(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記隣接する2つのウェルを一組として、該組を複数配列した請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマルチウェル形器具を用い、スクリーニングを行う、請求項8に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたもので、従来のマイクロタイタープレートにおける使用方法を拡張可能としたマルチウェル形器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のマルチウェル形器具は、複数のウェルと、前記複数のウェルのうち少なくとも1つのウェルと該ウェルと隣接するウェルとの間に配置されたフィルターと、を備えて構成したものである。
【0007】
本発明によれば、複数のウェル、及び、使用目的に合わせて配置されたフィルターを備えたマルチウェル形器具を提供することによって、従来のマイクロタイタープレートの使用方法を拡張することが可能となる。
【0008】
本発明のマルチウェル形器具は、細胞、臓器、微生物等の任意の生物材料を培養等するために用いることが可能である。生物材料の種類は特に限定されない。
【0009】
好ましくは、前記フィルターは、所定の物質を透過させないフィルターである。例えば前記所定の物質は、細胞等の培養される生物材料であり、フィルターを透過できないため、隣のウェルに移動することはできない。その一方、前記フィルターは、前記生物材料から分泌された特定の物質を透過させることが望ましい。
【0010】
即ち、フィルターは、培養される生物材料を透過しない一方、生物材料から分泌された特定の物質のみを通過させることが望ましい。フィルターがこの性質を有することにより、生物材料がウェルに留まっている状態で、隣接するウェルにフィルターを介して生物材料から分泌された物質のみを移動させることが可能となる。そして、隣接するウェルの細胞等の生物材料同士を接触させることなく、それらから分泌される物質の性質(例えば、隣のウェルに存在する他の細胞に与える影響等)を観察することが可能となる。
【0011】
フィルターの孔径は、培養する生体試料、目的とする生物材料から分泌される特定の物質の種類によって適宜選択可能である。
【0012】
例えば、通り抜けないようにするためには,培養する生体試料が細胞の場合、フィルターの孔径は好ましくは1.2μm以下、より好ましくは0.6μm以下である。例えば、ヒト膵癌培養細胞の場合、1.2μm以下である。
【0013】
例えば、培養する生体試料が臓器の場合、フィルターの孔径は好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。例えば、血液細胞(赤血球)の場合、5μm以下である。
【0014】
例えば、培養する生体試料が微生物の場合、フィルターの孔径は好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.01μm以下である。例えば、酵母細胞の場合、0.1μm以下である。バクテリア(0.2〜30μm)に対しては、30μm以下の孔径のフィルター、花粉(10〜100μm)に対しては、100μm以下の孔径のフィルター、ポリオウィルス(2.37μm)に対しては、3μm以下の孔径のフィルターを各々好適に用いることができる。
【0015】
「生物材料から分泌される物質」は、例えば、サイトカイン、エクソソーム,蛋白質、等である。生物試料から分泌される物質が、例えば、サイトカインの場合、フィルターの孔径は好ましくは100μm以下、エクソソームは,0.03μm以下である。蛋白質の場合は,0.1μm以下で,さらに蛋白質の物質サイズに応じた孔径のフィルターを使用する。
【0016】
さらなる例として、無機塩、グルコース、ビタミンB12、インスリン、アプロチニン、デキストラン、サイトクロム、ミオグロビン、ヘモグロビン、牛血清アルブミンの場合、0.01μm以下の孔径のフィルターを好適に用いることができる。IgG(0.018μm)に対しては0.02μm以下の孔径のフィルター、IgM(0.065μm)に対しては0.07μm以下の孔径のフィルター、パイロジェン(0.003〜0.2μm)に対しては0.2μm以下の孔径のフィルター、ウィルス(0.005〜0.1μm)に対しては0.1μm以下の孔径のフィルター、カーボンブラック(0.01〜0.1μm)に対しては0.1μm以下の孔径のフィルター、顔料(0.01〜1μm)に対しては1μm以下の孔径のフィルターを各々好適に用いることができる。 市販されているフィルターを使用することも可能である。
【0017】
一方,物質が通り抜けるようにするためには,前述の孔径より大きいサイズの孔径フィルターを用いる。これらを使い分けることによって,物質通過の有無による観察事象の変化を見る事ができる。なお、生物材料及び物質と、これらに使用するフィルターの孔径との組み合わせは、一例であって、本発明は、上記に開示された組み合わせに限定されるものではなく、各種条件や対象サイズの変動に応じて任意に変更し得るものである。
【0018】
一態様として、半透過膜をフィルターとして使用することも可能である。例えば、特定の物質を吸着する膜、あるいは、逆に、特定の物質が吸着しない膜が使用可能である。
【0019】
様々な使用目的に対応するため、前記複数のウェルの少なくとも幾つかは、複数のグループに分類されており、同じグループ内のウェルが相互に連通するように、同じグループ内で隣接するウェルの間にフィルターを配置するようにしてもよい。また、1つのグループのウェルと該ウェルと隣接する他のグループのウェルとの間にフィルターを設けないことによって、本発明を様々な使用目的に供することが可能となる。
【0020】
例えば、前記複数のウェルの各々は、上部開口部と、底面と、前記上部開口部と前記底面との間に形成された内壁部とを備える。好ましくは、前記底面の面積は、前記上部開口部の面積よりも小さい。また、前記内壁部は、上側区分と、下側区分とを少なくとも備え、前記下側区分は、前記上側区分より前記底面に近く、前記下側区分の横断面積は、前記上側区分の横断面積よりも小さい。
【0021】
また、前記内壁部の前記上側区分と隣接するウェルの内壁部の上側区分との間で延在する貫通孔を備え、該貫通孔に前記フィルターが配置されていてもよい。
【0022】
例えば、前記内壁部の前記上側区分は矩形であり、前記下側区分は、円筒形である。また、前記底面は、例えば透明又は暗色の円形領域であるのが好ましい。
【0023】
好ましい態様では、前記複数のウェルは、2以上の行及び2以上の列を構成するように配列されている。
【0024】
さらに、本発明のマルチウェル形器具は、一体に形成されたボディを備え、前記複数のウェルは、前記ボディの凹部である。前記ボディは、透明であってもよく、また、平板状であってもよい。
【0025】
本発明のマルチウェル形器具の別の態様では、前記ボディは、少なくとも1つの培養皿を備え、前記フィルターは、前記培養皿の内部を少なくとも2つの前記ウェルに仕切るように該培養皿の内部に配置されている。好ましくは、前記フィルターは、フィルター枠に収められている。当該別の態様において、前記培養皿は複数備えられており、前記ボディは、複数の前記培養皿が配列される容器を更に備えていてもよい。
【0026】
本発明の一態様に係る方法は、上記マルチウェル形器具を用いて生物材料のスクリーニングを行うものである。
【0027】
本発明の別の態様に係る方法は、上記マルチウェル形器具を用いて生物材料から分泌された物質のスクリーニングを行うものである。
【0028】
本発明のさらに別の態様に係る方法は、上記マルチウェル形器具において、隣接する2つのウェルのうち一方に生物材料を配置し、前記2つのウェルの間に前記生物材料から分泌された第1の物質を透過させるフィルターを配置し、前記2つのウェルのうち他方に前記第1の物質と化学的に結合する第2の物質を配置する、各工程を備えて構成したものである。本態様においては、前記隣接する2つのウェルを一組として、該組を複数配列した上記マルチウェル形器具を用い、スクリーニングを行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の各実施形態を説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
図1乃至
図5には、本発明の第1の実施形態に係るマルチウェル形器具1が示されており、先ず、これらの図面を用いてマルチウェル形器具1の構成を説明する。
【0032】
図1の平面図に示すように、マルチウェル形器具1は、平板状のボディ2に複数のウェル3が形成されて構成されたものである。各々のウェルと隣接するウェルとの間には、ウェルをそれぞれ分離するため境界部4が形成されている。
図2の底面図に示すように、マルチウェル形器具1は、各ウェルの底部に、円形の底面10が形成されている。
【0033】
ボディ2は、プラスチック、ガラス等から作られていてもよいが、当該材料に限定されるものではない。また、ボディ2は、無色若しくは有色の透明材料から作られてもよいが、不透明材料から作ることも可能である。さらに、ボディ2は、全ての境界部4と共に一体成形で作ることもできる。勿論、ボディ2は、幾つかの構成部品を組み合わせて作ることもできる。さらに、境界部4も無色若しくは有色の透明材料、或いは有色の不透明材料から作ることも可能である。
【0034】
図面に示す例では、ウェル3が2行8列に形成されている。ここでi行j列目のウェル3をWijと表すことにする(i=1〜2, j=1〜8)。
【0035】
図3には、同じ列内に隣接する2つのウェルW1j、W2jの斜視図が示されている。また、
図4には、
図1のA−A線に沿って取られたマルチウェル形器具1の断面図が示されている。なお、
図1のA−A線は、ウェルW11、W21を通っているが、他の隣接する2つのウェルの組み合わせ(W1j、W2j)においても、断面形状は同様である。
【0036】
図3に示すように、同じ列内で隣接する2つのウェルW1j、W2jの境界部4には、フィルター6が設けられている。ここで
図4を更に参照すると、ウェル3は、上部開口部5と、底面10と、上部開口部5と底面10との間に形成された内壁部(7,8)とを備えている。内壁部は、上部開口部5側に設けられた矩形状の上側区分7と、底面10側に設けられた円筒形状の下側区分8とを備えており、下側区分8の横断面積は上側区分7の横断面積よりも小さく形成されている。なお、フィルター6の種類やフィルターの有無を識別するため、境界部4の色を各々異なる色にしたりボディ2の他の部分とは異なる色にすることも可能である。
【0037】
図4に示されるように、ウェルW1jとW2jとの間の境界部4に、ウェルW1jの上側区分7とウェルW2jの上側区分7とを連通する貫通孔9が形成され、該貫通孔9にフィルター6が取り付けられている。このフィルター6として、例えば細胞等の所定サイズ以上の対象物は透過させず、液体や細胞の分泌物を透過させるフィルターを選択することができる。
【0038】
光学顕微鏡等を用いてウェル内の試料を観察する場合、底面10を透明にするのが好ましい。この場合、この透明な底面から光を照射することによって、ウェル内の試料を観察することが容易となる。これに対してウェル内の蛍光を観察する場合には、底面10を暗色(黒色)にすることによって、観察しやすくすることが可能となる。
【0039】
例えば、最初にウェル3の底面を開口部として形成し、マルチウェル形器具1の底面全体に亘って、ガラス等の透明プレート11を接着させることによって、ウェル3の底面10を透明にすることができる。下側区分8が円筒形状の場合、ウェル3の底面10も、
図2に示すように、円形となる。勿論、透明プレート11をボディ2と一体に成形してもよい。この場合、底面10の透明度を他の部分の透明度よりも高くすることもできる。
【0040】
下側区分8の横断面積を上側区分7の横断面積よりも小さくすることによって、ウェル3内で細胞培養する場合、ウェル3の上側領域で十分な容積の上清を蓄えてフィルター6を介して隣接するウェルの内部に浸透させることができる。その一方で、ウェル3の下側領域で容積が小さくなるため、全体として培養液を必要以上に増加させることを防止することが可能となる。また、底面10の面積を上部開口部5の面積よりも小さく形成することが可能となり、例えば、底面10を上部開口部5と同様の面積、形状に形成した場合と比べて、底面10に付着する検査物質が観測しやすくなるというメリットがある。すなわち、底面10を円形に形成した場合、矩形の底面と比べて四隅の部分がカットされるため、隅に蓄積された物質の影響を受けずに観測することが可能となる。
【0041】
図3及び
図4に示すウェル3の内壁部の形状以外でも、上記作用効果を奏する上で様々な他の形状が考えられる。このような他の形状として、例えば、
図5(A)に示すように、上部開口部5から底面10まで連続的に横断面積が減少していく形状が挙げられる。また、
図5(B)に示すように、ウェル3の内壁部3を、底面10に近づくほど、横断面積が離散的に減少する3つの区分から形成してもよい。勿論、3つの区分に限らず、4つ以上の区分から形成することもできることはいうまでもない。
【0042】
本発明のマルチウェル形器具は、細胞等の生物材料の培養に適している。複数のウェルを有し、特に、複数のウェルの各々と隣接するウェルとの間にフィルターを設けているため、隣接するウェル間の生物材料を直接接触させることなく、培地のみがフィルターで繋がれたウェル間で共有される。特定の物質、例えば、生物材料から分泌された特定の物質を通過させるフィルターを用いることにより、例えば、特定の物質の隣のウェル中の生物材料に対する影響を調べることが可能である。
【0043】
次に、第1の実施形態に係るマルチウェル形器具1の使用方法を具体的に説明する。
【0044】
第1の実施形態に係るマルチウェル形器具1によれば、同じ列内で隣接する2つのウェルW1j、W2j(j=1,2,...8)の境界部4にフィルター6が各々設けられている。一例として、2つのウェルW1j、W2jで各々異なる細胞C
1、C
2(図示せず)を培養し、フィルター6として細胞C
1の分泌物質X
1及び細胞C
2の分泌物質X
2を透過させるが、細胞C
1、C
2は透過させないものを用いた場合を想定する。
【0045】
各ウェルW1j、W2jでそれぞれ細胞C
1、C
2が培養されると、各細胞から分泌物質X
1、X
2が出される。細胞C
1、C
2は、フィルター6を透過できず、かつ、比較的重いため、ウェルの底部付近に分布し、その一部は底面10に蓄積する。一方、分泌物質X
1、X
2は、各ウェル内を拡散し、上清としてウェルの上部付近に至った分泌物質の一部がフィルター6を通って隣接するウェルに浸透する。すなわち、分泌物質X
1がウェルW2jに浸透し、分泌物質X
2がウェルW1jに浸透する。
【0046】
浸透した分泌物質X
1、X
2は、各隣接するウェル内で拡散し、当該隣接するウェル内の細胞C
2、C
1に至る。細胞C
2、C
1は、置かれた環境下で、異なる細胞からの分泌物質X
1、X
2に作用を及ぼされ得る。このようにして、同じ列内で隣接するウェルW1j、W2jの底面10に蓄積した各細胞を観察することによって、異なる細胞同士の相互作用を調べることが容易に可能となる。
【0047】
また、列(j=1,2,...8)毎に、細胞の種類を変えたり、培養液の種類などの条件を適宜変更することによって、細胞の種類毎、条件毎の細胞間相互作用の相違を一度に把握することが可能となる。
【0048】
上記のように、特定の性質を有する生物材料、あるいは、特定の性質を有する物質をスクリーニングすることに用いることが可能である。
【0049】
別の使用方法として、フィルター6の孔径を変え、細胞C
1の分泌物質X
1は透過させるが、細胞C
2の分泌物質X
2は透過させないようにすることも可能である。この場合、分泌物質X
1は、ウェルW2jに浸透して細胞C
2に作用を及ぼし得るが、分泌物質X
2は、ウェルW1jに浸透して細胞C
1に作用を及ぼすことができない。これによって、細胞C
1、C
2間の相互作用の原因因子を同定することが可能となる。
【0050】
どの分泌物質が細胞に影響を与えるかが不明な場合などでは、列(j=1,2,...8)毎に、フィルター6の孔径を変化させ、透過可能な分泌物質の種類を列毎に変えることによって、どの分泌物質が細胞にどのように影響を与えるかを容易に同定することができる。
【0051】
さらに別の使用方法として、隣接する2つのウェルのうち一方にのみ細胞を入れ、他方には、細胞を入れない使い方も可能である。この場合、フィルター6として、検査対象となる特定の分泌物質が透過可能なフィルターを用いる。細胞から分泌された物質は、フィルター6を透過し、隣接するウェルに移動し、隣接するウェルの底面10に付着する。底面10に付着した分泌物質を定量化することが可能となる。
【0052】
上記さらに別の使用方法の具体例として、本発明のマルチウェル形器具は、酵素結合免疫吸着法(ELISA:Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いることが可能である。ELISAは、一般に、細胞抽出液あるいは、上清などを処理した後、抗体をプレート底面に固着させたもの(いわゆるELISAプレート)に添加して、抗体と発色物質の特性を利用して定量する。本発明において、例えばフィルターで繋がれた2ウェルのうち一方にELISA機能を入れてもよい。細胞から分泌された物質がフィルターを通過してもう一方のウェルに到達し、そこでタンパク質等を定量することが可能である。
【0053】
通常抗体はプラスチックの底面10にコート(付着)しやすく、一般には、一面全体に一次抗体を付着させる。この場合、抗体と結合した測定物質は全体にぼんやり光る。測定物質の量が多ければ、結合量も多くなり、洗浄過程でも剥がれずに、結果的に強度の高いシグナルとなって測定される。本発明の一態様において、自然経過での推移を測定することを目的とし、洗浄過程を行わないこともあり得る。その場合、底面のごく一部に微小な磁石、あるいは鉄分を固定化させて、それ以外の部分は抗体が付着しにくいようする。抗体側に磁気ビーズを付着させ、それにより特定の部分のみ抗体が固着するような仕組みが可能である。なお、底面のごく一部に付着させる方法は、上記例に限定するものではなく、他の方法を用いてもよい。
【0054】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、2行8列にウェルが配列され、同じ列で隣接する2つのウェルの境界部にフィルターを設けた器具を説明した。しかし、3つ以上の異なる細胞の間の相互作用を検査する場合や、列毎に変化させる条件が8より多い場合や、逆に8より少なくて済む場合なども考えられる。
【0055】
そこで、第2の実施形態は、
図6に示すように、より一般化されたm行n列(m
>2,n
>2)にウェルが配列された器具を提供するものである。この場合、最小構成の器具は、2行2列(m=2,n=2)にウェルが配列された器具である。2行16列(m=2、n=16)、4行10列(m=4、n=10)、12行8列のウェル配列も好ましい態様である。第1の実施形態と一致する2行8列も好ましい。
【0056】
第2の実施形態では、検査目的に応じて最適な行列数でウェルが配列された器具を選択することができる。
【0057】
また、第2の実施形態では、隣接する任意のウェル間の境界部のうち、ある境界部にフィルター6が設けられた器具を提供する。例えば、2行16列のウェル配列の器具の場合、第1の実施形態と同様に、同じ列内で行が異なるウェルの間の境界部にフィルターを設ける場合は勿論のこと、同じ行で隣接する2つのウェルの間の境界部にもフィルターを設ける場合も第2の実施形態に含まれている。
【0058】
従って、第2の実施形態では、フィルターの配置に応じて、当該フィルターを介して互いに連通したウェルのグループを使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0059】
図7には、4行8列(m=4、n=8)のウェル配列の器具における、フィルター6の配置列が示されている。なお、
図7において、ウェルの参照符号を第1の実施形態と同様にWij(iは行番号、jは列番号)とする。この場合、左上隅のウェルがW11となり、右下隅のウェルがW48となる。
【0060】
図7に示す器具では、1行目に配列されたウェルW11,W12,W13,W14において隣接するウェル間にフィルター6が設けられ、グループAを構成している。また、同じ1行目に配列されたウェルW15,W16,W17,W18において隣接するウェル間にフィルター6が設けられ、グループBを構成している。グループA及びBのいずれにしても、4つのウェル間でフィルター6を透過する特定の物質が浸透し合うため、例えば各ウェルでそれぞれ異なる細胞を培養する場合、4種類の細胞間の相互作用を研究することが可能となる。
【0061】
また、グループCのように、2行目に配列された全てのウェルW21,W22,....W28において隣接するウェル間にフィルター6を設けてもよい。この場合、8種類の細胞の相互作用を研究することが可能となる。
【0062】
さらに、グループA〜Cのように同じ行(或いは列)で連続するウェルだけを連通させる対象とするのではなく、グループDのように、異なる行、異なる列間で隣接するウェル(W31,W32,W41,W42)の間の境界部の全てにフィルター6を設けてもよい。
【0063】
またさらに、2以上の行及び列にまたがるウェルを連通させる態様としては、グループEのような態様もある。すなわち、グループEは、ある行内で連続するウェルの組(W33,W34,W35)と、異なる行内で連続するウェルの組(W43,W44,W45)とを同一行内で連通させるだけでなく、ウェルW33とW43との間の境界部にもフィルターを設けたものである。これによって、計6個のウェルをフィルターを介して連通させることが可能となる。
【0064】
グループFは、同じ列内で隣接する2つのウェル(W36,W46)との間にフィルターを設けたものである。勿論、同じ列内の3以上のウェルを連通させる態様も考えられる。
【0065】
また、ウェルW37,W38,W47,W48のように、隣接するウェルとの間にフィルターを設けない独立したウェルを配置することもできる。これによって、他の細胞からの分泌物質の影響のない細胞を比較対象として用いることが可能となったり、或いは、本実施形態に係る器具に形成された一部のウェルを従来のマルチタイタープレートのように使用することも可能となる。
【0066】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、フィルター6の配置が予め定められた器具を提供していた。
【0067】
第3の実施形態では、フィルター6を脱着可能に配置することを可能にするため、
図7のマルチウェル形器具において、同じ行及び同じ列で隣接するウェルの境界部にフィルターを挿入可能なスリットを設けたものである。例えば、
図8に示すように、境界部4の各々に、スリット14、15、16を設け、これらのスリットにフィルター枠12を挿入する。
【0068】
フィルター枠12は、スリット14、15、16に挿入及び取り外し可能であり、フィルター6aとシール部13とを備える。フィルター枠12がスリット14、15、16に挿入されたとき、フィルター6aは、隣接するウェルを貫通する貫通孔9内に収まり、シール部13は、貫通孔9とフィルター枠12との間を密閉する。
【0069】
隣接するウェルの間を遮断する場合には、フィルターが設けられていない枠を、遮断したいウェル間のスリットに挿入する。また、別のスリット15、16に挿入するフィルターをフィルター6aとは異なるフィルター6b、6c(例えば孔径が異なるフィルター)とすることも可能である。
【0070】
第3の実施形態によれば、任意のウェル境界部4に、任意のフィルターを配置することが可能となったので、
図7に示すような様々な使用方法が可能なマルチウェル形器具を提供することが可能となる。
【0071】
図8の例では、隣接する2つのウェルの間にスリットを設け、フィルター枠12が1つのフィルターを備えている例を示している。第3の実施形態は、この例に限定されず、例えば、複数並んだウェル列の境界部に亘って延在する1つのスリットと、該スリットに挿入される複数のフィルターを備える1つのフィルター枠とを提供した形態も含まれている。
【0072】
また、境界部の全てではなくその一部にスリットがある形態も第3の実施形態に含まれる。
【0073】
(第4の実施形態)
上記実施形態では、フィルター6が境界部4の内部に配置された例を示したが、隣接するウェルの間にフィルターのみを配置する態様或いはフィルター及びその枠を配置する態様も本発明の範囲内にある。すなわち、境界部4の少なくとも一部がフィルター6のみ、或いはフィルター6及びその枠のみ、という形態もあり得る。さらには、ウェルとして、上述のようにボディ2に形成されたウェル以外の形態もあり得る。
【0074】
かかる形態の一例を第4の実施形態として
図10に示す。
【0075】
図10に示すように、第4の実施形態に係るマルチウェル形器具は、ベース容器20の内部に培養皿21を複数配列して構成したものである。各培養皿21に、フィルターが装填されたフィルター枠22を配置することによって培養皿21の各々には2つのウェルが形成される。この培養皿21として、通常使用されている、所謂「円形培養皿」も使用可能である。
【0076】
第4の実施形態においても様々な変形例があり、ベース容器20を用いることなく例えば1つの培養皿21を単独で用いたマルチウェル形容器も可能である。また、培養皿21のサイズや形状を様々に変更してもよく、1つのベース容器20に配列された培養皿21が円形培養皿以外の形状や、各々異なる形状やサイズを有していてもよい。
【0077】
さらに、フィルター枠22を、
図4に示す境界部4のように、フィルターがより高い位置に配置されるように形成してもよい。さらにまた、フィルター枠22が一つの培養皿21の内部を3つ以上のウェルに仕切るようにフィルター枠を形成することも可能であり、フィルター枠22全体をフィルターとして構成してもよい。
【0078】
以上が本発明の実施形態であるが、本発明は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明が意図した範囲内において任意好適に変更可能である。
【0079】
例えば、
図6等に示すm行n列のウェルの配列において、同じ行内或いは同じ列内でウェルが一直線状に並んでいるが、本発明は、このような配列に限定されるものではない。同じ行内及び同じ列内でウェルが一直線状に並んでいない形態、例えば、ウェルが一つおきに交互にずれて配置される形態も本発明の範囲内に含まれる。
【0080】
また、本発明は、ウェル3の形状に関しても明細書及び図面に開示された例に限定されるものではない。例えば、ウェルの上部開口部5及び上側区分7は矩形状として説明したが、この形状に限定されず、任意の多角柱や円筒形等、他の形態を取り得る。また、ウェルの下側区分8を円柱状のものとして説明したが、この形状に限定されず、任意の多角柱等、他の形態を取り得る。
【0081】
また、上記例では、ウェルの上側区分及び下側区分における断面形状及び断面積を異なるものにしたが、本発明は、これに限定されず、上側区分及び下側区分の断面形状及び断面積を同じにしてもよい。例えば、
図9に示すように、ウェルの断面が全て半円形状であってもよい。勿論、断面が、円、楕円等の閉曲線で囲まれた形状、任意の多角形形状など任意好適にウェルを構成してもよい。さらに、断面形状が同じで断面積が上下で異なっていたり、断面積が同じで断面形状が上下で異なっている場合も、本発明の範囲内に含まれている。
【0082】
また、
図10に示す第4の実施形態において、培養皿21の各々を別々に形成するのではなく、
図2に示す実施形態のように、ボディに形成された孔として形成し、当該孔の各々にフィルター枠22を配置するようにしてもよい。
【0083】
さらに、フィルター6を矩形状のものとして説明したが、この形状に限定されず、半円形、円形、三角形、多角形等、任意の形状で構成することができる。また、底面10の形状も円形に限られず、多角形等の形状も本発明の範囲に含まれている。
【0084】
さらにマルチウェル形器具1のボディ2は、平板状のものとして説明したが、ウェル3の深さを深くして柱状に形成されたボディも本発明の範囲内である。
【0085】
さらにまた、マルチウェル形器具1の使用方法に関しても開示内容に限定されるものではない。例えば第1の実施形態で述べたマルチウェル形器具1の使用方法は、第2及び第3の実施形態においても適用可能である。