(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.5〜2.0mmol/gの量のカルボキシル基を有する、請求項1または2に記載の分散液。
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、請求項1または2に記載の分散液。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X〜Y」はその端値であるXおよびYを含む。
【0009】
本発明において、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液とは、当該ナノファイバーと、ホウ酸塩類、亜硫酸塩類、およびこれらの組合せからなる群から選択される着色防止剤と、溶媒とを含み、前記アニオン変性セルロースナノファイバーが前記溶媒中に分散している液をいう。また、アニオン変性セルロースナノファイバー組成物とは、当該ナノファイバーと着色防止剤を含む組成物をいう。当該組成物は前記溶媒等を含んでいてもよい。溶媒を含む組成物においては、当該ナノファイバーが当該溶媒に分散している必要はない。
【0010】
1.アニオン変性セルロースナノファイバー分散液
(1)着色防止剤
着色防止剤とは、アニオン変性セルロースナノファイバー(以下、「アニオン変性CNF」ともいう)の加熱による着色を防止する添加剤をいう。本発明では、ホウ酸塩類、亜硫酸塩類、およびこれらの組合せからなる群から選択される着色防止剤を用いる。
【0011】
(1−1)ホウ酸塩類
本発明においてホウ酸塩類とは、ホウ酸塩とボロン酸塩の総称である。本発明におけるホウ酸塩とはホウ酸(B(OH)
3)由来の陰イオンと、一価の金属イオンと、で構成される塩をいう。当該金属イオンとしてはアルカリ金属イオンが好ましい。ホウ酸由来の陰イオンとしては、ホウ酸イオン[BO
3]
3−、ホウ酸水素イオン[HBO
3]
2−、またはホウ酸二水素イオン[H
2BO
3]
−である。本発明におけるボロン酸塩とはボロン酸由来の陰イオン[R−BO
2H]
−、[R−BO
2]
2−と、一価の金属イオンと、で構成される塩をいう。Rは一価の炭化水素基であり、好ましくはアルキル基、アリール基である。中でもRはフェニル基またはアルキルフェニル基が好ましい。Rがフェニル基であるボロン酸はフェニルボロン酸である。すなわち、本発明においてホウ酸塩類とは、M
3[BO
3]、M
2[HBO
3]、M[H
2BO
3]、M
2[R−BO
2]、またはM[R−BO
2H]で表される(Mは一価の金属イオン、Rは一価の炭化水素基)塩である。これらのホウ酸塩類は、アニオン変性CNF分散液および組成物において、固体として、電離して、あるいはアニオン変性CNF中の官能基と反応した状態で存在しうる。
【0012】
好ましいホウ酸塩類として、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸ルビジウム、ホウ酸セシウム、ボロン酸ナトリウム、ボロン酸カリウム、ボロン酸ルビジウム、ボロン酸セシウムなどを例示できる。例えばホウ酸ナトリウムとは、ホウ酸由来の前記3種の陰イオンのいずれかまたは組合せと、Na
+から構成される塩である。コストや入手容易性の観点から、本発明においてはホウ酸ナトリウムが好ましい。
【0013】
ホウ酸塩類の量は、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、1〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましく、10〜15質量%がさらに好ましい。ホウ酸塩類の含有量が1質量%未満あるいは30質量%を超えると十分な着色抑制効果が発現しない。
【0014】
ホウ酸塩類が着色防止剤として作用するメカニズムは、限定されないが次のように考えられる。アニオン変性セルロースナノファイバーは加熱により分解し、その後脱水反応と縮合反応を経て着色物質を形成すると推定されている。この際、ホウ酸塩類を添加すると、ホウ酸塩類とセルロースナノファイバー中の水酸基が反応してホウ酸エステルを形成するので、加熱によって生成した分解生成物がさらに分解しかつ脱水されることが抑制され、着色しにくくなると推察される。着色の評価は、特に限定されないが、目視による評価や分光色差計等により実施できる。
【0015】
(1−2)亜硫酸塩類
本発明において亜硫酸塩類とは、亜硫酸塩(M
2SO
3:Mは一価の陽イオン部位)、亜硫酸水素塩(MHSO
3:Mは一価の陽イオン部位)、ピロ亜硫酸塩(M
2S
2O
5もしくはM’S
2O
5:Mは一価の陽イオン部位、M’は二価の陽イオン部位)、次亜硫酸塩(M
2S
2O
4もしくはM’S
2O
4:Mは一価の陽イオン部位、M’は二価の陽イオン部位)、またはこれらの水和物をいう。Mとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンが挙げられ、M’としてはアルカリ土類金属イオンが挙げられる。好ましい亜硫酸塩類としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、次亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸カリウム、次亜硫酸カルシウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸マグネシウム、ピロ亜硫酸カルシウム等が挙げられ、中でも亜硫酸水素ナトリウムが特に好ましい。
【0016】
本発明において、亜硫酸塩類の量はアニオン変性CNFの絶乾質量に対し、0.1〜15質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、1.0〜12質量%がさらに好ましく、3.0〜10質量%がよりさらに好ましい。
【0017】
亜硫酸塩類が着色防止剤として作用するメカニズムは、限定されないが次のように考えられる。アニオン変性CNFには、アニオン変性によって水酸基が酸化されることに起因してケトン基やアルデヒド基が存在する。このようなアニオン変性CNFが加熱されるとケトン基やアルデヒド基を足場としてβ脱離反応が起こり、この反応によって新たに生成されたセルロースの非還元末端には、ケトン基由来の2,3−ジケトン、アルデヒド基由来のα,β−不飽和アルデヒドが生成される。さらに、新たに生成したセルロースの還元末端からはピーリング反応が起こり、2,3−ジケトンを有する着色物質が蓄積する。しかし本発明では、亜硫酸塩類がアニオン変性CNFに存在するケトン基やアルデヒド基を還元するので加熱による着色を抑制できると考えられる。
【0018】
この効果は、N−オキシル化合物(TEMPO、TEMPO誘導体など)などの酸化触媒と酸化剤とを用いたセルロース原料の酸化、あるいはオゾンを用いたセルロース原料の酸化によって得られる酸化セルロースを解繊して製造される、カルボキシル基量が0.5〜2.0mmol/gのカルボキシ変性CNFにおいて特に顕著となる。N−オキシル化合物を酸化触媒とした酸化セルロースの製造においては、C6位に選択的にカルボキシル基が生成される一方、副反応としてN−オキシル化合物や次亜塩素酸ナトリウムによるセルロースのC2位、C3位の二級アルコールの酸化が起こり、C2位およびC3位にケトン基が生成される。また、TEMPO触媒によるC6位のカルボキシル基への酸化は、アルデヒドを経由した二段階反応であり、一部のアルデヒド基がカルボキシル基まで酸化されず残った状態となる。このようなメカニズムにより、従来のカルボキシ変性CNFでは加熱時に着色するという問題があったが、前述のように本発明では亜硫酸塩類を用いることでこの問題を解決できる。また、亜硫酸塩類はセルロースナノファイバーにダメージを与えない、物質としての安全性が高くPRTR制度の対象物質となっていないという利点もある。したがって亜硫酸塩類を用いることで、着色抑制と安全性の両立を達成できる。亜硫酸塩類はアニオン変性CNF分散液および組成物中に、固体として、電離して、あるいは酸化された状態で存在しうる。
【0019】
前記着色防止剤として、ホウ酸塩類と亜硫酸塩類を併用する場合は、それぞれ前述の量を用いることが好ましい。
【0020】
(1−3)アニオン変性セルロースナノファイバー
本発明において、アニオン変性CNFの長さ平均繊維径は2〜1000nmであり、下限は、好ましくは2.5nm、より好ましくは3nm、さらに好ましくは4nmであり、上限は好ましくは500nm、より好ましくは100nm、さらに好ましくは10nm程度である。長さ平均繊維長は、好ましくは100〜3000nmであり、より好ましくは150〜1500nm、さらに好ましくは200〜1000nmである。アニオン変性CNFのアスペクト比(長さ平均繊維長/長さ平均繊維径)としては、好ましくは10〜1000、より好ましくは、100〜1000である。アニオン変性CNFは、セルロース原料を変性して得たカルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」ともいう)、カルボキシメチル化セルロース、リン酸エステル基を導入したセルロースなどのアニオン変性セルロースを解繊することによって得ることができる。以下、原料および変性方法等について説明する。
【0021】
(セルロース原料)
アニオン変性セルロースを製造するためのセルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物性材料(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするもの、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に紡糸された再生セルロース、上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロース、を挙げることができ、それらのいずれも使用できる。中でも植物または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維がより好ましい。
【0022】
(カルボキシメチル化)
カルボキシメチル化セルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度は0.01〜0.50が好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次の方法を挙げることができる。
【0023】
セルロースを発底原料にし、3〜20質量倍の溶媒を用いる。溶媒は、水、低級アルコール、またはこれらの混合溶媒である。低級アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール、またはこれらの組合せが挙げられる。水と低級アルコールの混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間の条件でマーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間の条件で、エーテル化反応を行う。
【0024】
本発明で用いる「カルボキシメチル化セルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、カルボキシメチル化セルロースは後述する水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。カルボキシメチル化セルロースの水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、カルボキシメチル化セルロースはX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶のピークは観測されない。
【0025】
(カルボキシル化)
カルボキシル化セルロース(酸化セルロース)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル化の際には、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が好ましくは0.2mmol/g以上、より好ましくは0.5〜2.0mmol/g、さらに好ましくは0.6〜2.0、よりさらに好ましくは1.0〜2.0mmol/g、特に好ましくは1.0〜1.8mmol/gとなるように調整される。カルボキシル基量は、酸化反応時間、酸化反応温度、酸化反応時のpH、N−オキシル化合物や臭化物、ヨウ化物、酸化剤の添加量により調整できる。
【0026】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート基(−COO
−)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0027】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル(TEMPO)またはその誘導体(例えば4−ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0028】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に限定されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1〜4mmol/L程度がよい。
【0029】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0030】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。また、例えば、N−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0031】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4〜40℃が好ましく、15〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを好ましくは8〜12、より好ましくは10〜11程度に維持する。反応媒体は、取扱性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0032】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5〜6時間、好ましくは2〜4時間程度である。
【0033】
酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0034】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50〜250g/m
3であることが好ましく、50〜220g/m
3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分(絶乾質量)100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1〜360分程度であり、30〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0035】
本発明においては、着色抑制の観点から、還元処理を施したカルボキシル化CNFを用いることが好ましい。還元処理は着色防止剤としてホウ酸塩類を用いる場合に特に高い効果が得られる。当該還元処理は解繊前の酸化セルロース原料に対して実施することが好ましい。還元剤としては、部分的に生成したアルデヒド基およびケトン基をアルコールに還元できるものであれば、いずれの還元剤も使用でき、例えば、チオ尿素、ハイドロサルファイト、亜硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム等が挙げられる。還元剤の使用量としては、酸化セルロース原料100質量部に対して、0.1〜150質量部、好ましくは0.5〜100質量部、さらに好ましくは1〜50質量部程度である。また、還元処理温度は、還元処理の効率、繊維の劣化抑制の点から、10〜90℃程度が望ましく、20〜70℃とすることがさらに好ましい。また、還元処理時のpHは、使用する還元剤によって適宜調整すればよいが、通常pH2〜12であり、好ましくはpH3〜10である。還元反応における反応時間は、還元の進行の程度に従って適宜設定することができ、特に限定されないが、通常0.5〜6時間、好ましくは1〜5時間、さらに好ましくは1〜4時間である。
【0036】
(解繊)
アニオン変性セルロースを解繊することでセルロースナノファイバーが得られる。解繊に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊の際にはアニオン変性セルロースの水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊および分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、前記水分散体に予備処理を施してもよい。
【0037】
(1−4)アニオン変性CNF分散液
このようにして本発明のアニオン変性CNF分散液を得ることができる。着色防止剤は、アニオン変性セルロースを解繊する前に添加してもよいし、解繊して得たアニオン変性CNF分散液に添加してもよい。しかしながら解繊効率をより向上させる観点からは、解繊後のアニオン変性CNF分散液に添加することが好ましい。着色防止剤を添加する温度は特に限定されないが0〜50℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。アニオン変性CNF分散液のpHは限定されないが、好ましくは6.5〜10、より好ましくは8〜9.5である。分散液のpHがこの範囲であると高い着色抑制効果が発現する。溶媒は、着色防止剤の溶解性の観点から水であることが好ましいが、当該溶解性を損なわない範囲でアルコール等の有機溶媒を含んでいてもよい。当該分散液中のアニオン変性CNF濃度は、0.1〜10%(w/v)が好ましい。
【0038】
(1−5)アニオン変性CNF組成物
アニオン変性CNF組成物とはアニオン変性CNFと前記着色防止剤を含む組成物をいうが、当該組成物としては、前記アニオン変性CNF分散液を乾燥して得た組成物が好ましい。乾燥とは分散液から溶媒を除去することである。当該組成物は溶媒を含まない絶乾状態であってもよいが、溶媒をアニオン変性CNF絶乾質量あたり10〜100000質量%程度含んでいてもよい。このようにして得たアニオン変性CNF組成物は前述のとおり、着色防止剤がアニオン変性CNF中の水酸基等の官能基と反応して存在している可能性がある。しかしながら、この反応形態を同定することやその量を特定することはおよそ現実的ではない。
【0039】
水を含む溶媒の除去は、例えば、遠心脱水式、真空脱水式、加圧脱水式のタイプの脱水装置、およびこれらの組合せを用いて実施できる。あるいは、例えば、スプレイドライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、および真空乾燥等により溶媒を除去することができる。乾燥装置は、特に限定されないが、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、撹拌乾燥装置等、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0040】
本発明のアニオン変性CNF組成物は、様々な分野において添加剤等として使用できる。当該分野としては、例えば、食品、飲料、個人ケア製品、化粧品、医薬品、各種化学用品、製紙、土木、塗料、インキ、コーティング組成物、農薬、建築、自動車、防疫薬剤、電子材料、電池、難燃剤、断熱材、家庭雑貨、洗浄剤、水処理、ドリル液、中性の機能性物質、シェールガス、オイルの流出制御または回収等の分野が挙げられる。具体的に当該組成物は、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、ゴム・プラスチック用補強材料、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、研磨剤、吸水材、防臭剤、防錆剤、保水剤、保湿剤、保冷剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤および溢泥防止剤などとして使用することができ、それらを構成成分として含むゴム・プラスチック材料、塗料、接着剤、コート紙用塗剤、コート紙、バインダー、化粧品、潤滑用組成物、研磨用組成物、衣料用しわ低減剤、アイロンがけ用滑り剤などに応用できる。
【0041】
特に、TEMPO酸化によって得た本発明のCNF組成物はフィルム、シート等の薄膜部材、あるいは成形品の材料として好適である。
【0042】
2.アニオン変性CNF分散液および組成物の製造方法
アニオン変性CNF分散液は、特に限定されないが、下記(i)〜(iii)の工程を備える方法で製造されることが好ましい。
(i)N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化して酸化セルロースを調製する工程、
(ii)前記酸化セルロースを解繊し、酸化セルロースナノファイバー分散液を得る工程、
(iii)前記酸化セルロースナノファイバー分散液と前記着色防止剤とを含有するセルロースナノファイバー分散液を得る工程。
【0043】
(iii)の工程においては、酸化セルロースナノファイバー分散液に着色防止剤を添加して混合する。この際の温度は特に限定されないが0〜50℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。添加後の分散液のpHは4〜10が好ましく、5〜9がより好ましい。添加時に水酸化ナトリウム水溶液等でpH調整を行ってもよい。混合条件は特に限定されないが、例えば、600回転のプロペラ撹拌装置を用い0.5〜6時間とすることができる。
【0044】
このようにして得た分散液から前記水を除去すること(工程(iv))により、アニオン変性CNF組成物を得ることができる。水を除去する条件等は前述のとおりである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0046】
[実施例A]
<カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの製造>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。
【0047】
上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で5回処理して、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液を得た。得られた繊維の長さ平均繊維径は4nm、アスペクト比は150であった。
【0048】
<還元処理されたカルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの製造>
前述のカルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの製造に用いたカルボキシル化セルロースと同じカルボキシル化セルロース40g(絶乾)を準備し、イオン交換水1960mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。このパルプ分散液のpHが10.5になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、水素化ホウ素ナトリウム0.2gを添加し、1.5時間室温で撹拌した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗して還元処理されたカルボキシル化セルロースを得た。
【0049】
上記の工程で得られた還元処理されたカルボキシル化セルロースに水を加えて濃度1.0%(w/v)の混合物を調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で5回処理して、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液を得た。得られた繊維の平均繊維径は4nm、アスペクト比は150であった。
【0050】
<カルボキシル基量の測定方法>
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
【0051】
<平均繊維径、アスペクト比の測定方法>
アニオン変性CNFの長さ平均繊維径および長さ平均繊維長は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析した。アスペクト比は下記の式により算出した:
アスペクト比=長さ平均繊維長/長さ平均繊維径。
【0052】
<着色評価>
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの着色抑制度合は、カルボキシル化CNFの水分散液から調製された厚さ50μmのCNFフィルムを150℃で30分間加熱処理し、以下の基準で目視評価した。なお、前記CNFフィルムはポリスチレン製のシャーレ上で、カルボキシル化CNFの水分散液を40℃で24時間乾燥することで調製した。
着色しない: ++ > + > ± > −(ホウ酸塩類無配合) > −−:着色する
【0053】
(実施例A1)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、10質量%濃度のホウ酸水溶液を0.1質量部添加し、よく撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液によりpHを8.9に調整して、CNF当たり1質量%のホウ酸塩を含むCNF水分散液を得た。得られた分散液をポリスチレン製のシャーレ上に展開し、40℃で24時間乾燥してCNF当たり10質量%のホウ酸塩を含む厚さ50μmのCNFフィルムを得た。前記ホウ酸は水酸化ナトリウムにより系中でホウ酸ナトリウムを形成している。
(実施例A2)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を0.5質量部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり5質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A3)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を1.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり10質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A4)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を1.5部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり15質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A5)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を2.0部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり20質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A6)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を3.0部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり30質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A7)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を1.5質量部添加し、当該ホウ酸塩を含むカルボキシル化CNFの水分散液のpHを塩酸により7.5に調整した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり15重量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A8)
ホウ酸塩を含むカルボキシル化CNFの水分散液のpHを塩酸により8.0に調整した以外は実施例A7と同様にして、CNF当たり15質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A9)
ホウ酸塩を含むカルボキシル化CNFの水分散液のpHを塩酸により8.5に調整した以外は実施例A7と同様にして、CNF当たり15質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A10)
ホウ酸塩を含むカルボキシル化CNFの水分散液のpHを水酸化ナトリウム水溶液により9.0に調整した以外は実施例A7と同様にして、CNF当たり15質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(実施例A11)
CNFとして還元処理されたカルボキシル化(TEMPO酸化)CNFを用いた以外は実施例1と同様にして、CNF当たり15質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
【0054】
(比較例A1)
ホウ酸塩を添加しないこと以外は実施例1と同様にして、CNFフィルムを得た。
(比較例A2)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、前記ホウ酸水溶液を0.01質量部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり0.1質量%のホウ酸塩を含むCNFフィルムを得た。
(比較例A3)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、リン酸水素二アンモニウムの10質量%水溶液を1.5質量部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり15質量%のリン酸水素二アンモニウムを含むCNFフィルムを得た。
(比較例A4)
カルボキシル化(TEMPO酸化)CNFの1.0%(w/v)水分散液100質量部に対して、リン酸トリエチルの10質量%水溶液を1.5質量部添加した以外は実施例1と同様にして、CNF当たり15質量%のリン酸トリエチルを含むCNFフィルムを得た。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例A1〜A11のホウ酸塩を含むCNFは、比較例A1のCNFに比べて加熱後の着色が抑制されている。加熱後の着色が発生しないことは、CNFの工業的利用において、加熱処理による変色の影響を受けないため有利である。
【0057】
[実施例B]
(実施例B1)
<パルプの酸化>
広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(長さ平均繊維長534μm)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mgと臭化ナトリウム514mgを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を5.5mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過して固液分離した。得られたパルプ繊維から、水と塩酸を用いてpHが約3、固形分濃度が1.0質量%の分散液を調製した。再度固液分離して得られたパルプ繊維を十分に水洗して酸化セルロースを得た。
【0058】
<酸化処理したパルプのカルボキシル基量の測定>
酸化セルロースのカルボキシル基量は、次の方法で測定した:
酸化セルロースの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化パルプ〕= a〔ml〕× 0.05/酸化セルロース質量〔g〕。
【0059】
この測定の結果、得られた酸化セルロースのカルボキシル基量は1.6mmol/gであった。
【0060】
<酸化セルロースの解繊>
上記の工程で得られた酸化セルロースを水と水酸化ナトリウムでpHを7に、固形分濃度1.0質量%(1%(w/v))の分散液に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、酸化セルロース由来のセルロースナノファイバー分散液を得た。
【0061】
<セルロースナノファイバーへの添加剤の添加>
上記の工程で得られたセルロースナノファイバー分散液(固形分濃度1.0質量%)50gに亜硫酸水素ナトリウム25mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:5.0質量%)を添加して、プロペラ撹拌機にて600rpmで撹拌しながら水酸化ナトリウムを用いて中和した。
【0062】
<パルプの長さ平均繊維長および繊維長分布>
ISO 16065−2に従って測定した。
【0063】
<セルロースナノファイバーの長さ平均繊維長>
マイカ切片上に固定したセルロースナノファイバーの原子間力顕微鏡像(3000nm×3000nm)から、繊維長を測定し、長さ平均繊維長を算出した。繊維長測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事)を用い、長さ100nm〜2000nmの範囲で行った。
【0064】
<セルロースナノファイバーの長さ平均繊維長>
セルロースナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈したセルロースナノファイバー水分散液を調製した。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測し、長さ平均繊維径を算出した。
【0065】
<アスペクト比の測定方法>
アスペクト比は下記の式により算出した。
アスペクト比=長さ平均繊維長/長さ平均繊維径
【0066】
<セルロースナノファイバーのフィルム化>
上記の固形分濃度1.0質量%のセルロースナノファイバー50ml分を量り取り、基材(ポリエステルフィルムA4100、東洋紡社製)上に注いだ後、送風乾燥器にて温度40℃で1日間静置した。その後、厚さ40μmのセルロースナノファイバーのフィルム化物を得た。
【0067】
<セルロースナノファイバーの加熱後の着色の評価>
上記で得られたフィルム化物を、送風乾燥器にて温度150℃で30分間加熱処理を行った。加熱処理前後のフィルム化物を分光色差計(SE6000、日本電色工業社製)にてJIS K7373に準拠してYI(Yellowness Index)を測定して評価した。
【0068】
(実施例B2)
亜硫酸水素ナトリウムの添加量を5mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:1.0質量%)とした以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(実施例B3)
亜硫酸水素ナトリウムの添加量を50mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:10質量%)とした以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(実施例B4)
パルプの酸化に用いた次亜塩素酸ナトリウムの添加量を3.1mmol/gとし、解繊時に超高圧ホモジナイザーで5回処理した以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。この時、得られた酸化セルロースのカルボキシル基量は1.1mmol/gであった。
(実施例B5)
原料パルプに広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(長さ平均繊維長1020μm)を用いた以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(実施例B6)
亜硫酸水素ナトリウムの添加量を50mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:10質量%)とした以外は実施例B5と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(実施例B7)
原料パルプに針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(長さ平均繊維長2270μm)を用いた以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(実施例B8)
亜硫酸水素ナトリウムの添加量を50mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:10質量%)とした以外は実施例B7と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(実施例B9)
亜硫酸水素ナトリウムの代わりに亜硫酸ナトリウムを50mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:10質量%)添加した以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
【0069】
(比較例B1)
着色防止剤を添加しなかった以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(比較例B2)
亜硫酸水素ナトリウムの代わりに水素化ホウ素ナトリウムを50mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:10質量%)添加した以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(比較例B3)
亜硫酸水素ナトリウムの代わりにチオ硫酸ナトリウムを50mg(セルロースナノファイバー絶乾固形分に対する添加率:10質量%)添加した以外は実施例B1と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(比較例B4)
着色防止剤を添加しなかった以外は実施例B5と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
(比較例B5)
着色防止剤を添加しなかった以外は実施例B7と同様にして、セルロースナノファイバー分散液およびセルロースナノファイバーのフィルム化物を得て、加熱後の着色評価を行った。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例B1〜B4のセルロースナノファイバーは、比較例B1およびB3のセルロースナノファイバーに比べて、長さ平均繊維長、長さ平均繊維径ともに物性に大きな違いは見られないが、加熱後の着色に明確な差が見られた。実施例B5およびB6と比較例B4、実施例B7およびB8と比較例B5の比較においても同様である。また、実施例B9と比較例B2はどちらも高いレベルで着色抑制がなされているものの、水素化ホウ素ナトリウムはPRTR対象物質に指定されているため、使用を避けるべき物質である。加熱後の着色が発生しないことは、セルロースナノファイバーの工業的利用において、加熱処理による変色の影響を受けないという点から、有利であるといえる。