞の過酸化水素発生量を測定した。その結果を
図1に示す。このHT1080細胞(DOX/BLI)においても、ピロロキノリンキノンジナトリウムは過酸化水素の発生を促進することがわかった。
【0065】
その他、HT1080細胞(DOX/BLI)にピロロキノリンキノン0〜50μM又はイミダゾロキノン0〜50μMを添加して、各々の細胞の過酸化水素発生量を測定した結果、及び、HT1080細胞(DOX/BLI)にピロロキノリンキノン50μM又はイミダゾロキノン50μMとNADPH酸化酵素阻害剤(DPI)とを添加した結果を
図1にまとめて示す。
【0066】
また、HT1080細胞(non−trf)にピロロキノリンキノン0〜50μM又はイミダゾロキノン0〜50μMを添加して、各々の細胞の過酸化水素発生量を測定した結果、及び、HT1080細胞(DOX/BLI)にピロロキノリンキノン50μM又はイミダゾロキノン50μMとNADPH酸化酵素阻害剤(DPI)とを添加した結果を
図1にまとめて示す。
【0067】
〔実施例B〕
〔実施例B1〜4、比較例B1:時間変化の影響〕
実施例1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)を使用して、ピロロキノリンキノンジナトリウムの濃度に応じた過酸化水素発生量の時間変化、及び、ピロロキノリンキノンジナトリウムとNADPH酸化酵素阻害剤(DPI)とを添加したときの過酸化水素発生量の時間変化を測定した。その結果を
図2に示す。
図2に示すとおり、非常に短時間で過酸化水素の発生が起こっていることがわかった。これはNADPH酸化酵素の活性をピロロキノリンキノンが直接増加させている可能性が高いことを示している。酵素の活性化方法としてはその酵素の発現量を上げる方法もあるが、本実施形態では、PQQが直接、酵素機能を上げていることがわかる。
【0068】
〔実施例C〕
ヒト由来のDual Oxidase1とその活性化に必要なDual Oxidase Activator 1遺伝子を発現したHT1080細胞(D1A1)を用意した。同時にDual Oxidase2と、その活性化に必要なDual Oxidase Activator 2遺伝子と、を発現したHT1080細胞(D2A2)も用意した。HT1080細胞(D1A1)及びHT1080細胞(D2A2)それぞれに対して、ピロロキノリンキノン0〜50μMを添加して、各々の細胞の過酸化水素発生量を測定した。また、ピロロキノリンキノン又はイミダゾロキノンと、NADPH酸化酵素阻害剤(DPI)とを添加した細胞の過酸化水素発生量、及び、ピロロキノリンキノンに代えてイミダゾロキノン0〜50μMを添加した細胞の過酸化水素発生量を測定した。その結果を
図3に示す。この結果からもわかるように、ピロロキノリンキノンは濃度依存的に過酸化水素を発生させており、ヒトの遺伝子でもNADPH酸化酵素を活性化させていることがわかる。
【0069】
〔実施例D〕
実施例1で用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)を使用して、ピロロキノリンキノンジナトリウムの濃度に応じた過酸化水素発生量の時間変化、及び、ピロロキノリンキノンジナトリウムとタンパク質合成阻害剤(シクロヘキシミド、CHX)10μg/mlを添加したときの過酸化水素発生量の時間変化を測定した。その結果を
図4に示す。
図4に示すとおり、タンパク質合成阻害剤により過酸化水素産生促進は阻害されないことから、ピロロキノリンジナトリウムは新規タンパク合成を促進しているのではないことが示唆される。
【0070】
実施例Aで用いたHT1080細胞(TSP/DOX/BLI)およびその比較例HT1080細胞(non−trf、nTrf)、実施例Cで用いたHT1080細胞(D1A1)、HT1080細胞(D2A2)にピロロキノリンジナトリウム10μMを添加して1時間培養後の細胞抽出液(lysate)からBLI−3、TSP−15、DOXA−1、ヒトDUOX1、ヒトDUOX2、ヒトDUOXA1、ヒトDUOXA2の細胞膜上の発現量をウエスタンブロットにて解析した結果を
図5(A)と(B)に示す。また細胞表面分子を細胞膜非透過性のビオチンで標識し、ストレプトアビジン担体にてプルダウンした沈降物(StAv)をそれぞれの抗体でブロットし、細胞表面発現量として解析した結果も併せて示す。細胞内在性コントロール分子としてGAPDHを、細胞表面コントロール分子としてNaKATPaseを示す。いずれもピロロキノリンジナトリウム非添加(−)および添加サンプル(+)に差が見られないことから、ピロロキノリンジナトリウムはこれらの過酸化水素合成酵素やその機能関連タンパク質のタンパク合成を促進しているのではないことが示唆される。
【0071】
〔実施例E〕
〔実施例E1−3、比較例E1−2:PQQ誘導体によるNADPH酸化酵素の活性化〕
実施例1で用いたBLI−3の細胞(TSP/DOX/BLI)にPQQ誘導体10μM又はアスコルビン酸若しくはイミダゾロキノン(IPQ)10μMを添加して、過酸化水素発生量を測定した結果を表1に示す。表1に示すとおり、PQQ誘導体においてもNADPH酸化酵素の活性化が認められた。
【0072】
【表1】
【0073】
還元型PQQ、モノメチルPQQ、PQQTMEは過酸化水素を発生する能力を有している。これらの物質は生体内でピロロキノリンキノンに戻ることが予想され、細胞への吸収性、初期構造の差で過酸化水素発生力が変わっている。これと対照的に過酸化水素を発生させる可能性があるといわれるアスコルビン酸では発生していなかった。また、キノンが壊れているIPQでは微量であり、酵素活性機能はないことが分かった。