特許第6698241号(P6698241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6698241触媒作用をもたらす塗料の製造方法と触媒作用を発揮する微粒子の集まりが積み重なった積層体の基材ないしは部品への形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698241
(24)【登録日】2020年5月1日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】触媒作用をもたらす塗料の製造方法と触媒作用を発揮する微粒子の集まりが積み重なった積層体の基材ないしは部品への形成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/04 20060101AFI20200518BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20200518BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20200518BHJP
   B01J 23/847 20060101ALI20200518BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20200518BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20200518BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   B01J37/04 102
   B01J23/89 A
   B01J23/755 A
   B01J23/847 A
   C09D1/00
   C09D7/40
   B05D3/02 Z
【請求項の数】11
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-241670(P2016-241670)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-83186(P2018-83186A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年3月27日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−139972(JP,A)
【文献】 特開2013−237602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B05D 3/02
C09D 1/00
C09D 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ないしは部品に塗料を塗布ないしは印刷すると、該基材ないしは該部品に触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる第一の塗料を製造する製造方法は、
触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物を熱分解で析出する第一の金属化合物と、強磁性の金属を熱分解で析出する第一の性質と、前記第一の金属化合物の熱分解温度より高い温度で熱分解する第二の性質を兼備する第二の金属化合物とを、アルコールに分散し、該2種類の金属化合物の各々がアルコールに分子状態で分散されたアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、沸点が前記第一の金属化合物の熱分解温度より低い第二の性質と、前記アルコールの粘度の5倍以上の粘度を持つ第三の性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に25重量%以下の割合で混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成する、これによって、該混合液を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成される塗膜ないしは印刷膜になる前記混合液からなる第一の塗料が製造される、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成される塗膜ないしは印刷膜になる第一の塗料を製造する製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法は、
請求項1に記載した第一の塗料を、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、該基材ないしは該部品を、前記第一の塗料を構成する第二の金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、最初にアルコールが気化し、前記第一の塗料を構成する2種類の金属化合物の微細結晶の集まりが、前記第一の塗料を構成する有機化合物中に均一に析出する、次に前記有機化合物が気化し、前記第一の塗料の塗膜ないしは印刷膜は、2種類の金属化合物の微細結晶が均一に分散された混合物になる、さらに、前記第一の塗料を構成する第一の金属化合物が熱分解し、第二の金属化合物の微細結晶の集まりに、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物からなる第一の微粒子の集まりが析出する、この後、前記第一の塗料を構成する第二の金属化合物が熱分解し、前記第一の微粒子の集まりに、強磁性の金属からなる第二の微粒子の集まりが均一に析出し、該第二の微粒子同士に作用する磁気吸引力で、前記第一の微粒子が前記第二の金属微粒子に接合し、該磁気吸引力で接合した前記2種類の微粒子の集まりからなる2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成され、該2種類の微粒子の積層体の表面を形成する前記2種類の微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該2種類の微粒子の積層体の表面は前記第一の微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品に、触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が形成される、請求項1に記載した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法。
【請求項3】
請求項1に記載した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法は、
請求項1に記載した第一の塗料は、前記第一の金属化合物を、触媒作用を有し、かつ、互いに異なる材質からなる金属ないしは金属酸化物を同じ熱分解温度で析出する複数種類の金属化合物で構成し、前記第二の金属化合物を、請求項1に記載した第二の金属化合物で構成し、前記複数種類の金属化合物の1種類ずつを、請求項1に記載した第一の金属化合物として用い、請求項1に記載した第一の塗料の製造方法に従って、互いに異なる種類の前記第一の金属化合物と前記第二の金属化合物とからなる複数種類の塗料を作成する、この後、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記複数種類の塗料の1種類ずつの塗料を塗布ないしは印刷する、さらに、該基材ないしは該部品を、前記第二の金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物の材質が互いに異なる1種類ずつの第一の微粒子の集まりと、強磁性の金属の第二の微粒子の集まりとが、積み重なった2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記第一の微粒子の材質が互い異なる該第一の微粒子の集まりと前記第二の微粒子の集まりからなる2種類の微粒子が析出し、前記第二の微粒子同士に作用する磁気吸引力で、前記第一の微粒子が前記第二の金属微粒子に接合し、該磁気吸引力で接合した2種類の微粒子の集まりからなる積層体が、材質が互いに異なる前記第一の微粒子で構成された1種類ずつの該第一の微粒子の集まりと前記第二の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体として、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に形成され、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に形成され、該2種類の微粒子の積層体の表面を形成する前記2種類の微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該2種類の微粒子の積層体の表面は前記第一の微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が形成される、請求項1に記載した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法。
【請求項4】
請求項2ないしは請求項3に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体と、前記基材ないしは前記部品との接合力を増大させる方法は、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、請求項2に記載した基材ないしは部品に2種類の微粒子の積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品に、前記2種類の微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
ないしは、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、請求項3に記載した基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
これによって、
前記2種類の微粒子の積層体を構成する前記強磁性の金属微粒子の集まりが発する磁力で、該積層体が前記基材ないしは前記部品に磁気吸着するとともに、前記強磁性の金属微粒子の磁化方向が前記磁場の印加方向に揃うことで、該強磁性の金属微粒子の磁力が増大され、前記積層体と前記基材ないしは前記部品との磁気吸着力が増大し、請求項2ないしは請求項3に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力が増大される、請求項2ないしは請求項3に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力を増大させる方法。
【請求項5】
請求項1に記載した第一の塗料を製造する製造方法は、
請求項1に記載した第一の金属化合物として、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物を用い、請求項1に記載した第二の金属化合物として、オクチル酸金属化合物を用い、請求項1に記載したアルコールとして、メタノールを用い、請求項1に記載した有機化合物として、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか1種類の有機化合物を用い、請求項1に記載した第一の塗料を製造する製造方法に従って第一の塗料を製造する、請求項1に記載した第一の塗料を製造する第一の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載した第一の塗料を製造する製造方法は、
請求項1に記載した第一の金属化合物として、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物を用い、請求項1に記載した第二の金属化合物として、ラウリン酸金属化合物を用い、請求項1に記載したアルコールとして、メタノールを用い、請求項1に記載した有機化合物として、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか1種類の有機化合物を用い、請求項1に記載した第一の塗料を製造する製造方法に従って第一の塗料を製造する、請求項1に記載した第一の塗料を製造する製造方法。
【請求項7】
基材ないしは部品に塗料を塗布ないしは印刷すると、該基材ないしは該部品に、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる第二の塗料を製造する製造方法は、
熱分解で触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属を析出する金属化合物を、アルコールに分散し、該金属化合物がアルコールに分子状態で分散されたアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第二の性質と、前記アルコールの粘度の5倍以上の粘度を持つ第三の性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に25重量%以下の割合で混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成する、これによって、該混合液を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる前記混合液からなる第二の塗料が製造される、基材ないしは部品に塗料を塗布ないしは印刷すると、該基材ないしは該部品に、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる第二の塗料を製造する製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の積層体を形成する方法は、
請求項7に記載した第二の塗料を、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、該基材ないしは該部品を、前記第二の塗料を構成する金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、最初にアルコールが気化し、前記第二の塗料を構成する金属化合物の微細結晶の集まりが、前記第二の塗料を構成する有機化合物中に均一に析出する、次に前記有機化合物が気化し、前記第二の塗料の塗膜ないしは印刷膜は、前記微細結晶が均一に分散された該微細結晶の集まりになる、さらに、前記金属化合物が熱分解し、触媒作用を有し、かつ、強磁性の性質を有する金属からなる金属微粒子の集まりが積み重なって前記基材ないしは前記部品に析出し、隣接する前記金属微粒子同士が金属結合し、該金属結合した金属微粒子の集まりからなる積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成され、該積層体の表面を形成する前記金属微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該積層体の表面は前記金属微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品に、前記触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の積層体が形成される、請求項7に記載した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の積層体を形成する方法。
【請求項9】
請求項7に記載した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依って、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる積層体を形成する方法は、
請求項7に記載した第二の塗料は、前記金属化合物を、触媒作用を有する異なる材質からなる2種類の強磁性金属が同じ熱分解温度で析出する2種類の金属化合物で構成し、該2種類の金属化合物の1種類ずつの金属化合物を用い、請求項7に記載した第二の塗料の製造方法に従って2種類の塗料を作成する、この後、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記2種類の塗料のうちの1種類ずつの塗料を塗布ないしは印刷する、さらに、該基材ないしは該部品を、前記金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、触媒作用を有する強磁性金属からなる2種類の金属のうちの1種類ずつの金属からなる微粒子の集まりが、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に積み重なって析出し、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に積み重なって析出し、隣接する前記金属微粒子同士が金属結合し、該金属結合した金属微粒子の集まりからなる積層体が、前記2種類の金属のうちの1種類ずつの金属が金属結合した金属微粒子の集まりからなる積層体として、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に形成され、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に形成され、該積層体の表面を形成する前記金属微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該積層体の表面は前記金属微粒子を構成する金属の材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記2種類の金属からなる1種類ずつの金属に依る触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体が形成される、請求項7に記載した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依って、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる積層体を形成する方法。
【請求項10】
請求項8ないしは請求項9に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力を増大させる方法は、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、請求項8に記載した基材ないしは部品に触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属結合した金属微粒子の集まりからなる積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品に、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
ないしは、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、請求項9に記載した基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依る触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依る触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
これによって、
前記積層体を構成する触媒作用を有する強磁性の金属微粒子の集まりが発する磁力で、該積層体が強磁性の材質からなる前記基材ないしは前記部品に磁気吸着するとともに、前記触媒作用を有する強磁性の金属微粒子の磁化方向が前記磁場の印加方向に揃うことで、該触媒作用を有する強磁性の金属微粒子の磁力が増大され、前記積層体と前記基材ないしは前記部品との磁気吸着力が増大し、請求項8ないしは請求項9に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力が増大される、請求項8ないしは請求項9に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する強磁性金属からなる金属微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力を増大させる方法。
【請求項11】
請求項7に記載した第二の塗料を製造する製造方法は、
請求項7に記載した金属化合物として、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトを用い、請求項7に記載したアルコールとして、メタノールを用い、請求項7に記載した有機化合物として、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか1種類の有機化合物を用い、請求項7に記載した第二の塗料を製造する製造方法に従って第二の塗料を製造する、請求項7に記載した第二の塗料を製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物からなる第一の微粒子と、強磁性の金属からなる第二の微粒子とが、互いに磁気吸着した2種類の微粒子の集まりからなる厚みが500nm未満の積層体を、基材ないしは部品に形成する。この積層体の表面は、同程度の大きさからなる粒状の微粒子が磁気吸引力で接合したため、2種類の微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらし、基材ないしは部品は、2種類の微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。
【背景技術】
【0002】
従来の触媒作用をもたらす塗料の一つとして、光触媒の作用をもたらす微粒子を分散させた塗料がある。例えば、特許文献1に、熱可塑性樹脂のバルーンの表面に光触媒作用を持つ微粒子を熱溶着させた第一の層と、コロイダルシリカからなる第二の層と、熱可塑性樹脂のバルーンの表面に金属粒子を熱溶着させた第三の層とからなる積層体を、壁や屋根に形成する塗料の製造方法が記載されている。つまり、第一の層は汚れ防止の層で、第二の層は断熱層で、第三の層は帯電防止の層である。
しかしながら、熱可塑性樹脂からなるバルーンは、光触媒作用を持つ微粒子と接触しているため、微粒子の光触媒作用によって熱可塑性樹脂の分解が進行し、触媒作用を持つ微粒子がバルーンの表面から脱落し、塗膜の光触媒機能が徐々に失われる。
また、特許文献2に、白色顔料の粒子の表面に、酸化タングステンの微粒子を付着させた光触媒粒子を、無機バインダーに分散させた塗料が記載されている。つまり、酸化タングステンは、450nmの励起波長を吸収した際に黄色に着色する性質を持つため、酸化タングステン微粒子を塗料の成分として用いると、塗膜が黄色に変色する問題点を持つ。このため、特許文献2では、白色顔料の粒子に酸化タングステンの微粒子を付着させることで、酸化タングステン微粒子における黄色を白色の顔料で緩和させることとした。なお、有機バインダーを用いると、酸化タングステンの光触媒作用で有機化合物が分解されるため、無機のバインダーを用いている。
しかしながら、白色顔料を無機バインダー中に分散するため、酸化タングステンの微粒子の表面は無機バインダーで覆われ、無機バインダーが紫外線を透過しないため、酸化タングステンの光触媒機能が発揮されない。
以上に説明したように、光触媒作用をもたらす微粒子が分散された塗料を用いた積層体では、触媒作用を持つ微粒子が有機物質に接する状態で積層体を形成することはできない。また、光触媒作用をもたらす微粒子が積層体の表面に現れることが必須になる。これらの要件はよく知られたことであるが、上記の特許文献はこれらの要件を満たしていない。
【0003】
従来の触媒作用をもたらす他の塗料として、自動車から排出される有害な排気ガスや排気ガスに含まれる微粒子の燃焼を促進させる触媒作用を有する微粒子を、分散させた塗料がある。例えば、特許文献3に、自動車のディーゼルエンジンから排出される微粒子と有害ガスとを燃焼させる排気浄化触媒が含まれる塗料を、多孔質フィルターに塗布することが記載されている。すなわち、微粒子を燃焼させる触媒として、LaBa1−xFeOの組成からなるペロブスカイト構造の複合酸化物を用い、有害なガス成分を燃焼させる触媒として、白金が担持されたアルミナ粉を用い、これらをセラミック粉体と溶剤と共に物理的に混合して塗料を作成し、多孔質フィルターに塗布することが記載されている。
しかしながら、塗料を多孔質フィルターに塗布しただけでは、触媒作用をもたらす複合酸化物と白金とが塗膜の表面に現れず、触媒作用が発揮されない。このように、燃焼を促進させる触媒についても、触媒作用をもたらす物質が積層体の表面に現れることが必須であることはよく知られた要件であるが、特許文献3はこの要件を満たしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−148026号公報
【特許文献2】特開2009−106897号公報
【特許文献3】特開2009−291753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒作用をもたらす物質の表面が、外界に直接晒されることで触媒作用が発揮できる。また、微粒子は単位質量に換算した表面積が大きく、微粒子の表面が直接外界に晒されれば、微粒子の集まりは、効率よく触媒作用を発揮する。しかし、触媒作用を有する微粒子を外界に直接晒すことは、前記した特許文献にみられるように容易ではない。つまり、触媒作用を有する微粒子をバインダーに分散すると、微粒子がバインダーで覆われ、直接外界に晒されない。また、特許文献1に記載された熱可塑性樹脂の熱融着で、触媒作用を有する微粒子をバルーンの表面に結合させても、微粒子が熱融解した樹脂に埋もれることで、微粒子が樹脂に結合されるため、微粒子の触媒作用が発揮できない。
ここで、本発明が解決しようとする課題を説明する。第一の課題は、安価な材料を原料として用い、極めて簡単な処理で塗料が製造できる。第二の課題は、基材ないしは部品の大きさや形状の制約を受けずに、全ての基材ないしは部品に、塗料が塗布ないしは印刷できる。第三の課題は、この基材ないしは部品に極めて簡単な処理を加えるだけで、触媒作用を発揮する微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒さらし、こうした微粒子を含む微粒子の集まりが積み重なった積層体が、基材ないしは部品に形成できる。第四の課題は、積層体は、自動車の排気浄化触媒装置に用いることができる耐熱性を持ち、あるいは、野外の壁や屋根の汚れ防止に用いることができる耐食性を持つ。本発明が解決しようとする課題は、これら4つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる基材ないしは部品に塗料を塗布ないしは印刷すると、該基材ないしは該部品に触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる第一の塗料を製造する製造方法は、
触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物を熱分解で析出する第一の金属化合物と、強磁性の金属を熱分解で析出する第一の性質と、前記第一の金属化合物の熱分解温度より高い温度で熱分解する第二の性質を兼備する第二の金属化合物とを、アルコールに分散し、該2種類の金属化合物の各々がアルコールに分子状態で分散されたアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、沸点が前記第一の金属化合物の熱分解温度より低い第二の性質と、前記アルコールの粘度の5倍以上の粘度を持つ第三の性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に25重量%以下の割合で混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成する、これによって、該混合液を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成される塗膜ないしは印刷膜になる前記混合液からなる第一の塗料が製造される、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成される塗膜ないしは印刷膜になる第一の塗料を製造する製造方法。
【0007】
つまり、2種類の金属化合物をアルコールに分散すると、2種類の金属化合物の各々が10重量%程度の割合でアルコールに分子状態で分散される。これによって、金属ないしは金属酸化物の原料が液相化される。次に、有機化合物をアルコール分散液に25重量%以下の割合で混合すると、有機化合物がアルコールに溶解ないしは混和するため、有機化合物はアルコール分散液と均一に混ざり合う。この混合液は、アルコールの高い混合割合によって、粘度の低い塗料となり、この塗料を塗布ないしは印刷すると、数ミクロン程度の膜厚からなる塗膜ないしは印刷膜が形成される。
いっぽう、第一の塗料がアルコールに近い粘度である場合は、第一の塗料を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷しても、塗膜ないしは印刷膜は崩れてしまう。このため、第一の塗料が一定の粘度を持つことで、塗膜ないしは印刷膜が形成できる。また、有機化合物の粘度は、一般に有機化合物の沸点が低くなるほど低い。これは、分子量が小さい有機化合物ほど沸点は低く粘度も低いことに依る。ところで、有機化合物の沸点は、第一の金属化合物の熱分解温度より低いため、第一の金属化合物の熱分解温度が低ければ粘度も低い。このため、有機化合物を金属化合物のアルコール分散液に混合する混合割合を、25重量%以下であるが25重量%に近づけることで、第一の塗料は一定の粘度を持つ。これに対し、第一の金属化合物の熱分解温度がより高ければ、より粘度が高い有機化合物を用いることになり、有機化合物の混合割合を下げることで、前記した粘度に近づく。このように、第一の金属化合物の熱分解温度に応じて、有機化合物の粘度が変わるため、2種類の金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合する混合割合を変えることで、第一の塗料に低い粘度を持たせることができ、数ミクロンの膜厚の塗膜ないしは印刷膜が形成される。
このような方法で製造した第一の塗料を、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷する際に、基材ないしは部品の形状や大きさに応じて、刷毛塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、浸漬塗装、ロールコーターなどからなる塗布方法を、ないしは、バーコート、リバースコート、グラビア印刷、スクリーン印刷などからなる印刷方法を選択すれば、全ての基材ないしは部品に、第一の塗料からなる塗膜ないしは印刷膜が形成される。いっぽう、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷した第一の塗料は粘度が低いため、基材ないしは部品の表面の凹凸に入り込み、基材ないしは部品に塗膜ないしは印刷膜を形成する。
なお、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材で構成される場合は、前記した様々な塗布方法や様々な印刷方法を用いて、第一の塗料を塗布ないしは印刷すれば、基材の外部の表面に塗膜ないしは印刷膜が形成される。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物の部品で構成される場合は、浸漬塗装の方法を用いて、第一の塗料を塗布すれば、部品の外部の表面のみならず、内部の空洞の表面にも塗膜が形成される。
以上に説明した第一の塗料は、2種類の金属化合物とアルコールと有機化合物とからなる汎用的な工業用薬品を原料として用いる。また、2種類の金属化合物をアルコールに分散し、このアルコール分散液に有機化合物を混合するだけの極めて簡単な処理で、第一の塗料が製造される。従って、安価な原料を用いて、安価な費用で大量の第一の塗料が製造される。また、基材ないしは部品の形状や大きさに拘わらず、全ての基材ないしは部品に、低粘度からなる第一の塗料を、塗布ないしは印刷することができる。この結果、第一の塗料は、5段落で説明した第一の課題と第二の課題とを同時に解決する。
【0008】
前記した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法は、
前記した第一の塗料を、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、該基材ないしは該部品を、前記第一の塗料を構成する第二の金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、最初にアルコールが気化し、前記第一の塗料を構成する2種類の金属化合物の微細結晶の集まりが、前記第一の塗料を構成する有機化合物中に均一に析出する、次に前記有機化合物が気化し、前記第一の塗料の塗膜ないしは印刷膜は、2種類の金属化合物の微細結晶が均一に分散された混合物になる、さらに、前記第一の塗料を構成する第一の金属化合物が熱分解し、第二の金属化合物の微細結晶の集まりに、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物からなる第一の微粒子の集まりが析出する、この後、前記第一の塗料を構成する第二の金属化合物が熱分解し、前記第一の微粒子の集まりに、強磁性の金属からなる第二の微粒子の集まりが均一に析出し、該第二の微粒子同士に作用する磁気吸引力で、前記第一の微粒子が前記第二の金属微粒子に接合し、該磁気吸引力で接合した前記2種類の微粒子の集まりからなる2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成され、該2種類の微粒子の積層体の表面を形成する前記2種類の微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該2種類の微粒子の積層体の表面は前記第一の微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品に、触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が形成される、前記した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法である。
【0009】
つまり、第一の塗料を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、塗料が低い粘度の液体であるため、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材である場合は、基材の表面の凹凸に入り込んで、数ミクロンの膜厚の塗膜ないしは印刷膜が基材の表面に形成される。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つような3次元的な構造物の部品である場合は、部品の表面の凹凸のみならず、内部の空洞の表面の凹凸に塗料が入り込んで、数ミクロンの膜厚の塗膜ないしは印刷膜が形成される。この後、基材ないしは部品が、アルコールの沸点に達すると、塗膜ないしは印刷膜の大部分を占めるアルコールが気化し、厚みが1μm程度の膜厚の塗膜ないしは印刷膜になる。この際、2種類の金属化合物が、アルコールに分散するが有機化合物に分散しないため、2種類の金属化合物の微細結晶の集まりが、有機化合物中に均一に析出する。さらに、基材ないしは部品が有機化合物の気化点に達すると有機化合物が気化し、塗膜ないしは印刷膜は、2種類の金属化合物の微細結晶が均一に分散された混合物になる。いっぽう、金属化合物の微細結晶の大きさが、基材ないしは部品の外部の表面と内部の表面との凹凸に比べ1桁以上小さいため、凹凸に入り込んで基材ないしは部品を覆う。なお、金属化合物の微細結晶は、熱分解で析出する金属ないしは金属酸化物の微粒子の大きさに相当する。さらに、基材ないしは部品が、第一の金属化合物が熱分解する温度に達すると、第二の金属化合物の微細結晶の集まりに、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物からなる第一の微粒子の集まりが均一に析出し、塗膜ないしは印刷膜は、第二の金属化合物の微細結晶の集まりと、第一の微粒子の集まりとからなる混合物になる。さらに、基材ないしは部品が、第二の金属化合物が熱分解する温度に達すると、第一の微粒子の集まりに、強磁性の金属からなる第二の微粒子の集まりが均一に析出し、第二の微粒子同士に作用する磁気吸引力で、第一の微粒子が第二の微粒子に接合し、磁気吸引力で接合した2種類の微粒子が5層前後の厚みで積み重なった積層体として、基材ないしは部品に形成される。いっぽう、第一の微粒子と第二の微粒子とは、いずれも40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子であり、積層体は500nm未満の膜厚で形成される。この積層体の表面は、同程度の大きさからなる粒状の微粒子が磁気吸引力で接合したため、微粒子の表面が50%より広い表面を直接外界に晒さらし、微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。また、磁気吸着した微粒子は、基材ないしは部品の外部の表面と内部の表面との凹凸に入り込んで積層体を形成するため、膜厚が500nm未満の積層体は、アンカー効果で基材ないしは部品から剥がれない。また、積層体には常時、第二の微粒子の磁気吸引力が作用し、基材ないしは部品に積層体が形成され続ける。
なお、第一の金属化合物として、熱分解で白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族の金属、銅、銀などの銅属の金属、熱分解で酸化チタン、酸化バナジウムなどの金属酸化物を析出する金属化合物を用いると、第一の微粒子が触媒作用を発揮する。
また、触媒作用と強磁性の性質とを兼備する金属として、コバルトとニッケルが存在する。従って、第二の金属化合物として、熱分解でコバルトを析出するコバルト化合物を用いると、コバルトの磁気キュリー点が1115℃と高く、コバルト微粒子同士の磁気吸引力で磁気吸着した積層体は、自動車の排気浄化触媒装置のような高温に晒される触媒として用いることができる。この際、コバルト微粒子は触媒作用を発揮する。第二の金属化合物として、熱分解でニッケルを析出するニッケル化合物を用いると、ニッケルの磁気キュリー点は354℃とコバルトに比べれば低いが耐食性に優れるため、ニッケル微粒子同士の磁気吸引力で磁気吸着した積層体は、屋外の壁や屋根の汚れ防止に用いる光触媒のような野外に長期間使用される触媒として用いることができる。この際、ニッケル微粒子は触媒作用を発揮する。なお、鉄に依る新たな触媒作用が見いだされれば、第二の金属化合物として熱分解で鉄を析出する鉄化合物を用いることができる。この際、鉄は磁気キュリー点が770℃と高い強磁性材料であるため、高温でも鉄に依る触媒作用が発揮される。
この結果、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材である場合は、基材の表面の凹凸に入り込んで触媒作用を発揮する積層体が形成される。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物の部品である場合は、触媒作用を発揮する積層体は、部品の表面のみならず、内部の空洞の表面にも形成される。
以上に説明したように、基材ないは部品に形成された積層体の表面は、2種類の微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。また、積層体は1150℃に近い耐熱性を持つことができ、また、野外に長期に晒しても経時変化しない耐久性を持つこともできる。さらに、第一の塗料に依る塗膜ないしは印刷膜の膜厚は数ミクロンであり、大型の基材ないしは部品であっても、第一の塗料の塗布量ないしは印刷量が極わずかである。また、積層体の形成は、第一の塗料の塗布ないしは印刷と、熱処理だけの処理である。この結果、5段落で説明した第三と第四との課題とが同時に解決できた。
【0010】
前記した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法は、
前記した第一の塗料は、前記第一の金属化合物を、触媒作用を有し、かつ、互いに異なる材質からなる金属ないしは金属酸化物を同じ熱分解温度で析出する複数種類の金属化合物で構成し、前記第二の金属化合物を、請求項1に記載した第二の金属化合物で構成し、前記複数種類の金属化合物の1種類ずつを、請求項1に記載した第一の金属化合物として用い、請求項1に記載した第一の塗料の製造方法に従って、互いに異なる種類の前記第一の金属化合物と前記第二の金属化合物とからなる複数種類の塗料を作成する、この後、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記複数種類の塗料の1種類ずつの塗料を塗布ないしは印刷する、さらに、該基材ないしは該部品を、前記第二の金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、触媒作用を有する金属ないしは金属酸化物の材質が互いに異なる1種類ずつの第一の微粒子の集まりと、強磁性の金属の第二の微粒子の集まりとが、積み重なった2種類の微粒子の積層体が、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記第一の微粒子の材質が互い異なる該第一の微粒子の集まりと前記第二の微粒子の集まりからなる2種類の微粒子が析出し、前記第二の微粒子同士に作用する磁気吸引力で、前記第一の微粒子が前記第二の金属微粒子に接合し、該磁気吸引力で接合した2種類の微粒子の集まりからなる積層体が、材質が互いに異なる前記第一の微粒子で構成された1種類ずつの該第一の微粒子の集まりと前記第二の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体として、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に形成され、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に形成され、該2種類の微粒子の積層体の表面を形成する前記2種類の微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該2種類の微粒子の積層体の表面は前記第一の微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体が形成される、前記した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法である。
【0011】
つまり、基材ないしは部品の互に異なる複数の部位における各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域における各々の領域に、前記した第一の塗料において、互いに異なる第一の金属化合物からなる複数種類の塗料の1種類ずつの塗料を、塗布ないしは印刷することは容易である。例えば、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材である場合は、複数種類の塗料の1種類ずつの塗料を、基材の互いに異なる部位の各々の部位に塗布ないしは印刷する度に、基材の表面を部分的にマスキングする領域をその都度変えれば、基材の異なる部位の各々の部位に、複数種類の塗料の1種類ずつの塗料が塗布ないしは印刷できる。また、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物の部品である場合は、2種類の塗料を部品に浸漬する際に、部品の上下の方向を変え、また、塗料に浸漬する深さを変えると、部品の内部の空洞の異なる領域の各々の表面に、2種類の塗料の1種類ずつの塗料が塗布できる。さらに、3種類以上の塗料を塗布する場合は、3種類以上の塗料からなる1種類ずつの塗料に、部品を浸漬する度に、浸漬する深さをその都度浅くすれば、部品の内部空洞の互いに異なる複数の領域の表面は、互いに異なる第一の金属化合物からなる塗料が塗布される。
また、第一の金属化合物の材質が異なる複数種類の塗料は、触媒作用を有する異なる材質の金属ないしは金属酸化物を、同じ熱分解温度で析出する複数種類の第一の金属化合物について、1種類ずつの第一金属化合物と第二の金属化合物とを原料に用いて、6段落に記載した第一の塗料の製造方法に従って塗料を製造すれば、第一の金属化合物の材質が互いに異なる複数種類の塗料を容易に製造することができる。
こうした複数種類の塗料の1種類ずつを、基材ないしは部品の互に異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、塗布ないしは印刷し、この後、第二金属化合物が熱分解する温度まで昇温すると、基材ないしは部品の互い異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する微粒子の集まりからなる積層体が形成される。これによって、一つの基材ないしは部品は、複数種類の触媒作用を発揮する。この結果、複数種類の触媒作用を複数の基材ないしは部品で発揮させるより、安価な費用で基材ないしは部品が製造できる。なお、第一の塗料が塗布ないしは印刷された基材ないしは部品を、第二の金属化合物が熱分解する温度まで昇温し、触媒作用を発揮する積層体が形成される過程は、9段落で説明した触媒作用を発揮する積層体を形成する過程と同様であるため、説明を省略した。
このような複数種類の触媒作用を発揮する一例を示すと、内部に多数の細長い空洞を有するハニカムセラミックを部品として用い、ハニカムセラミックの互いに異なる複数の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する積層体を形成する事例がある。すなわち、白金ないしはパラジウムが熱分解で析出する第一の金属化合物と、コバルトを熱分解で析出する第二の金属化合物とで、第一の塗料を製造する。また、ルテニウムが熱分解で析出する第一の金属化合物と、コバルトを熱分解で析出する第二の金属化合物とで、第二の塗料を製造する。次に、ハニカムセラミックの一方の端部から第一の塗料を含浸し、この後、もう一方の端部から第一の塗料に依る塗膜と重ならない領域に第二の塗料を含浸させ、この後、コバルト金属化合物が熱分解する温度まで昇温する。これによって、コバルト微粒子の磁気吸引力で接合した2種類の微粒子の集まりからなる積層体が、2種類の積層体としてハニカムセラミックの内部空洞の異なる領域に形成される。このハニカムセラミックを、例えば、自動車の排気浄化装置に用いると、ルテニウム微粒子とコバルト微粒子とからなる積層体が、排気浄化装置の上流側になり、白金ないしはパラジウムの微粒子とコバルト微粒子とからなる積層体が、排気浄化装置の下流側になるように配置すると、ルテニウム微粒子が一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する触媒作用を持つため、白金ないしはパラジウムの微粒子は一酸化炭素ガスの接触によって被毒されない効果がもたらされる。
さらに、前記したハニカムセラミックからなる内部の空洞の互いに異なる3つの領域に、互いに異なる3種類の触媒作用を発揮する積層体を形成することも可能である。すなわち、ルテニウムが熱分解で析出する第一の金属化合物と、コバルトが熱分解で析出する第二の金属化合物とで、第一の塗料を製造する。また、パラジウムが熱分解で析出する第一の金属化合物と、コバルトが熱分解で析出する第二の金属化合物とで、第二の塗料を製造する。さらに、ロジウムが熱分解で析出する第一の金属化合物と、コバルトが熱分解で析出する第二の金属化合物とで、第三の塗料を製造する。次に、ハニカムセラミックを第一の塗料に浸漬する。さらに、ハニカムセラミックを第一の塗料に浸漬した際の深さより浅い深さで、ハニカムセラミックを第二の塗料を浸漬する。さらにまた、ハニカムセラミックを第二の塗料に浸漬した際の深さよりさらに浅い深さで、ハニカムセラミックを第三の塗料を浸漬する。これによって、ハニカムセラミックの内部空洞は、互いに異なる3つの領域の表面に、第一から第三の塗料の各々が塗布される。この後、コバルト金属化合物が熱分解する温度まで昇温する。これによって、ハニカムセラミックの内部空洞は、互いに異なる3つの領域の各々の表面に、互いに異なる性質を持つ積層体が形成される。つまり、ルテニウム微粒子とコバルト微粒子とからなる第一の積層体と、パラジウム微粒子とコバルト微粒子とからなる第二の積層体と、ロジウム微粒子とコバルト微粒子とからなる第三の積層体とが、互いに異なる3つの領域の表面に形成され、一つのハニカムセラミックは互いに異なる3種類の触媒作用を発揮する。なお、第二の塗料の内側には、第一の塗料が塗布されたため、第二の積層体の内側に第一の積層体が形成されるが、第二の積層体は第二の塗料に依る触媒作用を発揮する。また、第三の塗料の内側には、第一と第二の塗料が塗布されたため、第三の積層体の内側に、第一と第二との積層体が形成されるが、第三の積層体は第三の塗料に依る触媒作用を発揮する。同様に、一つのハニカムセラミックによって、4種類以上の触媒作用を発揮する積層体の形成も可能である。
以上に説明した一つのハニカムセラミックに、複数種類の触媒作用を発揮する積層体を形成する事例は、3次元的な構造を持つハニカムセラミックに限定されない。前記したように、基材ないしは部品の互に異なる複数の部位における各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域における各々の領域に、互いに異なる第一の金属化合物からなる複数種類の塗料の1種類ずつの塗料を、塗布ないしは印刷することが容易にできる。この基材ないしは部品を、第二の金属化合物が熱分解する温度に昇温すれば、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する微粒子の集まりからなる積層体が形成できる。この結果、一つの基材ないしは一つの部品は、複数種類の触媒作用を発揮する。
【0012】
8段落ないしは10段落に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体と、前記基材ないしは前記部品との接合力を増大させる方法は、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、8段落に記載した基材ないしは部品に2種類の微粒子の積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品に、前記2種類の微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
ないしは、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、10段落に記載した基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、互いに異なる触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
これによって、
前記2種類の微粒子の積層体を構成する前記強磁性の金属微粒子の集まりが発する磁力で、該積層体が強磁性の材質からなる前記基材ないしは前記部品に磁気吸着するとともに、前記強磁性の金属微粒子の磁化方向が前記磁場の印加方向に揃うことで、該強磁性の金属微粒子の磁力が増大され、前記積層体と前記基材ないしは前記部品との磁気吸着力が増大し、8段落ないしは10段落に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力が増大される、8段落ないしは10段落に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する金属ないしは金属酸化物からなる微粒子の集まりと強磁性金属の微粒子の集まりが積み重なった2種類の微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力を増大させる方法である。
【0013】
つまり、強磁性の金属ないしは合金からなる基材ないしは部品を用い、8段落と10段落との各々の段落に記載した触媒作用を発揮する微粒子の積層体を基材ないしは部品に形成する方法に従って、強磁性の金属ないしは合金からなる基材ないしは部品に積層体を形成すると、積層体を構成する強磁性の金属微粒子の集まりが発する磁力で、積層体が基材ないしは部品に磁気吸着する。この後、基材ないしは部品に磁場を加える。これによって、強磁性の金属微粒子の磁化が磁場方向に揃えられて磁力が著しく増大するとともに、基材ないしは部品の磁化の方向も磁場方向に揃えられ、膜厚が僅かに500nm未満の触媒作用を発揮する微粒子の積層体と、基材ないしは部品との磁気吸着力が著しく増大し、積層体に物理的な応力が加えられても、積層体は基材ないしは部品の表面から剥がれない。
なお、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材で構成される場合は、積層体が基材の表面に平面形状として形成されるため、積層体の厚み方向に磁場を加える。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な部品である場合は、内部の空洞を形成する壁の表面に積層体が形成されるため、積層体の長さ方向、つまり、部品の長さ方向に磁場を加える。
すなわち、基材ないしは部品を、鉄やニッケルからなる金属、あるいは、鉄に少量のケイ素を加えた各種ケイ素鋼、鉄と様々な金属ととからなる各種鉄合金、鉄とニッケルとの各種ニッケル合金、マルテンサイト系、フェライト系、ないしはオーステナイト・フェライト系からなるステンレス鋼、あるいは、セラミック材料である各種の強磁性フェライトなど、様々な強磁性材料によって基材ないしは部品を構成することができる。
また、基材ないしは部品は、板やシートといった単純な形状のみならず、強磁性ワイヤを繊維状に編んだメッシュやシートからなる基材や、強磁性の金属箔ないしは合金泊を加工したハニカム、あるいは、強磁性のフェライトセラミックの粉体を面状フィルター、多孔質フィルター、ハニカムフィルターに押出成形した成形品など様々な形状や構造に加工した基材ないしは部品を用いることができる。
さらに、前記したように第一の塗料が低い粘度であるため、刷毛塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、浸漬塗装、ロールコーターなどからなる塗布方法を、ないしは、バーコート、リバースコート、グラビア印刷、スクリーン印刷などからなる印刷方法を選択すれば、全ての基材ないしは部品に、数ミクロンの膜厚の塗膜ないしは印刷膜が形成される。この後、熱分解で強磁性の金属を析出する金属化合物が熱分解する温度に昇温し、基材ないしは部品に積層体を磁気吸着させ、さらに、基材ないしは部品に磁場を加えれば、様々な大きさや形状からなり、かつ、強磁性の材質からなる基材ないしは部品と、膜厚が500nm未満の触媒作用を発揮する微粒子の積層体との磁気吸着力が著しく増大し、積層体に物理的な応力を加えられても、膜厚が極薄い積層体は磁気吸着力によって基材ないしは部品から剥がれない。
【0014】
前記した第一の塗料を製造する第一の製造方法は、前記した第一の金属化合物として、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物を用い、前記した第二の金属化合物として、オクチル酸金属化合物を用い、前記したアルコールとして、メタノールを用い、前記した有機化合物として、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか1種類の有機化合物を用い、前記した第一の塗料を製造する製造方法に従って第一の塗料を製造する第一の製造方法である。
【0015】
つまり、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物は、180−220℃の還元雰囲気で熱分解して金属を析出する。また、メタノールに10重量%近くまで分散する。従って、このような無機金属化合物の中で、触媒作用を有する白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族の金属を熱分解で析出する無機金属化合物と、触媒作用を有する銀、銅などの銅族の金属を熱分解で析出する無機金属化合物は第一の塗料の原料になる。
いっぽう、オクチル酸金属化合物は、無機金属化合物の熱分解温度より高い290℃で熱分解して金属を析出する。また、メタノールに10重量%程度まで分散する。こうしたオクチル酸金属化合物の中で、強磁性の鉄とニッケルとコバルトとの各々を熱分解で析出するオクチル酸鉄(C15COO)Feと、オクチル酸ニッケル(C15COO)Niと、オクチル酸コバルト(C15COO)Coとは第一の塗料の原料になる。
さらに、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、沸点が180℃より低く、メタノールの粘度の5倍以上の粘度を持ち、メタノールに溶解ないしは混和する性質を持つ有機化合物が存在する。このような有機化合物は、第一の塗料の原料になる。
つまり、前記した金属錯イオンを有する無機金属化合物は、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子と、金属錯イオンと結合する無機物とが低分子量の物質である。このため、還元雰囲気で熱処理すると、最初に、配位子と金属イオンとの配位結合部が比較的低い温度で分断され、無機物と金属とに分解される。さらに昇温すると、低分子量の無機物が容易に気化し、無機物が180−220℃の温度で気化を完了し、金属が析出する。つまり、無機金属化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きい。このため、金属イオンと配位子との距離が最も長くなる。従って、このような無機金属化合物を還元雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断される。こうした無機金属化合物の中に、熱分解でパラジウムを析出するパラジウム錯イオンを有する無機パラジウム化合物、熱分解で白金を析出する白金錯イオンを有する無機白金化合物、熱分解でロジウムを析出するロジウム錯イオンを有する無機ロジウム化合物、熱分解でルテニウムを析出するルテニウム錯イオンを有する無機ルテニウム化合物、熱分解で銀を析出する銀錯イオンを有する無機銀化合物、熱分解で銅を析出する銅錯イオンを有する無機銅化合物が存在する。こうした金属錯イオンと無機物とが結合した無機金属化合物は、金属錯イオンを有する金属錯塩の中で、配位子と金属錯イオンと結合する無機物との双方の分子量が小さいため、合成が容易であり、最も安価な金属錯塩である。
また、オクチル酸金属化合物を構成するイオンの中で、金属イオンが最も大きい。従って、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物は、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造を持つオクチル酸金属化合物を熱処理すると、オクチル酸の沸点を超える温度で、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。さらに昇温すると、オクチル酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了する290℃で金属が析出する。こうした熱分解で金属を析出するカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物の他に、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などが存在する。なお、このようなカルボン酸金属化合物は、窒素雰囲気での熱分解反応は、大気雰囲気での熱分解反応と同様に進む。いっぽう、大気圧でのオクチル酸の沸点は228℃で、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は361℃であり、オクチル酸金属化合物の熱分解温度が最も低い。
さらに、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、汎用的な有機酸であるオクチル酸を強アルカリと反応させると、オクチル酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。
さらに、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、沸点が180℃より低い第二の性質と、粘度がメタノールの5倍以上の粘度を持つ第三の性質とからなる3つの性質を兼備する有機化合物が存在する。このような有機化合物はいずれも汎用的な工業用薬品である。従って、このような有機化合物を、2種類の金属化合物のメタノール分散液に混合すると、有機化合物がメタノールに溶解ないしは混和するため、有機化合物は2種類の金属化合物のメタノール分散液と均一に混ざり合って、第一の塗料が製造される。
以上に説明したように、2種類の金属化合物とメタノールと有機化合物とからなる汎用的な工業用薬品を原料として用い、第一の塗料が安価な費用で製造される。この結果、5段落で説明した第一の課題と第二の課題とを同時に解決する第一の塗料が製造できる。
【0016】
前記した第一の塗料を製造する第二の製造方法は、前記した第一の金属化合物として、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物を用い、前記した第二の金属化合物として、ラウリン酸金属化合物を用い、前記したアルコールとして、メタノールを用い、前記した有機化合物として、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか1種類の有機化合物を用い、前記した第一の塗料を製造する製造方法に従って第一の塗料を製造する第二の製造方法である。
【0017】
つまり、安息香酸金属化合物は、大気雰囲気の310℃で熱分解して金属酸化物を析出し、メタノールに10重量%近くまで分散する。従って、安息香酸チタン(CCOO)Tiは、触媒作用を有する酸化チタンTiOの原料になる。また、ナフテン酸金属化合物は、大気雰囲気の330℃で熱分解して金属酸化物を析出し、メタノールに10重量%近くまで分散する。従って、ナフテン酸バナジウム(C17COO)Vは、触媒作用を有する酸化バナジウムVの原料になる。
いっぽう、ラウリン酸金属化合物は、安息香酸金属化合物とナフテン酸金属化合物との熱分解温度より高い360℃で熱分解して金属を析出し、メタノールに10重量%近くまで分散する。従って、ラウリン酸鉄(C1123COO)Feと、ラウリン酸ニッケル(C1123COO)Niと、ラウリン酸コバルト(C1123COO)Coとは、強磁性の鉄、ニッケル、コバルトの各々を熱分解で析出する原料になる。
さらに、カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、沸点が310℃より低く、メタノールの粘度の5倍以上の粘度を持ち、メタノールに溶解ないしは混和する有機化合物が存在する。このような有機化合物は、第一の塗料の原料になる。
つまり、安息香酸金属化合物とナフテン酸金属化合物はカルボン酸金属化合物であるが、オクチル酸金属化合物とラウリン酸金属化合物とからなるカルボン酸金属化合物とは異なり、安息香酸ないしはナフテン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になり、金属イオンに近づいて配位結合する有機金属化合物からなる錯体である。この錯体は、最も大きいイオンである金属イオンに酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つ安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物は、安息香酸ないしはナフテン酸の沸点を超えると、安息香酸ないしはナフテン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物と安息香酸ないしはナフテン酸とに分解する。さらに昇温すると、安息香酸ないしはナフテン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると、金属酸化物が析出して熱分解を終える。こうした熱分解で金属酸化物を析出するカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などがある。いっぽう、大気圧での酢酸の沸点は118℃で、カプリル酸の沸点は237℃で、安息香酸の沸点は249℃である。また、ナフテン酸は5員環をもつ飽和脂肪酸の混合物で、一般式がC2n−1COOHで示され、主成分の沸点が268℃で、分子量が170のC17COOHからなる。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、配位結合するカルボン酸の分子量と、配位結合するカルボン酸の数とに応じて、180−330℃の温度で熱分解が完了する。このようなカルボン酸金属化合物の中で、安息香酸チタンは合成が容易で、配位結合が安定な物質で、熱分解で酸化チタンを析出する。また、カルボン酸金属化合物の中で、ナフテン酸バナジウムは合成が容易で、配位結合が安定な物質で、熱分解で酸化バナジウムを析出する。なお、カルボン酸金属化合物からなる錯体に、配位結合が不安定な錯体が存在し、このような錯体は、熱分解で金属酸化物を析出しない。
また、ラウリン酸金属化合物は、前記したオクチル酸金属化合物と同様に、熱分解で金属を析出するカルボン酸金属化合物である。いっぽう、ラウリン酸金属化合物が熱分解する温度は、オクチル酸金属化合物が熱分解する温度より70℃ほど高く、また、安息香酸金属化合物の熱分解温度より50℃ほど高く、ナフテン酸金属化合物の熱分解温度より30℃ほど高い。従って、熱分解で鉄を析出するラウリン酸鉄、熱分解でニッケルを析出するラウリン酸ニッケル、熱分解でコバルトを析出するラウリン酸コバルトは、第一塗料の原料になる。
さらに、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、沸点が310℃より低い第二の性質と、粘度がメタノールの5倍以上の粘度を持つ第三の性質とからなる3つの性質を兼備する有機化合物が存在する。このような有機化合物はいずれも汎用的な工業用薬品である。従って、このような有機化合物を、2種類の金属化合物のメタノール分散液に混合すると、有機化合物は2種類の金属化合物のメタノール分散液と均一に混ざり合って、第一の塗料が製造される。
以上に説明したように、安息香酸金属化合物ないしはナフテン酸金属化合物とラウリン酸金属化合物とメタノールと有機化合物とからなる汎用的な工業用薬品を原料として用いることで、第二の塗料が安価な費用で製造される。この結果、5段落で説明した第一の課題と第二の課題とを同時に解決する第一の塗料が製造できる。
【0018】
本発明における基材ないしは部品に塗料を塗布ないしは印刷すると、該基材ないしは該部品に、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属微粒子の積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる第二の塗料を製造する製造方法は、
熱分解で触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属を析出する金属化合物を、アルコールに分散し、該金属化合物がアルコールに分子状態で分散されたアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第二の性質と、前記アルコールの粘度の5倍以上の粘度を持つ第三の性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に25重量%以下の割合で混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成する、これによって、該混合液を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属微粒子の積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる前記混合液からなる第二の塗料が製造される、基材ないしは部品に塗料を塗布ないしは印刷すると、該基材ないしは該部品に、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属微粒子の積層体が形成される塗膜ないしは印刷膜となる第二の塗料を製造する製造方法である。
【0019】
つまり、熱分解で触媒作用と強磁性の性質とを兼備する金属を析出する金属化合物をアルコールに分散すると、金属化合物が分子状態となって10重量%近い割合でアルコールに分散される。これによって、触媒作用と強磁性の性質とを兼備する金属の原料が液相化される。次に、有機化合物をアルコール分散液に25重量%以下の割合で混合すると、有機化合物がアルコールに溶解ないしは混和するため、有機化合物はアルコール分散液と均一に混ざり合い、アルコールの高い混合割合によって、粘度の低い塗料となり、この塗料を塗布ないしは印刷すると、数ミクロンの膜厚からなる塗膜ないしは印刷膜が形成される。また、触媒作用と強磁性の性質とを兼備する金属として、コバルトとニッケルが存在し、金属化合物は熱分解によってコバルトないしはニッケルを析出する。
なお、7段落で説明したように、有機化合物の粘度は有機化合物の沸点に応じて変わる。従って、7段落で記載した第一の塗料を製造する際と同様に、熱分解で触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質を兼備する金属を析出する金属化合物の熱分解温度に応じて、金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合する割合を変えれば、第二の塗料の粘度は第一の塗料の粘度に近づき、基材ないしは部品の大きさや形状に拘わらず、第二の塗料からなる塗膜ないしは印刷膜が数ミクロンの膜厚で形成される。
このような方法で製造した第二の塗料を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷する際に、基材ないしは部品の形状や大きさに応じて、刷毛塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、浸漬塗装、ロールコーターなどからなる塗布方法を、ないしは、バーコート、リバースコート、グラビア印刷、スクリーン印刷などからなる印刷方法を選択すれば、全ての基材ないしは部品に、塗膜ないしは印刷膜が形成される。いっぽう、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷した低粘度の塗料は、基材ないしは部品の表面の凹凸に入り込み、基材ないしは部品に塗膜ないしは印刷膜を形成する。
なお、7段落で説明したように、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材で構成される場合は、前記した様々な塗布方法や印刷方法を用いて、基材に第二の塗料を塗布ないしは印刷すれば、基材の表面に塗膜ないしは印刷膜が形成される。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物の部品で構成される場合は、前記した浸漬塗装の方法を用い、部品の表面のみならず、内部の空洞の表面にも塗膜が形成される。
以上に説明した第二の塗料は、熱分解で触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質を兼備する金属を析出する金属化合物とアルコールと有機化合物とからなる汎用的な工業用薬品を原料として用いる。また、第二の塗料の製造方法は、金属化合物をアルコールに分散し、このアルコール分散液に有機化合物を混合するだけの極めて簡単な処理である。従って、安価な原料を用いて、安価な費用で大量の第二の塗料が製造される。また、基材ないしは部品の形状や大きさに拘わらず、全ての基材ないしは部品に、低い粘度からなる第二の塗料を、塗布ないしは印刷することができる。この結果、第二の塗料は、5段落で説明した第一の課題と第二の課題とを同時に解決する。
【0020】
前記した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した金属微粒子の積層体を形成する方法は、
前記した第二の塗料を、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、該基材ないしは該部品を、前記第二の塗料を構成する金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、最初にアルコールが気化し、前記第二の塗料を構成する金属化合物の微細結晶の集まりが、前記第二の塗料を構成する有機化合物中に均一に析出する、次に前記有機化合物が気化し、前記第二の塗料の塗膜ないしは印刷膜は、前記微細結晶が均一に分散された該微細結晶の集まりになる、さらに、前記金属化合物が熱分解し、触媒作用を有し、かつ、強磁性の性質を有する金属からなる金属微粒子の集まりが積み重なって前記基材ないしは前記部品に析出し、隣接する前記金属微粒子同士が金属結合し、該金属結合した金属微粒子の集まりからなる積層体が、前記基材ないしは前記部品に形成され、該積層体の表面を形成する前記金属微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該積層体の表面は前記金属微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品に、前記触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した金属微粒子の積層体が形成される、前記した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子同士が金属結合した金属微粒子の積層体を形成する方法。
【0021】
つまり、第二の塗料を基材ないしは部品に塗布ないしは印刷すると、塗料が低い粘度の液体であるため、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材である場合は、基材の表面の凹凸に入り込んで、厚みが薄い塗膜ないしは印刷膜が、基材の表面に形成される。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つような3次元的な構造物の部品である場合は、部品の表面の凹凸のみならず内部空洞の表面の凹凸にも塗料が入り込み、厚みが薄い塗膜が外部の表面と内部の表面とに形成される。この後、基材ないしは部品が、アルコールの気化点に達すると、塗膜ないしは印刷膜の大部分を占めるアルコールが気化し、厚みが1μm程度の膜厚からなる塗膜ないしは印刷膜になる。この際、金属化合物がアルコールに分散するが有機化合物に分散しないため、金属化合物の微細結晶の集まりが有機化合物中に析出する。さらに、基材ないしは部品が、有機化合物の沸点に達すると、有機化合物が気化し、塗膜ないしは印刷膜は金属化合物の微細結晶の集まりになる。いっぽう、金属化合物の微細結晶の大きさが、基材ないしは部品の表面ないしは内部の表面の凹凸に比べ1桁以上小さいため、微細結晶は凹凸に入り込んで基材ないしは部品を覆う。なお、金属化合物の微細結晶は、熱分解で析出する金属微粒子の大きさに相当する。さらに、基材ないしは部品が、金属化合物が熱分解する温度に達すると、基材ないしは部品に、触媒作用と強磁性の性質とを兼備し、大きさが40−60nmの粒状の微粒子の集まりが5層前後積み重なって析出する。この際、析出する金属微粒子が不純物を持たない活性状態で析出するため、隣接する金属微粒子同士が接触部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりからなる500nm未満の膜厚からなる積層体が形成される。この積層体の表面は、大きさが40−60nmの粒状の微粒子同士が互いの接触部位で金属結合するため、50%より広い微粒子の表面が外界に直接晒され、微粒子は効率よく触媒作用を発揮する。こうした金属結合した金属微粒子は、基材ないしは部品の表面の凹凸に入り込むとともに、基材ないしは部品の表面を覆うため、アンカー効果で積層体は基材ないしは部品から剥がれない。
なお、触媒作用と強磁性の性質とを兼備する金属として、ニッケルとコバルトが存在する。このため、金属化合物として、熱分解でコバルトを析出するコバルト化合物を用いれば、コバルトの磁気キュリー点が1115℃と高く、コバルト微粒子の集まりからなる積層体は、高温に晒される触媒装置に用いることができる。あるいは、金属化合物として、熱分解でニッケルを析出するニッケル化合物を用いれば、ニッケルの磁気キュリー点は354℃とコバルトに比べれば低いが耐食性に優れるため、ニッケル微粒子の集まりからなる積層体は、野外に長期間晒される触媒として用いることができる。なお、鉄に依る新たな触媒作用が見いだされれば、金属化合物として熱分解で鉄を析出する鉄化合物を用いることができる。この際、鉄は磁気キュリー点が770℃と高い強磁性材料であるため、高温でも鉄に依る触媒作用が発揮される。
この結果、9段落で説明した第一の塗料を用いて、基材ないしは部品に触媒作用を発揮する微粒子の積層体を形成した場合と同様に、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材で構成される場合は、触媒作用を発揮する微粒子の積層体は、基材の表面に形成される。これに対し、基材や部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物の部品で構成される場合は、部品の表面のみならず、内部の空洞の表面にも、触媒作用を発揮する微粒子の積層体が形成される。
以上に説明したように、基材ないは部品に形成した積層体の表面は、金属微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮する。また、積層体は1150℃に近い耐熱性を持つことができ、また、野外に長期に晒しても経時変化しない耐久性を持つこともできる。さらに、大型の基材ないしは部品であっても、第二の塗料に依る塗膜ないしは印刷膜は数ミクロンであり、塗料の使用量が極わずかである。さらに、積層体の形成は熱処理だけである。この結果、5段落で説明した第三の課題と第四の課題とが同時に解決できた。
【0022】
前記した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依って、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属微粒子の積層体を形成する方法は、
前記した第二の塗料は、前記金属化合物を、触媒作用を有する異なる材質からなる2種類の強磁性金属が同じ熱分解温度で析出する2種類の金属化合物で構成し、該2種類の金属化合物の1種類ずつの金属化合物を用い、前記した第二の塗料の製造方法に従って2種類の塗料を作成する、この後、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記2種類の塗料のうちの1種類ずつの塗料を塗布ないしは印刷する、さらに、該基材ないしは該部品を、前記金属化合物が熱分解する温度まで昇温する、これによって、触媒作用を有する強磁性金属からなる2種類の金属のうちの1種類ずつの金属からなる微粒子の集まりが、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に積み重なって析出し、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に積み重なって析出し、隣接する前記金属微粒子同士が金属結合し、該金属結合した金属微粒子の集まりからなる微粒子の積層体が、前記2種類の金属のうちの1種類ずつの金属が金属結合した金属微粒子の集まりからなる金属微粒子の積層体として、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に形成され、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に形成され、該積層体の表面を形成する前記金属微粒子の表面が、50%より広い表面を直接外界に晒し、該積層体の表面は前記金属微粒子を構成する金属の材質に基づく固有の触媒作用を発揮する、これによって、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、前記2種類の金属からなる1種類ずつの金属に依る触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体が形成される、前記した第二の塗料を用いて、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依って、金属微粒子同士が金属結合した該金属微粒子の集まりからなる金属微粒子の積層体を形成する方法である。
【0023】
つまり、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位における各々の部位に、ないしは、互いに異なる複数の領域における各々の領域に、前記した第二の塗料を構成する金属化合物が異なる2種類の塗料の1種類ずつの塗料を、塗布ないしは印刷することは容易である。例えば、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材である場合は、基材の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、2種類の塗料の1種類ずつの塗料を塗布ないしは印刷する度に、基材の表面を部分的にマスキングする領域をその都度変えれば、基材の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、2種類の塗料の1種類ずつの塗料が塗布ないしは印刷できる。また、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な構造物の部品である場合は、2種類の塗料の1種類ずつの塗料に部品を浸漬する度に、塗料に浸漬する深さをその都度浅くすれば、部品の内部空洞の互いに異なる複数の領域の各々の領域の表面に、2種類の塗料の1種類ずつの塗料が塗布できる。
また、2種類の塗料は、触媒作用と強磁性の性質を兼備するニッケルとコバルトを、同じ熱分解温度で析出する2種類の金属化合物を、1種類ずつの金属化合物として用い、16段落に記載した第二の塗料を製造する方法に従って2種類の塗料が製造される。
こうした2種類の塗料の1種類ずつを、基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々に、ないしは、互いに異なる複数の領域の各々の領域に、塗布ないしは印刷し、金属化合物が熱分解する温度まで昇温すると、11段落で説明した第一の塗料を用いた場合と同様に、基材ないしは部品の互い異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、互いに異なる複数の領域の各々の領域に、ニッケルないしはコバルトからなる1種類ずつの触媒作用を発揮する金属結合した金属微粒子の集まりからなる微粒子の積層体が形成される。これによって、一つの基材ないしは部品が発揮する触媒作用が2種類に増大する。この結果、2つの基材ないしは部品によって、2種類の触媒作用の各々を発揮させるより、安価な費用で2種類の触媒作用を発揮する一つの基材ないしは部品が製造できる。
【0024】
20段落ないしは22段落に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力を増大させる方法は、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、20段落に記載した基材ないしは部品に触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属結合した金属微粒子の集まりからなる積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品に、触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
ないしは、
強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用い、22段落に記載した基材ないしは部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、基材ないしは部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依る触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体を形成する方法に従って、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の部位の各々の部位に、ないしは、前記基材ないしは前記部品の互いに異なる複数の領域の各々の領域に、触媒作用を有する2種類の強磁性金属からなる1種類ずつの金属に依る触媒作用を発揮する金属微粒子の積層体を磁気吸着させる、この後、前記基材ないしは前記部品に磁場を加える、
これによって、
前記積層体を構成する触媒作用を有する強磁性の金属微粒子の集まりが発する磁力で、該積層体が強磁性の材質からなる前記基材ないしは前記部品に磁気吸着するとともに、該積層体を構成する前記触媒作用を有する強磁性の金属微粒子の磁化方向が前記磁場の印加方向に揃い、該触媒作用を有する強磁性の金属微粒子の磁力が増大し、前記積層体と強磁性の材質からなる前記基材ないしは前記部品との磁気吸着力が増大され、20段落ないしは22段落に記載した基材ないしは部品に形成した触媒作用を発揮する強磁性金属からなる金属微粒子の積層体と、該基材ないしは該部品との接合力を増大させる方法である。
【0025】
つまり、強磁性の金属ないしは合金からなる基材ないしは部品を用い、20段落と22段落との各々の段落に記載した触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子の積層体を基材ないしは部品に形成する方法に従って、強磁性の金属ないしは合金からなる基材ないしは部品に積層体を形成すると、積層体を構成する強磁性の金属微粒子の集まりが発する磁力で、積層体が基材ないしは部品に磁気吸着する。この後、基材ないしは部品に磁場を加える。これによって、強磁性の金属微粒子の磁化が磁場方向に揃えられて磁力が著しく増大するとともに、基材ないしは部品の磁化の方向も磁場方向に揃えられ、膜厚が僅かに500nm未満の触媒作用を発揮する強磁性の金属の微粒子の積層体と、基材ないしは部品との磁気吸着力が著しく増大し、積層体に物理的な応力が加えられても、積層体は基材ないしは部品の表面から剥がれない。
なお、基材ないしは部品が、板やシート、平面状のフィルター、ワイヤを編んだメッシュやシートのように、2次元的な平面形状の基材で構成される場合は、積層体が基材の表面に平面形状として形成されるため、積層体の厚み方向に磁場を加える。これに対し、基材ないしは部品が、ハニカム構造、多孔質フィルター構造、ハニカムフィルター構造のように、内部に空洞を持つ3次元的な部品である場合は、内部の空洞を形成する壁の表面に積層体が形成されるため、積層体の長さ方向、つまり、部品の長さ方向に磁場を加える。
すなわち、強磁性の材質からなる基材ないしは部品を、鉄やニッケルからなる金属、あるいは、鉄に少量のケイ素を加えた各種ケイ素鋼、鉄と様々な金属ととからなる各種鉄合金、鉄とニッケルとの各種ニッケル合金、マルテンサイト系、フェライト系、ないしはオーステナイト・フェライト系からなるステンレス鋼、あるいは、セラミック材料である各種の強磁性フェライトなど、様々な強磁性材料によって強磁性の材質からなる基材ないしは部品を構成することができる。
また、強磁性の材質からなる基材ないしは部品は、板やシートといった単純な形状のみならず、強磁性ワイヤを繊維状に編んだメッシュやシートからなる基材や、強磁性の金属箔ないしは合金泊を加工したハニカム、あるいは、強磁性のフェライトセラミックの粉体を面状フィルター、多孔質フィルター、ハニカムフィルターに押出成形した成形品など様々な形状や構造に加工した強磁性の材質からなる基材ないしは部品を用いることができる。
さらに、前記したように第一の塗料と第二の塗料とが低い粘度であるため、刷毛塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、浸漬塗装、ロールコーターなどからなる塗布方法を、ないしは、バーコート、リバースコート、グラビア印刷、スクリーン印刷などからなる印刷方法を選択すれば、全ての強磁性の材質からなる基材ないしは部品に、数ミクロンの膜厚の塗膜ないしは印刷膜が形成される。この後、熱分解で強磁性の金属を析出する金属化合物が熱分解する温度に昇温し、強磁性の材質からなる基材ないしは部品に積層体を磁気吸着させ、さらに、強磁性の材質からなる基材ないしは部品に磁場を加えれば、様々な大きさや形状からなり、かつ、強磁性の材質からなる基材ないしは部品と、膜厚が500nm未満の触媒作用を発揮する性質と強磁性の性質とを兼備する金属からなる金属微粒子の積層体との磁気吸着力が著しく増大し、積層体に物理的な応力を加えられても、膜厚が極薄い積層体は磁気吸着力によって強磁性の材質からなる基材ないしは部品から剥がれない。
【0026】
前記した第二の塗料を製造する製造方法は、前記した金属化合物として、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトを用い、前記したアルコールとして、メタノールを用い、前記した有機化合物として、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか1種類の有機化合物を用い、前記した第二の塗料を製造する製造方法に従って第二の塗料を製造する製造方法である。
【0027】
つまり、オクチル酸金属化合物は290℃で熱分解して金属を析出し、また、メタノールに10重量%程度分散する。このような、オクチル酸金属化合物に、触媒作用と強磁性の性質を兼備するニッケルとコバルトとをそれぞれ析出する、オクチル酸ニッケルとオクチル酸コバルトとが存在する。従って、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトは、第二の塗料の原料になる。
さらに、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、沸点が290℃より低く、メタノールの粘度の5倍以上の粘度を持ち、メタノールに溶解ないしは混和する有機化合物が存在する。従って、このような有機化合物を、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトのメタノール分散液に混合すると、有機化合物がメタノールに溶解ないしは混和するため、有機化合物は金属化合物のメタノール分散液と均一に混ざり合って、第二の塗料が製造される。
以上に説明したように、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトとメタノールと有機化合物とからなる汎用的な工業用薬品を原料として用い、第二の塗料が安価な費用で製造される。このため、5段落で説明した第一と第二との課題とを同時に解決する第二の塗料が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】鋼板の表面に形成されたパラジウム微粒子とコバルト微粒子との集まりからなる積層体の構造を、鋼板の断面によって模式的に説明する図である。
図2】3層の積層体が積み重なった積層体の断面を、模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施形態1
金属ないしは金属酸化物が発揮する触媒作用と、これを用いた触媒装置に係わる実施形態を説明する。なお、1種類の金属ないしは金属酸化物が発揮する触媒作用と、これを用いた触媒装置は多岐にわたるため、ここでは代表的な触媒装置に留めた。いっぽう、鉄が有効な触媒作用を持つことが明らかになれば、コバルトとニッケルとともに、前記した触媒作用を発揮する第二の微粒子として鉄微粒子を用いることができる。
最初に、白金族の金属に依る触媒作用を説明する。最もよく知られた白金族の金属の触媒として、自動車の排気ガスに含まれる炭化水素HCを水と二酸化炭素COに酸化し、一酸化炭素COを二酸化炭素に酸化し、窒素酸化物NOを窒素に還元する三元触媒装置がある。本発明に係わる実施形態は、パラジウム、白金ないしはロジウムを熱分解で析出する金属錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸コバルトを第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて3種類の塗料を製造する。また、内部に多数の細長い貫通孔が形成され、材質が強磁性のフェライト材料で構成されたハニカムセラミックを用意する。このハニカムセラミックを1種類ずつの塗料に浸漬する度に浸漬する深さを浅くし、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸コバルトが熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加える。これによって、このハニカムセラミックの内部の貫通孔の互いに異なる3つの部位は、互いに異なる白金族の3種類の金属とコバルトとに依る触媒作用を発揮する。
いっぽう、ルテニウムを熱分解で析出するルテニウム錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸コバルトを第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて第一の塗料を製造する。また、パラジウムないしは白金を熱分解で析出する金属錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸コバルトを第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて第二の塗料を製造する。この後、前記したハニカムセラミックの片方の端部を、第一の塗料中にハニカムセラミックの1/3の長さまで浸漬し、さらに、ハニカムセラミックのもう片方の端部を、第二の塗料中にハニカムセラミックの2/3の長さまで浸漬する。この後、オクチル酸コバルトが熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加える。このハニカムセラミックを、ルテニウム微粒子とコバルト微粒子とからなる積層体が形成された部位を、三元触媒装置の上流側に配置すると、排気ガスに含まれる一酸化炭素をルテニウム微粒子が二酸化炭素に酸化する。このため、下流側に配置された積層体を構成するパラジウム微粒子ないしは白金微粒子は、一酸化炭素ガスを吸着することに依って触媒活性がなくなる被毒現象が起こらず、積層体はパラジウム微粒子ないしは白金微粒子に依る触媒機能を効率よく発揮することができる。
また、白金族のルテニウムは、C=C2重結合やCとCの3重結合をC―C一重結合に水素化する際や、芳香族環の炭化水素を水素化して飽和環の炭化水素に還元する際に、触媒作用を発揮する。本発明に係わる実施形態は、ルテニウムを熱分解で析出するルテニウム錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸鉄を第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。この塗料に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸鉄が熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムの長さ方向に磁場を加える。このハニカムセラミックを昇温させ、様々な炭化水素からなる液体を微粒子化してハニカムセラミックス内の細長い貫通孔を通過させると、炭化水素が低分子量の炭化水素に水素化するマイクロリアクター装置としてハニカムセラミックが作用する。
第二に、銀に依る触媒作用を説明する。銀の触媒作用として、例えば、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する触媒作用がある。本発明に係わる実施形態は、銀を熱分解で析出する銀錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸鉄を第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。タバコの葉の集まりを、非磁性のワイヤからなるメッシュの容器に収納し、容器を塗料に浸漬し、容器を揺動させて塗料中でタバコの葉を揺動させ、容器を引き上げ、この後、オクチル酸鉄が熱分解する温度に昇温し、タバコの葉の表面に、銀と鉄とからなる2種類の微粒子の集まりが極薄い積層体となって磁気吸着する。この後、タバコの葉をタバコとして加工する。このタバコを吸う喫煙者は、タバコの燃焼に伴って発生する一酸化炭素ガスが、銀の触媒作用で二酸化炭素に酸化され、有毒な一酸化炭素を吸引することがない。なお、鉄の磁気キュリー点が770℃と高いため、タバコの喫煙時に、鉄微粒子に依る積層体に作用する磁気吸引力はなくならない。
また、銀を熱分解で析出する銀錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸鉄を第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて塗料を製造し、この塗料に布(生地)を浸漬し、布(生地)を引き上げて、オクチル酸鉄の熱分解温度に昇温すると、布(生地)の表面に銀と鉄とからなる2種類の微粒子の集まりが極薄い積層体となって磁気吸着する。この布(生地)は銀微粒子に依る抗菌作用を持つため、抗菌作用を持つ様々な衣服やガーゼ、マスクなどに用いることができる。なお、布(生地)はオクチル酸鉄が熱分解する290℃に昇温されるが、布(生地)の表面は、2種類の金属化合物の集まりが吸着した状態で290℃まで昇温されるため、布(生地)は大気が遮断され、密閉された領域で290℃に昇温されるため、布(生地)を構成する合成樹脂は熱分解されず、また、布(生地)を構成する天然繊維は自己発火しない。
第三に、銅に依る触媒作用を説明する。銅の触媒作用として、例えば、今後燃料としての需要が高まるメタノールの合成がある。本発明に係わる実施形態は、銅を熱分解で析出する銅錯体からなる無機金属化合物を第一の金属化合物として用い、オクチル酸鉄を第二の金属化合物として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。この塗料に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸鉄が熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加える。このハニカムセラミック内の細長い貫通孔に、5−10MPaの圧力に昇圧し、300℃前後に昇温した一酸化炭素と水素とからなる混合ガスを通過させると、メタノールが合成されるマイクロリアクター装置として作用する。
第四に、酸化チタンTiOに依る触媒作用を説明する。酸化チタンは光触媒を発揮する。本発明に係わる実施形態は、酸化チタンを熱分解で析出する安息香酸チタンを第一の金属化合物として用い、ラウリン酸ニッケルを第二の金属化合部として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。この塗料に、室内で用いるカーテン生地を浸漬し、カーテンを引き上げたのちに、ラウリン酸ニッケルが熱分解する360℃に昇温する。これによって、カーテン生地の表面に、酸化チタン微粒子とニッケル微粒子とからなる500nm未満の極薄い厚みの積層体が吸着する。これによって、酸化チタン微粒子が担持されたカーテン生地は、室内の臭いの元になる高分子ガスやVOCガスなどを分解する。なお、カーテン生地は360℃に昇温されるが、カーテン生地の表面は、2種類の金属化合物の集まりが吸着した状態で360℃まで昇温されるため、カーテン生地は大気が遮断され、密閉された領域で360℃に昇温されるため、カーテン生地を構成する合成樹脂は熱分解されない。あるいは、前記した塗料を板材に塗布した後、ラウリン酸ニッケルの熱分解温度に昇温すると、板材の表面に酸化チタン微粒子とニッケル微粒子とからなる500nm未満の極薄い積層体が吸着する。この板材を室内の内装材として用いると、酸化チタン微粒子は室内の臭いの元になる高分子ガスやVOCガスなどを分解する。
第五に、酸化バナジウムVに依る触媒作用を説明する。酸化バナジウムは、例えば、接触法で硫酸を製造する際に、二硫化硫黄SiOを酸化する際の触媒として用いられている。本発明に係わる実施形態は、ナフテン酸バナジウムを第一の金属化合物として用い、ラウリン酸コバルトを第二の金属化合部として用い、前記した第一の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。この塗料に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、ラウリン酸コバルトが熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加える。このハニカムセラミックを脱硫塔内に設置し、排気ガスをハニカムセラミック内の細長い貫通孔を通過させると、排ガス中に含まれる二硫化硫黄を酸化バナジウムが吸着し、さらに、排ガス中の酸素と水で酸化させ、希硫酸となって二酸化硫黄を除去回収するマイクロリアクター装置として作用する。
第六に、ニッケルに依る触媒作用を説明する。ニッケルは、例えば、アルケン、ニトリル、重質油、油脂などを、ニッケルの触媒の元で300℃程度の水蒸気と反応させると、一酸化炭素ガスと水素ガスとの合成ガス、あるいは、二酸化炭素ガスと水素ガスとの合成ガスが生成され、こうした水蒸気改質反応における触媒として用いられている。本発明に係わる実施形態は、オクチル酸ニッケルを用い、前記した第二の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。この塗料に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸ニッケルが熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加える。このハニカムセラミックを昇温し、微粒子化したアルケン、ニトリル、重質油ないしは油脂を、高温の水蒸気と共に、ハニカムセラミックの細長い貫通孔を通過させると、前記した合成ガスが生成されるマイクロリアクター装置として作用する。
第七に、コバルトに依る触媒作用を説明する。コバルトは、例えば、フィッシャー・トロプッシュ合成によって、一酸化炭素と水素とからなる合成ガスをコバルトの触媒の元で反応させると、直鎖炭化水素からなる液体燃料が合成される。本発明に係わる実施形態は、オクチル酸コバルトを用い、前記した第二の塗料の製造方法に準じて塗料を製造する。この塗料に、前記したハニカムセラミックを浸漬し、ハニカムセラミックを引き上げ、この後、オクチル酸コバルトが熱分解する温度に昇温する。さらに、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加える。このハニカムセラミックの細長い貫通孔に、250℃で10気圧に昇圧した一酸化炭素と水素とからなる合成ガスを通過させると、液体燃料が合成されるマイクロリアクター装置として作用する。
【0030】
実施形態2
本発明における第一の金属化合物の中で、相対的に低い温度で熱分解する金属化合物として、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物が適切である。ここでは、自動車の排気ガス浄化用触媒や、エチレンからアセトアルデヒドを合成する際に用いる触媒など、様々な分野の触媒に用いられているパラジウムを熱分解で析出するパラジウム化合物の実施形態から説明する。
パラジウム化合物が第一の塗料の原料になるには、アルコールに分散する性質と、熱分解でパラジウムを析出する性質とを兼備する必要がある。塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウムはメタノールに溶解し、酢酸パラジウムと臭化パラジウムとはメタノールに分散しない。これら低分子量の無機パラジウム化合物はメタノールに分散しない。
いっぽう、パラジウム化合物からパラジウムが生成される化学反応の中で、熱分解反応が最も簡単な化学反応である。つまり、パラジウム化合物を昇温するだけでパラジウムが析出する。さらに、パラジウム化合物の熱分解温度が低ければ、触媒作用を発揮する積層体を形成する処理温度が低く、安価な費用で積層体が形成できる。無機パラジウム化合物の中で、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子となって、分子構造の中央に位置するパラジウムイオンに配位結合したパラジウム錯イオンを有する無機パラジウム化合物は、配位子とパラジウム錯イオンが結合する無機物との分子量が小さいため、還元雰囲気で熱分解する温度は、パラジウム錯イオンを有するパラジウム化合物の中で最も低い。また、このような無機パラジウム化合物は、有機酸とパラジウムとの化合物である有機パラジウム化合物より相対的に高価な物質であるが、合成が容易であるため、パラジウム錯塩の中では最も安価なパラジウム錯塩である。
すなわち、無機パラジウム化合物を構成する分子の中でパラジウムイオンが最も大きい。ちなみに、パラジウム原子の共有結合半径は117pmであり、一方、窒素原子の共有結合半径の54pmであり、酸素原子の共有結合半径は63pmである。このため、無機パラジウム化合物の分子構造において、配位子がパラジウムイオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理で最初に配位結合部が分断され、パラジウムと無機物とに分解し、低分子量の無機物が容易に気化し、その直後にパラジウムが析出する。
このようなパラジウム錯イオンを有する錯体の中で、アンモニアNHが配位子となってパラジウムイオンに配位結合するアンミン錯体、塩素イオンClが配位子となってパラジウムイオンに配位結合するクロロ錯体、臭素イオンBrが配位子となってパラジウムイオンに配位結合するブロモ錯体は、いずれの配位子も低分子量の物質であり、これらの錯体が低分子量の無機物と結合した無機化合物は、他のパラジウム錯塩に比べて合成が容易で、安価な製造費用で製造できる。また、こうしたパラジウム錯イオンが無機物と結合した無機パラジウム化合物は、アンモニアガスや水素ガスなどの還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断され、200℃前後の比較的低い温度でパラジウムが析出する。さらに、メタノールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなパラジウム錯塩として、アンミン錯体であるジクロロジアンミンパラジウム[Pd(NH]Cl、ジブロモジアンミンパラジウム[Pd(NH]Br、テトラアンミンパラジウム塩化物[Pd(NH]Cl、テトラアンミンパラジウム臭化物[Pd(NH]Br、テトラアンミンパラジウム硝酸塩[Pd(NH](NO、テトラアンミンパラジウム硫酸塩[Pd(NH](SO、テトラアンミンパラジウム酢酸塩[Pd(NH](CHCOO)や、クロロ錯体であるテトラクロロパラジウム酸アンモニウム(NH[PdCl]、ヘキサクロロパラジウムアンモニウム(NH[PdCl]や、ブロム錯体であるテトラブロモパラジウム酸アンモニウム(NH[PdBr]などのパラジウム錯塩がある。
また、熱分解で白金を析出する白金錯イオンを有する無機白金化合物として、アンミン錯体であるジアンミン白金塩化物[Pt(NH]Cl、テトラアンミン白金塩化物[Pt(NH]Cl、テトラアンミン白金酢酸塩[Pt(NH](CHCOO)、テトラアンミン白金硫酸塩[Pt(NH](SO、ペンタアンミンクロロ白金塩化物[PtCl(NH]Clや、クロロ錯体であるテトラクロロ白金酸アンモニウム(NH[PtCl]、ジクロロジアンミン白金[PtCl(NH]や、ブロモ錯体であるヘキサブロモ白金酸アンモニウム(NH[PdBr]などがある。これらの白金錯塩は、配位子と無機物が低分子量の物質であるため、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で白金を析出する。
さらに、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、ロジウムを析出するロジウム錯イオンを有する無機ロジウム化合物として、アンミン錯体であるペンタアンミンクロロロジウム塩化物[RhCl(NH]Cl、ヘキサアンミンロジウム塩化物[Rh(NH]Cl、ヘキサアンミンロジウム硝酸塩[Rh(NH](NOや、クロロ錯体であるヘキサクロロロジウム酸アンモニウム(NH[RhCl]などのロジウム錯塩がある。
さらに、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、ルテニウムを析出するルテニウム錯イオンを有する無機ルテニウム化合物として、アンミン錯体であるヘキサアンミンルテニウム塩化物[Ru(NH]Cl、ヘキサアンミンルテニウム硫酸塩[Ru(NH](SO、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩[Ru(NH](NO、クロロペンタアンミンルテニウム塩化物[Ru(NHCl]Clなどのルテニウム塩がある。
また、還元雰囲気の200℃前後の比較的低い温度で、銅族の金属である銀を析出する銀錯イオンを有する無機銀化合物として、アンミン錯体であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH]Clがある。また、熱分解で銅を析出する銅錯イオンを有する無機銅化合物として、アンミン錯体であるテトラアンミン銅硫酸塩[Cu(NH]SOがある。
以上に説明したように、本発明における低い熱処理温度で金属を析出する第一の金属化合物として、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物が適切である。
【0031】
実施形態3
本発明における第二の金属化合物として、前記した金属錯イオンを有する無機金属化合物より熱処理温度が高いが、合成が容易でより安価なオクチル酸金属化合物が適切である。ここでは、金属をコバルトとし、コバルト化合物の実施形態から説明する。なお、コバルトは磁気キュリー点が1115℃と高いため、コバルト微粒子によって触媒作用を発揮する積層体は、自動車の排気浄化触媒のような高温環境で用いることがでる。
コバルト化合物が第一の塗料および第二の塗料の原料になるには、アルコールに分散する性質と、熱分解でコバルトを析出する性質とを兼備する必要がある。塩化コバルトはメタノールに溶解し、硝酸コバルトは水に溶け、硫酸コバルトはメタノールに溶解し、酢酸コバルトは水に溶解する。このため、これらの低分子量の無機コバルト化合物は、アルコールに分散しない。
なお、30段落で説明したコバルト錯イオンを有する無機コバルト化合物として、ヘキサアンミンコバルト塩化物[Co(NH]Cl、ヘキサアンミンコバルト硝酸塩[Co(NH](NO、ペンタアンミンクロロコバルト塩化物[CoCl(NH]Clなどがある。これらの無機コバルト化合物は、還元雰囲気の200℃前後でコバルトを析出する。
次に、有機コバルト化合物について説明する。有機コバルト化合物は、熱分解でコバルトを析出する。有機コバルト化合物からコバルトが生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機コバルト化合物を昇温するだけでコバルトが析出する。さらに、有機コバルト化合物の合成が容易でれば、安価に製造できる。こうした性質を兼備する有機コバルト化合物にカルボン酸コバルト化合物がある。
つまり、カルボン酸コバルト化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置するコバルトイオンCo3+が最も大きい。従って、コバルトイオンCo3+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合する場合は、コバルトイオンCo3+と酸素イオンOとの距離が最大になる。この理由は、コバルト原子の共有結合半径は103pmであり、酸素原子の共有結合半径は57pmであり、炭素原子の共有結合半径は75pmであることによる。このため、コバルトイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸コバルト化合物は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長いコバルトイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、コバルトとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にコバルトが析出する。こうしたカルボン酸コバルト化合物として、オクチル酸コバルト、ラウリン酸コバルト、ステアリン酸コバルトなどがある。このようなカルボン酸コバルト化合物の多くは、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
また、カルボン酸コバルト化合物は合成が容易である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、塩化コバルトなどの無機コバルト化合物と反応させると、カルボン酸コバルト化合物が生成される。
さらに、飽和脂肪酸で構成されるカルボン酸コバルト化合物は、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸アルミニウム化合物は低い温度で熱分解し、コバルトを析出させる熱処理費用が安価で済む。飽和脂肪酸が長鎖構造からなる飽和脂肪酸である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
さらに、飽和脂肪酸が分岐鎖構造からなる飽和脂肪酸である場合は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低くなる。これによって、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸コバルト化合物は、低い温度で熱分解する。さらに、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸コバルト化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このような分岐構造の飽和脂肪酸としてオクチル酸がある。すなわち、オクチル酸は構造式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、前記したラウリン酸の沸点より68℃低い。このため、コバルトを析出する原料として、熱分解温度が低いオクチル酸コバルトが望ましい。オクチル酸コバルトは、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了してコバルトが析出し、メタノールに10重量%まで分散する。
なお、触媒作用を有する酸化チタンや酸化バナジウムを第一の微粒子として用いる場合は、これら金属酸化物が析出する温度より高い温度で、第二の微粒子であるコバルトが析出する必要がある。このような場合は、安息香酸チタンとナフテン酸バナジウムより熱分解温度が高いラウリン酸コバルトを用いる。
【0032】
実施形態4
本発明における熱処理で金属酸化物を析出する第一の金属化合物として、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物が適切であることを説明する。ここでは、金属酸化物を酸化チタンTiOとし、チタン化合物の実施形態から説明する。
チタン化合物が第一の塗料の原料になるには、アルコールに分散する性質と、熱分解で酸化チタンを析出する性質とを兼備する必要がある。塩化チタンはアルコールと反応する。酸化チタンはアルコールに分散しない。このため、これら低分子量の無機チタン化合物は、アルコールに分散する性質を持たない。
なお、30段落で説明したチタン錯イオン[TiClO]2−を有する無機金属化合物があるが、配位結合が安定でないため、熱分解でチタンを析出しない。
次に、有機チタン化合物について説明する。有機チタン化合物は、熱分解によって二酸化チタンTiOを析出する性質を持つことが必要になる。有機チタン化合物から酸化チタンが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機チタン化合物を昇温するだけで、熱分解によって酸化チタンが析出する。さらに、有機チタン化合物の合成が容易でれば、有機チタン化合物が安価に製造できる。これらの性質を兼備する有機チタン化合物にカルボン酸チタン化合物がある。
つまり、31段落で説明したように、カルボン酸チタン化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質はチタンイオンTi4+である。いっぽう、チタンイオンTi4+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合するカルボン酸チタン化合物は、チタンイオンと酸素イオンとの距離が最大になるため、31段落で説明したように熱分解でチタンを析出する。従って、熱分解で酸化チタンを析出するカルボン酸チタン化合物は、チタンイオンTi4+に酸素イオンOが配位結合するため近づき、これによって、酸素イオンOがチタンイオンTi4+の反対側で結合するイオンと結合する距離が最も長くなる必要がある。つまり、酸素イオンOがチタンイオンTi4+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最も長いため、最初にこの結合部が分断され、チタンイオンと結合した酸素イオン、つまり、酸化チタンTiOとカルボン酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸チタン化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンOが配位子になってチタンイオンTi4+に近づいて配位結合するカルボン酸チタン化合物がある。
また、有機チタン化合物の中でカルボン酸チタン化合物は、31段落で説明したように合成が容易で、有機酸の沸点が低くければ熱分解温度が比較的低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物からなる錯体は、安価な工業用薬品であり、熱処理費用も安価で済む。従って、カルボキシル基を構成する酸素イオンがチタンイオンに配位結合したカルボン酸チタン化合物は、熱分解で酸化チタンを析出する安価な工業用薬品である。
こうしたカルボン酸チタン化合物として、酢酸チタン、カプリル酸チタン、安息香酸チタン、ナフテン酸チタンなどが挙げられる。しかし、安息香酸チタンを除くカルボン酸チタン化合物は、配位結合が安定していないため、熱分解で酸化チタンを析出しない。安息香酸の沸点は249℃であるため、安息香酸チタンは大気雰囲気の310℃で熱分解して酸化チタンを析出する。また、カルボン酸バナジウム化合物の中で、ナフテン酸バナジウムを除くカルボン酸バナジウム化合物は、配位結合が安定していないため、熱分解で酸化バナジウムを析出しない。いっぽう、ナフテン酸は5員環をもつ飽和脂肪酸の混合物で、一般式がC2n−1COOHで示され、主成分の沸点が268℃で、分子量が170のC17COOHからなる。従って、ナフテン酸バナジウムは大気雰囲気の330℃で熱分解して、酸化バナジウムを析出する。
なお、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに配位結合するカルボン酸金属化合物は有機金属化合物からなる錯体である。一方、30段落で説明した錯体は、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体である。また、配位子と金属錯イオンと結合する無機物とが、カルボン酸に比べて分子量が小さいため、無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度は、カルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い。
【0033】
実施形態5
本発明における塗料の原料となる有機化合物の実施形態を説明する。有機化合物は、アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの5倍以上の粘度を持つ第二の性質と、第一ないしは第二の金属化合物の熱分解温度より沸点が低い第三の性質を兼備する。また、第三の性質は、第一の金属化合物が金属錯イオンを有する無機金属化合物の場合は沸点が180℃より低い。第一の金属化合物が安息香酸金属化合物の場合は、沸点が310℃より低い。第一の金属化合物がナフテン酸金属化合物である場合は、沸点が330℃より低い。さらに、オクチル酸金属化合物が第二の塗料の原料である場合は、沸点が290℃より低い。これら3つの性質を兼備する有機化合物に、カルボン酸エステル類、グリコール類、ないしは、グリコールエーテル類に属する有機化合物がある。
なお、メタノールの粘度は20℃で0.59mPa秒であり、有機化合物は20℃で3mPa秒以上の粘度が必要になる。いっぽう、有機化合物の粘度は、一般的に沸点が低くなるほど低い。これは、分子量が小さい有機化合物ほど沸点は低く、また、粘度も低いことに依る。前記のように、有機化合物に必要とされる沸点には150℃の温度差があるため、使用できる有機化合物の粘度は大きく変わる。従って、有機化合物の粘度に応じて、金属化合物のアルコール分散液に混合する有機化合物の混合割合を変えることで、一定の粘度幅の塗料が製造でき、これを用いて500nmより膜厚が薄い触媒作用を発揮する積層体が製造できる。
【0034】
最初に、カルボン酸エステル類について説明する。カルボン酸エステル類は、飽和カルボン酸からなる第一のエステル類と、不飽和カルボン酸からなる第二のエステル類と、芳香族カルボン酸からなる第三のエステル類とに分けられ、多くのカルボン酸エステルはメタノールに溶解ないしは混和する。
第一のエステル類の中で、沸点が180℃より低い飽和カルボン酸からなるエステルは、メタノールに溶解するが、粘度がメタノールの粘度の5倍より小さい。
また、第一のエステル類の中で、沸点が330℃より低い飽和カルボン酸からなるエステルは、粘度がメタノールの粘度の5倍より小さい。
さらに、第二のエステル類の中で、沸点が330℃より低い不飽和カルボン酸からなるエステルは、メタノールに溶解するが、粘度がメタノールの粘度の5倍より小さい。
いっぽう、第三のエステル類の中で、沸点が最も低いエステルに、沸点が200℃の安息香酸メチルがあるが、粘度はメタノールの5倍未満である。さらに分子量が大きい安息香酸イソプロピルの沸点は222℃と高まるが、粘度はメタノールの5倍未満である。さらに分子量が大きい安息香酸ベンジルは、20℃の粘度が9.7mPa秒とメタノールの5倍より大きくなるが、沸点が324℃である。従って、安息香酸ベンジルのみが、ナフテン酸金属化合物を用いた第一の塗料の第二の原料になる。
さらに、第三のエステル類に属し、ベンゼンジカルボン酸からなるエステル類の中でフタル酸エステルが最も分子量が小さく、メタノールに溶解ないしは混和する。さらに、フタル酸エステルの中で最も分子量が小さいフタル酸ジメチルは、沸点が283℃で、25℃の粘度が17.2mPa秒と大きい。また、フタル酸ジエチルは、沸点が294℃で、20℃の粘度が13mPa秒である。さらに分子量が大きいフタル酸ジアリルは、沸点が329℃と高い。このため、フタル酸ジメチルは、第一の塗料の第二の原料と、第二の塗料の原料になる。また、フタル酸ジエチルは、第一の塗料の第二の原料になる。
以上に説明したように、カルボン酸エステル類に属する有機化合物の中で、塗料の原料となる有機化合物は少ない。
【0035】
次に、グリコール類について説明する。グリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールの6種類のグリコールがある。これらのグリコール類は、いずれもメタノールに溶解ないしは混和する液状モノマーである。
エチレングリコールは、沸点が197℃で、20℃の粘度が23.5mPa秒である。ジエチレングリコールは、沸点が244℃で、20℃の粘度が36mPa秒である。また、プロピレングリコールは、沸点が188℃で、25℃の粘度が48.6mPa秒である。さらに、ジプロピレングリコールは、沸点が232℃で、25℃の粘度が75mPa秒である。また、トリプロピレングリコールは、沸点が265℃で、25℃の粘度が57.2mPa秒である。従って、グリコール類の多くは、第一の塗料の第二の原料と、第二の塗料の原料になる。また、プロピレングリコールは、一部の金属錯イオンを有する無機金属化合物を用いた第一の塗料の第一の原料になりうる。
以上に説明したように、グリコール類に属する有機化合物の中には、第一の塗料の第二の原料と、第二の塗料の原料になる有機化合物が存在する。
【0036】
最後に、グリコールエーテルについて説明する。グリコールエーテル類は、エチレングリコール系エーテル(以下にE.O.系グリコールと記載する)と、プロピレングリコール系エーテル(以下にP.O.系グリコールと記載する)と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの各々の末端の水素をアルキル基で置換したジアルキルグリコールエーテルとの3種類がある。これらのグリコールエーテルはメタノールに溶解する液体である。以下に記載する粘度は、20℃における粘度である。
最初に塗料の原料となるE.O.系グリコールを説明する。沸点が180℃より低いE.O.系グリコールに、沸点が171℃で粘度が3.5mPa秒のブチルグリコールがある。従って、ブチルグリコールは、第一の塗料の第一の原料になる。
沸点が290℃より低いE.O.系グリコールに、沸点が194℃で粘度が3.9mPa秒のメチルジグリコールと、沸点が207℃で粘度が4.9mPa秒のイソプロピルジグリコールと、沸点が208℃で粘度が5.2mPa秒のヘキシルグリコールと、沸点が220℃で粘度が5.2mPa秒のイソブチルジグリコールと、沸点が229℃で粘度が7.6mPa秒の2エチルヘキシルグリコールと、沸点が231℃で粘度が6.5mPa秒のブジルジグリコールと、沸点が245℃で粘度が30.5mPa秒のフェニルグリコールと、沸点が249℃で粘度が7.5mPa秒のメチルトリグリコールと、沸点が256℃で粘度が12mPa秒のベンジルグリコールと、沸点が259℃で粘度が8.6mPa秒のヘキシルジグリコールと、沸点が271℃で粘度が8.1mPa秒のブチルトリグリコールと、沸点が272℃で粘度が10.4mPa秒の2エチルヘキシルジグリコールとがある。従って、これらのグリコールエーテルは、第一の塗料の第二の原料と、第二の塗料の原料になる。
沸点が330℃より低いE.O.系グリコールに、沸点が302℃で粘度が19.3mPa秒のベンジルジグリコールがある。ベンジルジグリコールは、第一の塗料の第二の原料になる。
次に、塗料の原料となるP.O.系グリコールを説明する。沸点が190℃より低いP.O.系グリコールに、沸点が170℃で粘度が3.4mPa秒のブチルプロピレングリコールと、沸点が187℃で粘度が4.1mPa秒のメチルプロピレンジグリコルがある。従って、これらのP.O.系グリコールは、第一の塗料の第一の原料になりえる。
沸点が290℃より低いP.O.系グリコールに、沸点が212℃で粘度が10.8mPa秒のプロピルプロピレンジグリコールと、沸点が231℃で粘度が7.4mPa秒のブチルプロピレンジグリコールと、沸点が243℃で粘度が23.2mPa秒のフェニルプロピレングリコールと、沸点が274℃で粘度が8.2mPa秒のブチルプロピレントリグリコールとがある。従って、これらのグリコールエーテルは、第一の塗料の第二の原料と、第二の塗料の原料になる。
最後に、ジアルキルグリコールエーテルの中で、沸点が216℃で粘度が3.8mPa秒のジメチルトリグリコールがあり、第一の塗料の第二の原料と、第二の塗料の原料になる。
以上に説明したように、グリコールエーテル類に属する有機化合物の中には、第一の塗料と第二の塗料との原料になる多くの有機化合物が存在する。
【0037】
実施例1
本実施例は、35g(0.17モルに相当する)のジクロロジアンミンパラジウム(株式会社徳力本店の製品)と、59g(0.17モルに相当する)のオクチル酸コバルト(米山薬品工業株式会社の製品)とが、各々10重量%を占めるようにメタノール(試薬一級品)に分散し、この分散液にブチルグリコール(日本乳化剤株式会社の製品)が25重量%を占めるように混合し、第一の塗料を作成した。
【0038】
実施例2
本実施例は、53g(0.17モルに相当する)のヘキサアンミンルテニウム塩化物(和光純薬工業株式会社の製品)と、59g(0.17モルに相当する)のオクチル酸コバルトとが、各々10重量%を占めるようにメタノールに分散し、この分散液にブチルグリコールが25重量%を占めるように混合し、第二の塗料を作成した。
【0039】
実施例3
本実施例では、51g(0.17モルに相当)のジアンミン白金塩化物(三津和化学薬品株式会社の製品)と、83g(0.17モルに相当する)オクチル酸鉄(和光純薬工業株式会社の製品)とが、各々10重量%を占めるようにメタノールに分散し、この分散液にブチルグリコールが25重量%を占めるように混合し、第三の塗料を作成した。
【0040】
実施例4
本実施例は、53g(0.17モルに相当)のヘキサアンミンロジウム塩化物(三津和化学薬品株式会社の製品)と、83g(0.17モルに相当)のオクチル酸鉄とが、各々10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にブチルグリコールが25重量%を占めるように混合し、第四の塗料を作成した。
【0041】
実施例5
本実施例では、30g(0.17モルに相当する)のジアンミン銀塩化物(田中貴金属工業株式会社の製品)と、83g(0.17モルに相当する)のオクチル酸鉄とが、各々10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にブチルグリコールが25重量%を占めるように混合し、第五の塗料を作成した。
【0042】
実施例6
本実施例では、43g(0.17モルに相当する)のテトラアンミン銅二硝酸塩(和光純薬工業株式会社の製品)と、83g(0.17モルに相当する)のオクチル酸ニッケル(和光純薬工業株式会社の製品)とが、各々10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にブチルグリコールが25重量%を占めるように混合し、第六の塗料を作成した。
【0043】
実施例7
本実施例では、90g(0.17モルに相当する)のテトラ安息香酸チタン(三津和化学薬品株式会社の製品)と、78g(0.17モルに相当する)のラウリン酸ニッケル(三津和化学薬品株式会社の製品)とが、各々10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にフタル酸ジメチル(和光純薬工業株式会社の製品)が5重量%を占めるように混合し、第七の塗料を作成した。
【0044】
実施例8
本実施例では、125g(0.17モルに相当する)のナフテン酸バナジウム(キシダ化学株式会社の製品)と、78g(0.17モルに相当する)のラウリン酸ニッケルとが、各々10重量%になるようにメタノールに分散し、この分散液にフタル酸ジメチルが5重量%を占めるように混合し、第八の塗料を作成した。
【0045】
実施例9
本実施例は、最も一般的な強磁性材料からなる板材である一般構造用圧延鋼板(JIS記号GS3101)からなる厚みが1.2mmの板材を、10mm×50mmで切り出し、この表面に実施例1−8の各々の塗料を塗布した。さらに、実施例1、3、5の塗料はアンモニア雰囲気の180℃まで昇温し、実施例2、4の塗料は水素雰囲気の220℃まで昇温し、実施例6の塗料はアンモニア雰囲気の200℃まで昇温し、それぞれの温度に5分間放置させた後に、さらに300℃まで昇温して1分間放置し、室温まで冷却した。実施例7の塗料は大気雰囲気の310℃まで昇温し、実施例8の塗料は大気雰囲気の330℃まで昇温し、それぞれの温度に1分間放置させた後に、360℃まで昇温し、1分間放置した後に、室温まで冷却した。こうして実施例1−8の塗料に該当する試料1−8を作成した。この後、試料1−8の各々に、試料の厚み方向に5kOe(400kA/m)からなる磁場を加えた。
最初に、試料1−8について、試料表面に形成した膜と板材との結合力を、JIS Z0237に規定された粘着力の試験方法に基づいて測定した。試料1−6は800gの荷重に耐え、試料7、8は600gの荷重に耐えた。このため、板材に形成した膜は、触媒としての機能を発揮する際に加えられる様々な物理的応力でも剥がれず、長期にわたって板材に結合する。
次に、試料1−8の表面と、試料1−8の中央部分で切断した切断面とを、電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接表面が観察できる。
最初に、試料1−8の表面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料1−8の表面は、いずれも40−60nmの大きさの粒状微粒子の集まりが析出し、いずれの微粒子の表面は、50%の以上の表面が直接外界に晒され、粒状微粒子同士が接触部位で接合していた。
次に、試料1−8の表面からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。いずれの試料も濃淡が認められたため、異なる原子から構成されていることが分かった。
さらに、試料1−8の表面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。試料1はパラジウム原子とコバルト原子との2種類の原子が、試料2はルテニウム原子とコバルト原子との2種類の原子が、試料3は白金原子と鉄原子との2種類の原子が、試料4はロジウム原子と鉄原子との2種類の原子が、試料5は銀原子と鉄原子との2種類の原子が、試料6は銅原子とニッケル原子との2種類の原子が均等に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかった。試料7はチタン原子と酸素原子とが互いに近接し、この周囲にニッケル原子が存在し、3種類の原子は偏在しなかった。また、試料8はバナジウム原子と酸素原子とが互いに近接し、この周囲にニッケル原子が存在し、3種類の原子は偏在しなかった。従って、試料1−6は2種類の金属からなる大きさが40−60nmの粒状の金属微粒子である。
次に、試料7と試料8については、極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、結晶構造の解析を行なった。この結果、試料7には酸化チタンが、試料8には酸化バナジウムが形成されていた。従って、試料7は酸化チタンとニッケルとからなる大きさが40−60nmの2種類の粒状の微粒子であり、試料8は酸化バナジウムとニッケルとからなる大きさが40−60nmの2種類の粒状の微粒子である。
さらに、試料1−8の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料1−8の断面は、いずれも40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が、5層前後積み重なった膜厚が300nm未満の積層体で構成されていた。この微粒子の集まりからなる積層体を、試料1におけるパラジウム微粒子とコバルト微粒子とからなる積層体で代表させ、図1に模式的に図示した。1は圧延鋼板で、2はパラジウム微粒子で、3はコバルト微粒子である。
以上の結果から、試料1の表面は、パラジウム微粒子とコバルト微粒子との触媒作用を発揮する。試料2の表面は、ルテニウム微粒子とコバルト微粒子との触媒作用を発揮する。試料3の表面は、白金微粒子の触媒作用を発揮する。試料4の表面は、ロジウム微粒子の触媒作用を発揮する。試料5の表面は、銀微粒子の触媒作用を発揮する。試料6の表面は、銅微粒子とニッケル微粒子との触媒作用を発揮する。試料7の表面は、酸化チタン微粒子とニッケル微粒子との触媒作用を発揮する。試料8の表面は、酸化バナジウム微粒子とニッケル微粒子との触媒作用を発揮する。
【0046】
実施例10
本実施例は、ハニカムセラミックを用い、塗料2と塗料1と塗料3とに浸漬する際の深さを順に浅くし、それぞれの塗料を内部の貫通孔に真空含浸し、さらに、オクチル酸コバルトが熱分解する温度に昇温し、内部の貫通孔の互いに異なる3箇所の表面に、3種類の積層体の各々を形成した。なお、ハニカムセラミックは、自動車の3元触媒装置に用いられている触媒担体用セラミックス(日本ガイシ株式会社の製品であるハニセラム)を用いた。このハニセラムは、セルの壁の厚みが6ミル(1ミルは1/1000インチ)で、セルの数は1平方インチ当たり400個である。
予め貯液槽と含浸槽とが1組になった3組の真空含浸装置を用意し、各々の貯液槽に3種類の塗料の各々を充填する。最初に、塗料2が充填された真空含浸装置を用い、ハニカムセラミックの全体に塗料2を浸透させる。次に、塗料2に浸漬したハニカムセラミックを、塗料1が充填された真空含浸装置を用いて、ハニカムセラミックの2/3の高さまで、塗料1を浸透させる。最後に、塗料1に浸漬したハニカムセラミックを、塗料3が充填された真空含浸装置を用いて、ハニカムセラミックの1/3の高さまで塗料3を浸透させる。この後、ハニカムセラミックをアンモニア雰囲気の200℃まで昇温し、5分間放置させた後に、300℃まで昇温して1分間放置し、室温まで冷却して試料9を作成した。
次に、試料9の塗料2のみが塗布された部位と、塗料2の上に塗料1が塗布された部位と、塗料1の上に塗料3が塗布された部位とを垂直に輪切りし、各々の切断面におけるセルの内壁を、実施例9と同様にSEMによって観察した。
塗料2のみが塗布されたセルの内壁は、40−60nmの大きさからなるルテニウムの粒状微粒子とコバルトの粒状微粒子とが、5層前後積み重なった膜厚が300nm未満の第一層の積層を形成した。また、塗料2の上に塗料1が塗布されたセルの内壁は、第一層の積層体の上に、40−60nmの大きさからなるパラジウムの粒状微粒子とコバルトの粒状微粒子とが、5層前後積み重なった膜厚が300nm未満の第二層の積層体を形成した。さらに、塗料1の上に塗料3が塗布されたセルの内壁は、第一層の積層体と第二層の積層体とからなる2層の積層体の上に、40−60nmの大きさからなる白金の粒状微粒子とコバルトの粒状微粒子とが、5層前後積み重なった膜厚が300nm未満の第三層の積層体が積み重なった3層の積層体を形成した。第三層の積層体の表面は、いずれの微粒子についても50%の以上の表面が直接外界に晒され、粒状微粒子同士が接触部位で接合していた。図2に、3層の積層体が積み重なった積層体を模式的に図示した。4はセルの内壁で、5は第一層の積層体で、6は第二層の積層体で、7は第三層の積層体である。
以上の結果から、ハニカムセラミックの内部の貫通孔は、ルテニウムとコバルトとの触媒作用を発揮する部位と、パラジウムとコバルトとの触媒作用を発揮する部位と、白金とコバルトとの触媒作用を発揮する部位とからなり、互いに異なる3カ所に、互いに異なる触媒作用を発揮する積層体が形成された。
なお、前記したハニカムセラミックは非磁性体のMgO・Al・SiO系のセラミックスであるコージェライトから構成されているが、マンガン亜鉛フェライトやニッケル亜鉛フェライトなどの強磁性粉体を原料として用い、押出成形でハニカムセラミックを成形すれば、強磁性のハニカムセラミックが成形される。この強磁性のハニカムセラミックからなるセルの内壁の表面に、前記した互いに異なる3カ所に、互いに異なる触媒作用を発揮する積層体を形成すれば、積層体はハニカムセラミックに磁気吸着する。この後、ハニカムセラミックの長さ方向に磁場を加え、積層体を構成するコバルト微粒子の磁化方向を磁場方向に揃わせ、コバルト微粒子が発揮する磁化を増大させ、また、ハニカムセラミックの磁化方向も磁場方向に揃わせれば、積層体は内部の貫通孔の表面に強固に磁気吸着する。
【0047】
前記した実施例は、本発明の一部の事例に過ぎない。つまり、触媒作用を有する金属を熱分解で析出する、金属錯イオンを有する無機金属化合物は、実施例1−6の無機金属化合物は一例に過ぎない。また、オクチル酸金属化合物との組み合わせも、実施例1−6は一例に過ぎない。また、テトラ安息香酸チタンないしはナフテン酸バナジウムとラウリン酸金属化合物の組み合わせも、実施例7と実施例8は一例に過ぎない。
また、実施例では示さなかったが、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトを用いて、第二の塗料を作成することは容易であり、オクチル酸ニッケルないしはオクチル酸コバルトを熱分解すれば、ニッケル微粒子ないしはコバルト微粒子によって積層体を容易に形成できる。
さらに、塗料を塗布ないしは印刷する基材は、実施例で示した板材とハニカムセラミックとに限定されない。金属箔ないしは合金泊からなるハニカム、面状フィルター、多孔質フィルターなど様々な形状や構造に加工した基材ないしは部品に対しても、粘度が低い塗料を塗布ないしは印刷できる。この基材ないしは部品を第二の金属化合物が熱分解する温度に昇温すれば、触媒作用を発揮する積層体が基材ないしは部品に形成される。
従って、本発明に依れば、磁気吸引力で接合した2種類の微粒子の集りからなる積層体の表面は、ないしは、金属結合した金属微粒子の集りからなる積層体の表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子が接合ないしは結合したため、微粒子の表面が50%より広い表面を直接外界に晒さらし、積層体は微粒子を構成する材質に基づく固有の触媒作用を効率よく発揮することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 圧延鋼板 2 パラジウム微粒子 3 コバルト微粒子 4 セルの内壁 5 第一の積層体 6 第二の積層体 7 第三の積層体
図1
図2