特許第6698093号(P6698093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6698093官能化エラストマー、その製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698093
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】官能化エラストマー、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/20 20060101AFI20200518BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C08C19/20
   B60C1/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-539536(P2017-539536)
(86)(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公表番号】特表2018-508618(P2018-508618A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】EP2016051446
(87)【国際公開番号】WO2016120206
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2018年11月7日
(31)【優先権主張番号】62/108,775
(32)【優先日】2015年1月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ナンディー,リテーシュ
(72)【発明者】
【氏名】パティル,パラシャント
(72)【発明者】
【氏名】ミトラ,スサンタ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,スン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,スンチョル
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−251085(JP,A)
【文献】 特開平01−282227(JP,A)
【文献】 特開2005−041960(JP,A)
【文献】 特開2013−010871(JP,A)
【文献】 特開平10−045841(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/108958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00 − 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能化エラストマーの調製方法において、
エポキシ化エラストマーを提供する工程、及び
〜C32ヒドロカルビル置換チオールを用いて前記エポキシ化エラストマーをエポキシ開環して官能化エラストマーを提供する工程であって、該官能化エラストマーは、
エポキシ官能基、
ヒドロキシ官能基、及び
置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基
を含む、工程
を含み、
前記ヒドロキシ官能基と前記置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基とはビシナル官能基であ
前記エポキシ化エラストマーを提供する工程が、不飽和エラストマーをエポキシ化して前記エポキシ化エラストマーを形成する工程を含み、
前記エポキシ化が、溶媒中で行われ、前記エラストマーが、前記溶媒中、1〜22%(w/v)の濃度を有する、
方法。
【請求項2】
前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C16アルキル基、置換又は非置換のC〜C16シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16アリール基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロアリール基、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不飽和エラストマーが、天然ポリイソプレンゴム;合成ポリイソプレンゴム;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンの単独重合体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンと、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、イソプレン、メタアクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、又は酢酸ビニルとの共重合体;クロロプレンゴム;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;エチレン−プロピレンゴム;エチレン−プロピレン−ジエンゴム;不飽和シリコーンゴム;又は上記の少なくとも1つを含む組合せを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
エポキシ化する工程が、過酸化物の存在下で行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水性又はアルコール性塩基、あるいは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド又は水酸化カリウムのメタノール溶液、あるいは、上記の少なくとも1つを含む組合せの溶液の添加による、前記エポキシ化をクエンチ処理する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エポキシ化エラストマーが、1〜50モルパーセントのエポキシ化度を有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エポキシ開環が塩基の存在下で行われ、該塩基が、アルカリ土類又はアルカリ土類の酸化物又は水酸化物、四級化されたテトラ(C〜C12ヒドロカルビル)アンモニウム又はテトラ(C〜C12ヒドロカルビル)ホスホニウム塩、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロカルビル置換チオールが、1−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、1−ペンタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、1−ヘプタンチオール、1−オクタンチオール、2−エチルヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、シクロヘキサンチオール、2−フェニルエタンチオール、フェニルチオール、2−プロペン−1−チオール、2−フランメタンチオール、又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エポキシ開環が、溶媒の存在下で行われ、前記エポキシ化エラストマーが、前記溶媒中、1〜22%(w/v)の濃度を有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エポキシ開環が、0〜100℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エポキシ官能基、ヒドロキシ官能基、及びチオ官能基を含む官能化エラストマー、該官能化エラストマーの調製方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料消費の約20〜30%は、そのタイヤに関連している。車両用タイヤは、少なくとも一部には、それが転がる道路に対するタイヤゴムの接着性に起因して、動作中に、転がりに対して抵抗する傾向を有する。車両は、より多くのエネルギーを生成すること、すなわち、より多くの燃料を燃焼させることによって、タイヤの転がり抵抗を克服する。転がり抵抗の低いタイヤは、タイヤが転がるときに、より少ないエネルギーしか必要とせず、よって、車両の燃料効率が増加する。したがって、タイヤにおける転がり抵抗の低下は、燃料消費の低下及び二酸化炭素の排出の低減についての今日のますます高まる要求基準を満たすように構成された車にとって、望ましいことである。
【0003】
タイヤ製造業者によって、転がり抵抗の低いタイヤの開発及び製造に向けて多くの取り組みがなされてきた。例えば、車両用ゴムタイヤへの官能化エラストマーの導入により、タイヤの性能特性を改善することができる。官能基は、エラストマーと、タイヤ内にも存在する充填剤、主にシリカとの相互作用を改変するように作用しうる。エラストマーの官能化は、重合の間又は重合後のいずれかに達成されうる。重合の間の官能化には、官能性モノマー、開始剤、又は停止剤が用いられる。重合の間の官能化、すなわち、共重合及び/又は鎖末端重合は、幾つかの既知の欠点を有する。例えば、共重合は、官能性モノマーを作出するために、しばしば、複雑な合成を必要とする。官能基は、重合開始剤と反応しないものに限られることから、重合の間の官能化のための適切な官能基の選択が、さらなる制限となる。鎖末端の官能化は実現可能だが、タイヤゴムが比較的高分子量であることにより、末端基の主鎖に対する重量比が低くなりすぎる場合があり、したがって、末端基はエラストマー−充填剤相互作用に有意な影響を与えない。
【0004】
ポスト重合官能化は、さまざまな方法によって達成されうる。例えば、シランカップリング剤をシリカ充填剤と組み合わせて使用してもよい。しかしながら、シランの使用により、タイヤ製造の間に、組成物粘度の望ましくない増加をもたらしうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エラストマーのポスト重合官能化、特に、タイヤに使用する場合にエラストマーの特性を改質するための有用な官能基を提供する方法は、当技術分野において依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記及び他の欠陥は、ある実施形態では、官能化エラストマーを調製する方法によって克服され、該方法は、C〜C32ヒドロカルビル置換チオールを用いてエポキシ化エラストマーをエポキシ開環して、エポキシ官能基、ヒドロキシ官能基、及び置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基を含む官能化エラストマーを提供する工程を含み、ここで、ヒドロキシ官能基と置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基はビシナル官能基である。
【0007】
該方法によって調製される官能化エラストマーもまた、本明細書に開示される。
【0008】
別の実施形態では、官能化エラストマーは、エポキシ官能基、ヒドロキシ官能基、及びC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基を含み、ここで、ヒドロキシ官能基とC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基はビシナル官能基である。
【0009】
官能化エラストマーを含む物品、特に、官能化エラストマーを含むタイヤについても開示される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に従って得られたエポキシ化ポリブタジエンゴム(PBR)エラストマーのプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル
図2】実施例2に従って得られた官能化PBRエラストマーのH−NMRスペクトル
図3A】プロパンチオール、不飽和PBRエラストマー、エポキシ化PBRエラストマー、及び、実施例2で得られた官能化PBRエラストマーの赤外線(IR)スペクトル
図3B】プロパンチオール、不飽和PBRエラストマー、エポキシ化PBRエラストマー、及び、実施例2で得られた官能化PBRエラストマーの赤外線(IR)スペクトル
図4】エポキシ開環の間の時間及びエポキシ化エラストマー濃度の影響。グラフにおいて、官能化の割合(%)が、THF溶媒中の2つの異なるPBR濃度(2%及び4%)について、時間(h)単位の経過時間でプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、エラストマーのポスト重合官能化の方法、特に共重合によって得ることが困難な官能性をもたらす方法を発見した。本方法において、不飽和エラストマーは、エポキシ化され、次に、置換チオールを用いたエポキシ開環に供される。この方法によって官能化されたエラストマーは、エポキシ官能基、ヒドロキシ官能基、及び置換チオ官能基を含む。ヒドロキシ官能基と置換チオ官能基は隣接する炭素原子上にある、すなわち、それらはビシナルである。不飽和基もまた存在しうる。官能化エラストマーは、車両用タイヤを含む、さまざまな用途を有している。
【0012】
本方法のキーとなる工程では、エポキシ化エラストマーが置換チオールと反応して、一部のエポキシ基を開環する。よって、ある実施形態では、官能化エラストマーの調製方法は、C〜C32ヒドロカルビル置換チオールを用いてエポキシ化エラストマーをエポキシ開環する工程を含む。エポキシ化エラストマーは、商業的に得てもよく、又は本明細書に記載される方法の一部として合成されてもよい。よって、別の実施形態では、官能化エラストマーの調製方法は、不飽和エラストマーをエポキシ化して、エポキシ化エラストマーを提供する工程;及び、C〜C32ヒドロカルビル置換チオールを用いて、エポキシ化エラストマーをエポキシ開環する工程を含む。
【0013】
エラストマーをエポキシ化する方法は知られており、例えば、不飽和エラストマーの過酸化物介在性のエポキシ化が挙げられる。エポキシ化エラストマーは、エポキシ化の結果として、エポキシ(オキシラン)官能基を含む。ゴムとしても知られるエラストマーは、非晶質の粘弾性ポリマーである。不飽和エラストマーは、複数の炭素−炭素二重結合を有する。不飽和度は、モルパーセント(mol%)不飽和で表されうる。例えば、エラストマーは、少なくとも0.1mol%、少なくとも0.5mol%、少なくとも1mol%、少なくとも2mol%又は少なくとも5mol%、最大で80mol%の不飽和度を有しうる。例えば、不飽和度は、0.1〜60mol%、又は0.1〜50mol%、又は0.1〜40mol%でありうる。
【0014】
不飽和エラストマーは、骨格又は側鎖内に不飽和を有する、架橋されていない、架橋された、加硫化された等の単独重合体又は共重合体(例えば加硫ゴム)でありうる。エラストマーは、ASTM D7426−08(2013)に準じて決定して、例えば−110℃〜−20℃又は−90℃〜−10℃など、20℃未満又は0℃未満のガラス転移温度(Tg)を有しうる。エラストマーは、天然由来又は合成のものであってよく、1つ以上の共役ジオレフィンを、必要に応じて、モノビニルアレーン、(C〜Cアルキル)(メタ)アクリレートなどの1つ以上のエチレン性不飽和コモノマーと組み合わせて、例えば、溶液重合、乳化重合又は気相重合することによって得られうる。
【0015】
不飽和エラストマーの例としては、天然ポリイソプレンゴム;合成ポリイソプレンゴム;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンの単独重合体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンと、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、イソプレン、メタアクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、又は酢酸ビニルとの共重合体;エチレン−酢酸ビニル;クロロプレンゴム;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;エチレン−プロピレンゴム;エチレン−プロピレン−ジエンゴム;不飽和シリコーンゴム;又は上記の少なくとも1つを含む組合せが挙げられる。
【0016】
特定のエラストマーとしては、ポリブタジエンゴム、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ポリ(スチレン−ブタジエン)ゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴム、好ましくはポリブタジエンゴム、ポリ(スチレン−ブタジエン)ゴム、又は上記の少なくとも1つを含む組合せが挙げられる。
【0017】
不飽和エラストマーのエポキシ化は、エポキシ化剤の使用によって達成されうる。エポキシ化剤の例としては、ペルオキシ酸、過酸、無機ペルオキシ酸、有機ペルオキシ酸などの過酸化物が挙げられる。好ましい無機ペルオキシ酸は、ペルオキシ一硫酸、ペルオキシリン酸、過ホウ酸、過ホウ酸塩などである。有機ペルオキシ酸の中でもとりわけ、過酢酸、ペルオキシ安息香酸、又はm−クロロペルオキシ安息香酸(m−CPBA)が用いられうる。
【0018】
エポキシ化における過酸化物の量は、所望のエポキシ化度を達成するように選択され、過度の試験をせずに、当業者によって決定されうる。例えば、過酸化物の量は、不飽和エラストマーの質量に基づいて、5〜100質量%(wt%)であってよく、又は、不飽和エラストマーの質量に基づいて、20〜90質量%、又は30〜80質量%、又は40〜80質量%でありうる。
【0019】
好ましくは、エポキシ化は、溶媒の存在下で行われる。溶媒は、用いられる場合には、不飽和エラストマーを溶解するように選択される。適切な溶媒の例としては、脂肪族、環式脂肪族、ハロゲン化された脂肪族又は環式脂肪族、複素環式脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族の溶媒が挙げられ、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ペンタン、n−ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、o−、m−、p−キシレンを含むキシレン、クメン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ピリジン、又は上記の少なくとも1つを含む組合せがある。
【0020】
溶媒が用いられる場合には、エラストマーは、溶媒中、1〜22%(質量/容積(w/v))、1〜20%(w/v)、1〜18%(w/v)、2〜16%(w/v)、2〜12%(w/v)の濃度、好ましくは2〜10%(w/v)、さらに好ましくは2〜8%(w/v)の濃度を有しうる。当然ながら、他の濃度も用いられうる。
【0021】
本発明の方法のある態様では、不飽和エラストマーを溶媒に溶解して溶液を提供し、過酸化物を該溶液に加えて、エラストマーの不飽和基(炭素−炭素二重結合)部分をエポキシ化する。他の添加順序を用いてもよい。エポキシ化の条件は、例えば、0〜100℃、好ましくは20〜80℃、又は20〜40℃の温度で、1分〜6時間、又は1〜6時間、あるいは1分〜3時間、又は1〜3時間、大気圧下でなど、過度の実験をせずに、決定することができる。
【0022】
必要に応じて、反応混合物をクエンチ処理して酸を中和し、反応を停止する。塩基は、クエンチ処理に使用することができ、例えば、アルカリ又はアルカリ土類の炭酸塩、重炭酸塩、酸化物、又は水酸化物、例えば、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液、若しくは、例えば、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化カリウムなどのアルコール溶液、例えばメタノール溶液などである。クエンチ処理によって、結果的に水相と有機相が形成され、これらは分離されて差し支えなく、分離後に水相が廃棄される。エポキシ化エラストマーの単離は、メタノールなどの非溶媒を用いて、沈殿によって行われうる。
【0023】
好ましくは、エラストマーの官能化の間に不飽和基のすべてが反応するのではなく、よって、官能化エラストマー内に二重結合が依然として存在する。エポキシ化エラストマーは、1〜50mol%、1〜40mol%、1〜30mol%、2〜40mol%、2〜30mol%、又は3〜30mol%のエポキシ化度を有しうる。
【0024】
エポキシ化エラストマーは、置換チオールと反応して、一部のエポキシ基をエポキシ開環し、ビシナルなヒドロキシ基と置換チオ基をもたらす。本明細書で用いられる「ビシナル」とは、各開環によって生じるヒドロキシ基と置換チオ基が、2つの異なる隣接した炭素原子に結合することを意味する。
【0025】
置換チオールは、C〜C32ヒドロカルビル置換チオールであり、ここで、C〜C32ヒドロカルビルは、置換又は非置換のC〜C32アルキル基、置換又は非置換のC〜C32アルケニル基、置換又は非置換のC〜C18シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C18ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C18アリール基、若しくは、置換又は非置換のC〜C18ヘテロアリール基でありうる。
【0026】
好ましくは、C〜C32ヒドロカルビル置換チオール基は、置換又は非置換のC〜C16アルキル基、置換又は非置換のC〜C16シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16アリール基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロアリール基、又は上記の少なくとも1つを含む組合せである。
【0027】
好ましい実施形態では、C〜C32ヒドロカルビル置換チオール基は、置換又は非置換のC〜C12アルキル基であり、さらに好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基であり、最も好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基である。
【0028】
置換チオールは、例えば、1−プロパンチオール、メチル−3−メルカプトプロピオナート、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、4−シアノ−1−ブタンチオール、1−ペンタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、ブチル−3−メルカプトプロピオナート、1−ヘプタンチオール、1−オクタンチオール、2−エチルヘキサンチオール、1−ノナンチオール、tert−ノニルメルカプタン、1−デカンチオール、1−ウンデカンチオール、1−ドデカンチオール、tert−ドデシルメルカプタン、1−テトラデカンチオール、1−ペンタデカンチオール、1−ヘキサデカンチオール、cis−9−オクタデセン−1−チオール、1−オクタデセンチオール、シクロペンタンチオール、シクロヘキサンチオール、2−フェニルエタンチオール、フェニルチオール、ハロゲン化フェニルチオール、ニトロフェニルチオール、メトキシフェニルチオール、2−プロペン−1−チオール、2−フランメタンチオール、2−メチル−3−フランチオール、2−(トリメチルシリル)エタンチオール、1−アダマンタンチオール、2−プロペン−1−チオール、又はそれらの組合せから選択されうる。好ましくは、置換チオールは、1−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、1−ペンタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、1−ヘプタンチオール、1−オクタンチオール、2−エチルヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、シクロヘキサンチオール、2−フェニルエタンチオール、フェニルチオール、2−プロペン−1−チオール、2−フランメタンチオール、又はそれらの組合せから選択される。
【0029】
エポキシ開環は、溶媒の存在下で行われうる。溶媒が存在する場合、エポキシ化エラストマーは、溶媒に溶解する。溶媒の例としては、脂肪族、環式脂肪族、ハロゲン化された脂肪族又は環式脂肪族、複素環式脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族の溶媒、好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ペンタン、n−ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、o−、m−、p−キシレンを含むキシレン、クメン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、又は上記の少なくとも1つを含む組合せがある。
【0030】
エポキシ化エラストマーは、溶媒中、1〜22%(w/v)の濃度を有しうる。例えば、エポキシ化エラストマーは、2〜16%(w/v)、2〜12%(w/v)、2〜10%(w/v)、2〜8%(w/v)、又は2〜6%(w/v)の濃度を有しうる。
【0031】
溶媒中の置換チオールの濃度は、エポキシ化エラストマーの質量に基づいて、5〜70質量%、10〜70質量%、5〜60質量%、10〜60質量%、15〜60質量%、又は好ましくは15〜50質量%でありうる。
【0032】
幾つかの実施形態では、エポキシ開環は、エポキシ環を開き同時に置換チオールの付加を促進することができる触媒の存在下で行われる。触媒は、例えば過塩素酸などの酸性であっても、求核塩基であってもよい。例示的な塩基としては、アルカリ又はアルカリ土類の酸化物又は水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、又は水酸化カルシウムなど、水酸化ランタン又は水酸化セリウムなどの希土類水酸化物、テトラ(C〜C)アルキルアンモニウムヒドロキシド(例えば、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド)などの有機水酸化物、若しくは、第三級アミンなどの有機塩基(例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、トリエチルアミン、ピリジン等)が挙げられる。さまざまな塩基の組合せを使用してもよい。好ましくは、塩基は、水酸化カリウム又はテトラブチルアンモニウムヒドロキシドである。幾つかの実施形態では、反応混合物のpHを、塩基を用いて調整することができる。例えば、pHを、pH9〜14、10〜13、又は10〜12に調整することができる。
【0033】
好ましくは、塩基は、該塩基がエポキシ開環に用いられる溶媒との均質媒質を形成するように選択される。溶媒が塩基と非混和性であるか、又は塩基と低混和性である場合、不均質混合物が形成されうる。不均質混合物が形成される場合、エポキシ開環は遅くなりうる。よって、ある実施形態では、アルコール性、例えばメタノール性の塩基溶液が用いられる。アルコール性塩基溶液は、アルコール中に0.1〜10モーラー(M)のモル濃度の塩基を有しうる。例えば、アルコール溶液は、0.2〜10M、0.3〜9M、0.5〜8M、1〜5M、又は1〜3Mでありうる。ある実施形態では、エポキシ開環は、溶媒としてのTHF中で、メタノール性塩基を用いて行われ、均質媒質をもたらす。
【0034】
エポキシ開環は、0〜100℃の温度、例えば20〜80℃、好ましくは20〜60℃の温度で行われる。有効時間は、出発材料の反応性、温度に応じて、1時間〜5日間でありうる。大気圧又はそれより大きい圧力が用いられうる。単離は、メタノールなどの非溶媒を用いて、沈殿によって行われうる。沈殿後、官能化エラストマーは、例えば濾過によって回収されうる。
【0035】
前述の方法はいずれも、バッチ法によって又は連続的に行われうる。有利な特徴では、不飽和エラストマーの実施態様のエポキシ化及びエポキシ開環は、中間のエポキシ化エラストマーを単離することなく、行われうる。よって、ある実施形態では、本方法は、エラストマーのエポキシ化工程、及び、同じリアクタ又は反応容器内で行われる、置換チオールを用いたエポキシ化エラストマーのエポキシ開環によって、官能化エラストマーを提供する工程を含む。
【0036】
官能化エラストマーは、1〜15mol%、1〜12mol%、さらに好ましくは1〜10mol%のヒドロキシ基、置換チオ基、及びエポキシ基の合計の官能化を有しうる。加えて、官能化エラストマーは、不飽和を含む。ヒドロキシ基、エポキシ基、チオ基、及び不飽和基の各々の相対比率は、官能化エラストマーの特性を調整するために、エポキシ化及びエポキシ開環条件を変動させることによって変化させることができる。例えば、官能化された基の総数に基づいて、エラストマーは、1〜30%のエポキシ基、0.1〜30%のヒドロキシル基、0.1〜30%の置換チオ基、及び20〜89.7%の不飽和基を含んでよく、より具体的には、1〜20%のエポキシ基、0.1〜20%のヒドロキシル基、0.1〜20%の置換チオ基、及び20〜80%の不飽和基を含みうる。
【0037】
官能化エラストマーは、例えば、ホース、インナーチューブ、パッド、固体ロケット燃料、ゴルフボール、電子アセンブリの封入、履物、ワイヤ及びケーブルの被覆、コンベヤーベルト、エンジンベルト、タイヤ、及びタイヤトレッドなど、多種多様な物品に利用されうる。
【0038】
好ましい実施形態では、官能化エラストマーは、例えば乗用車、トラックなどの車両用のタイヤトレッドの成分である。理論に縛られるわけではないが、官能化エラストマーの官能基、特にヒドロキシ官能基は、タイヤトレッドにおけるエラストマーと充填剤との相互作用を改変することができると考えられる。さらには、官能化による不飽和のロスは、架橋又は加硫化処理に関与しうるが、これはC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基の存在によって補われうる。したがって、タイヤトレッドは、低減された転がり抵抗を有しうる。
【0039】
以下の例は、単なる例証の目的で提供され、いかなる態様においても限定と解釈されるべきではない。
【実施例】
【0040】
実施例1.エラストマーのエポキシ化
98%(5グラム(g))の1,4−cis含量を有するポリブタジエンゴムを、100ミリリットル(mL)のジクロロメタンに溶解し、5%(w/v)エラストマー溶液を得た。次に、40質量%のm−クロロペルオキシ安息香酸(m−CPBA)を溶液に加え、反応混合物を室温で3時間、攪拌した。完了後、反応混合物を炭酸ナトリウム(NaCO)又は重炭酸ナトリウム(NaHCO)水溶液を用いてクエンチ処理した。有機層及び水層を分液漏斗で分離した。有機層を、メタノールに1:2(反応混合物/メタノール、容積/容積(v/v))の比で攪拌しながら注いだ。沈殿が形成され、これを濾過し、乾燥させた。
【0041】
生成物を、H NMR分光法によって特徴付けた。図1に示されるように、H NMR分光分析(300MHz;CDCl中)は、9〜10mol%のエラストマーのエポキシ化が達成されたことを示した。
【0042】
実施例2.エポキシ開環
トルエン中、2%(w/v)のエポキシ化エラストマー溶液を調製した。1−プロパンチオールの40質量%(w/w)メタノール溶液、及びメタノール中、1モーラーのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)溶液を、トルエン溶液に加えた。反応混合物を、23℃で72時間、攪拌し、次に、メタノールに注いだ。沈殿が形成され、これを濾過し、23℃で乾燥させた。濾過生成物を、H NMR及び赤外線(IR)分光法によって特徴付けした。
【0043】
図2は、単離された官能化エラストマーの3%のチオ官能化を示唆する、H NMR解析(300MHz;CDCl中)を示している。官能化エラストマーは、式(I):
【化1】
に示される単位を含み、ここで、Rはn−プロピルである。例えば、1,2−付加によって生じる単位など、他の単位もエラストマー内に存在しうる。
【0044】
ポリブタジエンゴム、実施例1のエポキシ化ポリブタジエン、及び実施例2の官能化エラストマーの比較IR分析(KBrペレット)から、官能化エラストマーにおけるヒドロキシ官能基の存在が確認される。図3Aは、エポキシ化の前後にはエラストマー内にヒドロキシ官能基が存在していなかったが、開環後にはエラストマー内にヒドロキシル基が存在することを示している。図3Bは、チオール内のn−プロピル基の存在に起因して、sp C−Hの曲がりの増加が官能化エラストマーに観察されることを示している。
【0045】
実施例3.官能化における時間及びエラストマー濃度の影響
THF溶媒中、2%及び4%(w/v)の両方のエポキシ化エラストマー溶液を調製した以外は実施例2の手順に従った。官能化エラストマー沈殿物の試料を、H NMR分光分析法によって24時間の間隔で特徴付けした。次に、得られた官能化の割合を、図4に示されるように、時間経過を追ってプロットした。この試験結果は、濃度が増加するに従い、反応が速くなることを示している。結果はまた、時間経過に伴い、官能化が増加することも示している。
【0046】
実施例4.官能化エラストマーのワン・ポット合成
テトラヒドロフラン中、実施例1で用いたブタジエンゴムの5%(w/v)溶液を調製し、次に、m−CPBAを溶液に加えて、60%のMCPBA/エラストマー(w/w)濃度を達成した。反応混合物を、23℃で3時間、攪拌した。該反応混合物を、メタノール中、1.5モーラーのTBAH溶液を加えることによってアルカリ性にした。この混合物に、1−プロパンチオールを加えて、30%のプロパンチオール/エラストマー(w/w)濃度を達成した。反応混合物を50〜55℃で7時間、攪拌し、次に、反応混合物を23℃の温度とし、メタノールに注いだ(1/2.5の反応混合物/メタノール比、v/v)。沈殿物が形成され、これを単離して、23℃で乾燥させた。
【0047】
H NMR解析(300MHz;CDCl中)は、次のように官能化を示唆した:14mol%のエポキシ化、すなわち、約70mol%のエポキシ基がプロパンチオールを用いたエポキシ開環を被った。したがって、プロパンチオ官能基に対する9〜10%の官能化が達成された。
【0048】
本発明の方法及び組成物を、以下の実施形態によってさらに例証する。
【0049】
実施形態1:官能化エラストマーを調製する方法であって、エポキシ化エラストマーを提供する工程;及び、C〜C32ヒドロカルビル置換チオールを用いて前記エポキシ化エラストマーをエポキシ開環し、エポキシ官能基、ヒドロキシ官能基、及び置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基を含む官能化エラストマーを提供する工程を含み、前記ヒドロキシ官能基と前記置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基がビシナル官能基である、方法。
【0050】
実施形態2:前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C32アルキル基、置換又は非置換のC〜C32アルケニル基、置換又は非置換のC〜C18シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C18ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C18アリール基、若しくは、置換又は非置換のC〜C18ヘテロアリール基であることを特徴とする、実施形態1に記載の方法。
【0051】
実施形態3:前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C16アルキル基、置換又は非置換のC〜C16シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16アリール基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロアリール基、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであることを特徴とする、実施形態1に記載の方法。
【0052】
実施形態4:前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C12アルキル基、好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基、さらに好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基であることを特徴とする、実施形態1に記載の方法。
【0053】
実施形態5:前記エポキシ化エラストマーを提供する工程が、不飽和エラストマーをエポキシ化して前記エポキシ化エラストマーを形成する工程を含むことを特徴とする、実施形態1から4のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0054】
実施形態6:前記不飽和エラストマーが、少なくとも0.1mol%の不飽和、好ましくは0.1〜60mol%の不飽和、さらに好ましくは0.1〜40mol%の不飽和を含むことを特徴とする、実施形態5に記載の方法。
【0055】
実施形態7:前記不飽和エラストマーが、天然ポリイソプレンゴム;合成ポリイソプレンゴム;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンの単独重合体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンと、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、イソプレン、メタアクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、又は酢酸ビニルとの共重合体;クロロプレンゴム;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;エチレン−プロピレンゴム;エチレン−プロピレン−ジエンゴム;不飽和シリコーンゴム;又は上記の少なくとも1つを含む組合せを含むことを特徴とする、実施形態5から6のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0056】
実施形態8:前記不飽和エラストマーが、ポリブタジエンゴム、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ポリ(スチレン−ブタジエン)ゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴムを含み、好ましくはポリブタジエンゴム、ポリ(スチレン−ブタジエン)ゴム、又は上記の少なくとも1つを含む組合せを含むことを特徴とする、実施形態5から6のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0057】
実施形態9:前記エポキシ化が、過酸化物、好ましくはペルオキシ酸、さらに好ましくはペルオキシ安息香酸、最も好ましくはm−クロロペルオキシ安息香酸の存在下で行われることを特徴とする、実施形態5から8のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0058】
実施形態10:前記エポキシ化が、溶媒、好ましくは、脂肪族、環式脂肪族、複素環式脂肪族、芳香族、又はヘテロ芳香族の溶媒、さらに好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、又は上記の少なくとも1つを含む組合せの溶媒中で行われることを特徴とする、実施形態5から9のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0059】
実施形態11:前記エラストマーが、溶媒中、1〜22%(w/v)、好ましくは2〜16%(w/v)の濃度を有することを特徴とする、実施形態10に記載の方法。
【0060】
実施形態12:水性又はアルコール性塩基、好ましくは、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液、若しくは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド又は水酸化カリウムのメタノール溶液、若しくは、上記の少なくとも1つを含む組合せの溶液の添加による、前記エポキシ化をクエンチ処理する工程をさらに含むことを特徴とする、実施形態5から11のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0061】
実施形態13:前記エポキシ化エラストマーが、1〜50モルパーセント、好ましくは2〜40モルパーセント、さらに好ましくは3〜30モルパーセントのエポキシ化度を有することを特徴とする、実施形態1から12のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0062】
実施形態14:前記エポキシ化及び前記エポキシ開環が、前記エポキシ化エラストマーを単離することなく行われることを特徴とする、実施形態5から13のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0063】
実施形態15:前記エポキシ開環が、塩基の存在下で行われることを特徴とする、実施形態1から14のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0064】
実施形態16:前記塩基が、アルカリ土類又はアルカリ土類の酸化物又は水酸化物、四級化されたテトラ(C〜C12ヒドロカルビル)アンモニウム又はテトラ(C〜C12ヒドロカルビル)ホスホニウム塩、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであることを特徴とする、実施形態15に記載の方法。
【0065】
実施形態17:前記塩基が、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化カリウム、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであることを特徴とする、実施形態16に記載の方法。
【0066】
実施形態18:前記チオールが、前記エポキシ化エラストマーの質量に基づいて、5〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは15〜50質量%の濃度を有することを特徴とする、実施形態1から17のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0067】
実施形態19:前記エポキシ開環が、溶媒、好ましくは、脂肪族、環式脂肪族、複素環式脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族の溶媒、さらに好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、又は上記の少なくとも1つを含む組合せの溶媒の存在下で行われることを特徴とする、実施形態1から18のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0068】
実施形態20:前記エポキシ化エラストマーが、溶媒中、1〜22%(w/v)、好ましくは2〜16%(w/v)の濃度を有することを特徴とする、実施形態19に記載の方法。
【0069】
実施形態21:前記エポキシ開環が、0〜100℃、好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃の温度で行われることを特徴とする、実施形態1から20のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0070】
実施形態22:実施形態1から21のいずれか1つ以上に記載の方法によって調製された官能化エラストマー。
【0071】
実施形態23:エポキシ官能基、ヒドロキシ官能基、及びC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基を含む、官能化エラストマーであって、前記ヒドロキシ官能基と前記C〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基がビシナル官能基である、官能化エラストマー。
【0072】
実施形態24:前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C32アルキル基、置換又は非置換のC〜C32アルケニル基、置換又は非置換のC〜C18シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C18ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C18アリール基、若しくは、置換又は非置換のC〜C18ヘテロアリール基であることを特徴とする、実施形態23に記載のエラストマー。
【0073】
実施形態25:前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C16アルキル基、置換又は非置換のC〜C16シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16アリール基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロアリール基、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであることを特徴とする、実施形態23に記載のエラストマー。
【0074】
実施形態26:前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C12アルキル基であり、好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基であり、さらに好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基であることを特徴とする、実施形態23に記載のエラストマー。
【0075】
実施形態27:前記エラストマーが、ヒドロキシ官能化、エポキシ官能化、及びチオ官能化の合計で、1〜15モルパーセント、好ましくは1〜12モルパーセント、さらに好ましくは1〜10モルパーセントを有することを特徴とする、実施形態23から26のいずれか1つ以上に記載のエラストマー。
【0076】
実施形態28:前記エラストマーがさらに不飽和を含むことを特徴とする、実施形態23から27のいずれか1つ以上に記載のエラストマー。
【0077】
実施形態29:実施形態22から28のいずれか1つ以上に記載のエラストマーを含む、物品。
【0078】
実施形態30:前記物品がタイヤトレッドであることを特徴とする、実施形態29に記載の物品。
【0079】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別のことを明確に示さない限り、複数の対象を含む。「又は」は「及び/又は」を意味する。同じ成分又は特性を対象としたすべての範囲の端点は包含され、かつ、独立して組合せ可能である。より広い範囲に加えて、より狭い範囲又はより具体的な群の開示は、より広い範囲又はより広い群を排除しない。他に定められない限り、本明細書で用いられる技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。「組合せ」は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などを包含する。
【0080】
引用されたすべての特許、特許出願、及び他の参考文献は、ここに参照することにより、その全体が本明細書に取り込まれる。しかしながら、本出願における用語が、取り込まれた参考文献と矛盾又は対立する場合、本出願の用語が、取り込まれた参考文献の対立する用語に優先する。
【0081】
本明細書で用いられる用語「ヒドロカルビル」は、炭素、水素、及び必要に応じて、1つ以上のヘテロ原子(例えば、ハロゲン、O、N、S、P、又はSiなどの1、2、3、又は4つの原子)を含む基を包含し、1つ以上の官能基として存在しうる。「アルキル」とは、例えば、メチル、エチル、i−プロピル、及びn−ブチルなど、分岐鎖又は直鎖の一価の飽和炭化水素基を意味する。「アルキレン」とは、直鎖又は分岐鎖の二価の飽和炭化水素基(例えば、メチレン(−CH−)又はプロピレン(−(CH−))を意味する。「アルケニル」及び「アルケニレン」とは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する、それぞれ、一価又は二価の、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基(例えば、エテニル(−HC=CH)又はプロペニレン(−HC(CH)=CH−))を意味する。「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する、直鎖又は分岐鎖の一価の炭化水素基(例えば、エチニル)を意味する。「アルコキシ」とは、例えば、メトキシ、エトキシ、及びsec−ブチルオキシなど、酸素を介して連結されたアルキル基(すなわち、アルキル−O−)を意味する。「シクロアルキル」及び「シクロアルキレン」とは、それぞれ、式−C2n−x及び−C2n−2x−の一価及び二価の環状炭化水素基を意味し、ここで、xは環化の数である。「アリール」とは、一価の単環式又は多環式の芳香族基(例えば、フェニル又はナフチル)を意味する。「アリーレン」とは、二価の単環式又は多環式の芳香族基(例えば、フェニレン又はナフチレン)を意味する。接頭語「ハロ」とは、同一であっても異なっていてもよい、1つ以上のハロゲン(F、Cl、Br、又はI)置換基を含む基又は化合物を意味する。接頭語「ヘテロ」とは、ヘテロ原子(例えば、1つ、2つ、又は3つのヘテロ原子)である、少なくとも1つの環員を含む基又は化合物を意味し、各ヘテロ原子は独立してN、O、S、又はPである。
【0082】
「置換された」とは、化合物又は基が、水素の代わりに、少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、又は4つ)の置換基で置換されることを意味し、ここで、置換された原子の通常の価数を超えず、かつ、その置換が、化合物の製造、安定性、又は所望の特性に顕著に悪影響を与えないことを条件として、各置換基は、独立して、ニトロ(−NO)、シアノ(−CN)、ヒドロキシ(−OH)、ハロゲン、チオール(−SH)、チオシアノ(−SCN)、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6ハロアルキル、C1〜9アルコキシ、C1〜6ハロアルコキシ、C3〜12シクロアルキル、C5〜18シクロアルケニル、C6〜12アリール、C7〜13アリールアルキレン(例えばベンジル)、C7〜12アルキルアリーレン(例えばトルイル)、C4〜12ヘテロシクロアルキル、C3〜12ヘテロアリール、C1〜6アルキルスルホニル(−S(=O)−アルキル)、C6〜12アリールスルホニル(−S(=O)−アリール)、又はトシル(CHSO−)である。化合物が置換されている場合、炭素原子の表示数は、置換基のものを含めた、基内の炭素原子の総数である。
他の実施形態
1. 官能化エラストマーの調製方法において、
エポキシ化エラストマーを提供する工程、及び
〜C32ヒドロカルビル置換チオールを用いて前記エポキシ化エラストマーをエポキシ開環して官能化エラストマーを提供する工程であって、該官能化エラストマーは、
エポキシ官能基、
ヒドロキシ官能基、及び
置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基
を含む、工程
を含み、
前記ヒドロキシ官能基と前記置換又は非置換のC〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基とはビシナル官能基である、
方法。
2. 前記ヒドロカルビル基が、置換又は非置換のC〜C16アルキル基、置換又は非置換のC〜C16シクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換のC〜C16アリール基、置換又は非置換のC〜C16ヘテロアリール基、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであり、好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基であることを特徴とする、実施形態1に記載の方法。
3. 前記エポキシ化エラストマーを提供する工程が、不飽和エラストマーをエポキシ化して前記エポキシ化エラストマーを形成する工程を含むことを特徴とする、実施形態1から2のいずれか一項に記載の方法。
4. 前記不飽和エラストマーが、天然ポリイソプレンゴム;合成ポリイソプレンゴム;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンの単独重合体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、又は2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンと、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、イソプレン、メタアクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、又は酢酸ビニルとの共重合体;クロロプレンゴム;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;エチレン−プロピレンゴム;エチレン−プロピレン−ジエンゴム;不飽和シリコーンゴム;又は上記の少なくとも1つを含む組合せを含み、好ましくは、前記不飽和エラストマーが、ポリブタジエンゴム、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ポリ(スチレン−ブタジエン)ゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴムを含み、さらに好ましくはポリブタジエンゴム、ポリ(スチレン−ブタジエン)ゴム、又は上記の少なくとも1つを含む組合せを含むことを特徴とする、実施形態3に記載の方法。
5. エポキシ化する工程が、過酸化物、好ましくはペルオキシ酸、さらに好ましくはペルオキシ安息香酸、最も好ましくはm−クロロペルオキシ安息香酸の存在下で行われることを特徴とする、実施形態3から4のいずれか一項に記載の方法。
6. 前記エポキシ化が、溶媒、好ましくは、脂肪族、環式脂肪族、複素環式脂肪族、芳香族、又はヘテロ芳香族の溶媒、さらに好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、又は上記の少なくとも1つを含む組合せの溶媒中で行われ、前記エラストマーが、前記溶媒中、1〜22%(w/v)、好ましくは2〜16%(w/v)の濃度を有することを特徴とする、実施形態3から5のいずれか一項に記載の方法。
7. 水性又はアルコール性塩基、好ましくは、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液、あるいは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド又は水酸化カリウムのメタノール溶液、あるいは、上記の少なくとも1つを含む組合せの溶液の添加による、前記エポキシ化をクエンチ処理する工程をさらに含むことを特徴とする、実施形態3から6のいずれか一項に記載の方法。
8. 前記エポキシ化エラストマーが、1〜50モルパーセント、好ましくは2〜40モルパーセント、さらに好ましくは3〜30モルパーセントのエポキシ化度を有することを特徴とする、実施形態1から7のいずれか一項に記載の方法。
9. 前記エポキシ開環が塩基の存在下で行われ、該塩基が、アルカリ土類又はアルカリ土類の酸化物又は水酸化物、四級化されたテトラ(C〜C12ヒドロカルビル)アンモニウム又はテトラ(C〜C12ヒドロカルビル)ホスホニウム塩、又は上記の少なくとも1つを含む組合せであり、好ましくはテトラブチルアンモニウムヒドロキシド及び/又は水酸化カリウムであることを特徴とする、実施形態1から8のいずれか一項に記載の方法。
10. 前記ヒドロカルビル置換チオールが、1−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−メチル−1−プロパンチオール、1−ペンタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、1−ヘプタンチオール、1−オクタンチオール、2−エチルヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、シクロヘキサンチオール、2−フェニルエタンチオール、フェニルチオール、2−プロペン−1−チオール、2−フランメタンチオール、又はそれらの組合せから選択されることを特徴とする、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
11. 前記エポキシ開環が、溶媒、好ましくは、脂肪族、環式脂肪族、複素環式脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族の溶媒、さらに好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、又は上記の少なくとも1つを含む組合せの溶媒の存在下で行われ、前記エポキシ化エラストマーが、前記溶媒中、1〜22%(w/v)、好ましくは2〜16%(w/v)の濃度を有することを特徴とする、実施形態1から10のいずれか一項に記載の方法。
12. 前記エポキシ開環が、0〜100℃、好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃の温度で行われることを特徴とする、実施形態1から11のいずれか一項に記載の方法。
13. エポキシ官能基、
ヒドロキシ官能基、及び
〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基
を含み、
前記ヒドロキシ官能基及び前記C〜C32ヒドロカルビル置換チオ官能基がビシナル官能基であり、
前記ヒドロカルビル基が置換又は非置換のC〜C12アルキル基であり、好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基であり、さらに好ましくは、非置換のC〜Cアルキル基である、
官能化エラストマー。
14. 実施形態13に従った、又は、実施形態1〜12のいずれか一項に記載の方法に従って生成された、官能化エラストマーを含む物品。
15. 前記物品がタイヤトレッドであることを特徴とする、実施形態14に記載の物品。
図1
図2
図3A
図3B
図4