【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
実施例1 WT1ペプチド/HLA−A24複合体特異的scFvのスクリーニング
(1) WT1ペプチド/HLA−A24複合体の調製
配列番号1に示すアミノ酸配列を有するWT1ペプチドを合成した(北海道バイオシステムズ社)。また、C末端にビオチン化サイトを有するHLA−A24重鎖の細胞外フラグメント(配列番号2)及び配列番号3に示すアミノ酸配列を有するβ2−ミクログロブリン(β2M)を大腸菌で発現させ精製した。10mgのWT1ペプチド、13.2mgのβ2M、18.6mgのHLA−A24重鎖の細胞外フラグメントを200mLの溶液(100mM Tris−HCl(pH8)、400mM L−Arginine−HCl、2mM Na2EDTA、5mM red. glutathione、0.5M oxid.glutathione、0.1mM PMSF、0.2mg pepstatin、0.2mg leupeptin)中で混合したのち、蒸留水による透析、Labscale TFFシステム(ミリポア社製)及びアミコンウルトラ10k(ミリポア社製)による濃縮を行った。濃縮物をAKTA(GE社製)による分画に供してWT1ペプチド/HLA−A24複合体を取得した。WT1ペプチドと同様に、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)、SAGE(肉種抗原)、Her2(ヒト表皮成長因子受容体2型)、CMV(サイトメガロウイルス)、EBNA(エプステインバーウイルス核内抗原)由来のHLA−A24拘束性ペプチドとHLA−A24の複合体を調製した。次いでWT1ペプチド/HLA−A24複合体をビオチンリガーゼ(AVIDITY社製)によりビオチン化した。ビオチン化物についてAKTAにて再度の精製を行い、これをA24−WT1とした。
【0049】
(2) scFvのスクリーニング
実施例1−(1)で調製したA24−WT1 20μgを、ストレプトアビジンを結合させた磁気ビーズ200mgと混ぜ、0.05% Tween/PBS溶液中、4℃で通夜反応させたのち、これに3μLの2mM ビオチン/PBSを入れて1時間反応させた。これを0.05% Tween/PBS溶液にて2回洗浄したのち、0.05% Tween/PBS溶液400μLに懸濁し、これを抗原ビーズ液とした。
反応液として、ヒトBリンパ細胞に由来する抗体のファージライブラリ溶液1×10
13cfu相当、100μgのストレプトアビジン(PIERCE社製)、実施例1−(1)で調製した50μgのA24−CMV、50μgのA24−Her2、1% Triton X−100/PBSを作製し、これを室温で1時間回転混和したのち、抗原ビーズ液100μLを混ぜて1時間回転混和した。
【0050】
その後、マグネットトラッパー(東洋紡社製)にてトラップした磁性ビーズを1% Triton X−100/PBSにて5回洗浄したのちPBSにて1回洗浄した。洗浄後に回収した磁性ビーズを培養した大腸菌DH12Sに加え、37℃にて1時間感染させた。それを200μg/mL アンピシリン、1% glucoseを含む2×YT培地(2×YTAG)500mLにて30℃通夜培養した。
【0051】
1mLの培養液に200mM アンピシリンを含む2×YT培地(2×YTA)5mL及びヘルパーファージM13KO7 50μLを入れ、37℃にて1時間培養したのち、50μM カナマイシン、200μM アンピシリンを含む2×YT(2×YTAK)500mLを入れ、30℃通夜培養した。これを遠心して得られた上清に100mLの20% PEG#600、2.5M NaCl溶液を入れて混和し、遠心して沈殿を回収した。これを10mL PBSにて懸濁したのち、フィルター滅菌した。抗原ビーズ液とのインキュベーションからフィルター滅菌までの操作を4回繰り返し、4回目終了後、回収された大腸菌をLBGA plate(200μg/mL アンピシリン、0.1% glucoseの入った普通寒天培地(日水社製))に蒔いた。30℃にて培養し、得られたコロニーを2×YTAG培地にて30℃通夜培養し、培養液の一部を使用してminiprep DNA kit(QIAGEN社製)にてDNAを調整し、配列決定を行った。この段階で19個のクローンが陽性、すなわちA24−WT1との結合能を有すると判断した。また、培養液50μLを1.5mlの2×YTAI(0.5mMのIPTGを入れた2×YTA培地)と混ぜ、30℃通夜培養したのち、遠心して上清のファージ液をとった。このファージ液をELISA法に使用した。
【0052】
(3) WT1ペプチド/HLA−A24複合体特異的クローンの取得
Maxisop loose(NUNC社製)にPBS 50μLに懸濁された500ng neutraavidin(PIERCE社製)を入れて4℃にて通夜振盪しプレートにneutraavidinを固定化した。終了後、液を捨て、200μLの2% BSA/PBSを入れ、通夜静置した。このプレートに、実施例1−(1)で調製したA24−WT1を300ng/50μL PBSとなるように入れ、4℃にて通夜振盪した。終了後、PBSにて洗浄し抗原plateとした。コントロールとして、実施例1−(1)で調製したA24−hTERT、A24−SAGE、A24−Her2、A24−CMV、A24−EBNAのHLA−A24拘束性ペプチドを使用し、実施例1−(1)と同様にビオチン化したHLA−A24複合体を調製して抗原固定化プレートを調製した。
それぞれの抗原固定化プレートに実施例1−(2)で調製したファージ液100μLを入れ、室温にて1時間振盪したのち、プレートをPBSにて洗浄し、次いで0.05% Tween20/PBSにて2000倍希釈した抗cp3ウサギ抗体100μLを入れて室温にて1時間振盪した。プレートをPBSにて洗浄したのち、0.05% Tween20/PBSにて4000倍希釈したHRP標識抗ウサギIgG(MBL社製)100μLを入れて室温にて1時間振盪した。プレートをPBSにて洗浄したのち、0.01% H
2O
2、0.1M Na
2PO
4、0.1M citric acid(pH5.1)にて懸濁させたOPD(WAKO社製)を反応させ、発色を確認したら2N 硫酸にて停止させ、SpectraMax M2(モレキュラーデバイス社製)にて490nmの波長にて吸光度を測定した。
【0053】
実施例1−(2)で取得したファージクローン19個の中から、WT1ペプチド/HLA−A24複合体と特異的に結合するWT#213クローンを取得した。さらに、WT#213クローンの濃度を変化させてWT1ペプチド/HLA−A24複合体とのアフィニティーを確認した。その結果を
図1及び
図2に示す。なお、
図2の縦軸は吸光度、横軸はWT#213クローンの希釈度を示す。
図1及び
図2から、WT#213クローンが提示しているscFvは、WT1ペプチド/HLA−A24複合体との結合特異性が非常に高く、アフィニティーが高いことを確認した。
【0054】
(4) WT#213クローンの評価
WT#213クローンのscFvとWT1ペプチド/HLA−A24複合体の解離定数測定は、Biacore(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を使用した。WT#213クローンを固定化し、WT1ペプチド/HLA−A24複合体をアナライトとして測定した。ランニングバッファーとしてHBSバッファー(0.01M HEPES(pH7.4)、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%(v/v) Surfactant P20)を用いた。データの解析には、分析ソフトウェアを用いて、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)及びアフィニティー(KD)を算出した。その結果は、ka値は3.01e
4、kd値は0.117、KD値は3.89μMであった。解析グラフを
図3に示す。
図3から、WT#213クローンのscFvはKD値が高く、kdの曲線もなだらかであることから、このscFvは抗原との結合力が強く、かつ離れにくいことが確認された。
【0055】
実施例2 WT#213scFvの評価
(1) WT1scFvテトラマーの調製
WT#213クローンのscFvのVHの塩基配列を配列番号4に、VLの塩基配列を配列番号5に示す。また、VHのアミノ酸配列を配列番号6に、VLのアミノ酸配列を配列番号7に示す。なお、VHのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号8、9、10に、VLのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11、12、13にそれぞれ示す。
さらに、scFvをコードするDNAフラグメントを、WT#213クローンから抽出したDNAを鋳型としたPCRにより調製した。プライマーは、Fプライマー(配列番号14)及びRプライマー(配列番号15)を使用した。米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U S A)、2003年、第100巻、第13号、第7480−7485頁を参考に、増幅したDNAフラグメントをpHisAviの制限酵素サイトSalI−AscIに挿入し、得られたプラスミドをpWT#213scFvHisAviとした。pWT#213scFvHisAviは、PelBリーダー、Hisタグ、WT#213scFv及びAviタグを有する融合タンパク質、並びにPelBリーダー及びビオチンリガーゼ(BirA)を有する融合タンパク質を発現する。pWT#213scFvHisAviで形質転換した大腸菌DH5α株を、0.5mg/mL IPTG及び2μM ビオチンを含む2×YTA培地(2×YTAIB培地)500mLで、30℃通夜培養した。培養液を遠心(8000rpm、4℃で10分)して得られた上清に硫安145.5gを入れて50%飽和とし、完全に溶解させた。これを遠心(8000rpm、4℃で10分)して回収した沈殿をcomplete(ロシュ社製)を入れたPBSにて懸濁した。懸濁液を遠心(100,000rpm、4℃で30分)したのち、回収した上清を0.45μmフィルター(ミリポア社製)にてろ過し、次いでろ液をNi−NTA agarose(QIAGEN社製)カラムにアプライし、さらにカラムを0.1% Tween20/PBS、及びPBSにて洗浄した。カラムに結合したタンパク質を50mM citrate(pH2.5)にて溶出したのち、3M Trisにて中和した。次いで、PBSによる透析を行い、アミコンウルトラ(ミリポア社製)による濃縮を行った。
【0056】
以上の操作で得られたタンパク質13μgをPE標識Streptavidin(Prozyme社製)4μgと混ぜ、全体容量を400mLになるよう、0.05% NaN
3/PBSを加え、遮光して4℃にてゆっくりと通夜回転混和し、WT#213scFvテトラマーを調製した。
【0057】
(2) WT1ペプチドパルスLCLとWT#213scFvとの反応性
RPMI培地中で、HLA−A24陽性細胞であるリンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell line、以下LCL)を実施例1−(1)で調製したWT1ペプチドで24時間パルスした。パルスしたLCLをPBSで洗浄し、実施例2−(1)で調製したWT#213scFvテトラマーを添加し、4℃で1時間静置した。LCLをPBSで洗浄し、1% パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定化して、フローサイトメトリーを実施した。コントロールとしてペプチドをパルスしないLCLを同様に調製した。結果を
図4に示す。
図4から、WT#213scFvはWT1ペプチドをパルスしたLCLに反応性を示すことが確認された。
【0058】
(3) WT1ペプチドパルスT2A24とWT#213scFvとの反応性
HLA−A24陽性細胞であるT2A24を使用し、実施例2−(2)と同様にWT1ペプチドをパルスし、WT#213scFvの反応性を確認した。コントロールとして、CMVペプチドをパルスした細胞を調製した。結果を
図5に示す。
図5から、WT#213scFvはWT1ペプチドに特異的に反応することが確認された。
【0059】
(4) WT1発現腫瘍細胞とWT#213scFvとの反応性
HLA−A24陽性細胞で内因性にWT1を発現しているヒト巨核芽球白血病細胞株であるMEG−01を使用して、WT#213scFvとの反応性を実施例2−(2)と同様に確認した。コントロールとして、HLA−A24陽性細胞であるがWT1を発現しないヒト口腔扁平上皮がん細胞株であるHSC−2を使用した。結果を
図6に示す。また、コントロールとして、HLA−A2及びWT1を発現するK562−A2細胞も使用し、WT#213scFvに反応性が見られないことを確認した。以上より、WT#213scFvはWT1ペプチドをHLA−A24拘束性に反応することが確認された。
【0060】
実施例3 キメラ抗原受容体(CAR)
(1) WT#213scFvを有するCARを発現するレトロウイルスプラスミドの調製
国際公開第2013/051718号パンフレットに記載されるpMS3−EGFR−LC−zG−CARプラスミドベクターの、EGFRに対するscFv及びヒトIgG−CL(軽鎖定常領域)ドメインコードするDNAを、実施例2−(1)で調製したWT#213scFvをコードするDNAフラグメントに置換してpMS3−WT#213−zG−CARプラスミドベクターを調製した。このベクターは、N末端から順に、リーダー配列、WT#213scFv、CD28膜貫通領域(TM)、CD3ζ鎖細胞内ドメイン、GITR(グルココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体)細胞内ドメインを有するCARを発現する。このCARをWT#213CARとする。
【0061】
(2) レトロウイルス溶液の作製
実施例3−(1)で作製したプラスミドベクターにより大腸菌JM109を形質転換し、形質転換体を得た。これら形質転換体の保持するプラスミドDNAをNucleoBond Xtra Midi Kit(マッハライナーゲル社製)を用いてそれぞれ精製し、トランスフェクション用DNAとして以下の操作に供した。
調製したトランスフェクション用DNAのそれぞれとRetorovirus Packaging Kit Eco(タカラバイオ社製)に含有されるpGPベクター、pEecoベクターを293T細胞にそれぞれトランスフェクトした。この操作は前記キットの製品プロトコールに従って行った。得られた形質導入細胞のそれぞれよりエコトロピックウイルスを含有する上清液を獲得し、0.45μmフィルター(Milex HV、ミリポア社製)にてろ過した。この上清を用いて、ポリブレンを使用する方法によりPG13細胞(ATCC CRL−10686)にエコトロピックウイルスを感染させた。得られた細胞の培養上清を回収し、0.45μmフィルターによりろ過し、WT#213CAR発現用レトロウイルス溶液とした。
【0062】
(3) WT#213CARの発現
インフォームドコンセントを得て採取されたヒト末梢血より分離した末梢血単核球(PBMC)に、実施例3−(2)で作製したWT#213CAR発現用レトロウイルス溶液を、レトロネクチン(登録商標、タカラバイオ社製)を用いた標準的な方法で2回感染させ、WT#213CAR発現PBMCを作製した。
ウイルス感染から14日後の細胞(GMC)及びコントロールとしてベクターを導入しなかったPBMC(NGMC)を、抗ヒトIgG Lambda抗体及びAlexa Flour 488標識 抗Rabbit IgG抗体により染色した。また別に、PE(フィコエリスリン:ベクトンディッキンソン社製)標識WT1−A24テトラマーを添加した。フローサイトメーターを使用し、染色後の細胞について、蛍光標識陽性である細胞の割合、すなわちCARが陽性である細胞及びWT1ペプチド/HLA−A24複合体に結合するCARが陽性である細胞の割合を測定した。その結果を
図7に示す。
図7に示すように、高いCAR陽性率が確認され、細胞表面にWT1ペプチド/HLA−A24複合体に結合するCARが発現していることが分かった。
【0063】
(4) WT#213CAR発現細胞の機能評価(サイトカイン産生、マーカーの発現)
実施例3−(3)で調製したウイルス感染14日後のWT#213CAR発現細胞を回収し、96−wellプレートにて細胞内サイトカインの染色を以下の通り行った。細胞内輸送阻害剤BrefeldinA(シグマ社製)を含む培地で上記WT#213CAR発現細胞(GMC)及びコントロールとしてベクターを導入しなかったPBMC(NGMC)を1.0×10
6cells/mLとなるように懸濁した懸濁液を、前記プレートの1ウェルあたり100μL添加した。さらに、T2A24細胞株にWT1ペプチドをパルスした細胞の1.0×10
6cells/mL懸濁液を100μL添加し、5時間共培養させた。コントロールとして、WT1ペプチドをパルスしないT2A24細胞株及びCMVペプチドをパルスしたT2A24細胞株を使用し、同様の操作を行った。それぞれ共培養させた細胞を抗Human CD8抗体及び抗Human CD4抗体により染色した後、IntraPrep Reagent(ベックマンコールター社製)処理を行い、抗Human IFNγ抗体、抗Human CD107a抗体及び抗Human Mip1b抗体により染色を行った。フローサイトメーターを使用し、染色後の細胞について、CD8陽性細胞中又はCD4陽性細胞中の各サイトカイン産生細胞の割合を測定した。
図8に結果を示す。
図8に示す通り、WT#213CAR発現細胞(GMC)は、WT1ペプチドを認識して各種サイトカイン、マーカーを産生することが確認された。
【0064】
(5) WT#213CAR発現細胞の機能評価(細胞傷害活性)
実施例3−(3)で調製したウイルス感染14日後のWT#213CAR発現細胞(GMC)を回収し、96−wellプレートにてCalsein release assayによって細胞傷害活性を測定した。Calsein−AM(同仁化学社製)を取り込ませたT2A24細胞株、K562−A2細胞株及びMEG−01細胞株を1.0×10
5cells/mLとなるように懸濁した。T2A24細胞株については、WT1ペプチドをパルスした細胞、CMVペプチドをパルスした細胞及びパルスしない細胞を準備した。各細胞1ウェルあたり100μL添加し、上記WT#213CAR発現細胞及びコントロールとしてベクターを導入しなかったPBMC(NGMC)を懸濁し、ET比が20、10、5、2.5となるように100μL添加した。PBMCの代わりに、Low controlとして培地を、High controlとして0.1% Triton X−100を100μL添加するウェルを用意した。細胞及びコントロールを調製した後、96−wellプレートを5.0% CO
2ガスで平衡化した37℃ CO
2インキュベーター中で4時間保温した。次いで、上清100μLについてλ
ex=490nm、λ
em=515nmにて蛍光強度を測定し、放出Calsein量を測定した。細胞傷害活性(Lysis)を下式によって算出した結果を
図9に示す。
【0065】
細胞傷害活性(%)=100×(各ウェルの測定値−Low controlの測定値)/(High controlの測定値−Low controlの測定値)
【0066】
図9に示すように、WT1ペプチドをパルスしたT2A24細胞株においてWT#213CARを導入したPBMCによる高い細胞傷害活性が見られた。CMVペプチドをパルスした細胞株及びペプチドをパルスしていない細胞株に対して反応性を示さないことから、WT#213CARは高い特異性を有していることが確認された。また、共にWT1を内因性に発現しているK562−A2細胞株及びMEG−01細胞株について、HLA−A24陽性のMEG−01細胞株に対する細胞傷害活性が確認された。また、HLA−A24陰性のK562−A2細胞株特異的な細胞傷害活性は確認されなかっこのことは、WT#213CARはWT1ペプチドをHLA−A24拘束性に反応することを示している。
【0067】
実施例4 担癌動物を用いた評価
(1) WT#213CAR発現T細胞群の調製
インフォームドコンセントを得て採取されたヒト末梢血より分離したPBMC5.3×10
5cellsを、0.2%のヒト血清アルブミン(HSA)、600IU/mLのIL−2、0.6%の血漿を含むGT−T503培地(タカラバイオ社製)中に懸濁し、5μg/mLのOKT−3(eBioscience社製)及び25μg/mLのレトロネクチン(タカラバイオ社製)を固層化したプレートに播種し、5.0%CO
2ガスで平衡化した37℃ CO
2インキュベーター中で4日間培養しT細胞の拡大培養を行った。このT細胞に、実施例3−(2)で作製したWT#213CAR発現用レトロウイルス溶液を、標準的な方法で2回感染させた。感染させたT細胞を、0.2%のヒト血清アルブミン(HSA)、600IU/mLのIL−2、0.6%の血漿を含むGT−T503培地でさらに4日間培養し、WT#213CAR発現T細胞群を調製した。培養開始後8日目のT細胞群のCARの発現を実施例3−(3)と同様の方法で測定した。その結果、T細胞群に含まれるリンパ球のうち87.7%がCD8陽性細胞で、そのうち94%の細胞がCARを発現していることを確認した。また、T細胞群に含まれるリンパ球のうち7.8%がCD4陽性細胞で、そのうち98%の細胞がCARを発現しており、WT#213CARの高い発現率を確認した。
【0068】
(2) 担癌マウスにおけるWT#213CAR発現T細胞の効果
8〜10週令のNOGマウス(NOD/Shi−scid、IL−2γ KO)((財)実験動物中央研究所)に2.5Gyの放射線照射を行った。翌日、各マウスの左背部に、WT1陽性、HLA−A24陰性のK562細胞株2.5×10
6cellsを皮下注射し、右背部にWT1陽性、HLA−A24陽性のK562−A24細胞株2.5×10
6cellsを皮下注射した。同時に、実施例4−(1)で調製したWT#213CAR発現T細胞1.0×10
7cellsを静脈注射した。また、コントロールとして、ウイルス液を感染させていないT細胞を注射したマウス及びT細胞の代わりにPBSを注射したマウスを用意した。マウスは各群5匹を使用した。注射後2〜3日毎に腫瘍径及び体重を測定した。腫瘍径は、腫瘍の最大直径と最小直径を測定してその数値を乗じることにより算出した。
【0069】
腫瘍径(mm
2)=最大直径(mm)×最小直径(mm)
【0070】
図10にそれぞれのマウスにおけるK562細胞株及びK562−A24細胞株の腫瘍径と体重の経時変化を示す。図中、GMCはWT#213CAR発現T細胞を静脈注射したマウス、NGMCはウイルス液を感染させていないT細胞を注射したコントロールのマウス、PBSはT細胞の代わりにPBSを注射したコントロールのマウスをそれぞれ示す。横軸は日数、縦軸は腫瘍径の積を示す。WT#213CAR発現T細胞を輸注したマウスでのみ、K562−A24細胞株の腫瘍の増殖抑制が確認された。このことは、WT#213CARはWT1ペプチドをHLA−A24拘束性に腫瘍増殖を抑制することを示している。また、各マウスの体重に差が見られず、WT#213CARの高い安全性を確認した。