(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
ここで説明する実施形態は、本発明を、可燃性ガス(水素ガス、プロパンガス、気化したガソリン等)を送るための電動ポンプに適用した場合の例である。
【0017】
図1は、実施形態の電動ポンプ1の全体斜視図、
図2は、実施形態の電動ポンプ1の分解斜視図、
図3は、実施形態の電動ポンプ1の縦断面図、
図4は、電動ポンプ1のモータ部100のモータ本体120を取り出して示す断面図である。
【0018】
(電動ポンプ)
図1および
図2に示すように、この電動ポンプ1は、ブラシレスモータ(電動モータ)によって構成されたモータ部100と、モータ部100の前部に一体に結合されたポンプ部200と、からなる。モータ部100とポンプ部200は、同軸上に配置されている。ポンプ部200は、モータ部100によって駆動されることで、可燃性ガスを加圧吐出する。
【0019】
図3に示すように、モータ部100は、円筒形状のステータ140を覆うようにモールド樹脂(モールド樹脂部)122、132でモールド成形されたモータ本体120と、シャフト101と一体化されたロータ110とで構成されている。モータ本体120の内部には、ロータ110を収容する円柱形状の空洞であるロータ収容空間121が設けられている。ロータ収容空間121は、後端が樹脂の壁で密閉され、前端が開放されている。
【0020】
図2および
図3に示すように、ポンプ部200は、ポンプケーシング210と、インペラ220とで構成されている。インペラ220は、モータ部100のシャフト101により回転駆動されることで、ポンプケーシング210と協働して可燃性ガスを吸引圧縮する。
【0021】
ここでは、インペラ式のポンプ部200を例示しているが、ポンプの種類は問わない。
モータ部100とポンプ部200は、径方向の外周部に設けた嵌合部124、214を互いに嵌合させ、嵌合面にOリング105を介在させた状態で、複数の連結ボルト104により一体に結合されている。嵌合面は、円筒面として形成されており、後述するポンプ部200側の嵌合内周面214aおよびモータ部100側の嵌合外周面124aが相当する。
【0022】
モータ部100のシャフト101は、前端側が、モータ本体120のロータ収容空間121の前端開口からポンプ部200側に向けて突出しており、その前端が、前側軸受102を介してポンプケーシング210に回転自在に支持されている。また、後端側が、モータ本体120のロータ収容空間121の内部に収容されており、その後端が、後側軸受103を介してモータ本体120に回転自在に支持されている。
【0023】
なお、本実施形態の説明では、モータ部100のシャフト101の軸方向を単に軸方向と称し、ポンプ部200側を前側、反ポンプ部200側を後側と称する。また、軸方向に直交しシャフト101の径方向となる方向を単に径方向と称し、シャフト101の周回りを単に周方向と称する。
【0024】
(ポンプケーシング)
ポンプケーシング210は、概略円盤状のアルミニウム鋳造加工品よりなる。ポンプケーシング210の外表面(空気やガスに触れる外部に露出した面)には、耐食性や耐久性の向上を図るためにアルマイト層が形成されている。この点については後で詳しく述べる。このポンプケーシング210は、ポンプ部200をモータ部100と結合したときに、外側になる表面210Aと、内側となる裏面210Bとを有する。
【0025】
ポンプケーシング210の径方向中央部には、前側軸受102を収容するボス部213が設けられている。ポンプケーシング210の表面210A側の外周部のやや内側の位置には、円周方向に離間して吸込口211と吐出口212とが設けられている。また、ポンプケーシング210の裏面210B側の外周部よりやや内側の位置には、吸込口211と吐出口212に連通する円弧状のポンプ流路215が設けられている。
【0026】
また、ポンプケーシング210の外周部には、モータ部100側に突出した円筒状の嵌合部214が設けられている。この嵌合部214は、モータ部100側の嵌合部124とインロー嵌合する部分である。そのため、その嵌合部124には、軸方向に平行な円筒面よりなる嵌合内周面214aと、軸方向に直交する環状平面よりなる突当面214bとが設けられている。
【0027】
嵌合内周面214aは、突当面214bよりも内周側に設けられている。この嵌合内周面214aは、モータ部100とポンプ部200とを結合した際に、モータ部100側の嵌合外周面124aとインロー嵌合することで、モータ部100とポンプ部200の芯合わせの機能と密封性を確保するシール面としての機能を発揮する。突当面214bは、モータ部100とポンプ部200を結合した際に、モータ部100側の突当面124bと突き当たることで、モータ部100とポンプ部200の軸方向の位置決め機能を発揮する。
【0028】
また、ポンプケーシング210の外周の嵌合部214より更に外周側には、周方向に適当な間隔をあけて、モータ部100と結合するためのネジ穴付きの耳部216と、電動ポンプ1自体を任意の部材に取り付けるためのポンプ固定用の耳部219とが突設されている。ポンプ部200は、モータ部100側から連結ボルト104をネジ穴付きの耳部216のネジ穴にねじ込むことで、モータ部100のモータ本体120と結合されている。
【0029】
(インペラ)
ポンプ部200のもう一つの構成要素であるインペラ220は、径方向中央部に、軸孔223を有するボス部221を備えている。このインペラ220は、径方向外周部の前面に、円周方向に配列された羽根列222を有している。羽根列222は、ポンプケーシング210の裏面210B側のポンプ流路215に対応して設けられている。ポンプ部200は、このインペラ220が一定方向に回転することで、吸込口211からガスを吸い込み、ポンプ流路215でガスを圧縮し、吐出口212からガスを吐き出す。
【0030】
(モータ部)
次にモータ部100について詳しく説明する。
モータ部100は、ステータユニット130のほぼ全体をオーバーモールド樹脂(モールド樹脂部)122の内部に埋設した構造のモータ本体120と、シャフト101を含むロータ110と、から構成されている。
図3に示すように、モータ本体120には、モールド成形(後述するオーバーモールド成形)時に形成されたコネクタ部160が設けられている。このコネクタ部160の端子や後述するステータコア141の外周部の一部を除き、ステータユニット130のほぼ全体がオーバーモールド樹脂122で覆われている。
【0031】
このようにステータユニット130をオーバーモールド樹脂122の内部に埋め込むのは、可燃性ガスが製品内部に入り込んだ場合でも、火花を発生する可能性のある部分(主にステータ140)に可燃性ガスが接触しないようにするためである。
【0032】
ここでは、
図4において明らかなように、モールド成形を二段階に行っている。
一段階目の工程は、ステータ140およびバスバー153(後述)等をプリモールド樹脂(モールド樹脂部)132の内部に埋め込むための第1モールド成形工程(プリモールド成形工程)である。このプリモールド成形工程により、ステータユニット130が得られる。
【0033】
二段階目の工程は、一段階目の工程で得たステータユニット130を、オーバーモールド樹脂(モールド樹脂部)122の内部に埋め込むための第2モールド成形工程(オーバーモールド成形工程)である。このオーバーモールド成形工程により、
図4に示すようなモータ本体120が得られる。
【0034】
また、
図3および
図4に示すように、モータ本体120のロータ収容空間121の後端面を塞ぐ樹脂の壁の径方向中央内面には、後側軸受103を収容する金属製(例:非磁性SUS製)のベアリングホルダ123が設けられている。ベアリングホルダ123は、インサート成形によりモータ本体120の樹脂部(オーバーモールド樹脂122)に一体化されて設けられている。このベアリングホルダ123は、断面L字形の周側壁を有する環状体であり、後側軸受103の外周を受ける嵌合内周壁123aと、後側軸受103の端面を受ける突当壁123bと、を有している。
【0035】
(ステータユニット)
図4に示すように、ステータユニット130は、ステータ140およびバスバーユニット155(後述)等をプリモールド樹脂132の内部に埋め込んだものである。
【0036】
図5は、電動ポンプ1のモータ本体120を作る前段階のステータユニット130とその他の部品の配置を示す正面図、
図6は、電動ポンプ1のモータ本体の正面図である。
図5に示すように、このプリモールド成形体であるステータユニット130に、ベアリングホルダ123やカラー127を組み合わせながら、オーバーモールド成形を行うことにより、
図6に示すようなモータ本体120を得ることができる。ここで、カラー127は、
図4に示すように、モータ本体120をポンプケーシング210に結合する際のボルト通し孔128を確保するための小径の金属製の円筒部材である。
【0037】
次にステータユニット130やモータ本体120の製造方法を述べながら、ステータ140やステータユニット130やモータ本体120の詳細な構成について説明する。
【0038】
図7〜
図10は、ステータユニット130を得るまでの工程の説明図である。そのうち、
図7は、ステータコア141単体の構成を示す斜視図、
図8は、
図7のステータコア141の各ティース143にインシュレータ151を介してコイル150を巻回して構成したステータ140を示す斜視図、
図9は、
図8に示すステータユニット130に、予めバスバー153(端子プレートとも呼ばれる部材)をプリモールドしたバスバーユニット155を配置した状態を示す斜視図、
図10は、
図9に示す組立体に樹脂モールド(プリモールド)を施して構成したステータユニット130を示す斜視図である。
【0039】
(ステータコア)
図7に示すように、ステータコア141は、同一形状にプレス成形された複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層したもので、外周側の円筒部142と、円筒部142の内周から中心に向けて突出した複数のティース143とを有する。本実施形態では、ティース143は、円周方向に一定間隔で6個設けられている。各ティース143の先端は、軸方向から見てT字状をなしており、先端内周面は、同一円周上に並んだ円弧面で構成されている。
【0040】
このステータコア141の円筒部142の外周には、径方向外方に突出した耳部144が設けられている。これら耳部144は、隣接するティース143とティース143の中間の位置に対応して配置されている。各耳部144には、軸方向に貫通する貫通孔146が設けられている。各耳部144の貫通孔146は、ステータコア141の中心に対して同心の同一円周上に円周方向に等間隔で配置されている。
【0041】
各耳部144に形成されたこれら6つの貫通孔146のうち、円周方向に1つおきの3つの貫通孔146には、連結ピン148が挿入されている。これら挿入された連結ピン148により、積層された電磁鋼板が一体に結合されている。なお、連結ピン148を挿入した貫通孔146の両端には、カバー部材149が装着されている。
【0042】
また、連結ピン148が挿入されていない、円周方向に1つおきに残る3つの貫通孔146は、後工程で位置決めに利用される位置決め孔147として、空孔のまま残されている。従って、ステータコア141の外周には3つの位置決め孔147が、円周方向に等間隔で用意されている。
【0043】
6つの耳部144は、後述のプリモールド成形時やオーバーモールド成形時に、樹脂(プリモールド樹脂132、オーバーモールド樹脂122)の内部に埋まらず、外部に露出するように設定されており、外周露出部に相当する。つまり、これら外部露出部に、軸方向に沿って貫通した3つの位置決め孔147が配置されている。なお、位置決め孔147は、複数設けられているのがよく、本実施形態のように、少なくとも3つ以上設けられているのがよい。
【0044】
このように構成されたステータコア141の各ティース143には、次の巻線工程で、自動巻線装置(図示せず)により
図8に示すようにコイル150が巻回される。コイル150は、インシュレータ151を介して巻回される。例えば、6個のティース143に対して、U・V・W相の3相分のコイル150が巻回される。それにより、ステータ140が形成される。この巻線工程では、ステータコア141の位置決め孔147に位置決めピン(図示略)を差し込むことで、自動巻線装置にステータコア141を正しく位置決め固定することができ、巻線工程での作業性の向上や巻線品質の向上が図れる。
【0045】
次の工程では、
図9に示すように、ステータ140の後端面側に、コイル150に通電するバスバー(端子プレートとも呼ばれる)153が取り付けられる。バスバー153は、ステータ140のリング形状に沿って環状に配置される。所定のバスバー153の端末は、コネクタ部160(
図3参照)の端子として利用されるように、一定の関係で配列される。このようなバスバー153は、予め環状の樹脂によってプリモールドされ、バスバーユニット155とされている。バスバーユニット155は、インシュレータ151に設けた係合部に係止することで、ステータ140に装着される。
【0046】
次の工程では、
図10に示すように、ステータ140の主要部を覆うようにプリモールド樹脂132によりプリモールド成形が行われる。プリモールド成形により得られた成形体が、ステータユニット130である。このステータユニット130においては、ステータコア141の耳部144が、プリモールド樹脂132から外部に露出している。また、所定のバスバー153の端末部が、端子として、プリモールド樹脂132から外部に突出している。
【0047】
(プリモールド成形工程)
図11は、
図9に示す組立体を位置決めピンを用いて位置決めしながらプリモールド金型でプリモールド成形(第1モールド成形)しているときの状態を示す模式断面図、
図12は、
図11に示したプリモールド成形工程で得たステータユニット(プリモールド成形体)を金型から取り出して示す断面図である。
【0048】
プリモールド成形工程では、
図9に示す組立体、即ち、ステータ140にバスバーユニット155が組み付けられた組立体を、
図11に示すように、プリモールド用の金型(第1成形金型)501、502にセットする。その際、ステータコア141に形成された位置決め孔147に位置決めピン505を挿入することで、金型501、502に対して、バスバー153等の組み付けられたステータ140を位置決め固定する。この場合、3つの位置決め孔147は、互いに平行に設けられているから、位置決めピン505を同じ方向から平行に挿入することができる。
【0049】
そしてその状態で、金型501、502のキャビティに溶融樹脂を注入することにより、ステータ140の主要部やバスバーユニット155等をプリモールド樹脂132でモールドする。これにより、
図12および
図10に示すようなステータユニット130が得られる。この樹脂の成形体であるステータユニット130において、ステータコア141の位置決め孔147(耳部144)は、樹脂の外部に露出した状態とされる。
【0050】
(オーバーモールド成形工程)
図13は、
図12に示したステータユニットを位置決めピンを用いて位置決めしながらオーバーモールド金型でオーバーモールド成形(第2モールド成形)しているときの状態を示す模式断面図である。
【0051】
オーバーモールド成形工程では、プリモールド成形工程により得られたステータユニット130を、
図13に示すように、オーバーモールド用の金型(第2成形金型)511、513にセットする。その際、ステータコア141に形成された位置決め孔147に位置決めピン515を挿入することで、金型511、513に対して、ステータユニット130を位置決め固定する。また、所定の金型513に、インサート成形できるようにベアリングホルダ123やカラー127をセットする。
【0052】
そしてその状態で、金型511、513のキャビティに溶融樹脂を注入することにより、ステータユニット130をオーバーモールド樹脂122でモールドする。これにより、モータ本体120が得られる。このオーバーモールド成形により、モータ本体120には、所定のバスバー153の端末部を端子とするコネクタ部160が形成される。この樹脂の成形体であるモータ本体120において、ステータコア141の位置決め孔147は、依然として外部から位置決めピンの挿入が可能な状態におかれる。
【0053】
(切削加工工程)
図14は、
図13に示したオーバーモールド成形後の成形品(モータ本体)を位置決めピンを用いて位置決めしながら切削加工機械にセットして切削加工しようとしている状態を示す模式断面図である。
【0054】
オーバーモールド成形により得たモータ本体120には、そのままでは、加工精度が足りない箇所がある。ここでは、加工精度の足りない箇所として、モータ本体120の外周の嵌合部124(嵌合外周面124a、突当面124b)と、ベアリングホルダ123の軸受嵌合部(嵌合内周壁123aと突当壁123b)を挙げる。これらの箇所の精度を上げるため、オーバーモールド成形後の成形品(モータ本体120)に対して機械加工つまり切削加工を行う。切削加工による仕上げ面を、
図14において、符号K1〜K4で示す。
【0055】
仕上げ面K1および仕上げ面K2は、モータ本体120の外周の嵌合部124の嵌合外周面124aおよび突当面124bである。また、仕上げ面K3およびK4は、ベアリングホルダ123の嵌合内周壁123aおよび突当壁123bである。仕上げ面K1、K3は、モータ本体120の軸方向に平行な円筒面として仕上げることになる。また、仕上げ面K2、K4は、モータ本体120の軸方向に直交する平面として仕上げることになる。
【0056】
この切削加工工程では、モータ本体120を切削加工機械にセットするに当たり、ステータコア141に形成された位置決め孔147を位置決め用に利用する。即ち、吸引チャック551で保持したワーク(モータ本体120)を、切削加工機械(図示せず)の加工治具550にセットするに当たり、加工治具550に突設した位置決めピン555を、モータ本体120に埋設されたステータコア141の位置決め孔147に挿入する。それにより、モータ本体120を切削加工機械に正しく位置決めセットすることができる。その状態で、モータ本体120の所定箇所に切削加工を施すことで、仕上げ加工済みの製品を得ることができる。
【0057】
上述のように、ステータコア141の位置決め孔147に位置決めピン505、515、555を挿入することにより、巻線工程やモールド成形工程さらには切削加工工程において、ワーク(ステータコア141、ステータ140、ステータユニット130、モータ本体120)を確実に且つ正確に位置決め固定することができる。そのため、作業性の向上や製品品質や精度の向上を図ることができる。また、切削加工工程とモールド成形工程で同じ位置決め孔を利用するので、一層の精度向上を図ることができる。従って、モータ部(電動モータ)100の軸線の傾きや芯ずれの発生を防ぐことができ、軸線の精度向上により、電動ポンプ1の性能向上を図ることができる。
【0058】
また、位置決め孔147を複数、特に3つ以上設けることにより、ステータコア141やステータ140、ステータユニット130、モータ本体120を、バランスよく位置決め支持することが可能となる。また、位置決め孔147を軸線方向に沿って形成しているので、ワーク(ステータコア141、ステータ140、ステータユニット130、モータ本体120)の径方向の位置を、位置決めピン505、515、555の位置によって容易に精度よく管理することができる。
【0059】
なお、以上のように製作したモータ本体120には、
図15に示すように、オーバーモールド成形後に位置決めピン515(
図13参照)の抜き孔614ができるので、それらの抜き孔614に液状のシリコン615(
図16参照)を注入し、このシリコン615を加熱硬化させる。その際、
図16に示すように、シリコン615は、ステータコア141の位置決め孔147にも注入される。すなわち、位置決め孔147や抜き孔614が、同一平面上に位置し且つ同一方向に沿って形成されているため、位置決め孔147や抜き孔614にシリコン615を容易に注入できる。
【0060】
(ロータ)
次に、以上のように製作されたモータ本体120の内部に挿入されるロータ110について説明する。
図3に示すように、ロータ110は、モータ本体120のステータ140の内周側に回転可能に備えられる。そして、ロータ110の外周面とステータ140の内周面との間に周方向で均一なエアギャップが確保されるようになっている。
【0061】
図17は、ロータ110を取り出して示す斜視図、
図18は、ロータ110の分解斜視図である。
図19〜
図21は、ロータ110の製造方法の説明図である。そのうち
図19は、マグネットカバーの内部に配置したロータコアにシャフトを圧入する工程の様子を示す断面図、
図20は、
図19で示した工程の後に、マグネットカバーとロータコアの間の環状空間にマグネットを挿入する工程の様子を示す断面図、
図21は、
図20で示した工程の後に、マグネットカバーやロータコアとマグネットとの間に配置した接着剤を硬化させる工程の様子を示す断面図である。
【0062】
図17および
図18に示すように、ロータ110は、シャフト101と、シャフト101の外周に配置されるロータコア111と、ロータコア111の外周に周方向に沿って配置される複数(本実施形態では4個)のマグネット112と、マグネット112の外周を覆う円筒状のマグネットカバー113と、ロータコア111の軸方向の両端面に配置されるサイドプレート114、115と、を備えている。ロータコア111は磁性体で構成され、マグネットカバー113は、ステンレスやアルミニウム等の非磁性金属で薄肉部材として構成されている。また、サイドプレート114、115は、非磁性金属あるいは樹脂等で構成されている。
【0063】
ロータコア111は、磁性鋼板の積層体からなり、外周面に、軸線方向に沿って延びるマグネット位置決め突起111aを周方向に一定間隔をおいて4個備える。マグネット112は、4個を組み合わせることで円筒リング磁石を構成するように、それぞれが1/4円弧筒状に形成されている。マグネット112の軸長は、ロータコア111の軸長よりも若干短くなっている。これらのマグネット112は、ロータ110の径方向の内外に向かってNS極となったものと、逆にSN極になったものとが2個ずつ用意されており、逆極性のマグネット112が円周方向に交互に並ぶように配置されている。つまり、4極構造になっている。各マグネット112の磁極は、ロータ110の軸線に対して平行に延びている。
【0064】
マグネットカバー113は、
図19〜
図21に示すように、マグネット112の外周を覆う円筒周壁113aと、該円筒周壁113aの軸方向一端側に連設されて径方向内方に延びると共に中央開口113cの径(内径)がロータコア111の外周径よりも小さい円環状の内フランジ113bと、を有している。内フランジ113bは、円筒周壁113aの軸線に対して直交した平板リング状をなしている。このマグネットカバー113は、例えば、絞り加工で製作されている。
【0065】
また、一方のサイドプレート114は、ロータコア111の軸方向一端面側に配置されて、シャフト101に圧入嵌合されることにより、ロータコア101の軸方向一端面との間にマグネットカバー113の内フランジ113bを挟持している。また、マグネット112は、ロータコア111の外周面に接触した状態でマグネットカバー113の円筒周壁113aとロータコア111の外周面との間に確保された環状空間に挿入されている。
【0066】
そして、マグネット112の内周面とロータコア111の外周面との間、および、マグネット112の外周面とマグネットカバー113の円筒周壁113aの内周面との間に、対向周面間を接着する接着剤Gによる接着層m1、m2が設けられている。
【0067】
(ロータの製造方法)
このロータ110は、マグネット112よりもマグネットカバー113を先に装着することで、次の工程順に製造している。
【0068】
まず最初の工程で、
図19に示すように、マグネットカバー113の内部にロータコア111を同心状に配置して、マグネットカバー113とロータコア111との間に、軸方向の一端側の開口がマグネットカバー113の内フランジ113bで閉鎖された環状空間117を確保する。また、ロータコア111の内部にシャフト101を圧入し、ロータコア111の軸方向一端面側において、シャフト101に別に圧入嵌合したサイドプレート114とロータコア111の軸方向一端面との間に、マグネットカバー113の内フランジ113bを挟持する。
【0069】
次の工程で、
図20に示すように、内フランジ113bを下方に向けマグネットカバー113の軸方向の他端側の開口を上方に向けてシャフト101を配置する。そして、ロータコア111の外周面およびマグネットカバー113の円筒周壁113aの内周面に接着剤Gを塗布した状態で、マグネット112を、ロータコア111の外周面とマグネットカバー113の円筒周壁113aの内周面との間に確保された環状空間117に相対的に上方から挿入する。
【0070】
次の工程で、
図21に示すように、他方のサイドプレート115をシャフト101に圧入嵌合し、接着剤G(
図20参照)を加熱硬化させる。これにより、接着層m1、m2により、マグネット112がロータコア111およびマグネットカバー113に一体に固定される。
【0071】
以上のように、マグネットカバー113の一端に内フランジ113bがあることにより、接着剤Gの部品外表面への垂れ防止を図ることができる。即ち、マグネットカバー113とロータコア111の間の環状空間117の下端をマグネットカバー113の内フランジ113bで閉鎖するので、ロータコア111の外周面やマグネットカバー113の内周面に接着剤Gを塗布した状態で、環状空間117にマグネット112を挿入した際に、ロータコア111の外周面およびマグネットカバー113の内周面に塗布した接着剤Gがマグネット112によって削ぎ落とされるようなことがあっても、垂れた接着剤Gが外表面に漏れ出るのを防止することができる。また、接着剤Gの加熱硬化時にも、接着剤Gが外表面に漏れ出るのを防止することができる。従って、垂れた接着剤の拭き取り作業が不要で、組立作業性の向上が図れる。また、サイドプレート114、115がロータコア111の軸方向の両端面に配置されているので、マグネット112の軸方向への脱落防止を簡単に行うことができる。
【0072】
(電動ポンプの組み立て)
上述のように製作されたロータ110を、モータ本体120の内部に収容し、シャフト101の前端にインペラ220を装着した上で、モータ本体120をポンプケーシング210に結合する。その際、シャフト101の前端と後端を前側軸受102と後側軸受103とで、モータ本体120およびポンプケーシング210に支持させる。そうすることで、電動ポンプ1が完成する。
【0073】
(ポンプケーシングのアルマイト処理)
次に、ポンプケーシング210の表面処理について説明する。
ポンプケーシング210は、前述したように、アルミニウム鋳造加工品で構成されており、耐食性や耐久性を確保するための表面処理としてアルマイト処理が施されている。特に本実施形態におけるポンプケーシング210の外表面には、鋳肌面に第1アルマイト処理を施すことにより形成された第1アルマイト層と、鋳肌面を切削加工しその切削加工面に第2アルマイト処理を施すことにより形成された第2アルマイト層とが設けられている。そして、第2アルマイト層は、第1アルマイト層よりも表面粗さの小さな表面処理層として形成されている。
【0074】
図22は、ポンプケーシング210の製造方法の説明図である。
本実施形態のポンプケーシング210を得るには、
図22(a)〜(d)の工程の順に処理を進める。なお、各図(a)〜(d)の上側の図はポンプケーシング210の表面210A、下側の図はポンプケーシング210の裏面210Bを示している。
【0075】
製造工程の最初に、まず、アルミニウム鋳造によりポンプケーシング210を作る。
図22(a)は、アルミニウムで鋳造した鋳上がりの状態を示している。つまり、アルミニウム鋳造品本体であるポンプケーシング210の外表面は、鋳肌面S1の状態になっている。
【0076】
次に、ポンプケーシング210(アルミニウム鋳造品本体)の全表面に硫酸アルマイト処理(第1アルマイト処理)を施す。
図22(b)は、鋳肌面S1の全体に膜厚の大きい硫酸アルマイト層(第1アルマイト層)S2を形成した状態を示している。この硫酸アルマイト処理では、アルマイト層が付きにくい鋳肌面S1の全体に必要膜厚の硫酸アルマイト層(第1アルマイト層)S2を形成する。鋳肌面S1に長時間のアルマイト処理を行うことになるので、硫酸アルマイト層S2は表面粗さが大きなものとなる。
【0077】
次に、必要箇所(所定の一部分)に切削加工を施す。例えば、ポンプケーシング210の表面210A側の吸込口や吐出口の周辺や、裏面210Bのほぼ全面に対し切削加工を施す。
図22(c)に示すように、切削加工した箇所は、硫酸アルマイト層S2や鋳肌面S1が取り除かれ、新生面である切削加工面S3が露わになる。
【0078】
次に、ポンプケーシング210の全体にシュウ酸アルマイト処理(第2アルマイト処理)を施す。そうすると、硫酸アルマイト層S2の付いている部分は絶縁表面となっているため、その部分にはアルマイトが付かず、切削加工面S3にだけ
図22(d)に示すように、シュウ酸アルマイト層S4が形成される。従って、切削加工面S3のシュウ酸アルマイト層S4を、膜厚が小さく、表面粗さの小さな表面処理層とすることができる。つまり、切削加工面でシール性を確保する場合に有利な表面処理面となる。
【0079】
以上のように、切削加工を第1アルマイト層を形成した後で行い、切削加工後に第2アルマイト処理(シュウ酸アルマイト処理)を行うので、マスキング部材を使用せずに簡単に、切削加工面だけに第2アルマイト層(シュウ酸アルマイト層)を形成することができる。つまり、第2アルマイト処理時には、鋳肌面に先に形成してある第1アルマイト層の絶縁性を利用して、切削加工面のみに効率よく表面粗さを抑えた第2アルマイト層を形成することができる。従って、第2アルマイト層の表面粗さを抑えることができて、切削加工面でシール性を確保する場合などに有利となる。なお、切削加工工程は、第2アルマイト処理の準備工程を兼ねることにもなる。
【0080】
また、第1アルマイト層である硫酸アルマイト層S2は、鋳肌面S1に対して十分な膜厚をもって形成することができるので、耐久性を高めることができる。また、第2アルマイト層にシュウ酸アルマイト層S4を形成したので、切削加工面S3の耐久性を高く維持することができる。
【0081】
その結果、耐食性と良好なシール性を兼ね備えた電動ポンプ1を組み上げることができる。
なお、
図23のS5で示す箇所のように、切削加工面の中に特に寸法精度の高い箇所(例えば、シール面)がある場合は、その箇所のアルマイト層が下地表面に応じた表面粗さに処理される。
【0082】
なお、このようなアルマイト処理を切削加工を挟んで2回行う方法は、ポンプケーシングに限らずアルミニウム鋳造加工品に広く適用可能である。
【0083】
また、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、電動ポンプ1のポンプ部200は、モータ部100によって駆動されることで、可燃性ガスを加圧吐出するものである場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ポンプ部200に代わってオイルを加圧吐出するポンプを採用してもよい。その他、ポンプ部200とは別に、上述のようなモータ部100の構成を、さまざまな電動モータに採用することが可能である。
【0084】
さらに、上述の実施形態では、サイドプレート114、115は、シャフト101に圧入嵌合されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、シャフト101にサイドプレート114、115が外嵌固定されていればよい。
【0085】
また、上述の実施形態では、第1アルマイト処理として硫酸アルマイトを使用した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、処理対象物に応じて、主体となる硫酸アルマイトに、適宜、シュウ酸アルマイトを加えるようにしてもよい。