(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6698230
(24)【登録日】2020年4月30日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】熱間圧延用チタン材の製造方法、および熱間圧延材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/02 20060101AFI20200518BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
B21B1/02 Z
B21B1/02 D
B21B3/00 K
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-550271(P2019-550271)
(86)(22)【出願日】2019年5月14日
(86)【国際出願番号】JP2019019163
【審査請求日】2019年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2018-122173(P2018-122173)
(32)【優先日】2018年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
(72)【発明者】
【氏名】三戸 武士
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】國枝 知徳
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 義正
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−001249(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/090352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00,3/00,45/06
B24B 27/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン素材の表面に、切削、研削、および研磨からなる群から選ばれる少なくとも1以上で処理することで、長手方向直交面において高低差が0.1mmを超え、傾斜角が45°以下である複数の傾斜面を長手方向に沿って設けることを含む表面欠陥除去工程と、
前記表面欠陥除去工程後に、先端形状が曲率半径3〜30mmの鋼製工具および半径3〜30mmの鋼製球の少なくともいずれか一方を用いて前記チタン素材の表面を打撃することにより、該表面に複数のディンプルを形成することで該表面に塑性歪を付与する塑性歪付与工程とを含む、熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項2】
前記傾斜角は、10〜30°である請求項1に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項3】
前記高低差は、8mm以下である請求項1または2に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項4】
前記表面欠陥除去工程において前記表面を少なくとも切削で処理し、前記切削としては、曲率半径が2mm以上50mm以下である丸型切削工具を使用する請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項5】
前記長手方向直交面の輪郭線の長さ3000mmあたり、前記傾斜面の数が4〜40個となるように前記表面欠陥除去工程を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項6】
前記表面欠陥除去工程前に、チタンインゴットまたはチタンスラブを鋳造して前記チタン素材を得る工程を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項7】
前記表面欠陥除去工程前に、前記チタンインゴットを鋳造した後、ブレークダウン処理を更に行うことで前記チタン素材を得る工程を更に含む、請求項6に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱間圧延用チタン材の製造方法を実施して熱間圧延用チタン材を得る工程と、
前記熱間圧延用チタン材を熱間圧延する工程とを含む、熱間圧延材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延用チタン材の製造方法、および熱間圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳型を用いて製造したチタンインゴットをチタン素材とし、これを分塊圧延や鍛造などによりブレークダウン処理してスラブやビレットなどの熱間圧延用チタン材を製造できる。また、鋳型形状の自由度が高い電子ビーム溶解法やプラズマアーク溶解法では、前記ブレークダウン処理後のスラブやビレット形状に相当する形状に熱間圧延用チタン材を直接鋳造することが可能である。
【0003】
熱間圧延用チタン材は、表面に存在する酸窒化被膜や表面欠陥を除去した後、熱間圧延に供され、スラブは板材(厚板や薄板)または帯材に、ビレットは棒線に加工される。
【0004】
チタン素材として工業的に使用される大型チタンインゴットは凝固組織が数十mmにもおよぶ粗大な結晶粒を含む。ブレークダウン処理を経ることなくこのようなチタンインゴットを熱間圧延すると前記粗大な結晶粒に起因して不均質な変形が生じ、大きな表面欠陥が生じる場合がある。熱間圧延により板材や帯材を製造する場合は、圧延面以外に側面やコーナー部にも前記粗大な凝固組織に起因して大きな皺が生じ、この皺が圧延面側に周り込みシーム疵と呼ばれる表面欠陥になったり、エッジ割れなどに発展したりする。熱間圧延により棒線を製造する場合は、圧延ロールと接触しない自由面部や噛み出し部において、板材や帯材を製造する場合と同様に、皺が生じ表面欠陥となってしまう。
【0005】
上記不具合を抑制する観点より大型のチタンインゴットを使用する場合は一般にブレークダウン処理が行われる。しかしながら、ブレークダウン処理ではいわゆるデッドメタル部が生じることがある。すなわち、ブレークダウン処理においてチタンインゴットと加工工具との接触部は摩擦抵抗によって拘束され変形量が小さくなり、デッドメタル部が生じることがある。変形量が不十分であるデッドメタル部を有する熱間圧延用チタン材を熱間圧延すると上記した表面欠陥が発生する場合がある。
【0006】
特許文献1には、デッドメタル部に起因する表面欠陥の発生を防ぐため、チタン素材の表面に対して塑性歪を付与して熱間圧延用チタン材とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010/090352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一実施形態により、熱間圧延材において表面欠陥が少ない、特にチタン素材への塑性歪付与処理に起因する表面欠陥が少ない、熱間圧延用チタン材の製造方法を提供する。また、他の一実施形態により、上記製造方法によって製造した熱間圧延用チタン材を使用する熱間圧延材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ね、チタン素材の表面に、長手方向直交面において高低差0.1mmを超え、傾斜角が45°以下である複数の傾斜面を長手方向に沿って設けることで、塑性歪付与処理に起因する表面欠陥の発生を抑制できることを見出した。本発明者らはさらに検討を重ね以下に説明する実施形態を含む発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は一側面において、チタン素材の表面に、切削、研削、および研磨からなる群から選ばれる少なくとも1以上で処理することで、長手方向直交面において高低差が0.1mmを超え、傾斜角が45°以下である複数の傾斜面を長手方向に沿って設けることを含む表面欠陥除去工程と、前記表面欠陥除去工程後に、前記表面に塑性歪を付与する塑性歪付与工程とを含む、熱間圧延用チタン材の製造方法である。
【0011】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記傾斜角は、10〜30°である。
【0012】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記高低差は、8mm以下である。
【0013】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記表面欠陥除去工程において前記表面を少なくとも切削で処理し、前記切削としては、曲率半径が2mm以上50mm以下である丸型切削工具を使用する。
【0014】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記長手方向直交面の輪郭線の長さ3000mmあたり、前記傾斜面の数が4〜40個となるように前記表面欠陥除去工程を行う。
【0015】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記表面欠陥除去工程前に、チタンインゴットまたはチタンスラブを鋳造して前記チタン素材を得る工程を更に含む。
【0016】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記表面欠陥除去工程前に、前記チタンインゴットを鋳造した後、ブレークダウン処理を更に行うことで前記チタン素材を得る工程を更に含む。
【0017】
本発明に係る熱間圧延用チタン材の製造方法の一実施形態においては、前記塑性歪付与工程では、先端形状が曲率半径3〜30mmの鋼製工具および半径3〜30mmの鋼製球の少なくともいずれか一方を用いて前記チタン素材の表面を打撃することにより、該表面に複数のディンプルを形成する。
【0018】
また、本発明は別の一側面において、上述した熱間圧延用チタン材の製造方法を実施して熱間圧延用チタン材を得る工程と、前記熱間圧延用チタン材を熱間圧延する工程とを含む、熱間圧延材の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
一実施形態によれば、熱間圧延材において表面欠陥が少ない、特にチタン素材への塑性歪付与処理に起因する表面欠陥が少ない、熱間圧延用チタン材の製造方法が提供される。また、他の一実施形態によれば、表面欠陥の少ない熱間圧延材を製造する熱間圧延材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】チタン素材表面の傾斜面の高低差と傾斜角を説明するための長手方向直交面における概略説明図である。
【
図2A】表面欠陥を角型切削工具により除去したチタンスラブにおける傾斜面の例を示す長手方向直交面における概略説明図である。
【
図2B】表面欠陥を丸型切削工具により除去したチタンスラブにおける傾斜面の例を示す長手方向直交面における概略説明図である。
【
図2C】表面欠陥を研削加工又は研磨加工により除去したチタンスラブにおける傾斜面の例を示す長手方向直交面における概略説明図である。
【
図3】表面欠陥を除去したチタンスラブの全体形状の例を示す概略斜視図である。
【
図4】塑性歪付与の前後を示す概略説明図の一例である。
【
図5A】表面欠陥を除去したチタンスラブの長手方向直交面における概略断面図の一例である。
【
図5B】表面欠陥を除去したチタンスラブの長手方向直交面における概略断面図の別の例である。
【
図5C】表面欠陥を除去したチタンスラブの長手方向直交面における概略断面図の更に別の例である。
【
図5D】表面欠陥を除去したチタンビレットの長手方向直交面における概略断面図の例である。
【
図6】実施例1〜6及び比較例1〜3における熱間圧延材を製造する製造方法を説明するフロー図である。
【
図7】実施例5、6及び比較例3における表面欠陥を除去したチタンスラブの表面全体を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0022】
工程の概略を説明すると、チタンインゴットまたはチタンスラブを鋳造してチタン素材を得て、該チタン素材は塑性歪付与処理を受けて熱間圧延用チタン材となり、該熱間圧延用チタン材は熱間圧延されて熱間圧延材となる。塑性歪付与処理を受ける表面は、通常、熱間圧延の圧延面である。
【0023】
チタン素材の組成は特に限定されず、純チタン材とチタン合金材を使用可能である。チタン合金材は、チタンとFe、Sn、Cr、Al、V、Mn、Zr、Mo等の金属との合金材であり、具体例としては、Ti−6−4(Ti−6Al−4V)、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−8−1−1(Ti−8Al−1Mo−1V)、Ti−6−2−4−2(Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo−0.1Si)、Ti−6−6−2(Ti−6Al−6V−2Sn−0.7Fe−0.7Cu)、Ti−6−2−4−6(Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo)、SP700(Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo)、Ti−17(Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr)、β−CEZ(Ti−5Al−2Sn−4Zr−4Mo−2Cr−1Fe)、TIMETAL555、Ti−5553(Ti−5Al−5Mo−5V−3Cr−0.5Fe)、TIMETAL21S(Ti−15Mo−2.7Nb−3Al−0.2Si)、TIMETAL LCB(Ti−4.5Fe−6.8Mo−1.5Al)、10−2−3(Ti−10V−2Fe−3Al)、Beta C(Ti−3Al−8V−6Cr−4Mo−4Cr)、Ti−8823(Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al)、15−3(Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn)、BetaIII(Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn)、Ti−13V−11Cr−3Al等が挙げられる。これらの具体例において、元素記号に付随する数字は各合金元素の含有量(質量%)を表す。
【0024】
チタン素材にはスラブやビレット等と同等形状の鋳造材(いわゆる直接鋳造材)、およびブレークダウン処理を経たもの、いずれも含まれる。また、チタン素材の形状は特に限定されず、例えばスラブ、ブルーム又はビレット等でよい。
【0025】
鋳造ままやブレークダウン処理ままでは長手方向に沿ってその直交面(直交断面と称する場合もある)を観察すると断面形状が安定せず、チタン素材の表面を加工することが有利であり、組成に着目するとチタン素材の表面は通常、酸窒化被膜で覆われている。その上、表面には疵などの表面欠陥が存在している。よって、後述の塑性歪付与処理前において、チタン素材の表面に切削、研削、および研磨からなる群から選ばれる少なくとも1以上の処理を行い、表層部位を除去・整形することが好ましい。
【0026】
上記除去処理の具体例として、プラノミラーでの加工やプレーナーでの加工に代表される切削、砥石での加工に代表される研削、バフ掛けに代表される研磨を例示できる。なお、切削、研削、および研磨からなる群から選ばれる少なくとも1以上で処理する際の条件を適切に設定することにより後述する傾斜面の傾斜角を小さくすることが可能である。
【0027】
例えば、切削角が45°以下の角型切削工具を使用するか、曲率半径2mm(2R)以上の丸型切削工具を使用することで効率的に好ましい傾斜面を形成できる。丸型切削工具はその曲率半径を大きくすることで傾斜面の傾斜角を小さくすることが可能なため、角型切削工具よりも好ましい。特に、丸型切削工具の曲率半径は2mm以上50mm以下が好ましい。この範囲とすると、切削機械が小型化でき、好ましい傾斜面の形成が効率的となる。
【0028】
また、後述する傾斜面の傾斜角を45°以下にする作業は、ハンドグラインダー等による研削加工によっても実施することができる。研削加工対象となる傾斜面の数が少ない場合や、傾斜面の高さが小さい場合等は、ハンドグラインダーによる研削加工の方が、作業が簡易的に済む場合がある。
【0029】
チタン素材がスラブである場合、該スラブの長手方向は通常、圧延方向となる。本発明においては、通常、スラブの圧延方向に直交し厚み方向に平行な断面を長手方向直交面という。なお、スラブ圧延面が正方形である場合は該正方形のいずれかの辺に沿う方向を長手方向とすればよい。
一方、チタン素材がビレットである場合、該ビレットの長手方向は通常、圧延方向となる。本発明においては、通常、ビレットの圧延方向に直交し円形面または略円形面である断面を長手方向直交面という。
【0030】
一実施形態において、塑性歪付与処理前に、チタン素材の表面には、長手方向直交面において高低差0.1mmを超える、傾斜面が長手方向に沿って設けられる。この高低差は後述する切削等によって設けられてもよいし、鋳造時に形成されたものであってもよい。一般的には、鋳造後のインゴット等は断面形状が安定しておらず、その表面も処理が必要であり、熱間圧延前には前処理が必須である。もし、高低差0.1mm以下の傾斜面の形状となるように精確な矩形・円形に調整した場合には、歩留まりの低下だけでなく作業負荷も生じる。よって、チタン素材の長手方向直交面において高低差0.1mmを超える傾斜面の形状を規定することが、塑性歪付与処理に起因する表面欠陥を抑制する上では重要である。傾斜面の高低差の上限値側は塑性歪付与処理に鑑み適宜選択すればよく、一つの傾斜面の高低差の上限値は、典型的には8mm以下、より典型的には4mm以下としてよい。なお、この高低差Hは、
図1に示すように、チタン素材を長手方向直交面10において観察したときに、測定対象となる1つの傾斜面20を挟み、チタン素材表面の輪郭線CLに接する2本の平行線PL1、PL2の距離が最も長くなる当該平行線PL1、PL2の距離である。
本発明において、高低差とは、各傾斜面における高低差の平均値をいう。
【0031】
傾斜面の傾斜角は以下の方法により求める。すなわち、
図1に示すように、チタン素材を長手方向直交面10において観察したときに、高低差を決めるための2本の平行線PL1、PL2のうち低い位置にある平行線PL1を基線BL1とし、その基線BL1における傾斜面20が立ち上がる点(立ち上がり点30)と、傾斜面20の傾斜角θが最大となる点を結び傾斜線SLを決定する。高低差Hを決めるための2本の平行線PL1、PL2のうち高い位置にある平行線PL2を基線BL2として決定する。傾斜線SLと基線BL2が形成する角が傾斜面20の傾斜角θである。なお、傾斜面20の傾斜角θは0°を超えて90°以下となる角を採用する。
本発明において、傾斜角とは、複数の傾斜面における傾斜角の平均値をいう。
【0032】
チタン素材がスラブである場合を例にとり、
図2A〜Cを用いて傾斜角を説明する。この例に示されるチタン素材は、上述した長手方向直交面において傾斜面が長手方向に沿って設けられている。例えば、チタン素材の表面を角型切削工具により切削した場合には、
図2Aに示すように、長手方向直交面10の傾斜面20は角型切削工具が有する角の形状を反映している。また、チタン素材の表面を丸型切削工具により切削した場合には、
図2Bに示すように、長手方向直交面10の傾斜面20は丸型切削工具が有する形状を反映した形状となる。また、チタン素材の表面を研削加工や研磨加工した場合には、
図2Cのように、個別に傾斜角θ、θ’を求め、これらθとθ’のうち大きい方を傾斜面20の傾斜角θとすればよい。なお、
図2A〜Cにおいては、下側を底面40とする。
なお、鋳造されたチタン素材の表面に特に深い表面欠陥が存在した場合には、表面欠陥を除去するため、その周辺を局所的に切削および研削の少なくともいずれか一方を行うと、これによっても局所的な傾斜面25が生じる(
図3)。この場合であっても、上述の方法により傾斜面20の傾斜角θを求めることができる。なお、長手方向直交面10については、チタンスラブ1の切断面を示すものである。
【0033】
チタン素材に設けられた傾斜面の傾斜角は45°以下とする。傾斜角が45°を超えると塑性歪付与処理後の熱間圧延において表面欠陥が発生しやすくなる。また、場合によっては、塑性歪付与処理後の熱間圧延用チタン材において表面欠陥が見出される場合もある。これは、チタン素材表面に存在する高低差を伴う段部が塑性加工によってチタン素材内に巻き込まれることに起因する表面欠陥である。具体的には、チタン素材の長手方向直交面110において、加工工具のハンマリング等によって塑性歪をチタン素材の表面に付与する際、傾斜面がチタン素材の表層数百μm深さに巻き込まれることで新たな表面欠陥となる(
図4)。この巻き込みに起因する表面欠陥を有する熱間圧延用チタン材を熱間圧延すると、熱間圧延により製造される熱間圧延材の表面に、塑性歪付与材に特有の表面欠陥が発生しやすくなる。このため、チタン素材に設けられた傾斜面の傾斜角は小さい方が上記チタン素材への巻き込みに起因する熱間圧延用チタン材における表面欠陥の発生率をより低くできる。傾斜面の傾斜角は、45°以下であり、40°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、20°以下であることが更に好ましい。上記傾斜面の傾斜角は、典型的に5°以上であり、より典型的に10°以上である。ただし、本発明において、コーナー部21(
図3)は、上記傾斜面の傾斜角に含まれるものではない。
なお、上記チタン素材への巻き込みに起因する熱間圧延用チタン材における表面欠陥は、浸透探傷検査にて検出することが可能であるため、塑性歪付与後に再度この表面欠陥を研削等で除去することも可能である。しかし、塑性歪付与後に表面欠陥を研削等で除去すると、当該部位の塑性歪付与層も同時に除去することになる。よって、当該部位では塑性歪の効果が損なわれ、熱間圧延後の熱間圧延材表面に、凝固組織に起因する表面疵が発生しやすくなる上、工程が増えることによるコスト増を招く。このような不具合を回避するため、塑性歪付与処理において表面欠陥を発生させないことが望ましく、塑性歪付与処理の前にチタン素材表面の傾斜面の形状を調整しておく。
【0034】
チタン素材の長手方向直交面の輪郭線の長さ3000mmあたり、前記傾斜面の数が4〜40個となるようにチタン素材の表面を処理することが好ましい。上記傾斜面の数は、切削等の後の形状を、なるべく切削等の前の形状に近づけて歩留ロスを低減するという観点から、下限値として4個以上が好ましく、8個以上がより好ましく、12個以上が更に好ましく、16個以上が更により好ましい。また、上記傾斜面の数は、切削等の所要時間を工業的に許容される時間内に収めるという観点から、上限値として40個以下が好ましく、30個以下がより好ましく、24個以下が更に好ましく、20個以下が更により好ましい。なお、長手方向直交面の輪郭線は、長手方向直交面の輪郭を線として捉え、その長さを求めている。
【0035】
チタン素材がスラブである場合には、チタンスラブの表面を切削して、表面欠陥を除去したチタンスラブの長手方向直交面10としては、
図5A〜Cが例示される。
また、チタン素材がビレットである場合には、チタンビレットの表面を切削して、表面欠陥を除去したチタンビレットの長手方向直交面10としては、
図5Dが例示される。
【0036】
チタン素材表面に塑性歪を付与する方法は適宜選択可能である。例えば国際公開第2010/090352号に記載されている方法が採用できる。先端形状が曲率半径3〜30mm(3〜30R)を有する鋼製工具および半径3〜30mm(3〜30R)の鋼製球の少なくともいずれか一方によって、チタン素材の表面を冷間で打撃し、所定量塑性変形させて所定の大きさの複数のディンプルを形成する方法が挙げられる。なお、所定の大きさのディンプルとは、形成されたディンプルの凹凸の深さ(高さ)や間隔を、JIS B0601(2001)に記載されている表面性状パラメーターのうち、うねりの輪郭曲線要素の平均高さ(Wc)、ディンプルの深さ、うねりの輪郭曲線要素の平均長さ(WSm)で表したとき、冷間で塑性変形されて形成されたディンプル表面において、Wcが0.2〜1.5mm、WSmが3〜15mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、Wcが0.3〜1.0mm、WSmが4〜10mmの範囲である。
【0037】
チタン素材表面に塑性歪付与処理を行って熱間圧延用チタン材を得ることができる。該熱間圧延チタン材を熱間圧延することで熱間圧延材を得ることができる。該熱間圧延の条件や設備は製造する熱間圧延材に鑑み適宜選択すればよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例1〜6及び比較例1〜3における熱間圧延材を製造する製造方法を説明するフロー図である
図6と、チタンスラブの表面全体を示す概略斜視図である
図7を使用しながら説明する。また、実施例5,6及び比較例3では、チタンスラブ1の傾斜面20の数が16である。
【0039】
[実施例1]
図6に示す鋳造工程S11では、幅1000mm×厚み250mm×長さ6000mmの鋳造チタンスラブを電子ビーム溶解炉で直接製造した。その後、表面欠陥除去工程S12では、鋳造チタンスラブを曲率半径5mm(5R)の丸型チップを用いて切削し、長手方向直交面において高低差が2.5mmである、複数の傾斜面を長手方向に沿って設けた。電子顕微鏡で表面を観察して、高低差が0.1mmを超える傾斜面の傾斜角を測定した結果、複数ある傾斜面で確認された傾斜角の平均値は30°であった。なお、使用するチタンスラブは厚み方向に平行となる断面である長手方向直交面において多段の傾斜面を有する。なお、1つの傾斜面における高低差については、ノギスで計測した。
【0040】
傾斜面の形成後、JIS Z2342−1(2001)に記載の方法に則った浸透探傷検査によりチタンスラブの表面欠陥を全て除去できたことを確認した。
【0041】
次いで、塑性歪付与工程S13では、該チタンスラブは、先端形状が曲率半径3〜30mm(3〜30R)の範囲内にある鋼製工具にて、その表層全面に冷間でハンマリング処理して所定のディンプル性状となるように塑性歪を付与し熱間圧延用チタン材とした。熱間圧延用チタン材を浸透探傷検査により確認したが、表面欠陥は観察されなかった。その後、熱間圧延工程S14では、熱間圧延用チタン材を熱間圧延し、酸洗処理して熱間圧延材を得た。該熱間圧延材を目視観察したが、表面疵は発見されなかった。
【0042】
上記の鋳造チタンスラブから熱間圧延材を製造する工程を同様の条件で4回行った。その結果、鋳造チタンスラブから切削、塑性歪付与処理、熱間圧延、酸洗処理を経て製造した熱間圧延材において、4回とも表面の疵は目視観察にて発見されなかった。
【0043】
[実施例2〜6、比較例1〜3]
傾斜面の傾斜角及び切削した工具型を表1に示すように変化させたこと以外は、実施例1と同様の条件にて鋳造チタンスラブから熱間圧延用チタン材を製造した。それぞれの条件で5個ずつ熱間圧延用チタン材を作製し、浸透探傷検査にて表面欠陥が検出されたサンプルの数を比較した。なお、実施例5、6及び比較例3では、表面欠陥除去工程S12において、
図7に示すように、チタンスラブ1の表面欠陥を角型切削工具で切削した。
【0044】
【表1】
【0045】
(考察)
実施例1〜6では、長手方向直交面において高低差が0.6mm以上である、複数の傾斜面が長手方向に沿って設けられ、複数の傾斜面の傾斜角の平均値が45°以下であったため、塑性歪付与工程S13後の浸透探傷検査において表面欠陥が少ないことを確認した。特に、実施例1、2及び5では、傾斜面の傾斜角の平均値が10〜30°であったため、塑性歪付与工程S13後の浸透探傷検査において表面欠陥がすべて除去されていることを確認した。
【0046】
一方、比較例1〜3では、傾斜面の傾斜角の平均値が45°を超えていたため、塑性歪付与工程S13後の浸透探傷検査において表面欠陥が生じていることを確認した。
【符号の説明】
【0047】
1 チタンスラブ
10、110 長手方向直交面
20 傾斜面
21 コーナー部
25 局所的な傾斜面
30 立ち上がり点
40 底面
BL1、BL2 基線
CL 輪郭線
H 高低差
PL1、PL2 平行線
SL 傾斜線
θ、θ’ 傾斜角
S11 鋳造工程
S12 表面欠陥除去工程
S13 塑性歪付与工程
S14 熱間圧延工程
【要約】
熱間圧延チタン材において表面欠陥が少ない、特にチタン素材への塑性歪付与処理に起因する表面欠陥が少ない熱間圧延用チタン材の製造方法が提供される。チタン素材の表面に、切削、研削、および研磨からなる群から選ばれる少なくとも1以上で処理することで、長手方向直交面10において高低差Hが0.1mmを超え、傾斜角θが45°以下である複数の傾斜面20を長手方向に沿って設けることを含む表面欠陥除去工程と、表面欠陥除去工程後に、表面に塑性歪を付与する塑性歪付与工程とを含む、熱間圧延用チタン材の製造方法。