(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6697907
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】調理機装置
(51)【国際特許分類】
A47J 27/14 20060101AFI20200518BHJP
A47J 37/04 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
A47J27/14 Q
A47J37/04 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-45150(P2016-45150)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-158758(P2017-158758A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130651
【氏名又は名称】株式会社サムソン
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 享一
(72)【発明者】
【氏名】城迫 駿
【審査官】
川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−155424(JP,U)
【文献】
特開平04−212316(JP,A)
【文献】
特開平11−267025(JP,A)
【文献】
特開2010−251090(JP,A)
【文献】
特開2013−106632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
A47J 33/00
A47J 37/00−37/07
B01F 7/00
F24C 7/02
H05B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被加熱物である食材を収容する調理容器、調理容器の内面に沿って撹拌羽根を動かすことで食材を撹拌する撹拌装置、調理容器内に収容した食材の品温を検出する品温検出装置、調理容器内に収容した食材に対する加熱量を調節する加熱量調節装置、前記品温検出装置で検出した食材の温度に基づき、前記加熱量調節装置の操作量を決定する運転制御装置を持ち、調理容器内の食材を加熱調理する調理機装置であって、前記運転制御装置では、加熱調理の工程中にイレギュラーな事態によって加熱と撹拌が止まり、前記品温検出装置で検出していた食材が所定差分温度以上低くなった後に加熱を再開する場合、まず加熱は停止した状態で前記撹拌装置による撹拌行って温度均一化動作を行い、その後に食材に対する加熱を再開するものであり、加熱停止後の加熱再開時、品温と目標温度の差分に比例させる加熱量調節は行わず、所定の温度勾配で調理容器内の食材温度を上昇させる温度勾配指定昇温を行う
ことを特徴とする調理機装置。
【請求項2】
請求項1に記載の調理機装置において、加熱再開後に食材の品温が目標温度に達すると、現在の品温と目標温度の差分に比例した加熱量調節に移行するものであることを特徴とする調理機装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌しながら加熱調理を行う調理機装置に関するものであり、より詳しくは加熱調理が途中で中断した場合、中断再開時に焦げ付きが発生することを防止することのできる調理機装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加熱手段を持った調理容器内に食材を収容し、調理容器の外側から熱を加えることで食材を加熱することが広く行われている。この場合において、加熱する食材が粘度の高いものであると、食材内の流動が悪くなり、味のかたよりや、食材内でのだまや固まりが発生することがある。そのため粘度の高い食材であれば、加熱調理時には撹拌を行うことが必要であり、撹拌装置を備えた調理機装置も広く利用されている。
【0003】
このような調理機装置では、味にかたよりが無いように、また、だまや固まりができないように加熱量の調節を行いながら撹拌制御を行う。具体的には、食材を所定温度まで上昇させる昇温工程と、所定温度まで上昇した後、その温度を維持して加熱調理を行う温度維持工程に分け、昇温工程では目標温度を一定の勾配で上昇させるように加熱量を調節しつつ、撹拌装置によって撹拌を行い、温度むらを抑制している。
【0004】
目標温度到達後は温度維持工程とし、一定の温度を維持するように加熱・撹拌制御を行う。温度維持工程の場合、温度維持に必要な量の加熱を行えばよいため、昇温工程時に比べると必要な加熱量は少なくなり、加熱量が少なくなると食材内での温度差は発生しにくくなる。ただし温度維持工程では、食材温度が高くなっているために焦げ付きが発生しやすい状態になっており、そのために温度維持工程中も撹拌を行うことが必要であって、撹拌を行いながら調理を行う。
【0005】
焦げ付きは、食材に対する加熱量が大きすぎる場合に発生するものであり、より詳しくは加熱する側である調理容器の壁面温度と熱を受ける側である食材温度の乖離が大きくなることで発生する。特許第3650719号公報には、食材を投入して調理するための調理容器と、該調理容器の少なくとも底部を加熱するための加熱手段と、前記調理容器の壁面温度又は調理容器に投入された食材温度を検出する温度検出装置と、前記温度検出装置にて検出した温度に基づいて前記加熱手段での加熱量を制御する制御手段を持つ調理機装置が記載されている。このような調理機装置では、特許第3650719号公報にも記載されているように、焦げ付きの防止は重要な問題である。
【0006】
特許第3650719号公報に記載の発明では、調理容器の壁面温度と食材温度が乖離する点をあらかじめ確認しておき、乖離が発生しないように加熱するようにしている。具体的には、調理容器の壁面温度を検出しておき、壁面温度が焦げ付きの発生する乖離点を超えないように加熱装置を制御するものである。このように加熱量を調節することで、焦げ付きの発生を少なくすることができる。
【0007】
また、特許第3650719号公報でも食材を撹拌することの記載があるが、食材の撹拌は焦げ付きの発生を抑制する効果が得られる。そして、昇温工程・温度維持工程という加熱量を調節する調理工程と、温度むらをなくすための撹拌工程を組み合わせ、適切な調理設定を行うことで、焦げ付きを抑える手段もある。
【0008】
しかしそれでも、突発的な理由によって温度維持工程で焦げ付きが発生することがあった。例えば
図3にあるように、加熱調理中に停電が発生した場合、停電が発生している時間中は加熱と撹拌が停止し、調理が止まってしまうことになる。この場合には食材に焦げ付きが発生することになった。正確には、加熱と撹拌が停止している時は熱の供給が行われていないため、その時点では焦げ付きは発生しない。しかし、停電が復旧して加熱を再開した時に焦げ付きが発生していることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3650719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、粘度の高い食材を加熱調理する撹拌装置付きの調理機装置において、加熱調理中に停電が発生した場合でも焦げ付きを防止することのできる調理機装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、内部に被加熱物である食材を収容する調理容器、調理容器の内面に沿って撹拌羽根を動かすことで食材を撹拌する撹拌装置、調理容器内に収容した食材の品温を検出する品温検出装置、調理容器内に収容した食材に対する加熱量を調節する加熱量調節装置、前記品温検出装置で検出した食材の温度に基づき、前記加熱量調節装置の操作量を決定する運転制御装置を持ち、調理容器内の食材を加熱調理する調理機装置であって、前記運転制御装置では、加熱調理の工程中にイレギュラーな事態によって加熱と撹拌が止まり、前記品温検出装置で検出していた食材が所定差分温度以上低くなった後に加熱を再開する場合、まず加熱は停止した状態で前記撹拌装置による撹拌行って温度均一化動作を行い、その後に食材に対する加熱を再開するものであ
り、加熱停止後の加熱再開時、品温と目標温度の差分に比例させる加熱量調節は行わず、所定の温度勾配で調理容器内の食材温度を上昇させる温度勾配指定昇温を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記の調理機装置において、
加熱再開後に食材の品温が目標温度に達すると、現在の品温と目標温度の差分に比例した加熱量調節に移行するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を実施することで、加熱調理の途中で停電が発生し、食材温度が大きく低下した場合であっても、停電復旧後の加熱調理再開時に焦げ付きが発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明を実施している調理機装置での温度維持工程中に停電が発生した場合のタイムチャート
【
図3】従来の調理機装置での温度維持工程中に停電が発生した場合のタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。
図1は本発明を実施する調理機装置のフロー図、
図2は本発明を実施している調理機装置での運転工程、被加熱物の品温、加熱量を示したタイムチャートであって、温度維持工程中に停電が発生した場合のもの、
図3は
図2との比較のための従来の調理機装置での温度維持工程中に停電が発生した場合のタイムチャートである。
【0016】
この調理機装置では、下部を半球状としている調理容器1の内部に被加熱物である食材を収容し、調理容器1の底部から加熱を行う。この調理機装置での加熱は、調理容器1の下面側に蒸気ジャケット2を設置しておき、蒸気ジャケット2内に蒸気を供給することで行う。蒸気ジャケット2には蒸気供給管10を接続し、蒸気供給管10の途中に加熱量調節装置8を設置しておき、蒸気供給管10を通して蒸気ジャケット2へ蒸気を供給することで蒸気ジャケット2内の温度を高め、調理容器1の底部を加熱することで調理容器1内に収容している食材の加熱を行う。本実施例では蒸気によって加熱を行うものとしているが、加熱手段は蒸気によるものに限定されるものではなく、直火での加熱など他形式のものであってもよい。
【0017】
本実施例での調理機装置は食材を撹拌しながら加熱を行う撹拌釜であり、半球状底部の中心から少しずれた位置に、調理容器1の底部を貫いて斜め上方に延びる回転軸4を設けている。回転軸4には、先端部から周囲の方向に延びる撹拌アーム5を3本接続しており、各撹拌アーム5の先端側に撹拌羽根7を連結する。回転軸4は、蒸気ジャケット2より下方に設けている回転装置6と接続しており、回転装置6を駆動することで回転軸4の回転を行い、撹拌羽根7を調理容器1の内面に沿って動かすことで調理容器1内の食材を撹拌する。
【0018】
また、調理容器1内には食材の温度を計測する品温検出装置3を設け、品温検出装置3で検出した食材の温度は運転制御装置9で調理機装置の運転制御に使用する。運転制御装置9では、品温検出装置3で検出した食材の品温に基づいて加熱量調節装置8の操作を行い、蒸気ジャケット2へ供給する蒸気量を調節することで食材に対する加熱量を調節する。
【0019】
調理機装置での加熱調理は、食材をあらかじめ設定しておいた目標温度まで昇温し、目標温度で一定時間保持することで調理を行うものであり、調理機装置での加熱の工程は、食材を目標温度まで上昇させる昇温工程と、目標温度に維持する温度維持工程からなっている。昇温工程の場合、加熱調理開始からの経過時間と、その時点での温度をあらかじめ設定しておき、設定した温度になるように加熱量調節装置8で加熱量を調節しながら昇温する。
【0020】
食材の加熱調理は、食材を目標温度まで昇温し、目標温度に維持することで行う。調理する食材が粘度の高いものであると、食材内での熱の流動性が低いため、味にかたよりが発生したり、だまや固まりができたりすることがあるため、撹拌を行いつつ、加熱量の調節を行う。昇温工程時には品温が目標温度より大幅に低い場合であっても、加熱装置の最大能力で加熱するようなことは行わず、食材の品温は所定の勾配で上昇していくように加熱量を調節する。また、調理容器は底部から加熱するものであり、調理容器内の食材は調理容器の底面に面している部分から加熱されるため、食材は調理容器の底面に面している部分で温度が高くなる。そのため、加熱中は撹拌装置にて食材を撹拌することで、食材が部分的に加熱されることも防止するようにして焦げ付きを防止する。
【0021】
食材が目標温度まで上昇すると、運転制御装置9では運転工程を昇温工程から温度維持工程に移行する。温度維持工程では、すでに目標温度まで上昇している食材の温度をそのまま維持するものであるため、必要な熱量は少なくなる。この場合、品温の現在温度が目標温度より低くなると加熱量を増加し、品温が目標温度を超えると加熱量を少なくすることで食材を目標温度に維持する。そして、目標温度からの品温の低下量が大きくなるほど加熱量を大きくすることで、食材の温度は目標温度から離れないように、また離れた場合にも速やかに目標温度付近へ戻るようにしておく。
【0022】
ただし、温度維持工程中であっても、品温の目標温度からの低下量があらかじめ設定しておいた所定差分温度より大きくなった場合には、品温の低下量にあわせて加熱量を比例的に増加する制御は行わないようにしておく。その場合には、温度維持工程での加熱量調節であっても、所定の温度勾配で食材温度を上昇していく温度勾配指定での昇温を行う。温度勾配指定での昇温では、現在の品温に基づいて所定時間後の品温を決定し、決定した品温となるよう加熱量制御装置8での加熱量を調節する。
【0023】
そして、昇温工程又は温度維持工程中に何らかの原因で加熱と撹拌が停止し、食材の品温が所定差分温度以上低くなった状態から運転を再開する場合には、いきなり加熱を再開するのではなく、まず加熱は停止した状態で撹拌装置によって食材の撹拌を行い、その後に所定の温度勾配で上昇していく温度勾配指定での昇温を行うように設定しておく。
【0024】
通常の温度維持工程では、品温が下がり始めると加熱量を大きくしていくため、品温が目標温度より大幅に低くなることはあまりなく、加熱量がある程度以上に大きくなることは基本的には発生しない。しかし、
図3に記載しているように温度維持工程の途中で停電が発生し、その停電時間が比較的長い場合には、停電中は温度調節が行われないために食材の温度は低下し続けることになる。この場合、食材の調理容器底面に面している部分では熱は逃げ難いが、食材の上部では熱が逃げ易いためにより早く温度が低下し、食材内で温度むらが発生することになる。この状態で調理を再開すると、食材に入力される熱量にかたよりが生じ、食材の性質に変化をもたらす可能性がある。
【0025】
その最たる例が食材の焦げ付きとなる。調理が進み水分などがある程度飛んで粘度が高くなった食材に急激な加熱を行うと、粘度が高いゆえに対流が悪く、熱が伝わりにくいために、食材の加熱部分に接している箇所のみ温度が上昇し、結果食材が焦げ付いてしまうことがある。また、焦げ付きまでは行かなくても、昇温工程と違った急激な加熱が実施されることになるため、食材のできあがり食感に影響を与える可能性があった。
【0026】
これに対して
図2に記載のタイムチャートでは、停電によって食材の温度が大きく低下した状態で停電を復旧すると、すぐに加熱を再開するのではなく、加熱を行わずに撹拌のみを所定時間行う撹拌のみ工程を入れている。これは加熱を停止していても、調理容器底部の温度は食材の温度より高いため、撹拌が停止していることで調理容器底面に面している食材温度は、品温検出装置3で検出している検出品温よりも高くなることによる。この場合、食材の調理容器底面に接している部分では温度が高い状態で、品温検出装置3で検出している検出品温に基づいて加熱を行うと、調理容器底面に接している食材が過熱されることになり、焦げ付きが発生することになってしまう。加熱前に撹拌のみを行うことで、調理容器底面に接している食材を調理容器底面から引きはがし、食材の温度を均一化させることで焦げ付きの発生を防止する。
【0027】
さらに、食材の温度が所定差分温度よりも大きく低下していた場合には、温度差による比例制御ではなく、指定の温度勾配となるように加熱を行う。通常の温度維持工程では、現在の品温と目標温度の差分に比例した加熱量調節を行うため、加熱再開直後の品温が目標温度を大きく下回っている時期には加熱量が大きくなり、焦げ付きが発生することがあった。しかし、指定の温度勾配となるように加熱量を制限しながら加熱することで、過剰な加熱を防止でき、焦げ付きの発生を防ぐことができる。検出している食材の品温が目標温度に達すると、加熱量調節装置8では温度維持工程での通常の加熱量調節である現在の品温と目標温度の差分に比例した加熱量調節に移行する。
【0028】
なお、実施例では温度維持工程時に加熱と撹拌が停止した場合に撹拌のみ工程を行うとしているが、昇温工程時に加熱と撹拌が停止し、食材の品温がピーク時から所定差分温度以上低下した場合も同様である。
昇温工程時では温度維持工程時よりも加熱量が大きくなる。食材温度が高くなった状態で加熱と撹拌が停止した場合に、大きな加熱を行うと焦げ付きが発生するため、昇温工程で温度が低下した場合にも、撹拌のみ工程を行うことで焦げ付きの発生を防止する。
【0029】
また、この焦げ付きの発生は食材の性状などによって異なり、焦げ付きが発生する条件も異なるため、前記の所定差分温度の値は運転制御装置9で変更することができるようにしておき、所定差分温度を適切な値とすることで、焦げ付きの発生を適切に防止するようにする。また、温度維持工程中に指定して行う温度勾配は、昇温工程時の温度勾配をそのまま利用してもよく、温度維持工程時用に別に設定したものであってよい。一般的には昇温工程時の温度勾配で不都合なく昇温させることができるので、昇温工程での温度勾配をそのまま利用すればよい。
【0030】
なお、本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 調理容器
2 蒸気ジャケット
3 品温検出装置
4 回転軸
5 撹拌アーム
6 回転装置
7 撹拌羽根
8 加熱量調節装置
9 運転制御装置
10 蒸気供給管