【文献】
JIS R5203:2015 セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法),日本,2015年 3月,特に、8.1等を参照。
【文献】
峯岸敬一,セメントの水和と熱,コンクリート工学,日本,1984年 3月,Vol.22, No.3,pp.5-12,特に、第9頁左欄第9−12行等を参照。
【文献】
丸山一平ほか,エーライトおよびビーライトの水和反応速度に関する研究−ポルトランドセメントの水和機構に関する研究 その1−,日本建築学会構造系論文集,日本,2010年 4月,Vol.75, No.650,pp.681-688,特に、2.2等を参照。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(I)において、PONKCS法を用いたX線回折−リートベルト法により求めた未水和セメントの相組成の定量値を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメントの水和熱の予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のセメントの水和熱の予測方法は、次の工程(I)、(II)、(III)及び(IV):
(I)未水和セメントにおける各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
1をもとに、未水和セメントの溶解熱Q
1を求める工程、
(II)水和セメントにおける各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
2をもとに、水和セメントの溶解熱Q
2を求める工程、及び
(III)得られた溶解熱Q
2から溶解熱Q
1を差し引いて、水和熱X
1を求める工程、及び
(IV)ポルトランドセメント中におけるMgO量とC
2S量との比Y(MgO/C
2S)の値に基づき、材齢に応じて選択した補正値Z
1を用いて水和熱X
1から水和熱X
2を求める工程
を備える。
【0017】
工程(I)で得られる溶解熱Q
1、及び工程(II)で得られる溶解熱Q
2は、いわゆる「一連の化学反応における生成熱(エンタルピー変化)の総和は、その反応の始めの状態と終わりの状態だけで定まり、反応経路によらない。」とする熱化学に関するヘスの法則(総熱量不変の法則)に基づいて求められる値である。これは、セメントの水和熱測定方法に関する公定法である、JIS R 5203「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」の解説にも記載される方法であり、かかる方法は、具体的には以下のような工程となる。
【0018】
(1)セメントと水の水和反応に関する反応式は、以下のように表される。
(未水和セメント)+(水)→(水和セメント)+(水和熱Q)・・・(a)
(2)未水和セメント又は水和セメントが酸液に溶解したときに生じる未水和セメントの溶解熱q’又は水和セメントq’’に係る反応式は、以下のとおりとなる。
(未水和セメント)+(酸液)→(セメント完全溶解液)+(溶解熱q’)・・・(b)
(水和セメント)+(酸液)→(セメント完全溶解液)+(水)+(溶解熱q’’)
・・・(c)
(3)式(b)と式(c)の差分((b)−(c))を算出する。
(未水和セメント)−(水和セメント)→(−水)+(溶解熱q’)−(溶解熱q’’)
・・・(d)
(4)式(d)を整理する。
(未水和セメント)+(水)→(水和セメント)+(溶解熱q’)−(溶解熱q’’)
・・・(e)
(5)式(a)と式(e)の比較により、以下のとおり、セメントの水和熱と、未水和セメントの溶解熱及び水和セメントの溶解熱との関係式が得られる。
(水和熱Q)=(溶解熱q’)−(溶解熱q’’)・・・(f)
【0019】
このように、セメントの水和熱は、未水和セメントと、これを所定材齢で水和させた後の水和セメントについて、各々が完全溶解する酸液を用いた場合の溶解熱を測定することにより求めることができる。そして、JIS R 5203「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」では、かかる酸液として硝酸とフッ酸の混酸を用いている。
【0020】
したがって、本発明における工程(I)は、具体的には、以下の工程(I−1)、工程(I−2)、及び工程(I−3)を備える工程であるのが好ましい。
工程(I−1):未水和セメントの各構成相の、単位重量あたりの溶解熱q
1に関するデータベースを構築する工程、
工程(I−2):未水和セメントの相組成を定量する工程、及び
工程(I−3):工程(I−2)で得られた未水和セメントの相組成の各定量値に、工程(I−1)で構築した各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
1の値を掛け合わせ、次いでこれらの合計値を求めて、未水和セメントの溶解熱Q
1を得る工程。
【0021】
上記工程(I)で用いる未水和セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び耐硫酸塩ポルトランドセメントの各種ポルトランドセメント;高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、石灰石フィラーセメントの各種単一成分系混合セメント;複数のセメント混合材を混合した多成分系混合セメント;普通型のエコセメント、及び速硬型のエコセメント;ホワイトセメント等が挙げられる。
【0022】
未水和セメントの構成相としては、エーライト(C
3S)、ビーライト(C
2S)、アルミネート相(C
3A)、及びフェライト相(C
4AF)等のポルトランドセメントクリンカの構成相;二水、半水及び無水の各種石膏;高炉スラグ、シリカヒューム、フライアッシュ、及び石灰石微粉末等のセメント混合材を含む各種非晶質相;ゲーレナイト、ムライト、酸化鉄(II)及びカルサイト等の各セメント混和材の構成相;C
11A
7・CaCl
2等のエコセメントクリンカ特有の構成相が挙げられる。
さらに、例えば、C
3Sにおいては、M
I相又はM
III相等として知られる各クリンカ鉱物の結晶多型まで構成相を分類することが好ましい。
【0023】
上記工程(I−1)において、未水和セメントの各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
1のデータベースを構築するにあたり、定圧過程での反応熱はエンタルピーに等しいので、例えば、下記参考文献1に記載の「未水和セメントの構成相エンタルピー」のデータを利用することができる。
参考文献1:Mchedlov-Petrosyan,O.P. & V.I.Babushkin;Thermodynamics and Thermochemistry of Cement、6thICCC(Moscow)、I-6、pp.1-45(1974)
【0024】
また、公開データが確認できない構成相については、選択溶解法や重液分離法等でセメントから分離するか、又は合成して得られた構成相について、JIS R 5203「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」の方法や、例えば特開平5−312744号公報に記載の方法を用いることによって実測値を求め、かかる値を用いて未水和セメントの各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
1のデータベースを構築すればよい。
かかる方法により構築したデータベースの一部を、表1に例示する。
【0026】
上記工程(I−2)において、未水和セメントの構成相を定量するにあたり、例えば、下記参考文献2に記載されるX線回折−リートベルト法(以下、「リートベルト法」と称する)等のような公知の方法を用いればよい。なお、通常、簡易的にセメントの鉱物組成を求める際に用いられる、ボーグ式により化学分析値から求める方法を用いて得られる値は、理想的な化学平衡を前提とした見積値であるため、実際のセメントクリンカの鉱物組成から乖離しており、本発明において用いるのは好ましくない。
【0027】
リートベルト法の発展的な方法として、高炉スラグやフライアッシュ等の非晶質相を含んだセメントについて、下記参考文献2に記載の方法のように内部標準物質を用いることなくX線回折定量分析が可能な方法としては、下記参考文献3に記載のPONKCS(Partial Or No Known Crystal Structure)法が知られており、高炉セメントの高炉スラグ混合率の定量に有効である。そのため、本発明の工程(I)、具体的には上記工程(I−2)においても、PONKCS法を用いたX線回折−リートベルト法により求めた未水和セメントの相組成の定量値を用いるのが好ましい。具体的には、下記参考文献4に記載されるとおり、上記PONKCS法を用いて、それぞれ非晶質相を主相とする高炉スラグとフライアッシュが共に混合された多成分系混合セメントについて、それら非晶質相を相別に分離して各構成相の定量分析を高精度に行う方法である。かかるリートベルト法を基本とした評価方法を用いることで、本発明の工程(I)、具体的には上記工程(I−2)において、未水和セメントの構成相の定量分析をより高精度に行うことが可能となる。
【0028】
参考文献2:星野清一 他;非晶質混和材を含むセメントの鉱物の定量におけるX線回折/リートベルト法の適用、セメント・コンクリート論文集、No.59、pp.14-21(2005)
参考文献3:引田友幸 他;X線回折/PONKCS法を用いた高炉セメント中のスラグ混合率定量および工場オンライン自動分析システムへの適用、第70回セメント技術大会講演要旨、pp.134-135(2016)
参考文献4:特願2016−29312号(出願日:2016年2月18日)
【0029】
また、石膏類や石灰石微粉末を定量するにあたっては、熱分析(熱重量分析(TG)、示差走査熱量測定(DSC)等)を用いることもできる。特に、石膏の二水石膏及び半水石膏に係る定量では、特開平6−242035号公報に記載されている容器(容器の蓋体に径が5〜60μmである穴のみを有し、該穴以外は密封した状態となる金属質容器)を用いる分析方法により、さらに高精度な定量が可能になる。
したがって、X線回折プロファイル上では、半水石膏と無水石膏について、互いのプロファイルが似ているために相の分離が困難であるところ、上記熱分析による半水石膏の定量分析の結果をリートベルト法等の解析結果に反映することで、上記工程(I−2)における未水和セメント中の石膏の定量の精度をさらに向上させることができる。
【0030】
次いで、上記工程(I−3)を経ることにより、すなわち上記(I−2)を経ることにより得られた未水和セメントの各構成相の定量分析結果の値(質量%)に、上記工程(I−1)で構築した各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
1の値(J/g)を掛け合わせ、次いでこれらの値の合計値を求めることにより、未水和セメントの溶解熱Q
1(J/g)が得られる。
【0031】
本発明における工程(II)は、具体的には、以下の工程(II−1)、工程(II−2)、及び工程(II−3)を備える工程であるのが好ましい。
工程(II−1):水和セメントの各構成相の、単位重量あたりの溶解熱q
2に関するデータベースを構築する工程、
工程(II−2):所定材齢における水和セメントの相組成を定量する工程、及び
工程(II−3):工程(II−2)で得られた水和セメントの相組成の各定量値に、工程(II−1)で構築した各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
2の値を掛け合わせ、次いでこれらの合計値を求めて、水和セメントの溶解熱Q
2を求める工程。
【0032】
上記工程(II)で用いる水和セメント(セメント水和物)としては、カルシウムシリケート水和物(C−S−H、例えば4CaO・3SiO
2・1.5H
2O)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)及びエトリンガイト(3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O)等のポルトランドセメントの水和物相;モノカーボネート(3CaO・Al
2O
3・CaCO
3・11H
2O)等の混合セメントの水和物相;速硬性エコセメントの水和物相であるフリーデル氏塩3CaO・Al
2O
3・CaCl
2・10H
2O等が挙げられる。
【0033】
上記工程(II−1)において、水和セメントの各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
2のデータベースを構築するにあたり、例えば、セメント構成相の水和反応における公知のエンタルピー変化量(J/mol)を用い、これを各セメント構成相の式量(g/mol)で除すことによって得ることができる。セメント構成相の水和反応におけるエンタルピー変化量としては、例えば、上記参考文献1等に記載されている値を用いることができる。
【0034】
また、上記のような公開データを入手できない構成相については、未水和セメントの構成相の場合と同様に、セメント硬化体から分離するか、又は合成して得られた水和セメント構成相について溶解熱を測定することによって、水和セメントの各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
2のデータベースを構築すればよい。
かかる方法により構築したデータベースの一部を、表2に例示する。
【0036】
上記工程(II−2)において、所定材齢における水和セメントの相組成を定量するにあたり、例えば、下記参考文献5に記載されるアセトンで水和停止したセメントペースト水和物にリートベルト法を用いる方法を採用すればよい。かかる方法によれば、水和セメントの生成量とともに、各種未水和セメント構成相の未反応量(残存量)が求められ、さらにその未反応量の値から、未水和セメント構成相の所定材齢における水和反応率を求めることができる。
参考文献5:星野清一 他;X線回折/リートベルト法によるセメントペーストの水和反応解析、コンクリート工学年次論文集、Vol.28、No.1、pp.41-46(2006)
【0037】
水和生成物が多種類にわたり、かつ結晶構造が類似しているものを含んでいる水和セメントについては、詳細な定量を行うのは極めて困難である。したがって、このような場合には、上記工程(II)は、水和物量を簡易に見積もることができる観点、及びそれによってセメントの水和熱X
2の予測の精度を高める観点から、以下の工程(II−x)、工程(II−y)、及び工程(II−z)を備える工程であるのが好ましい。上記工程(II)が工程(II−x)、工程(II−y)、及び工程(II−z)を備えることにより、より正確な値である未水和セメントにおける各構成相の水和反応率を用いることができ、また水和物量を簡易に見積もることが可能となるため、その水和物量を用いて水和セメントの溶解熱Q
2を求めた後、工程(III)及び工程(IV)を経ることにより、セメントの水和熱X
2を高精度に予測することができる。
【0038】
未水和セメント構成相の水和反応率から、水和セメントの溶解熱Q
2の計算に必要となる各セメント水和物量を見積もる方法、すなわち工程(II−x)、工程(II−y)、及び工程(II−z)を備える方法とは、具体的には以下のとおりである。
工程(II−x):未水和セメントの相組成、及び所定材齢における未水和セメント構成相の水和反応率データから、各未水和セメント構成相から供される、水和物となる元素量を酸化物量(SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、SO
3、MgO、CO
2)として求める工程、
工程(II−y):以下の前提に基づき、上記工程(II−x)により得られた酸化物量から各水和物量を算出する工程、
(y1)C−S−Hの組成は、3CaO・2SiO
2・3H
2Oとする。
(y2)C
4AFの水和物は、4CaO・Fe
2O
3・13H
2Oとする。
(y3)C
3Aの水和物は、3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2Oと3CaO・Al
2O
3・CaCO
3・11H
2Oとする。
(y4)C
3Aは石膏と優先的に反応する。
(y5)MgOの水和物は、Mg(OH)
2とする。
(y6)以上の水和反応を経た余剰分の未反応CaOは、Ca(OH)
2となる。
【0039】
工程(II−z)上記工程(II−y)により得られた、3CaO・2SiO
2・3H
2O、4CaO・Fe
2O
3・13H
2O、3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O、3CaO・Al
2O
3・CaCO
3・11H
2O、Mg(OH)
2及びCa(OH)
2、及び水和反応していない各セメント構成相の量(質量%)に、表1又は表2に例示する、データベースから抽出した各構成相の単位重量あたりの溶解熱q
2の値(J/g)を掛け合わせ、次いでこれらの値の合計値を求めることにより、水和セメントの溶解熱Q
2(J/g)が得られる。
【0040】
なお、上記工程(II−y)において用いる相組成は、既往の熱力学的相平衡計算ソフト(例えば、PhreeqC、GEMS、Geochemical Workbench、Factsage等)を用いて算出することもできる。かかる熱力学的相平衡計算ソフトとは、評価の対象とする系の化学反応式とその化学反応式の平衡定数の対数(log K)とを与え、質量保存則と組み合わせてこれらを解くことにより、系が到達する化学平衡状態を算出するソフトウェアである。
【0041】
また、未水和セメント構成相の水和反応率を評価できない場合には、所定材齢に応じて表3の数値を用いればよい。表3に示す各水和反応率は、実測値又は熱力学的相平衡計算により算出された値である。
【0043】
本発明における工程(III)は、上記工程(II)で得られた溶解熱Q
2から工程(I)で得られた溶解熱Q
1を差し引いて、水和熱X
1を求める工程となる。
【0044】
本発明における工程(IV)は、ポルトランドセメント中におけるMgO量とC
2S量との比Y(MgO/C
2S)の値に基づき、材齢に応じて選択した補正値Z
1を用い、工程(III)で得られた水和熱X
1から水和熱X
2を求める工程である。本発明では、かかる工程を経ることにより、未水和セメント構成相の主相である各種セメントクリンカ鉱物相に固溶した少量・微量成分の影響を加味しつつ、セメントの水和熱の予測の精度を高めることができる。
すなわち、未水和セメント構成相の主相である各種セメントクリンカ鉱物相には、少量・微量成分が固溶し、それによって水和活性が変化することは良く知られている。ただし、少量・微量成分の固溶によって、各種セメントクリンカ鉱物相の溶解熱が大きく変化するわけではなく、例えば表1に例示する溶解熱はほとんど影響を受けず、表3に示す水和反応率が少量・微量成分の固溶によって変化する。この各種構成相への少量・微量成分の固溶を考慮する場合、例えば、MgはC
3SやC
2Sの結晶構造中のCaのサイトを置換固溶するが、このMgの固溶量に応じて変化するC
3S及び/又はC
2Sの水和反応率をその都度求めることは現実的でないところ、本発明では上記工程(IV)を経ることで、容易に高い精度の予測値を得ることができる。
【0045】
工程(IV)は、具体的には、所望材齢が7日材齢である場合、補正値Z
1は、かかる7日材齢に応じて選択された値であって、ポルトランドセメント中におけるMgO量とC
2S量との比Y(MgO/C
2S)の値が0.056未満であるときの決定値、又は比Yの値が0.056以上であるときの決定値のいずれかを選択した値である。より具体的には、以下の式(2−1)〜(2−2)に表されるとおり、比Y(MgO/C
2S)の値に応じて、補正値Z
1が決定される。
【0046】
《比Y<0.056の場合》
補正値Z
1は、式(2−1)に表されるとおり、+14(J/g)である。
7日水和熱(J/g)=(未水和セメントの溶解熱(J/g))
−(7日水和セメントの溶解熱(J/g))+14(J/g)・・・(2−1)
《比Y≧0.056の場合》
補正値Z
1は、式(2−2)に表されるとおり、−8(J/g)である。
7日水和熱(J/g)=(未水和セメントの溶解熱(J/g))
−(7日水和セメントの溶解熱(J/g))−8(J/g)・・・(2−2)
【0047】
また、所望材齢が28日材齢である場合、補正値Z
1は、かかる28日材齢に応じて選択した値であって、比Yの値が0.050未満であるときの決定値、比Yの値が0.05以上0.057未満であるときの決定値、及び比Yの値が0.057以上であるときの決定値から選択した値である。より具体的には、以下の式(3−1)〜(3−3)に表されるとおり、比Y(MgO/C
2S)の値に応じて、補正値Z
1が決定される。
【0048】
《比Y<0.050の場合》
補正値Z
1は、式(3−1)に表されるとおり、+15(J/g)である。
28日水和熱(J/g)=(未水和セメントの溶解熱(J/g))
−(28日水和セメントの溶解熱(J/g))+15(J/g)・・・(3−1)
《0.05≦比Y≦0.057の場合》
補正値Z
1は、式(3−2)に表されるとおり、0(J/g)である。
28日水和熱(J/g)=(未水和セメントの溶解熱(J/g))
−(28日水和セメントの溶解熱(J/g))・・・(3−2)
《比Y>0.057の場合》
補正値Z
1は、式(3−3)に表されるとおり、−8(J/g)である。
28日水和熱(J/g)=(未水和セメントの溶解熱(J/g))
−(28日水和セメントの溶解熱(J/g))−8(J/g)・・・(3−3)
【0049】
次いで、工程(III)で得られた水和熱X
1に、上記得られた補正値Z
1を加算することにより、セメントの水和熱X
2を求めることができる。具体的には、例えば、水和熱X
1が300J/gであり、かつ比Yが0.09であるとき、補正値Z
1は−8J/gであるから、水和熱X
1に補正値Z
1を加算して(300+(−8))、水和熱X
2を292J/gとする予測値が得られる。
【0050】
工程(IV)において用いる上記補正値Z
1は、水和熱を求めようとする対象のセメントが、混合セメントである場合、かかるセメント中におけるポルトランドセメントの混合割合の値を求め、かかる値を上記補正値Z
1に乗ずることによって補正値Z
1を調整して得られる調整補正値Z
2を用い、水和熱X
1から水和熱X
2を求めるのが好ましい。
【0051】
具体的には、例えば、ポルトランドセメントの混合割合が60%の混合セメントの水和熱X
2を求める際、所望材齢が7日材齢である場合、選択した補正値Z
1に0.6を乗じて調整補正値Z
2を得ればよい。次いで、工程(III)で得られた水和熱X
1に、上記得られた補正値Z
1の代わりに、かかる調整補正値Z
2を加算することにより、セメントの水和熱X
2を求めればよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
《普通ポルトランドセメントの水和熱の予測》
表4に示す29個の普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)を用い、各セメントのブレーン比表面積(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定)、鉱物組成(参考文献2のリートベルト法に準拠して測定)、化学成分(JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定)の値を測定した。
これらの結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
[参考例1]
表4に示す各セメントを用い、JIS R 5203「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」により、材齢7日及び材齢28日における各水和熱を測定した。
結果を表5に示す。
【0056】
[実施例1]
表4に示す各セメントを用い、材齢7日及び材齢28日における各々の水和熱について予測した。具体的には、未水和セメントについては、表1に示す各構成相の溶解熱の値を用い、表4に示す各相組成の値に基づき、表3に示す値を用いて溶解熱q
1の値を得た。次いで、水和セメントについては、表3に示す水和反応率の値を用い、さらに表2に示す各構成相の溶解熱の値を用いて、上記水和セメントの溶解熱q
2を求めるための計算式によりq
2の値を得た。
続いて、各セメントにおける比Y(MgO/C
2S)の値に基づき、材齢に応じて各補正値Z
1を選択し(材齢7日の場合は上記式(2−1)〜(2−2)、材齢28日の場合は上記式(3−1)〜(3−3))、これを用いた補正を行って、材齢7日及び材齢28日における各セメント試料の各々の水和熱の予測値(X
2)を求めた。
得られた予測値を表5に示す。また、材齢28日における水和熱について、参考例1で得られた実測値と対峙させて
図1のグラフにプロットし、予測値と実測値との相関性を評価した。
なお、かかる相関性の評価については、線形近似式による決定係数R
2(相関係数の二乗)の値を指標とした。
【0057】
[比較例1]
表4に示す各セメントを用い、上記Verbeck式により材齢28日における各々の水和熱の予測値(X
2)を求めた。
得られた予測値を表5に示す。また、材齢28日における水和熱について、参考例1で得られた実測値と対峙させて
図2のグラフにプロットし、予測値と実測値との相関性を評価した。
なお、かかる相関性の評価については、線形近似式による決定係数R
2(相関係数の二乗)の値を指標とした。
【0058】
【表5】
【0059】
図1及び
図2に示すように、実施例1における決定係数が0.6602であるのに対し、比較例1における決定係数は0.2051であり、本発明の予測方法によれば、高い精度で予測値が得られることがわかる。
【0060】
《混合セメントの水和熱の予測》
[参考例2]
表6に示すフライアッシュセメントC種を用い、JIS R 5203「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」により、材齢28日における水和熱を測定した。
結果を表7に示す。
【0061】
[実施例2]
表6に示すフライアッシュセメントC種を用い、実施例1と同様にして、下記の手順にしたがい、フライアッシュセメントC種中における普通ポルトランドセメント(基材セメント)における比Yの値(MgO/C
2S=0.06)に基づき選択した、材齢28日における補正値Z
1(−8)とフライアッシュセメントC種中における基材セメントの混合割合とから調整補正値Z
2(−5.6)を得た後、かかるZ
2を用いた補正を行い、材齢28日におけるフライアッシュセメントC種の水和熱の予測値(X
2)を求めた。
結果を表7に示す。
【0062】
・
調整補正値X2を求めた手順
(i)フライアッシュセメントC種中におけるMgO量:1.01質量%
(ii)フライアッシュセメントC種中におけるフライアッシュ量:30質量%
(フライアッシュセメントC種中における基材セメント:70質量%)
(iii)フライアッシュセメントC種中におけるC
2S量:21質量%(表6)
(iv)フライアッシュ中におけるMgO量:0.89質量%
(v)上記(i)、(ii)、(iv)の値より求めた、フライアッシュセメントC種の基材セメント中におけるMgO量換算値:1.8質量%(=(1.01−0.3×0.89)/0.7)
(vi)上記(iii)及び(v)の値より求めた、フライアッシュセメントC種の基材セメント中における、比Yの値:0.06(=1.8/(21/0.7))
(vii)上記(vi)のMgO/C
2Sの値より選択した補正値Z
1に、上記(ii)により求めたフライアッシュセメントC種中における基材セメントの混合割合の値を乗じ、調整補正値Z
2(−5.6(=(−8)×0.7))を得た。
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
本発明の予測方法によれば、簡便な方法でありながら、高い精度で混合セメントを含む各種セメントの水和熱を予測することができる。したがって、本発明のセメントの水和熱の予測方法は、セメント工場等において、セメントの品質に係る製造管理にも好適に用いることができる。