特許第6698743号(P6698743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698743
(24)【登録日】2020年5月1日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】位置センサの故障判定装置
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/16 20060101AFI20200518BHJP
   F02B 37/18 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   F02B39/16 F
   F02B37/18 F
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-102129(P2018-102129)
(22)【出願日】2018年5月29日
(65)【公開番号】特開2019-206930(P2019-206930A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 知之
【審査官】 家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−178809(JP,A)
【文献】 特開2017−172476(JP,A)
【文献】 特開2009−074375(JP,A)
【文献】 特開2005−248800(JP,A)
【文献】 特開2010−133277(JP,A)
【文献】 特開2010−190063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/16 − 37/18
F02B 39/00 − 39/16
F02D 43/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンから排気される排気ガスによって駆動されるタービンと、前記タービンによって駆動されて燃焼用空気を圧縮するコンプレッサと、前記タービンの上流側から下流側へ向けて前記排気ガスの一部をバイパスさせるためのウェイストゲート流路と、電動アクチュエータによる駆動に従って前記ウェイストゲート流路を開閉するウェイストゲートバルブと、を有するターボチャージャにおける前記ウェイストゲートバルブの開度位置を検出する位置センサについて、通電故障に関する判定を行う判定部と、
前記判定部による判定結果に応じて、前記電動アクチュエータに対する通電を停止するフェイルセーフ制御を行う制御部と
を備え、
前記判定部は、
前記位置センサにおいて前記通電故障が有ることが確定する前段階の予備的判定として、以下の条件(A),(B)がそれぞれ成立するのか否かを判定すると共に、
前記予備的判定において前記条件(A),(B)の双方が成立すると判定された場合には、前記位置センサにおいて前記通電故障の蓋然性が有ると判定し、
前記制御部は、
前記判定部によって、前記通電故障の蓋然性が有るとの判定結果が得られた場合には、
前記位置センサにおいて前記通電故障が有ることが確定する前に、前記フェイルセーフ制御を実行する
位置センサの故障判定装置。
(A)前記位置センサからの出力位置が、前記電動アクチュエータの最大速度を超える速度で変位していること
(B)前記位置センサからの出力位置をPo、前記位置センサの短絡状態位置をPs、前記位置センサの断線状態位置をPd、所定のマージン量をΔP1とした場合に、(Po>(Ps+ΔP1))または(Po<(Pd−ΔP1))が成立すること
【請求項2】
前記判定部は、前記フェイルセーフ制御が実行された後に、前記通電故障の蓋然性に関する所定の条件が成立するのか否かを更に判定し、
前記判定部によって、前記所定の条件が成立して前記通電故障の蓋然性が無くなったと判定された場合には、
前記制御部が、前記フェイルセーフ制御の実行を停止すると共に、前記判定部が、前記予備的判定を再開する
請求項1に記載の位置センサの故障判定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記フェイルセーフ制御を実行する直前における前記位置センサからの出力位置を、直前出力位置として保持しておき、
前記判定部は、
前記位置センサにおいて前記通電故障が有ることが確定する前に、
前記所定の条件が成立するのか否かとして、前記直前出力位置をPofs、所定のオーバーシュート量をΔP2とした場合において、((Pofs−ΔP2)<Po<(Pofs+ΔP2))という条件式が成立するのか否かを、判定する
請求項2に記載の位置センサの故障判定装置。
【請求項4】
前記フェイルセーフ制御が実行された後に、前記判定部によって、前記位置センサにおいて前記通電故障が有ることが確定された場合には、
前記判定部による前記予備的判定が再開されずに、前記判定部および前記制御部による処理がそれぞれ終了となる
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の位置センサの故障判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両のターボチャージャにおけるウェイストゲートバルブの開度位置を検出する位置センサについての通電故障に関する判定を行う、位置センサの故障判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャは、自動車等のエンジンから排出される排気ガスによってタービンを駆動するとともに、このタービンに接続されたコンプレッサによってエンジンの燃焼用空気(新気)を圧縮する、過給機である。このターボチャージャには、タービンの上流側から下流側へ向けて排気ガスの一部をバイパスさせるためのウェイストゲート流路や、このウェイストゲート流路を開閉するウェイストゲートバルブ(WGV:wastegate valve)等が設けられる。
【0003】
また、このウェイストゲートバルブの開度位置を検出するため、位置センサ(ストロークセンサ)が使用される。例えば特許文献1には、このような位置センサにおける通電故障を判定(診断)する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−166443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような位置センサの通電故障判定において、通電診断に要する時間(診断時間)が、ウェイストゲートバルブの全閉状態から全開状態への移行時間、または、全開状態から全閉状態への移行時間と比べて長い場合、以下のようなおそれが生じる。すなわち、通電診断によって位置センサの故障が確定する前に、ウェイストゲートバルブが規定範囲外まで移動し、ウェイストゲートバルブを駆動するアクチュエータ(電動アクチュエータ)が、破損するおそれが生じる。そのため、位置センサの故障に伴うアクチュエータの破損を防止することが可能な、位置センサの故障判定装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施の形態に係る位置センサの故障判定装置は、車両のエンジンから排気される排気ガスによって駆動されるタービンと、このタービンによって駆動されて燃焼用空気を圧縮するコンプレッサと、タービンの上流側から下流側へ向けて排気ガスの一部をバイパスさせるためのウェイストゲート流路と、電動アクチュエータによる駆動に従ってウェイストゲート流路を開閉するウェイストゲートバルブと、を有するターボチャージャにおけるウェイストゲートバルブの開度位置を検出する位置センサについて、通電故障に関する判定を行う判定部と、この判定部による判定結果に応じて、電動アクチュエータに対する通電を停止するフェイルセーフ制御を行う制御部とを備えたものである。上記判定部は、位置センサにおいて通電故障が有ることが確定する前段階の予備的判定として、以下の条件(A),(B)がそれぞれ成立するのか否かを判定すると共に、上記予備的判定において上記条件(A),(B)の双方が成立すると判定された場合には、位置センサにおいて通電故障の蓋然性が有ると判定する。上記制御部は、判定部によって通電故障の蓋然性が有るとの判定結果が得られた場合には、位置センサにおいて通電故障が有ることが確定する前に、上記フェイルセーフ制御を実行する。
(A)位置センサからの出力位置が、電動アクチュエータの最大速度を超える速度で変位していること
(B)位置センサからの出力位置をPo、位置センサの短絡状態位置をPs、位置センサの断線状態位置をPd、所定のマージン量をΔP1とした場合に、(Po>(Ps+ΔP1))または(Po<(Pd−ΔP1))が成立すること
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施の形態に係る位置センサの故障判定装置によれば、位置センサの故障に伴うアクチュエータの破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施の形態に係る故障判定装置を備えたエンジンの概略構成例を模式的に表す模式図である。
図2図1に示したターボチャージャ付近の構成例を拡大して表す模式図である。
図3】実施の形態に係る位置センサの故障判定方法の一例を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(予備的判定を用いてフェイルセーフ制御等を行う故障判定方法の例)
2.変形例
【0010】
<1.実施の形態>
[エンジン1の概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る故障判定装置(後述するエンジン制御部60)を備えたエンジン1の概略構成例を、模式的に表したものである。また、図2は、このエンジン1における後述するターボチャージャ40付近の構成例を、拡大して模式的に表したものである。
【0011】
エンジン1は、例えば自動車などの車両に搭載されており、その車両の動力を発生させるものである。このエンジン1は、各種の内燃機関を用いて構成されており、図1に示した例では、ターボ過給を行うガソリンエンジンとなっている。なお、この図1では、エンジン1の構成のうち、本開示に係る要部構成を抽出して示している。
【0012】
このエンジン1は、図1に示したように、本体部10、吸気装置20、排気装置30、ターボチャージャ40、燃料供給装置50およびエンジン制御部60を備えている。
【0013】
(本体部10)
本体部10は、エンジン1の主機部分であり、この例では、水平対向4気筒の4ストロークDOHC(Double Over Head Camshaft)ガソリン直噴エンジンとなっている。この本体部10は、図1に示したように、クランクシャフト11、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ駆動系14および排気バルブ駆動系15を有している。
【0014】
クランクシャフト11は、エンジン1の出力軸であり、図示しない各気筒のピストンがコネクティングロッド(コンロッド)を介して連結されている。シリンダブロック12は、各気筒のシリンダを有するブロック状の部材であり、クランクシャフト11を挟んで左右二分割されている。このシリンダブロック12における右半部には、第1気筒および第3気筒が設けられ、左半部には、第2気筒および第4気筒が設けられている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12における左右両端部にそれぞれ設けられている。このシリンダヘッド13は、図示しない燃焼室、吸気ポート、排気ポート、吸気バルブおよび排気バルブ等を有している。吸気バルブ駆動系14は、この吸気バルブを駆動するものであり、排気バルブ駆動系15は、排気バルブを駆動するものである。
【0015】
(吸気装置20)
吸気装置20は、外気を吸入し、燃焼用空気Ain(図2参照)としてシリンダヘッド13の吸気ポートに導入する装置である。この吸気装置20は、図1に示したように、インテークダクト21、エアバイパスバルブ22、インタークーラ23およびインテークマニホールド24を有している。
【0016】
インテークダクト21は、外部から吸入された燃焼用空気Ainが搬送される管路である。このインテークダクト21の中間部には、図1図2に示したように、後述するターボチャージャ40におけるコンプレッサ41が設けられている。エアバイパスバルブ22は、インテークダクト21内を流れる燃焼用空気Ainの一部をコンプレッサ41の上流側から下流側へ向けてバイパスさせるためのバイパス流路を、開閉するバルブである(図2参照)。インタークーラ23は、後述するようにしてコンプレッサ41において圧縮された燃焼用空気Ainを、例えば走行風(車両の走行により車体に対して発生する気流)との熱交換によって冷却するものである。インテークマニホールド24は、吸入空気量を調整するスロットルバルブから出力された燃焼用空気Ainを、各気筒の吸気ポートに配分する分岐管である。
【0017】
(排気装置30)
排気装置30は、シリンダヘッド13における排気ポートから、既燃ガス(排気ガスGe)を排出する装置である。この排気装置30は、図1に示したように、エキゾーストマニホールド31、エキゾーストパイプ32、フロント触媒33、リア触媒34およびサイレンサ35を有している。
【0018】
エキゾーストマニホールド31は、各気筒の排気ポートから出力された排気ガスGe(図2参照)を集合させて、後述するターボチャージャ40におけるタービン42へと導入する、排気ガス流路(管路)である。エキゾーストパイプ32は、後述するターボチャージャ40におけるタービン42から出力された排気ガスGeを、外部へと排出する排気ガス流路(管路)である。このエキゾーストパイプ32の途中には、図1に示したように、タービン42側から順に、フロント触媒33およびリア触媒34が設けられている。これらのフロント触媒33およびリア触媒34はそれぞれ、例えば、排気ガスGeに含まれる炭化水素(HC),一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)の低減処理を行う、三元触媒である。サイレンサ35は、エキゾーストパイプ32の出口部に隣接して配置されており、排気ガスGeにおける音響エネルギーを低減させて、排気騒音を抑制するものである。
【0019】
(ターボチャージャ40)
ターボチャージャ40は、排気ガスGeのエネルギーを利用して新気(燃焼用空気Ain)を圧縮する機能を有する、排気タービン過給機である(図2参照)。このターボチャージャ40は、図1図2に示したように、コンプレッサ41、タービン42、ベアリングハウジング43、ウェイストゲート流路44、ウェイストゲートバルブ45、電動アクチュエータ46および位置センサ47(ストロークセンサ)を有している。
【0020】
コンプレッサ41は、タービン42によって駆動されて燃焼用空気Ainを圧縮するもの(遠心式圧縮機)である。タービン42は、排気ガスGeによって駆動されるようになっており、この排気ガスGeのエネルギーを利用してコンプレッサ41を駆動するものである(図2参照)。ベアリングハウジング43は、コンプレッサ41とタービン42との間に設けられている。
【0021】
ウェイストゲート流路44は、図1図2に示したように、タービン42の上流側から下流側へ向けて、排気ガスGeの一部をバイパスさせるための流路(バイパス流路)である。ウェイストゲートバルブ45は、図1図2中の破線の矢印で示したように、電動アクチュエータ46による駆動に従って、ウェイストゲート流路44を開閉するバルブである。この電動アクチュエータ46は、図1図2中の破線の矢印で示したように、後述するエンジン制御部60から供給される制御信号Scに基づいて、ウェイストゲートバルブ45を駆動するものである。
【0022】
位置センサ47は、図2中の破線の矢印で示したように、ウェイストゲートバルブ45における開度位置Po(ストローク位置)を検出するセンサである。なお、このようにして位置センサ47によって検出された開度位置Po(位置センサ47から出力される出力位置)は、図2に示したように、エンジン制御部60へと供給されるようになっている。
【0023】
(燃料供給装置50)
燃料供給装置50は、エンジン1における各気筒に対して燃料(ガソリン)を供給する装置である。この燃料供給装置50は、図1に示したように、燃料タンク51、フィードポンプ52、フィードライン53、高圧ポンプ54、高圧燃料ライン55およびインジェクタ56を有している。
【0024】
燃料タンク51は、燃料が貯留される容器である。フィードポンプ52は、燃料タンク51内の燃料を吐出して、高圧ポンプ54へと搬送するポンプである。フィードライン53は、フィードポンプ52によって吐出された燃料が、高圧ポンプ54へと搬送される際の流路(燃料流路)である。高圧ポンプ54は、シリンダヘッド13に取り付けられており、カムシャフトを介して駆動されることで、燃料の圧力を昇圧させるものである。高圧燃料ライン55は、高圧ポンプ54による昇圧後の燃料(高圧燃料)が、各気筒に設けられたインジェクタ56へと搬送される際の流路(燃料流路)である。インジェクタ56は、高圧燃料ライン55から供給される高圧燃料を、エンジン制御部60から供給される噴射信号に応じて各気筒の燃焼室内に筒内噴射(直噴)する、噴射弁である。
【0025】
(エンジン制御部60)
エンジン制御部60は、エンジン1における燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの、各種運転制御を行うものである。また、このエンジン制御部60は、詳細は後述するが、前述した位置センサ47について通電故障に関する判定を行う機能と、そのような通電故障に関する判定結果に応じて所定のフェイルセーフ制御(F/S制御)を行う機能と、を有している。この所定のフェイルセーフ制御とは、エンジン制御部60から出力される制御信号Scを用いて、前述した電動アクチュエータ46に対する通電を停止する(通電カットを行う)制御のことである(図1図2参照)。
【0026】
このようなエンジン制御部60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータを用いて構成されている。
【0027】
なお、このエンジン制御部60は、本開示における「(位置センサの)故障判定装置」、「判定部」および「制御部」の一具体例に対応している。
【0028】
[動作および作用・効果]
続いて、本実施の形態のエンジン1における動作および作用・効果について説明する。
【0029】
(A.位置センサ47の通電故障について)
最初に、前述したターボチャージャ40における位置センサ47の通電故障(通電系の異常)について、説明する。
【0030】
まず、一般的な手法(比較例)では、所定の通電診断を行うことで、このような位置センサ47に通電故障が発生したことを確定させるようにしている。そして、この比較例の手法では、位置センサ47の通電故障が確定した後に、電動アクチュエータ46に対する通電を停止させている。なお、上記した通電診断に要する時間(診断時間)は、例えば、故障の発生から約500[ms]程度である。
【0031】
一方、ウェイストゲートバルブ45では、全閉状態と全開状態との間での移行時間(全閉位置と全開位置との間での移動時間)が、上記した通電診断の際の診断時間と比べ、短くなっている。具体的には、一例として、全閉状態から全開状態への移行時間は、約320[ms]程度となり、全開状態から全閉状態への移行時間は、約450[ms]程度となる。このため、この比較例で手法では、通電診断によって位置センサ47の故障が確定する前に、ウェイストゲートバルブ45が規定範囲外まで移動して、開き側および閉じ側のメカニカル・ハードストップ(突き当て部)に衝突することによって、電動アクチュエータ46が破損してしまうおそれが生じる。
【0032】
なお、このような現象は、位置センサ47自体に通電故障が発生した場合だけでなく、例えばエンジン制御部60と位置センサ47とを接続する配線(ハーネス)に断線等の故障が発生した場合にも、生じ得る。その場合、ターボチャージャ40自体は正常であり、ハーネスのみの故障にも関わらず、電動アクチュエータ46が破損してしまうおそれがある。
【0033】
このようにして、比較例の手法(通電診断のみを用いた故障判定方法)では、位置センサ47等での通電故障に伴って、電動アクチュエータ46までもが故障(破損)してしまうおそれがある。そしてその場合、不要な部品交換(位置センサ47等に加えて電動アクチュエータ46の部品交換)が生じることから、部品交換費用が増大してしまうことになる。
【0034】
(B.本実施の形態の故障判定方法)
そこで本実施の形態では、以下詳述する手法を用いて、エンジン制御部60において、位置センサ47についての故障判定を行っている。
【0035】
以下、図1図2に加えて図3を参照して、本実施の形態に係る位置センサ47の故障判定方法の一例について、詳細に説明する。図3は、本実施の形態に係る位置センサ47の故障判定方法の一例を、流れ図で表したものである。
【0036】
(B−1.予備的判定を利用したF/S制御の実行開始)
この故障判定方法では、まず、エンジン制御部60は、後述する予備的判定の結果を示すフラグ(予備的判定フラグ)が、「(位置センサ47における通電)故障の蓋然性:無」を示しているのか否かを、判定する(図3のステップS101)。
【0037】
なお、この予備的判定とは、前述した通電診断(後述する本判定)を用いて位置センサ47に通電故障が有ることが確定する前段階における、予備的な判定のことを意味している。具体的には、この図3の例では、以下説明するステップS102,S103における判定(後述する条件(A),(B)がそれぞれ成立するのか否かの判定)が、予備的判定に対応している(図3中の破線で囲った部分を参照)。
【0038】
ここで、上記した予備的判定フラグが「故障の蓋然性:有」を示している場合(ステップS101:N)、後述するステップS106へと進むことになる。
【0039】
一方、上記した予備的判定フラグが「故障の蓋然性:無」を示している場合(ステップS101:Y)、次にエンジン制御部60は、1番目の予備的判定として、以下の条件(A)が成立するのか否かを判定する(ステップS102)。具体的には、エンジン制御部60は、以下の出力位置Poにおける変位速度である出力位置速度Voが、以下の最大速度Vmaxを越える値である(Vo>Vmax)のか否かを判定する。
・条件(A):位置センサ47からの出力位置(開度位置)Poが、電動アクチュエータ46における最大速度Vmaxを超える速度で変位していること
【0040】
ここで、この条件(A)が成立しない(Vo≦Vmaxである)と判定された場合には(ステップS102:N)、上記した予備的判定フラグが引き続き「故障の蓋然性:無」を示すこととなり、前述したステップS101へと再び戻ることになる。
【0041】
一方、この条件(A)が成立する(Vo>Vmaxである)と判定された場合には(ステップS102:Y)、続いてエンジン制御部60は、2番目の予備的判定として、以下の条件(B)が成立するのか否かを判定する(ステップS103)。具体的には、エンジン制御部60は、2つの条件式のうちの一方、すなわち、(Po>(Ps+ΔP1))または(Po<(Pd−ΔP1))が成立するのか否かを判定する。なお、これらの条件式において、「Ps」は位置センサ47の短絡状態位置を、「Pd」は位置センサ47の断線状態位置を、「ΔP1」は所定のマージン量を、それぞれ示している。
・条件(B):位置センサ47からの出力位置Poが、この位置センサ47における短絡状態または断線状態を示す範囲付近の値であること
【0042】
ここで、この条件(B)が成立しない(上記した2つの条件式の双方が成立しない)と判定された場合には(ステップS103:N)、前述した予備的判定フラグが引き続き「故障の蓋然性:無」を示すこととなり、前述したステップS101へと再び戻ることになる。
【0043】
一方、この条件(B)が成立する(上記した2つの条件式のうちの一方が成立する)と判定された場合には(ステップS103:Y)、予備的判定において条件(A),(B)の双方が成立すると判定された場合に相当する。したがってこの場合、位置センサ47において通電故障の蓋然性が有ると判定されたことになるため、次にエンジン制御部60は、前述した予備的判定フラグを、「故障の蓋然性:有」へと変更する。そして、このようにして、位置センサ47に通電故障の蓋然性が有るとの判定結果が得られた場合、エンジン制御部60は、前述した通電診断を用いて位置センサ47に通電故障が有ることが確定する前に、前述した所定のフェイルセーフ制御(F/S制御)を実行する。すなわち、エンジン制御部60は制御信号Scを用いて、電動アクチュエータ46に対する通電を停止する制御を行う(ステップS104)。
【0044】
続いて、エンジン制御部60は、このようなF/S制御を実行する直前における位置センサ47からの出力位置Poを、直前出力位置Pofsとして保持(記憶)しておくようにする(ステップS105)。なお、その後は、前述したステップS101へと再び戻った後、予備的判定フラグが「故障の蓋然性:有」を示していることから、以下説明するステップS106以降へと進むことになる。
【0045】
(B−2.予備的判定後のF/S制御の実行停止)
ここで、このステップS101において、予備的判定フラグが「故障の蓋然性:有」を示した場合(ステップS101:N)、すなわち、以下のステップS106以降(上記したF/S制御が実行された後のステップ)について説明する。
【0046】
この場合、まず、エンジン制御部60は、前述した通電診断(予備的判定の後の本判定)を用いて、位置センサ47に通電故障が有ることが確定したのか否かを、判定する(ステップS106)。
【0047】
ここで、位置センサ47に通電故障が有ることが確定された場合には(ステップS106:Y)、以下のようになる。すなわち、エンジン制御部60は、前述した予備的判定フラグを、「故障の蓋然性:無」へと変更すると共に、F/S制御の実行を停止する(ステップS107)。このようにして、位置センサ47における通電故障が確定した場合には、前述した予備的判定(条件(A),(B)の判定)が再開されずに、エンジン制御部60による図3に示した一連の各処理が終了となる。
【0048】
一方、位置センサ47に通電故障が有ることが確定されなかった場合(未確定の場合)には(ステップS106:N)、以下のようになる。すなわち、次にエンジン制御部60は、位置センサ47における通電故障の蓋然性に関する、所定の条件が成立するのか否かを判定する。具体的には、エンジン制御部60は、このような所定の条件として、以下の条件(C)が成立するのか否かを判定する(ステップS108)。詳細には、エンジン制御部60は、((Pofs−ΔP2)<Po<(Pofs+ΔP2))という条件式が成立するのか否かを、判定する。なお、この条件式において、「ΔP2」は、所定のオーバーシュート量を示している。
・条件(C):位置センサ47からの出力位置Poが、ステップS105において保持しておいた、直前出力位置Pofs付近に復帰したこと
【0049】
なお、このような条件(C)は、本開示における「所定の条件」の一具体例に対応している。
【0050】
ここで、上記した所定の条件(条件(C))が成立しない(出力位置Poが直前出力位置Pofs付近には復帰しておらず、通電故障の蓋然性が依然として有る)と判定された場合には(ステップS108:N)、以下のようになる。すなわち、この場合には、前述したステップS101へと再び戻ることになる。そして、前述した予備的判定フラグが「故障の蓋然性:有」を示していることから、前述したステップS106以降へと再び戻ることになる。
【0051】
一方、上記した所定の条件(条件(C))が成立する(出力位置Poが直前出力位置Pofs付近に復帰して、通電故障の蓋然性が無くなった)と判定された場合には(ステップS108:Y)、以下のようになる。すなわち、エンジン制御部60は、前述した予備的判定フラグを、「故障の蓋然性:無」へと変更すると共に、F/S制御の実行を停止する(ステップS109)。そして、その後は、前述したステップS101へと再び戻り、予備的判定フラグが「故障の蓋然性:無」を示していることから、前述した予備的判定(条件(A),(B)の判定:ステップS102,S103)が再開されることになる。以上で、エンジン制御部60による図3に示した一連の各処理の説明が、終了となる。
【0052】
(C.作用・効果)
このようにして本実施の形態では、エンジン制御部60は、位置センサ47における通電故障の判定を、以下のようにして行う。すなわち、エンジン制御部60は、まず、位置センサ47に通電故障が有ることが確定する前段階の予備的判定において、前述した条件(A),(B)の双方が成立すると判定された場合には、この位置センサ47において通電故障の蓋然性が有ると判定する(図3のステップS102〜S104参照)。そして、エンジン制御部60は、このようにして通電故障の蓋然性が有るとの判定結果が得られた場合には、その位置センサ47に通電故障が有ることが確定する前に、電動アクチュエータ46に対する通電を停止するフェイルセーフ制御(F/S制御)を実行する(図3のステップS104中の括弧書き参照)。
【0053】
これにより本実施の形態では、前述した比較例の故障判定方法とは異なり、位置センサ47の通電故障が確定する前段階において、電動アクチュエータ46に対する通電が早期に停止されることになる。このため、本実施の形態では比較例とは異なり、その位置センサ47における通電故障の蓋然性に伴って、電動アクチュエータ46までもが故障してしまうおそれが、防止される。すなわち、位置センサ47の通電故障の際のF/S制御を、通電診断(本判定)だけに頼ることなく実施することができ、位置センサ47自体の通電故障や、前述したハーネスの断線等の故障が発生した場合にも、電動アクチュエータ46を破損させることなく、F/S制御への移行が可能となる。
【0054】
これらのことから、本実施の形態では、ウェイストゲートバルブ45の動作(開閉動作)の信頼性を向上させることも可能となる。また、それに伴って本実施の形態では、前述した比較例の場合とは異なり、不要な部品交換(位置センサ47等に加えて電動アクチュエータ46の部品交換)が防止されることになる。よって、本実施の形態ではこの比較例と比べ、位置センサ47等に故障が発生した場合の部品交換費用を、低減することも可能となる。
【0055】
また、エンジン制御部60は、上記したF/S制御が実行された後に、通電故障の蓋然性に関する所定の条件(前述した条件(C))が成立するのか否かを更に判定する(図3のステップS108参照)。そして、この所定の条件が成立して通電故障の蓋然性が無くなったと判定された場合には、エンジン制御部60は、F/S制御の実行を停止すると共に、予備的判定(条件(A),(B)の判定)を再開する(図3のステップS109,S101〜S103参照)。これにより本実施の形態では、予備的判定によって、位置センサ47において通電故障の蓋然性が有ると一旦は判定された後でも、通電故障が有ることが確定する前段階では、そのような蓋然性の有無(蓋然性が無くなる状態に復帰したのか否か)を、更に判定することができる。よって、通電故障の蓋然性が無くなる状態に復帰した場合には、通電故障が確定する前に、不要なF/Sの実行を停止することができ、故障判定の際の利便性を向上させることが可能となる。
【0056】
更に、エンジン制御部60は、F/S制御を実行する直前での位置センサ47からの出力位置Poを、直前出力位置Pofsとして保持しておくようにする(図3のステップS105参照)。そして、エンジン制御部60は、位置センサ47に通電故障が有ることが確定する前に、上記した所定の条件が成立するのか否かとして、位置センサ47からの出力位置Poが直前出力位置Pofs付近に復帰したのか否かを、判定する(図3のステップS108参照)。これにより本実施の形態では、上記した蓋然性の有無(蓋然性が無くなる状態に復帰したのか否か)を、容易に判定することができるようになり、故障判定の際の利便性を更に向上させることが可能となる。
【0057】
加えて、F/S制御が実行された後に、位置センサ47に通電故障が有ることが確定された場合には、予備的判定(条件(A),(B)の判定)が再開されずに、エンジン制御部60による図3に示した一連の各処理が終了となる(図3のステップS106,S107,「エンド」参照)。これにより本実施の形態では、前述した通電診断(本判定)によって通電故障が確定した場合には、その後に不要な予備的判定が行われないため、この点でも、故障判定の際の利便性を向上させることが可能となる。
【0058】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、エンジン1における各部材の構成(形式、形状、配置、個数等)については、上記実施の形態で説明したものには限られない。すなわち、これらの各部材(例えば、本体部10、吸気装置20、排気装置30、ターボチャージャ40、燃料供給装置50およびエンジン制御部60など)における構成については、他の形式や形状、配置、個数等であってもよい。また、上記実施の形態で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0060】
具体的には、例えば、上記実施の形態では、エンジン1が水平対向4気筒のガソリンエンジンである場合を例に挙げて説明したが、シリンダレイアウトや気筒数、点火順序等は、この例には限られない。また、本開示は、上記実施の形態で説明したガソリンエンジンの場合には限られず、例えば、ターボ過給を行うディーゼルエンジンの場合や、その他の内燃機関の場合についても、適用することが可能である。
【0061】
また、上記実施の形態では、位置センサ47における故障判定の手法について具体例を挙げて説明したが、この具体例には限られず、他の手法を用いて故障判定を行うようにしてもよい。
【0062】
更に、上記実施の形態で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0063】
加えて、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0064】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…エンジン、10…本体部、11…クランクシャフト、12…シリンダブロック、13…シリンダヘッド、14…吸気バルブ駆動系、15…排気バルブ駆動系、20…吸気装置、21…インテークダクト、22…エアバイパスバルブ、23…インタークーラ、24…インテークマニホールド、30…排気装置、31…エキゾーストマニホールド、32…エキゾーストパイプ、33…フロント触媒、34…リア触媒、35…サイレンサ、40…ターボチャージャ、41…コンプレッサ、42…タービン、43…ベアリングハウジング、44…ウェイストゲート流路、45…ウェイストゲートバルブ、46…電動アクチュエータ、47…位置センサ(ストロークセンサ)、50…燃料供給装置、51…燃料タンク、52…フィードポンプ、53…フィードライン、54…高圧ポンプ、55…高圧燃料ライン、56…インジェクタ、60…エンジン制御部、Sc…制御信号、Ain…燃焼用空気、Ge…排気ガス、Po…開度位置(ストローク位置,出力位置)、Vo…出力位置速度、Vmax…最大速度、Ps…短絡状態位置、Pd…断線状態位置、Pofs…直前出力位置、ΔP1…マージン量、ΔP2…オーバーシュート量。
図1
図2
図3