特許第6698835号(P6698835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6698835
(24)【登録日】2020年5月1日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】動作アシスト装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 11/00 20060101AFI20200518BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   B25J11/00 Z
   A61H1/02 N
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-521764(P2018-521764)
(86)(22)【出願日】2017年6月7日
(86)【国際出願番号】JP2017021205
(87)【国際公開番号】WO2017213198
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2019年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-113659(P2016-113659)
(32)【優先日】2016年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】毛利 駿
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 洸樹
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 功
(72)【発明者】
【氏名】横山 和也
【審査官】 藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−147944(JP,A)
【文献】 特開2008−272312(JP,A)
【文献】 特開2011−36558(JP,A)
【文献】 特開2012−213543(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/080088(WO,A1)
【文献】 特表2013−529937(JP,A)
【文献】 特開2010−142353(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0101303(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
A61H 1/00−5/00;99/00
A61F 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節によって接続された部位が、屈曲状態から伸展状態へと変動する際の動作をアシストする動作アシスト装置であって、
一方の部位に装着される第1装具と、
他方の部位に装着される第2装具と、
前記関節に装着される第3装具と、
伸縮可能なアクチュエータと、前記アクチュエータに接続されたワイヤとを有する駆動機構と、を備え、
前記駆動機構の一端が前記第1装具に連結され、前記ワイヤが前記第3装具に設けられたワイヤガイドに案内され、前記駆動機構の他端が前記第2装具に連結されており、
前記アクチュエータの収縮により、前記第3装具が、前記関節を前記駆動機構の両端を結んだ仮想直線側に押圧する、動作アシスト装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記ワイヤに接続された他のアクチュエータをさらに有する、請求項1に記載の動作アシスト装置。
【請求項3】
前記アクチュエータに前記ワイヤの経路を反転させる反転部を設け、
前記ワイヤの両端又はいずれかの端部が前記反転部を経由して固定された、請求項1又は請求項2に記載の動作アシスト装置。
【請求項4】
前記反転部が複数設けられた、請求項3に記載の動作アシスト装置。
【請求項5】
前記ワイヤの両端又はいずれかの端部が前記第3装具に固定された、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の動作アシスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作アシスト装置に関し、特に、屈曲した関節を伸展させるのに好適な動作アシスト装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療系のトレーニングシステムやリハビリテーション等の分野において、人の動作を補助する外骨格型のアシストスーツが開発されている。例えばJP2012−147944Aには、外骨格型の下肢動作支援装置が開示されている。しかしながら、当該下肢動作支援装置では、膝関節の周囲において回動自在とされ、人体の下腿部に沿って延びる下腿リンクを人の大腿部の周囲に配設されたアクチュエータにより牽引する構成であるため、下腿部を前方に踏み出すアシスト力を得ることはできるが、例えば人が荷物を持って完全にしゃがんだ状態から立ち上がる場合のように、関節を中心として回動する両方の節(大腿,下腿)に多大な負荷が加わる動作をアシストする装置としては、十分なアシスト力を得られないという欠点が存在する。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、屈曲した関節を伸展状態とするのに十分なアシスト力を得られる動作アシスト装置を提供する。
【0004】
上記課題を解決するための、関節によって接続された部位が屈曲状態から伸展状態へと変動する際の動作をアシストする動作アシスト装置の構成として、一方の部位に装着される第1装具と、他方の部位に装着される第2装具と、関節に装着される第3装具と、伸縮可能なアクチュエータと、前記アクチュエータに接続されたワイヤとを有する駆動機構と、を備え、前記駆動機構の一端が前記第1装具に連結され、前記ワイヤが前記第3装具に設けられたワイヤガイドに案内され、前記駆動機構の他端が前記第2装具に連結されており、前記アクチュエータの収縮により、前記第3装具が、前記関節を前記駆動機構の両端を結んだ仮想直線側に押圧する構成とした。
【0005】
本構成によれば、第1の部位と第2の部位とを接続する関節が、駆動機構の両端5a,5bを結んだ仮想直線側に押圧されるため、屈曲状態にある部位を伸展状態とするための十分なアシスト力を得ることができる。
【0006】
また、他の構成として、駆動機構が、ワイヤに接続された他のアクチュエータをさらに有することにより、複数のアクチュエータの動作によってより高いアシスト力を得ることができる。
【0007】
また、他の構成として、アクチュエータにワイヤの経路を反転させる反転部を設け、ワイヤの両端又はいずれかの端部が反転部を経由して固定されたことにより、アクチュエータの収縮量よりも大きなワイヤの牽引量を得ることができる。
【0008】
また、他の構成として、反転部を複数設ければ更に大きなワイヤの牽引量を得ることができる。
【0009】
また、他の構成として、ワイヤの両端又はいずれかの端部が第3装具に固定されたことにより、第3装具から第1装具又は第2装具に至るワイヤの経路と、反転部から第3装具に至るワイヤの経路とを平行に近づけることができ、ワイヤの牽引量を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る動作アシスト装置の構成図である。
図2】動作アシスト装置の装着状態を示す図である。
図3A】動作アシスト装置のアクチュエータを伸長状態で示す図である。
図3B】動作アシスト装置のアクチュエータを収縮状態で示す図である。
図4A】アクチュエータの人工筋肉の1つを伸長状態で示す図である。
図4B】人工筋肉の断面図であって、図4AのIVB−IVB線に対応する断面を示す図である。
図4C】アクチュエータの人工筋肉の1つを収縮状態で示す図である。
図4D】人工筋肉の断面図であって、図4AのIVD−IVD線に対応する断面を示す図である。
図5】動作アシスト装置を人体に装着した時の幾何学的モデル図である。
図6】膝の関節角度を示す図である。
図7A】立上り動作を示す図であって、人がしゃがんだ状態を示す図である。
図7B図7Aの状態における駆動機構の動作状態を示す図である。
図7C】立上り動作を示す図であって、人が立ち上がり動作中である状態を示す図である。
図7D図7Cの状態における駆動機構の動作状態を示す図である。
図7E】立上り動作を示す図であって、人が立ち上った状態を示す図である。
図7F図7Eの状態における駆動機構の動作状態を示す図である。
図8A】他の実施形態に係る動作アシスト装置の模式図である。
図8B】さらに他の実施形態に係る動作アシスト装置の模式図である。
図8C】さらに他の実施形態に係る動作アシスト装置の模式図である。
図8D】さらに他の実施形態に係る動作アシスト装置の模式図である。
図8E】さらに他の実施形態に係る動作アシスト装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す動作アシスト装置1は、例えば、人が荷物を持ち上げるときの立上り動作を補助する装具であって、いわゆる内骨格型の装具である。内骨格型の装具とは、人体における骨格を利用することで機能し、例えば、人体における骨と骨のつながりを1つのリンク機構とみなし、関節の動作をアシストする。なお、以下の実施形態では、動作アシスト装置1を人体の脚部に適用した例を示すが、本動作アシスト装置1は、肘関節を中心とする腕部や腰椎を中心とする腰部等、屈曲した状態と伸展した状態とを取り得る部位であればいかなる部位にも適用可能である。
【0012】
図2に示すように、動作アシスト装置1は、大腿部に取り付けられる大腿装具2と、膝に取り付けられる膝装具3と、下腿部に取り付けられる下腿装具4と、大腿装具2、膝装具3及び下腿装具4に駆動力を付与する駆動機構5とを備える。即ち、動作アシスト装置1は、大腿部における大腿骨と下腿部における下腿骨とを一対の節とし、これらの節を回転可能に連結する膝関節を1つのリンク機構と見なし、膝の曲げ伸ばし、特に屈曲状態から伸展状態へと動作するときの脚部の動作をアシスト(補助)する。以下、下腿装具4が第1装具であり、大腿装具2が第2装具であり、膝装具3が第3装具である例について説明する。
【0013】
大腿装具2、膝装具3及び下腿装具4は、それぞれ、駆動機構5を取り付けるための機構取付部材2A;3A;4Aと、これら機構取付部材2A;3A;4Aを大腿部、膝関節部、下腿部に固定する固定ベルト2B;3B;4Bとを備える。なお、機構取付部材2A;3A;4Aの裏面には、図外のクッション材等が設けられ、人体との緩衝が図られる。機構取付部材2A;3A;4Aは、例えば、可撓性を有する硬質の樹脂で構成される。固定ベルト2B;3B;4Bは、例えば、非伸縮性の帯からなり、端部に固定手段として機能する面ファスナーを備える。
【0014】
機構取付部材2Aは、例えば、大腿部の側部に沿って装着可能に形成され、固定ベルト2Bにより、大腿部の付け根側に固定される。機構取付部材2Aには、後述の駆動機構5を構成するワイヤ8の端部が固定されるワイヤ固定部11が設けられる。ワイヤ固定部11は、例えば、板状部材12により構成され、機構取付部材2Aにねじ止めされることにより、ワイヤ8の端部を機構取付部材2Aとの間で挟み込んで固定する。
【0015】
機構取付部材3Aは、例えば、膝関節における膝頭を包むように形成され、固定ベルト3Bにより膝関節部に固定される。機構取付部材3Aは、駆動機構5を構成しワイヤ8が掛けられるワイヤガイド15を備える。ワイヤガイド15としては、滑車やピン或いは溝等、後述のアクチュエータ9により牽引されるワイヤ8の移動を阻害しない、好ましくはワイヤ8の移動を案内し得る、部材であれば良く、当該ワイヤガイド15によってワイヤ8の延びる方向が曲げられる。なお、図示の例では、ワイヤガイド15として滑車を用いた例を示している。
【0016】
機構取付部材4Aは、例えば、下腿部の側部に沿って装着可能に形成され、固定ベルト4Bにより足首側に固定される。機構取付部材4Aには、アクチュエータ9を固定可能なアクチュエータ取付部16が設けられる。
【0017】
駆動機構5は、概略、アクチュエータ9とワイヤ8とで構成される。図1及び図2に示された例では、アクチュエータ9は伸縮可能に構成されている。アクチュエータ9とワイヤ8とは、アクチュエータ9のワイヤ固定部14において、互いに接続されている。駆動機構5は一端5a及び他端5bを有しており、図示された例では、駆動機構5の一端5aは、アクチュエータ9におけるワイヤ8と反対側の端部で構成され、他端5bは、ワイヤ8におけるアクチュエータ9と反対側の端部で構成される。駆動機構5の一端5aは、アクチュエータ取付部16において下腿装具4に連結され、他端5bは、ワイヤ固定部11において、大腿装具2に連結される。
【0018】
図3A及び図3Bに示すように、アクチュエータ9は、流体の供給により軸方向に伸縮する複数(本実施形態では2つ)の軸方向繊維強化型人工筋肉(以下、単に人工筋肉という)18;18を有して構成される。図4A乃至図4Dに示すように、人工筋肉18は、例えば天然のラテックスゴムからなる円筒体19にカーボン繊維シート22を内挿した構成である。カーボン繊維シート22は、複数のカーボン繊維21が円筒体19の軸方向に沿って配向されており、円筒体19の軸方向への伸長を拘束する。円筒体19の両端は、端子部材23A;23Bにより閉塞される。これにより、円筒体19の内周側には気室26が形成される。一方の端子部材23Aには、後述のチューブ45が接続され、気室26に連通する空気取入口25が設けられる。円筒体19の外周には、複数のリング24が軸方向に均等な間隔で設けられる。上記構成からなる人工筋肉18の気室26内に流体の一例としての空気を供給した場合、円筒体19は、リング24に区画された複数の瘤を有するように半径方向に膨張するとともに、カーボン繊維シート22の拘束力によって軸方向に収縮する。また、気室26内の空気を排気することによって、自然長に復帰(伸長)する。このような構成の人工筋肉18を用いることによりアクチュエータ9を軽量化することができると共に、立上り動作に応じたアシスト力の変化を得ることができる。人工筋肉18には、収縮ストロークに対する出力特性(牽引力)が、収縮初期に大きく、収縮末期に向けて徐々に小さくなるという特性を有している。この特性は、人の立上り動作において動作初期には大きな力が必要とされ、立上り動作の進行にともない必要とされる力が徐々に小さくなるという人の特性にちょうど対応しており、アシスト力を得るための動力源として好ましい。なお、人工筋肉としては、上述のものに限定されず、他のマッキベン型の人工筋肉等であっても良い。
【0019】
図3A及び図3Bに示すように、アクチュエータ9は、一対の人工筋肉18;18の伸縮軸が互いに平行となるように並列配置されてなる。人工筋肉18;18の各端部は、それぞれ下側連結材30及び上側連結材31により連結されて一体に構成される。下側連結材30は、例えば、金属製の平板部材からなり、人工筋肉18;18の端子部材23Aがボルト等の固定手段により固定されることにより、人工筋肉18;18同士が一定間隔で位置決めされる。また、下側連結材30には、下腿装具4と接続されるL字状の接続部32が設けられる。接続部32は、一方が下側連結材30に固定されるとともに、他方が貫通孔33を介して下腿装具4と接続される。
【0020】
上側連結材31は、例えば、金属製のアングル部材からなり、人工筋肉18;18の端子部材23Bがボルト等の固定手段により固定されることにより、人工筋肉18;18同士が一定間隔で位置決めされる。また、上側連結材31の中心部には、ワイヤ8の端部を固定するためのワイヤ固定部14が設けられる。ワイヤ固定部14としては、円孔やねじ穴等、ワイヤ8の折り返しによる接続や、止めねじ等の固定手段による接続が可能であればよく、ワイヤ8の端部が当該ワイヤ固定部14を介してアクチュエータ9と強固に接続される。
【0021】
図2に示すように、上記構成からなるアクチュエータ9は、下側連結材30の接続部32に形成された貫通孔33を介して下腿装具4に設けられたアクチュエータ取付部16にねじ止めされ、下腿装具4に対して回転自在に取り付けられる。なお、ねじ止めに限らず、ピンの挿通等によって回転自在としても良い。
【0022】
図5は、動作アシスト装置1を人体に装着した時の幾何学的モデル図である。例えば、アクチュエータ9を構成する人工筋肉18の数量については、以下の式(1)及び式(2)に基づいて算出できる。即ち、式(1)によりアクチュエータ9に必要とされるアシスト力(アシストトルク)Tをあらかじめ算出しておくことにより、人工筋肉18の必要な数量を見積もることができる。
T=2F(P1,θ)×(L1×sinα+L2×sinβ) 式(1)
F=(1/2)×2×F1 式(2)
F:アクチュエータモジュールによる牽引力[N],
P1:人工筋肉への印加圧力[MPa]
F1:人工筋肉の収縮力[N],
L1:大腿部長さ[m],
L2:下腿部長さ[m],
L3:膝関節の回転軸からワイヤガイドにおけるワイヤと当接する位置までの距離[m],
x1+Δx1:大腿部における駆動機構の長さ[m],
x2+Δx2:下腿部における駆動機構の長さ[m],
(本実施形態では、x1=L1,x2=L2)
θ:膝関節角度[rad],
α:大腿部とワイヤとの挟角[rad],
β:下腿部とワイヤとの挟角[rad],である。
【0023】
次に、図2を参照してワイヤ8の経路について説明する。上述のとおり、ワイヤ8の両端部は、大腿装具2及び下腿装具4と接続されたアクチュエータ9に対して固定されている。より詳細には、大腿装具2側を起点として見た場合、ワイヤ8は、膝装具3に向けて延びるとともに、膝装具3に設けられたワイヤガイド15に掛けられることによって延びる方向が曲げられ、アクチュエータ9及び下腿装具4に向けて延びる。アクチュエータ9に達したワイヤ8は、アクチュエータ9に設けられたワイヤ固定部14を介して固定される。このような経路を有するワイヤ8としては、金属製に限らず有機繊維を撚り合わせた化繊のものであっても良い。ワイヤ8は、張力が付加されたときに伸長性の少ない素材のものが好ましい。また、耐久性を考慮した場合、金属製や非金属性の無機繊維のものが好ましく、重量の観点からは、有機繊維を撚り合わせた化繊のものが好ましい。
【0024】
ワイヤ8の長さは、例えば、膝関節の屈曲状態が最大のときに、遊びがない長さに調整される。図6に示すように、膝関節の屈曲状態が最大のときとは、大腿部の延長線p1と下腿部の延長線p2との交差角度(関節角度)φが最小角度をとるときを意味し、この最小角度は、例えば膝を最大限折り曲げたときの大腿骨と下腿(脛)骨との関節角度である。即ち、関節角度φは、例えば、下腿部に対する大腿部の傾斜角度でもある。
【0025】
上記アクチュエータ9は、駆動装置40により制御される。駆動装置40は、アクチュエータ9に圧縮空気を供給する空気供給手段41と、圧縮空気の圧力を制御する制御弁42と、空気供給手段41からアクチュエータ9に供給する圧縮空気を制御するコントロールユニット43とを備える。空気供給手段41は、例えば、エアコンプレッサやエアタンクにより構成される。
【0026】
制御弁42は、アクチュエータ9に供給する空気の流量を調整する。制御弁42には、例えば、比例電磁弁が適用される。比例電磁弁は、コントロールユニット43から出力される信号に基づいて、空気供給手段41に蓄圧された圧縮空気をアクチュエータ9に供給するときの空気の流量を調整する。比例電磁弁は、信号の入力が無いときには、アクチュエータ9への空気の供給を遮断するノーマルクローズ型である。制御弁42は、空気供給手段41とチューブ44により接続され、アクチュエータ9とチューブ45により接続される。チューブ44及びチューブ45には、耐圧かつ可撓性を有するものが好ましい。
【0027】
また、例えば、制御弁42とアクチュエータ9とを接続するチューブ45の途中には、分岐管46が設けられ、アクチュエータ9に供給された空気を排気する排気弁47が設けられる。排気弁47は、コントロールユニット43から出力される信号に基づいて、排気弁47を開閉することにより、アクチュエータ9の気室26に供給された空気を排気する。
【0028】
コントロールユニット43は、演算手段としてのCPU、アシスト力を制御するためのプログラムを記憶するROM、及び、動作検出センサ50及び荷重検出センサ51からの入力値や演算結果を一時的に記憶するROM等の記憶手段を含むマイクロコンピュータを備える。コントロールユニット43は、動作検出センサ50及び荷重検出センサ51から出力される出力値に応じて、制御弁42や排気弁47に出力する信号を制御する。コントロールユニット43は、例えば、記憶手段に、荷重値と気室26に供給する空気の圧力との対応関係を紐付けしたデータや、圧力算定式等を、予め記憶させておき、各センサ50,51により検出された荷重値や動作値に基づいて、制御弁42や排気弁47に出力する信号を制御する。
【0029】
動作検出センサ50は、人体の動作を検出するためのセンサであって、人がしゃがんだ状態から立ち上がる動作(立上り動作)を検出する。例えば、ワイヤ8の張力の変化や加速度センサ等を用いることができる。荷重検出センサ51は、立上り動作におけるアシスト力を設定するためのセンサであって、例えば、足裏に係る荷重値を検出する。荷重検出センサ51は、例えば、圧力センサ等を用いることができる。
【0030】
動作検出センサ50により検出された動作の検出値、及び荷重検出センサ51により検出された荷重値は、それぞれコントロールユニット43に出力される。コントロールユニット43では、入力された検出値及び荷重値に基づいてアクチュエータ9に供給する空気の流量を演算処理する。
【0031】
動作アシスト装置1の人体への装着方法について説明する。まず、大腿装具2、膝装具3、下腿装具4を脚の各部に装着する。次に、膝の折り曲げ状態が最大となるように、しゃがんだ姿勢で大腿部側のワイヤ固定部11においてワイヤ8の張り調整を行う。本実施形態では、アクチュエータ9に可撓性を有する部材により構成された人工筋肉18を適用しているため、遊びがゼロとなるようにワイヤ8の張り調整を行うことにより、アクチュエータ9によるアシスト力を遅滞なく得ることができる。
【0032】
図7A乃至図7Fは、動作アシスト装置1によるアシスト状態を示す図である。とりわけ、図7Aは、人がしゃがんだ状態を示す図であり、図7Bは、図7Aの状態における駆動機構5の動作状態を示す図である。図7Cは、人が立ち上がり動作中である状態を示す図であり、図7Dは、図7Cの状態における駆動機構5の動作状態を示す図である。図7Eは、人が立ち上った状態を示す図であり、図7Fは、図7Eの状態における駆動機構5の動作状態を示す図である。以下、動作アシスト装置1の動作について説明する。
【0033】
図7Aに示すように、例えば床に置かれた荷物を持ち上げようとしてしゃがみ、手に荷物を持つと、足裏に配置された荷重検出センサ51により、荷物の重量と人の体重との合計値が荷重値としてコントロールユニット43に出力される。このとき、動作アシスト装置1を装着した人の膝関節の屈曲状態は最大となっている。具体的には、大腿部の延長線p1と下腿部の延長線p2との交差角度(関節角度)φ(図6参照)が最小となっている。図7Bに示されているように、駆動機構5が、膝関節部との間に所定の間隔を有して膝関節部の前方(図7Bでは左側)に位置するワイヤガイド15を有していることにより、膝関節の屈曲状態が最大となっている場合においても、ワイヤ8を膝関節部の前方を通るように案内することができる。
【0034】
次に、荷物を手に持った状態から、人の意思によりしゃがんだ状態から立ち上がろうとする動作(図7C及び図7E)を動作検出センサ50が検出することにより、信号がコントロールユニット43に出力される。コントロールユニット43は、入力された荷重値を立上がり動作マップに照らし合わせ、所定のアシスト力が得られるように制御弁42に出力する信号を決定する。この場合、制御弁42にのみ信号を出力し、排気弁47は閉じたままとする。
【0035】
図7D及び図7Fに示すように、制御弁42の動作による空気の供給により、アクチュエータ9が軸方向に収縮し、ワイヤ8を牽引する。ワイヤ8が牽引されると、ワイヤガイド15を基点として膝装具3が膝関節を駆動機構5の両端5a,5bを結んだ仮想直線L側に押圧するため、立ち上がるのに十分なアシスト力を得ることができる。
【0036】
即ち、本実施形態では、図7A乃至図7Fに示すように、膝装具3を中心として大腿装具2及び下腿装具4に渡ってワイヤ8が延びて架設されているため、膝関節には上述の方向への押圧力が加わると同時に、大腿部及び下腿部には、上記方向とは逆の牽引力が加わるため、膝関節を中心とする脚部を伸展させるための十分なアシスト力を確保することができる。
【0037】
より詳細には、図2図5及び図7A乃至図7Fに示された例では、駆動機構5がワイヤガイド15を有しており、このワイヤガイド15が、膝関節部との間に、装着者の前後方向に所定の間隔を有して膝関節部の前方に位置している。これにより、図7A及び図7Bに示すような、しゃがんだときすなわち膝関節の屈曲状態が最大となるとき、図7C及び図7Dに示すような、立ち上がり動作中すなわち膝関節の屈曲状態が中間のとき、並びに、図7E及び図7Fに示すような、立ち上った状態すなわち膝関節の屈曲状態が最小となるときのいずれの状態においても、駆動機構5の長さは、装着者の大腿部及び下腿部の合計長さよりも長くなる。ここで、駆動機構5の長さとは、駆動機構5の一端5aからワイヤガイド15を経由して駆動機構5の他端5bまでの長さであり、装着者の大腿部及び下腿部の合計長さとは、下腿部における駆動機構5の一端5aの直下に位置する点から膝関節部を経由して大腿部における駆動機構5の他端5bの直下に位置する点までの長さである。
【0038】
また、少なくとも膝関節の屈曲状態が最大となるとき、及び、膝関節の屈曲状態が中間のときには、装着者の大腿部及び下腿部の合計長さは、仮想直線Lの長さよりも長くなる。したがって、少なくとも膝関節の屈曲状態が最大となるとき、及び、膝関節の屈曲状態が中間のときには、駆動機構5の長さは、装着者の大腿部及び下腿部の合計長さよりも長くなり、且つ、装着者の大腿部及び下腿部の合計長さは、仮想直線Lの長さよりも長くなる。
【0039】
駆動機構5の長さ、装着者の大腿部及び下腿部の合計長さ、及び、仮想直線Lの長さが上述の関係を満たす場合、アクチュエータ9を収縮させて駆動機構5の長さを小さくすることにより、ワイヤガイド15は、ワイヤ8から仮想直線L側に向かう押圧力を受ける。この押圧力が、膝装具(第3装具)3を介して装着者の膝関節に作用し、膝関節が、駆動機構5の両端5a,5bを結んだ仮想直線L側に押圧される。これにより、膝関節角度θ(図5参照)は増大するように変化する。すなわち、アクチュエータ9を収縮させて駆動機構5の長さを小さくすることにより、ワイヤガイド15がワイヤ8から受ける、仮想直線L側に向かう押圧力が、膝関節を中心として装着者の大腿部及び下腿部を伸展させるためのアシスト力となる。これにより、装着者は、動作アシスト装置1から、しゃがんだ状態から立ち上がるための十分なアシスト力を得ることができる。
【0040】
とりわけ、本実施形態の動作アシスト装置1では、引張り力(牽引力)を生じるアクチュエータ9及びワイヤ8を有する比較的簡単な構成により、装着者の大腿部及び下腿部を伸展させるためのアシスト力を得ることができるので、従来技術のようにリンク部材やギア機構を用いた装置に比べて、動作アシスト装置1を効果的に小型化及び軽量化することができる。このことは、医療系のトレーニングシステムやリハビリテーション等の分野において用いられ得る動作アシスト装置1において、大きな利点である。
【0041】
以下、図8A乃至図8Eを参照して、動作アシスト装置1の他の実施形態について説明する。なお、各図において大腿装具2、膝装具3及び下腿装具4については破線で示す。
【0042】
図8Aは、アクチュエータ9の位置を下腿側から大腿側に変更した例を示す。本例においてアクチュエータ9は、大腿装具2と接続されており、ワイヤ8の一端部側がアクチュエータ9に設けられた係止部9Aを介して大腿装具2と接続されると共に、他端部側が膝装具3のワイヤガイド15を経由し下腿装具4に設けられたワイヤ固定部7を介して下腿装具4と接続されている。
【0043】
本例に係る動作アシスト装置1によれば、比較的重量のあるアクチュエータ9が大腿側となることにより、人体における重心位置に重量物が近づくため、装着時の重量感を小さくできる。
【0044】
図8Bは、アクチュエータ9;9を大腿側及び下腿側の両方に設けた例を示す。本例においてアクチュエータ9;9は、大腿装具2及び下腿装具4とそれぞれ接続されており、ワイヤ8の一端部側が大腿側に位置するアクチュエータ9の係止部9Aを介して大腿装具2と接続され、他端部側が膝装具3のワイヤガイド15を経由し、下腿側に位置するアクチュエータ9のワイヤ固定部14を介して下腿装具4と接続されている。
【0045】
本例に係る動作アシスト装置1によれば、アクチュエータ9;9がそれぞれ大腿側及び下腿側に設けられたことにより、各アクチュエータ9を同期して動作させた場合に得られるアシスト力を2倍とすることが可能となる。
【0046】
図8Cは、ワイヤ8の固定端部を膝装具3側に設定した例を示す。本例において下腿装具4と接続されたアクチュエータ9には、ワイヤ固定部14に代えてワイヤ8の経路を膝関節部側に反転させる反転部20が設けられる。なお、反転部20としては前述のワイヤガイド15と同様に牽引されるワイヤ8の移動を阻害しない部材であれば良い。同図に示すように、膝関節部から下腿部側に延びるワイヤ8は、反転部20によってその経路が反転され、膝関節部側に延びる。そして、膝関節側に延びるワイヤ8の端部は、膝装具3に設けられたワイヤ固定部14において強固に固定される。
【0047】
本例に係る動作アシスト装置1によれば、アクチュエータ9の収縮量の2倍の牽引量でワイヤ8が牽引されるため、膝関節などの屈曲から伸展までの関節角度の変化が大きい部位であってもストローク量の小さいアクチュエータを採用することができる。
【0048】
なお、本例においては、ワイヤ8の固定端を膝関節部側、即ち、膝装具3上に設定したが、ワイヤ8の経路を反転させ得る位置であればこれに限られるものではなく、例えば各装具とは別の部位を固定端として設定しても良い。
【0049】
図8Dは、アクチュエータ9の反転部20を複数の滑車により構成した例を示す。本例において反転部20は、複数の滑車により構成される。複数の滑車は、例えば、外径の異なる小径の滑車20Aと大径の滑車20Bとを同軸かつ、個別に回転自在に設けて構成される。また、膝装具3に設けられたワイヤガイド15は、反転部20を構成する滑車20A;20Bに対応する複数の滑車により構成される。ワイヤガイド15を構成する複数の滑車15A;15Bは、例えば滑車20A;20Bと同様に、外径の異なる小径の滑車15Aと大径の滑車15Bとを同軸、かつ個別に回転自在に設けて構成される。同図に示すように、大腿部から膝関節部に延びるワイヤ8は、膝装具3に設けられた大径の滑車15Aにガイドされて下腿部側に延びる。滑車15Aから下腿部側に延びるワイヤ8は、滑車20Aによってその経路が反転され、膝関節部側に延びる。滑車20Aから膝関節側に延びるワイヤ8は、滑車15Bによってその経路が反転され、下腿部側に延びる。滑車15Bから下腿部側に延びるワイヤ8は、滑車20Bによってその経路が反転され、膝関節部側に延びる。そして、膝関節部側に延びるワイヤ8の端部は、膝装具3に設けられたワイヤ固定部14において強固に固定される。
【0050】
本例に係る動作アシスト装置1によれば、アクチュエータ9の収縮量よりも大きな牽引量でワイヤ8が牽引されるため、よりストローク量の小さいアクチュエータを採用することができる。
【0051】
なお、本例においては、反転部20を構成する複数の滑車を大きさの異なる大小2つの滑車で構成したが、ワイヤ8の経路の反転を複数回できるものであればこれに限られるものではなく、数量や滑車の大小関係については、必要とされる牽引量に収縮量を倍化できるように適宜設定すれば良い。例えば各装具とは別の部位を固定端として設定しても良い。
【0052】
図8Eは、アクチュエータ9の反転部20を複数の滑車により構成した他の例を示す。
【0053】
本例において大腿装具2と下腿装具4とを接続するワイヤ8は、大腿装具2からに延びるワイヤ8Aと、下腿装具4側において延びるワイヤ8Bとで構成され、膝装具3と下腿装具4との間にワイヤ8Aの経路を反転させる滑車29と、アクチュエータ9にワイヤ8Bの経路を膝関節部側に反転させる反転部20とが設けられる。即ち、滑車29と滑車で構成された反転部20とが多段に設けられている。同図に示すように、一端部が大腿装具2に固定され、大腿部から膝関節部に延びるワイヤ8Aは、膝装具3に設けられたワイヤガイド15にガイドされて下腿部側に延びる。ワイヤガイド15から下腿部側に延びるワイヤ8は、滑車29によってその経路が反転され、膝関節部側に延びる。そして、膝関節側に延びるワイヤ8Aの他端部は、膝装具3に設けられたワイヤ固定部14において強固に固定される。ワイヤ8Bは、一端が滑車29の回転軸29Aに固定され、下腿装具4側に延びる。下腿装具4側に延びるワイヤ8Bは、アクチュエータ9の反転部20により経路が反転され、膝関節部側に延びる。そして、膝関節側に延びるワイヤ8Bの他端部は、膝装具3に設けられたワイヤ固定部14においてワイヤ8Aとともに強固に固定される。
【0054】
本例に係る動作アシスト装置1によれば、アクチュエータ9の収縮量よりも大きな牽引量でワイヤ8が牽引されるため、よりストローク量の小さいアクチュエータを採用することができる。
【0055】
なお、本例においては、反転部20を構成する複数の滑車の段数は、これに限られるものではなく、滑車の段数については、必要とされる牽引量に収縮量を倍化できるように適宜設定すれば良い。例えば各装具とは別の部位を固定端として設定しても良い。
【0056】
なお、本実施形態では、アクチュエータ9を2つの人工筋肉18;18により構成したが、必要とされるアシスト力に応じて1つ、若しくは3つ以上を並列に設けても良い。また、アクチュエータ9を人工筋肉18により構成するとして説明したが、駆動源として空気を用いる場合には、エアシリンダ等であっても良い。また、駆動源として電力を用いる場合には、モータとボールねじ機構を組み合わせて、滑車10を牽引するようにしても良い。つまり、ワイヤ8を牽引し得る伸縮動作可能なアクチュエータであればその種別は問わない。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E