(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流路制限部の前記開口は、前記圧電シートの両面側に前記測定流体を通流させるとともに、前記圧電シートの一方面側の流量と他方面側の流量とが不均等になるように設けてある請求項3〜5のいずれか一項に記載の流量測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る流量測定方法について説明する。なお、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明に係る流量測定方法は、例えば以下に示す流量センサ1を用いて流量を測定する。流量センサ1は、たとえば、各家庭や事業所等に供給される都市ガスが配管内を通流する流速を測定し、その流速から流量を求めるものであり、
図1に示すように、測定流体3が流れる管路2に取り付けて設けられる。
【0026】
流量センサ1は、管路2内に、梁部材4と、自己励起式の圧電シート5と、流路制限部6と、を備える。梁部材4は、管路内の測定流体3の流れ方向を横断する方向に沿って設けられる。圧電シート5は、測定流体3の流れによって周期的に振動して電力を発生する自己励起式であり、梁部材4に片持ち姿勢で取り付けられる。流路制限部6は管路2内において梁部材4よりも上流側であって梁部材4に対向する位置に設けられる。
【0027】
管路2の外部には、電圧検出手段9と流速導出手段10が設けられる。電圧検出手段9は圧電シート5に接続して設けられ、圧電シート5の振動によって発生する電圧を検出する。
電圧検出手段9は流速導出手段10に接続され、流速導出手段10が電圧検出手段9からの出力に基づいて測定流体3の流速を導出する。
【0028】
梁部材4は、管路2を管径方向に水平に横断する樹脂製の棒状体からなり、管路2の周壁に両端を接着固定して設けられる。圧電シート5は、たとえば、ポリフッ化ビニリデンに代表される強誘電性高分子からなり、より具体的には、例えば、ピエゾフィルムからなり、振動することにより自己励起して高電圧の電力を発生する特性を備えている。圧電シート5は、たとえば、薄膜化により柔軟性に優れ、かつ、耐水性や耐衝撃性などを備えた短冊状のシートである。圧電シート5は、一端部となる短辺が梁部材4の長手方向に沿い、かつ、圧電シート5が振動する必要長さ以上の長辺が、梁部材4の下流側において管路2に流通する測定流体3の流れ方向に沿う姿勢で、梁部材4に接着により取り付けられる。こうして、圧電シート5は、シート面に直交する方向での両側に、測定流体3が通流する構成となっている。
【0029】
具体的には、内径32mmのガス供給配管に対しては、圧電シート5として、厚さが40μmであって、短辺5mm、長辺40〜80mmの短冊状に形成されたピエゾフィルムを用いる。圧電シート5は、長辺が測定流体3の流れ方向に沿う姿勢で、かつ、少なくともそのシート表面の一部が水平方向に沿う姿勢で梁部材4に一方の短辺部分が取り付けられる。
図1の構成では、圧電シート5のシート表面が測定流体3の流れ方向に沿う水平姿勢となるように取り付けられる。
【0030】
図2に示すように、流路制限部6は、測定流体3の流れ方向に垂直に配置される板状の管路閉塞体7にスリット状の開口8が設けられて構成されている。開口8は、管路2を横断する梁部材4の方向に沿う長手部分を有する。すなわち、開口8は梁部材4の長手方向に平行に形成されており、開口8において梁部材4の長手方向に直交する方向の幅は梁部材4の幅よりも大きい。
【0031】
圧電シート5には2本のリード線11が接続され、リード線11の端子11aが、管路2の外部へ取り出される状態で設けられる。リード線11の端子11aには、2本のケーブル12を介して電圧検出手段9が接続されている。つまり、電圧検出手段9が、2本のリード線11とケーブル12を介して圧電シート5に電気的に接続して設けられている。電圧検出手段9は、圧電シート5の振動による出力に基づいて圧電シート5の電圧を求めるように構成され、その電圧検出手段9に対して、流速導出手段10が接続されている。
【0032】
このような構成により、管路2に測定流体3を通流させると、その圧電シート5が自重で下方に垂れようとする動きと、測定流体3の流れを受けて圧電シート5が上方に跳ね上げられる動きとが、測定流体3の断続的な流れにより振動として現れる。そして、その振動に基づき、圧電シート5による電圧出力が得られる。
【0033】
流速導出手段10は、予め計測された圧電シート5の電圧と測定流体3の流速との関係データを記憶しており、電圧検出手段9から送信される圧電シート5の電圧データに基づいて測定流体3の流速(もしくは、さらに管径を考慮して流量)を導出するように構成されている。
【0034】
〔流量制限部の変形例〕
図3に示すように、流路制限部6の開口8は、管路2を横断する梁部材4の方向に直交する長手部分を有して形成されている。すなわち、開口8は梁部材4の長手方向に対して直交して形成されている。こうすると、スリット状の開口8は、梁部材4を挟んで圧電シート5の両面に対して垂直方向に延出する位置に形成することができる。開口8が圧電シート5の両面から垂直方向に延出すると、圧電シート5の両面側に測定流体3を確実に供給することができるため、圧電シート5が流体圧を受けて振動し易くなる。
【0035】
開口8は、測定流体3の流れ方向視において梁部材4を挟んで2つの開口部8A,8Bに仕切られている。
図3に示す例では、2つの開口部8A,8Bの流路面積が均等になるように開口8が配置されている。本実施形態において、開口8は、2つの開口部8A,8Bの流路面積が不均等になるよう配置してもよい(
図10参照)。つまり、流路制限部6の開口8は、圧電シート5の両面側に測定流体を通流させるとともに、圧電シート5の一方面側の流量と他方面側の流量とが不均等になるように設けられる。こうすると、流路制限部6に開口8を通流し圧電シート5へ通流する測定流体の流量は、圧電シート5の表面側と裏面側とで不均等になるため、圧電シート5の両面側において圧力差が生じる。これにより、圧電シート5は振動し易くなる。その結果、低速域においても、流量センサ1は適正な出力を得ることができ、正確な流量計測を行うことができる。なお、第1実施形態の開口8についても、梁部材4によって仕切られた2つの開口部の流路面積を不均等に配置することは可能である。
【0036】
〔圧電シートの変形例〕
上記の実施形態において、
図4に示すように、圧電シート5の長手方向における一端部を梁部材4に固定するとともに、自由端としての他端部に、おもり部材5aを付設してもよい。
図4に示す例では、圧電シート5の一方面側(上面側)におもり部材5aが設けられている。このようにすると、圧電シート5の振動特性をおもり部材5aの重さにより調整でき、結果として、適切な流量範囲で識別性の高い電圧出力を得られるように流量センサ1の感度を調整することができる。
【0037】
(実施例1)
図5に示すように、内径32mmのガス供給配管(管路2)を鉛直方向に配置し、管路2内に、厚さ40μm、短辺5mm、長辺70mmの短冊状の圧電シート5(株式会社クレハ製、ピエゾフィルム)を梁部材4に取付けて配置した。梁部材4は、2mm×2mm×40mmの直方体であって例えば樹脂で構成されている。圧電シート5の自由端(鉛直方向の下端)に50mgのおもり部材5aを敷設した。
【0038】
梁部材4の上流側には流路制限部6を配置した。流路制限部6は、直径32mmの樹脂製の円板状の管路閉塞体7に30mm×8mmのスリット状の開口8を備える。
【0039】
管路2の下流端に吸気ファンを配置し、この吸気ファンを用いて梁部材4及び圧電シート5を設置した配管(管路2)内を吸引し、送風速度を変化させてセンサ応答性を評価した。管路2を流れる測定流体3の実速度(単位時間あたりの流量)は圧電シート5の下流側に設置した風速計によって計測した。
【0040】
圧電シート5が測定流体3の流速に応じて振動することで圧電シート5に起電力が生じる。この起電力により得られる出力電圧値(検出値)の推移を電圧計測装置(グラフテック社製のデジタルロガー)によって取得した。出力電圧値は所定のサンプリング時間内に複数回測定する。本実施例では出力電圧値は、サンプリング間隔を100msecにして2分間取得した。取得したデータのうち初めの1分間のデータは除き、後の1分間のデータについてのみ解析を行った。
図6に、電圧計測装置で計測した出力電圧値の推移を示す。解析においては、100msecごとの電圧変化の絶対値を平均化した値(600ポイントの平均値)をその流速での信号値とした。
【0041】
図6のグラフでは、出力電圧値は中央値が0Vの一定の振幅を有した定常波を示しておらず、出力電圧値が正電圧の側および負電圧の側の一方に偏っていることが理解される。これは、圧電シート5が梁部材4に対してオフセットして振動しているためである。この現象は、圧電シート5の周辺領域である裏面側と表面側に発生する偏流によるものと考えられる。この出力電圧値(振幅)をそのまま流量センサ1の電圧値(信号値)にした場合には、単位時間あたりの流量(流速)と出力電圧値との相関が減少することになるため、結果としてセンサの感度・ダイナミックレンジが小さくなると考えられる。
【0042】
そこで、出力電圧値の変化量の絶対値を平均して算出した値を電圧値(信号値)として採用した。
図7は、オフセットした出力電圧値を補正した後の出力電圧値の推移を示す。
図7では、中央値(0V)から正電圧の側の値と負電圧の側の値がほぼ同じ振幅になった出力電圧値が示されている。
【0043】
当該演算により得られた電圧値(信号値)と、風速計によって計測した測定流体3の流量との相関データを
図8に示した。
図8のグラフには、電圧値が流量に対して線形の比例関係にあることが示されており、当該演算方法によって圧電シート5の振動による出力電圧に基づく流量計測方法が簡便かつ安定的なものであることが明らかになった。
【0044】
流体内に構造物(例えば梁部材4)を設置することで、その下流にカルマン渦流と呼ばれる、交互に並んだ規則正しい渦列が発生することが一般的に知られている。
カルマン渦流の発生周波数は次式で表される。
f(周波数)=St(ストローハル数)× V(流体の平均速度)/ d(構造物(梁部材4)の幅(径))・・・(1)
【0045】
上記の式(1)から理解されるように、流体の速度に比例して、発生するカルマン渦の周波数(または数)が増加する。そのため、流路制限部6を構造物(梁部材4)に近接して配置し、構造物(梁部材4)に向かう流体の流速を局所的に増加させることで、結果としてカルマン渦の発生周波数を増加させることができる。
【0046】
ピエゾフィルムなどの圧電体(圧電シート5)は、その先端のたわみ角度に比例して、起電力が生じる。流量センサ1は、上記のように構造物(梁部材4)に近接して流路制限部6を配置することで、カルマン渦の周波数が増加する。これにより、圧電体の周囲(表・裏面)での流体の循環が大きくなり、結果的に偏流が生じることで圧電体に変形を伴う振動が発生して起電力が生じる。
【0047】
圧電体の振動は偏流によって生じているため、単振動でなく、一定の方向にオフセットを有した定常波であると考えられる。このため、発生する起電力(電圧)そのものを計測するよりも、単位時間あたりの電圧変化量の絶対値を平均化する演算を行う。この演算により、オフセットした電圧値が除去されるようになるため、測定流体3の単位時間あたりの流量(流速)と演算後の電圧値とは比例関係を示す線形で表すことができたものと考えられる。
【0048】
(実施例2)
センサ応答感度を向上することを目的として、流路制限部6と梁部材4の配置およびおもり部材5aの効果を確認するために、
図9に示す試験体1〜4を用い、実施例1と同じ試験装置による試験を行った。
【0049】
試験に使用した圧電シート5は、実施例1と同じ圧電フィルム(クレハ製)とし、構造体の形状も同じとした。なお、フィルムの形状は短辺8mm、長辺70mmに変更した。
【0050】
図9の表に示す配置1は、
図1及び
図2に示すように、流路制限部6の開口8の長手方向が梁部材4及び圧電シート5に対して平行に設置するものである。このように配置することで、圧電シートの周辺(裏面と表面)での流体速度は向上する。しかしながら、裏面と表面での速度差は生じないと考えられる。
【0051】
図9の表に示す配置2は、
図10に示すように、流路制限部6の開口8の長手方向が、梁部材4・圧電シート5と直交するように配置し、且つ、梁部材4・圧電シート5により間仕切りされた開口8の開口部8A,8Bの流路面積の比が均等にならない構成とした。具体的には、開口部8Aと開口部8Bとの流路面積の比を1:2(60mm
2:120mm
2)とし、開口8を通過した流体速度が、開口部8Bを基準として開口部8Aにおいて2倍になるようにした。
【0052】
また、圧電シート5がカルマン渦により変形した後、慣性力により元の形状に戻る作用を確認するために、圧電シート5の自由端(鉛直方向の下端)に50mgのおもり部材5aを敷設した。
【0053】
試験体1〜4に基づく電圧変化と単位時間当たりの流量(流速)との相関関係を、実施例1の
図7と同様の形で、
図11〜
図14のグラフにまとめた。試験体1による試験結果は
図11に示し、試験体2による試験結果は
図12に示す。同様に、試験体3による試験結果は
図13に示し、試験体4による試験結果は
図14に示す。
図11〜
図14の全てにおいて、電圧変化と単位時間あたりの流量(流速)との間に線形の比例関係を確認することができた。
【0054】
さらに、
図15及び
図16において、電圧変化の平均値の傾きを試験体1〜4の特徴要因ごとに比較した。
図15は、流路制限部6の配置による電圧変化の平均値の傾きを比較したグラフである。
図15に示されるように、配置1(試験体1及び2)よりも配置2(試験体3及び4)方が応答感度(傾き)は大きくなった。この結果については、流路制限部6の開口8は、梁部材4に平行に配置するよりも、梁部材4に直交させ、且つ開口部8A,8Bの面積比を非均等にした方が、圧電シート5の周辺に速度差が生じ、偏流が大きくなって圧電シート5の変形速度が大きくなったものと考えられる。
【0055】
図16は、圧電シート5におもり部材5aを設置した場合(錘有)と設置しない場合(錘無)とで電圧変化の平均値の傾きを比較したグラフである。
図16に示されるように、錘有(試験体2,4)の方が錘無(試験体1,3)よりもが応答感度(傾き)は大きくなった。錘を敷設することで慣性力を利用し、変形速度(元の形状に戻ろうとする状態)を早めることができると推察される。ただし、
図16に示すおもり部材の有無による応答感度(傾き)の差は、流路制限部6の配置変更による応答感度(傾き)の差よりも小さい。
【0056】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、梁部材4の上流側に流路制限部6に有する流量センサ1を用いて流量を測定したが、流量センサ1は流路制限部6を有しない構成であってもよい。
【0057】
(2)上記実施形態では、圧電シート5を短冊状に形成したが、梁部材4に対して取り付けられる一端部の長さが、その一端部を梁部材4に取り付けた状態における一端部から、自由端となる他端部までの長さよりも長い方形であってもよく、寸法比率は、上述のものに限るものではない。また、方形でなくても、ペナント型でもよく、さらに
図17に示すように立体的に屈曲した形状としてあってもよい。立体的に屈曲させることにより、圧電シート5が電力を出力する好適な流速範囲を調整することができる。
【0058】
(3)上記実施形態では、単数の圧電シート5の例を示したが、複数の圧電シート5を備えてもよく、複数の圧電シート5は、電気的に直列に接続してもよいし、並列に接続しても良い。
図18に異なる形状に形成した3枚の圧電シート51〜53を梁部材4の長手方向に順に設けた流量センサ1を示す。圧電シート51は梁部材4に沿う幅が最も小さく流路に沿う長さが最も長い。圧電シート52は梁部材4に沿う幅が圧電シート51よりも大きく流路に沿う長さが圧電シート51よりも短い。圧電シート53は梁部材4に沿う幅が圧電シート52と同じで流路に沿う長さが最も短い。
【0059】
こうすることで、3枚の圧電シートは、圧電シート51が高感度、圧電シート52が中感度、圧電シート53が低感度のシートとなる。こうした感度の異なる圧電シート51〜53を直列に接続して振幅電圧の総和を計測することで、振幅電圧の変位幅を抑えることができるため、流れが速い測定流体3の流速を測定し易くなる。
【0060】
(4)上記実施形態では、圧電シート5からの出力は、直接リード線11の端子11aから電圧検出手段9に対して取り出す形態とした。これに代えて、出力増幅器を介して赤外線発光素子等に取り出し、その赤外線発光素子からの無線出力を介して、電圧検出手段9、流速導出手段10が、圧電シート5からの電圧値に基づいて、測定流体3の流速を導出する構成とすることもできる。
【0061】
なお、上述の例では、測定流体3を都市ガスとして、ガスヒートポンプに流通される都市ガスの流量を測定するものとして流量センサ1を構成し、0.5m/秒〜3.0m/秒の流速を測定するのに特に好適な例を示したが、測定流体3の種別、流速範囲に応じて圧電シート5の出力特性を設計することができる。