(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリウレタンフォームと、前記ポリウレタンフォームの外表面および内部孔表面を被覆する三層構造の積層金属層と、前記積層金属層に積層されたアクリル樹脂層とを有し、前記積層金属層はポリウレタンフォームに接する側からニッケル層、銅または銀からなる導電層、ニッケル/錫合金からなる黒色被膜層の順で積層されており、前記アクリル樹脂層の一部から前記黒色被膜層が露出していることを特徴とする導電性フォーム。
前記ポリウレタンフォームの少なくとも一面に有機繊維構造シートが貼り合わされており、前記ポリウレタンフォームと前記有機繊維構造シートとの複合体の外表面および内部孔表面が前記積層金属層とアクリル樹脂層とで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の導電性フォーム。
ポリウレタンフォームに無電解メッキ触媒を付与した後、前記無電解メッキ触媒を活性化し、無電解ニッケルメッキによってニッケル層を形成する工程、無電解メッキまたは電気メッキにより前記ニッケル層に銅または銀からなる導電層を積層する工程、更に電気メッキにより前記導電層にニッケル/錫合金からなる黒色被膜層を積層する工程、前記黒色被膜層の一部が露出するようにアクリル樹脂層を積層する工程、を含む導電性フォームの製造方法。
前記ポリウレタンフォームに前記ニッケル層を形成する工程に先立ち、前記ポリウレタンフォームに有機繊維構造シートを貼り合わせる工程を有する、請求項6に記載の導電性フォームの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられるポリウレタンフォームはシート状、ブロック状などその形状は制限されない。原料となるポリウレタン樹脂はエーテル系ポリウレタン樹脂、エステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが採用される。柔軟性や形状回復性の観点からエーテル系ポリウレタン樹脂を原料としたポリウレタンフォームが好ましい。
【0014】
ポリウレタンフォームは公知の方法で製造され、軟質フォーム、硬質フォームなど種類も多いが、ガスケットとして用いる際の柔軟性や形状回復性の点で、内部に連続気泡を有する軟質フォームであることが好ましい。また、ポリウレタンフォームの内部孔表面にも均一に積層金属層を形成するためには、気泡密度を50〜250個/インチとすることが好ましい。
【0015】
図1に見られるようにポリウレタンフォームの内部には多数の内部孔が形成されており、ポリウレタン樹脂成分が網状の壁となってこの内部孔を取り囲む構造となっている。この内部孔の大きさは特に限定はされないが、好ましい孔径は100〜500μmである。本発明の導電性フォームにおいては、ポリウレタンフォームの外表面(すなわち外部から直接観察できる面)のみならず、前記内部孔の表面、つまり内部孔を取り囲む網状のポリウレタン樹脂の表面にも積層金属層が設けられる。
【0016】
本発明における積層金属層は、
図2に示すように三層構造を有している。ポリウレタンフォームに接する側から順に、ニッケル層、導電層、黒色被膜層が積層されている。
【0017】
ニッケル層はニッケルを主成分とする層であり、ポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与されるニッケル層の質量は10〜60mg/cm
3であることが好ましい。ポリウレタンフォーム単位体積あたりのニッケル層の質量が10〜60mg/cm
3であれば、侵食による導電層の経時劣化を抑制することができ、かつ導電性フォームのクッション性を維持することができる。前記の効果を阻害しない範囲内であれば、その他の成分としてパラジウム、燐、炭素、窒素、酸素などが含まれていてもよい。
【0018】
ニッケル層を形成する方法としては、後述する無電解メッキによる方法が好ましい。無電解メッキ法によれば、ポリウレタンフォームの外表面および内部孔表面に均一なニッケル層を形成することができる。
【0019】
本発明における導電層は、銅または銀を主成分とする層である。ポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与される銅または銀の質量は10〜60mg/cm
3であることが好ましい。ポリウレタンフォーム単位体積あたりの導電層の質量が10〜60mg/cm
3であれば、高い導電性能を得ることができ、かつ導電性フォームのクッション性を維持することができる。前記の効果を阻害しない範囲内であれば、その他の成分として炭素、窒素、酸素などが含まれていてもよい。
【0020】
導電層を形成する方法としては、後述する無電解メッキまたは電気メッキによる方法が好ましい。無電解メッキまたは電気メッキ法によれば、ポリウレタンフォームの外表面および内部孔表面に形成されたニッケル層の表面に、均一な導電層を積層して形成することができる。
【0021】
本発明における黒色被膜層は、ニッケル/錫合金を主成分とする層である。黒色被膜層におけるニッケルの含有率は20〜60質量%であり、錫の含有率は40〜80質量%であることが好ましい。更にニッケルと錫の構成配分としては、ニッケル比率(ニッケルの含有率を錫の含有率で除した値)が0.25〜1.5であることが好ましい。ニッケル比率がこの範囲であれば、十分な黒さを呈する黒色被膜が得られる。黒色性や被膜の物理的強度を阻害しない範囲内で、その他の成分として炭素、窒素、酸素などが含まれていてもよい。
【0022】
ポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与される黒色被膜層の質量は5〜50mg/cm
3であることが好ましい。ポリウレタンフォーム単位体積あたりの黒色被膜層の質量が5〜50mg/cm
3であれば、十分な黒さを呈する黒色被膜が得られ、かつ導電性フォームのクッション性を維持することができる。
【0023】
黒色被膜層を形成する方法としては、後述する電気メッキによる方法が好ましい。電気メッキ法によれば、ポリウレタンフォームの外表面および内部孔表面に形成されたニッケル層、導電層に積層して、均一な黒色被膜層を形成することができる。
【0024】
黒色被膜層の表面は、微細な凹凸構造を有していることが好ましい。黒色被膜層表面の凹凸構造は、算術平均粗さ(SRa)が0.03〜1μmであることが好ましい。黒色被膜層表面の算術平均粗さ(SRa)が0.03〜1μmであれば、黒色性の高い外観を得ることができ、かつ十分な物理的強度を有する凹凸構造とすることができる。黒色被膜層の表面に凹凸構造を設ける方法としては、電気メッキによる条件を制御して凹凸構造を設けることとしてもよい。あるいは導電層を形成する際のメッキ条件を制御して導電層の表面に凹凸構造を形成し、この導電層表面の凹凸構造を維持したままで黒色被膜層を形成するようにしてもよい。
【0025】
本発明の導電性フォームにおいては、前記積層金属層の最外層である黒色被膜層を、更にアクリル樹脂層によって被覆している。アクリル樹脂層によって被覆されていることにより、摩擦などによって積層金属層に亀裂が生じたり、積層金属層が脱落したりすることを抑制することができる。
【0026】
アクリル樹脂層を構成する樹脂としてはアクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等が挙げられる。なかでも粘着剤との接着性、表面導電性、柔軟性などの点を総合的に考慮すると、アクリル樹脂が好ましい。
【0027】
ポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与されるアクリル樹脂層の質量は0.3〜3mg/cm
3であることが好ましい。フォームシート単位体積あたりのアクリル樹脂層の質量が0.3〜3mg/cm
3であれば、摩擦などによって積層金属層に亀裂が生じたり、積層金属層が剥離したり脱落したりすることを抑制できる。また、導電性フォームのクッション性を維持することができる。
【0028】
アクリル樹脂層は、黒色被膜層を概ね被覆するように形成されているが、部分的には黒色被膜層が露出していることが必要である。黒色被膜層が部分的に露出している構造とすることで、導電性フォームと導電性フォームを設置した部材との間で電気的な接続が可能となる。このような電気的な接続は、例えばアースを取るために利用できる。黒色被膜層の露出は、少なくとも導電性フォームの外表面に存在する事が必要である。一方、内部孔表面においては黒色被膜層の露出は必ずしも必要ではない。導電性フォームの外表面における黒色被膜層の露出面積が、外表面面積に対して10〜50%であることが好ましい。
【0029】
本発明の導電性フォームにおいて、ポリウレタンフォームの少なくとも一面に有機繊維構造シートが貼り合わされており、前記ポリウレタンフォームと前記有機繊維構造シートとの複合体の外表面および内部孔表面が前記積層金属層とアクリル樹脂層とで被覆されていることとしてもよい。有機繊維シートとしては、織物、編物、不織布などの繊維布帛が挙げられる。繊維布帛を構成する繊維としては合成繊維、半合成繊維、再生繊維、植物繊維、動物繊維などを用いることができるが、強度などの点で合成繊維が好ましく、更にはポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維などが好ましい。特にポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。これらの繊維は例えば単繊維が0.1〜5デシテックスであるマルチフィラメント糸の形態であることが好ましい。また、繊維布帛の目付は10〜100g/m
2であることが好ましい。
【0030】
繊維材料からなる有機繊維構造シートは、構成要素である繊維と繊維の間に空隙を有している。ポリウレタンフォームの場合に比較すれば、絶対的な量は少ないが、有機繊維構造シートに関しても内部空隙に基づく内部孔表面が存在する。本発明の導電性フォームにおいて有機繊維構造シートが用いられる場合、ポリウレタンフォームの部分と同様に有機繊維構造シートに関してもその外表面のみならず内部孔表面が積層金属層とアクリル樹脂層とで被覆される。
【0031】
有機繊維構造シートをポリウレタンフォームに貼り合わせる方法としては、接着剤を用いる方法の他、ポリウレタンフォームの一面を熱溶融させた直後に有機繊維構造シートを重ね合わせて接着させる方法が用いられる。ポリウレタンフォームと有機繊維構造シートの両方について、貼り合わせ面以外の外表面のみならず、内部孔表面にも積層金属層およびアクリル樹脂層を均一に形成するためには、ポリウレタンフォームを熱溶融させて有機繊維構造シートを接着する方法が好ましい。
【0032】
本発明の導電性フォームの製造方法は、ポリウレタンフォームに無電解メッキ触媒を付与した後、前記無電解メッキ触媒を活性化し、無電解ニッケルメッキによってニッケル層を形成する工程、無電解メッキまたは電気メッキにより前記ニッケル層に銅または銀からなる導電層を積層する工程、更に電気メッキにより前記導電層にニッケル/錫合金からなる黒色被膜層を積層する工程、前記黒色被膜層の一部が露出するようにアクリル樹脂層を形成する工程、を含む。
【0033】
無電解メッキ触媒としては、パラジウム、銀、ニッケルなどが挙げられる。なかでも無電解メッキの初期反応活性が良好との理由でパラジウムが好ましい。無電解メッキ触媒を付与する方法としては、無電解メッキ触媒を含む水溶液にポリウレタンフォームを浸漬する方法、無電解メッキ触媒を含む水溶液をポリウレタンフォームにスプレーする方法など、特に限定されずに公知の方法が採用される。その後必要に応じて余剰の無電解メッキ触媒を含む溶液を除去してもよい。また、溶媒である水を除去するための乾燥工程を設けてもよい。
【0034】
無電解メッキ触媒を含む水溶液の濃度は触媒金属として0.01〜0.2質量%であることが好ましい。無電解メッキ触媒を含む水溶液の濃度が触媒金属として0.01〜0.2質量%であれば、無電解メッキの初期反応において良好な反応活性が得られ、かつ過剰な触媒消費を抑制することができる。無電解メッキ触媒を含む水溶液がパラジウム−錫イオンコロイド溶液である場合は、無電解メッキ触媒を含む水溶液に、錫イオン、塩化物イオン、界面活性剤などが含まれることもある。
【0035】
無電解メッキ触媒を含む水溶液がパラジウム−錫イオンコロイド溶液である場合は、ポリウレタンフォームに付与された無電解メッキ触媒を活性化するために強酸が用いられる。強酸を含む水溶液に接触させることで、触媒活性のない錫イオン(IV)が除去され、ポリウレタンフォームに付与された無電解メッキ触媒(パラジウム)が活性化される。強酸を含む水溶液を無電解メッキ触媒が付与されたポリウレタンフォームに接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法などが挙げられる。
【0036】
強酸としてはホウフッ化水素酸、硫酸などが挙げられ、なかでも錫イオン(IV)の除去能力が高いという理由でホウフッ化水素酸が好ましい。強酸を含む水溶液とする場合、強酸の濃度は1〜10質量%であることが好ましい。強酸の濃度が1〜10質量%であれば、錫イオン(IV)を効率的に除去することができ、かつ強酸の過剰消費を抑制することができる。強酸を含む水溶液には、その他の成分として界面活性剤などが含まれていてもよい。
【0037】
無電解ニッケルメッキは公知の方法で実施する事ができる。無電解ニッケルメッキ処理液は公知の成分を配合して用いることもできるし、市販の無電解ニッケルメッキ処理液を利用することも可能である。この無電解ニッケルメッキによって得られるポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与されるニッケル層の質量は、前述のとおり10〜60mg/cm
3であることが好ましい。無電解ニッケルメッキ処理の後、必要に応じて水洗、乾燥を行ってもよい。
【0038】
前記ニッケル層に積層して銅または銀を主成分とする導電層を形成する方法としては、無電解メッキ法または電気メッキ法が採用される。無電解メッキまたは電気メッキは従来公知の方法を用いることができる。また、無電解メッキ液、または電気メッキ液についても公知の成分を配合して作製したものや市販のメッキ液を利用することができる。
【0039】
例えば、無電解銅メッキを行う際の条件としては、銅イオン(II)、キレート剤、還元剤、安定剤を含むアルカリ性のメッキ液に、前記ニッケル層を含む被メッキ物を浸漬処理することが好ましい。銅イオン(II)源としては塩化銅(II)二水和物、硫酸銅(II)五水和物、硝酸銅(II)三水和物などが好ましく、銅イオン(II)濃度は1〜4g/Lであることが好ましい。キレート剤としては EDTA、クォドロールなどが好ましく、キレート剤濃度は10〜80g/Lであることが好ましい。還元剤としてはホルムアルデヒドが好ましく、還元剤濃度は1〜5g/Lであることが好ましい。アルカリ度はpH12〜13.5であることが好ましい。無電解銅メッキ液には、その他成分として、2,2´−ビピリジル、フェロシアン化カリウム、ポリエチレングリコール、2−メルカプトベンゾチアゾールなどの安定剤が含まれていても良い。浸漬処理時の温度は30〜70℃であることが好ましい。
【0040】
例えば、電気銅メッキを行う際の条件としては、銅イオン(II)、無機酸、塩化物イオン、安定剤を含む酸性のメッキ液に、前記ニッケル層を含む被メッキ物を浸漬し、電解処理することが好ましい。銅イオン(II)源としては硫酸銅(II)五水和物が好ましく、銅イオン(II)濃度は10〜60g/Lであることが好ましい。無機酸としては硫酸が好ましく、硫酸濃度は50〜200g/Lであることが好ましい。塩化物イオン源としては塩化ナトリウム、塩酸などが好ましく、塩化物イオン濃度は10〜100mg/Lであることが好ましい。電気銅めっき液には、その他成分として、ポリエチレングリコールなどのポリマー成分、3,3´−ジチオビス(1−プロパン酸)2ナトリウムなどの硫黄系有機化合物、ヤーヌスグリーンBなどの窒素系有機化合物が含まれていても良い。電解処理時の陰極電流密度は0.5〜3A/dm
2が好ましい。電解処理時の温度は15〜50℃であることが好ましい。
【0041】
無電解メッキまたは電気メッキ処理によって得られる導電層のポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与される導電層の質量は、前述のとおり10〜60mg/cm
3であることが好ましい。無電解メッキまたは電気メッキ処理の後、必要に応じて水洗、乾燥を行なってもよい。
【0042】
黒色被膜層の表面を凹凸構造とするために導電層表面に凹凸構造を形成する手段としては、導電層形成時の凹凸メッキや、導電層表面の粗化エッチングなどが挙げられる。具体的には平滑剤を含まない電気銅めっき液による凹凸メッキ方法や、アルカリ性の亜塩素酸ナトリウム水溶液による銅表面の酸化エッチングなどである。これによって導電層の表面に凹凸構造が形成され、この導電層に積層される黒色被膜層の表面に算術平均粗さ(SRa)が0.03〜1μmである微細凹凸構造を形成することができる。
【0043】
導電層に積層して黒色被膜層を形成する方法としては、電気メッキ法が採用される。電気メッキ液としてはニッケルと錫を含む電気ニッケル/錫合金メッキ液を用いる。電気ニッケル/錫合金メッキ液は適宜作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。電気メッキを行う際の条件としては、ニッケルイオン(II)、錫イオン(II)、キレート剤、添加剤を含むアルカリ性のメッキ液に、前記導電層を含む被メッキ物を浸漬し、電解処理することが好ましい。ニッケルイオン(II)源としては硫酸ニッケル(II)六水和物が好ましく、ニッケル(II)イオン濃度は2〜20g/Lであることが好ましい。錫イオン(II)は硫酸錫(II)であることが好ましく、錫(II)イオン濃度は0.5〜5g/Lであることが好ましい。キレート剤はグルコン酸、クエン酸、酒石酸などなどが好ましく、キレート剤濃度は50〜150g/Lであることが好ましい。アルカリ度はpH8〜11であることが好ましい。電気ニッケル/錫メッキ液には、その他成分としてグリシン、グルタミン酸、アンモニアなどのアミン系物質から成る添加剤が含まれていても良い。電解処理時の陰極電流密度は0.3〜6A/dm
2が好ましい。電解処理時の温度は15〜50℃が好ましい。
【0044】
電気メッキ処理によって得られる黒色被膜層のポリウレタンフォームの単位体積あたりに付与される黒色被膜層の質量は、前述のとおり5〜50mg/cm
3であることが好ましい。また、黒色被膜層におけるニッケルの含有率が20〜60質量%となることが好ましく、そのために電気ニッケル/錫合金メッキ液の組成を調整したり、電気メッキ処理の条件を設定したりすることが肝要である。電気メッキ処理の後、必要に応じて水洗、乾燥を行なってもよい。
【0045】
上述の工程で形成された三層構造の積層金属層の表面に、アクリル樹脂層が形成される。アクリル樹脂層を形成する方法としては、アクリル樹脂を含む水溶液に積層金属層が形成されたポリウレタンフォームを浸漬する方法、アクリル樹脂を含む水溶液を積層金属層が形成されたポリウレタンフォームにスプレーする方法、アクリル樹脂を含むコーティング溶液を作製して積層金属層が形成されたポリウレタンフォームにコーティングする方法などがあげられる。この際、積層金属層の最外層である黒色被膜層の一部がアクリル樹脂で覆われずに露出していることが必要である。黒色被膜層の一部が露出するようにアクリル樹脂層を形成するためには、アクリル樹脂を含む水溶液の粘度や塗布量をコントロールして付与することが肝要である。あるいは印刷法により、パターン状のアクリル樹脂層を形成してもよい。
【0046】
本発明の導電性フォームの製造方法においては、ニッケル層を形成するに先だって、ポリウレタンフォームに有機繊維構造シートを貼り合わせてもよい。貼り合わせの方法は前述のとおりである。ポリウレタンフォームに有機繊維構造シートを貼り合わせる工程は、ポリウレタンフォームの外表面および内部孔表面に積層金属層を形成する前に実施することが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各物性値の測定および評価は以下の方法に従った。
【0048】
[厚み方向の導電性]
導電性フォームから成るシートを、3cm×3cmの正方形にカットし、金メッキされた真鍮ブロック(2.5cm×2.5cm、厚み1cm)の上に載せた。その上に、同サイズの金メッキされた真鍮ブロックを載せ、シートに対する圧縮応力が500g重となるように荷重負荷をかけた。この状態で金メッキされた真鍮ブロック間の電気抵抗値を測定し、厚み方向の導電性として評価した。
【0049】
[黒色性]
導電性フォームから成るシートのポリウレタンフォーム面をオモテ面として、その光学特性値を分光測色器(コニカミノルタ製、CM−2600d)で測定してL
*(SCE)値を求めた。光源にはC光源を用い、視野角は2°とした。L
*(SCE)値が小さいほど黒色性が高いと評価できる。
【0050】
[耐摩耗性]
導電フォームから成るシートを、2.5cm×15cmの長方形にカットした。シートのポリウレタンフォーム面をオモテ面とし、学振磨耗試験機(大栄科学精器製作所製、NR−100)を用いて導電フォームシートのオモテ面を被摩擦体で磨耗した。被摩擦体には電解銅箔を2cm×2cmにカットしたものを用いた。摩擦条件は、荷重200g、摩擦面積2cm×2cm、往復距離10cm、往復速度30回/60秒、往復回数500回である。試験前後における被摩擦体の重量増加量を導電性フォームの摩耗量とし、耐摩耗性の評価とした。
【0051】
[黒色被覆層表面の算術平均粗さ(SRa)]
黒色被覆層表面の算術平均粗さ(SRa)を走査型共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、LEXT OLS3000)で測定した。付属のソフトウェアを利用して算術平均粗さ(SRa)を求めた。計算式を以下の数式1に示す。
【0052】
【数1】
L:測定面の横辺(x方向)の長さ
M:測定面の縦辺(y方向)の長さ
f(x,y):平均高さの水平面からの距離
【0053】
[実施例1]
厚み600μmの長尺ポリウレタンフォームと厚み100μmの長尺ポリエステル織物とを接着剤で貼り合わせてフォームシートを作製し、以下の手順で導電性フォームを製造した。6槽の処理槽を有する連続無電解メッキ加工装置を用いてニッケル層および銅からなる導電層の形成までを連続で行なった。まず第1槽で温度65℃の純水を用いて3分間の湯洗を行った。第2槽ではコンディショナーPB−160M(株式会社JCU製)2.5ml/Lにて50℃、3分間の脱脂、表面電位調整を行なった。第3槽では無電解メッキ触媒溶液に浸漬して触媒付与を行なった。無電解メッキ触媒溶液の組成は、塩化パラジウム1.2g/L、塩化錫(II)二水和物100g/L、レゾルシン15g/L、37%塩酸250ml/Lとした。浸漬温度は25℃、浸漬時間は3分間であった。
【0054】
第4槽において強酸溶液に浸漬して無電解メッキ触媒の活性化を行なった。強酸としてMK−345(室町ケミカル株式会社製:ホウフッ化水素酸系)40ml/Lを用い、浸漬温度35℃、浸漬時間3分間とした。第5槽において無電解ニッケルメッキを行ない、ニッケル層を形成した。メッキ液の組成は、硫酸ニッケル六水和物18g/L、ホスフィン酸ナトリウム一水和物15g/L、クエン酸ナトリウム三水和物20g/L、塩化アンモニウム10g/L、28%アンモニア水10ml/L、32%水酸化ナトリウム溶液10ml/Lであり、浸漬温度は50℃、浸漬時間は5分間とした。ポリウレタンフォーム単位体積あたりのニッケル層の質量は16mg/cm
3であった。
【0055】
第6槽において銅メッキを行なった。銅メッキ液の組成は、塩化銅(II)二水和物8.75g/L、EDP−300(株式会社ADEKA製)20g/L、32%水酸化ナトリウム水溶液40ml/L、2,2´ビピリジル4mg/L、フェロシアン化カリウム三水和物500mg/L、PEG#1000 5g/L、2−メルカプトベンゾチアゾール0.5mg/L、37%ホルムアルデヒド水溶液8.75ml/Lとした。浸漬温度は40℃、浸漬時間は5分間とした。なお、第1槽から第6槽の各々の後部には水洗槽を設けており、乾燥は行なわずに連続して処理した。ポリウレタンフォームシート単位体積あたりの銅からなる導電層の質量は21mg/cm
3であった。
【0056】
銅からなる導電層が形成されたウレタンフォームシートを150℃、4分間熱処理して乾燥させた。その後、電気メッキ装置を用いて電気ニッケル/錫メッキを行なった。電気ニッケル/錫メッキ溶液の組成は、硫酸ニッケル六水和物30g/L、硫酸錫(II)6g/L、グルコン酸ナトリウム75g/L、ニッカブラックブライトナー(日本化学産業株式会社製)5ml/Lとした。pHは9であり、処理温度40℃、陰極電流密度0.5A/dm
2、処理時間は14.8分間とした。ポリウレタンフォーム単位体積あたりのニッケル/錫合金からなる黒色被膜層の質量は16mg/cm
3であり、黒色被膜層におけるニッケル含有率は37質量%であった。黒色被膜層表面の算術平均粗さ(SRa)は0.036μmであった。
【0057】
黒色被膜層が形成され、三層構造の積層金属層が形成されたフォームシートを70℃、2分間の熱風処理にて乾燥し、次にアクリル樹脂層の形成を行なった。プライマルJP−934HS(ローム&ハース社製)40ml/L、28%アンモニア水0.13ml/Lに調製したアクリル樹脂処理液にフォームシートを浸漬(25℃、1分間)し、ロールで扱いて余剰の処理液を除去した後140℃、10分間の乾燥を行なって導電性フォームを得た。アクリル樹脂層の一部から黒色被膜層の露出が確認された。
【0058】
[実施例2]
黒色被膜層を形成する電気ニッケル/錫メッキ処理において、陰極電流密度を4A/dm
2、処理時間を1.85分間とした以外は実施例1と同様に処理を行なって導電性フォームを得た。得られた導電性フォームにおいてポリウレタンフォーム単位体積あたりのニッケル/錫合金からなる黒色被膜層の質量は6.0mg/cm
3であり、黒色被膜層におけるニッケル含有率は24質量%であった。黒色被膜層表面の算術平均粗さ(SRa)は0.077μmであった。
【0059】
[実施例3]
無電解銅メッキ処理の後に、追加で電気銅メッキを行なった以外は実施例1と同様にして導電性フォームを得た。電気銅メッキの条件として、銅メッキ液の組成は、硫酸銅五水和物120g/L、98%硫酸100g/Lとし、処理温度は40℃、陰極電流密度は2A/dm
2、処理時間は1.85分とした。ポリウレタンフォーム単位体積あたりの導電層の質量は27mg/cm
3であった。実施例1と同様に黒色被膜層を形成した後の黒色被膜層表面の算術平均粗さ(SRa)は0.30μmであった。
【0060】
[比較例1]
アクリル樹脂層を形成しなかったこと以外は実施例2と同様にして導電性フォームを得た。
【0061】
実施例1〜3、および比較例1にて得られた導電性フォームから成るシートの各物性評価結果を表1に示す。比較例1は耐摩耗性において実施例1〜3に劣っている。
【0062】
【表1】