特許第6698102号(P6698102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

特許6698102凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法
<>
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000004
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000005
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000006
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000007
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000008
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000009
  • 特許6698102-凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698102
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】凝固因子と多重特異的抗体を用いた併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20200518BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20200518BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20200518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200518BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20200518BHJP
   C07K 16/36 20060101ALI20200518BHJP
   C07K 14/745 20060101ALI20200518BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20200518BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K38/36
   A61P7/04
   A61P43/00 121
   C07K16/46ZNA
   C07K16/36
   C07K14/745
   !C12P21/08
   !C12N15/13
【請求項の数】20
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2017-554448(P2017-554448)
(86)(22)【出願日】2016年4月7日
(65)【公表番号】特表2018-513163(P2018-513163A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】EP2016057662
(87)【国際公開番号】WO2016166014
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年12月15日
(31)【優先権主張番号】15164045.5
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】カラツィス,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】レヒナー,カタリーナ
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/067176(WO,A1)
【文献】 特表2010−513349(JP,A)
【文献】 特表2006−528965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00− 16/46
C07K 14/00− 14/825
A61K 39/00− 39/44
A61K 38/00− 38/58
C12N 15/00− 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血友病Aの処置に使用するための医薬組成物であって、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含み、活性化されていない凝固第IX因子と組み合わせて使用される多重特異的抗体を含む、医薬組成物。
【請求項2】
血友病Aの処置に使用するための医薬組成物であって、活性化されていない凝固第IX因子を含み、前記活性化されていない凝固第IX因子は、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体と組み合わせて使用される、医薬組成物。
【請求項3】
凝固第VIII因子のa)欠損症又はb)機能障害の処置に使用するための医薬組成物であって、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含み、活性化されていない凝固第IX因子と組み合わせて使用される多重特異的抗体を含む、医薬組成物。
【請求項4】
凝固第VIII因子のa)欠損症又はb)機能障害の処置に使用するための医薬組成物であって、活性化されていない凝固IX因子を含み、活性化されていない凝固IX因子は、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体と組み合わせて使用される、医薬組成物。
【請求項5】
血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体の使用であって、前記処置は活性化されていない凝固第IX因子と組み合わせる、使用。
【請求項6】
血友病Aの処置用の医薬品の製造のための活性化されていない凝固第IX因子の使用であって、前記凝固第IX因子は、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む、多重特異的抗体と組み合わせて使用される、使用。
【請求項7】
a)凝固第VIII因子の欠損症かb)機能障害かを患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む、多重特異的抗体の使用であって、前記処置は活性化されていない凝固第IX因子と組み合わせる、使用。
【請求項8】
a)凝固第VIII因子の欠損症かb)機能障害かを患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、活性化されていない凝固第IX因子の使用であって、前記活性化されていない凝固第IX因子は、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、活性化されていない凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む、多重特異的抗体と組み合わせて使用される、使用。
【請求項9】
前記患者が、先天性又は後天性の凝固第VIII因子の欠損症を患う、請求項3又は4記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記患者が、先天性又は後天性の凝固第VIII因子の欠損症を患う、請求項7又は8記載の使用。
【請求項11】
前記欠損症が、抗体、他のインヒビター、消費、又は希釈によって獲得される、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記欠損症が、抗体、他のインヒビター、消費、又は希釈によって獲得される、請求項10記載の使用。
【請求項13】
a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための
請求項1〜4、9及び11のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項14】
a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための
請求項5〜8、10及び12のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
a)出血のリスクが上昇している場合、
b)手術その他の侵襲的な施術中、及び/又は
c)血管損傷後
おいて使用される、請求項1〜4、9、11及び13のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項16】
a)出血のリスクが上昇している場合、
b)手術その他の侵襲的な施術中、及び/又は
c)血管損傷後
における、請求項5〜8、10、12及び14のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
前記抗体が二重特異的であり、そして、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位がそれぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含み、そして第二の抗原結合部位が、それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含む、請求項1〜4、9、11、13及び15のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体が二重特異的であり、そして、活性化されていない凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位がそれぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含み、そして第二の抗原結合部位が、それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含む、請求項5〜8、10、12、14及び16のいずれか一項記載の使用。
【請求項19】
前記抗体が、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む、二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、請求項1〜4、9、11、13、15及び17のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記抗体が、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む、二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、請求項5〜8、10、12、14、16及び18のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗体と組み合わせた特定の血液凝固(凝血)因子の適用を含む、出血性障害を有する患者のための治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
凝固系
あらゆる比較的大型の生物は、酸素及び栄養分を様々な臓器に送達し、かつ、二酸化炭素及び老廃物を廃棄する、血液循環系を有する。しかしながら、血液循環系が機能するためには血管の損傷は迅速かつ効果的に閉じられなければならない。この機能は、血管の損傷を閉じることのできる、血小板凝集物及びフィブリンゲルを血液が形成することを可能とする複雑な機序である血液凝固系によって充足される。
【0003】
血液凝固系に関与する1つの機序は凝固因子カスケードであり、該カスケードは一連のセリンプロテアーゼであり、該セリンプロテアーゼは連続的に活性化されるようになり最終的には血液凝固系の中心的な酵素であるトロンビンの形成をもたらす。トロンビンは、フィブリノーゲンをフィブリンへと開裂し、該フィブリンが沈殿すると、重合してフィブリン線維となり、該フィブリン線維はフィブリン塊を形成する。トロンビンはまた、該トロンビン自体の生成(第V因子及び第VIII因子)を促進する活性化補因子であり、トランスグルタミナーゼである第XIII因子を活性化し、該トランスグルタミナーゼは、フィブリン塊を架橋しこれによりフィブリン塊を安定化させる。そして、トロンビンは、血小板の強力な活性化因子でもある。
【0004】
凝固因子カスケードでは、トロンビンの形成の前に起こる2つの工程は、特定の補因子(それぞれ第Va因子及び第VIIIa因子)がその活性形で存在する場合に極めて促進される酵素(第Xa因子及び第IXa因子)を含む。上記のとおり、これらの補因子は、血漿の抑制能を超えるに十分な量のトロンビンが循環中で利用できるようになった場合に、トロンビンによって活性化される(図1参照)。
【0005】
出血
出血は、凝固カスケードの不十分な活性化の場合における最も深刻かつ重大な徴候の1つであり、そして、局所的部位から起こり得るか又は全身性であり得る。局所的な出血は病変に関連している可能性があり、そして止血機序の異常によってさらに複雑化され得る。出血性障害では凝固が不十分であり、先天性の凝固障害、後天性の凝固障害、又は外傷によって誘発された出血状態によって引き起こされ得る。いずれかの凝固因子の先天性又は後天性の欠損症は、出血傾向を伴う場合がある。
【0006】
血液凝固因子欠損症
凝固因子の欠損症により、出血の合併症が引き起こされ得る。この欠損症は、血液希釈、すなわち、凝固因子を含有していない水溶液の注入、又は、少ない血小板数若しくは上昇した凝固活性及び因子の消費に起因する血小板及び/若しくは凝固因子の減少に起因する可能性がある。
【0007】
凝固因子の欠損症の別の理由は、ビタミンKアンタゴニスト(クマリン又は関連化合物)の適用であり得る。ビタミンKアンタゴニストは、凝固第VII因子、第X因子、第II因子、及び第IX因子のガンマカルボキシル化を阻害し、これらの因子は凝固プロセスにおいて効果がなくなる。
【0008】
凝固因子の欠損症の別の理由は、先天性の遺伝子突然変異であり得、これにより特定の凝固因子が機能異常となるか又は消失して全く産生されなくなる。体内の大半の遺伝子は2つのコピー(父系及び母系の遺伝子)が利用可能であるという事実のため、凝固因子をコードしている遺伝子の突然変異により、重度の出血性表現型は全く起こらないことが典型的である。なぜなら、50%の凝固因子活性は、典型的には、患者の適切な止血に依然として十分であるからである。それ故、通常、先天性凝固因子欠損症は、2つの例外である血友病A及びBを除いて極めて稀である。
【0009】
血友病A及びB
凝固第IX因子及び第VIII因子はどちらも、X染色体にコードされている。男性はたった1本のX染色体を有する。それ故、第VIII因子又は第IX因子遺伝子の突然変異は、男性において出血性障害の表現型をもたらす。なぜなら、男性のこの遺伝子には遺伝的冗長性が全くないからである。
【0010】
血友病A(第VIII因子欠損症)の罹患率は、5,000人の出生男児に約1人の割合又は10,000人の出生数に1人の割合である。人種間の差は報告されておらず、様々な地域において2012年に登録された患者数には、日本では4627人、北米では17,482人、5つの主要な欧州の国々(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、及びスペイン)では18,461人が含まれた。
【0011】
主要な出血部位は、関節内、筋肉内、皮下、口腔内、頭蓋内、消化管、及び鼻腔内である。繰り返される関節内出血は、血友病A患者における健康に関連した生活の質を低下させる主要な要因である。なぜなら、それは歩行障害を伴う関節症及び血友病性関節症に進行する可能性があり、関節置換術が必要である場合があるからである。
【0012】
血友病Aの重症度は、血中の内因性第VIII因子活性に従って分類される。1%未満の第VIII因子活性を有する患者は重度の疾患を有し、1%から5%の活性を有する患者は中等症の疾患を有し、5%超から40%未満の活性を有する患者は軽症の疾患を有する。厳格な第VIII因子による予防処方計画を守らないか又は第VIII因子製品を利用できない重度の血友病を有する患者は、1か月間に数回、出血を発症し、これは中等症又は軽症の疾患を有する患者よりもはるかに高い頻度の自然発症の出血を示す(年間の出血の割合は30〜40回)。
【0013】
後天性血友病:後天性血友病は、血漿凝固因子、最も頻繁には第VIII因子(FVIII)に対して指向され、しかし潜在的にはまた、フォンウィルブランド因子、第IX因子、第V因子、第XI因子、第XII因子、及び第XIII因子に対しても指向される自己抗体(インヒビター)の発生によって引き起こされる、稀であるが生命を脅かす危険性のある出血性障害である。
【0014】
凝固因子欠損症の治療法
凝固因子欠損症の治療法は、主に、基礎にある障害に応じて変更される。
【0015】
希釈性凝固障害では、全ての凝固因子が欠失している。それ故、通常、患者は、構造タンパク質のフィブリノーゲンも含む全ての凝固因子を含有する新鮮凍結血漿を用いて処置される。
【0016】
ビタミンKアンタゴニストの効果に因る出血は、典型的には、濃縮されたビタミンK依存性凝固因子である第II因子、第VII因子、第X因子、及び第IX因子を用いて処置される。これらの濃縮製剤は、プロトロンビン複合体濃縮製剤と呼ばれる。
【0017】
1つの因子の欠損症は、典型的には、それぞれの因子、例えば血友病Aでは第VIII因子濃縮製剤、血友病Bでは第IX因子濃縮製剤、第VII因子欠損症では第VII因子濃縮製剤の適用などにより処置される。
【0018】
プロトロンビン複合体濃縮製剤を用いての治療法は典型的には、血友病A患者における凝固を改善しないだろう。なぜなら、これらは、通常の濃度の第II因子、第VII因子、第X因子、及び第IX因子を有しているからである(これらの患者は第VIII因子を欠失しているので)。プロトロンビン複合体濃縮製剤の使用のための適応症もまた、ビタミンK依存性因子の凝固因子欠損症の回復に限定されている。
【0019】
トロンビン生成に対する1つの凝固因子の活性の効果の分析は、大半の因子の凝固因子活性が約20%未満である場合にトロンビン生成の殆どが損なわれ、そして、20〜100%の凝固因子レベルでトロンビン生成に対するはるかにより低い効果が認められることを示す(Al Dieri R, et al Thromb Haemost. 2002 Oct;88(4):576-82;その中の図1参照)。
【0020】
凝固因子を使用した凝血促進療法の意義
血液希釈によって引き起こされる出血は比較的稀な事象であり、典型的には手術中若しくは手術後に又は外傷性出血後に起こる。これらの状況では、患者は典型的には手術時に又は集中治療室で処置され、ここでは血漿、凝固因子及び他の薬物の注入が慣用的には実施される。
【0021】
ビタミンKアンタゴニストによって引き起こされる出血もまた比較的稀であり、そして、通常、ビタミンKアンタゴニストを小休止することによって又はビタミンKの適用によって対処され得る。
【0022】
対照的に、血友病A患者では出血性障害は慢性的な容態であり、それ故、予防療法が実施されることが多い。僅か18〜19時間という第VIII因子の短い半減期が原因で、予防的処置のために、週3回の静脈内注入が必要であり、これは患者にとって厄介であり、かつ生活の質を損なう。これらの静脈内適用は、血友病Aを有する小児において特に厄介であるが、該血友病Aを有する小児は、成人と比較して小児ではより小さな及びより大きな損傷がより頻繁に起こるために予防的処置の必要性が高い。
【0023】
血友病A患者における第VIII因子を用いての補充療法の別の問題は、第VIII因子が、重症の血友病A患者にとって外来タンパク質であり、最大で30%というかなりの割合の患者が、第VIII因子に対する抗体(「インヒビター」)を形成し、これにより第VIII因子を用いての治療は多くの患者において実行不可能になることである(これらの患者に注入された第VIII因子は、その第VIII因子抗体によって急速に不活性化されるからである)。
【0024】
血友病A及びインヒビターを有する患者における凝固障害を処置するためのある治療戦略が存在する、すなわち、活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤(aPCC、例えばバクスター社によるファイバ)、又は、高レベルの活性化第VIIa因子(ノボ・ノルディスク社によるノボセブン)の適用である。どちらの戦略にも欠点がある:活性化凝固因子の適用に因り、どちらの薬剤によっても血栓性合併症が起こる可能性がある(例えばBaudo et al, Blood 120(2012) 39-46は、rVIIa又はaPCCのいずれかを用いて処置された後天性血友病患者において3.6%の割合の血栓症を報告している)。(また、Bui et al, J Thorac Cardiovasc Surg. 124(2002) 852-854, Chalwin et al; Eur J Cardiothorac Surg. 34(2008) 685-686、及びAledort; J Thromb Haemost. 2 (2004) 1700-1708も参照されたい)。
【0025】
さらに、前記薬剤は第VIII因子を含有せず、そして欠失している因子である第VIII因子の活性を代用せず、それ故、不安定な止血効果がもたらされる可能性がある。rVIIa製品は血中半減期が短く、それ故、2〜3時間毎に静脈内投与を必要とする。活性化PCCは出血が止まるまで約12時間毎に適用される。
【0026】
第IXa因子/第X因子に対する多重特異的抗体(「第VIII因子模倣抗体」)
血友病Aについて記載された治療法の限界を克服するために、第VIII因子の機能を模倣する第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体が開発された。これらの抗体は二重特異的であり、かつ、第IX因子/第IXa因子に対する結合部位並びに第X因子に対する結合部位を含む。この二重特異的結合より、前記抗体は、第IXa因子と第X因子を会合させ、これにより、第VIII因子の非存在下における第IXa因子の酵素的効率は有意に高まる。
【0027】
第IXa因子/第X因子に対する多重特異的抗体の二重特異的な例は、例えば、米国特許第2013/0330345号に記載され、これは第IXa因子の酵素活性を5700倍高め、これは、血友病を有さない個体において通常の第VIII因子の活性を用いて達成される促進度の約10%である(図3参照)(Fay PJ. Activation of factor VIII and mechanisms of cofactor action. Blood Rev. 2004 Mar;18(1):1-15)。
【0028】
インヒビターを有する及び有さない血友病A患者における、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を使用して実施される臨床試験及び前臨床試験において(ACE910:A. Muto, et al , Blood, 124 (2014) 3165-3171参照)、この戦略が、出血性合併症の予防に非常に効果的であることを示すことができた。
【0029】
血友病Aを処置するためのこのような抗体の使用は、第VIII因子の使用と比較して3つの明確に異なる利点を有する:
【0030】
抗体は、数週間という長い半減期を有し、これは第VIII因子の半減期と比較して約40〜50倍長い。このことにより、第VIII因子に必要とされる週3回と比較して、僅か月2回の適用による予防的処置を実施することが可能となる。
【0031】
抗体は皮下注射として投与され得、これは、第VIII因子の適用に必要とされる静脈内注射と比較して、患者にとってはるかに容易でかつあまり厄介ではない。これは、第VIII因子の注入の代わりにこれらの抗体を用いて処置されるであろう小児にとっては特に該当する。
【0032】
ACE910及び類似の抗体の適用は、第VIII因子に対するインヒビターの形成を引き起こさない。
【0033】
臨床試験における第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体であるACE910の優れた効力によって証明されるように(第56回米国血液学会の年次総会プログラムの演題及び演題691、第VIII因子インヒビターを有さない及び有する血友病A日本人患者における、第VIII因子の補因子機能を模倣したヒト化二重特異的抗体であるACE910の安全性及び予防効力プロファイル)、第IX因子の酵素活性を促進する第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体の活性は、血友病A患者においてこの薬物を予防的に使用するのに十分である。
【0034】
記載されているように、第VIIIa因子の非存在下における第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体の存在による第IXa因子の活性の促進は、第IXa因子単独の活性と比較して約5700倍であるが、第VIIIa因子の存在下における第IXa因子の活性と比較すると約90%弱い。第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体による第IX因子の活性のこの中程度の促進は、長期の予防的処置に有益である可能性が非常に高い。なぜなら、これにより、活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤又は高用量の活性化第VII因子の使用と比較して、血栓形成活性はより低くなり得るからである。
【0035】
未解決の問題:
第VIII因子模倣抗体を用いての療法は、血友病A患者の予防的処置として使用するのに効果的であることが示されたが、特定の患者においてはこれらの抗体のみによって提供されるよりも高い凝血促進活性が所望されることが想像できる。これは、例えば外傷後又は大手術の最中の場合であり得る。
【0036】
1つの選択肢は、第VIII因子模倣抗体の濃度を上昇させることであろう。しかしながら、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体のACE910の濃度を上昇させても、健常な個体の第VIIIa活性を用いて達成されるのと同じ第IXa因子の活性をもたらさないことが示された。
【0037】
明らかにこれらの状況において第VIII因子を適用することが想像できるだろう。これは第VIII因子インヒビターを有する患者で有効ではないだろう。なぜなら、これらは注入された第VIII因子を急速に不活化するであろうから。インヒビターを有さない患者では、患者は、インヒビターの形成のリスクに曝されるだろう。
【0038】
別の戦略は、さらに活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤又は活性化第VII因子を適用することであろう。これによってもまた、これらの化合物に伴う上昇した血栓リスクに患者が曝されることになるであろう。
【0039】
凝固因子欠損症の治療法は、通常、欠損している凝固因子の補充に基づく。このことは、全ての因子が出血及び血液希釈によって欠損している場合、患者は典型的には新鮮凍結血漿(FFP)を使用して全ての因子を受けるであろうことを意味する。ビタミンK依存性因子が、抗ビタミンK療法の合併症によって欠損している場合、ビタミン依存性因子を、プロトロンビン複合体濃縮製剤を使用して補充する。第VIII因子が欠損している場合(すなわち血友病A)、第VIII因子を注入し、第IX因子が欠損している場合(すなわち血友病B)、第IX因子が投与される。
【0040】
血友病Aのインヒビターは課題である。なぜなら、第VIII因子に対する抗体が、注入された因子を急速に不活化するであろうという事実のため、血友病Aのインヒビターは、第VIII因子の置換を可能としないからであり、また、その免疫応答のため、患者におけるインヒビターのレベルが上昇する可能性があるからである。
【0041】
ここで、典型的には、活性化凝固因子(活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤又は多量の活性化第VII因子)が注入される。これらの活性化因子は、重要な補因子である第VIII因子の非存在下であっても、凝固系の活性化を回復する。しかしながら、限界もある。なぜなら、これらの薬物は、有意な血栓リスクを伴い、そして常に予測可能でかつ持続的な止血応答をもたらすとは限らないからである。
【0042】
第VIII因子模倣抗体は、インヒビターを有する及び有さない血友病A患者において凝固活性化能を回復するための新規な戦略である。これらの新規な薬物は第VIII因子の効果を模倣し、そして、第VIII因子を含まない状況と比較して、第IX因子の活性を約5,700倍上昇させる。しかしながら、第IXa因子の活性は、正常なレベルの第VIIIa因子の存在下の生理活性の約10%に達する。おそらく、これは、血友病A患者の予防的処置にとっては最適である。なぜなら、このような第IXa因子の活性の中程度な促進は、血栓リスクの上昇を伴わない止血応答にとっては十分であるからである。
【0043】
しかしながら、特定の状況、例えば外傷後又は大手術の最中などにおいて第VIII因子模倣抗体の凝血促進活性をさらに促進する必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0044】
発明の要約
本発明は、血友病Aの処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を提供し、ここで前記抗体は、凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0045】
本発明は、血友病Aの処置に使用するための凝固第IX因子を提供し、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0046】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を提供し、ここで前記抗体は、凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0047】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、凝固第IX因子を提供し、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0048】
本発明は、血友病Aの処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、及び
ii)凝固第IX因子
の組合せを提供する。
【0049】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、及び
ii)凝固第IX因子
の組合せを提供する。
【0050】
本発明は、血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用を提供し、ここで前記処置は、凝固第IX因子と併用される。
【0051】
本発明は、血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子の使用を提供し、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0052】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用を提供し、ここで前記処置は、凝固第IX因子と併用される。
【0053】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子の使用を提供し、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0054】
本発明の1つの実施態様では、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者は、先天性又は後天性の凝固第VIII因子欠損症を患う。
【0055】
本発明の1つの実施態様では、前記欠損症は、抗体、他のインヒビター、消耗、又は希釈によって獲得される。
【0056】
本発明は、a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための、
前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用を提供する。
【0057】
本発明は、
a)出血のリスクが上昇している場合、
b)手術その他の侵襲的な施術中、及び/又は
c)血管損傷後
における、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用を提供する。
【0058】
本発明の1つの実施態様は、さらに、a)凝固第II因子、又はb)凝固第X因子、c)凝固第II因子及び第X因子;又はd)凝固第II因子、第X因子及び第VII因子が、組み合わせて使用される、上記の組合せ、抗体、又は使用である。
【0059】
本発明の1つの実施態様は、凝固第IX因子がプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)に含まれている、上記の組合せ、抗体、又は使用である。
【0060】
本発明の1つの実施態様では、このようなプロトロンビン複合体濃縮製剤は、第IX因子、第II因子、及び第X因子を含む。
【0061】
本発明の1つの実施態様では、このようなプロトロンビン複合体濃縮製剤は、第IX因子、第II因子、第X因子、及び第VII因子を含む。
【0062】
本発明の1つの実施態様では、上記の抗体は二重特異的であり、そして、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位はそれぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含み、そして第二の抗原結合部位は、それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含む。
【0063】
本発明の1つの実施態様では、上記の抗体はa)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む、二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である。
【0064】
本発明の1つの実施態様では、多重特異的抗体は、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位を含む第一のポリペプチドと、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第三の抗原結合部位を含む第三のポリペプチド、並びに、血液凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位を含む第二のポリペプチドと、血液凝固第X因子に結合する第四の抗原結合部位を含む第四のポリペプチドとを含む。1つの実施態様では、このような多重特異的抗体は、第一のポリペプチドから第四のポリペプチドまでを含み、第一のポリペプチドと第三のポリペプチドは各々、それぞれ血液凝固第IX因子又は活性化血液凝固第IX因子に対する抗体の重鎖又は軽鎖の抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドと第四のポリペプチドは各々、それぞれ血液凝固第X因子に対する抗体の重鎖又は軽鎖の抗原結合部位を含む。
【0065】
驚くべきことに、本発明者らは、凝固第IX因子を生理的レベルを超えて上昇させることにより(単独で、又は例えばPCCに含まれている第X因子及び/又は第II因子のような他の凝固因子と組み合わせてのいずれかで)、第VIII因子模倣抗体を用いて処置された血友病A患者のトロンビン生成は有意に増加し得、それ故、血友病Aの処置に有用であることを発見した。これは驚くべきことである。なぜなら、生理的レベルを超えて第IX因子のレベルを上昇させることで、特に第VIII因子欠損症及び血友病Aの試料中のトロンビン生成が増加するとは予想しなかったであろうからである(第IX因子はこれまで、第IX因子欠損血漿/血友病Bを患っている患者においてトロンビンの生成を増加させることしか知られていなかったからである)。
【0066】
トロンビンの生成を増強させることは凝固系に対して複数の効果を及ぼす。なぜならトロンビンは凝固の重要な酵素であるからである。トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンへと開裂し、それ故、フィブリン塊が形成され、トロンビンは血小板を活性化する。それ故、トロンビン生成の増加によって、フィブリン塊の形成の増加及び血小板の活性化も起こる。さらに、定期的なトロンビンの形成によって、繊維素溶解能の低下も起こる(TAFI=トロンビン活性化線溶阻害因子により)。
【0067】
本発明の方法の利点は多様である:
【0068】
それは、第VIII因子模倣抗体の凝血促進活性をさらに延長することを可能とする。凝固因子のみが注入されるので、血栓リスクは、活性化PCC中の活性化凝固因子及び第VIIa因子の適用と比較して低い。どの因子も第VIII因子に関連していないので、血友病A患者に対するこの処置によって、第VIII因子に対する自己抗体の形成のリスクは全くない。
【0069】
それ故、本発明によって、好ましい薬物動態、第VIII因子インヒビター患者における優れた活性、優れた適用経路(静脈内に対して皮下)のような第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体(第VIII因子模倣抗体)の価値ある特性は、薬物療法の凝血促進効果をさらに高めるための手段によってさらに補足される。第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を用いての継続した単独療法中に、より少ないトロンビン生成(第VIII因子を用いての処置と比較して)に因る高い安全域を達成することができる。それ故、本発明は、特定の出来事:手術、急性外傷などのために(一時的に)トロンビン生成を増加させるのに特に有用である。抗体と組み合わせて使用された凝固第IX因子の比較的短い半減期に因り(25時間)(第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体の半減期(皮下注射後約4〜5週間)と比較して)、トロンビン生成増加の効果は、上記の出来事についてのある一定の期間に限定され得る(長期の処置中に不必要な血栓リスクを引き起こさない)。
【0070】
第X因子/第IXa因子に対する抗体と、活性化されていない凝血因子(第IX因子単独で、又は、第VII因子、第X因子、及び第II因子の1つ又はいくつかとの組合せ)の組合せは、患者にどの形態の活性な凝固酵素も加えない。組織因子が血管損傷部位に放出された場合にのみ、トロンビン生成が起こり得る。(図2参照−本発明の組合せの例示的スキーム)。
【0071】
対照的に、活性凝血因子を用いての治療は、血管損傷部位における凝固プロセスの局在化を妨害する可能性があり、これは、約3%の有意な血栓症の比率によって示される(Baudo et al, Blood 120(2012) 39-46)。
【0072】
それ故、本発明は、第VIII因子模倣抗体を用いて処置された患者の凝血促進活性の上昇を可能とし、これは第VIII因子又は活性化凝固因子の適用に基づかない。
【0073】
驚くべきことに、本発明者らは、ビタミンK依存性の第IX因子及びさらには例えば第X因子及び第II因子の適用は、試料はすでに通常レベルのこれらの因子を含有しているけれども、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を用いて処置された血友病Aの血漿のトロンビン生成(及びそれ故、凝血促進活性)を増加させることを発見した。第IX因子のみの適用も、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を含有している患者の試料のトロンビン生成を増加させる。
【0074】
本発明の方法の別の利点は、適用された凝固因子(第II因子、第IX因子、及び第X因子)は循環中において、第VIIa因子(2.5時間)及び第VIII因子(12時間)と比較して比較的長い半減期を有する(約65時間、約25時間、約40時間)。
【0075】
第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体と、凝固第IX因子、第X因子及び/又は第II因子との組合せの別の使用もまた、直接的に又は間接的に作用する抗凝固剤に因る出血、凝固障害を有する患者又は第VIII因子欠損症に関連していない出血合併症を経験している患者における手術などの、凝血促進処置を必要とする他の状況においても有益であり得る。
【0076】
本発明の1つの態様は、血漿の提供に由来し得るか又は組換えタンパク質産生を使用して産生された、凝固第IX因子及び/又は第II因子を含有している組成物である。
【0077】
本発明の1つの実施態様は、本明細書に記載のような組合せ、抗体、又は使用であり、ここで第IX因子は、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を用いて処置された血友病A患者に10U〜200Uの第IX因子/kg(体重)の量で投与される。1つの実施態様では、さらに第X因子も、10U〜200Uの第X因子/kg(体重)、好ましくは50〜200Uの第IX因子/kg(体重)の量で投与される。
【0078】
本発明の1つの実施態様は、本明細書に記載のような組合せ、抗体、又は使用であり、ここで第IX因子は、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を用いて処置された血友病A患者に10U〜200Uの第IX因子/kg(体重)の量で投与される。1つの実施態様では、さらに第II因子も、10U〜200Uの第II因子/kg(体重)の量で投与される。
【0079】
本発明の1つの実施態様は、本明細書に記載のような組合せ、抗体、又は使用であり、ここで第IX因子は、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を用いて処置された血友病A患者に10U〜200Uの第IX因子/kg(体重)の量で投与される。1つの実施態様では、さらに第II因子及び第X因子も、10U〜200Uの第II因子/kg(体重)及び10U〜200Uの第X因子/kg(体重)の量で投与される。
【0080】
本発明の1つの実施態様は、本明細書に記載のような組合せ、抗体、又は使用であり、ここでプロトロンビン複合体(PCC)は、第IXa因子/第X因子に対する二重特異的抗体を用いて処置された血友病A患者に10U〜200UのPCC/kg(体重)の量で投与される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1】血液凝固系の図解:図は、血管の横断面を示す。血管壁は内皮細胞によって覆われ、該細胞は抗血栓特性を有する。血管損傷が起こると、内皮細胞層は破壊され、内皮下の細胞は血液に曝される。これによって組織因子(TF)が放出され、これは強力な凝血促進活性を有する内皮下の細胞の膜貫通タンパク質である。TFは、凝固第VIIa因子と複合体を形成し、次いで、第X因子を第Xa因子に、そして第IX因子を第IXa因子へと活性化する。TF−第VIIa因子複合体による第X因子の直接的活性化は、組織因子経路インヒビター(TFPI)によって阻害され、一方、第Xa因子及び第XIa因子の活性は、補因子である第V因子及び第VIII因子がその活性形で存在しない限り遅い。一旦遊離トロンビンが形成されると、それは第V因子及び第VIII因子をその活性形へと活性化し、そしてトロンビン生成速度は大きく加速される。しかしながら、血友病Aでは第VIII因子は欠損しており、それ故、トロンビン生成速度は非常に遅いままであり、これにより出血合併症が起こる。
図2】第IX因子、又は第X因子及び/若しくは第II因子と組み合わせた第IX因子と、第X因子/第IXa因子に対する二重特異的抗体(BsabFIX/FX)の組合せ適用の図解が示されている。下線:BsabFIX/FXの凝血促進活性を上昇させる凝固因子。
図3a】(例えば血友病Aのような凝固第VIII因子の欠損症又は機能障害によって特徴付けられる疾患モデルとしての)凝固第VIII因子の欠損している血漿試料中のトロンビン生成に対する、第X因子/第IXa因子に対する抗体の添加、対、第VIII因子の添加の比較効果。x軸:時間[分]。y軸:トロンビン[nM]。図3a:第VIII因子の添加により迅速なトロンビンの生成が起こり、第VIII因子を欠失している試料と比較して合計して7倍多いトロンビンが生成される。
図3b】(例えば血友病Aのような凝固第VIII因子の欠損症又は機能障害によって特徴付けられる疾患モデルとしての)凝固第VIII因子の欠損している血漿試料中のトロンビン生成に対する、第X因子/第IXa因子に対する抗体の添加、対、第VIII因子の添加の比較効果。x軸:時間[分]。y軸:トロンビン[nM]。図3b:また、BsabFIX/FXの添加によっても、トロンビン生成の有意な増加が起こり、これは第VIII因子を欠失している試料と比較して3.4倍から4.4倍高い。
図3c】(例えば血友病Aのような凝固第VIII因子の欠損症又は機能障害によって特徴付けられる疾患モデルとしての)凝固第VIII因子の欠損している血漿試料中のトロンビン生成に対する、第X因子/第IXa因子に対する抗体の添加、対、第VIII因子の添加の比較効果。x軸:時間[分]。y軸:トロンビン[nM]。図3c:第VIII因子又はBsabFIX/FXの補充された試料のトロンビン生成を比較。
図4a】(例えば血友病Aのような凝固第VIII因子の欠損症又は機能障害によって特徴付けられる疾患モデルとしての)凝固第VIII因子の欠損している血漿試料中のトロンビン生成に対する、第IX因子対第VIII因子と組み合わせた第X因子/第IXa因子に対する抗体の比較効果。x軸:時間[分]。y軸:トロンビン[nM]。図4a:Bsab FIX/FXを用いて処置された第VIII因子欠損血漿への第IX因子の組合せ/添加:Bsab FIX/FXを用いて処置された第VIII因子欠損血漿への第IX因子(100%)の添加により、トロンビン生成は有意に増加する。さらに、図に示されているように、ピークに達するまでの時間は、第IX因子の添加によって有意に短縮され、すなわち、トロンビン生成は増加しただけでなく、トロンビン生成はまた加速された。図に見られるように、Bsab FIX/FXを用いて処置された試料のトロンビン生成ピーク並びにピークに達するまでの時間は、100%の第VIII因子を用いた試料と一致した。
図4b】(例えば血友病Aのような凝固第VIII因子の欠損症又は機能障害によって特徴付けられる疾患モデルとしての)凝固第VIII因子の欠損している血漿試料中のトロンビン生成に対する、第IX因子対第VIII因子と組み合わせた第X因子/第IXa因子に対する抗体の比較効果。x軸:時間[分]。y軸:トロンビン[nM]。図4b:Bsab FIX/FXを用いて処置された第VIII因子欠損血漿への、第IX因子を含むプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)の組合せ/添加:Bsab FIX/FXを用いて処置された第VIII因子欠損血漿へのPCC(1U/ml)の添加により、トロンビン生成は有意に増加する。75μg/mlのBsab FIX/FXを用いた試料では、これによりトロンビン生成は94%増加した。25μg/mlのRO5534262を用いた試料では、トロンビン生成の90%の増加が認められた。両方の場合において、トロンビン生成ピークは、第VIII因子の補充された試料と比較して、PCCの添加されたBsab FIX/FXを用いて処置された試料について類似していた。
【発明を実施するための形態】
【0082】
発明の詳細な説明
本発明は、血友病Aの処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を提供し、ここでの該抗体は、凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0083】
本発明は、血友病Aの処置に使用するための凝固第IX因子を提供し、ここでの凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0084】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を提供し、ここでの該抗体は凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0085】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための凝固第IX因子を提供し、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0086】
本発明は、血友病Aの処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、及び
ii)凝固第IX因子
の組合せを提供する。
【0087】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、及び
ii)凝固第IX因子
の組合せを提供する。
【0088】
本発明は、血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用を提供し、ここで該処置は凝固第IX因子と組み合わせる。
【0089】
本発明は、血友病Aの処置用の医薬品の製造のための凝固第IX因子の使用を提供し、ここでの凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0090】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用を提供し、ここで該処置は凝固第IX因子と組み合わせる。
【0091】
本発明は、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための凝固第IX因子の使用を提供し、ここでの凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0092】
本発明の1つの実施態様では、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者は、先天性又は後天性の凝固第VIII因子の欠損症を患う。
【0093】
本発明の1つの実施態様では、欠損症は、抗体、他のインヒビター、消費、又は希釈によって獲得される。
【0094】
本発明は、
a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための
前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用を提供する。
【0095】
a)出血のリスクが上昇している場合、
b)手術その他の侵襲的な施術中、及び/又は
c)血管損傷後
における、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用を提供する。
【0096】
本発明の1つの実施態様は、さらに、a)凝固第II因子、又はb)凝固第X因子、c)凝固第II因子及び第X因子;又はd)凝固第II因子、第X因子及び第VII因子が、組み合わせて使用される、上記の組合せ、抗体、又は使用である。
【0097】
本発明の1つの実施態様は、凝固第IX因子がプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)に含まれている、上記の組合せ、抗体、又は使用である。
【0098】
本発明の1つの実施態様では、このようなプロトロンビン複合体濃縮製剤は、第IX因子、第II因子、及び第X因子を含む。
【0099】
本発明の1つの実施態様では、このようなプロトロンビン複合体濃縮製剤は、第IX因子、第II因子、第X因子、及び第VII因子を含む。
【0100】
本発明の1つの実施態様では、上記の抗体は二重特異的であり、そして、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位はそれぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含み、そして第二の抗原結合部位は、それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含む。
【0101】
本発明の1つの実施態様では、上記の抗体はa)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む、二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である。
【0102】
本発明の1つの実施態様では、多重特異的抗体は、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位を含む第一のポリペプチドと、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第三の抗原結合部位を含む第三のポリペプチド、並びに、血液凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位を含む第二のポリペプチドと、血液凝固第X因子に結合する第四の抗原結合部位を含む第四のポリペプチドとを含む。1つの実施態様では、このような多重特異的抗体は、第一のポリペプチドから第四のポリペプチドまでを含み、第一のポリペプチドと第三のポリペプチドは各々、それぞれ血液凝固第IX因子又は活性化血液凝固第IX因子に対する抗体の重鎖又は軽鎖の抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドと第四のポリペプチドは各々、それぞれ血液凝固第X因子に対する抗体の重鎖又は軽鎖の抗原結合部位を含む。
【0103】
本発明の1つの実施態様では、第一のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(a1)から(a11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖のCDRを含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(b1)から(b11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖のCDRを含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(a1)それぞれ配列番号75、76、及び77の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q1の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a2)それぞれ配列番号78、79及び80の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q31の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a3)それぞれ配列番号81、82、及び83の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q64の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a4)それぞれ配列番号84、85、及び86の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q85の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a5)それぞれ配列番号87、88、及び89の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q153の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a6)それぞれ配列番号90、91、及び92の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q354の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a7)それぞれ配列番号93、94、及び95の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q360の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a8)それぞれ配列番号96、97、及び98の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q405の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a9)それぞれ配列番号99、100、及び101の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q458の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a10)それぞれ配列番号102、103、及び104の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q460の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a11)それぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b1)それぞれ配列番号108、109、及び110の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J232の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b2)それぞれ配列番号111、112、及び113の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J259の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b3)それぞれ配列番号114、115、及び116の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J268の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b4)それぞれ配列番号117、118、及び119の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J300の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b5)それぞれ配列番号120、121、及び122の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J321の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b6)それぞれ配列番号123、124、及び125の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J326の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b7)それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b8)それぞれ配列番号129、130、及び131の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J339の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b9)それぞれ配列番号132、133、及び134の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J344の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b10)それぞれ配列番号135、136、及び137の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J346の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;及び(b11)それぞれ配列番号174、175、及び176の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J142の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位。
【0104】
本発明の1つの実施態様では、第一のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(a1)から(a11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖の可変領域を含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(b1)から(b11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖の可変領域を含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(a1)配列番号35の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q1の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a2)配列番号36の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q31の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a3)配列番号37の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q1の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a4)配列番号38の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q85の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a5)配列番号39の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q153の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a6)配列番号40の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q354の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a7)配列番号41の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q360の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a8)配列番号42の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q405の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a9)配列番号43の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q458の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a10)配列番号44の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q460の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a11)配列番号45の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q499の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b1)配列番号46の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J232の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b2)配列番号47の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J259の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b3)配列番号48の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J268の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b4)配列番号49の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J300の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b5)配列番号50の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J321の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b6)配列番号51の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J326の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b7)配列番号52の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J327の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b8)配列番号53の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J339の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b9)配列番号54の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J344の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b10)配列番号55の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J346の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;及び(b11)配列番号172の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J142の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位。
【0105】
本発明の1つの実施態様では、第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位は、以下の(c1)から(c10)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる軽鎖のCDRを含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(c1)それぞれ配列番号138、139、及び140の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L2の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c2)それぞれ配列番号141、142、及び143の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L45の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c3)それぞれ配列番号144、145、及び146の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L248の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c4)それぞれ配列番号147、148、及び149の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L324の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c5)それぞれ配列番号150、151、及び152の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L334の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c6)それぞれ配列番号153、154、及び155の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L377の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c7)それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c8)それぞれ配列番号159、160、及び161の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L406の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c9)それぞれ配列番号137、138、及び139の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L408の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;及び(c10)それぞれ配列番号177、178、及び179の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L180の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位。
【0106】
本発明の1つの実施態様では、第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位は、以下の(c1)から(c10)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる軽鎖の可変領域を含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(c1)配列番号56の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L2の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c2)配列番号57の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L45の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c3)配列番号58の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L248の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c4)配列番号59の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L324の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c5)配列番号60の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L334の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c6)配列番号61の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L377の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c7)配列番号62の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L404の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c8)配列番号63の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L406の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c9)配列番号64の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L408の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;及び(c10)配列番号173の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L180の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位。
【0107】
本発明の1つの実施態様では、第一及び第二のポリペプチドは抗体の重鎖の定常領域をさらに含み、そして第三及び第四のポリペプチドは、抗体の軽鎖の定常領域を含む。
【0108】
本発明の1つの実施態様では、第一及び第二のポリペプチドは抗体の重鎖の定常領域を含み、そして第三及び第四のポリペプチドは、抗体の軽鎖の定常領域を含み、ここで第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは共通して共有されている軽鎖である。
【0109】
本発明の1つの実施態様では、第一のポリペプチドは、以下の(a1)から(a14)から選択されたいずれか1つの抗体の重鎖を含み、第二のポリペプチドは、以下の(b1)から(b12)から選択されたいずれか1つの抗体の重鎖を含み、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは、以下の(c1)から(c10)から選択されたいずれか1つの抗体の軽鎖を含む:(a1)配列番号1のアミノ酸配列(Q1−G4k)からなる抗体の重鎖;(a2)配列番号2のアミノ酸配列(Q31−z7)からなる抗体の重鎖;(a3)配列番号3のアミノ酸配列(Q64−z55)からなる抗体の重鎖;(a4)配列番号10のアミノ酸配列(Q64−z7)からなる抗体の重鎖;(a5)配列番号11のアミノ酸配列(Q85−G4k)からなる抗体の重鎖;(a6)配列番号12のアミノ酸配列(Q153−G4k)からなる抗体の重鎖;(a7)配列番号13のアミノ酸配列(Q354−z106)からなる抗体の重鎖;(a8)配列番号14のアミノ酸配列(Q360−G4k)からなる抗体の重鎖;(a9)配列番号15のアミノ酸配列(Q360−z118)からなる抗体の重鎖;(a10)配列番号16のアミノ酸配列(Q405−G4k)からなる抗体の重鎖;(a11)配列番号17のアミノ酸配列(Q458−z106)からなる抗体の重鎖;(a12)配列番号18のアミノ酸配列(Q460−z121)からなる抗体の重鎖;(a13)配列番号19のアミノ酸配列(Q499−z118)からなる抗体の重鎖;(a14)配列番号20のアミノ酸配列(Q499−z121)からなる抗体の重鎖;(b1)配列番号4のアミノ酸配列(J268−G4h)からなる抗体の重鎖;(b2)配列番号5のアミノ酸配列(J321−G4h)からなる抗体の重鎖;(b3)配列番号6のアミノ酸配列(J326−z107)からなる抗体の重鎖;(b4)配列番号7のアミノ酸配列(J344−z107)からなる抗体の重鎖;(b5)配列番号21のアミノ酸配列(J232−G4h)からなる抗体の重鎖;(b6)配列番号22のアミノ酸配列(J259−z107)からなる抗体の重鎖;(b7)配列番号23のアミノ酸配列(J300−z107)からなる抗体の重鎖;(b8)配列番号24のアミノ酸配列(J327−z107)からなる抗体の重鎖;(b9)配列番号25のアミノ酸配列(J327−z119)からなる抗体の重鎖;(b10)配列番号26のアミノ酸配列(J339−z119)からなる抗体の重鎖;(b11)配列番号27のアミノ酸配列(J346−z107)からなる抗体の重鎖;(b12)配列番号170のアミノ酸配列(J142−G4h)からなる抗体の重鎖;(c1)配列番号8のアミノ酸配列(L2−k)からなる抗体の軽鎖;(c2)配列番号9のアミノ酸配列(L45−k)からなる抗体の軽鎖;(c3)配列番号28のアミノ酸配列(L248−k)からなる抗体の軽鎖;(c4)配列番号29のアミノ酸配列(L234−k)からなる抗体の軽鎖;(c5)配列番号30のアミノ酸配列(L334−k)からなる抗体の軽鎖;(c6)配列番号31のアミノ酸配列(L377−k)からなる抗体の軽鎖;(c7)配列番号32のアミノ酸配列(L404−k)からなる抗体の軽鎖;(c8)配列番号33のアミノ酸配列(L406−k)からなる抗体の軽鎖;(c9)配列番号34のアミノ酸配列(L408−k)からなる抗体の軽鎖;及び(c10)配列番号171のアミノ酸配列(L180−k)からなる抗体の軽鎖。
【0110】
本発明の1つの実施態様では、上記の抗体は以下の(a)から(u)のいずれか1つの二重特異的抗体である:(a)二重特異的抗体(Q1−G4k/J268−G4h/L45−k)、ここで第一のポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号9を共通して共有する軽鎖である;(b)二重特異的抗体(Q1−G4k/J321−G4h/L45−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号9を共通して共有する軽鎖である;(c)二重特異的抗体(Q31−z7/J326−z107/L2−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号8を共通して共有する軽鎖である;(d)二重特異的抗体(Q64−z55/J344−z107/L45−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号9を共通して共有する軽鎖である;(e)二重特異的抗体(Q64−z7/J326−z107/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(f)二重特異的抗体(Q64−z7/J344−z107/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(g)二重特異的抗体(Q85−G4k/J268−G4h/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(h)二重特異的抗体(Q85−G4k/J321−G4h/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(i)二重特異的抗体(Q153−G4k/J232−G4h/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号12のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(j)二重特異的抗体(Q354−z106/J259−z107/L324−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号13のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号22のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号29を共通して共有する軽鎖である;(k)二重特異的抗体(Q360−G4k/J232−G4h/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(l)二重特異的抗体(Q360−z118/J300−z107/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号15のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(m)二重特異的抗体(Q405−G4k/J232−G4h/L248−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号16のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号28を共通して共有する軽鎖である;(n)二重特異的抗体(Q458−z106/J346−z107/L408−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号27のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号34を共通して共有する軽鎖である;(o)二重特異的抗体(Q460−z121/J327−z119/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(p)二重特異的抗体(Q499−z118/J327−z107/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号24のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(q)二重特異的抗体(Q499−z118/J327−z107/L377−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号24のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号31を共通して共有する軽鎖である;(r)二重特異的抗体(Q499−z118/J346−z107/L248−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号27のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号28を共通して共有する軽鎖である;(s)二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号32を共通して共有する軽鎖である;(t)二重特異的抗体(Q499−z121/J339−z119/L377−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号26のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号31を共通して共有する軽鎖である;及び(u)二重特異的抗体(Q153−G4k/J142−G4h/L180−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号12のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号170のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号171を共通して共有する軽鎖である。
【0111】
本発明の1つの実施態様は、上記の組合せ、抗体、又は使用であり、ここで、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を用いて処置される血友病A患者に、第IX因子は10U〜200Uの第IX因子/kg(体重)の量で投与される。本発明の1つの実施態様は、上記の組合せ、抗体、又は使用であり、ここで、さらに第X因子が10U〜200Uの第X因子/kg(体重)の量で投与される。本発明の1つの実施態様は、上記の組合せ、抗体、又は使用であり、ここでさらに、第II因子が10U〜200Uの第II因子/kg(体重)の量で投与される。本発明の1つの実施態様は、上記の組合せ、抗体、又は使用であり、ここでさらに、第II因子及び第X因子が10U〜200Uの第II因子/kg(体重)及び10U〜200Uの第X因子/kg(体重)の量で投与される。本発明の1つの実施態様は、上記の組合せ、抗体、又は使用であり、ここで、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を用いて処置される血友病A患者に、プロトロンビン複合体(PCC)は10U〜200UのPCC/kg(体重)の量で投与される。
【0112】
本明細書に記載の多重特異的抗体及び抗原結合分子は、少なくとも2つの異なる種類の抗原に特異的に結合することのできる、第一の抗原結合部位及び第二の抗原結合部位を含む。第一の抗原結合部位及び第二の抗原結合部位は、それらが第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子にそれぞれ結合する活性を有している限りにおいて特に限定されないが、例としては、抗原との結合に必要な部位、例えば抗体、足場分子(抗体様分子)若しくはペプチド、又はこのような部位を含有している断片が挙げられる。足場分子は、標的分子への結合によって機能を示す分子であり、そして任意のポリペプチドを、それらが少なくとも1つの標的抗原に結合することのできるコンフォメーション的に安定なポリペプチドである限りにおいて使用してもよい。このようなポリペプチドの例としては、抗体可変領域、フィブロネクチン(国際公開公報第2002/032925号)、プロテインAドメイン(国際公開公報第1995/001937号)、LDL受容体Aドメイン(国際公開公報第2004/044011号、国際公開公報第2005/040229号)、アンキリン(国際公開公報第2002/020565号)など、並びにまたNygren et al.(Current Opinion in Structural Biology, 7: 463-469 (1997);及びJournal of Immunol Methods, 290: 3-28 (2004))、Binz et al.(Nature Biotech 23: 1257-1266 (2005))及びHosse et al.(Protein Science 15: 14-27(2006))による文書に記載された分子も挙げられる。さらに、Curr Opin Mol Ther. 2010 Aug; 12(4): 487-95及びDrugs. 2008; 68(7): 901-12に記載のように、標的抗原に結合することのできるペプチド分子も使用され得る。
【0113】
本明細書において、多重特異的な抗原結合分子は、それらが少なくとも2つの異なる種類の抗原に結合することができる分子である限り特に限定されないが、例としては、上記の抗原結合部位を含有しているポリペプチド、例えば抗体及び足場分子、並びに、その断片、及び核酸分子及びペプチドを含むアプタマーが挙げられ、そしてそれらは単一分子であっても又はその多量体であってもよい。好ましい多重特異的な抗原結合分子としては、少なくとも2つの異なる抗原に特異的に結合することのできる多重特異的抗体が挙げられる。本発明の第VIII因子を機能的に代用する活性を有する抗体の特に好ましい例としては、2つの異なる抗原に特異的に結合することのできる二重特異的抗体(BsAb)が挙げられる(それらはまたデュアル特異的抗体とも呼ばれ得る)。
【0114】
本発明において、「共通して共有される軽鎖」という用語は、2つ以上の異なる重鎖に連結することのできる軽鎖を指し、そして各々の抗原に対する結合能を示す。本明細書において、「異なる重鎖(群)」という用語は好ましくは、異なる抗原に対する抗体の重鎖を指すがそれに限定されず、そしてまた、そのアミノ酸配列が互いに異なる重鎖も指す。共通して共有される軽鎖は、例えば、国際公開公報第2006/109592号に記載の方法に従って得ることができる。
【0115】
本発明の多重特異的抗原結合分子(好ましくは二重特異的抗体)は、2つ以上の異なる抗原に対して特異性を有する抗体、又はこのような抗体の断片を含む分子である。本発明の抗体は特に限定されないが、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明において使用されるモノクローナル抗体は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、及びサルなどの動物に由来するモノクローナル抗体だけでなく、人工的に改変された遺伝子組換え抗体、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、及び二重特異的抗体も含む。
【0116】
さらに、本発明の多重特異的抗原結合分子となるであろう抗体の軽鎖は異なっていてもよいが、好ましくは共通して共有される軽鎖を有する。
【0117】
本発明の多重特異的抗原結合分子は好ましくは、遺伝子組換え技術を使用して作製された組換え抗体である(例えば、MACMILLAN PUBLISHERS LTD によって1990年に英国で刊行されたBorrebaeck CAK and Larrick JW、THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIESを参照)。組換え抗体は、抗体を産生するハイブリドーマ又は抗体産生細胞、例えば感作リンパ球から、抗体をコードしているDNAをクローニングし、それらを適切なベクターに挿入し、そしてそれらを宿主(宿主細胞)に導入して抗体を産生することによって得ることができる。
【0118】
さらに、本発明の抗体は、完全抗体だけでなく、抗体断片及び低分子量抗体(ミニボディ)及び改変された抗体も含み得る。
【0119】
例えば、抗体断片又はミニボディとしては、ディアボディ(Dbs)、鎖状抗体、及び一本鎖抗体(本明細書では以後、scFvとして示される)分子が挙げられる。本明細書において、「Fv断片」は、完全な抗原認識部位と結合部位とを含む最小の抗体断片として定義される。
【0120】
「Fv」断片は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が非共有結合によって強く連結されている二量体(VH−VL二量体)である。各々の可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)は互いに相互作用して、VH−VL二量体の表面上に抗原結合部位を形成する。6つのCDRが抗体に抗原結合部位を付与する。しかしながら、1つの可変領域(すなわち抗原に対して特異的であるCDRを3つしか含まないFvの半分)だけで抗原を認識し抗原に結合することができるが、その親和性は完全な結合部位の親和性よりも低い。
【0121】
Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、軽鎖定常領域及び重鎖定常領域(CH1)を含む。Fab’断片は、それがさらに抗体のヒンジ領域に由来する1つ以上のシステインを含む、重鎖のCH1領域のカルボキシ末端に由来するいくつかの残基を含む点で、Fabとは異なる。Fab’−SHは、その定常領域の1つ以上のシステイン残基が遊離チオール基を含んでいるFab’を指す。F(ab')断片は、F(ab')2というペプシン消化物のヒンジ領域内のシステイン残基間のジスルフィド結合の切断によって生成される。他の化学的に結合した抗体断片もまた当業者には公知である。
【0122】
ディアボディは、遺伝子融合によって構築された二価のミニ抗体である(Holliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993);欧州特許第404,097号;国際公開公報第93/11161号)。ディアボディは2本のポリペプチド鎖からなる二量体であり、ここでは各々のポリペプチド鎖が、同じ鎖内のこれらの2つのドメインの会合を防ぐのに十分に短いリンカーを用いて連結された軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(HL)を含み、例えばリンカーは、好ましくは2〜12アミノ酸、より好ましくは3〜10アミノ酸、特に約5アミノ酸である。ポリペプチド鎖は二量体を形成する。なぜなら、同じポリペプチド上にコードされたVLとVHとの間のリンカーは短すぎて、一本鎖の可変領域断片を形成することができないからである。それ故、ディアボディは2つの抗原結合部位を含む。
【0123】
一本鎖抗体又はscFv抗体断片は、抗体のVH領域及びVL領域を含み、そしてこれらの領域は、一本のポリペプチド鎖内に存在する。一般的に、Fvポリペプチドはさらに、VH領域とVL領域との間にポリペプチドリンカーを含み、そしてこれによりscFvは、抗原との結合に必要な構造を形成することが可能となる(scFvに関する総説については、Pluckthun 「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol. 113 (Rosenburg and Moore ed. (Springer Verlag, New York) pp.269-315, 1994を参照されたい)。本発明の脈絡では、リンカーはその末端に連結された抗体可変領域の発現を阻害しない限り、特に限定されない。
【0124】
IgG型の二重特異的抗体は、IgG抗体を産生する二種類のハイブリドーマを融合することによって産生されたハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)から分泌され得る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。それらはまた、関心対象の2種類のIgGを構成している軽鎖の遺伝子及び重鎖の遺伝子、すなわち合計で4種類の遺伝子を得て、そしてそれらを細胞に導入して該遺伝子を共発現させることによって分泌され得る。
【0125】
この場合、適切なアミノ酸の置換を重鎖のCH3領域に導入することによって、重鎖の異質な組合せを有するIgGを優先的に分泌することができる(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621; Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681;国際公開公報第2006/106905号;Davis JH et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202)。
【0126】
軽鎖に関して、軽鎖可変領域の多様性は、重鎖可変領域の多様性よりも低いので、両方の重鎖に結合能を付与することのできる共通して共有される軽鎖を得ることができる。本発明の抗体は、共通して共有される軽鎖を含む。二重特異的IgGは、共通して共有される軽鎖と両方の重鎖の遺伝子を細胞に導入することによって効率的に発現され得る。
【0127】
二重特異的抗体は、Fab’を化学的に架橋することによって作製され得る。二重特異的F(ab’)2は、例えば、抗体を使用して抗体からFab'を調製し、オルト−フェニレンジ−マレイミド(o−PDM)を用いてマレイミド化されたFab’を生成し、次いで、これを別の抗体から調製されたFab’と反応させて、異なる抗体に由来するFab’と架橋することによって作製され得る(Keler T et al. Cancer Research 1997, 57: 4008-4014)。Fab’−チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体と、Fab’チオール(SH)などの抗体断片を化学的に連結する方法もまた公知である(Brennan M et al. Science 1985, 229: 81-83)。
【0128】
化学的架橋の代わりに、Fos及びJunに由来するロイシンジッパ―も使用され得る。Fos及びJunによるヘテロ二量体の優先的な形成が利用されるが、それらはホモ二量体も形成する。Fosロイシンジッパーが付加されたFab’、及びJunロイシンジッパーが付加された別のFab’を発現させそして調製する。穏和な条件下で還元された単量体のFab’−Fos及びFab’−Junを混合し、そしてこれを反応させて二重特異的なF(ab')2を形成する(Kostelny SA et al. J. of Immunology, 1992, 148: 1547-53)。この方法は、Fab’だけでなく、scFv、Fvなどにも適用され得る。
【0129】
さらに、二重特異的抗体、例えばsc(Fv)2抗体、例えばIgG−scFv抗体(Protein Eng Des Sel. 2010 Apr; 23(4): 221-8)、二重特異性T細胞誘導抗体(Drug Discov Today 2005 Sep 15; 10(18): 1237-44)、DVD−Ig抗体(Nat Biotechnol. 2007 Nov; 25(11): 1290-7. Epub 2007 Oct 14.; and MAbs. 2009 Jul; 1(4): 339-47. Epub 2009 Jul 10.)及びまたその他の抗体(IDrugs 2010, 13: 698-700)、例えばtwo-in-one抗体(Science. 2009 Mar 20; 323(5921): 1610-4; and Immunotherapy 2009 Sep; 1(5): 749-51)、Tri−Fab、直列型scFv、及びディアボディが知られている(MAbs. 2009 November; 1(6): 539-547)。さらに、scFv−Fc及び足場−Fcなどの分子形を使用した場合でさえ、Fcの異質な組合せを優先的に分泌することによって二重特異的抗体を効率的に生成することができる(Ridgway JB et al., Protein Engineering 1996, 9: 617-621; Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681;国際公開公報第2006/106905号;及びDavis JH et al., Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202)。
【0130】
二重特異的抗体はまた、ディアボディを使用して作製され得る。二重特異的ディアボディは、2つの交差するscFv断片のヘテロ二量体である。より具体的には、それは、約5残基の比較的短いリンカーを使用してA及びBという2種類の抗体に由来するVHとVLとを連結することによって調製されたVH(A)−VL(B)及びVH(B)−VL(A)を使用してヘテロ二量体を形成することによって生成される(Holliger P et al. Proc Natl. Acad. Sci. USA 1993, 90: 6444-6448)。
【0131】
所望の構造は、約15残基を含む可動性かつ比較的長いリンカーを用いて2つのscFvを連結し(一本鎖ディアボディ:Kipriyanov SM et al. J. of Molecular Biology. 1999, 293: 41-56)、そして適切なアミノ酸の置換を実施(ノブイントゥホール:Zhu Z et al. Protein Science. 1997, 6: 781-788;VH/VL界面の工学操作:Igawa T et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 8: 667-77)することによって達成され得る。
【0132】
約15残基を含む可動性かつ比較的長いリンカーを用いて2種類のscFvを連結することによって生成され得るsc(Fv)2もまた二重特異的抗体であり得る(Mallender WD et al. J. of Biological Chemistry, 1994, 269: 199-206)。
【0133】
改変された抗体の例としては、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子に連結された抗体が挙げられる。本発明の抗体は、このような改変された抗体を含む。本発明の脈絡において、改変された抗体が連結されている物質は限定されない。このような改変された抗体は、得られた抗体を化学的に改変することによって得ることができる。このような方法は、当技術分野において十分に確立されている。
【0134】
本発明の抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体などを含み、その起源は限定されない。それらはまた、遺伝子的に改変された抗体、例えばキメラ抗体又はヒト化抗体であり得る。
【0135】
ヒト抗体を得るための方法は当技術分野において公知である。例えば、ヒト抗体遺伝子の全レパートリーを有するトランスジェニック動物を、所望の抗原を用いて免疫化して、所望のヒト抗体を得ることができる(国際特許出願の国際公開公報第93/12227号、国際公開公報第92/03918号、国際公開公報第94/02602号、国際公開公報第94/25585号、国際公開公報第96/34096号、及び国際公開公報第96/33735号を参照)。
【0136】
遺伝子的に改変された抗体はまた公知の方法を使用して作製され得る。具体的には、例えば、キメラ抗体は、免疫化動物抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域、並びにヒト抗体の重鎖及び軽鎖の定常領域を含み得る。キメラ抗体は、免疫化動物に由来する抗体の可変領域をコードしているDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードしているDNAと連結し、これを発現ベクターに挿入し、次いで、それを宿主細胞に導入して抗体を産生することによって得ることができる。
【0137】
ヒト化抗体は、「再形成された」ヒト抗体と呼ばれることが多い改変された抗体である。ヒト化抗体は、免疫化動物に由来する抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域に導入することによって構築される。このような目的のための慣用的な遺伝子組換え技術は公知である(欧州特許出願の公開公報の欧州特許第239400号;国際公開公報第96/02576号;Sato K et al., Cancer Research 1993, 53: 851-856;国際公開公報第99/51743号参照)。
【0138】
本発明の多重特異的抗原結合分子は、第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子を認識し、そして第VIII因子の補因子の機能を機能的に代用し、そして前記分子は、第VIII因子を機能的に代用する二重特異的抗体として知られるhA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQ(国際公開公報第2006/109592号に記載)と比較してより高い第Xa因子生成促進活性を有することを特徴とする、分子である。さらに、本発明の抗体は、通常、第IXa因子抗体の可変領域及び第X因子抗体の可変領域を含む構造を有する。
【0139】
本発明の多重特異的抗原結合分子は、第VIII因子を機能的に代用し、これは、第IX因子及び/又は第IXa因子を認識する第一の抗原結合部位と第X因子を認識する第二の抗原結合部位とを含み、ここで第VIII因子の機能を代用する機能は、配列番号165及び166からなる重鎖と配列番号167からなる共通して共有される軽鎖とを含む二重特異的抗体(hA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQ)の活性と比較してより高い第Xa因子生成促進活性によって引き起こされる。
【0140】
本発明の多重特異的抗原結合分子は、第IX因子及び/又は第IXa因子を認識する抗原結合部位を含む第一のポリペプチド及び第三のポリペプチドと、第X因子を認識する抗原結合部位を含む第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドとを含む。第一のポリペプチド及び第三のポリペプチドと、第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドは各々、抗体の重鎖の抗原結合部位と、抗体の軽鎖の抗原結合部位とを含む。
【0141】
例えば、本発明の多重特異的抗原結合分子において、第一のポリペプチド及び第三のポリペプチドは、それぞれ第IX因子又は第IXa因子に対する抗体の重鎖及び軽鎖の抗原結合部位を含み、そして、第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドは、それぞれ第X因子に対する抗体の重鎖及び軽鎖の抗原結合部位を含む。
【0142】
この時、第一のポリペプチ及び第三のポリペプチドと、第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドとに含まれる抗体の軽鎖の抗原結合部位は共通して共有される軽鎖であり得る。
【0143】
本発明の抗体の軽鎖の抗原結合部位を含むポリペプチドは、好ましくは、第IX因子、第IXa因子、及び/又は第X因子に結合する抗体の軽鎖の配列の全体又は一部を含むポリペプチドである。
【0144】
本発明において、「第VIII因子を機能的に代用する」という語句は、第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子が認識され、そして第X因子の活性化が促進される(第Xa因子の生成が促進される)ことを意味する。
【0145】
本発明において、「第Xa因子生成促進活性」は、例えば、第XIa因子(第IX因子活性化酵素)、第IX因子、第X因子、F合成基質のS−2222(第Xa因子の合成基質)及びリン脂質を含む測定系を使用して、本発明の多重特異的抗原結合分子を評価することによって確認され得る。この測定系は、疾患の重症度と、血友病Aの症例の臨床症状との間の相関を示す(Rosen S, Andersson M, Blomback M et al. Clinical applications of a chromogenic substrate method for determination of FVIII activity. Thromb Haemost 1985, 54: 811-23)。すなわち、本発明の測定系において、より高い第Xa因子生成促進活性を示す試験物質は、血友病Aにおける出血の発症に対してより良好な止血効果を示すことが予想される。これらの結果により、第VIII因子を機能的に代用する活性を有する多重特異的抗原結合分子が、hA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQよりも高い活性を有する分子である場合、それは優れた血液凝固促進活性を生じ得、そして優れた効果が、出血、出血を伴う疾患、又は出血によって引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するための医薬成分として得られる。上記の医薬成分として優れた効果を得るために、例えば、米国特許第2013/0330345号の実施例2に記載の条件下で測定された第Xa因子生成促進活性は好ましくは、hA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQよりも低くなく、特に該活性はより好ましくは、Q153−G4k/J142−G4h/L180−kと同じか又はそれよりも低くない。本明細書において、「第Xa因子生成促進活性」は、抗体溶液の20分後の吸光度の変化から、溶媒中の20分後の吸光度の変化を差し引くことによって得られた数値である。
【0146】
本発明の好ましい実施態様は、第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子を認識する、第VIII因子を機能的に代用する多重特異的抗体である。
【0147】
本発明の上記の多重特異的抗体は好ましくは、第IX因子/第IXa因子抗体の重鎖のCDR又はそれに対して機能的に同等であるCDR、及び第X因子抗体の重鎖のCDR又はそれに対して機能的に同等であるCDRを含む、抗体である。
【0148】
本発明の1つの態様では、第IX因子と多重特異的抗体の組合せにおいて、第IX因子、第II因子、第VII因子、及び第X因子を含有しているプロトロンビン複合体濃縮製剤(4成分のPCC)、又は第IX因子、第II因子及び第X因子しか含有していないか若しくは主に含有しているプロトロンビン複合体濃縮性剤(3成分のPCC)を使用することができる。3成分のPCCは、その活性形である第VIIa因子との競合を起こす可能性のある第VII因子が欠失しているために、本発明の組合せにとって1つの好ましい実施態様である。多重特異的抗体と組み合わせた第IX因子の他に、第II因子、第X因子;又は第II因子と第X因子を、調製された調製混合物として使用することができる。前記のタンパク質に加えて、構造タンパク質のフィブリノーゲン、又は抗線溶薬、例えばトラネキサム酸又はアプロチニンを加えることができた。
【0149】
血液凝固因子はおそらく、酵素前駆体(例えば第IX因子)としてその不活性な前駆形で又は活性化形(例えば第IXa因子)として存在する。酵素前駆体は、それが活性酵素となるために、生化学的な変化(例えば、活性部位を顕現させる加水分解反応、又は活性部位を顕現させるための立体配置の変化)を必要とする。生化学的変化は、通常、リソソーム内で起こり、そこで酵素前駆体の特定の部分が切断されて活性化される。活性化された血液凝固因子は典型的には、例えば第IXa因子又は第Xa因子などと略称される。例えば凝固第IX因子の活性化機序は、Biol Chem. 2009 May-Jun;390(5-6):391-400に記載されている。
【0150】
本明細書において使用する「血液凝固因子」、「凝固因子」又は「(血液)凝固因子」又はそれぞれの血液凝固因子番号(例えばFVIII、FIX、FXなど)の前にある略称形の単なる「F」は同義語として使用され、そしてヒト凝固系のそれぞれのヒト血液凝固因子を指す。その活性化形では、それらは、例えば、第VIIIa因子、第IXa因子、第Xa因子と略称される。その非活性化形では、それらは第VIII因子、第IX因子、第X因子などと略称される。
【0151】
「凝固第IX因子」(第IX因子)は酵素前駆体、すなわち不活性な前駆体である。それはシグナルペプチドを除去するようにプロセシングされ、次いで、第XIa因子(接触経路)又は第IIa因子(組織因子経路)によって切断されて、鎖がジスルフィド橋によって連結されている2本鎖の形態を生成する(Di Scipio RG, et al, J. Clin. Invest. 61 (1978) 1528-38; Taran LD Biochemistry Mosc. 62 (1997) 685-93)。Ca2+、膜リン脂質、及び第VIII因子の補因子の存在下において第IXa因子へと活性化されると、それは第X因子内の1つのアルギニン−イソロイシン結合を加水分解して第Xa因子を形成する。それ故、本明細書において使用する「凝固第IX因子」(第IX因子)という用語は、活性化されていない凝固第IX因子を指す。
【0152】
第IX因子の欠損症は、クリスマス病(血友病B)を引き起こす(Biggs, R; et al British Medical Journal 2 (4799) 1952 1378-82)。第IX因子の100個を超える突然変異が記載されている;いくつかは全く症状を引き起こさないが、多くは重大な出血障害に至る。最初のクリスマス病の突然変異は、クリスマスのDNAのシークエンスによって同定され、システインからセリンへと変化した突然変異が判明した(Taylor, S. A.; et al, Thrombosis and haemostasis 67 (1992) 63-65)。組換え第IX因子を使用してクリスマス病を処置し、そして「ベネフィックス(R)」、「オルプロリクス(R)」、及び「リクスビス(R)」(全て組換え第IX因子製品の商標名)として市販されている。第IX因子のいくつかの稀な突然変異により凝血活性は上昇し、深部静脈血栓症などの凝固疾患が起こり得る(Simioni P, et al, N. Engl. J. Med. 361 (2009) 1671-5)。
【0153】
第IX因子は、415アミノ酸長の一本鎖ポリペプチドとして合成される。第IX因子は、(1)ガンマカルボキシグルタミン酸含有ドメイン(「Glaドメイン」)、(2)及び(3)2つの上皮増殖因子様ドメイン(「EGF−1ドメイン」、「EGF−2ドメイン」)、(4)活性化ペプチド領域(「AP領域」)、及び(5)セリンプロテアーゼドメインからなる、不活性な前駆分子として血中に存在する。第IX因子は、小胞体及びゴルジ装置を通過中に十分な翻訳後修飾:シグナル配列の除去;肝ミクロソーム酵素であるビタミンK依存性ガンマ−グルタミルカルボキシラーゼによるGlaドメイン内の12個のGlu残基のガンマ−カルボキシル化;AP領域内のN−157及びN−167のN−グリコシル化;Glaドメイン内のS−53及びS−61並びにAP領域内のT−159、T−169、T−172、及びT−179のO−グリコシル化;EGF−1ドメイン内のAsp−64でのβ−ヒドロキシル化;どちらもAP領域内でのTyr−155の硫酸化及びSer−158のリン酸化を受ける。
【0154】
血友病Bでは、欠損は、第IX因子の量又は機能のいずれかである。この疾患は、ヒト血漿に由来する凝固第IX因子(pdFIX)又は組換え凝固第IX因子(rFIX)の調製物の投与からなる補充療法によって成功裡に処置される。血漿由来製品は、プロトロンビン複合体濃縮製剤(過去において血友病Bの処置に使用されている)又は精製された第IX因子濃縮製剤(主にアフィニティ精製された第IX因子)のいずれかである。rFIXは、翻訳後修飾に関して十分に特徴付けられている。pdFIXとは僅かに異なるにも関わらず、比活性及び薬理学的有効性は同等である。
【0155】
pdFIXとCHO由来rFIXとの間の生化学な比較は、蛍光、円二色性、又は定性用超遠心分離によって測定されたところ、識別不可能な二次/三次構造を示した。翻訳後修飾に僅かな差異が検出された。pdFIXではGlaドメイン内の12個全てのGlu残基が占有されているが(すなわち、Glaに変換されている)、rFIXでは12個中僅か10個の部位だけが完全に占有されている(それぞれGla−40又はGla−40とGla−36の「低カルボキシル化」)。pdFIXにおいてN結合したグリカンは完全にシアル化され、高い不均一性を示し(しかしながら、これはまた、pdFIXが、多種多様な血漿の提供を有する血漿プールから調製されるという事実にも起因し得る);rFIXにおいては低い不均一性及びしばしば不完全なシアル化を示す。Ser−53はrFIXではXyl−Xyl−Gic−グリコシル化されているが、pdFIXではSer−53は、さらなるXyl−Glc−グリコシル化を含有している(Ser−61は、両方の形態においてNeuAc−Gal−GlcNAc−Fucを含有している)。CHO細胞由来のrFIXは、シアル酸α(2−3)−ガラクトース基でキャップされた糖鎖によるグリコシル化を示し(CHO細胞はα(2−6)−シアル酸転移酵素を欠失している)、一方、pdFIXは、末端シアル酸α(2−6)−ガラクトース部分を含有している。rFIXを発現させるためのヒト宿主細胞(例えばHEK293細胞)は、α(2−3)−及びα(2−6)−シアル酸転移酵素を含有し;したがってHEK293に由来するrFIXは、この点で市販のCHO由来rFIXとは異なる(White et al., Thromb.Haemost. 78(1) (1997), 261-265; Bond et al., Sem.Hematol. 35 (2) (1998), Suppl.2, 11-17; Bebgie et al., Thromb.Haemost.94 (2005), 1138-1147)。
【0156】
AP領域内のSer−155の低い程度のリン酸化及びTyr−158の低い程度の硫酸化が、インビボにおけるrFIXの低い回収率の原因であると予測されている(モノクローナル抗体を用いて精製されたpdFIXについての52.61+/−12.36%と比較して、rFIXでは37.81+/−14.0%(White et al. (1997)))。Griffith et al.(J.Thromb.Haemost. 5 (2007), Suppl.2: P-M-043)は、N−グリカンのシアル酸付加がインビボにおけるrFIXの回収率にとって重要であると報告した。国際公開公報第2007/101681A1号では、少なくとも25%でありかつ98%未満の完全にリン酸化及び硫酸化されたrFIXを含む、インビボでの回収率が向上したrFIX製品が提供されている。
【0157】
CHOで発現されるrFIX及び免疫精製されたpdFIXの消失半減期は同等である(それぞれ18.10+/−5.10時間及び17.66+/−5.31時間(White et al., 1997))。AP領域の欠失(del(155−177)突然変異体)は、野生型と比較して終末相の異化半減期の45%の延長を示したという報告に基づき(Bebgie et al. (2005))、Chang et al.(J.Thromb.Haemost. 5 (2007), Suppl.2: O-M-088)は、FIXをノイラミニダーゼ並びにN−及びO−グリカナーゼを用いて処理して、N結合型及びO結合型糖鎖の両方を除去した。脱グリコシル化された第IX因子は、処置されていない第IX因子よりも有意に低い回収率を示し、一方、脱グリコシル化形の回収率は、rFIX及びpdFIXにおいて有意差はなかった。それ故、このことはグリコシル化が第IX因子の回収率を決定する際に大きな役割を果たしていることを示唆すると結論付けた。硫酸化/リン酸化の役割はインビボでの回収において「比較的小さな」役割を果たしているとさらに結論付けられた。Chang et al.においてはrFIX及びpdFIXの脱グルコシル化形についての半減期又は活性データは報告されなかった。
【0158】
臨床試験では、rFIXは安全かつ有効であることが示されたが、pdFIXよりも20〜50%高い用量が成功裡な処置のために必要とされる。これは、pdFIX及びrFIXを様々な動物モデル及び血友病B患者の臨床試験において比較した前臨床試験及び臨床試験から収集された薬物動態データによっても判明しているように、pdFIX(上記のような)よりもCHO由来rFIXの方がインビボにおける回収率が30〜50%低いことに起因する。しかしながら、rFIXの循環中半減期はpdFIX調製物と区別できない。
【0159】
例えば(rFIXについては)mRNAの産生を増加させる、コラーゲンIVに対する結合を低減させる、比活性を上昇させる、及びrFIXをpdFIXにより似せて作製することによって回収率を向上させる(Pipe, Sem.Thromb.Hemost. 30 (2) (2004), 227-237;国際公開公報第2007/101681A1号);(pdFIXについては)濃縮及び特異的な精製(米国特許第5,639,857A号)のような、第IX因子薬物を改良するための様々な試みがある。しかしながら、成功裡の処置のために従来の第IX因子調製物よりも低い用量又はより長い時間間隔で投与することのできる改良された第IX因子調製物が依然として強く必要とされる。先行技術の殆どの戦略は回収率の向上及び第IX因子活性の上昇に集中しているが、タンパク質の半減期の延長を目的とした戦略は稀であり、これは主にrFIX及びpdFIXの半減期が同じであるからである。これは主に、(たとえ小さな)化学的改変又は突然変異に対しても第IX因子タンパク質が感受性を示すことが知られていること、及びヒトタンパク質に突然変異を導入することで起こり得る免疫学的作用に起因する(Bebgie et al. (2005); Kaufman, Thromb.Haemost. 79 (1998), 1068-1079; Hansson et al., J Thromb.Haemost. 3 (2005), 2633-2648; Wojcik et al., Biochem.J. 323 (1997), 629-636)。
【0160】
本明細書において使用する「凝固第IX因子(FIX)」という用語は、血液凝固第IX因子の典型的な特徴を有するあらゆる形態の第IX因子分子であろう。第IX因子は、第IX因子の欠損症(例えば血友病B)によって引き起こされる患者の出血障害を治癒することのできる、血漿由来の第IX因子(pdFIX)及びあらゆる形態のrFIXを含むであろう。第IX因子は、Glaドメイン、2つのEGFドメイン(EGF−1及びEGF−2)、AP領域、及びセリンプロテアーゼドメインから構成される。本発明に記載の第IX因子は、ヒトpdFIX及びヒトrFIXと同じアミノ酸配列、並びにその全ての機能的変異体、すなわち、第IX因子の同等な又は改善されたインビボ活性を提供する変異(アミノ酸配列及び翻訳後修飾の両方における)を有する。動物におけるそれぞれの第IX因子に関連した出血障害を治癒するために、対応する第IX因子配列、又は関連した動物種において十分な交差活性を示すそうした第IX因子形が適用され得る。さらに、本発明に記載の第IX因子は、インビボでのタンパク質の適切な機能に必要とされる全ての翻訳後修飾を示す。第IX因子の機能形、例えば148位にAla/Thrの交換が天然に起こっているものなどが記載されている豊富な文献が入手可能である;本発明に記載の水溶性親水性ポリマーに共有結合させることのできる適切な第IX因子分子が、例えば、White et al. (1997); Pipe (2004);国際公開公報第2007/101681A1号;米国特許第5,639,857A号; Bebgie et al. (2005); Kaufman (1998); Hansson et al. (2005); Wojcik et al.(1997)に記載されている。好ましくは、本発明に記載の第IX因子は、組換え産生された第IX因子である。第IX因子に言及して使用される場合の「組換え」という用語は、第IX因子が、異種又は天然には存在しない核酸若しくはタンパク質の宿主細胞への導入、又は宿主細胞内での天然の核酸若しくはタンパク質の改変によって産生されたことを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、天然(組換えではない)型の細胞内に見られない遺伝子を発現しているか、又は細胞のゲノム内の天然の位置には存在しない野生型及び変異型の遺伝子を発現しているか、又は別様に異常に発現されているか、低発現されているか、若しくは全く発現されていない天然遺伝子を発現している。「生物学的に産生された」第IX因子という用語は、第IX因子がこのような生物又は細胞から単離された後に、(このような生物又は細胞によって実施され得ない)さらなる化学的な改変を伴なわず、生物又は細胞によって産生された全ての形態の第IX因子を網羅する。
【0161】
市販されている組換え第IX因子製品としては、「ベネフィックス(R)」、「オルプロリクス(R)(半減期の延長された組換え第IX因子Fc融合タンパク質)」、及び「リクスビス(R)」(全て、組換え第IX因子製品ベネフィックス(商標)の商標名)が挙げられる。
【0162】
市販されている組換え第IX因子製品は、安定にトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用することによって製造されることが多い。CHO細胞は、グリコシル化能及び他の翻訳後修飾能を提供する。これらの細胞を用いて、大規模な懸濁培養液を、動物又はヒト由来の原材料を添加することなく維持することができる。これらの1つの市販の製品の製造において(商標名ベネフィックス(商標)で販売)、rFIXはエンドペプチダーゼPACE/フリンと共発現され、そして複数回のろ過及びクロマトグラフィー工程を介して高度に精製される。
【0163】
核酸の一部に言及して使用される場合の「異種」という用語は、核酸が、天然において互いに同じ関係で見られない2つ以上の部分配列を含むことを示す。一例では、この用語は、ゲノム内でその天然の位置に存在していない核酸を指す。別の例では、関連していない遺伝子に由来する2つ以上の配列、例えばある起源に由来するプロモーター及び別の起源に由来するコード領域などが整列して新規な1つの機能的核酸を作っている、核酸が組換え産生される。同様に、異種タンパク質は、該タンパク質が天然においては互いに同じ関係では見られない2つ以上の部分配列を含むか(例えば融合タンパク質)、又はそれは、異種核酸に由来するタンパク質であることを示す。
【0164】
第IX因子と質的に同じ機能的及び/若しくは生物学的な特性、例えば結合特性、並びに/又は同じ構造的な基礎、例えばペプチド骨格を有する、第IX因子のあらゆる誘導体を含む、第IX因子のあらゆる生物学的に活性な誘導体をこれにより改変し得る。該ポリペプチドの生物学的活性を消失させない(すなわち、野生型(=100%)の10%未満又はさらには5%未満まで活性は減少)第IX因子のポリペプチド配列のアミノ酸の僅かな欠失、付加及び/又は置換も、生物学的に活性な誘導体として本出願に含まれ、特に比活性の改善された(野生型の100%の活性を超える)ものも含まれる。本発明に記載の第IX因子は、任意の脊椎動物、例えば哺乳動物に由来し得る。本発明の1つの具体的な例では、第IX因子はヒト第IX因子である。本発明に記載の第IX因子は、当技術分野において公知の任意の方法によって作製され得る。これは、遺伝子工学による、例えばRNAの逆転写及び/又はDNAの増幅を介した組換えDNAの産生のための当技術分野において公知である任意の方法を含み得る。さらに、第IX因子をコードする組換えDNA、例えばプラスミドは、プラスミドを用いて成功裡にトランスフェクトされた細胞を選択するための選択マーカーをコードしているDNA配列も含有し得る。本発明の一例では、プラスミドはまた、耐性遺伝子、例えばG418に対する耐性を付与するneo耐性遺伝子を送達することによって、選択マーカーに対する、例えば抗生物質G418に対する耐性を付与し得る。
【0165】
rFIXの産生は、トランスフェクションによって、例えば電気穿孔法又はマイクロインジェクションを介して、真核細胞に組換えDNAを導入するための当技術分野において公知の任意の方法を含み得る。例えば、ヒト第IX因子の組換え発現は、ヒト第IX因子をコードしているDNA配列を含有している発現プラスミドを、強力なプロモーターなどの1つ以上の調節配列の制御下で、適切な宿主細胞株に、適切なトランスフェクション法によって導入することによって達成され得、その結果、導入された配列が安定にゲノムに組み込まれた細胞が得られる。リン酸カルシウム共沈降法は、本発明に従って使用され得るトランスフェクション法の一例である。
【0166】
本発明の範囲内の「アミノ酸」という用語は、全ての天然のL−α−アミノ酸を含むことを意味する。天然アミノ酸の一文字及び三文字の略称が本明細書において使用される(Lehninger, Biochemistry, 2d ed., Worth Publishers, New York, 1995: 71 -92)。
【0167】
本明細書において使用する「凝固第II因子」(FII、プロトロンビン)という用語は、血液凝固第II因子の典型的な特徴を有するあらゆる形態の第II因子の分子を指す。血液凝固第II因子は、プロトロンビンとしても知られる酵素前駆体であり、そしてタンパク質分解的に切断されて、凝固カスケードにおけるトロンビンとしても知られる活性化血液凝固第II因子(FIIa)を形成し、これにより最終的に失血が低減される。トロンビンは次いで、可溶性フィブリノーゲンを不溶性のフィブリン鎖へと変換するセリンプロテアーゼとして作用するだけでなく、多くの他の凝固に関連した反応も触媒する。
【0168】
「プロトロンビン複合体濃縮製剤」(PCC、とりわけ、商標名ベリプレックス(R)、オクタプレックス(R)、クセントラ(R)、コファクト(Cofact)(R))は、新鮮凍結ヒト血漿から調製された、血液凝固第II因子、第VII因子、第IX因子、及び第X因子、並びにプロテインC及びSの合剤である。それは、出血が起きて(例えば脳内又は消化管内)凝固を促進する急速な作用が必要とされる場合に、経口抗凝固療法の作用を反転させるために使用される。それは注射液用の粉末及び溶媒として利用可能である。
【0169】
スチュアート・プロワー因子という冠名によって又はプロトロンビナーゼ、トロンボキナーゼ、又はトロンボプラスチンとしても知られる「凝固第X因子」は、凝固カスケードの酵素である。本明細書において使用する「凝固第X因子」(FX)という用語は、血液凝固第X因子の典型的な特徴を有するあらゆる形態の第X因子の分子であろう。第X因子は肝臓内で合成され、そしてその合成にビタミンKを必要とする。第X因子は、第IX因子(その補因子である第VIII因子と共に、内因性第X因子活性化複合体としても知られる複合体において)及び第VII因子とその補因子である組織因子(内因性第X因子活性化複合体としても知られる複合体)の両方によって第Xa因子へと活性化される。それは、プロトロンビンを2つの場所(arg−thr結合、及び次にarg−ile結合)で切断することによって作用し、活性トロンビンを生じる。このプロセスは、第Xa因子が活性化補因子Vとプロトロンビン複合体内で複合体を形成した場合に最適化される。第Xa因子は、タンパク質Z依存性プロテアーゼ阻害剤(ZPI)であるセリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)によって不活性化される。第Xa因子に対するこのタンパク質の親和性は、タンパク質Zの存在下で1000倍増加するが、第XI因子の不活性化にはタンパク質Zは必要とされない。タンパク質Zの欠陥により、第Xa因子の活性は上昇し、血栓症傾向が高まる。第X因子の半減期は40〜45時間である。第X因子は、新鮮凍結血漿及びプロトロンビン複合体及びプロトロンビン複合体濃縮製剤の一部である。市販されている濃縮製剤は、CSLベーリング社によって製造されている第X因子(P−ベーリング社)である。バイオプロダクトラボラトリーズ社は、高純度の第X因子を現在開発中である。
【0170】
第VII因子(血液凝固第VII因子)は、凝固カスケードにおいて血液の凝固を引き起こすタンパク質の1つである。それはセリンプロテアーゼのクラスの酵素である。本明細書において使用する「凝固第VII因子」(FVII)という用語は、血液凝固第VII因子の典型的な特徴を有するあらゆる形態の第VII因子の分子であろう。組換え型のその活性化型のヒト第VIIa因子(エプタコグアルファ[活性化]、ノボセブン社)は、血友病患者における制御されていない出血の処置に認可されている。重度の制御不能な出血に使用される場合には安全性の懸念がある。
【0171】
第VII因子(FVII)の主な役割は、組織因子(TF/凝固第III因子/FIII)と共に凝固プロセスを開始することである。組織因子は血管の外側に見られ、通常、血流に曝されていない。血管が損傷されると、組織因子は血液及び循環中の第VII因子に曝される。TFに一旦結合すると、第VII因子は様々なプロテアーゼによって第VIIa因子へと活性化され、そのプロテアーゼの中にはトロンビン(第IIa因子)、第Xa因子、第IXa因子、第XIIa因子、及び第VIIa因子−TF複合体それ自体がある。第VIIa因子とTFの複合体は、第IX因子及び第X因子から、活性プロテアーゼであるそれぞれ第IXa因子及び第Xa因子への変換を触媒する(Wajima T, et al, Clin Pharmacol Ther 86 (2009). 290-8)。前記因子の作用は、凝固開始のほぼ直後に放出される組織因子経路インヒビター(TFPI)によって妨害される。第VII因子はビタミンK依存性であり、それは肝臓内で産生される。ワーファリン又は類似の抗凝固剤の使用は、第VII因子の肝臓内での合成を減少させる。
【0172】
本明細書において使用する「に結合する」、「認識する」、「に特異的に結合する」又は「抗−」という用語は同義語として使用され、そして十分な親和性でそれぞれの抗原に結合することができる多重特異的抗体又はその抗原結合部位を指し、よって抗体は標的化の際に診断剤及び/又は治療剤として有用である。好ましくは、本明細書に記載のような多重特異的抗体は二重特異的であり、そして第一抗原としての第IX因子及び/又は第IXa因子(活性型の第IX因子)に、及び第二抗原としての第X因子にそれぞれ結合する。1つの実施態様では、第IX因子ではない、第IXa因子ではない、第X因子ではない、関連していないタンパク質への抗BsabFIX/FX抗体の結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定したところ、それぞれ第IX因子、第IXa因子、第X因子に対する抗体の結合の約10%未満である。
【0173】
本明細書において使用する「抗原結合部位」という用語は、リガンドが実際に結合する抗体分子の領域(群)を示す。「抗原結合部位」という用語は、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)、又はVH/VLの一部を含み、そしてこれは完全抗体又は抗体断片、例えば一本鎖Fv、VHドメイン及び/又はVLドメイン、Fab、又は(Fab)2に由来し得る。本発明の1つの実施態様では、各々の抗原結合部位は、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、そして好ましくは抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)と抗体の重鎖可変ドメイン(VH)からなる対によって形成され、ここで抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)は好ましくは共通して共有される軽鎖の一部である。
【0174】
「処置は、凝固第IX因子と組み合わせる」という用語は、a)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体、及びb)凝固第IX因子を用いての、関連した障害の併用処置を指す。併用処置は同時であっても順次であってもよく、好ましくは両方の(全部の)活性薬剤が同時にその生物学的活性を発揮する間に期間がある。前記の多重特異的抗体及び第IX因子は、同時に又は順次のいずれかで(例えば連続的な注入を通した静脈内(i.v,)を介して)共投与される。
【0175】
本明細書に記載の多重特異的抗原結合分子は、少なくとも2つの異なる種類の抗原に特異的に結合することのできる第一の抗原結合部位と第二の抗原結合部位を含む。第一の抗原結合部位及び第二の抗原結合部位は、それらがそれぞれ第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子に結合する限り特に限定されないが、例としては、抗原との結合に必要な部位、例えば抗体、足場分子(抗体様分子)若しくはペプチド、又はこのような部位を含有している断片が挙げられる。足場分子は、標的分子への結合によって機能を示す分子であり、そして任意のポリペプチドを、それらが少なくとも1つの標的抗原に結合することのできるコンフォメーション的に安定なポリペプチドである限りにおいて使用してもよい。このようなポリペプチドの例としては、抗体可変領域、フィブロネクチン(国際公開公報第2002/032925号)、プロテインAドメイン(国際公開公報第1995/001937号)、LDL受容体Aドメイン(国際公開公報第2004/044011号、国際公開公報第2005/040229号)、アンキリン(国際公開公報第2002/020565号)など、並びにまたNygren et al.(Current Opinion in Structural Biology, 7: 463-469 (1997);及びJournal of Immunol Methods, 290: 3-28 (2004))、Binz et al.(Nature Biotech 23: 1257-1266 (2005))及びHosse et al.(Protein Science 15: 14-27(2006))による文書に記載された分子も挙げられる。さらに、Curr Opin Mol Ther. 2010 Aug; 12(4): 487-95 and Drugs. 2008; 68(7): 901-12に記載のように、標的抗原に結合することのできるペプチド分子も使用され得る。
【0176】
本明細書において、多重特異的な抗原結合分子は、それらが少なくとも2つの異なる種類の抗原に結合することができる分子である限り特に限定されないが、例としては、上記の抗原結合部位を含有しているポリペプチド、例えば抗体及び足場分子、並びに、その断片、及び核酸分子及びペプチドを含むアプタマーが挙げられ、そしてそれらは単一分子であっても又はその多量体であってもよい。好ましい多重特異的な抗原結合分子としては、少なくとも2つの異なる抗原に特異的に結合することのできる多重特異的抗体が挙げられる。本発明の第VIII因子を機能的に代用する活性を有する抗体の特に好ましい例としては、2つの異なる抗原に特異的に結合することのできる二重特異的抗体(BsAb)が挙げられる(それらはまたデュアル特異的抗体とも呼ばれ得る)。
【0177】
本発明において、「共通して共有される軽鎖」という用語は、抗体の2つ以上の異なるH鎖(重鎖)に連結することのできる抗体のL鎖(軽鎖)を指し、そして各々の抗原に対する結合能を示す。本明細書において、「異なる重鎖(群)」という用語は好ましくは、異なる抗原に対する抗体の重鎖を指すがそれに限定されず、そしてまた、そのアミノ酸配列が互いに異なる重鎖も指す。共通して共有される軽鎖は、例えば、国際公開公報第2006/109592号に記載の方法に従って得ることができる。
【0178】
本発明の多重特異的抗原結合分子(好ましくは二重特異的抗体)は、2つ以上の異なる抗原に対して特異性を有する抗体、又はこのような抗体の断片を含む分子である。本発明の抗体は特に限定されないが、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明において使用されるモノクローナル抗体は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、及びサルなどの動物に由来するモノクローナル抗体だけでなく、人工的に改変された遺伝子組換え抗体、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、及び二重特異的抗体も含む。
【0179】
さらに、本発明の多重特異的抗原結合分子となるであろう抗体の軽鎖は異なっていてもよいが、好ましくは共通して共有される軽鎖を有する。
【0180】
本発明の多重特異的抗原結合分子は好ましくは、遺伝子組換え技術を使用して作製された組換え抗体である(例えば、MACMILLAN PUBLISHERS LTD によって1990年に英国で刊行されたBorrebaeck CAK and Larrick JW、THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIESを参照)。組換え抗体は、抗体を産生するハイブリドーマ又は抗体産生細胞、例えば感作リンパ球から、抗体をコードしているDNAをクローニングし、それらを適切なベクターに挿入し、そしてそれらを宿主(宿主細胞)に導入して抗体を産生することによって得ることができる。
【0181】
さらに、本発明の抗体は、完全抗体だけでなく、抗体断片及び低分子量抗体(ミニボディ)及び改変された抗体も含み得る。
【0182】
本発明の多重特異的抗原結合分子は、第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子を認識し、そして第VIII因子の補因子の機能を機能的に代用し、そして該分子は、第VIII因子を機能的に代用する二重特異的抗体として知られるhA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQ(国際公開公報第2006/109592号に記載)と比較してより高い第Xa因子生成促進活性を有することを特徴とする、分子である。さらに、本発明の抗体は、通常、第IXa因子抗体の可変領域及び第X因子抗体の可変領域を含む構造を有する。
【0183】
より具体的には、本発明は、第IX因子及び/又は第IXa因子を認識する第一の抗原結合部位と第X因子を認識する第二の抗原結合部位とを含む、第VIII因子を機能的に代用する、多重特異的抗原結合分子を提供し、ここで第VIII因子の機能を代用する機能は、配列番号165及び166からなる重鎖と配列番号167からなる共通して共有される軽鎖とを含む二重特異的抗体(hA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQ)の活性と比較してより高い第Xa因子生成促進活性によって引き起こされる。
【0184】
本発明の多重特異的抗原結合分子は、第IX因子及び/又は第IXa因子を認識する抗原結合部位を含む第一のポリペプチド及び第三のポリペプチドと、第X因子を認識する抗原結合部位を含む第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドとを含む。第一のポリペプチド及び第三のポリペプチドと、第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドは各々、抗体の重鎖の抗原結合部位と、抗体の軽鎖の抗原結合部位とを含む。
【0185】
例えば、本発明の多重特異的抗原結合分子において、第一のポリペプチド及び第三のポリペプチドは、それぞれ第IX因子又は第IXa因子に対する抗体の重鎖及び軽鎖の抗原結合部位を含み、そして、第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドは、それぞれ第X因子に対する抗体の重鎖及び軽鎖の抗原結合部位を含む。
【0186】
この時、第一のポリペプチ及び第三のポリペプチドと、第二のポリペプチド及び第四のポリペプチドとに含まれる抗体の軽鎖の抗原結合部位は共通して共有される軽鎖であり得る。
【0187】
本発明の抗体の軽鎖の抗原結合部位を含むポリペプチドは、好ましくは、第IX因子、第IXa因子、及び/又は第X因子に結合する抗体の軽鎖の配列の全体又は一部を含むポリペプチドである。
【0188】
本発明において、「第VIII因子を機能的に代用する」という語句は、第IX因子及び/又は第IXa因子並びに第X因子が認識され、そして第X因子の活性化が促進される(第Xa因子の生成が促進される)ことを意味する。
【0189】
本発明において、「第Xa因子生成促進活性」は、例えば、第XIa因子(第IX因子活性化酵素)、第IX因子、第X因子、F合成基質のS−2222(第Xa因子の合成基質)及びリン脂質を含む測定系を使用して、本発明の多重特異的抗原結合分子を評価することによって確認され得る。この測定系は、疾患の重症度と、血友病Aの症例の臨床症状との間の相関を示す(Rosen S, Andersson M, Blomback M et al. Clinical applications of a chromogenic substrate method for determination of FVIII activity. Thromb Haemost 1985, 54: 811-23)。すなわち、本発明の測定系において、より高い第Xa因子生成促進活性を示す試験物質は、血友病Aにおける出血の発症に対してより良好な止血効果を示すことが予想される。これらの結果により、第VIII因子を機能的に代用する活性を有する多重特異的抗原結合分子が、hA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQよりも高い活性を有する分子である場合、それは優れた血液凝固促進活性を生じ得、そして優れた効果が、出血、出血を伴う疾患、又は出血によって引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するための医薬成分として得られる。上記の医薬成分として優れた効果を得るために、例えば、米国特許第2013/0330345号の実施例2に記載の条件下で測定された第Xa因子生成促進活性は好ましくは、hA69−KQ/hB26−PF/hAL−AQよりも低くなく、特に該活性はより好ましくは、Q153−G4k/J142−G4h/L180−kと同じか又はそれよりも低くない。本明細書において、「第Xa因子生成促進活性」は、抗体溶液の20分後の吸光度の変化から、溶媒中の20分後の吸光度の変化を差し引くことによって得られた数値である(米国特許第2013/0330345号も参照)。
【0190】
本発明の抗体、組合せ、又は使用の1つの実施態様では、本発明に使用される抗体は、第VIII因子を機能的に代用するので、それらは、この補因子の活性(機能)の低下から生じる疾患に対する有効な医薬となることが予想される。上記の疾患の例としては、出血、出血を伴う疾患、又は出血によって引き起こされる疾患が挙げられる。特に、出血障害が第VIII因子/第VIIIa因子の欠損症又は機能低下によって引き起こされる血友病に対して優れた治療効果を示す可能性がある。血友病の中でも、出血障害が遺伝性の第VIII因子/第VIIIa因子の欠損症又は機能低下によって引き起こされる血友病Aにとって優れた治療剤となることが予想される。
【0191】
本発明の脈絡において、出血、出血を伴う疾患、及び/又は出血によって引き起こされる疾患は、第VIII因子及び/又は活性化凝固第VIII因子(F.VIIIa)の活性の減少又は欠損症に起因して発生及び/又は進行する疾患を指す。このような疾患としては、上記の血友病A、第VIII因子/第VIIIa因子に対するインヒビターが出現する疾患、後天性血友病、フォンウィルブランド病などが挙げられるが、特にそれらに限定されない。
【0192】
以下に本発明の実施態様が列挙されている
1.血友病Aの処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、該抗体は、(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0193】
2.血友病Aの処置に使用するための(活性化されていない)凝固第IX因子であって、ここで該凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0194】
3.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、ここで該抗体は、(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0195】
4.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、(活性化されていない)凝固第IX因子であって、ここで該凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0196】
5.血友病Aの処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、及び
ii)(活性化されていない)凝固第IX因子
の組合せ。
【0197】
6.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、及び
ii)(活性化されていない)凝固第IX因子
の組合せ。
【0198】
7.血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用であって、前記処置は、(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせる。
【0199】
8.血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、(活性化されていない)凝固第IX因子の使用であって、ここで前記凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0200】
9.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用であって、ここで前記処置は、(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせる。
【0201】
10.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、(活性化されていない)凝固第IX因子の使用であって、ここで前記凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用される。
【0202】
11.患者は、先天性又は後天性の凝固第VIII因子欠損症を患う、実施態様3、4、6、9、又は10に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0203】
12.欠損症は、抗体、他のインヒビター、消費、又は希釈によって獲得される、実施態様11記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0204】
13.a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための、
前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0205】
14.a)出血のリスクが上昇している場合、
b)手術その他の侵襲的な施術中、及び/又は
c)血管損傷後
における、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0206】
15.さらに、a)凝固第II因子、又はb)凝固第X因子、c)凝固第II因子及び第X因子;又はd)凝固第II因子、第X因子及び第VII因子が、組み合わせて使用される、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0207】
16.凝固第IX因子がプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)に含まれる、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0208】
17.プロトロンビン複合体濃縮製剤は、第IX因子、第II因子、及び第X因子を含む、実施態様16記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0209】
18.プロトロンビン複合体濃縮製剤は、第IX因子、第II因子、第X因子、及び第VII因子を含む、実施態様16記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0210】
19.前記抗体は二重特異的であり、そして、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位はそれぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)とを含み、そして第二の抗原結合部位は、それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)とを含む、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0211】
20.前記抗体はa)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む、二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0212】
21.前記抗体は、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位を含む第一のポリペプチドと、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第三の抗原結合部位を含む第三のポリペプチド、並びに、血液凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位を含む第二のポリペプチドと、血液凝固第X因子に結合する第四の抗原結合部位を含む第四のポリペプチドとを含む、実施態様1〜18のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0213】
22.第一のポリペプチドと第三のポリペプチドは各々、それぞれ血液凝固第IX因子又は活性化血液凝固第IX因子に対する抗体の重鎖又は軽鎖の抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドと第四のポリペプチドは各々、それぞれ血液凝固第X因子に対する抗体の重鎖又は軽鎖の抗原結合部位を含む、実施態様21記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0214】
23.第一のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(a1)から(a11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖のCDRを含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(b1)から(b11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖のCDRを含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(a1)それぞれ配列番号75、76、及び77の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q1の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a2)それぞれ配列番号78、79及び80の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q31の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a3)それぞれ配列番号81、82、及び83の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q64の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a4)それぞれ配列番号84、85、及び86の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q85の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a5)それぞれ配列番号87、88、及び89の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q153の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a6)それぞれ配列番号90、91、及び92の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q354の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a7)それぞれ配列番号93、94、及び95の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q360の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a8)それぞれ配列番号96、97、及び98の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q405の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a9)それぞれ配列番号99、100、及び101の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q458の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a10)それぞれ配列番号102、103、及び104の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q460の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(a11)それぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b1)それぞれ配列番号108、109、及び110の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J232の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b2)それぞれ配列番号111、112、及び113の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J259の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b3)それぞれ配列番号114、115、及び116の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J268の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b4)それぞれ配列番号117、118、及び119の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J300の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b5)それぞれ配列番号120、121、及び122の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J321の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b6)それぞれ配列番号123、124、及び125の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J326の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b7)それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b8)それぞれ配列番号129、130、及び131の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J339の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b9)それぞれ配列番号132、133、及び134ののCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J344の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(b10)それぞれ配列番号135、136、及び137の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J346の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位;及び(b11)それぞれ配列番号174、175、及び176の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(J142の重鎖のCDR)を含む抗原結合部位、実施態様21〜22のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0215】
24.第一のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(a1)から(a11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖の可変領域を含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含み、そして第二のポリペプチドの抗原結合部位は、以下の(b1)から(b11)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる重鎖の可変領域を含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(a1)配列番号35の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q1の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a2)配列番号36の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q31の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a3)配列番号37の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q1の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a4)配列番号38の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q85の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a5)配列番号39の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q153の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a6)配列番号40の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q354の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a7)配列番号41の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q360の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a8)配列番号42の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q405の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a9)配列番号43の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q458の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a10)配列番号44の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q460の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(a11)配列番号45の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(Q499の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b1)配列番号46の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J232の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b2)配列番号47の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J259の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b3)配列番号48の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J268の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b4)配列番号49の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J300の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b5)配列番号50の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J321の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b6)配列番号51の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J326の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b7)配列番号52の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J327の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b8)配列番号53の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J339の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b9)配列番号54の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J344の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(b10)配列番号55の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J346の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;及び(b11)配列番号172の重鎖の可変領域のアミノ酸配列(J142の重鎖の可変領域)を含む抗原結合部位、実施態様21〜23のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0216】
25.第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位は、以下の(c1)から(c10)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる軽鎖のCDRを含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(c1)それぞれ配列番号138、139、及び140の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L2の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c2)それぞれ配列番号141、142、及び143の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L45の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c3)それぞれ配列番号144、145、及び146の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L248の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c4)それぞれ配列番号147、148、及び149の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L324の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c5)それぞれ配列番号150、151、及び152の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L334の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c6)それぞれ配列番号153、154、及び155の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L377の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c7)それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c8)それぞれ配列番号159、160、及び161の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L406の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;(c9)それぞれ配列番号137、138、及び139の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L408の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位;及び(c10)それぞれ配列番号177、178、及び179の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L180の軽鎖のCDR)を含む抗原結合部位、実施態様21〜24のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0217】
26.第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドに含まれる抗原結合部位は、以下の(c1)から(c10)から選択されたアミノ酸配列のいずれか1つからなる軽鎖の可変領域を含む抗原結合部位又はそれに対して機能的に同等な抗原結合部位を含む:(c1)配列番号56の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L2の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c2)配列番号57の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L45の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c3)配列番号58の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L248の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c4)配列番号59の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L324の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c5)配列番号60の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L334の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c6)配列番号61の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L377の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c7)配列番号62の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L404の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c8)配列番号63の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L406の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;(c9)配列番号64の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L408の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位;及び(c10)配列番号173の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(L180の軽鎖の可変領域)を含む抗原結合部位、実施態様21〜25のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0218】
27.第一及び第二のポリペプチドは抗体の重鎖の定常領域をさらに含み、第三及び第四のポリペプチドは、抗体の軽鎖の定常領域を含む、実施態様21〜26のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0219】
28.第一及び第二のポリペプチドは抗体の重鎖の定常領域を含み、第三及び第四のポリペプチドは抗体の軽鎖の定常領域を含み、ここで第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは共通して共有されている軽鎖である、実施態様21〜26のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0220】
29.第一のポリペプチドは、以下の(a1)から(a14)から選択されたいずれか1つの抗体の重鎖を含み、第二のポリペプチドは、以下の(b1)から(b12)から選択されたいずれか1つの抗体の重鎖を含み、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは、以下の(c1)から(c10)から選択されたいずれか1つの抗体の軽鎖を含む:(a1)配列番号1のアミノ酸配列(Q1−G4k)からなる抗体の重鎖;(a2)配列番号2のアミノ酸配列(Q31−z7)からなる抗体の重鎖;(a3)配列番号3のアミノ酸配列(Q64−z55)からなる抗体の重鎖;(a4)配列番号10のアミノ酸配列(Q64−z7)からなる抗体の重鎖;(a5)配列番号11のアミノ酸配列(Q85−G4k)からなる抗体の重鎖;(a6)配列番号12のアミノ酸配列(Q153−G4k)からなる抗体の重鎖;(a7)配列番号13のアミノ酸配列(Q354−z106)からなる抗体の重鎖;(a8)配列番号14のアミノ酸配列(Q360−G4k)からなる抗体の重鎖;(a9)配列番号15のアミノ酸配列(Q360−z118)からなる抗体の重鎖;(a10)配列番号16のアミノ酸配列(Q405−G4k)からなる抗体の重鎖;(a11)配列番号17のアミノ酸配列(Q458−z106)からなる抗体の重鎖;(a12)配列番号18のアミノ酸配列(Q460−z121)からなる抗体の重鎖;(a13)配列番号19のアミノ酸配列(Q499−z118)からなる抗体の重鎖;(a14)配列番号20のアミノ酸配列(Q499−z121)からなる抗体の重鎖;(b1)配列番号4のアミノ酸配列(J268−G4h)からなる抗体の重鎖;(b2)配列番号5のアミノ酸配列(J321−G4h)からなる抗体の重鎖;(b3)配列番号6のアミノ酸配列(J326−z107)からなる抗体の重鎖;(b4)配列番号7のアミノ酸配列(J344−z107)からなる抗体の重鎖;(b5)配列番号21のアミノ酸配列(J232−G4h)からなる抗体の重鎖;(b6)配列番号22のアミノ酸配列(J259−z107)からなる抗体の重鎖;(b7)配列番号23のアミノ酸配列(J300−z107)からなる抗体の重鎖;(b8)配列番号24のアミノ酸配列(J327−z107)からなる抗体の重鎖;(b9)配列番号25のアミノ酸配列(J327−z119)からなる抗体の重鎖;(b10)配列番号26のアミノ酸配列(J339−z119)からなる抗体の重鎖;(b11)配列番号27のアミノ酸配列(J346−z107)からなる抗体の重鎖;(b12)配列番号170のアミノ酸配列(J142−G4h)からなる抗体の重鎖;(c1)配列番号8のアミノ酸配列(L2−k)からなる抗体の軽鎖;(c2)配列番号9のアミノ酸配列(L45−k)からなる抗体の軽鎖;(c3)配列番号28のアミノ酸配列(L248−k)からなる抗体の軽鎖;(c4)配列番号29のアミノ酸配列(L234−k)からなる抗体の軽鎖;(c5)配列番号30のアミノ酸配列(L334−k)からなる抗体の軽鎖;(c6)配列番号31のアミノ酸配列(L377−k)からなる抗体の軽鎖;(c7)配列番号32のアミノ酸配列(L404−k)からなる抗体の軽鎖;(c8)配列番号33のアミノ酸配列(L406−k)からなる抗体の軽鎖;(c9)配列番号34のアミノ酸配列(L408−k)からなる抗体の軽鎖;及び(c10)配列番号171のアミノ酸配列(L180−k)からなる抗体の軽鎖、実施態様21〜28のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0221】
30.前記抗体は以下の(a)から(u)のいずれか1つの二重特異的抗体である:(a)二重特異的抗体(Q1−G4k/J268−G4h/L45−k)、ここで第一のポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号9を共通して共有する軽鎖である;(b)二重特異的抗体(Q1−G4k/J321−G4h/L45−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号9を共通して共有する軽鎖である;(c)二重特異的抗体(Q31−z7/J326−z107/L2−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号8を共通して共有する軽鎖である;(d)二重特異的抗体(Q64−z55/J344−z107/L45−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号9を共通して共有する軽鎖である;(e)二重特異的抗体(Q64−z7/J326−z107/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(f)二重特異的抗体(Q64−z7/J344−z107/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(g)二重特異的抗体(Q85−G4k/J268−G4h/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(h)二重特異的抗体(Q85−G4k/J321−G4h/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(i)二重特異的抗体(Q153−G4k/J232−G4h/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号12のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(j)二重特異的抗体(Q354−z106/J259−z107/L324−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号13のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号22のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号29を共通して共有する軽鎖である;(k)二重特異的抗体(Q360−G4k/J232−G4h/L406−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号33を共通して共有する軽鎖である;(l)二重特異的抗体(Q360−z118/J300−z107/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号15のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号23のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(m)二重特異的抗体(Q405−G4k/J232−G4h/L248−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号16のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号21のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号28を共通して共有する軽鎖である;(n)二重特異的抗体(Q458−z106/J346−z107/L408−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号27のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号34を共通して共有する軽鎖である;(o)二重特異的抗体(Q460−z121/J327−z119/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(p)二重特異的抗体(Q499−z118/J327−z107/L334−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号24のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号30を共通して共有する軽鎖である;(q)二重特異的抗体(Q499−z118/J327−z107/L377−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号24のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号31を共通して共有する軽鎖である;(r)二重特異的抗体(Q499−z118/J346−z107/L248−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号27のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号28を共通して共有する軽鎖である;(s)二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号32を共通して共有する軽鎖である;(t)二重特異的抗体(Q499−z121/J339−z119/L377−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号26のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号31を共通して共有する軽鎖である;及び(u)二重特異的抗体(Q153−G4k/J142−G4h/L180−k)、ここでの第一のポリペプチドは配列番号12のアミノ酸配列からなる重鎖であり、第二のポリペプチドは配列番号170のアミノ酸配列からなる重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは配列番号171を共通して共有する軽鎖である、実施態様28記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0222】
31.凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を用いて処置される血友病A患者に、第IX因子は10U〜200Uの第IX因子/kg(体重)の量で投与される、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0223】
32.さらに第X因子が10U〜200Uの第X因子/kg(体重)の量で投与される、実施態様31記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0224】
33.さらに第II因子が10U〜200Uの第II因子/kg(体重)の量で投与される、実施態様31記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0225】
34.さらに、第II因子及び第X因子が10U〜200Uの第II因子/kg(体重)及び10U〜200Uの第X因子/kg(体重)の量で投与される、実施態様31記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0226】
35.凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)を用いて処置される血友病A患者に、プロトロンビン複合体(PCC)は10U〜200UのPCC/kg(体重)の量で投与される、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0227】
36.前記の多重特異的抗体及び第IX因子は、同時に共投与される、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0228】
37.前記の多重特異的抗体及び第IX因子は、順次共投与される、前のいずれか1つの実施態様に記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0229】
38.血友病Aを患っている患者を処置する方法であって、該方法は、有効量のa)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、b)凝固第IX因子を、このような処置を必要とする患者に投与する工程を含む。
【0230】
39.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置法であって、該方法は、有効量のa)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、b)凝固第IX因子を、このような処置を必要とする患者に投与する工程を含む。
【0231】
40.患者は、先天性又は後天性の凝固第VIII因子の欠損症を患う、実施態様39記載の方法。
【0232】
41.欠損症は、抗体、他のインヒビター、消費、又は希釈によって獲得される、実施態様40記載の方法。
【0233】
42.出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを患っている(例えば、a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害、例えば血友病Aを患っている)患者において、
a)トロンビン生成を増加させるための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるための;
c)トロンビン生成/形成を促進するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するための;
f)血液凝固を増強するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための方法であって、該方法は、有効量のa)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)、b)(活性化されていない)凝固第IX因子を、患者に投与する工程を含む。
【0234】
43.a)出血のリスクが上昇している場合、
b)手術その他の侵襲的な施術中、及び/又は
c)血管損傷後
における、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0235】
44.さらにa)凝固第II因子、又はb)凝固第X因子、c)凝固第II因子及び第X因子;又はd)凝固第II因子、第X因子及び第VII因子が組み合わせて使用される、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0236】
45.凝固第IX因子は、プロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)に含まれる、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0237】
46.プロトロンビン複合体濃縮製剤は第IX因子、第II因子、及び第X因子を含む、実施態様45記載の方法。
【0238】
47.プロトロンビン複合体濃縮製剤は第IX因子、第II因子、第X因子、及び第VII因子を含む、実施態様45記載の方法。
【0239】
48.前記抗体が二重特異的であり、そして、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位がそれぞれ配列番号105、106、及び107の重鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(Q499の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157及び158の軽鎖のCDR1、2及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)とを含み、そして第二の抗原結合部位が、それぞれ配列番号126、127、及び128の重鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(J327の重鎖のCDR)と、それぞれ配列番号156、157、及び158の軽鎖のCDR1、2、及び3のアミノ酸配列(L404の軽鎖のCDR)とを含む、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0240】
49.前記抗体が、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0241】
50.前記の多重特異的抗体及び第IX因子は同時に共投与される、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0242】
51.前記の多重特異的抗体及び第IX因子は順次共投与される、前のいずれか1つの実施態様に記載の方法。
【0243】
以下に本発明のいくつかの好ましい実施態様を列挙する:
1.血友病Aの処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、該抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)であり、該抗体は(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0244】
2.血友病Aの処置に使用するための、(活性化されていない)凝固第IX因子であって、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用され、ここで該抗体はa)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である。
【0245】
3.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、該抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)であり、該抗体は(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせて使用される。
【0246】
4.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための(活性化されていない)凝固第IX因子であって、ここで凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用され、ここで該抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である。
【0247】
5.血友病Aの処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、ここで該抗体はa)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、多重特異的抗体、及び
b)(活性化されていない)凝固第IX因子
の組合せ。
【0248】
6.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置に使用するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、ここで該抗体はa)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、多重特異的抗体、及び
b)(活性化されていない)凝固第IX因子
の組合せ。
【0249】
7.血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、
凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用であって、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)であり、前記処置は凝固第IX因子と組み合わせる、使用。
【0250】
8.血友病Aの処置用の医薬品の製造のための、(活性化されていない)凝固第IX因子の使用であって、ここで前記凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用され、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、使用。
【0251】
9.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用であって、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)であり、前記処置は(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせる、使用。
【0252】
10.a)凝固第VIII因子の欠損症又はb)機能障害を患っている患者の処置用の医薬品の製造のための、(活性化されていない)凝固第IX因子の使用であって、ここで前記凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用され、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、使用。
【0253】
11.a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための、
凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、ここで該抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)であり、前記抗体は(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせて使用される、多重特異的抗体。
【0254】
12.a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための、(活性化されていない)凝固第IX因子であって、該凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用され、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、凝固第IX因子。
【0255】
13.a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための、
i)凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)であって、ここで該抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、抗体、及び
ii)(活性化されていない)凝固第IX因子
の組合せ。
【0256】
14.a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための、
医薬品の製造のための、
凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)の使用であって、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)であり、前記医薬品は、(活性化されていない)凝固第IX因子と組み合わせて使用される、使用。
【0257】
15.a)トロンビン生成を増加させるために使用するための;
b)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成を増加させるために使用するための;
c)トロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
d)トロンビン生成/形成を増加及び促進するために使用するための;
e)血管損傷部位/組織因子遊離部位におけるトロンビン生成/形成を促進するために使用するための;
f)血液凝固を増強するために使用するための;
g)フィブリン塊形成を増強させるために使用するための;及び/又は
h)出血、出血を伴う疾患、出血によって引き起こされる疾患などを予防及び/又は治療するための医薬品の製造のための(活性化されていない)凝固第IX因子の使用であって、ここで前記凝固第IX因子は、凝固第IX因子及び/又は活性化凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位と、凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位とを含む多重特異的抗体(血液凝固第VIII因子を機能的に代用する)と組み合わせて使用され、ここで前記抗体は、a)配列番号20のアミノ酸配列からなる重鎖、b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖、及びc)配列番号32のアミノ酸配列からなる(共通して共有される)軽鎖を含む二重特異的抗体(Q499−z121/J327−z119/L404−k)である、使用。
【0258】
16.トロンビン生成を増加させるために使用するための実施態様11〜15のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0259】
17.トロンビン生成を促進するために使用するための実施態様11〜15のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0260】
18.前記の多重特異的抗体及び第IX因子は同時に共投与される、実施態様1〜17のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0261】
19.前記の多重特異的抗体及び第IX因子は順次共投与される、実施態様1〜17のいずれか1つに記載の組合せ、抗体、又は使用。
【0262】
以下の実施例及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示されている。本発明の精神から逸脱することなく、示された手順に改変を行なうことができることが理解される。
【0263】
実験手順:
実施例1
第VIII因子欠損血漿中におけるトロンビンの生成
第VIII因子の欠損した(しかしながら、通常レベルの活性化されていない第IX因子、第X因子、及び第II因子を含有している)血漿試料(第VIII因子欠損血漿、シーメンス社)を、凝固第VIII因子の欠損症又は機能障害のモデルとして(特に、血友病A患者試料のモデルとして)使用した。
【0264】
米国特許第2013/0330345号に記載されているような第IX因子に結合しかつ第X因子に結合し(Q499−z121/J327−z119/L404−k)(配列番号20、配列番号25、及び配列番号32の配列のアミノ酸配列を含む)、そして本明細書において以下にBsab FIX/FXと略称される二重特異的抗体を、血漿試料中に、Bsab FIX/FXの臨床的に適用される濃度と似ている25、50、75、又は100μg/mlの濃度で添加した。Bsab FIX/FX(Q499−z121/J327−z119/L404−k)は米国特許第2013/0330345号に詳述され、そしてこれは、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第一の抗原結合部位を含む第一のポリペプチドと、血液凝固第IX因子及び/又は活性化血液凝固第IX因子に結合する第三の抗原結合部位を含む第三のポリペプチド、並びに、血液凝固第X因子に結合する第二の抗原結合部位を含む第二のポリペプチドと、血液凝固第X因子に結合する第四の抗原結合部位を含む第四のポリペプチドとを含み、ここで第一のポリペプチドは、配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖であり、第二のポリペプチドは、配列番号25のアミノ酸配列を含む重鎖であり、そして第三のポリペプチド及び第四のポリペプチドは、配列番号32のアミノ酸配列を含む共通して共有される軽鎖である。
【0265】
さらに、組換え第IX因子(ベネフィックス(R))((活性化されていない)第IX因子)を、インビトロで実験の一部に加えた。あるいは、(活性化されていない形態の)第IX因子を含む市販プロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)をインビトロで1U/mlの濃度で加えた(オクタプレックス(R))。オクタプレックスは、凝固第II因子(220〜760IU)、第VII因子(180〜480IU)、第IX因子(500IU)、及び第X因子(360〜600IU)を含有するプールされた血漿凝固因子濃縮製剤である。それはまた、プロテインC、プロテインS、アルブミン、ヘパリン、及びクエン酸ナトリウムも含有している。PCCは、インビトロでのその活性の評価を妨害する可能性があるヘパリンを少量含有しているので、PCCを、インビトロでヘパリンを分解する酵素であるヘパリナーゼ溶液(Hepzyme、シーメンス社)中で15分間インキュベートした。
【0266】
対照として組換え第VIII因子(アドベイト、バクスター社)を、100%の濃度で第VIII因子欠損血漿中に加えた。
【0267】
Bsab 第IX因子/第X因子の希釈液を、4%ゼラチン溶液(スポンゼル(Gelafusal))中で調製した。
【0268】
【表1】
【0269】
トロンビン生成は、少量の組織因子を用いて凝固を活性化した後に蛍光発生基質を用いて連続的に決定された(「PPPの少ない試薬」、装置及び全ての試薬は、Thrombinoscope社、オランダによる)。
【0270】
トロンビン生成法の記載:
生物学的血漿中のトロンビン生成を、Thrombinoscope BV(マーストリヒト、オランダ)製の校正自動トロンボグラム(CAT)法を使用して測定することができる。簡潔に言えば、トロンビン生成を、1pMの組織因子(TF)、リン脂質及びカルシウムイオン(Ca2+)の添加によって外因性凝固経路を介してトリガーする。親和性の低い蛍光発生基質を、トロンビン生成のリアルタイム分析のために加える。血漿試料を、公知のトロンビン校正物質に対して校正することにより、基質の枯渇、試料の色、及び内部フィルターの作用について修正する。蛍光をThermo Fluoroskanを用いて解読する。測定された蛍光シグナルからトロンビン活性を計算する。表現された曲線は、時間(x軸、秒)に対する遊離トロンビン活性(y軸、トロンビンのnM)を示す。
【0271】
対照の測定:第VIII因子欠損血漿及び第VIII因子欠損血漿+100%第VIII因子:
第VIII因子欠損血漿のみの分析は、予想された通り、非常に弱いトロンビンの生成を明らかにした。これは、血友病A患者における出血障害の生理学的理由を示す。
【0272】
図3aでは、第VIII因子の添加により急速にトロンビンが生成され、第VIII因子を欠失している試料と比較すると合計で7倍のトロンビンが生成される。
【0273】
Bsab FIX/FXの添加
また、Bsab FIX/FXの添加により、第VIII因子を欠失している試料のトロンビン生成の3.4倍から4.4倍の有意なトロンビン生成の増加がもたらされる。結果を図3bに示す。
【0274】
第VIII因子を欠失している血漿試料のトロンビン生成に関する、Bsab FIX/FXの活性と第VIII因子の活性の比較:
第VIII因子又はBsab FIX/FXの補充された試料のトロンビン生成を比較すると、第VIII因子を使用して有意により多くのトロンビンが形成され、また、トロンビン生成ピークまでの時間は、Bsab FIX/FXと比較して第VIII因子の方がより短かった(図3c参照)。
【0275】
Bsab FIX/FXで処置された第VIII因子欠損血漿への第IX因子の添加:
Bsab FIX/FXで処置された第VIII因子欠損血漿への第IX因子(100%)の添加により、トロンビン生成は有意に増加する(図4a及び表2参照)。
【0276】
75μg/mlのBsab FIX/FXを用いた試料では、これにより、トロンビン生成は倍加した。50μg/mlのBsab FIX/FXを用いた試料では、トロンビン生成の増加は75%であると決定された。25μg/mlのBsab FIX/FXを用いた試料では、トロンビン生成の50%の増加が認められた(図参照)。
【0277】
さらに、ピークまでの時間は、第IX因子の添加によって有意に短縮され、すなわち、トロンビンの生成が増加しただけでなく、トロンビン生成は加速もされた。
【0278】
図4a及び表2に見られるように、Bsab FIX/FXで処置された試料のトロンビン生成ピーク並びにピークまでの時間の両方が、100%の第VIII因子を用いた試料と一致した。
【0279】
Bsab FIX/FXを用いて処置された第VIII欠損血漿へのプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)の添加:
Bsab FIX/FXを用いて処置された第VIII欠損血漿へのPCC(1U/ml)の添加により、トロンビンの生成は有意に増加した。
【0280】
75μg/mlのBsab FIX/FXを用いた試料では、これにより、トロンビンの生成は94%増加した。25μg/mlのRO5534262を用いた試料では、トロンビン生成の90%の増加が認められた。どちらの場合も、トロンビン生成ピークは、第VIII因子の補充された試料と比較して、PCCの添加されたBsab FIX/FXを用いて処置された試料について類似していた(図4b及び表2参照)。
【0281】
【表2】
【0282】
100μg/mlのBsab FIX/FX及び100%の第IX因子又は1U/mlのPCCのいずれかを使用して、100%の第VIII因子/mlを用いて判明したトロンビン生成を上回るトロンビンの生成さえ達成することができる。これは、例えば外傷後又はより大きな手術後などの大出血の合併症の場合に望ましい場合がある。
【0283】
実験データの要約:
実験データは、第IX因子又はPCCのいずれかを、Bsab FIX/FX(Q499−z121/J327−z119/L404−k)を用いて処置された血漿試料に添加することにより、試料中のトロンビン生成は有意に増加することを示す。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]