特許第6698148号(P6698148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6698148プロトン供与体とプロトン受容体を有する多面体オリゴマー型シルセスキオキサンを含むフッ素系ナノ複合膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698148
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】プロトン供与体とプロトン受容体を有する多面体オリゴマー型シルセスキオキサンを含むフッ素系ナノ複合膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1039 20160101AFI20200518BHJP
   H01M 8/1048 20160101ALI20200518BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20200518BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20200518BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20200518BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20200518BHJP
   H01B 13/00 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   H01M8/1039
   H01M8/1048
   H01M8/1081
   C08J5/22 101
   C08J5/22CEW
   !H01M8/10 101
   !H01B1/06 A
   !H01B13/00 Z
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-501968(P2018-501968)
(86)(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公表番号】特表2018-525778(P2018-525778A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】KR2016002572
(87)【国際公開番号】WO2017159889
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】515139031
【氏名又は名称】ソガン ユニバーシティ リサーチ ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】SOGANG UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】リー・ヒーウー
(72)【発明者】
【氏名】キム・サンウー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・テヤン
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112906(JP,A)
【文献】 特開2005−339961(JP,A)
【文献】 特開2006−073357(JP,A)
【文献】 特開2005−222890(JP,A)
【文献】 特表2011−501856(JP,A)
【文献】 特表2012−530181(JP,A)
【文献】 特開2006−070246(JP,A)
【文献】 特開2014−065706(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0104918(US,A1)
【文献】 特開2011−034083(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0148497(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/02、8/08−8/24
H01B 1/06
C08J 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンがフッ素系プロトン伝導性高分子膜に導入されたプロトン伝導性ナノ複合膜。
【請求項2】
前記フッ素系プロトン伝導性高分子膜は、末端基にスルホン酸基、リン酸基またはカルボキシル基の中から選択された官能基を持つフッ素系ポリマーで形成されたことを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
【請求項3】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが、前記ナノ複合膜に1〜20重量%で含有されることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
【請求項4】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが重量比で1:0.05〜1で含有されることを特徴とする請求項3に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
【請求項5】
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン粒子のサイズが1〜3nmであることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
【請求項6】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、下記化学式1で表示されることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式1]
【化1】
前記化学式1において、Rはプロトン供与体であり、
前記Rは、−SOHである。
【請求項7】
前記Rは−R1−R2であり、
前記R1は(CH)n(ここで、nは1〜6の整数)またはフェニレンであり、
ここで、R2は−SOHである請求項6に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
【請求項8】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが下記化学式2で表示されることを特徴とする請求項6に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式2]
【化2】
上記式中、RはSOHであり、前記Rは16個まで官能化されることができる。
【請求項9】
前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが下記化学式で表示されることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式
【化3】

上記式中、AはNHであり、前記Aは16個まで官能化されることができる。
【請求項10】
プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンをフッ素系プロトン伝導性ポリマー溶液に混合するステップ;及び
前記混合溶液をキャストし、溶媒を除去するステップを含むプロトン伝導性ナノ複合膜製造方法。
【請求項11】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを前記ナノ複合膜に1〜20重量%で添加させるが、前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを重量比で1:0.05〜1で添加することを特徴とする請求項10に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン供与体(proton donor)を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)とプロトン受容体(proton acceptor)を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)がフッ素系プロトン伝導性高分子膜に導入されたプロトン伝導性ナノ複合膜、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、注目をあびている燃料電池は、燃料と酸化剤を電気化学的に反応させて発生されるエネルギーを直接電気エネルギーに変換させる発電システムであって、環境問題、エネルギー源の枯渇、燃料電池自動車の実用化が加速され、その効率を増加させるために高温で使用可能な高分子膜の開発も多様に行われている。
【0003】
燃料電池は、大きく700℃以上で作動する固体酸化物燃料電池、500〜700℃で作動する溶融炭酸塩電解質型燃料電池、200℃近傍で作動するリン酸電解質型燃料電池、常温〜約100℃以下で作動するアルカリ電解質型燃料電池及び高分子電解質型燃料電池などに区分される。また、燃料電池の中で直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell)は、メタノールを改質する必要がなく、小型化が可能である。
【0004】
この中でも、高分子電解質型燃料電池は、クリーンなエネルギー源でもあるが、出力密度及びエネルギー転換効率が高く、常温で動作可能であり、小型化や密閉化が可能なので無公害自動車、家庭用発電システム、移動通信機器、医療機器、軍事用機器、宇宙事業用機器などの分野で幅広く使用可能であり、その研究が一層集中している。
【0005】
特に、水素イオン交換膜を使用する高分子燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell:PEMFC)は、水素と酸素の電気化学的反応から直流の電気を生産する電力生成システムとしてアノードとカソードの間に厚さが100um以内のプロトン伝導性高分子膜が介在されている構造を有している。したがって、反応気体である水素が供給され、アノードでは酸化反応が起こり、水素分子が水素イオンと電子に転換されて、この時転換された水素イオンは、上記プロトン伝導性高分子膜を経ってカソードで伝達されると、カソードでは、酸素分子が電子を受けて酸素イオンに転換される還元反応が起こり、このとき生成された酸素イオンは、アノードからの伝達された水素イオンと反応して水分子に転換される。
【0006】
このような過程で燃料電池用プロトン伝導性高分子膜は、電気的には絶縁体であるが、電池の動作中にアノードからカソードへの水素イオンを伝達する媒介体として作用し、燃料ガスまたは液体と酸化剤ガスを分離する役割を同時に実行するので、機械的性質、及び電気化学的安全性に優れなければならず、動作温度での熱安全性、抵抗を減らすための薄膜としての製造性及び液体含有時の膨脹効果が少ないことなどの要件を満たす必要がある。
【0007】
従来の代表的な高分子電解質燃料電池に使用される電解質膜として広く使われている代表的な物質は、デュポン社が開発したNafionがある。しかし、Nafionの場合プロトン伝導性が良い代わり(0.1S/cm)に引張強度が20MPaと低く、waterswellingが40%で、機械的強度が脆弱であるという短所がある。現在最も多く実用化されて使われるフッ素系高分子であるNafionは100$/cm2の価格帯を形成している一方、代表的な炭化水素系高分子は、6〜10$/cm2であるため、Nafionを炭化水素系高分子に置き換えた場合、全体PEMFC MEAの価格を10%以上削減することができる。しかし、炭化水素系高分子は、Nafionより高いIECに比べて疎水性主鎖と親水性側鎖との間の相分離の程度がフッ素系高分子より低いため、ion clusterの直径が4〜5nmで、Nafionに比べて約50%小さく形成される。Nafionに比べて50%小さく形成されたion clusterにより炭化水素系高分子電解質膜のイオン導電率は0.05S/cmレベルであり、0.1S/cmのイオン導電率を持つNafionの半分程度に過ぎないので、Nafion以上のイオン導電率を達成するため、炭化水素系高分子のスルホン化度を高める研究がある。しかし、代表的な炭化水素系高分子であるスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone(sPEEK))の場合剛性(stiffness)が高い芳香族主鎖を介して20%未満の低い水膨潤性(water swelling)を有するが、スルホン化度を75%以上に高めるる、水膨潤性が急激に増加し、水にとけて溶解される欠点がある。
【0008】
韓国登録特許第804195号には、シリコーン酸化物、アルミニウム酸化物などの 無機ナノ粒子にスルホン酸基を導入し、これを再び高分子電解質と複合化した水素イオン伝導性高分子電解質膜が提案されている。しかし、このような複合膜は、マイクロサイズまたは、数十〜数百ナノサイズの無機粒子がイオンチャンネル内でプロトンの移動を妨げてプロトン導電率が低下するという問題点を有している。また無機粒子の大きさと凝集現象により複合膜の製造時に機械的強度が低下するという問題も存在する。
【0009】
本発明者の公開特許である10−2013−118075号「スルホン酸基を有するシルセスキオキサンを用いたプロトン伝導性高分子ナノ複合膜」には、ナフィオンなどのフッ素系プロトン伝導性ポリマーにスルホン酸基を有するシルセスキオキサンが混合された電解質膜が開示されている。前記公開特許には、スルホン酸基が付着した数ナノサイズのシルセスキオキサンをナフィオンと複合化して、ナノ複合膜の機械的強度及び伝導性を高めたが、高価格、長時間使用時の伝導性の減少、80度以上の性能の急減などの問題が依然として存在する。また、まだ高価なナフィオンを取り替えるために、より高いイオン導電率を持つ新しいナノ複合膜電解質が要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、「80度以下の低温」(low temperature)で、優れたプロトン導電率を提供し、水膨潤性による機械的強度の低下がなく、気体透過度を防止するプロトン伝導性高分子ナノ複合膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一様態は、プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンがフッ素系プロトン伝導性ポリマー基材に導入されたプロトン伝導性ナノ複合膜に関する。
【0012】
他の様態において、本発明は、
プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンをフッ素系プロトン伝導性ポリマー溶液に混合するステップ;及び
前記混合溶液をキャストグし、溶媒を除去するステップを含むプロトン伝導性ナノ複合膜の製造方法に関する。
【0013】
また他の様態において、本発明は、プロトン伝導性ナノ複合膜を含む燃料電池用膜電極接合体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のナノ複合膜は、プロトン供与体を有するPOSSとププロトン受容体を有するPOSSが一緒に添加されており、発生したプロトン(陽イオン)がイオンチャンネル内で簡単にホッピング(hopping)されてイオン導電率が増加している。
【0015】
また、本発明に使用されたPOSSは、その大きさが非常に小さくて、高分子膜内のイオンチャンネルでのプロトンの移動をほぼ妨害しないため、優れたプロトン導電率を実現することができる。
【0016】
本発明のプロトン伝導性ナノ複合膜は、高分子電解質燃料電池だけでなく、直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell)の高分子電解質膜や分離膜として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1は、実施例1で製造された伝導性ナノ複合膜のイオン導電率を測定して示したものである。
図2は、実施例1と比較例1で得られたナノ複合膜の引張強度を測定したものである。
図3は、実施例1と比較例1で製造されたナノ複合膜を利用して製造されたセルの性能を比較したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について対して詳述する。
本発明は、燃料電池用プロトン伝導性高分子ナノ複合膜に関する。
本発明のプロトン伝導性ナノ複合膜はプロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンがフッ素系プロトン伝導性ポリマー基材に導入されて形成される。
【0019】
本発明の高分子膜は、フッ素系プロトン伝導性ポリマーを使用する。
【0020】
前記フッ素系プロトン伝導性ポリマー基材は、末端基にスルホン酸基を有するフッ素系ポリマーであることがある。
【0021】
前記フッ素系プロトン伝導性ポリマー基材は、ナフィオン(Nafion)、ハイフロン(Hyflon)、フレミオン(Flemion)、ダウ(Dow)、アクイヴィオン(Aquivion)、ゴア(Gore)、またはエーシーアイプレックス(Aciplex)であることがある。
【0022】
本発明では、フッ素系プロトン高分子膜のフィラーとして二種類の多面体オリゴマーシルセスキオキサンを使用する。より具体的には、本発明では、プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを一緒に使用する。
【0023】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、下記化学式1で表示されることができる。
[化学式1]
【化1】
上記化学式1において、Rがプロトン供与体である。
上記RはR1R2である。
R1は(CH2)n(ここで、nは1〜6の整数)またはフェニレンである。
R2は酢酸、硝酸、リン酸、スルホン酸、過塩素酸、塩酸、炭酸、これらの塩またはこれらを含む化合物である。
【0024】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、好ましくは下記化学式2で表示されるスルホン化されたオックタフェニル多面体オリゴマーシルセスキオキサンであることができる。
[化学式2]
【化2】
上記式中、Rのうち少なくとも一つはSO3Hである。
上記式中、Rは16個まで官能化されることができる。
【0025】
上記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、下記化学式3で表示されることができる。
[化学式3]
【化3】
【0026】
上記化学式1において、前記Aは非共有電子対を有する窒素、酸素、リン-硫黄、フッ素、塩素原子を含む化合物である。
また、前記Aは−A1A2であり、ここで、A1は(CH2)n(ここで、nは1〜6の整数)またはフェニレンであり、A2はNH2、NO3−、NH3、PH3、NH2−、Cl−、O2−、S2−、F−、これらの塩またはこれらを含む化合物である。前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、下記化学式4で表示されることができる。
[化学式4]
【化4】
前記式中、Aのうち少なくとも一つはNH2である。
前記式中、Aは、Rが16個まで官能化されることができる。
【0027】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(以下、POSS−SAで表現)とプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(以下、POSS−Nで表現)は、その粒子サイズが1〜5nm、好ましくは1〜3nm、更に好ましくは1〜2nmである。前記POSSはサイズが小さくて、スルホン基を有する芳香族炭化水素高分子膜のイオンチャンネルでイオンの移動を妨げてなくて、複合膜の最大の問題であるイオン導電率の低下の問題を解決することができる。
【0028】
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)は、粒子サイズが小さく、安定的なシリカケージ構造にフェニル基とスルホン酸基(または、アミン基)が結合した非常にコンパクトな化学構造式を有しており、分散は非常に容易である。
【0029】
本発明では、アミン基などのブレンステッド塩基として作用するププロトン受容体を有しているので、ナノチャンネル内にさらに導入された過量プロトンと強力な水素結合を形成し、これにより、プロトンのホッピング(hopping)によるグロットゥス(Grotthuss)メカニズムでイオン導電率が向上する。
【0030】
本発明のナノ複合膜は、POSS−Nが5wt%未満、好ましくは1wt%未満に調節して複合化されるので、チャンネル内でのプロトンの移動を妨害したり、全体のイオン交換能を低下させる作用はない。また、前記プロトン受容体は、プロトン供与体によって生成された追加的なプロトンソースが水素結合を媒介としたグロットゥスメカニズム(Grotthuss mechanism)を有することができる。
【0031】
より具体的には、ホッピングメキニズム(またはグロットゥスメカニズム)は、水素結合ネットワークを介してプロトンがホッピングされて伝導されるメカニズムであるが、イオン交換能を低下させない範囲で強いブレンステッド塩基(アミン基)として作用することができる陽イオン受容体を導入すれば、水素結合媒介体が増加してブレンステッド酸−塩基間のホッピング距離が減るので、グロットゥスメカニズムがさらに活性化されて、プロトン導電率が大幅に上昇することができる。
【0032】
本発明のナノ複合膜は、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンの重量範囲を最大20wt%まで増やしてもチャンネル内に凝集現象が少なく、イオン導電率を大幅に向上させることができ、機械的強度(引張率と強度)が同時に向上することができる。
【0033】
本発明のナノ複合膜は、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンの添加に応じて延性の損失なし引張強度が増加するため、30ミクロン以下のより薄い薄膜を製造することができる。すなわち、本発明のナノ複合膜は超薄膜に製造することができる。
【0034】
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、ナノ複合膜の機械的強度を向上させることができ、水分による膜の膨張(swelling)現象を抑制することができる。また、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンが添加されたナノ複合膜は、80度以下で高いイオン伝導能力を維持することができる。
【0035】
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンが、前記プロトン伝導性ナノ複合膜全体の重量に対して1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜2重量%含まれることができる。
【0036】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)が重量比で1:0.05〜1、好ましくは1:0.05〜0.3、より好ましくは1:0.1〜0.25含有されることができる。
【0037】
前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、ナノ複合膜に対して5wt%以下、好ましくは1wt%以下で含まれることができる。
【0038】
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンがナノ複合膜に対して1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜2重量%含有されることができる。
【0039】
前記高分子膜がナフィオン高分子膜である場合には、スルホン酸基を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを3重量%、アミン基を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを0.1重量%含有する場合は、80℃/100%RH条件で、現在商用化されたナフィオン膜(0.12S/cm)より優れた0.18S/cmの導電率を有する。
【0040】
本発明では、ナフィオン膜を使用するが、前記のPOSS−SAとPOSS−Nが高分子膜内部で分子レベルの複合体(molecular composite)を形成することで、機械的強度が強い。
【0041】
すなわち、本発明では、プロトン伝導性複合膜の導電率と機械的強度を同時に向上させることができる。
【0042】
他の様態において、本発明は、プロトン伝導性ナノ複合膜の製造方法に関する。
【0043】
前記方法は、プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンをフッ素系プロトン伝導性ポリマー溶液に混合するステップ、及び前記混合溶液をキャストし、溶媒を除去するステップを含む。
【0044】
前記フッ素系プロトン伝導性ポリマー、プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン、及びプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは前述した内容を参考することができる。
【0045】
前記方法は、前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを前記プロトン伝導性ナノ複合膜全体の重量に対して、1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%含むことができる。
【0046】
前記方法は、前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを重量比で1:0.05〜1、好ましくは1:0.05〜0.3、より好ましくは1:0.1〜0.25添加することができる。
【0047】
他の様態において、本発明は燃料極、酸素極及び前記燃料極と酸素極との間に位置する前記プロトン伝導性ナノ複合膜を含む燃料電池用膜電極接合体に関する。前記燃料極と酸素極などについては公知された内容を参考することができる。前記プロトン伝導性ナノ複合膜は、燃料極で生成されたプロトンと電子を酸素極に伝達する媒介体の役割及び水素と酸素を分離する分離膜の機能をする。
【0048】
前記プロトン伝導性ナノ複合膜は、前述した本発明のナノ複合膜を使用することができる。
【0049】
本発明は、前記膜−電極接合体を備える燃料電池に関する。
【0050】
一実施形態に係る燃料電池は、上述したように得られた膜−電極接合体を用いて、公知の方法によって製造することができる。すなわち、上述した膜−電極接合体の両側をグラファイトを介在して単位セルを構成し、この単位セルを複数並べることで、燃料電池スタックを製造することができる。
【0051】
以下、実施例を通じて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
実施例1
1.スルホン酸基を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS−SO3H(POSS−SA))の合成
【化5】
【0052】
まず、1gのオクタフェニル(octaphenyl)POSSを5mlのクロロスルホン酸(chlorosulfonic acid)に混合して、常温で一晩攪拌した。前記溶液をTHF 200mlに注ぎ、生じる粉末をフィルタリングした後、pHが中性になるまで繰り返した。減圧乾燥して茶色の固体を得た。
【0053】
H−NMR(D2O)−7.54(dd;ArHmeta toPOSS)、7.81−7.83(2dd; ArH para to SO3H,ArHpara toPOSS)、8.03(dd; ArH ortho to SO3HandPOSS)。
FT−IR: 3070(OH of SO3H)、2330(SO3H−H2O)、1718、1590、1470、1446、1395,1298、1132(SO3 asymm)、1081(SO3 symm)、1023(SiOSi asymm)、991、806(SiOSisymm)
【0054】
2.アミン基を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS−NH2 (POSS−N))の合成
【化6】
【0055】
<ONP(OctaphenylPOSS)の調製>
氷水に5gのOPSと30mlの発煙硝酸(fuming nitric acid)をビーカーに入れて30min程度混合した。常温で20hour程度反応させた。前記溶液を氷水に解いて粉末を生じるた後にフィルタリングした。継いて、フィルタリングして得た固体残留物を水で洗浄した後、エタノール100mlで2回ほど洗浄した(ONP取得)。
【0056】
<OAPSの調製>
前で取得したONP0.5gを0.06gの10wt%Pd/Cと混合し、粉碎した。ここで、THF20mlとトリエチルアミン(triethylamine)20mlを入れた。混合物に蟻酸(formic acid)を少量添加した後、5hour反応させる。反応によって、二層に分離されるが、上記透明層は捨て、次の黒い層を集めて、ここに50mlのTHFと50mlの水を混合した。混合した溶液をシーライト(celite)でcolumnクロマトグラフィーをしてオクタニトロフェニル(Octanitrophenyl)POSS(ONPS)を得た。継いて、50mlの酢酸エチル(ethyl acetate)をfilterateに加え、純粋な水100mlを注ぎ込んで揺する。
【0057】
EA層(上層)を減らして茶色の結晶(合成物)をフィルタリングして得られた後、再び500mlのヘキサン(hexane)に混合してオクタアミノフェニル(Octa aminophenyl)POSS(OAPS)を製造した。
【0058】
3.ナノ複合膜の製造
Dupont社で製造されたナフィオン溶液(Nafion solution)を真空乾燥して、溶媒を除去し、ジメチルアセトアミド(DMAc)に1:19の重量比で溶解させる(5wt%溶液の調製)。前記5wt%溶液 11.76g(ナフィオンは0.588g)を、4つのガラス瓶にそれぞれ入れておいた。
【0059】
ナフィオン0.588gに対して、POSS−SAの含有量を2wt%で固定し、ナフィオンに対してPOSS−N含有量を0〜1wt%に調整して、ナフィオン/POSS−SA/POSS−Nナノ複合膜を製造した。前で製造されたPOSS−SAとPOSS−Nを4つのナフィオンガラス瓶にそれぞれ混合して一日間撹拌した。
【0060】
撹拌を完了したナフィオン/POSS−SA2wt%/POSS−N0〜1wt%溶液をそれぞれシャレーに注ぎた後、100℃オーブンで一晩キャストした。キャストを完了した後、シャレーに蒸溜水を注ぎ、シャレーからナノ複合膜を慎重に剥離した。
【0061】
比較例1
POSS−SAとPOSS−Nを使用せず、ナフィオンのみを使用してプロトン伝導性高分子膜を製造した。
【0062】
実験:イオン導電率の測定
比較例1と実施例1でそれぞれ得られた複合膜サンプルなどの厚さを測定した後、Bekktech社の4プローブ導電率セル(probe conductivity cell)を交流インピーダンスと接続した後、80℃/100%RHの条件でイオン導電率を測定した。測定されたイオン導電率を図1に示した。
【0063】
実験2:引張強度の測定
実施例1と比較例1の膜を乾燥した後、常温で万能材料試験機(UTM)装置を利用して、ASTM d882の標準的な実験方法によって、ナノ複合膜の機械的強度を測定した。実施例1と比較例1で得られたナノ複合膜の引張強度を測定した後、図2に示した。
【0064】
実験3:燃料電池セルの性能比較
前記実施例1(POSS−SA 2wt%、POSS−N 0.3wt%を使用)及び比較例1で製造されたナノ複合膜の両面に商業用の触媒電極層をホットプレス法でコーティングして膜−電極アセンブリー(Membrane−electrode assembly、MEA)をそれぞれ製造した。
【0065】
使用された電極は、E−TEK Inc.から入手可能な、単一面のELAT電極で、陰極には白金−ルビジウムブラック(Pt−Ru black)触媒を使用し、陽極には白金ブラック触媒を使用した。前記ホットプレスに使用された条件は、140℃で5分間、約60kgf/cmの圧力を印加することで固定した。シリコーンがコーティングされたガラス繊維ガスケットを膜−電極アセンブリーの上、下に位置させて、炭素素材で作られた集電板で圧着密封して単位電池を組立てた。
【0066】
単位電池の実験時、陰極と陽極に流入される純粋な水素と酸素の化学量論比は、それぞれ2.0、3.0に固定し、流入される供給圧は30psiで実験し、電池の性能を80℃、100%の加湿条件でそれぞれ測定し、その結果を図3に示した。
【0067】
図1を参照すると、POSS−SAの含有量を2wt%に固定し、POSS−Nの含有量を0〜1wt%に変化させる時、POSS−Nの含有量が0.3wt%である場合、イオン導電率が0.182S/cmで最も高かった。
【0068】
図2は、POSS−Nの含有量を0.5wt%に固定し、POSS−SAの含有量を10wt%まで高めた時の応力(stress)を示す。図2を参照すると、本発明の実施例では、歪み(strain)が80%以上140%まで増加しても、応力が維持されることを確認することができる。すなわち、本発明のナノ複合膜は、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンの添加によって延性の損失なし引張強度が増加することを示している。
【0069】
図3を参照すると、実施例1で製造された複合膜を用いた場合、0.6V、1.6A/cm2で比較例1のセル性能1.0A/cm2に比べて1.6倍以上高いことを確認することができる。これは、陽イオン供与体−受容体を介して向上した水素結合を通じて簡単にホッピングされてイオン導電率が大幅に増加するためである。
【0070】
今まで、本発明の具体的な実試例を説明した。当業者は、本発明が本質的な特性に逸脱しない範囲で変形された形態で具現されることができることを理解するべきである。本発明の範囲は、前述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等な範囲内にあるすべての違いは、本発明に含まれるものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のプロトン伝導性ナノ複合膜は高分子電解質燃料電池だけでなく、直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell)の高分子電解質膜や分離膜として使用することができる。
下記は、本願の出願当初に記載の発明である。
<請求項1>
プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンがフッ素系プロトン伝導性高分子膜に導入されたプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項2>
前記フッ素系プロトン伝導性ポリマー基材は、末端基にスルホン酸基、リン酸基またはカルボキシル基の中から選択された官能基を持つフッ素系ポリマーで形成されたことを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項3>
前記フッ素系プロトン伝導性ポリマーは、ナフィオン(Nafion)、ハイフロン(Hyflon)、フレミオン(Flemion)、ダウ(Dow)、アクイヴィオン(Aquivion)、ゴア(Gore)またはエーシーアイプレックス(Aciplex)であることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項4>
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが、前記ナノ複合膜に1〜20重量%で含有されることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項5>
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが重量比で1:0.05〜1で含有されることを特徴とする請求項4に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項6>
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン粒子のサイズが1〜3nmであることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項7>
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、下記化学式1で表示されることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式1]
<化4>
前記化学式1において、Rはプロトン供与体であり、
前記Rは、酢酸、硝酸、リン酸、スルホン酸、過塩素酸、塩酸、炭酸、これらの塩またはこれらを含む化合物である。
<請求項8>
前記Rは−R1−R2であり、
前記R1は(CH2)n(ここで、nは1〜6の整数)またはフェニレンであり、
ここで、R2は酢酸、硝酸、リン酸、スルホン酸、過塩素酸、塩酸、炭酸、これらの塩またはこれらを含む化合物である請求項7に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項9>
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが下記化学式2で表示されることを特徴とする請求項7に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式2]
<化5>
上記式中、Rのうち少なくとも一つはSO3Hであり、前記Rは16個まで官能化されることができる。
<請求項10>
前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが下記化学式3で表示されることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式3]
<化6>
前記化学式1において、前記Aは非共有電子対を有する窒素、酸素、リン-硫黄、フッ素、塩素原子を含む化合物である。
<請求項11>
前記Aは−A1A2であり、
前記A1は、(CH2)n(ここで、nは1〜6の整数)またはフェニレンであり、A2はNH2、NO3−、NH3、PH3、NH2−、Cl−、O2−、S2−、F−、これらの塩またはこれらを含む化合物である請求項10に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
<請求項12>
前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンが下記化学式4で表示されることを特徴とする請求項10に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜。
[化学式4]
<化7>
上記式中、Aのうち少なくとも一つはNH2であり、前記Aは16個まで官能化されることができる。
<請求項13>
プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンとプロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンをフッ素系プロトン伝導性ポリマー溶液に混合するステップ;及び
前記混合溶液をキャストし、溶媒を除去するステップを含むプロトン伝導性ナノ複合膜製造方法。
<請求項14>
前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを前記ナノ複合膜に1〜20重量%で添加させるが、前記プロトン供与体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンと前記プロトン受容体を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを重量比で1:0.05〜1で添加することを特徴とする請求項13に記載のプロトン伝導性ナノ複合膜の製造方法。

図1
図2
図3