特許第6698082号(P6698082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6698082磁歪式センサ、磁性構造体およびその製造方法、ならびに、磁歪式センサを備えたモータ駆動ユニットおよび電動アシスト付き自転車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698082
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】磁歪式センサ、磁性構造体およびその製造方法、ならびに、磁歪式センサを備えたモータ駆動ユニットおよび電動アシスト付き自転車
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20200518BHJP
【FI】
   G01L3/10 301B
   G01L3/10 301D
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-524980(P2017-524980)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2016068720
(87)【国際公開番号】WO2016208688
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2017年12月22日
【審判番号】不服2019-718(P2019-718/J1)
【審判請求日】2019年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-125842(P2015-125842)
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-125843(P2015-125843)
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100115934
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 雅也
(72)【発明者】
【氏名】石川 さとみ
(72)【発明者】
【氏名】松本 弘
【合議体】
【審判長】 小林 紀史
【審判官】 梶田 真也
【審判官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−291384(JP,A)
【文献】 特開2004−264188(JP,A)
【文献】 特開2004−340783(JP,A)
【文献】 特開平6−241923(JP,A)
【文献】 特開平4−155232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L1/12,3/10,3/14,5/00, H01L41/06,41/12,41/20,41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる柱状の基材と、前記基材の外周面の上に設けられ且つ複数の元素を含むめっき膜で構成される磁歪部とを有する磁性構造体を備え、
前記磁歪部において、前記複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が複数存在し、
前記磁性構造体において、前記軸線に直交する断面を第1断面と定義し、前記第1断面に直交し且つ前記軸線を通る断面を第2断面と定義した場合に、
前記磁歪部が、下記の(A)、(B)および(C)に示す要件のうち少なくとも一つの要件を満たす、磁歪式センサ。
(A)前記第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記軸線を中心とした周方向に並んでいる。
(B)前記第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記磁歪部の厚み方向に並んでいる。
(C)前記第2断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記軸線に沿って並んでいる。
【請求項2】
前記少なくとも1種の元素は、強磁性体を形成する元素である、請求項1に記載の磁歪式センサ。
【請求項3】
前記磁歪部を前記厚み方向における外方から囲むように配置されたコイルをさらに備える、請求項1または2に記載の磁歪式センサ。
【請求項4】
前記コイルは、前記軸線に沿って、複数並んで配置されている、請求項3に記載の磁歪式センサ。
【請求項5】
前記磁歪部は、Ni、Fe、Co、およびCrから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1から4のいずれかに記載の磁歪式センサ。
【請求項6】
前記磁歪部は、列状に延びる複数の磁歪列部を有し、
前記複数の磁歪列部のうち少なくとも一部は、該一部を含む磁歪列部をその延伸方向と直交する断面で見て、前記基材の外周面に平行な方向において、最も長い部分の長さが、前記一部を含む磁歪列部と前記基材の外周面との接触部分の長さよりも大きく、且つ、前記接触部分と、前記磁歪列部の隣りの磁歪列部と前記基材の外周面との接触部分との間隔よりも大きい、請求項1から5のいずれかに記載の磁歪式センサ。
【請求項7】
前記複数の磁歪列部のうち前記少なくとも一部は、該一部を含む前記磁歪列部をその延伸方向と直交する断面で見て、前記最も長い部分の長さが、前記磁歪列部の厚み方向における高さよりも大きい、請求項6に記載の磁歪式センサ。
【請求項8】
前記複数の磁歪列部のうち前記少なくとも一部は、該一部を含む前記磁歪列部をその延伸方向と直交する断面で見て、前記磁歪列部の厚み方向における高さが、前記基材の外周面から前記磁歪列部における前記最も長い部分までの前記厚み方向の高さよりも大きい、請求項6または7に記載の磁歪式センサ。
【請求項9】
前記複数の磁歪列部のうち前記少なくとも一部は、該一部を含む前記磁歪列部をその延伸方向と直交する断面で見て、前記磁歪列部の厚み方向における高さの半分は、前記基材の外周面から前記磁歪列部における前記最も長い部分までの前記厚み方向の高さ以上である、請求項8に記載の磁歪式センサ。
【請求項10】
前記複数の磁歪列部のうち前記少なくとも一部は、該一部を含む前記磁歪列部をその延伸方向と直交する断面で見て、前記接触部分と、隣りの磁歪列部と前記基材の外表面との接触部分との間隔が、前記基材の外周面に平行な方向において、前記最も長い部分が前記接触部分に対して前記隣りの磁歪列部に向かって突出する長さと、前記隣りの磁歪列部において最も長い部分が該隣りの磁歪列部と前記基材との接触部分に対して前記磁歪列部に向かって突出する長さとの和よりも大きい、請求項6から9のいずれかに記載の磁歪式センサ。
【請求項11】
軸線に沿って延びる柱状の基材と、前記基材の外周面の上に設けられ且つ複数の元素を含むめっき膜で構成される磁歪部とを有する磁性構造体であって、
前記磁歪部において、前記複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が複数存在し、
前記軸線に直交する断面を第1断面と定義し、前記第1断面に直交し且つ前記軸線を通る断面を第2断面と定義した場合に、
前記磁歪部が、下記の(A)、(B)および(C)に示す要件のうち少なくとも一つの要件を満たす、磁性構造体。
(A)前記第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記軸線を中心とした周方向に並んでいる。
(B)前記第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記磁歪部の厚み方向に並んでいる。
(C)前記第2断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記軸線に沿って並んでいる。
【請求項12】
請求項11に記載の磁性構造体の製造方法であって、
前記基材の外周面上に、所定のパターンを有するレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層が設けられた前記基材の外周面上に、前記磁歪部を形成する工程とを有する、磁性構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一つに記載の磁歪式センサを備えた、モータ駆動ユニット。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一つに記載の磁歪式センサを備えた、電動アシスト付き自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪式センサ、磁性構造体およびその製造方法、ならびに、磁歪式センサを備えたモータ駆動ユニットおよび電動アシスト付き自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トルクや荷重を検知するために、磁歪式センサが用いられている。多くの磁歪式センサでは、トルクまたは荷重が作用する部材(基材)の外周面に、磁歪材料を含む磁歪部が形成されている。また、このような構成を有する磁歪式センサでは、磁歪部が形成された基材を囲むように、コイルが配置されている。
【0003】
上述の構成により、磁歪式センサにおいて、磁歪部が形成された基材に力が作用した場合に、磁歪部の磁歪材料の透磁率が変化する。よって、磁歪部を囲むように配置されたコイルのインピーダンスが変化する。磁歪式センサは、前記コイルのインピーダンスの変化を検出することにより、トルクや荷重を検知する。
【0004】
上記のような磁歪式センサの感度は、磁歪材料の磁歪定数および透磁率に影響を受ける。磁歪材料の磁歪定数および透磁率は、磁歪材料の化学組成に応じて変化する。例えば、非特許文献1に開示されているように、Fe−Ni合金では、合金中のNiの含有量に応じて、磁歪定数および透磁率が大きく変化する。また、例えば、非特許文献2に記載されているように、Fe−Co合金では、合金中のCoの含有量に応じて、磁歪定数および透磁率が大きく変化する。
【0005】
そこで、従来、磁歪式センサに用いられる磁歪材料の化学組成は、磁歪式センサの感度が高くなるように調整されている。具体的には、磁歪定数および透磁率が、磁歪式センサの感度を向上するために適した値になるように、磁歪材料の化学組成が調整されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Ni−Fe合金からなる磁歪膜を有する磁歪式トルクセンサが開示されている。特許文献1の磁歪式トルクセンサでは、磁歪定数と透磁率との積が、その最大値の90%以上となるように、Ni−Fe合金(磁歪膜)の化学組成が調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−93244号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】近角聡信ほか 磁性体ハンドブック 新装版第1刷 朝倉書店 2006年4月1日発行 p.1082-1083
【非特許文献2】RICHARD M.BOZORTH Ferromagnetism 1993 Editorial Board Institute of Electrical and Electronics Engineers 1993年発行 p.197,664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、磁歪式センサの生産を検討する中で、感度の高い磁歪式センサを、より効率よく生産したいとう要望がでてきた。
【0010】
したがって、本発明は、感度の高い磁歪式センサを効率よく生産することができる構成を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来、所定の磁歪材料からなる磁歪部を備えた磁歪式センサにおいて、センサ感度を高くするのに適した磁歪定数および透磁率の組み合わせが存在することが知られている。また、上述したように、磁歪定数および透磁率はそれぞれ、磁歪材料の化学組成によって変化する。したがって、従来、センサ感度を高くするのに適した磁歪定数および透磁率が得られるように、磁歪部の全体において、磁歪材料が所定の化学組成になるように、磁歪部が形成されていた。
【0012】
一方、磁歪部を形成する際に、磁歪材料を所定の化学組成に調整できなければ、磁歪式センサの感度を十分に高くすることができない。そのため、従来、磁歪式センサの感度を高くするためには、磁歪部を形成する際に、磁歪材料の化学組成を厳密に管理する必要があった。すなわち、従来、磁歪式センサの感度を高くすること、および磁歪式センサの生産を容易にすることを両立させることができなかった。
【0013】
そこで、本発明者らは、磁歪式センサの感度を高くすること、および磁歪式センサの生産を容易にすることを両立させるために、種々の検討を行った。この検討の中で、磁歪部を構成する磁歪材料の化学組成について改めて詳細な調査を行った。その結果、磁歪部中に、磁歪材料の化学組成が異なる部分を設けることによって、磁歪部の内部に応力が生じることが分かった。より具体的には、複数の元素を含む磁歪材料からなる磁歪部において、いずれかの元素の濃度が異なる部分が存在することによって、磁歪部の内部に応力が生じることが分かった。
【0014】
さらに、本発明者らが磁歪部について調査を進めた結果、上記のように内部応力が生じた磁歪部を有する磁歪式センサでは、磁歪部を形成する際に、磁歪材料の化学組成を厳密に管理しなくても、センサ感度を高めることができることが分かった。具体的には、磁歪材料の化学組成が、目標とする化学組成(例えば、センサ感度を高めるために理論上決定される化学組成)からある程度外れていても、センサ感度を十分に高めることができることが分かった。すなわち、本発明者らは、磁歪部の内部に応力を発生させることによって、磁歪式センサの感度を高くすること、および磁歪式センサの生産を容易にすることを両立させることが可能になることを見出した。
【0015】
以上の知見に基づいて、磁歪式センサについて本発明者らは、以下のような構成に想到した。
【0016】
本発明の一実施形態に係る磁歪式センサは、軸線に沿って延びる柱状の基材と、前記基材の外周面に設けられ且つ複数の元素を含む磁歪部とを有する磁性構造体を備える。前記磁歪部において、前記複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が複数存在する。前記磁性構造体において、前記軸線に直交する断面を第1断面と定義し、前記第1断面に直交し且つ前記軸線を通る断面を第2断面と定義した場合に、前記磁歪部が、下記の(A)、(B)および(C)に示す要件のうち少なくとも一つの要件を満たす。
(A)前記第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記軸線を中心として時計回りに並んでいる。
(B)前記第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記磁歪部の厚み方向に並んでいる。
(C)前記第2断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、前記軸線に沿って並んでいる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態に係る磁歪式センサは、感度を高くすることができ、且つ効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る磁歪式センサの概略構成を示す部分断面図である。
図2】磁性構造体の概略構成を示す図である。
図3】磁歪膜を、磁性構造体の軸線に直交する方向から見た場合の図である。
図4】磁性構造体の断面を模式的に示す図である。
図5図2のD−D線断面を示す図である。
図6図2のD−D線断面の他の例を示す図である。
図7図2のE−E線断面を示す図である。
図8図2のD−D線断面のその他の例を示す図である。
図9図2のD−D線断面を簡略化して示した図である。
図10】磁性構造体の製造方法を説明するための図である。
図11図1に示すトルクセンサにおいて、コイルのインピーダンス変化を電圧に変換する回路の概略構成を示す図である。
図12】電動アシスト付き自転車の概略構成を示す図である。
図13】モータ駆動ユニットの概略構成を示すブロック図である。
図14】磁性構造体の他の例を示す断面図である。
図15】磁性構造体のその他の例を示す断面図である。
図16】磁性構造体のその他の例を示す図である。
図17】磁歪列部におけるFe濃度の変化を示すグラフである。
図18】磁歪列部におけるFe濃度の変化を示すグラフである。
図19】磁性構造体の磁歪膜のFe濃度とトルクセンサの出力との関係を示すグラフである。
図20】磁性構造体の磁歪膜のFe濃度とトルクセンサの出力との関係を示すグラフである。
図21】Fe濃度差とFe濃度の管理幅との関係を示すグラフである。
図22】Fe濃度差とFe濃度の管理幅との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明において、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0020】
1.磁歪式センサ
1.1.磁歪式センサの構成
図1は、本発明の一実施形態に係る磁歪式センサの概略構成を示す部分断面図である。以下の説明では、磁歪式センサの一例として、図示しない回転軸に取り付けられた基材21に作用するトルクを検知するための磁歪式トルクセンサ(以下、単に「トルクセンサ」と表記する場合もある。)1について説明する。なお、図1では、説明のために、トルクセンサ1の構成を模式的に示す。
【0021】
図1に示すように、トルクセンサ1は、磁歪膜2(磁歪部)を有する磁性構造体20と、コイル3,4を有する検出ユニット30とを備える。磁性構造体20は、軸線Aに沿って延びる円筒状に形成されている。磁性構造体20は、図示しない回転軸の外周面上に配置されている。
【0022】
図2は、磁性構造体20の概略構成を示す図である。磁性構造体20は、軸線Aに沿って延びる(すなわち、軸線方向に延びる)円筒状の基材21と、磁歪膜2とを有する。磁性構造体20の詳しい構成は、後述する。図2に示すように、磁歪膜2は、円筒状の基材21の外周面21s上に設けられている。磁歪膜2は、詳しい構成については後述するが、複数の磁歪列部2aを有する。
【0023】
図3は、磁性構造体20に形成された磁歪膜2を、軸線A(図1参照)に直交する方向から見た場合の図である。図3に示す磁歪膜2のパターンは、一例である。磁歪膜2は、図3に示すように、長さL=(L1+L2)(図3に示す例ではL1=L2)および幅Wの磁歪列部2aを複数、有する。複数の磁歪列部2aは、軸線Aに直交する方向から見て、軸線Aに対して交差する方向に延びている。磁歪列部2aが延びる方向を、磁歪列部2aの延伸方向と呼ぶ。図3において、隣り合う磁歪列部2aの間隔を、間隔(interspace)Iとして表す。
【0024】
磁歪膜2は、基材21の軸線方向に並ぶ2つの領域2b,2cを有する。2つの領域2b,2cに跨って、複数の磁歪列部2aが形成されている。一方の領域における磁歪列部2aと、他方の領域における磁歪列部2aとは、前記軸線方向において、磁歪膜2の中心線を挟んで対称になるように設けられている。すなわち、磁歪膜2の磁歪列部2aは、軸線Aに直交する方向から見て(図3に示す状態で)、V字状に形成されている。
【0025】
磁歪膜2の磁歪列部2aを上述のような構成にすることで、回転軸を介して基材21にねじりトルクが入力された場合、磁歪膜2における領域2bの磁歪列部2aには、その延伸方向に引張方向または圧縮方向のいずれか一方の力が入力される。磁歪膜2における領域2cの磁歪列部2aには、その延伸方向に引張方向または圧縮方向のうち他方の力が入力される。これにより、磁歪膜2の領域2b,2cの磁歪列部2aでは、透磁率が変化する。
【0026】
検出ユニット30は、2つの円筒状のコイル3,4と、ヨーク5とを有する。図1に示すように、コイル3,4は、磁性構造体20を囲むように配置されている。図1の例では、コイル3,4は、磁性構造体20に対して前記軸線方向に並んで配置されている。具体的には、図1に示すように、コイル3は、磁歪膜2の一方の領域2bを囲むとともに、コイル4は、磁歪膜2の他方の領域2cを囲むように、磁性構造体20に対して配置されている。ヨーク5は、コイル3,4を配置するための凹部を有する。コイル3,4は、筒状のヨーク5の内側に配置されている。
【0027】
コイル3,4は、図11に示すように交流電源6に接続されることにより、コイル3,4の周囲に交流磁場を発生する。コイル3,4、ヨーク5および基材21は、磁気回路を構成する。また、コイル3,4は、図11に示すようにトルク検出用回路7にも接続されている。
【0028】
図11は、トルクセンサ1に含まれる電子回路の構成の一例を示す図である。トルクセンサ1に含まれる電子回路として、図11に示す回路構成が広く知られている。図11に示す回路は、交流電源6と、トルク検出用回路7とを有する。交流電源6は、コイル3,4に交流電圧を印加する。トルク検出用回路7は、コイル3,4に生じる電圧を検出することにより、基材21に生じているトルクを検出する。トルク検出回路7は、コイル3,4にそれぞれ生じる電圧の差分Voutを求めた後、図示しない演算回路によって、該差分Voutに基づいて基材21に生じているトルクを求める。なお、トルクセンサ1に含まれる電子回路は、図11に示す構成に限定されない。
【0029】
既述のとおり、回転軸を介して基材21にねじりトルクが入力された場合、トルクセンサ1における磁歪膜2の領域2b,2cにおける磁歪列部2aには、その延伸方向に引張り方向または圧縮方向の力が入力される。よって、磁歪膜2の領域2b,2cでは、磁歪列部2aに生じる透磁率の変化が異なる。このような透磁率の変化の違いは、トルク検出用回路7において、コイル3,4に生じる電圧の違いとして検出される。したがって、トルク検出用回路7によって、基材21に入力されたねじりトルクを検出することができる。
【0030】
より具体的には、基材21にトルクが作用したとき、磁歪膜2における領域2b,2cのうち一方の領域の磁歪列部2aに引張応力が生じるため、該磁歪列部2aの透磁率は増大する。他方の領域の磁歪列部2aには圧縮応力が作用するため、該磁歪列部2aの透磁率は減少する。その結果、2つのコイル3,4のインピーダンスに差が生じる。このインピーダンスの差によって生じるコイル3,4の電圧差が、基材21に作用したトルクに応じた値として、トルク検出用回路7によって検出される。図11において、トルクがゼロのときのVoutをVとし、定格トルクが入力されたときのVoutをVとした場合、V−Vがトルクセンサ1の出力範囲である。
【0031】
なお、図1に示すトルクセンサ1中の各構成部材の配置は一例である。コイル3,4およびヨーク5の数や配置等は、図1に示す構成に限定されず、当業者が適宜変更することができる。
【0032】
1.2.磁歪列部の形状
図3に示す磁歪膜2の磁歪列部2aの長さL/幅Wは、例えば、下記式(2)を満たす。磁歪列部2aは、軸線Aに直交する方向から見て、磁歪膜2の領域2bでは、軸線Aに対して交差する第1の方向に延びている。磁歪列部2aは、軸線Aに直交する方向から見て、磁歪膜2の領域2cでは、前記第1の方向と交差する第2の方向に延びている。すなわち、磁歪列部2aは、基材21の軸線方向において、磁歪膜2の中央部分に、角度θで折れ曲がった曲部Zを有する。磁歪膜2は、例えば、下記式(1)で定義される被覆率が30%以上95%以下となるように形成される。
【0033】
図3に示す例では、磁歪列部2aは、軸線Aに直交する方向から見て、磁歪膜2の領域2bにおいて、磁歪膜2における前記軸線方向の端部Xから、軸線Aと交差して磁歪膜2における前記軸線方向の中央部(磁歪列部2aの曲部(bending portion)Z)に向かって延びている。磁歪膜2の領域2bにおける磁歪列部2aの延伸方向が上述の第1方向に相当する。また、磁歪列部2aは、軸線Aに直交する方向から見て、磁歪膜2の領域2cにおいて、前記第1の方向と角度θをなす方向に、すなわち、磁歪膜2における前記軸線方向の中央部(磁歪列部2aの曲部Z)から、軸線Aと交差して磁歪膜2における前記軸線方向のもう一方の端部Yに向かって延びている。磁歪膜2の領域2cにおける磁歪列部2aの延伸方向が上述の第2方向に相当する。
【0034】
上述のように、図3は、磁歪列部2aが曲部Zを有する磁歪膜2の例を示している。ここで、曲部Zは、磁歪列部2aにおける第1の部分2m(領域2bの磁歪列部2a)と第2の部分2n(領域2cの磁歪列部2a)との交点である。すなわち、図3に示す磁歪膜2では、1本の磁歪列部2aは、磁歪膜2における前記軸線方向の一方の端部Xから曲部Zまで延びる第1の部分2mと、曲部Zから磁歪膜2における前記軸線方向の他方の端部Yまで延びる第2の部分2nとを有する。
【0035】
被覆率=基材21の外周面21sにおいて磁歪膜2と接する領域の面積/基材21の外周面21sの総面積(%)・・・(1)
30≦長さL/幅W≦120 ・・・(2)
【0036】
図3に示す磁歪膜2において、磁歪列部2aの長さL/幅Wは、第1の部分2mにおける磁歪列部2aの長さ/幅と、第2の部分2nにおける磁歪列部2aの長さ/幅との和である。第1の部分2mにおける磁歪列部2aの長さ/幅は、(図3に示す磁歪列部2aの端部Xから曲部Zまでの距離L)/(第1の部分2mにおける磁歪列部2aの幅)によって求められる。第2の部分2nにおける磁歪列部2aの長さ/幅は、(図3に示す磁歪列部2aの曲部Zから端部Yまでの距離L)/(第2の部分2nにおける磁歪列部2aの幅)によって求められる。
【0037】
上記式(1)で規定される被覆率が上記の範囲(30%以上95%以下)にあることにより、良好な感度を有するトルクセンサ1を実現することができる。すなわち、上記式(1)において、被覆率が30%以上の場合には、トルクセンサ1において十分な感度が得られる。前記被覆率が95%以下の場合には、磁歪膜2の形状にばらつきが生じにくい。よって、前記被覆率が95%以下の場合には、隣り合う磁歪列部2a同士で接触する部位が生じないため、トルクセンサ1は十分な感度が得られる。前記被覆率は、好ましくは50%以上である。前記被覆率は、より好ましくは60%以上である。前記被覆率は、93%以下が好ましい。また、前記被覆率は、90%以下がより好ましい。前記被覆率は、85%以下がさらに好ましい。
【0038】
また、前記長さL/幅Wが上記式(2)の範囲内にあることにより、良好な感度を有するトルクセンサ1を得ることができる。上記式(2)において、前記長さL/幅Wが30以上の場合、トルクセンサ1は十分な感度が得られる。前記長さL/幅Wが120以下の場合には、磁歪膜2の製造を容易に行うことができる。前記長さL/幅Wは、好ましくは95未満である。前記長さL/幅Wは、より好ましくは85未満である。前記長さL/幅Wは、好ましくは43以上である。前記長さL/幅Wは、より好ましくは53以上である。前記長さL/幅Wは、さらに好ましくは75以上である。
【0039】
また、感度をより高めるという観点から、磁歪列部2aが曲部Zを有する場合、磁歪列部2aの曲部Zにおいて、前記第1の方向と前記第2の方向とのなす角度(図3におけるθ、換言すると、第1の部分2mと第2の部分2nとのなす角度)が60°以上120°以下であることが好ましい。前記角度は、80°以上であることがより好ましい。前記角度は、100°以下であることが好ましい。なお、磁歪列部2aが曲部を有さない場合でも同様に、第1の部分2mと第2の部分2nとのなす角度が上述した範囲内であれば、トルクセンサ1の感度をより高めることができる。
【0040】
また、トルクセンサ1の感度をさらに高めるという観点から、磁歪列部2aにおいて、図3に示すように、基材21の軸線Aに対して直交する方向から見て、軸線Aと前記第1の方向とのなす角度θの絶対値が30°以上60°以下が好ましい(より好ましくは角度θが±45°)。基材21と前記第2の方向とのなす角度θの絶対値は、30°以上60°以下(より好ましくは角度θが±45°)が好ましい。
【0041】
図3に示す磁歪膜2は、隣り合う磁歪列部2aにおける前記軸線方向の端部同士を連結する連結部26をさらに含む。図3に示す磁歪膜2では、連結部26が、磁歪列部2aにおける前記軸線方向の両端部にそれぞれ設けられている。複数の磁歪列部2aを連結する連結部26が磁歪膜2に設けられていることにより、複数の磁歪列部2aが基材21から剥離しにくくなる。よって、磁歪膜2の強度を向上することができる。
【0042】
1.3.磁性構造体の断面
図4は、図1に示す磁性構造体20の断面を模式的に示す図である。図4に示す断面は、磁歪列部2aにおいて延伸方向と直交する面で磁性構造体20を切断することにより得られる断面である。より具体的には、図4に示す断面は、磁歪列部2aを第1の方向(図2における磁歪膜2の端部Xから曲部Zに向かう方向)と垂直な面で切断した場合の断面(図3のC−C線に沿って紙面と垂直方向に切断した断面)である。図4に示すように、磁性構造体20は、円筒状の基材21と、該基材21の外周面21sに設けられた磁歪膜2とを含む。なお、図4における「M」は、図3の「W」に相当する。
【0043】
1.3.1.磁歪膜
磁歪膜2は、磁性体材料を含む材料によって構成されている。例えば、前記磁性体材料は、Ni、Fe、Co、およびCrから選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。本実施形態では、磁歪膜2は、複数の元素を含む。前記複数の元素のうちの少なくとも1種は、例えば、強磁性体を形成する元素であることが好ましい。この場合、トルクセンサ1の感度を高めることができる。強磁性体を形成する元素とは、例えば、Fe、Co、またはNiである。より高い透磁率およびより高い磁歪効果を得られるという観点から、前記磁性体材料は、Feと、Ni、CoおよびCrから選ばれる少なくとも1種とを含むことがより好ましい。また、磁歪膜2は、Al、Ti、Ge、Mo、Ag、Cu等の金属、および/または、Si、B、S、C、O、N等の非金属材料をさらに含んでいてもよい。
【0044】
例えば、磁歪膜2がFeを含む場合、より高い透磁率およびより高い磁歪効果を得る観点から、磁歪膜2中のFeの含有量(濃度)は、20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。Feの含有量は、23質量%以上であることがより好ましい。Feの含有量は、26質量%以上であることがさらに好ましい。Feの含有量は、36質量%以下であることがより好ましい。Feの含有量は、33質量%以下であることがさらに好ましい。Fe以外の金属の含有量(濃度)の合計は、60質量%以上80質量%以下であることが好ましい。Fe以外の金属の含有量の合計は、64質量%以上であることがより好ましい。Fe以外の金属の含有量の合計は、67質量%以上であることがさらに好ましい。Fe以外の金属の含有量の合計は、77質量%以下であることがより好ましい。Fe以外の金属の含有量の合計は、74質量%以下であることがさらに好ましい。なお、上述したように、Fe以外の金属には、Ni、CoおよびCrから選ばれる少なくとも1種が含まれることが好ましい。
【0045】
なお、磁歪膜2がFeおよびNiを含む場合において、Niの含有量(濃度)は、60質量%以上80質量%以下であることが好ましい。Niの含有量は、64質量%以上であることがより好ましい。Niの含有量は、67質量%以上であることがさらに好ましい。Niの含有量は、77質量%以下であることがより好ましい。Niの含有量は、74質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
また、磁歪膜2がSを含む場合、磁歪膜2中のSの含有量(濃度)は、0.03質量%以上0.12質量%以下であることが好ましい。Sの含有量は、0.04質量%以上0.10質量%以下であることがより好ましい。Sの含有量は、0.05質量%以上0.09質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、上述の各元素の好ましい濃度、およびより好ましい濃度は、磁歪列部2aの中央部m図4参照)における、各元素の濃度のことをいう。なお、中央部mは、図4に示す断面において、磁歪列部2aの厚み方向および幅方向における中央部である。
【0048】
磁歪膜2中の各元素の濃度(含有量)は、公知の元素分析装置を用いて測定することができる。具体的には、各元素の濃度は、例えば、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定することができる。各元素の濃度をEPMAを用いて測定する場合には、スポット径は、例えば、10μm以下(好ましくは、5μm以下)に設定される。
【0049】
磁歪膜2の最大膜厚H(磁歪膜2が基材21と接する面(基材21の外周面21s)から、基材21の径方向外方に向かって磁歪膜2が最も突出する位置までの距離)は、例えば、20μm以上200μm以下である。最大膜厚Hは、40μm以上であることが好ましい。最大膜厚Hは、60μm以上であることがより好ましい。最大膜厚Hは、140μm以下であることが好ましい。最大膜厚Hは、100μm以下であることがより好ましい。
【0050】
図4に示すように、磁歪膜2の磁歪列部2aは、その延伸方向に直交する断面で見て、基材21の径方向と直交する方向(基材21の外周面21sに平行な方向)において、基材21の径方向外方側に、磁歪列部2aにおける基材21側の部分の長さよりも長い部分を有する。具体的には、磁歪列部2aは、基材21上に形成された本体部分から、基材21の径方向と直交する方向の一方及び他方にそれぞれ突出する突出部2eを有する。磁歪列部2aが突出部2eを有することにより、磁歪列部2aの表面積が増大する。また、磁歪列部2aが突出部2eを有することによって、磁歪膜2中の各元素の濃度変化に対する、トルクセンサ1の出力の変化量を小さくすることができる。
【0051】
なお、磁歪列部2aと基材21との接触面と、突出部2eの突出方向とのなす角度θは、鋭角(90°未満)が好ましい。この場合、センサの感度をより向上する観点から、角度θは、0°を超え45°以下であることがより好ましい。角度θは、30°以下であることがさらに好ましい。
【0052】
磁歪膜2の磁歪列部2aは、上述のような突出部2eを有することにより、図4に示す断面において、基材21の外周面21sから、基材21の径方向(磁歪列部2aの厚み方向)に所定距離の位置における幅Mが、磁歪膜2と基材21の外周面21sとの接触部分2fの幅Nよりも長い。
【0053】
すなわち、磁歪膜2における複数の磁歪列部2aは、該磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面(図4に示す断面)で見て、基材21の径方向と直交する方向において、最も長い部分の長さ(前記所定距離の位置における長さM、以下、最大幅寸法Mという)が、磁歪膜2と基材21の外周面21sとの接触部分2fの長さNよりも大きい。前記最大幅寸法Mは、隣り合う磁歪列部2aの間隔dよりも大きい。隣り合う磁歪列部2aの間隔dは、磁歪列部2aと基材21との接触部分2fと、その隣りの磁歪列部2aと基材21との接触部分2fとの間隔を意味する。
【0054】
磁歪膜2において、上述のような形状を有する磁歪列部2aを形成することにより、トルクセンサ1の感度を高めることができる。すなわち、磁歪膜2は、磁歪列部2aを延伸方向と直交する断面で見て、磁歪列部2aの最大幅寸法Mが、隣り合う磁歪列部2aの間隔dよりも大きい。このような構成では、磁歪列部2a同士の間隔dは、比較的狭い。このように隣り合う磁歪列部2aの間隔dが狭い場合において、磁歪列部2aにおける最大幅寸法Mを、磁歪膜2と基材21の外周面21sとの接触部分2fの長さNよりも大きくすることにより、磁歪列部2aの表面積、すなわち磁歪膜2の表面積を増加させることができる。磁歪膜2の表面積を増加させることにより、磁歪膜2の透磁率を広範囲で変化させることができる。これにより、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化を容易に検出することができる。したがって、トルクセンサ1の感度を向上することができる。
【0055】
換言すれば、上述の構成により、上記式(1)で規定される被覆率や上記式(2)で規定される長さL/幅Wの値を変えずに、トルクセンサ1の感度を高めることができる。
【0056】
また、磁歪列部2aは、基材21の外周面21sとの接触部分2fと、隣りの磁歪列部2aにおける基材21の外周面21sとの接触部分2fとの間隔dが、突出部2eが前記隣りの磁歪列部2aに向かって突出する長さと、該隣りの磁歪列部2aの突出部2eが前記磁歪列部2aに向かって突出する長さとの和よりも大きい。
【0057】
これにより、隣り合う磁歪列部2aにおいて、突出部2e同士が接触することを防止することができる。
【0058】
また、磁歪列部2aは、図4に示す断面で見て、最大幅寸法Mが、磁歪列部2aの厚み方向における高さ(最大膜厚)Hよりも大きい。これにより、磁歪列部2aは、厚み方向よりも基材21の径方向と直交する方向(基材21の外周面21sに平行な方向)に長い扁平状に形成される。よって、磁歪列部2aの表面積をより大きくすることができる。したがって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化をより容易に検出することができる。
【0059】
また、図4に示す断面において、センサの感度をより高める観点から、磁歪列部2aの最大膜厚Hと、磁歪列部2aの端部mにおける高さ(磁歪列部2aと基材21との接触面から突出部2eの先端までの距離、すなわち、基材21の外周面21sから、最大幅寸法Mの位置までの高さ)Hとの比H/Hが1未満である。H/Hは、好ましくは、0.8以下である。H/Hは、より好ましくは、0.5以下である。H/Hは、さらに好ましくは、0.3以下である。一方、H/Hは、0.015以上が好ましい。
【0060】
磁歪列部2aを、H/Hが上述の範囲になるように形成することにより、磁歪列部2aの表面積をより大きくすることができる。したがって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化をより容易に検出することができる。
【0061】
なお、H/Hを0.5以下にすることにより、すなわち、磁歪列部2aの最大膜厚Hの半分の高さを、基材21の外周面21sから最大幅寸法Mの位置までの高さ以上にすることにより、磁歪列部2aの厚み方向において、基材21の外周面21sとの接触部分2fよりも幅寸法が大きい部分を、広い範囲に設けることができる。よって、磁歪列部2aの表面積をさらに大きくすることができる。したがって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化をさらに容易に検出することができる。
【0062】
1.3.2.磁歪膜における各元素の濃度分布
本実施形態では、磁歪膜2において、複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が存在する。以下、図面を用いて具体的に説明する。
【0063】
図5および図6は、図2のD−D線断面(磁性構造体20の軸線Aに直交する断面:以下、第1断面ともいう。)を示す図である。なお、図5および図6では、図2のD−D線断面のうち、1つの磁歪列部2aおよびその周辺を拡大して示している。
【0064】
図5を参照して、磁性構造体20の第1断面において、例えば、磁歪列部2aを、軸線A(図1参照)を中心として時計回りの方向(図5において矢印CWで示す方向)に複数の部分22a,22b,22cに分ける。この場合、本実施形態では、例えば、複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度は、部分22aと部分22bとで異なり、部分22bと部分22cとで異なる。すなわち、本実施形態では、磁性構造体20の第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線Aを中心として時計回りに並んでいる。
【0065】
なお、上記少なくとも1種の元素の濃度は、部分22aにおいて最も高くなってもよく、部分22bにおいて最も高くなってもよく、部分22cにおいて最も高くなってもよい。また、上記少なくとも1種の元素の濃度は、各部分22a,22b,22c内で、上記時計回りの方向において変化してもよい。なお、本実施形態において時計回りの方向とは、基材21の周方向である。
【0066】
例えば、磁性構造体20の第1断面において、上記時計回りの方向における磁歪列部2aの中央またはその近傍で、少なくとも1種の元素の濃度が最も高くなり、上記時計回りの方向における磁歪列部2aの端部またはその近傍で、上記少なくとも1種の元素の濃度が最も低くなってもよい。また、例えば、磁性構造体20の第1断面において、上記時計回りの方向における磁歪列部2aの中央またはその近傍で、少なくとも1種の元素の濃度が最も低くなり、上記時計回りの方向における磁歪列部2aの端部またはその近傍で、上記少なくとも1種の元素の濃度が最も高くなってもよい。なお、磁歪列部2aの上記中央における上記少なくとも1種の元素の濃度と、磁歪列部2aの上記端部における上記少なくとも1種の元素の濃度との差は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。上記濃度の差は、例えば、上記磁歪列部2aの上記中央における、上記少なくとも1種の元素の濃度以下の値である。
【0067】
なお、上記複数の部分22a,22b,22cのうちの2つの部分において、上記少なくとも1種の元素の濃度が等しくてもよい。また、上記時計回りの方向を左右方向とした場合に、磁歪列部2aの左右方向における中心線を対象軸として、該磁歪列部2aにおいて、上記少なくとも1種の元素の濃度が左右対称となるように変化してもよい。
【0068】
なお、磁歪膜2における各元素の濃度分布は、図5で説明した例に限定されない。例えば、図6に示すように、磁歪列部2aを、磁歪膜2の厚み方向に複数の部分22d,22e,22fに分けた場合、複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が、部分22dと部分22eとで異なり、部分22eと部分22fとで異なっていてもよい。すなわち、第1断面において、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、磁歪膜2の厚み方向に並んでいてもよい。なお、詳細な説明は省略するが、図5の場合と同様に、上記少なくとも1種の元素の濃度が最も高くなる部分は、複数の部分22d,22e,22fのうちのいずれの部分であってもよい。また、上記複数の部分22d,22e,22fのうちの2つの部分において、上記少なくとも1種の元素の濃度が等しくてもよい。
【0069】
また、例えば、前記少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が軸線Aに(図1参照)沿って並んでいてもよい。以下、図面を用いて簡単に説明する。
【0070】
図7は、図2のE−E線断面(上記第1断面に直交し、且つ軸線Aを通る断面:以下、第2断面ともいう。)を示す図である。なお、図7では、図2のE−E線断面のうち、1つの磁歪列部2aおよびその周辺を拡大して示している。
【0071】
図7を参照して、磁性構造体20の第2断面において、例えば、磁歪列部2aを、軸線A(図1参照)に沿って3つの部分22g,22h,22iに分けた場合、複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が、部分22gと部分22hとで異なり、部分22hと部分22iとで異なっていてもよい。なお、詳細な説明は省略するが、図5の場合と同様に、上記少なくとも1種の元素の濃度が最も高くなる部分は、複数の部分22g,22h,22iのうちのいずれの部分であってもよい。また、上記複数の部分22g,22h,22iのうちの2つの部分において、上記少なくとも1種の元素の濃度が等しくてもよい。
【0072】
なお、図5では、磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる3つの部分が上記時計回りに並ぶ場合について説明した。しかしながら、磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる2つの部分または4つ以上の部分が上記時計回りに並んでいてもよい。また、「元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線を中心として時計回りに並んでいる」とは、上記時計回りの方向において、元素の濃度が互いに異なる部分が存在することをいう。また、「元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線を中心として時計回りに並んでいる」構成には、上記時計回りの方向において、元素の濃度が段階的に変化する構成だけでなく、上記時計回りの方向において、元素の濃度が連続的に変化する構成も含まれる。
【0073】
図6では、磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる3つの部分が上記厚み方向に並ぶ場合について説明した。しかしながら、磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる2つの部分または4つ以上の部分が上記厚み方向に並んでいてもよい。また、「元素の濃度が互いに異なる部分が、磁歪部の厚み方向に並んでいる」とは、上記厚み方向において、元素の濃度が互いに異なる部分が存在することをいう。また、「元素の濃度が互いに異なる部分が、磁歪部の厚み方向に並んでいる」構成には、上記厚み方向において、元素の濃度が段階的に変化する構成だけでなく、上記厚み方向において、元素の濃度が連続的に変化する構成も含まれる。
【0074】
図7では、磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる3つの部分が軸線A(図1参照)に沿って並ぶ場合について説明した。しかしながら、磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる2つの部分または4つ以上の部分が軸線Aに沿って並んでいてもよい。また、「元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線に沿って並んでいる」とは、軸線方向において、元素の濃度が互いに異なる部分が存在することをいう。また、「元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線に沿って並んでいる」構成には、上記軸線方向において、元素の濃度が段階的に変化する構成だけでなく、上記軸線方向において、元素の濃度が連続的に変化する構成も含まれる。
【0075】
なお、詳細な説明は省略するが、図8に示すように、例えば、第1断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる複数の部分22j,22k,22l,22m,22n,22oが千鳥状に配置されてもよい。同様に、図示は省略するが、第2断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる複数の部分が千鳥状に配置されてもよい。
【0076】
また、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が並んでいる領域は、磁性構造体20の第1断面において、磁歪膜2の全ての領域に及んでいなくてもよい。図9は、図2のD−D線断面(第1断面)を簡略化して示した図である。例えば、図9に示したように、磁性構造体20の第1断面において、磁歪膜2内の互いに離れた領域50a,50b,50c,50d内に位置する磁歪列部2aでそれぞれ、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が並んでいてもよい。この場合、領域50a,50b,50c,50d以外の領域に位置する磁歪列部2aにおいては、複数の元素の濃度がそれぞれ一定の値であってよい。なお、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が並んでいる領域が、磁歪膜2全体の1/2以上の領域を占めることが好ましい。図示は省略するが、磁性構造体20の第2断面においても同様に、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が並んでいる領域が、磁歪膜2の全ての領域に及んでいなくてもよい。例えば、磁性構造体20の第2断面において、磁歪膜2内の互いに離れた複数の領域内に位置する磁歪列部2aでそれぞれ、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が並んでいてもよい。この場合、上記複数の領域以外の領域に位置する磁歪列部2aにおいては、複数の元素の濃度がそれぞれ一定の値であってよい。
【0077】
上記のように磁歪膜2中の元素の濃度を調整することによって、磁歪列部2aの内部に応力を発生させることができる。これにより、磁歪膜2中の化学組成が、目標とする化学組成からある程度外れていても、トルクセンサ1の感度を十分に高めることができる。その結果、トルクセンサ1の感度を高くすること、およびトルクセンサ1の生産を容易にすることを両立させることができる。なお、上記少なくとも一つの元素は、例えば、強磁性体を形成する元素であることが好ましい。この場合、トルクセンサ1の感度を高めることができる。
【0078】
なお、磁性構造体20の第1断面(図5参照)において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線Aを中心として時計回りに並ぶように磁歪膜2を構成する場合には、例えば、以下のようにして磁歪膜2を形成する。まず、基材21の外周面21sに凹凸を形成する。具体的には、後述の図10に示すように、例えば、外周面21s上にレジスト層91を形成する。その後、レジスト層91が形成された基材21の外周面21sに、めっきによって磁歪膜2を形成する。なお、上述したように、従来の磁歪式トルクセンサでは、磁歪膜の全体において各元素の濃度が一定になるように、磁歪膜が形成されていた。このため、従来、めっきによって磁歪膜を形成する際には、磁歪膜の全体において各元素の濃度がばらつかないように、めっき条件が調整されていた。具体的には、各元素の濃度のばらつきを防止するために、めっき時の電流密度が低い値(1〜3A/dm程度)に設定されていた。これに対して、本実施形態に係る磁歪膜2を形成する際には、例えば、めっき時の電流密度を、敢えて高い値(例えば、20A/dm)に設定する。これにより、各磁歪列部2aにおいて、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が上記時計回りの方向に並ぶように、磁歪膜2を形成することができる。
【0079】
また、詳細な説明は省略するが、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が磁歪膜2の厚み方向に並ぶ磁歪膜2は、例えば、磁歪膜2の成膜条件を経時的に変えることによって得ることができる。少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が軸線Aに沿って並ぶ磁歪膜2は、例えば、基材21の軸方向において成膜条件を変えることによって得ることができる。
【0080】
なお、上述したように、磁歪列部2aは、突出部2eを有することにより、図4に示す断面において、基材21の外周面21sから、基材21の径方向(磁歪列部2aの厚み方向)に所定距離の位置における幅Mが、磁歪膜2と基材21の外周面21sとの接触部分2fの幅Nよりも長い。磁歪列部2aを上記のような形状にすることによって、磁歪列部2a内で、上記時計回りの方向において、上記少なくとも1種の元素の濃度を変化させやすくなる。より具体的には、磁歪膜2が突出部2eを有することにより、磁歪膜2と基材21の外周面21sとの接触面の面積を変えずに、上記少なくとも1種の元素の濃度を変化させやすくなる。磁歪列部2aが突出部2eを有することによって、磁歪列部2aで、上記時計回りの方向において、少なくとも1種の元素の濃度を変化させやすくなる理由については後述する。
【0081】
1.3.2.基材
基材21は、磁歪膜2と異なる材料、例えば、磁歪膜2よりも透磁率が低い材料によって構成されている。基材21は、磁性体材料によって構成されるのが好ましく、Fe、Ni、Co、Cr等の磁性体材料によって構成されるのがより好ましい。なお、基材21は、Al、Ti、Ge、Mo、Ag、Cu等の金属、および/またはSi、B、S、C、O、N等の非金属の非磁性体材料を含んでいてもよい。
【0082】
1.3.3.レジスト層
磁性構造体20は、磁歪膜2の表面に設けられたレジスト層をさらに含んでいてもよい。この場合、レジスト層の膜厚は45μm以下が好ましい
【0083】
1.4.磁性構造体の製造方法
図10の(a)および(b)は、磁性構造体20の製造方法を説明するための図である。なお、図10は、磁性構造体20の製造過程において、基材21、磁歪膜2、レジスト層91等を、図4と同じ面で切断して示す断面図である。
【0084】
磁性構造体20は、基材21の外周面21sに、所定のパターンのレジスト層91を形成する工程と、レジスト層91が設けられた基材21の外周面21sに、磁歪膜2を形成する工程と、を含む。以下、磁性構造体20の製造方法について具体的に説明する。
【0085】
まず、図10(a)に示すように、基材21の外周面21s上に所定のパターンのレジスト層91を形成する。このレジスト層91は、図1図8に示す磁歪列部2aを形成するために用いられる。レジスト層91は、例えば、水転写、スクリーン印刷などの公知の方法で形成することができる。レジスト層91の膜厚は、例えば3μm以上45μm以下である。また、磁歪列部2aに突出部2eが形成されるように、基材21の外周面21sとレジスト層91の端部とのなす角θは鈍角(90°を超える)であることが好ましい。
【0086】
次に、図10(b)に示すように、レジスト層91が設けられた基材21の表面上に磁歪膜2を形成する。その際、磁歪膜2の高さHが、レジスト層91の高さHよりも高くなるように磁歪膜2を形成する。磁歪膜2の成膜は、例えば、スパッタリング法、CVD法、めっき法等の公知の方法を採用することができる。次いで、所定の温度(例えば300℃以上1000℃以下)にて所定時間(例えば1分間以上48時間以下)熱処理を行うことが好ましい。以上により、磁歪膜2を有する磁性構造体20が得られる。なお、熱処理を省略してもよい。
【0087】
本実施形態に係る製造方法によれば、レジスト層91を基材21の表面に形成した後、磁歪膜2を成膜し、熱処理することにより、感度が良好な磁性構造体20を簡便な方法でかつ短い工程にて得ることができる。また、これにより、磁性構造体20の製造コストの低減を図ることができる。
【0088】
特に、電気めっき法によって磁歪膜2を形成する場合には、上記のように突出部2eが形成されるようにめっきを行うことによって、磁歪列部2a内で、上記時計回りの方向において、少なくとも1種の元素の濃度を変化させやすくなる。以下、元素の濃度を変化させやすくなる理由を簡単に説明する。
【0089】
一般に、めっき膜を構成する合金元素の成分比は、めっきを行う際の電流密度に応じて変化する。一方、めっき膜が形成される部材(以下、めっき対象物という。)の形状によっては、めっきを行う際に、めっき対象物において電流密度にばらつきが生じる場合がある。例えば、めっき対象物の外表面に凹凸部および角部が形成されている場合には、凹部に比べて、凸部および角部において電流密度が高くなる。本実施形態では、突出部2eが形成されるようにめっきが行われるので、磁歪膜2が形成される過程において、上記凸部および角部と同様に、突出部2eとなる部分(レジスト層91上に形成されるめっき膜)の電流密度が高くなる。また、めっきを行う際に、めっき対象物に流す電流が大きい程、凸部および角部の電流密度が、他の部分の電流密度に比べて高くなりやすい。本実施形態では、電気めっきによって磁歪膜2を形成する際に、めっき時の電流密度を、敢えて高い値(例えば、20A/dm)に設定する。これにより、磁歪膜2を形成する過程において、突出部2eとなる部分の電流密度を、他の部分の電流密度に比べて十分に高くすることができる。その結果、磁歪列部2aにおいて、突出部2eと他の部分とで、合金元素の成分比を変えることができる。すなわち、本実施形態では、磁歪列部2aが突出部2eを有することによって、磁歪列部2aで、上記時計回りの方向において、少なくとも1種の元素の濃度を変化させやすくなる。
【0090】
なお、上記のようにして磁性構造体20を製造した後、磁歪膜2に対して、研磨、またはショットピーニング等の加工を施してもよい。これにより、磁歪膜2の内部応力を高くすることができる。
【0091】
2.電動アシスト付き自転車
本発明の一実施形態に係る電動アシスト付き自転車(例えば、二輪車、三輪車または四輪車)は、上記実施形態に係るトルクセンサ1を備える。本実施形態に係る電動アシスト付き自転車10では、例えば、搭乗者がペダルを踏むことによって生じるトルクをトルクセンサ1が検出する。電動アシスト付き自転車10では、トルクセンサ1によって検出したトルクの値に基づいて、電動モータの駆動が制御される。
【0092】
図12は、本発明の電動アシスト車両の一例である電動アシスト付き自転車10の概略構成を示す図である。図12において、左右、前後、上下とはそれぞれ、電動アシスト付き自転車10のサドル34に搭乗者71がそのハンドル77に向かって着座した状態を基準とした左右、前後、上下を意味する。
【0093】
図12に示すように、電動アシスト付き自転車10はフレーム12を含む。フレーム12は、ヘッドパイプ14、上部パイプ16、フロントパイプ18、シートパイプ70、一対のリヤパイプ72および一対の下部パイプ74を含む。上部パイプ16は、ヘッドパイプ14から後方かつ水平方向に延びる。フロントパイプ18は、ヘッドパイプ14から後方斜め下方向へ延びる。シートパイプ70は、上部パイプ16の後端部とフロントパイプ18の後端部とを連結する。一対のリヤパイプ72は、上部パイプ16とシートパイプ70との接続部から後方斜め下方向に延びている。一対の下部パイプ74は、フロントパイプ18とシートパイプ70との接続部から後方に向かって水平方向に延びている。一対のリヤパイプ72の後端部と一対の下部パイプ74の後端部とは、それぞれ接続されている。
【0094】
ヘッドパイプ14内には、車両の進行方向変更用のステアリング軸76がヘッドパイプ14に沿うように設けられている。このステアリング軸76は、ヘッドパイプ14内で回転可能である。ステアリング軸76の上端にはハンドル77が取り付けられている。ステアリング軸76の下端には左右一対のフロントフォーク80が取り付けられている。フロントフォーク80の下端には、前輪82が取り付けられている。前輪82は、フロントフォーク80によって支持された前輪82の中心軸を中心に回転可能である。シートパイプ70の上端部にはサドル34が設けられている。シートパイプ70には、後方に延びるように荷台36が固定されている。
【0095】
フロントパイプ18とシートパイプ70との接続部には、モータ駆動ユニット38が配置されている。図13に、電動アシスト付き自転車10のモータ駆動ユニット38の概略構成を示す。モータ駆動ユニット38は、上記実施形態に係るトルクセンサ1を含む。より具体的には、図13に示すように、モータ駆動ユニット38は、クランク軸40、駆動スプロケット42、クランク角センサ44、トルクセンサ1、電動モータ48およびコントローラ50を含む。モータ駆動ユニット38は、電動アシスト付き自転車ではない自転車に取り付け可能に構成されていてもよいし、既存の電動アシスト付き自転車のモータ駆動ユニットと交換可能に構成されていてもよい。
【0096】
図12に示すように、クランク軸40には、クランク52を介してペダル54が取り付けられている。また、クランク軸40の外周面には駆動スプロケット42(図13参照)が取り付けられている。駆動スプロケット42は、無端状のチェーン56を介して後輪スプロケット58に連結されている。後輪スプロケット58には、回転軸60を介して後輪62が取り付けられている。後輪62は回転軸60を中心として回転可能である。
【0097】
図示しないが、クランク角センサ44およびトルクセンサ1は、クランク軸40の近傍に配置されている。クランク角センサ44は、ペダル54の操作によって回転するクランク軸40の回転角度であるクランク角θを検出する。トルクセンサ1は、クランク軸40に加わるトルクであるクランクトルクτを検出する。電動モータ48は、駆動スプロケット42に与える補助駆動力を発生する。
【0098】
コントローラ50は、CPU64およびメモリ66を含む。CPU64は、必要な演算を行い、電動モータ48および電動アシスト付き自転車10の動作を制御する。記憶手段であるメモリ66は、例えばEEPROMからなり、電動アシスト付き自転車10の動作を制御するためのプログラムやデータおよび演算データ等を格納する。メモリ66は、アシストパターンを格納する。
【0099】
シートパイプ70には、電動モータ48に電力を供給するための電池(例えば、ニッケル(Ni)−カドミウム(Cd)電池等の二次電池)からなるバッテリ68が取り付けられている。コントローラ50のCPU64には、クランク角センサ44から出力されるクランク角θおよびトルクセンサ1から出力されるクランクトルクτが入力される。これらのデータは、メモリ66に格納される。
【0100】
CPU64は、クランク角θおよびクランクトルクτに基づいて、電動モータ48で発生させる補助駆動力を制御する。
【0101】
本実施形態に係る電動アシスト付き自転車10は、トルクを高感度で精度良く検出することができる上記実施形態に係るトルクセンサ1を備えているため、安定した走行が可能である。
【0102】
(実施形態の効果)
本実施形態では、磁歪膜(磁歪部)2が、下記の(a)、(b)および(c)に示す要件のうち少なくとも一つの要件を満たす。これにより、磁歪膜2の内部に応力を発生させることができる。その結果、磁歪膜2を構成する材料の化学組成が、目標とする化学組成からある程度外れていても、トルクセンサ1の感度を十分に高めることができる。すなわち、トルクセンサ1の感度を高くすること、およびトルクセンサ1の生産を容易にすることを両立させることができる。したがって、感度の高いトルクセンサ1を効率よく生産することができる。
(a)磁性構造体20の第1断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線Aを中心として時計回りに並んでいる。
(b)磁性構造体20の第1断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、磁歪膜2の厚み方向に並んでいる。
(c)磁性構造体20の第2断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線Aに沿って並んでいる。
【0103】
なお、磁歪膜2が、上記の(a)、(b)および(c)のうちの複数の要件を満たしていてもよい。この場合も、磁歪膜2の内部に応力を発生させることができる。したがって、感度の高いトルクセンサ1を効率よく生産することができる。
【0104】
本実施形態では、トルクセンサ1は、軸線Aに沿って延びる筒状の基材21と、基材21の外周面21s上に形成された磁歪膜2とを備える。磁歪膜2は、列状に延びる複数の磁歪列部2aを有する。複数の磁歪列部2aのうち少なくとも一部は、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、基材21の外周面21sに平行な方向において、最も長い部分の長さMが、前記一部を含む磁歪列部2aと基材21の外周面21sとの接触部分2fの長さNよりも大きく、且つ、前記接触部分2fと、前記磁歪列部2aの隣りの磁歪列部2aと基材21の外周面21sとの接触部分2fとの間隔d(磁歪列部2a同士の間隔d)よりも大きい。
【0105】
また、本実施形態では、磁歪列部2aは、その延伸方向と直交する断面で見て、基材21の外周面21sに平行な方向に最も長い部分の長さMが、隣り合う磁歪列部2aとの間隔dよりも大きい。そのため、磁歪列部2a同士の間隔dは、比較的狭い。このように隣り合う磁歪列部2aの間隔dが狭い構成において、前記最も長い部分の長さMを、磁歪列部2aと基材21の外周面21sとの接触部分2fの長さNよりも大きくすることで、磁歪列部2aの表面積を増大させることができる。よって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化を容易に検出することができる。これにより、磁歪膜2に寸法上の制約がある中で、トルクセンサ1の感度向上を図ることができる。
【0106】
複数の磁歪列部2aのうち前記少なくとも一部は、該一部を含む前記磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、前記最も長い部分の長さMが、磁歪列部2aの最大膜厚Hよりも大きい。
【0107】
これにより、複数の磁歪列部2aのうち少なくとも一部は、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、磁歪列部2aの厚み方向よりも基材21の外周面21sに平行な方向に長い扁平状に形成される。よって、磁歪列部2aの表面積をより大きくすることができる。したがって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化をより容易に検出することができる。これにより、磁歪膜2に寸法上の制約がある中で、トルクセンサ1の感度をより向上することができる。
【0108】
複数の磁歪列部2aのうち前記少なくとも一部は、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、磁歪列部2aの最大膜厚Hが、基材21の外周面21sから磁歪列部2aにおける前記最も長い部分までの前記厚み方向の高さH1よりも大きい。
【0109】
これにより、複数の磁歪列部2aのうち少なくとも一部に、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、基材21の外周面21sとの接触部分2fよりも幅寸法が大きい部分を形成することができる。よって、基材21の外周面21sとの接触部分2fよりも幅寸法が大きい部分がない磁歪列部に比べて、磁歪列部の表面積を大きくすることができる。したがって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化を容易に検出することができる。これにより、磁歪膜2に寸法上の制約がある中で、トルクセンサ1の感度を向上することができる。
【0110】
複数の磁歪列部2aのうち前記少なくとも一部は、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、磁歪列部2aの最大膜厚の半分は、基材21の外周面21sから磁歪列部2aにおける前記最も長い部分までの前記厚み方向の高さH1以上である。
【0111】
これにより、複数の磁歪列部2aのうち少なくとも一部に、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、基材21の外周面21sに平行な方向に最も長い部分を、磁歪列部2aの厚み方向により広い範囲に形成することができる。よって、磁歪列部の表面積をより大きくすることができる。したがって、磁歪膜2に力が加わった際の透磁率の変化をより容易に検出することができる。
【0112】
複数の磁歪列部2aのうち前記少なくとも一部は、該一部を含む磁歪列部2aをその延伸方向と直交する断面で見て、前記接触部分2fと、隣りの磁歪列部2aと基材21の外表面21sとの接触部分2fとの間隔dが、基材21の外周面21sに平行な方向において、前記最も長い部分が前記接触部分2fに対して前記隣りの磁歪列部2aに向かって突出する長さと、前記隣りの磁歪列部2aにおいて最も長い部分が該隣りの磁歪列部2aと基材21との接触部分2fに対して前記磁歪列部2aに向かって突出する長さとの和よりも大きい。
【0113】
これにより、隣り合う磁歪列部2aにおいて、前記最も長い部分同士が接触することを防止できる。
【0114】
磁歪膜2は、複数の磁歪列部2aを連結する連結部26を有する。これにより、磁歪列部2aが基材21から剥離しにくくなる。よって、磁歪膜2の強度向上を図れる。
【0115】
トルクセンサ1は、磁歪膜2を囲むように配置されたコイル3,4をさらに備える。これにより、磁歪膜2で生じた透磁率の変化を、コイル3,4のインピーダンスの変化によって検出することができる。
【0116】
コイル3,4は、軸線Aに沿って、複数並んで配置されている。複数のコイル3,4によって、磁歪膜2における透磁率の変化をより確実に検出することができる。したがって、トルクセンサ1の検出精度を向上することができる。
【0117】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0118】
上述の実施形態では、図3に示したように、隣り合う磁歪列部2aの端部同士を連結する連結部26が、磁歪列部2aにおける前記軸線方向の両方の端部にそれぞれ設けられているが、連結部の形成位置は上述の例に限定されない。例えば、隣り合う磁歪列部2aの曲部Z同士を連結するように、連結部が設けられてもよい。また、例えば、第1の部分2mの中央部において隣り合う磁歪列部2aを連結する連結部、および第2の部分2nの中央部において隣り合う磁歪列部2aを連結する連結部が設けられてもよい。なお、磁歪膜において連結部が設けられていなくてもよい。
【0119】
上述の実施形態では、基材21の外周面21sの全周に亘って複数の磁歪列部2aが形成されている。しかしながら、基材21の外周面21sの一部のみに複数の磁歪列部2aが設けられてもよい。
【0120】
上述の実施形態では、複数の磁歪列部2aが均一な間隔で形成されている。しかしながら、磁歪膜における隣り合う磁歪列部の間隔が均一でなくてもよい。また、上述の実施形態では、複数の磁歪列部2aが均一な幅Wで形成されている。しかしながら、磁歪膜における複数の磁歪列部の幅が均一でなくてもよい。
【0121】
上述の実施形態では、磁歪列部2aが曲部Zを有し、第1の部分2mと第2の部分2nとが曲部Zにおいて接続されている。しかしながら、磁歪列部が曲部を有していなくてもよい。例えば、上述の曲部Zを設ける代わりに、隙間を設けることにより、磁歪列部において第1の部分と第2の部分とを分離させてもよい。
【0122】
上述の実施形態では、磁歪列部2aを構成する第1の部分2mの長さLと第2の部分2nの長さLとが等しい。しかしながら、第1の部分の長さと第2の部分の長さとが異なっていてもよい。
【0123】
また、磁歪列部の形状は上述の例に限定されない。図14および図15は、いずれも、磁性構造体の他の一例を、図4と同様の断面で示した図(磁歪列部2aの延伸方向と直交する面で切断して得られる断面)である。図14では、基材21の外周面21sと、磁歪列部2002aにおける突出部2002eの突出方向とのなす角度θ、および、比H/Hが、図4に示す例とは異なる場合を示している。また、図15では、磁歪列部5002aが矩形状の断面を有する場合を示している。
【0124】
上述の実施形態では、複数の磁歪列部2aを有する磁歪膜2を有する磁性構造体20について説明した。しかしながら、磁歪膜が複数の磁歪列部を有していなくてもよい。図16は、磁性構造体のその他の一例を示す図である。図16に示す磁性構造体20aでは、基材21の全周に亘って、隙間が生じないように磁歪膜200が形成されている。なお、図16に示す磁性構造体20aにおいても、上述の磁性構造体20と同様に、磁歪膜(磁歪部)200において、複数の元素のうち少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が存在する。具体的には、磁歪膜200が、下記の(a1)、(b1)および(c1)に示す要件のうち少なくとも一つの要件を満たす。これにより、上述の実施形態と同様に、磁歪膜200の内部に応力を発生させることができる。
(a1)磁性構造体20aの第1断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線Aを中心として時計回りに並んでいる。
(b1)磁性構造体20aの第1断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、磁歪膜2の厚み方向に並んでいる。
(c1)磁性構造体20aの第2断面において、少なくとも1種の元素の濃度が互いに異なる部分が、軸線Aに沿って並んでいる。
【0125】
なお、磁性構造体20aの第1断面とは、磁性構造体20aの軸線に直交する断面(例えば、図16のF−F線断面)のことを意味する。また、磁性構造体20aの第2断面とは、磁性構造体20aの第1断面に直交し、且つ磁性構造体20aの軸線を通る断面(例えば、図16のG−G線断面)のことを意味する。
【0126】
前記実施形態では、磁歪式センサの一例としてトルクセンサ1に、本実施形態の構成を適用した場合について説明した。しかしながら、磁歪膜を有するセンサであれば、荷重センサなどの他のセンサに、本実施形態の構成を適用してもよい。同様に、電動アシスト付き自転車に用いるトルクセンサに限らず、他の用途のセンサに、本実施形態の構成を適用してもよい。なお、荷重センサに、本実施形態の構成を適用する場合には、磁歪膜を囲むように1つのコイルが配置される。
【0127】
前記実施形態では、基材21は円筒状である。しかしながら、基材は、柱状に構成されていれば、どのような断面形状を有していてもよい。例えば、基材の外周面が断面多角形状を有していてもよい。また、基材が中空状に構成されていてもよく、中実状に構成されていてもよい。
【0128】
前記実施形態では、磁歪膜2の磁歪列部2aは、列状に延びている。しかしながら、島状に形成した複数の島状磁歪部のうち少なくとも一部を接続して列状に形成してもよい。また、複数の磁歪列部2aは、互いに接触しなければ、平行でなくてもよい。
【0129】
前記実施形態では、磁歪膜2における複数の磁歪列部2aが、その延伸方向に亘って、図4に示す断面と同じ断面を有する。しかしながら、磁歪列部2aの断面は、磁歪列部2aの延伸方向の一部で異なっていてもよい。また、複数の磁歪列部2aが、すべて同じ断面形状を有していなくてもよい。
【0130】
前記実施形態では、磁歪列部2aは、その延伸方向に直交する断面で見て、基材21の外周面21sに平行な方向の一方及び他方にそれぞれ突出する突出部2eを有する。しかしながら、磁歪列部2aは、基材21の外周面21sに平行な方向の一方または他方に突出する突出部を有していてもよい。
【0131】
前記実施形態では、磁歪列部2aは、その延伸方向と直交する断面で見て、基材21の外周面21sに平行な方向において最も長い部分の長さMが、磁歪列部2aの最大膜厚Hよりも大きい。しかしながら、磁歪列部2aは、前記最も長い部分の長さMが、最大膜厚H以下であってもよい。
【0132】
前記実施形態では、磁歪列部2aは、その延伸方向と直交する断面で見て、磁歪列部2aの最大膜厚Hの半分が、基材21の外周面21sから磁歪列部2aにおける前記最も長い部分までの前記厚み方向の高さH1以上である。しかしながら、磁歪列部2aは、最大膜厚の半分が、前記高さH1よりも小さくてもよい。

【実施例】
【0133】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0134】
(実施例1)
図10に示す製造方法にて、めっき法により、図3に示す磁歪列部2aおよび図4に示す断面を有する磁歪膜2が形成された磁性構造体20を複数得た。めっきは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸鉄(II)、ホウ酸等からなる公知のNi−Fe合金浴(ワット浴)によって行った。めっき条件は、pH3、浴温55℃、電流密度5〜20A/dmとした。また、基材21を周方向に3回転/分で回転させながらめっきを行うことにより、得られるめっき膜(磁歪膜2)の膜厚の均一性を確保した。
【0135】
上述の方法により得られた磁性構造体20は、磁歪列部2aの断面(図4)の最大膜厚Hが85μm、角度θeが30°、幅Mが460μm、基材21との接触面の長さNが260μm、基材21の表面において磁歪列部2aが接触している割合(被覆率)が40%であり、隣り合う磁歪列部2a同士の間隔Iが200μmであった。
【0136】
製造した磁歪膜2は、Fe−Ni合金であった。磁歪膜2中のFe濃度は約30質量%、Ni濃度は約70質量%であった。基材21の材質は、SCM435(JIS G4053)であった。
【0137】
なお、磁歪膜2は、基材21の周方向においてFe濃度(質量%)が変化するように形成した。具体的には、上記周方向における磁歪列部2aの中央部のFe濃度が、上記周方向における磁歪列部2aの両端部のFe濃度よりも低くなるように、磁歪膜2を形成した。また、磁歪列部2aの上記中央部のFe濃度と、磁歪列部2aの上記両端部のFe濃度との差(以下、Fe濃度差という。)が異なる複数種の磁歪膜2を形成した。具体的には、Fe濃度差(質量%)が約2%の磁歪膜2を有する磁性構造体20、Fe濃度差が約3%の磁歪膜2を有する磁性構造体20、Fe濃度差が約4.5%の磁歪膜2を有する磁性構造体20、Fe濃度差が約5%の磁歪膜2を有する磁性構造体20、Fe濃度差が約7%の磁歪膜2を有する磁性構造体20、およびFe濃度差が約8%の磁歪膜2を有する磁性構造体20をそれぞれ複数製造した。なお、Fe濃度差が約2%、約3%および約4.5%の磁歪膜2を有する磁性構造体20に対しては、600℃、1時間の熱処理を行った。一方、Fe濃度差が約5%、約7%および約8%の磁歪膜2を有する磁性構造体20に対しては、500℃、1時間の熱処理を行った。
【0138】
図17および図18は、磁歪列部2aにおけるFe濃度の変化を示すグラフである。なお、図17および図18には、図4に示した断面において、高さH(端部mの高さ)の位置のFe濃度の変化を示す。また、図17は、Fe濃度差が約2%の磁歪膜2、Fe濃度差が約3%の磁歪膜2、およびFe濃度差が約4.5%の磁歪膜2における、Fe濃度の変化の一例を示すグラフである。また、図18は、Fe濃度差が約5%の磁歪膜2、Fe濃度差が約7%の磁歪膜2、およびFe濃度差が約8%の磁歪膜2における、Fe濃度の変化の一例を示すグラフである。
【0139】
なお、図17および図18において、グラフの横軸の“長手方向位置”は、図4に示した断面における磁歪列部2aの幅方向の位置を意味する。図17および図18においては、図4に示した断面における磁歪列部2aの端部mの位置を、“長手方向位置”の零点としている。図17および図18において縦軸のΔFeは、Fe濃度差(質量%)を示す。なお、図17および図18においては、磁歪列部2aの中央部(図4に示した断面において、磁歪列部2aの幅方向における中央部)におけるFe濃度差を零として、各長手方向位置におけるFe濃度差を示している。
【0140】
図17および図18においては、複数の磁性構造体20の中から、Fe濃度ごとに、任意に抽出された磁性構造体20の磁歪膜2のFe濃度を示している。なお、図示は省略するが、他の磁歪膜2についても、磁歪列部2aにおいてFe濃度は同様に変化した。
【0141】
上記のようにして得られた複数の磁性構造体20を用いて、図1の構成を有するトルクセンサ1を製造し、トルクセンサ1の感度を調査した。なお、トルクセンサ1の感度は、トルクセンサ1を図11に示す回路に接続して、80Nmのトルクを印加することにより測定した。前記回路において、抵抗R1およびR2は、いずれも15Ωの抵抗値を有する抵抗器である。コイルC1およびC2は、いずれも、直径0.2mmの絶縁皮膜付き銅線を124回巻くことによって構成されている。
【0142】
図19および図20は、磁性構造体20の磁歪膜2のFe濃度と、その磁性構造体20を用いたトルクセンサ1の出力との関係を示すグラフである。なお、図19は、Fe濃度差が約2%、約3%および約4.5%の磁歪膜2を有する磁性構造体20を用いたトルクセンサ1の出力を示し、図20は、Fe濃度差が約5%、約7%および約8%の磁歪膜2を有する磁性構造体20を用いたトルクセンサ1の出力を示す。また、図19において横軸は、磁歪膜2の任意の磁歪列部2aの中央部(図4に示した断面において、磁歪列部2aの幅方向における中央部)のFe濃度を示す。
【0143】
図19を参照して、Fe濃度差が約2%の磁性構造体20を用いたトルクセンサ1では、磁歪列部2aの中央部のFe濃度が、約24%〜約31%の場合に、3V以上の出力が得られた。Fe濃度差が約3%の磁性構造体20を用いたトルクセンサ1では、磁歪列部2aの中央部のFe濃度が、約24.5%〜約32.5%の場合に、3V以上の出力が得られた。Fe濃度差が約4.5%の磁性構造体20を用いたトルクセンサ1では、磁歪列部2aの中央部のFe濃度が、約26.5%〜約37.5%の場合に、3V以上の出力が得られた。以下、トルクセンサ1の出力が3V以上になる場合の磁歪列部2aの中央部のFe濃度の最大値と最小値との差を、Fe濃度の管理幅という。
【0144】
Fe濃度差が約2%の磁歪膜2では、上記管理幅は約7%であり、Fe濃度差が約3%の磁歪膜2では、上記管理幅は約8%であり、Fe濃度差が約4.5%の磁歪膜2では、上記管理幅は約11%である。
【0145】
同様に、図20を参照して、Fe濃度差が約5%の磁歪膜2では、上記管理幅は約7%であり、Fe濃度差が約7%の磁歪膜2では、上記管理幅は約10%であり、Fe濃度差が約8%の磁歪膜2では、上記管理幅は約13%である。
【0146】
図21および図22に、Fe濃度差とFe濃度の管理幅との関係を示す。図21および図22から、Fe濃度差が大きいほど、Fe濃度の管理幅が大きくなっていることが分かる。すなわち、磁歪膜2中の少なくとも1種の元素の濃度差を大きくすることによって、磁歪膜2の化学組成が、目標とする化学組成からある程度外れていても、トルクセンサ1の出力を高くできることが分かった。すなわち、トルクセンサ1の感度を高くすること、およびトルクセンサ1の生産を容易にすることを両立させることが可能になることが分かった。
【0147】
(実施例2)
磁歪膜2を形成するためのレジスト層91の厚みを50μmにした以外は、実施例1と同様の方法にて、図2に示す磁歪列部2aおよび図4に示す断面を有する磁歪膜2が形成された磁性構造体20を得た。本実施例に係る磁性構造体20を備えたトルクセンサ1においても、実施例1に係るトルクセンサ1よりも若干感度が劣るものの、実施例1に係るトルクセンサ1と同様の効果が確認できた。
【0148】
(実施例3)
磁歪膜2を成膜する際に、貯留しているめっき液が互いに異なる2つ以上のめっき槽を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、図2に示す磁歪列部2aおよび図4に示す断面を有する磁性構造体20を得た。本実施例に係る磁性構造体20の磁歪膜2では、厚さ方向において、Fe濃度が変化する。本実施例に係る磁性構造体20を備えたトルクセンサ1においても、実施例1に係るトルクセンサ1と同様の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、例えば電動アシスト付き自転車などに用いられる磁歪式センサに利用可能である。
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