特許第6698322号(P6698322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698322
(24)【登録日】2020年5月1日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】中子砂除去装置及び中子砂除去方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 29/00 20060101AFI20200518BHJP
【FI】
   B22D29/00 F
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-232463(P2015-232463)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-94387(P2017-94387A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】510182881
【氏名又は名称】株式会社融合技術開発センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 秀典
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−156732(JP,A)
【文献】 特開昭55−084269(JP,A)
【文献】 特開昭58−039800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面に開放端を有する穴を備える鋳造品から、中子砂を除去する中子砂除去装置であって、前記鋳造品を収容する水槽と、前記穴に残された前記中子砂の端面であり、前記水槽中の水と接する端面の近傍に配置される一対の電極と、前記一対の電極と接続され、前記一対の電極間にパルス高電圧を印加して大電流を発生させる電源と、を備え、前記一対の電極間に前記パルス高電圧を印加することにより発生する大電流による衝撃波を利用して前記中子砂を除去させる装置であり、前記一対の電極を支持する支持部を備え、前記支持部は、その中途が前記穴の形状に応じて折曲形成され、前記電極が穴の中に挿入されることを特徴とする中子砂除去装置。
【請求項2】
その表面に開放端を有する穴を備える鋳造品から、中子砂を除去する中子砂除去装置であって、前記鋳造品を収容する水槽と、前記穴に残された前記中子砂の端面であり、前記水槽中の水と接する端面の近傍に配置される一対の電極と、前記一対の電極と接続され、前記一対の電極間にパルス高電圧を印加して大電流を発生させる電源と、を備え、前記一対の電極間に前記パルス高電圧を印加することにより発生する大電流による衝撃波を利用して前記中子砂を除去させる装置であり、前記一対の電極の先端が向き合った電極構造とされ、前記一対の電極及び/又は前記一対の電極を支持する支持部は、前記衝撃波を吸収する弾性体を備えることを特徴とする中子砂除去装置。
【請求項3】
前記弾性体は、板バネ及び/又はコイル状バネを含むことを特徴とする請求項2記載の中子砂除去装置。
【請求項4】
鋳造品であり、その表面に開放端を有する穴に残された中子砂を含む鋳造品を水槽に収容し、前記穴に残された前記中子砂の端面であり、前記水槽中の水と接する端面の近傍に一対の電極を配置し、前記一対の電極間にパルス高電圧を印加し、前記一対の電極間に発生する大電流による衝撃波を利用して前記中子砂を除去させる方法であり、前記中子砂が一部取り出された後空間ができ、前記空間が水で満たされた箇所まで前記電極を差し込み前記衝撃波を発生することを繰り返して前記中子砂を除去させることを特徴とする中子砂除去方法。
【請求項5】
前記穴における前記中子砂のある狭い構造の手前まで前記一対の電極を差し込んで前記衝撃波を生成し、前記衝撃波の伝搬特性を利用して、前記狭い構造の箇所にある前記中子砂を除去させることを特徴とする請求項4記載の中子砂除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞部分を有する鋳造品から中子砂を取り出す中子砂除去装置及び中子砂除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造後の中子砂の取り出し方法として、所定の力で打撃するエアーハンマーを用いる機械的方法が使用されている。
【0003】
また、中子砂の取り出し方法として、鋳造品を振動装置により振動させる機械的方法も使用されている。
【0004】
パルス放電からの衝撃を用いる方法として、水中に置かれた中子砂除去前の鋳造品と鋳造品の外部に置かれた電極間で放電を起こし、その衝撃で中子砂を取り出す方法も知られている。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0005】
また、高電圧電極を鋳造品の表面に開放端を備える穴に残った中子砂端に固定し、高電圧電極と鋳造品間の火花放電により、中子砂を取り出す方法も知られている。(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開1973−34032号公報
【特許文献2】特開2014−168810号公報
【特許文献3】特開1977−156732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シェル型やフラン型、コールドボックス型等の有機バインダーが、中子砂として長年常用されてきた。有機鋳型を用いると、注湯時の発煙や臭気ガスの発生がおこり、有毒で、環境にも負荷がかかる。
【0008】
無毒で環境保護を実現するため、水ガラス系などの無機バインダーを中子砂として使用することが提案されているが、エアーハンマーや振動装置等の機械的方法では、中子砂の取り出しが困難である。
【0009】
パルス放電からの衝撃を用いる場合もエアーハンマーと原理は同じで、無機バインダーの中子砂の取り出しが困難であり、高電圧電極を鋳造品の表面に開放端を備える穴に残った中子砂端に固定し、高電圧電極と鋳造品間の火花放電により、中子砂を取り出す方法では、中子の形状が複雑な場合に、中子砂の除去が不十分等の問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、無機バインダーを中子砂として使用する場合及び/又は中子砂が複雑な形状をしている場合であっても、鋳造品から中子砂を完全に除去可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、その表面に開放端を有する穴を備える鋳造品から、中子砂を除去する中子砂除去装置であって、前記鋳造品を収容する水の入った水槽と、前記穴に残された前記中子砂の端面であり、前記水槽中の水と接する端面の近傍に配置される一対の電極と、前記一対の電極と接続され、前記一対の電極間にパルス高電圧を印加して大電流を発生させる電源と、を備え、前記一対の電極間に前記パルス高電圧を印加することにより発生する大電流による衝撃波を利用して前記中子砂を除去させる装置であり、前記一対の電極を支持する支持部を備え、前記支持部は、その中途が前記穴の形状に応じて折曲形成され、前記電極が前記穴の中に挿入されることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、その表面に開放端を有する穴を備える鋳造品から、中子砂を除去する中子砂除去装置であって、前記鋳造品を収容する水の入った水槽と、前記穴に残された前記中子砂の端面であり、前記水槽中の水と接する端面の近傍に配置される一対の電極と、前記一対の電極と接続され、前記一対の電極間にパルス高電圧を印加して大電流を発生させる電源と、を備え、前記一対の電極間に前記パルス高電圧を印加することにより発生する大電流による衝撃波を利用して前記中子砂を除去させる装置であり、前記一対の電極近傍での強い衝撃波の強度を緩和するため、前記一対の電極の先端が向き合った電極構造とし、さらに前記一対の電極及び/又は前記一対の電極を支持する支持部は、前記衝撃波を吸収する弾性体を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、前記弾性体は、板バネ及び/又はコイル状バネを含むことを特徴とする請求項2記載の中子砂除去装置である。
【0015】
請求項4の発明は、鋳造品であり、その表面に開放端を有する穴に残された中子砂を含む鋳造品を水槽に収容し、前記穴に残された前記中子砂の端面であり、前記水槽中の水と接する端面の近傍に一対の電極を配置し、前記一対の電極間にパルス高電圧を印加し、前記一対の電極間に発生する大電流による衝撃波を利用して前記中子砂を除去させる方法であり、前記中子砂が一部取り出された後空間ができ、前記空間が水で満たされた箇所まで前記電極を差し込み前記衝撃波を発生することを繰り返して前記中子砂を除去させることを特徴とする。すなわち、前記穴における取り出された中子砂に代わって水が入った空間に、一対の電極を差し込み衝撃波を発生して中子砂を取り出し、必要な場合はさらに電極を差し込み衝撃波を発生することを繰り返して中子砂を取り除く方法である。
【0017】
請求項5の発明は、前記穴における前記中子砂のある狭い構造の手前まで前記一対の電極を差し込んで前記衝撃波を生成し、前記衝撃波の伝搬特性を利用して、前記狭い構造の箇所にある前記中子砂を除去させることを特徴とする請求項4記載の中子砂除去方法である。鋳造品の狭い空間や複雑な空間に中子砂が存在する場合、一対の電極支持構造を折り曲げて狭い空間の入り口や複雑な形状の付近まで電極を挿入し、衝撃波を発生することによりすべての中子砂を取り出す。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機バインダーの中子砂取出しはもとより、無機バインダーを中子砂とした場合でも、一対の電極間にパルス高電圧・大電流を印加することにより発生した衝撃波により、水中に置かれた中子砂を除去していない鋳造品から中子砂が取り出せ、中子砂が複雑な形状でも、電極の挿入と衝撃波の伝搬を利用すれば、完全に中子砂を取り出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る中子砂除去装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る電源の概略構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る中子砂除去方法の例を説明する図である。
図4】本発明の実施形態に係る電極の例を説明する図である。
図5】本発明の実施形態に係る中子砂除去装置の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に記載の発明を実施するための最良の形態に基づいて、図1図5を用い、この発明をより具体的に説明する。ここで、図1は、パルス高電圧・大電流により生成した衝撃波による中子砂除去装置の概略構成図、図2は全固体素子からなる磁気パルス圧縮方式の電源の概略図、図3は鋳造品内の中子砂の衝撃波による取り出し方法の一例を示し、(a)一対の電極を中子砂端が水と接する箇所において衝撃波生成、(b)中子砂が衝撃波で取り出された水の空間に電極を差し込み衝撃波生成、(c)さらに電極を差し込んで衝撃波生成、(d)細い個所にある中子砂は電極を折り曲げて近くまで持っていき衝撃波生成による中子砂取出しの概略図、図4は強い衝撃波から電極を保護する電極形状の概略図、図5は実際に無機バインダーを衝撃波により取り出した写真であり、(a)鋳造品の穴の部分に除去されていない中子砂端が見える写真、(b)中子砂が取り払われ鋳造品内部の複雑な構造が見える写真である。
【0021】
図1において、水で満たされた水槽(1)内に中子砂を取り除いてない鋳造品(2)を置き、高繰り返し動作の可能なパルス高電圧・大電流電源(3)と一対の電極(5)を電線(4)により電気的につなぐ。一対の電極の一方は高電圧電極、他方はアース電極とし、スカラロボット(6)により電極を水と接している中子砂の端に接触或いはわずかな距離を保って配置する。ここで使った中子砂は無機バインダーである。電極間にパルス高電圧・大電流を数ショット印加すると、中子砂の端部(7)から数cmまで中子砂が除去されその部分が水で満たされるので、一対の電極を穴の中に差し込むことが可能となり、差し込んでパルス高電圧・大電流を印加すると、容易に中子砂が取り出される。
【0022】
図2は、全固体素子を用いたパルス高電圧・大電流電源であり、一ショットあたりの最大エネルギーは約40J、最大電圧は約20kV、電流は数kA、パルス幅約1.5μ秒である。繰り返し周波数の最大は、40パルス/秒である。パルス高電圧・大電流電源では、スイッチとしてギャップスイッチを使うのが一般的であるが、高繰り返しで信頼性が高い磁気スイッチを用いた磁気パルス圧縮方式を用いている。エネルギー貯蔵コンデンサ(8)を充電したのち、半導体スイッチ(9)をオンにすると、半導体スイッチ保護用磁気スイッチ(10)及びトランス(11)を通して電流が流れ、コンデンサ(12)を高電圧で充電する。充電後、磁気スイッチ(13)がオンとなり、出力端子(14)からの高電圧・大電流が図1の電線(4)に印加される。
【0023】
図3は、鋳造品(2)内で、無機バインダーからなる中子砂(15)が取れる様子を断面図で示している。(a)は、水と接している中子砂端に一対の電極を置いて数ショットのパルス高電圧・大電流を印加する。中子砂端がいくつかあれば、そのすべて或いはいくつかに印加し、数ショットで数cmの深さの中子砂が取り出せる。(b)は、取り出された中子砂の部分は水で満たされるので、一対の電極をさらに差し込むことができ、パルス高電圧・大電流放電により発生した衝撃波により、ほとんどの中子砂を取り出すことができる。(c)は、中子砂が幾分残った場合はさらに差し込んで衝撃波により完全に中子砂を取り出す。(d)は、非常に細くなった箇所に中子砂があり取り出すのが難しい場合であり、電極支持体(16)を折り曲げて細くなった入口に電極を持っていき、生成された衝撃波が狭い個所を伝搬することにより、中子砂の取り出しが可能となる。
【0024】
図4は、一対の電極の概略図である。二つの電極間にパルス高電圧・大電流を印加して放電を起こすと、レーザ光を用いた衝撃波の可視化実験から、電極付近には数百MPaの大きい衝撃波が発生し、数mm離れるとそれほど大きい衝撃波ではなくなるので、特に電極が衝撃波により傷む。一対の電極を向き合うように配置することで、衝撃波の電極への影響を軽減できる。衝撃圧力に電極の断面積をかけたのが電極への衝撃力となり、電極断面積を小さくすることで、衝撃力は小さくなる。約1mm直径のタングステン棒、銅・タングステン合金、或はセリウム等入りタングステン棒を一対の電極(5)の電極材料として用いた。これらの材料は弾性体であるので、衝撃波により幾分変形しても元に戻るため、電極間隔を一定に保つと共に、衝撃波によるダメージを軽減できる。図4の(b)はエロージョンの少ない銅・タングステン合金などを板ばね等の弾性体(17)に繋ぐことにより衝撃波を吸収することが可能となり、(c)は、一対の電極(5)をばね(18)を通して、導体(19)に固定することにより、衝撃波をばねで吸収するようにした電極構造である。一対の電極間隔は3mm以内とした。一対の電極は中子砂の取り出しと共に、鋳造品の中に押し込める構造とし、強い衝撃波を中子砂に当てて、効率よく鋳造品内部の中子砂を取り出せるようにした。また、複雑な中子砂の形状にも対応させるため、電極支持構造を折り曲げることができようにした。衝撃波は、金属で反射するため、狭い空間にある中子砂形状でも、中子砂を取り出せた。
【0025】
図5(a)は、実際の実施結果であり、中子砂を取り出す前の鋳造品(2)に空いた穴から中子砂の端部(7)が穴すれすれに出ている写真であり、(b)は、本中子砂除去装置により中子砂が取れ、穴の中の鋳造品の内部構造(20)が見える様子を示している。工業用の内視鏡で鋳造品の内部を観測したところ、すべての中子砂が取れており、取り除くのが困難である非常に狭くなっている個所にある中子砂も完全に除去された。
【0026】
これまで説明してきた様に、本実施形態に係る中子砂除去装置によれば、中子砂が複雑な形状をしている場合であっても、鋳造品から中子砂を完全に除去することが可能な中子砂除去装置を提供できる。また、本実施形態に係る中子砂除去方法によれば、中子が複雑な形状をしている場合であっても、鋳造品から中子砂を完全に除去することが可能な中子砂除去方法を提供できる。
【符号の説明】
【0027】
1 水槽
2 鋳造品
3 パルス高電圧・大電流電源
4 電線
5 一対の電極
6 スカラロボット
7 中子砂の端部
8 エネルギー貯蔵コンデンサ
9 半導体スイッチ
10 半導体スイッチ保護用磁気スイッチ
11 トランス
12 コンデンサ
13 磁気スイッチ
14 出力端子
15 中子砂
16 電極支持体
17 弾性体
18 ばね
19 導体
20 鋳造品の内部構造
図1
図2
図3
図4
図5