特許第6698660号(P6698660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698660
(24)【登録日】2020年5月1日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/16 20060101AFI20200518BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20200518BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20200518BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20200518BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20200518BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   C10M137/16
   C10N30:00 Z
   C10N30:04
   C10N30:10
   C10N30:12
   C10N40:25
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-533323(P2017-533323)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公表番号】特表2017-538843(P2017-538843A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】EP2015079643
(87)【国際公開番号】WO2016096758
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年12月6日
(31)【優先権主張番号】62/093,217
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100108899
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 謙
(72)【発明者】
【氏名】ヘラウェル,アレクサンダー・マーク・ロバート・ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンソン,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】マッセー,アレクサンダー・ピーター・ディルク
(72)【発明者】
【氏名】モイア,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ブローニング,スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ボウン,リチャード・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】グッラパッリ,スラヴァニ
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−031515(JP,A)
【文献】 特開2011−214005(JP,A)
【文献】 特表2015−511639(JP,A)
【文献】 特開2013−181072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)基油、及び(ii)式(1)を有する化合物を含む潤滑組成物であって、
【化1】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される、潤滑組成物。
【請求項2】
、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C12アルキル基から選択され、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記式(1)の化合物が、前記潤滑組成物の重量に基づき、0.01重量%〜5重量%レベルで存在する、請求項1または2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記潤滑組成物が、前記潤滑組成物の総重量に基づき、少なくとも0.3重量%のバイオ燃料若しくはその分解生成物、またはその混合物で汚染される、請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
式(1)
【化2】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される)を有する化合物の油を含む潤滑組成物における、塩基価維持の改善を提供するための使用。
【請求項6】
潤滑油組成物塩基価維持を改善させるための方法であって、記方法前記潤滑油組成物に式(1)の化合物を加えることを含み、
【化3】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部がバイオディーゼル燃料を燃料とし得るディーゼル(圧縮点火)内燃エンジンの、特にクランク室において使用する潤滑油組成物に関し、また、塩基価維持及び酸価維持における改善と共に、そうした潤滑油組成物の酸化、腐食、及び沈殿物形成に対する耐性における改善に関する。
【背景技術】
【0002】
政府規制及び市場需要は、運輸業界における化石燃料の保存を強調し続けている。したがって、再生可能またはバイオ由来供給源(例えば、バイオディーゼル燃料)からの燃料を、独占的または部分的に燃料とする車両の需要が増加している。
【0003】
ディーゼル燃料組成物に、脂肪酸アルキルエステル(FAAE)、特に脂肪酸メチルエステル(FAME)が含まれることは既知である。FAMEは、メチルエステルをもたら触媒の存在下で、メタノールを用いるエステル交換と呼ばれる化学プロセスを介して生成される。FAMEは、大豆、菜種、ヒマワリの種、ココナツ、及び使用済み植物油などの様々な油由来原料から生成され得る。FAAEは、燃料製造及び消費プロセスの環境影響を低減させること、または潤滑性を改善させることを含む様々な理由により加えられてよい。
【0004】
しかし、内燃エンジンを潤滑化するために使用される潤滑油組成物は、エンジンに燃料を供給するために使用されるバイオ燃料でしばしば希釈されることが見出されている。バイオディーゼル燃料は、燃料をエンジン中に噴射後、蒸発することを減速させる低粘度の成分を含む。典型的には、バイオディーゼルの未燃部分及び部分的に燃焼して生じた分解生成物の一部がシリンダー壁で潤滑油組成物と混合し、油溜めに押し流され、それによってクランク室の潤滑油を汚染する。エンジンを潤滑化中は極端な状態であるため、汚染された潤滑油中のバイオディーゼル燃料は分解物質をさらに形成できる。特に、FAMEなどのFAAEによる潤滑油組成物の希釈は、酸化安定性を制御する、及び塩基価を維持する潤滑油組成物の能力に望ましくない効果をもたらし得ることが見出されている。バイオディーゼルにおけるオレフィン性二重結合及びエステル官能性の存在は、バイオディーゼル燃料が酸化分解の影響を受けやすくなり、潤滑油組成物を酸化的に不安定にし、酸価(TAN)の増加、塩基価(TBN)の減少、ならびに沈殿物及び付着物形成の影響をより受けやすくなるという結果をもたらす。溜めにおけるFAMEの酸化は、酸の形成をもたらす。中和されない場合、これらの酸は腐食を引き起こし得る。金属対イオンを含む塩基によって中和される場合、沈殿物を形成し得る。加えて、酸形成を中和するための試行において使用される過度の塩基が、DPFに灰形成をもたらし得る。油中のバイオディーゼル汚染がより高くなればなるほど、潤滑油組成物の酸化安定性はより低くなる。
【0005】
さらに、この酸化安定性低減の問題は、排気ガス後処理装置を再利用するために、(例えば、軽量、中量、及び乗用車のディーゼルエンジン)シリンダー内への燃料のレイトポスト噴射を用いるディーゼルエンジンにおいて著しく悪化するということが見出された。この後処理装置再利用方式は、油においてより高レベルのFAME希釈をもたらし得る。
【0006】
したがって、FAMEのようなバイオ燃料の存在下または不存下の両方で、塩基価維持及び酸価維持が改善した、内燃エンジンのクランク室において使用するための潤滑油組成物を提供することが望ましいであろう。加えて、DPFに灰形成することなく、そのような塩基価維持及び酸価維持の改善を提供する潤滑油組成物を提供することも望ましいであろう。
【0007】
内燃エンジンがバイオディーゼルなどのバイオ燃料を燃料とする場合に起こり得る酸化安定性の喪失を低減させる、内燃エンジンのクランク室において使用するための潤滑油組成物を提供することも望ましいであろう。加えて、DPFに灰形成することなく、そのような酸化安定性の喪失を低減させる潤滑油組成物を提供することも望ましいであろう。
【0008】
Verkade塩基は、以下の式(1)のフットボール形のプロアザフォスファトラン分子構造を有する化合物である。
【化1】
【0009】
Verkade塩基は、(1)がプロトンと反応した場合に形成されるプロトン化した種の並外れた安定性により、非常に強い塩基である。プロトン化した形状の安定性により、Verkade塩基は、既知のいずれのアミンよりも、ルイス塩基として約8桁より強力である。
【0010】
Verkade塩基は、アルキル化、脱ハロゲン化水素、アシル化などの様々な有機反応、様々な濃縮、及び炭素−炭素結合形成のための有機金属反応にうまく適用されている。式(1)のVerkade塩基の第2の特徴は、多段階合成中に様々なシリル基でアルコール基を保護すること、イソシアネートをイソシアヌレートに三量化すること、及びα、β不飽和ニトリルの合成など、連続的に反応範囲を広げていく優れた触媒として作用する能力である。
【0011】
ここで驚くべきことに本発明者によって、特に内燃エンジンがバイオ燃料組成物、特に脂肪酸アルキルエステルを含むバイオ燃料組成物を燃料とする内燃エンジンのクランク室用潤滑油組成物の塩基価維持及び酸価維持を改善させるために、Verkade塩基が使用され得ることが見出された。
【0012】
Verkade塩基は、内燃エンジンのクランク室用潤滑油組成物の酸化安定性の喪失を低減させるためにも使用され得、内燃エンジンはバイオ燃料組成物、特に脂肪酸アルキルエステルを含むバイオ燃料組成物を燃料とする。
【発明の概要】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、(i)基油、及び(ii)式(1)を有する化合物を含む潤滑組成物が提供され、
【化2】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される。
【0014】
本発明は、潤滑油組成物が、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも0.3重量%のバイオ燃料若しくはその分解生成物、またはその混合物で汚染される場合に特に有用である。
【0015】
驚くべきことに、本発明の潤滑組成物は、酸化安定性の改善、腐食特性の低減、及び沈殿物を形成する傾向の低減に加えて、塩基価(TBN)維持の改善及び酸価(TAN)維持の改善を示すことが見出された。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、式(1)を有する化合物であって、
【化3】
式中、R、R、及びRが、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される、化合物の、特にバイオ燃料の存在下において、潤滑組成物の塩基価維持の改善を提供する基油を含む、潤滑組成物における使用が提供され、とりわけバイオ燃料は、FAMEなどの脂肪酸アルキルエステルを含む。
【0017】
本発明の別の態様によれば、潤滑油組成物、特にバイオ燃料組成物を燃料とする内燃エンジンのクランク室を潤滑化するために使用される潤滑油組成物の塩基価を改善させるための方法が提供され、好ましくはバイオ燃料組成物は脂肪酸アルキルエステルを含み、本方法は、潤滑油組成物に式(1)の化合物を加えることを含み、
【化4】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「バイオ燃料」は、燃料が少なくとも部分的に再生可能な生物資源、好ましくはバイオディーゼル燃料由来であることを意味する。
【0019】
上記したように、圧縮点火エンジンに燃料を供給するために使用されるディーゼル燃料組成物は、燃料成分として脂肪酸メチルエステル(FAME)などの脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を組み込んでよいことは既知である。しかし、残念ながらFAMEは従来のディーゼルよりも揮発性がかなり低く、そのため潤滑油において化石由来のディーゼル燃料と比べてはるかに高い蓄積する傾向を有する。したがって、ディーゼル燃料においてより高レベルのFAMEは、潤滑油においてより高レベルの燃料希釈をもたらし得、それは潤滑油の酸化安定性の望ましくない喪失になり得る。
【0020】
本発明は、潤滑油組成物が、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも0.3重量%のバイオ燃料若しくはその分解生成物、またはその混合物で汚染される場合に特に有用である。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「塩基価維持を改善させること」は、バイオ燃料、例えばFAMEなどの脂肪酸アルキルエステル(FAAE)で希釈される潤滑油組成物の総塩基価(TBN)を維持することまたは増強することを意味する。本発明の好ましい実施形態では、潤滑油組成物のTBNは、潤滑油組成物のTBNを測定するための標準試験法であるASTM D−2896及びASTM D−4739により測定される。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「酸価維持を改善させること」は、バイオ燃料、例えばFAMEなどの脂肪酸アルキルエステル(FAAE)で希釈される潤滑油組成物の総酸価(TAN)を維持することまたは減少させることを意味する。本発明の好ましい実施形態では、潤滑油組成物のTANは、潤滑油組成物のTANを測定するための標準試験法であるASTM D−664により測定される。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「酸化安定性の喪失を減少させること」は、潤滑油組成物が、バイオ燃料、例えばFAMEなどの脂肪酸アルキルエステル(FAAE)で希釈される場合に遭遇する酸化安定性の喪失を減少させることを意味する。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「酸化安定性を改善させること」は、バイオ燃料、例えばFAMEなどの脂肪酸アルキルエステル(FAAE)で希釈される潤滑油組成物の酸化開始までの時間が、加圧示差走査熱量計(pDSC)による潤滑油組成物の酸化誘発時間を測定するための標準試験法であるASTM D6186による測定で増加していることを意味する。
【0025】
好ましい実施形態では、FAMEで希釈されるが式(1)のVerkade塩基を含まない等価潤滑油組成物の塩基価維持と比較して、本発明の潤滑油組成物によって提供される塩基価維持における%改善は、塩基価維持において少なくとも5%改善、より好ましくは塩基価維持において少なくとも10%改善、さらにより好ましくは少なくとも15%改善、特に塩基価維持において、少なくとも20%改善である。
【0026】
好ましい実施形態では、FAMEで希釈されるが式(1)のVerkade塩基を含まない等価潤滑油組成物の酸価と比較して、本発明の潤滑油組成物により提供される酸価における%低減は、酸価において少なくとも5%低減、より好ましくは酸価において少なくとも10%低減、さらにより好ましくは少なくとも20%低減、特に酸価において少なくとも60%低減である。
【0027】
好ましい実施形態では、FAMEで希釈されるが式(1)の化合物を含まない等価潤滑油組成物の酸化安定性と比較して、本発明の潤滑油組成物により提供される酸化安定性における%改善は、酸化安定性において少なくとも20%改善、より好ましくは酸化安定性において少なくとも30%改善、さらにより好ましくは少なくとも50%改善、特に酸化安定性において少なくとも60%改善である。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「腐食特性の低減」は、(i)バイオ燃料で希釈される潤滑油組成物における塩基価維持を改善すること、及び/または(ii)式(1)の化合物を含まない等価FAME希釈潤滑組成物の酸価維持以上に、FAME希釈潤滑組成物の酸価維持を改善させることを意味する。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「酸化に対する耐性を改善させること」は、(i)潤滑油組成物がバイオ燃料で希釈される場合に遭遇する酸化安定性の喪失を減少させること、及び/または(ii)式(1)の化合物を含まない等価FAME希釈潤滑組成物の酸化安定性以上に、FAME希釈潤滑組成物の酸化安定性を改善させることを意味する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、潤滑油組成物の酸化安定性は、加圧示差走査熱量計(pDSC)によって潤滑油組成物の酸化誘発時間を測定するための標準試験法であるASTM D6186により測定される。
【0031】
FAAEは、典型的には、組成物によって動作される内燃エンジン系または他の系に組成物が導入される前に、好都合にブレンド(すなわち物理的混合物)として燃料組成物に加えられるだろう。燃焼系において、他の燃料成分及び/または燃料添加剤は、FAAEの追加前または追加後、及び組成物の使用前または使用中に組成物中に組み込まれてもよい。
【0032】
加えられるFAAEの量は、当該基本燃料及びFAAEの性質、ならびに標的のセタン価によって決まる。一般に、得られる基本燃料/FAAE混合物におけるFAAEの体積分率vは、線形ブレンド規則が適用される場合に必要となるであろう体積分率v´より小さくなり、式中v´は等式:X=A+v´(B−A)によって定義されるであろう。
【0033】
体積分率v及びv´は、各自0と1と間の値を有さなければならない。本発明の方法を実施する場合、FAAEの実際の体積分率vは、「線形」体積分率v´よりも、好ましくは少なくとも0.02低く、より好ましくは少なくとも0.05、または0.08、または0.1低く、最も好ましくは少なくとも0.2、0.3、または0.5低く、及び場合により最大でv´よりも0.6、または0.8低い。絶対値では、実際の体積分率vは、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下、さらにより好ましくは0.15、または0.1、または0.07以下である。例えば、それは0.01〜0.25、好ましくは0.05〜0.25、より好ましくは0.05、または0.1〜0.2でよい。
【0034】
全燃料組成物(または少なくとも基本燃料/FAAE混合物)におけるFAAEの濃度は、好ましくは25%v/v以下、より好ましくは20%v/v以下、さらにより好ましくは15、または10、または7%v/v以下である。最小値として、それは0.05%v/v以上、好ましくは1%v/v以上、より好ましくは2%または5%v/v以上、最も好ましくは7または10%v/v以上でよい。本明細書で使用する場合、B7 FAMEとは、全燃料組成物におけるFAMEの7%v/v濃度を指す。本明細書で使用する場合、B100 FAMEとは、全燃料組成物におけるFAMEの100%v/v濃度または100%純FAMEを指す。本明細書で使用する場合、BとはFAMEのないディーゼル燃料を意味する。
【0035】
本状況において最も一般的に使用されている脂肪酸アルキルエステルは、メチルエステルであり、すでに再生可能ディーゼル燃料(いわゆる「バイオディーゼル」燃料)として既知である。それらは長鎖カルボン酸分子(一般に10〜22個の炭素原子長)を含み、それぞれが一端に結合されたアルコール分子を有する。(再利用植物油を含む)植物油及び動物性脂肪などの有機由来油は、アルコール(典型的にはC〜Cアルコール)を用いるエステル交換反応プロセスに供され得、典型的にはモノアルキル化され、対応する脂肪酸エステルを形成する。適切に酸触媒されるまたは塩基KOHを用いるなど塩基触媒されるこのプロセスは、油の脂肪酸成分をそれらのグリセロールバックボーンから分離することによって油中に含まれるトリグリセリドを脂肪酸エステル及び遊離グリセリンに変換する。
【0036】
本発明では、FAAEはいずれかのアルキル化脂肪酸または脂肪酸の混合物でよい。その脂肪酸成分は、好ましくは生物源由来、より好ましくは植物源由来である。それらは飽和または不飽和でよく、後者の場合、1つ以上の二重結合を有してよい。それらは分岐または非分岐でよい。酸基−COHに加えて、それらは適切には10〜30個、より適切には10〜22個または12〜22個の炭素原子を有する。FAAEは典型的には、その供給源に応じて、鎖長が異なる、異なる脂肪酸エステルの混合物を含む。例えば、市販の菜種油は、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸(それぞれ1つ、2つ、及び3つの不飽和炭素−炭素結合を有するC18)、ならびに場合によってはエルカ酸(C22)の混合物を含み、これらのうちオレイン酸及びリノレン酸が大部分を形成する。大豆油は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸の混合物を含む。パーム油は通常、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸成分の混合物を含む。
【0037】
本発明で使用するFAAEは、好ましくは天然油脂由来、例えば、菜種油、大豆油、ココナツ油、ヒマワリ油、パーム油、ピーナッツ油、亜麻仁油、椿油、ベニバナ油、ババス油などの植物油、獣油、または米糠油である。特にそれは、菜種、大豆、ココナツ、またはパーム油のアルキルエステル(適切にはメチルエステル)でよい。
【0038】
FAAEは、好ましくはC〜Cアルキルエステル、より好ましくはメチル、エチル、またはプロピル(適切にはイソプロピル)エステル、さらにより好ましくはメチルまたはエチルエステル及び特にメチルエステルである。
【0039】
例えば、それは菜種メチルエステル(菜種油メチルエステルまたは菜種メチルエステルとしても既知のRME)、大豆メチルエステル(大豆メチルエステルとしても既知のSME)、パーム油メチルエステル(POME)、ココナツメチルエステル(CME)(特に未精製CME、精製した生成物は粗製のものに基づくが、より高級及びより低級アルキル鎖(典型的にはC、C、C10、C16、及びC18)成分のいくつかは除去される)ならびにそれらの混合物から成る群から選択されてよい。一般に、これは天然または合成、精製または未精製(「粗製」)でよい。
【0040】
FAAEは、組成物が置かれる使用意図を踏まえて(例えば、どの地域において、及びどの時期において)、残りの燃料組成物、及び/またはそれが加えられる基本燃料に適用する仕様に好適に従う。特に、FAAEは好ましくは101℃より高い引火点(IP 34)を有し、動粘度が40℃(IP 71)で1.9〜6.0センチストークス、好ましくは3.5〜5.0センチストークス、15℃(IP 365、EN ISO 12185、またはEN ISO 3675)で密度845〜910kg/m、好ましくは860〜900kg/m、500ppm未満の水分含量(IP386)、360℃未満のT95(IP 123により測定される、燃料の95%が蒸発する温度)、酸価(IP 139)が0.8mgKOH/g未満、好ましくは0.5mgKOH/g未満、及び燃料100g当たりのヨウ素(I)のグラムでヨウ素価(IP84)が125未満、好ましくは120未満または115未満、それは、(例えばNMRによって)好ましくは遊離メタノールの0.2%w/w未満、遊離グリセロールの0.02%w/w未満、及び96.5%w/w超エステルも含む。一般に、ディーゼル燃料として使用する脂肪酸メチルエステルに対する欧州仕様EN 14214に適合するようにすることが、FAAEに好ましいことがある。
【0041】
測定されるFAAE(ASTM D613)のセタン価は、適切には55以上、好ましくは58、または60、または65、あるいは70以上でさえある。
【0042】
2種類以上のFAAEが、それらの組み合わせ効果で得られる組成物のセタン価を標的数値Xに達するまで増加させる限り、個別にまたは予め調製されたブレンドとして基本燃料に加えられよい。この場合、2種類以上のFAAEの総量x´は、線形ブレンド規則が両方または全てのFAAEに適用される場合、標的セタン価Xを達成するために基本燃料に加える必要があるだろう同じ組み合わせのFAAEの量よりも少なくなければならない。
【0043】
FAAEは、好ましくはRMEまたはSMEを含む(すなわち、どちらかである、またはどちらかを含む)。
【0044】
FAAEは、セタン価を増加させるという要求に加えて、1つ以上の他の目的のため、例えば、ライフサイクル効果ガスの排出を低減させる、潤滑性を向上させる、及び/または経費を低減させるために燃料組成物に加えられてよい。
【0045】
本明細書の潤滑油組成物は、典型的には、1つ以上のVerkade塩基化合物に加えて、基油及び1つ以上の性能添加剤を含む。
【0046】
本明細書の潤滑油組成物において使用される基油に関する特定の制限は存在せず、様々な従来の鉱油、合成油と同様に植物油などの天然由来のエステルが好都合に使用されてよい。
【0047】
本発明において使用される基油は、1種類以上の鉱油及び/または1種類以上の合成油の混合物を好都合に含んでよく、したがって本明細書の用語「基油」は、2種類以上の基油を含むブレンドを指してよい。
【0048】
本発明の潤滑油組成物において使用する適切な基油は、グループI〜IIIの鉱物系基油(好ましくはグループIII)、グループIVのポリαオレフィン(PAO)、グループII〜IIIのフィッシャー・トロプシュ由来基油(好ましくはグループIII)、グループVの基油、及びそれらの混合物である。
【0049】
本発明における「グループI」、「グループII」、「グループIII」、及び「グループIV」、及び「グループV」の基油とは、米国石油協会(API)の定義による分類I、II、III、IV、及びVの潤滑油基油のことである。これらのAPIの分類は、API Publication 1509、15版、付録E、2002年4月において定義されている。
【0050】
鉱油には、流動石油、及びパラフィン系、ナフタリン系、またはパラフィン系/ナフタリン系混合タイプの溶媒処理または酸処理された鉱油系潤滑油が挙げられ、これらはさらに水素化仕上げプロセス及び/または脱ロウによって精製されてよい。
【0051】
本明細書の潤滑油組成物において使用する好ましい基油は、フィッシャー・トロプシュ由来基油である。フィッシャー・トロプシュ由来基油は、当技術分野において既知である。用語「フィッシャー・トロプシュ由来」は、基油がフィッシャー・トロプシュ法の合成生成物であるか、または由来のものであることを意味する。フィッシャー・トロプシュ由来基油は、GTL(ガス・トゥー・リキッド)基油と称されてもよい。本発明の潤滑油組成物において基油として好都合に使用されてよい適切なフィッシャー・トロプシュ由来基油は、例えば、EP0 776 959、EP0 668 342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1 029 029、WO01/18156、及びWO01/57166に開示されているようなものである。
【0052】
典型的には、ASTM D 4629によって適切に決定されるフィッシャー・トロプシュ由来基油の芳香族含有量は、典型的には1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、及びより好ましくは0.1重量%未満となるだろう。適切には、基油は少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%、及び最も好ましくは少なくとも99重量%の総パラフィン含有量を有する。適切には、(IP−368によって測定される)それは98重量%超の飽和成分含有量を有する。好ましくは、基油の飽和成分含有量は99重量%超、より好ましくは99.5重量%超である。それはさらに好ましくは、0.5重量%のn−パラフィン最大含有量を有する。基油は、好ましくは、0〜20重量%未満、より好ましくは0.5〜10重量%のナフテン系化合物の含有量も有する。
【0053】
典型的には、本明細書の潤滑油組成物に存在する場合、(ASTM D 7042により測定される)フィッシャー・トロプシュ由来基油または基油ブレンドは1〜30mm/s(cSt)、好ましくは1〜25mm/s(cSt)、及びより好ましくは2mm/s〜12mm/sの範囲の100℃での動粘性率を有する。好ましくは、(ASTM D 7042により測定される)フィッシャー・トロプシュ由来基油は、少なくとも2.5mm/s、より好ましくは少なくとも3.0mm/sの100℃での動粘性率を有する。本発明の一実施形態では、フィッシャー・トロプシュ由来基油は、最大で5.0mm/s、好ましくは最大で4.5mm/s、より好ましくは最大で4.2mm/s(例えば「GTL4」)の100℃での動粘性率を有する。本発明の別の実施形態では、フィッシャー・トロプシュ由来基油は、最大で8.5mm/s、好ましくは最大で8mm/s(例えば「GTL8」)の100℃での動粘性率を有する。
【0054】
さらに、本明細書の潤滑油組成物に存在する場合、(ASTM D 7042により測定される)フィッシャー・トロプシュ由来基油は、典型的には10〜100mm/s(cSt)、好ましくは15〜50mm/sの40℃での動粘性率を有する。
【0055】
また、本明細書で使用する(ASTM D 5950により測定される)好ましいフィッシャー・トロプシュ由来基油は、−30℃未満、より好ましくは−40℃未満、及び最も好ましくは−45℃未満の流動点を有する。
【0056】
(ASTM D92により測定される)フィッシャー・トロプシュ由来基油の引火点は、好ましくは120℃超、より好ましくはさらに140℃超である。
【0057】
本明細書で使用する(ASTM D 2270による)好ましいフィッシャー・トロプシュ由来基油は、100〜200の範囲で粘度指数を有する。好ましくはフィッシャー・トロプシュ由来基油は、少なくとも125、好ましくは130の粘度指数を有する。また粘度指数は、180未満、好ましくは150未満が好ましい。
【0058】
フィッシャー・トロプシュ由来基油が2種類以上のフィッシャー・トロプシュ由来基油のブレンドを含む場合には、上記の値を2種類以上のフィッシャー・トロプシュ由来基油のブレンドに適用する。
【0059】
本明細書の潤滑油組成物は、好ましくは80重量%以上のフィッシャー・トロプシュ由来基油を含む。
【0060】
合成油には、(ポリアルファオレフィン基油、PAOを含む)オレフィンオリゴマー、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルナフタレン、及び脱ロウしたロウ状イソメレートなどの炭化水素油が挙げられる。「Shell XHVI」(商標)の名称下でShell Groupから販売されている、合成炭化水素基油を好都合に使用してよい。
【0061】
ポリ−αオレフィン基油(PAO)及びそれらの製造は、当該技術分野で周知である。本発明の潤滑油組成物において使用されてよい好ましいポリ−αオレフィン基油は、線状C〜C32、好ましくはC〜C16のαオレフィン由来でよい。特に、前記ポリ−αオレフィンの好ましい原料は、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、及び1−テトラデセンである。
【0062】
PAOの製造コストが高いことを考えると、PAO基油と比較してフィッシャー・トロプシュ由来基油を使用する有力な選択が行われる。したがって、できれば、基油は50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、さらにより好ましくは80重量%超、最も好ましくは90重量%超のフィッシャー・トロプシュ由来基油を含む。特に好ましい実施形態では、基油の5重量%以下、好ましくは2重量%以下は、フィッシャー・トロプシュ由来基油ではない。基油の100重量%は、1種類以上のフィッシャー・トロプシュ由来基油に基づくことがさらにより望ましい。
【0063】
本発明の潤滑油組成物に組み込まれる基油の総量は、潤滑油組成物の総重量に対して、好ましくは60〜99重量%の範囲、より好ましくは65〜90重量%の範囲、及び最も好ましくは70〜85重量%の範囲である。
【0064】
典型的には、本発明により使用される(ASTM D445による)基油(または基油ブレンド)は、2.5cSt超及び最大で8cStの100℃での動粘性率を有する。本発明の望ましい実施形態によれば、(ASTM D445による)基油は3.5〜8cSt間の100℃での動粘性率を有する。基油が2種類以上の基油のブレンドを含む場合には、ブレンドが3.5〜7.5cSt間の100℃での動粘性率を有することが好ましい。
【0065】
(ASTM D 5800による)本明細書の潤滑組成物は、好ましくは15重量%未満のノアク揮発度を有する。典型的には、(ASTM D 5800による)組成物のノアク揮発度は1重量%と15重量%との間、好ましくは14.6重量%未満、及びより好ましくは14.0重量%未満である。
【0066】
本発明の潤滑油組成物は、以下の式(1)を有する1つ以上のVerkade塩基を含み、
【化5】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C12アルキル基から選択される。適切なR、R、及びR基の例は、水素、CH、CHCH、i−C、CHC(CH、i−C、及びCH−p−COCHである。
【0068】
本発明の別の好ましい実施形態では、R、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C12アルキル基から選択される。好ましくは、R、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和分岐鎖C−C12アルキル基から選択される。より好ましくは、R、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和分岐鎖C−Cアルキル基から選択される。特定の好ましい実施形態では、R、R、及びRは、飽和分岐鎖CまたはCアルキル基である。
【0069】
本発明の一実施形態では、R、R、及びRは同じである。
【0070】
本明細書で使用する適切なVerkade塩基の例には、2,8.9−トリイソブチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、2,8,9−トリイソプロピル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、及び2,8,9−トリメチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。これらの化合物は全て、Sigma−Aldrichから市販されている。Verkade塩基の他の例は、2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、2,8−ビス(2−メチルプロピル)、2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、2−(2,2−ジメチルプロピル)−8−(2−メチルプロピル)−9−(フェニルメチル)−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカンである。
【0071】
本明細書で使用する特に好ましいVerkade塩基は、2,8,9−トリイソブチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカンである。
【0072】
式(1)のVerkade塩基は、潤滑油組成物全体の重量によって、好ましくは0.01重量%〜5重量%、より好ましくは0.1重量%〜3重量%、及びさらにより好ましくは0.1重量%〜1重量%の範囲の量で存在する。
【0073】
本明細書の潤滑油組成物は、式(1)のVerkade塩基に加えて、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、分散剤、清浄剤、過塩基化清浄剤、極圧添加剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不動態化剤、腐食防止剤、解乳化剤、消泡剤、シール適合剤、及び添加剤希釈基油等などの、1つ以上の性能添加剤をさらに含む。
【0074】
当業者であれば上記及び他の添加剤に精通しているので、さらなる詳細をここでは考察しない。そうした添加剤の具体例は、例えば、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、3版、14巻、477〜526ページに記載されている。
【0075】
本発明の潤滑油組成物において好都合に使用されてよい従来の酸化防止剤には、例えばWO2007/045629及びEP 1 058 720B1に開示されるように、(Ciba Specialty Chemicalsから入手可能な「IRGANOX L−57」などの)ジフェニルアミン、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。WO2007/045629及びEP 1 058 720 B1の教示は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0076】
好都合に使用されてよい耐摩耗添加剤には、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、ジアリールジチオホスフェート、及び/またはアルキルアリールジチオホスフェートから選択される亜鉛ジチオホスフェート化合物などの亜鉛含有化合物、モリブデン含有化合物、ホウ素含有化合物、及び置換チオリン酸または非置換チオリン酸などの無灰耐摩耗添加剤、ならびにそれらの塩が挙げられる。
【0077】
そうしたモリブデン含有化合物の例には、ジチオカルバミド酸モリブデン、例えばWO98/26030に記載される三核モリブデン化合物、モリブデンの硫化物、及びジチオリン酸モリブデンを好都合に挙げてよい。
【0078】
好都合に使用されてよいホウ素含有化合物には、ホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪族アミン、ホウ酸化エポキシド、アルカリ金属(または混合アルカリ金属またはアルカリ土類金属)ホウ酸塩、及びホウ酸化過塩化基金属塩が挙げられる。
【0079】
使用される分散剤は、好ましくは無灰分散剤である。適切な無灰分散剤は、ポリブチレンスクシンイミドポリアミン及びマンニッヒ塩基型分散剤である。
【0080】
使用される清浄剤は、好ましくは過塩基化清浄剤、または例えばサリチル酸、スルホン酸、及び/またはフェネート型清浄剤を含む清浄剤混合物である。
【0081】
本発明の潤滑油組成物において好都合に使用されてよい粘度指数向上剤の例には、スチレン−ブタジエン星状コポリマー、スチレン−イソプレン星状コポリマー、ならびに結晶性及び非結晶性型の(オレフィンコポリマーとしても既知の)ポリメタクリレートコポリマー及びエチレン−プロピレンコポリマーが挙げられる。分散剤粘度指数向上剤は、本発明の潤滑油組成物において使用されてよい。しかし、できれば本発明による組成物は、組成物の総重量に基づき1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満の粘度指数向上剤濃縮物(すなわち、VI向上剤プラス「担体油」または「希釈剤」)を含む。最も好ましくは、組成物は粘度指数向上剤濃縮物を含まない。以後使用される(表2などの)用語「粘度改質剤」は、上記の用語「粘度指数向上剤濃縮物」と同じはずである。
【0082】
好ましくは、組成物は少なくとも流動点降下剤の0.1重量%を含む。一例として、アルキル化ナフタリン及びフェノール性ポリマー、ポリメタクリレート、マレイン酸/フマル酸コポリマーエステルが、効果的な流動点降下剤として好都合に使用されてよい。好ましくは、流動点降下剤の0.3重量%以下が使用される。
【0083】
さらに、アルケニルコハク酸またはそのエステル部分、ベンゾトリアゾール系化合物、及びチオジアゾール系化合物などの化合物が、腐食防止剤として本明細書の潤滑油組成物において好都合に使用されてよい。
【0084】
ポリシロキサン、ジメチルポリシクロヘキサン、及びポリアクリレートなどの化合物が、消泡剤として本明細書の潤滑油組成物において好都合に使用されてよい。
【0085】
本明細書の潤滑油組成物においてシール固定剤またはシール適合剤として好都合に使用されてよい化合物としては、例えば、市販の芳香族エステルが挙げられる。
【0086】
本明細書の潤滑油組成物は、式(1)のVerkade塩基と、基油及び1つ以上の付加的な性能添加剤とを混合することによって好都合に調製されてよい。
【0087】
上記の性能添加剤は、潤滑油組成物の総重量に基づき典型的には0.01〜35.0重量%の範囲の量、潤滑油組成物の総重量に基づき好ましくは0.05〜25.0重量%。より好ましくは1.0〜20.0重量%の範囲の量で存在する。
【0088】
好ましくは、化合物は、耐摩耗添加剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、及び消泡剤を含む添加剤パッケージの少なくとも8.0重量%、好ましくは少なくとも10.0重量%、より好ましくは少なくとも11.0重量%を含む。
【0089】
本明細書の潤滑油組成物は、いわゆる「低SAPS」(SAPS=硫酸塩灰分、リン、及び硫黄)、「中SAPS」、または「標準SAPS」配合物でよい。
【0090】
乗用車用モーター油(PCMO)用エンジン油の上記範囲の平均:
(ASTM D 874による)それぞれの硫酸塩灰分含有量は、最大で0.5重量%、最大で0.8重量%、及び最大で1.5重量%、
(ASTM D 5185による)それぞれのリン含有量は、最大で0.05重量%、最大で0.08重量%、及び典型的には最大で0.1重量%、
(ASTM D 5185による)それぞれの硫黄含有量は、最大で0.2重量%、最大で0.3重量%、及び典型的には最大で0.5重量%。
【0091】
高負荷用ディーゼルエンジン油の上記範囲の平均:
(ASTM D 874による)それぞれの硫酸塩灰分含有量は、最大で1重量%、最大で1重量%、及び最大で2重量%、
(ASTM D 5185による)それぞれのリン含有量は、最大で0.08重量%(低SAPS)、及び最大で0.12重量%(中SAPS)、
(ASTM D 5185による)それぞれの硫黄含有量は、最大で0.3重量%(低SAPS)及び最大で0.4重量%(中SAPS)。
【0092】
以下の実施例を用いて本発明を以下に説明するが、決して本発明の範囲を制限することを目的とするものではない。
実施例
【0093】
(ASTM D5481により測定される)比較例1(油A)は、150℃で3.5のHTHS(高温高せん断)、及び(サリチル酸清浄剤、分散剤、亜鉛系耐摩耗剤、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の混合物、ならびに腐食防止剤を含む)添加剤の16重量%、重合体粘度改質剤を最大で10重量%、及びグループIII基油のブレンド残部、を有する市販の5W−30高負荷ディーゼルエンジン油であった。
【0094】
比較例2(油B)は、95重量%油A+5重量%B7 FAMEのブレンドであった。
【0095】
比較例3(油C)は、90重量%油A+10重量%B100 FAMEのブレンドであった。
【0096】
実施例1は、99.5重量%比較例1(油A)とVerkade塩基(Sigma−Aldrichから市販されている2,8,9−トリイソブチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン)の0.5重量%とのブレンドであった。実施例1は、従来の潤滑化ブレンディング方法を使用して、比較例1と前記Verkade塩基とを混合することによって得られた。
【0097】
実施例2は、99.5重量%比較例2(油B)とVerkade塩基(Sigma−Aldrichから市販されている2,8,9−トリイソブチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン)の0.5重量%とのブレンドであった。実施例2は、従来の潤滑化ブレンディング方法を使用して、比較例2と前記Verkade塩基とを混合することによって得られた。
【0098】
実施例3は、99.5重量%比較例3(油C)とVerkade塩基(Sigma−Aldrichから市販されている2,8,9−トリイソブチル−2,5,8,9−テトラアザ−1−ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン)の0.5重量%とのブレンドであった。実施例3は、従来の潤滑化ブレンディング方法を使用して、比較例3と前記Verkade塩基とを混合することによって得られた。
【0099】
実施例及び比較例の酸化安定性を測定するために、各潤滑油組成物を以下の酸化試験に供した。
酸化試験
【0100】
この試験では、クランク室の潤滑油の酸化を、金属触媒なしで加熱した油試料中に空気をバブリングすることによってシミュレーションする。300gの油試料を、ガラス酸化セル中に量り分ける。熱源をオンにし、加熱ブロック装置を望ましい温度(155℃)にさせる。セルを加熱装置に置き、空気バブラーを接続する。ガス流をオンにし、空気を望ましいレベル(各チューブ200cc/分)に調整する。試験の持続期間(3〜7日)の間、一定の加熱及びガス流を維持する。必要な試験のために、試料が定期的に(典型的には24時間ごとに)取り出される。各試料は、総酸価(TAN)を測定するための標準試験方法であるASTM D−664に供される。加えて、各試料は、総塩基価(TBN)を測定するASTM D−2896及びASTM D−4739に供される。これらの試験結果を表1に提示する。
【表1】
【0101】
考察
試験期間(試験開始から4日目まで)にわたり、比較例1の潤滑組成物を5%B7 FAME(油B)で希釈することによって、(ASTM D−2896及びASTM D−4739の両方で)TBNにおいて減少が見られることが表1の結果から理解され得る。試験期間にわたり、比較例1の潤滑組成物を10%B100 FAME(油C)で希釈することに続いてすぐに、(ASTM D−2896及びASTM D−4739の両方で)TBNにおいてさらなる減少がある。また、4日目の試験の終わりで、油B及び油CのTANは、油AのTANよりもはるかにより高い。試験の終わりでのTBNの減少及びTANの増加は、油B及び油C両方での酸形成増加を示す。
【0102】
表1の結果は、潤滑組成物(実施例1、2、及び3)において、0.5重量%の処理率でVerkade塩基の追加により、試験開始時にTBNにおいて(ASTM D−2896及びASTM D−4739の両方によって)増加をもたらすことも示す。
【0103】
実施例1は、試験期間(試験開始から4日目)にわたり、0.5重量%の処理率でVerkade塩基の使用により、比較例1において潤滑組成物のTBN維持を9〜14%増加させることを示す。加えて、試験開始から4日目に、Verkade塩基の0.5重量%を追加した実施例1においてTANの著しい減少(>10%)が見られ、酸形成の減少、及びそれによる腐食性の低減を示している。
【0104】
実施例2は、5重量%B7 FAMEの存在下においてでさえ、0.5重量%の処理率でVerkade塩基の使用により、比較例2における潤滑組成物(試験開始から3日目)のTBN維持を>7%増加させることを示す。再度、試験開始から3日目に、Verkade塩基の0.5重量%を追加した実施例2においてTANの減少(>18%)が見られる。4日目に、TBN及びTANが維持され、比較例2に類似する。
【0105】
実施例3は、10重量%B100 FAMEの存在下、0.5重量%の処理率でVerkade塩基の使用によりTBNの維持を>9%増加させ、試験開始時にTANは>60%減少することを示す。試験期間を通じて、実施例3のTBNが比較例3に類似する一方で、実施例3のTANは依然として>8%低減する。これは、低TAN及びそれによる腐食性の増加につながる低酸形成を維持する一方で、実施例3における潤滑油組成物のTBN維持能力を示す。理論により制限されることを望まないが、TBN維持における目に見える増加の欠如は、Verkade塩基をより高い処理率で使用することで溶解性抑制に起因すると考えられるが、当業者は、このことが例えば、潤滑組成物を製造する際に使用される温度を調整することによって解決可能であることを理解するだろう。
出願時の特許請求の範囲の内容を以下に記載する。
[1]
(i)基油、及び(ii)式(1)を有する化合物を含む潤滑組成物であって、
【化6】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される、潤滑組成物。
[2]
、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C12アルキル基から選択される、前記1に記載の潤滑組成物。
[3]
、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和または不飽和の分岐鎖C−C12アルキル基から選択される、前記1または2に記載の潤滑組成物。
[4]
、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和分岐鎖C−C12アルキル基から選択される、前記1〜3のいずれかに記載の潤滑組成物。
[5]
、R、及びRは、それぞれ独立に、飽和分岐鎖C−Cアルキル基から選択される、前記1〜4のいずれかに記載の潤滑組成物。
[6]
、R、及びRが同じである、前記1〜5のいずれかに記載の潤滑組成物。
[7]
、R、及びRは、飽和分岐鎖CまたはCアルキル基である、前記6に記載の潤滑組成物。
[8]
前記式(1)の化合物が、前記潤滑組成物の重量によって0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%、より好ましくは0.1〜1重量%のレベルで存在する、前記1〜7のいずれかに記載の潤滑組成物。
[9]
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも0.3重量%のバイオ燃料若しくはその分解生成物、またはその混合物で汚染される、前記1〜8のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[10]
前記基油がフィッシャー・トロプシュ由来基油を含む、前記1〜9のいずれかに記載の潤滑組成物。
[11]
性能添加剤を付加的に含む、前記1〜10のいずれかに記載の潤滑組成物。
[12]
前記潤滑組成物が高負荷ディーゼルエンジン油である、前記1〜11のいずれかに記載の潤滑組成物。
[13]
式(1)を有する化合物であって、
【化7】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される、化合物の、特にバイオ燃料の存在下において、塩基価維持の改善を提供するための基油を含む潤滑組成物における使用。
[14]
潤滑油組成物、特にバイオ燃料組成物を燃料とする内燃エンジンのクランク室を潤滑化するために使用される潤滑油組成物の塩基価維持を改善させるための方法であって、好ましくは、前記バイオ燃料組成物が脂肪酸アルキルエステルを含むバイオディーゼル組成物であり、前記方法が前記潤滑油組成物に式(1)の化合物を加えることを含み、
【化8】
式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、及び飽和または不飽和の直鎖または分岐C−C22アルキル基から選択される、方法。