(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6699080
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】切削インサート及び転削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/22 20060101AFI20200518BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
B23C5/22
B23C5/10 D
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-190864(P2019-190864)
(22)【出願日】2019年10月18日
【審査請求日】2019年10月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋介
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0336734(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/014977(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0348599(US,A1)
【文献】
国際公開第2017/085711(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/013115(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0155005(US,A1)
【文献】
米国特許第9168590(US,B2)
【文献】
国際公開第2007/149035(WO,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102015014907(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/22
B23C 5/10
B23B 27/16
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端面と、
第2端面とを備え、
前記第1端面と前記第2端面とを貫通する貫通穴が形成され、
前記第1端面と前記第2端面とに接続される第1周側面と、
前記第1端面と前記第2端面と前記第1周側面に接続され、前記貫通穴の中心軸に対し前記第1周側面と回転対称に形成される第2周側面と、
前記第1端面と前記第2端面と前記第2周側面に接続され、前記貫通穴の中心軸に対し前記第2周側面と回転対称に形成される第3周側面と、
前記第1端面と前記第1周側面との接続部に形成される第1主切れ刃と、
前記第1端面と前記第2周側面との接続部に形成される第2主切れ刃と、
前記第1端面と前記第3周側面との接続部に形成される第3主切れ刃と、
を備え、
前記第1周側面は、
前記第1主切れ刃に隣接する第1すくい面と、
前記第2端面に接続され、前記第1すくい面から前記貫通穴の中心軸に向かって窪んで形成される第1凹面を備え、
前記第1凹面は、前記貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、前記貫通穴の中心軸と前記第2主切れ刃との距離よりも、前記第2主切れ刃との距離が小さい位置に設けられた第1拘束面を有し、
前記第2周側面は、前記貫通穴の中心軸に対し前記第1凹面及び前記第1拘束面とそれぞれ回転対称に形成される第2凹面及び第2拘束面とを有し、
前記第3周側面は、前記貫通穴の中心軸に対し前記第2凹面及び前記第2拘束面とそれぞれ回転対称に形成される第3凹面及び第3拘束面とを有し、
前記第1凹面は、
前記第2端面と同じ方向を向いた第1底面と、
前記第1底面から立設し、前記第2端面に接続する第1壁面とを有し、
前記第1壁面は、前記第1拘束面を有し、
前記第1拘束面は、第1平面部を有し、
前記貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、前記第1平面部と前記第2主切れ刃
とがなす角は、−40度以上40度以下である、
切削インサート。
【請求項2】
前記第2周側面は、前記第1周側面と120度回転対称に形成され、
前記第3周側面は、前記第2周側面と120度回転対称に形成され、
前記第1周側面は、前記第3周側面と120度回転対称に形成され、
前記第1周側面と前記第2周側面との接続部に形成される第1副切れ刃と、
前記第2周側面と前記第3周側面との接続部に形成される第2副切れ刃と、
前記第3周側面と前記第1周側面との接続部に形成される第3副切れ刃と、
を備える請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記第1凹面は、前記貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、前記貫通穴の中心軸と前記第2主切れ刃との距離よりも、前記第2主切れ刃との距離が大きい位置に設けられた第1副拘束面を有し、
前記第2凹面は、前記貫通穴の中心軸に対し前記第1副拘束面と回転対称に形成される第2副拘束面を有し、
前記第3凹面は、前記貫通穴の中心軸に対し前記第2副拘束面と回転対称に形成される第3副拘束面を有する、
請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、前記第1平面部は、前記第1主切れ刃と離れるほど前記第2主切れ刃に近付くように形成される、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記第1壁面は、前記貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、前記貫通穴の中心軸と前記第2主切れ刃との距離よりも、前記第2主切れ刃との距離が大きい位置に設けられた第1副拘束面を有し、
前記第1副拘束面は、第1副平面部を有し、
前記貫通穴の中心軸に平行な前記第2端面に対向する方向から見たときに、前記第1平面部に対する前記第1副平面部の角度は、0度以上90度以下である、
請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の切削インサートと、
回転軸を中心に回転し、前記切削インサートが取り付けられるボデーと、
を備える転削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び転削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、縦置きすることにより、低抵抗と高剛性の両立を可能とする切削インサートが知られている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、このような切削インサート及び切削インサートが装着された転削工具が示されている。また、非特許文献1には、低抵抗と高剛性を兼ね備えたエンドミルが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/068922号
【特許文献2】国際公開第2011/013115号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】京セラ株式会社、「高性能エンドミル MEV」、2019年10月、インターネット<https://www.kyocera.co.jp/prdct/tool/wp-content/uploads/2019/09/MEV.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような切削インサートは、ボデーに装着された際に、ボデーの回転軸を基準とする円周方向に大きな長さを有する。このため、切削インサートは、切削インサートの厚みに相当する距離だけ切れ刃から離れた位置において、ボデーによって支持されていた。
【0007】
本願の発明者らは、切れ刃から遠く離れた位置においてボデーによって支持される場合、切削インサートをボデーに固定するためのねじに大きな負荷がかかり、刃先位置が安定しない問題に着目した。
【0008】
そこで本発明は、切れ刃に負荷がかかっても、刃先位置を安定させることが可能となる切削インサート及び転削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る切削インサートは、第1端面と、第2端面とを備える。また、第1端面と第2端面とを貫通する貫通穴が形成される。そして、第1端面と第2端面とに接続される第1周側面と、第1端面と第2端面と第1周側面に接続され、貫通穴の中心軸に対し第1周側面と回転対称に形成される第2周側面と、第1端面と第2端面と第2周側面に接続され、貫通穴の中心軸に対し第2周側面と回転対称に形成される第3周側面と、第1端面と第1周側面との接続部に形成される第1主切れ刃と、第1端面と第2周側面との接続部に形成される第2主切れ刃と、第1端面と第3周側面との接続部に形成される第3主切れ刃と、を備える。更に、第1周側面は、第1主切れ刃に隣接する第1すくい面と、第2端面に接続され、第1すくい面から貫通穴の中心軸に向かって窪んで形成される第1凹面を備え、第1凹面は、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、貫通穴の中心軸と第2主切れ刃との距離よりも、第2主切れ刃との距離が小さい位置に設けられた第1拘束面を有し、第2周側面は、貫通穴の中心軸に対し第1凹面及び第1拘束面とそれぞれ回転対称に形成される第2凹面及び第2拘束面とを有し、第3周側面は、貫通穴の中心軸に対し第2凹面及び第2拘束面とそれぞれ回転対称に形成される第3凹面及び第3拘束面とを有する。
【0010】
このような構成によれば、第2主切れ刃を用いて切削する際、第1主切れ刃に対応する第1周側面が備える第1凹面を用いて切削インサートを支持させることが可能になる。第1凹面は、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、貫通穴の中心軸と第2主切れ刃との距離よりも、第2主切れ刃との距離が小さい位置に設けられた第1拘束面を有する。従って、この第1拘束面を用いて切削インサートを支持させることにより、第1拘束面に作用するモーメントを小さくすることが可能になる。貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときの、第1拘束面と第2主切れ刃との距離が小さいほど、第1拘束面に作用するモーメントを小さくすることが可能になるため、この距離は、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときの、貫通穴の中心軸と第2主切れ刃との距離の半分以下であることが好ましい。但し、第1拘束面と第2主切れ刃との距離を小さくし過ぎると、剛性が損なわれる点に留意しなければならない。
【0011】
ここで、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときの、貫通穴の中心軸と第2主切れ刃との距離とは、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときの、貫通穴の中心軸と第2主切れ刃との最小距離のことである。ただし、第2主切れ刃は、必ずしも直線でなくてもよい。また、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときの、第1拘束面と第2主切れ刃との距離とは、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときの、第1拘束面と第2主切れ刃との最小距離のことである。なお、第1拘束面は、平面部を有してもよいが、曲面から構成されてもよい。
【0012】
また、第2周側面は、第1周側面と120度回転対称に形成され、第3周側面は、第2周側面と120度回転対称に形成され、第1周側面は、第3周側面と120度回転対称に形成されてもよい。
【0013】
このような構成によれば、第2主切れ刃を用いて切削する際、第1凹面の第1拘束面と第3凹面とを用いて切削インサートを支持させることが可能になる。また、第3主切れ刃を用いて切削する際、第2凹面の第2拘束面と第1凹面とを用いて切削インサートを支持させることが可能になる。また、第1主切れ刃を用いて切削する際、第3凹面の第3拘束面と第2凹面とを用いて切削インサートを支持させることが可能になる。
【0014】
また、第1周側面と第2周側面との接続部に形成される第1副切れ刃と、第2周側面と第3周側面との接続部に形成される第2副切れ刃と、第3周側面と第1周側面との接続部に形成される第3副切れ刃とを更に備えてもよい。
【0015】
このような構成によれば、底面と壁面などを主切れ刃と副切れ刃を用いて同時に切削することが可能であるから、フライス、エンドミルなどの転削工具に好適に使用できる切削インサートを提供することが可能になる。
【0016】
なお、主切れ刃と副切れ刃との間には、主切れ刃及び副切れ刃と接続するコーナ切れ刃を設けてもよい。ラジアスエンドミル用の切削インサートのように、コーナ切れ刃は、大きな曲率半径を有してもよい。また、ランピング加工が可能なように、副切れ刃を設けてもよい。
【0017】
第1凹面は、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、貫通穴の中心軸と第2主切れ刃との距離よりも、第2主切れ刃との距離が大きい位置に設けられた第1副拘束面を有し、第2凹面は、貫通穴の中心軸に対し第1副拘束面と回転対称に形成される第2副拘束面を有し、第3凹面は、貫通穴の中心軸に対し第2副拘束面と回転対称に形成される第3副拘束面を有してもよい。
【0018】
このような構成によれば、第2主切れ刃を用いて切削する際、第1凹面の第1拘束面と第3凹面の第3副拘束面とを用いて切削インサートを支持させることが可能になる。また、第1主切れ刃を用いて切削する際、第3凹面の第3拘束面と第2凹面の第2副拘束面とを用いて、また、第3主切れ刃を用いて切削する際、第2凹面の第2拘束面と第1凹面の第1副拘束面とを用いて、切削インサートを支持させることが可能になる。
【0019】
また、第1凹面は、第2端面と同じ方向を向いた第1底面と、第1底面から立設し、第2端面に接続する第1壁面とを有し、第1壁面は、第1拘束面を有し、第1拘束面は、第1平面部を有し、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、第1平面部と第2主切れ刃とがなす角は、−40度以上40度以下としてもよい。
【0020】
このような構成によれば、第1拘束面は、切削インサートが回転する方向を向く面となるから、第2主切れ刃に作用する切削抵抗を好適に受け止めることが可能になる。また、第1平面部と第2主切れ刃とがなす角が−40度以上40度以下であるから、それ以外の角度を有する場合と比較して、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときにボデーの回転軸と直角方向に作用する切削抵抗を好適に受け止めることが可能になる。
【0021】
また、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、第1平面部は、第1主切れ刃と離れるほど第2主切れ刃に近付くように形成されていてもよい。
【0022】
このような構成によれば、第2主切れ刃が正のアキシャルレーキを有するように切削インサートをボデーに取り付けた際に、第2主切れ刃よりも第1拘束面を、ボデーの回転軸に対して平行に近付けるように構成することが可能になる。従って、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときにボデーの回転軸と直角方向に作用する切削抵抗を好適に受け止めることが可能になる。
【0023】
また、第1壁面は、第1副拘束面を有し、第1副拘束面は、第1副平面部を有し、貫通穴の中心軸に平行な第2端面に対向する方向から見たときに、第1平面部に対する第1副平面部の角度は、0度以上90度以下となるようにしてもよい。
【0024】
このような構成によれば、第2主切れ刃を用いて切削する際、第1凹面の第1拘束面と第3凹面の第3副拘束面とを用いて切削インサートを支持させることが可能になる。特に120度回転対称に第1凹面乃至第3凹面を設ける場合、貫通穴の中心軸に平行な第2端面に対向する方向から見たときに、第3副拘束面を第2主切れ刃に対して0度以上90度以下となるように設けることが可能になる。従って、第1凹面の第1副拘束面と協働して、切削インサートを安定して支持させることが可能になる。同様に、第1主切れ刃を用いて切削する際、第3凹面の第3拘束面と第2凹面の第2副拘束面とを用いて、また、第3主切れ刃を用いて切削する際、第2凹面の第2拘束面と第1凹面の第1副拘束面とを用いて、切削インサートを安定して支持させることが可能になる。
【0025】
また、本開示の一側面に係る転削工具は、このような切削インサートと、回転軸回りに回転し、切削インサートが取り付けられるボデーと、を備えてもよい。
【0026】
このような転削工具によれば、切れ刃に負荷がかかっても、刃先位置を安定させることが可能となる。
【0027】
また、回転軸を中心に回転するボデーに取り付けられる切削インサートは、ボデーに取り付けられたときに外径方向を向く第1端面と、ボデーに取り付けられたときに内径方向を向く第2端面とを備え、第1端面と第2端面とを貫通する貫通穴が形成され、第1端面と第2端面とを接続し、ボデーに取り付けられたときに、回転方向を向く第1周側面と、第1周側面と第1端面との接続部に形成された第1主切れ刃と、第1端面と第2端面とを接続し、ボデーに取り付けられたときに、ボデーの基端から先端に向かう回転軸方向を向く第2周側面とを備え、第2周側面は、貫通穴の中心軸に向かって凹む凹面であって、貫通穴の中心軸に平行な方向から見たときに、貫通穴の中心軸と第1主切れ刃との距離よりも、第1主切れ刃との距離が小さい第1拘束面が設けられた凹面を有してもよい。
【0028】
更に、第2周側面と第1端面との接続部に形成された第2主切れ刃と、第1端面と第2端面とを接続する第3周側面と、第3周側面と第1端面との接続部に形成された第3主切れ刃とを備え、第1主切れ刃と、第2主切れ刃と、第3主切れ刃とは、貫通穴の中心軸に対し、120度回転対称に形成され、第1周側面と、凹面を有する第2周側面と、第3周側面とは、貫通穴の中心軸に対し、120度回転対称に形成されてもよい。
【0029】
また、凹面は、第2端面に接続し、第1端面の面積は、第2端面の面積より大きくてもよい。
【0030】
また、第1周側面と第2周側面との接続部に形成された第1副切れ刃と、第1副切れ刃と第1主切れ刃とに接続された第1コーナ切れ刃と、を更に備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】切削インサート10を第1端面側から見た斜視図
【
図2】切削インサート10を第2端面側から見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0033】
図1は、実施形態に係る切削インサート10を第1端面12側から見た斜視図である。
図2は、切削インサート10を第2端面14側から見た斜視図である。また、
図3乃至
図5は、それぞれ、切削インサート10の平面図、左側面図及び背面図である。
【0034】
切削インサート10の第1端面12は、第1主切れ刃18A、第2主切れ刃18B及び第3主切れ刃18Cの逃げ面として機能する面を有する。第1端面12は、例えば、三角形状に形成され、頂点に相当する3つのコーナ部と、頂点同士を接続する3つの辺を備える。第2端面14(
図2)は、第1端面12と反対方向を向いて形成されている。また、切削インサート10には、第1端面12の中心と第2端面14の中心を貫通する貫通穴Hが形成される。貫通穴Hの中心軸AX(
図3)は、第1端面12及び第2端面14と略垂直である。
【0035】
切削インサート10は、貫通穴Hの中心軸AXに対し、120度回転対称に形成される。従って、第1周側面16A、第2周側面16B及び第3周側面16Cは、120度回転対称に形成される。同様に、第1主切れ刃18A、第2主切れ刃18B及び第3主切れ刃18C、並びに、第1副切れ刃20A、第2副切れ刃20B及び第3副切れ刃20Cは、それぞれ、120度回転対称に形成され、同一構造を備える。
【0036】
第1周側面16Aは、中心軸AX方向の端部において、第1端面12及び第2端面14と接続されている。また、中心軸AXを基準とする周方向端部において、第2周側面16B及び第3周側面16Cと接続されている。また、第1端面12と、第1周側面16A、第2周側面16B及び第3周側面16Cとの接続部には、それぞれ、第1主切れ刃18A、第2主切れ刃18B及び第3主切れ刃18Cが形成されている。
【0037】
また、第1周側面16Aと第3周側面16Cとの接続部には第1副切れ刃20A、第3周側面16Cと第2周側面16Bとの接続部には第3副切れ刃20C、第2周側面16Bと第1周側面16Aとの接続部には第2副切れ刃20Bが、それぞれ形成されている。
【0038】
また、第1主切れ刃18Aと第1副切れ刃20Aとを接続するコーナ部には、一端において第1主切れ刃18A、他端において第1副切れ刃20Aに接続するように円弧状又は弧状に形成される第1コーナ切れ刃22Aが形成される。但し、第1コーナ切れ刃22Aの曲率は一定でなくてもよく、曲率が、例えば、一部又は全部において漸次増加又は減少して、第1主切れ刃18A又は第1副切れ刃20Aと接続するように構成してもよい。同様に、第1コーナ切れ刃22Aと回転対称に、コーナ切れ刃22B及びコーナ切れ刃22Cが形成される。
【0039】
図1及び
図2に示されるように、第1周側面16Aは、第1主切れ刃18A、第1副切れ刃20A及び第1コーナ切れ刃22Aに隣接する第1すくい面24Aと、第1すくい面24Aから貫通穴Hの中心軸AXに向かって窪んで形成される第1凹面26Aと、第2副切れ刃20Bに隣接して形成される第2副切れ刃20Bの逃げ面と、を備える。
【0040】
第1凹面26Aは、第1すくい面24Aと接続し、第2端面14と同じ方向を向いて形成される第1底面26A1(
図2、
図5)と、第1底面26A1から立設し第2端面14に接続する第1壁面26A2とを有する。
図2及び
図5等に示されるように第1壁面26A2は、第1拘束面26A21及び第1副拘束面26A22を備える。
【0041】
第1拘束面26A21は、第2主切れ刃18Bを切れ刃として切削する際に、ボデー50に当接され、支持されることにより、切削インサート10がボデー50に対して動くことを拘束することが可能となる面である。
【0042】
第5図に示されるように、貫通穴Hの中心軸AXに平行な方向である第2端面14に対向する方向から切削インサート10を見たときに、貫通穴Hの中心軸AXと第2主切れ刃18Bとの距離(両者を結ぶ線分の最小の長さ。以下同じ)よりも、第1拘束面26A21と第2主切れ刃18Bとの距離の方が小さい。従って、第2主切れ刃18Bを切れ刃として切削する際に、第2主切れ刃18Cに作用する切削抵抗を好適に受け止めることが可能になる。第1拘束面26A21と第2主切れ刃18Bとを結ぶ線分との距離は、剛性を保ちうる範囲で、小さい方が拘束面としての機能を発揮するため、好ましくは、貫通穴Hの中心軸AXと第2主切れ刃18Bとの距離の70%以下であり、更に好ましくは、貫通穴Hの中心軸AXと第2主切れ刃18Bとの距離の50%以下となるように第1拘束面26A21は、形成される。ただし、第1拘束面26A21の一部、例えば、周縁部において、上記の範囲外となる領域を有することを妨げるものではない。
【0043】
第1拘束面26A21は、例えば、貫通穴Hの中心軸AXと略平行な平面部分(「第1平面部」の一例)を含むように形成されている。その場合、
図5に示されるように、第1拘束面26A21の平面部分を通過する直線L1を描くことが可能になる。一方で、第2主切れ刃18Bは、貫通穴Hの中心軸AXに平行な方向から見たときに、例えば、直線状をなすように形成されている。その場合、同図に示されるとおり、第2主切れ刃18Bを近似する直線L2を描くことが可能になる。貫通穴Hの中心軸AXに平行な方向から見たときに、例えば、第1拘束面26A21の平面部分は、第1主切れ刃18Aから離れるほど第2主切れ刃18Bに近づくように形成されている。このような構成とすることにより、第2主切れ刃18Bを用いて切削する際に、アキシャルレーキが正となるように切削インサート10をボデー50に取り付けた場合、第1主切れ刃18Aと平行に第1拘束面26A21の平面部分を設ける場合と比較して、第1拘束面26A21の平面部分とボデー50の回転軸の軸方向とがなす角度をより平行に近づけることが可能になる。このため、第1拘束面26A21の平面部分は、ボデー50の回転軸と垂直な方向に作用する切削抵抗を好適に受止めることが可能になる。
【0044】
ただし、第1拘束面26A21の平面部分のなす角度は、上記に限られるものではなく、例えば、直線L2を基準とする直線L1の角度a(
図5)は、−60度より大きく60度より小さくなるように平面部分を形成してもよく、好ましくは、−40度以上40度以下となるように平面部分を形成してもよく、更に好ましくは、0度以上−10度以下となるように平面部分を形成してもよい。
図5では、角度aが−10度以下の場合が示されている。なお、直線L2を基準とする直線L1の角度とは、
図5において、直線L2に対する直線L1の角度を反時計回りを正とし、時計回りを負として定められる。また、第1拘束面26A21は、曲面のみ、又は、平面と曲面から構成されてもよい。例えば、第1拘束面26A21は、平面部分の端部において曲面を有し、この曲面部分においても、ボデー50と当接可能なように構成されてもよい。なお、本実施形態において、第1拘束面26A21は、第2端面14から目視できるように構成されているが、これに限られるものではない。第1拘束面26A21は、第2端面14から目視できない場合であっても、第1凹面26Aのうち第1拘束面26A21に相当する面に関し、上記と同様に構成することができる。例えば、貫通穴Hの中心軸AXに垂直な断面において、同様の構成を有するように、切削インサートを設けてもよい。
【0045】
第1副拘束面26A22は、第3主切れ刃18Cを切れ刃として切削する際に、ボデー50に当接され、支持されることにより、切削インサート10がボデー50に対して動くことを拘束することが可能となる面である。
【0046】
第5図に示されるように、貫通穴Hの中心軸AXに平行な方向である第2端面14に対向する方向から切削インサート10を見たときに、貫通穴Hの中心軸AXと第2主切れ刃18Bとの距離よりも、第1副拘束面26A22と第2主切れ刃18Bとの距離の方が大きい。一方で、貫通穴Hの中心軸AXと第3主切れ刃18Cとの距離よりも、第1副拘束面26A22と第3主切れ刃18Cとの距離の方が小さい。従って、第3主切れ刃18Cを切れ刃として切削する際に、第3主切れ刃18Cに採用する切削抵抗を好適に受け止めることが可能になる。即ち、第1凹面26Aは、貫通穴Hの中心軸AXに平行な方向から見たときに、貫通穴Hの中心軸AXと第2主切れ刃18Bとの距離よりも小さい位置に形成された第1拘束面26A21を有するので、第2主切れ刃18Bを用いて切削する際の拘束面として使用することが可能になるとともに、貫通穴Hの中心軸AXと第3主切れ刃18Cとの距離よりも小さい位置に形成された第1副拘束面26A22を有するので、第3主切れ刃18Cを用いて切削する際の拘束面として使用することが可能になる。
【0047】
第1副拘束面26A22は、例えば、貫通穴Hの中心軸AXと略平行な平面部分(「第1副平面部」の一例)を含むように形成されている。その場合、
図5に示されるように、第1副拘束面26A22の平面部分を通過する直線L3を描くことが可能になる。直線L1を基準とする直線L3の角度bは、0度以上90度以下であることが好ましい。このように構成することで、例えば、第2主切れ刃18Bを用いて切削する際、第1拘束面26A21と、第3副拘束面26C22との二つの異なる方向から、切削インサート10を支持させることが可能になる。第1副拘束面26A22は、曲面のみ、又は、平面と曲面から構成されてもよい。例えば、第1副拘束面26A22は、平面部分の端部において曲面を有し、この曲面部分においても、ボデー50と当接可能なように構成されてもよい。なお、本実施形態において、第1副拘束面26A22は、第2端面14から目視できるように構成されているが、これに限られるものではない。第1副拘束面26A22は、第2端面14から目視できない場合であっても、第1副拘束面26A22に相当する面に関し、上記と同様に構成することができる。例えば、貫通穴Hの中心軸AXに垂直な断面において、第1拘束面26A21及び第1副拘束面26A22を構成する直線又は曲線について、主切れ刃18Aの投影線との距離に関し、上記と同様の関係を有するように、切削インサートを設けてもよい。
【0048】
なお、第1壁面26A2は、第1拘束面26A21と第1副拘束面26A22とを接続する接続面を有する。この接続面は、ボデー50に切削インサート10が取り付けられた際、ボデー50の表面と近接して離間対向する面である。
【0049】
第2周側面16B及び第3周側面16Cは、これらが備える第2凹面26B及び第3凹面26C等の構成要素も含めて、第1周側面16Aと回転対称の同一構成を備える。従って、これら各構成要素については、冒頭を第2又は第3とし、末尾のアルファベットをB又はCとする点を除き、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0050】
以上のような構成を備える切削インサート10の作用及び効果について説明する。
【0051】
一般に、竪型の切削インサートは、ボデーに装着された際、切削インサートの厚さ、すなわち、ボデーの回転軸を基準とする円周方向の長さが大きい。このため、切削インサートの回転方向後端部が被切削物と衝突することを回避するために、ラジアルレーキを負又は負に近い値にして、ボデーに装着されることが多い。しかしながら、ラジアルレーキを負又は負に近い値にして、切削インサートをボデーに装着すると、切れ刃が被切削物と接触した際に、ボデーから離れる方向に大きな切削抵抗が作用する。このため、切削インサートをボデーに固定するためのねじに大きな負荷がかかり、切れ刃の刃先位置を安定させることが容易でなかった。従来は、切削インサートの外周面の大半の領域を拘束面としてボデーと当接させることにより、上記課題の解決を図っていた。
【0052】
しかしながら、本出願の発明者らが解析した結果、従来の構成は、なお、大きな切削抵抗が作用した際に、刃先位置がずれる場合が発生する点に着目した。更に、切削インサートを三角形状にする場合、切削インサートの回転方向後端部がくさびのようにボデーに押し付けられて取り出しにくくなる問題と、切削インサートが上下方向で非対称となるため、切削インサートがボデーに押し付けられる際に下方に変位する場合がある点にも着目した。
【0053】
一方で本実施形態に係る切削インサート10は、第1端面12又は第2端面14から対向する方向から見たときの切削インサート10の内接円の中心に相当する貫通穴Hの中心軸AXと、切削に用いる主切れ刃18B等との距離よりも、小さい距離を有する位置に、ボデー50と当接することができる第1拘束面26A21等が設けられている。このため、主切れ刃18B等を切れ刃として切削する際に、第1拘束面26A21等に作用するモーメントを、貫通穴Hの中心軸AXと主切れ刃18B等との距離と同じ距離だけ主切れ刃18B等から離れた位置に拘束面を設けた場合と比較して、小さくすることが可能になる。また、第1拘束面26A21等は、主切れ刃18B等のうち、第1コーナ切れ刃22A等に近い位置に設けられる。このため、切れ刃が喰いつく際に、最初に被削材に接触する第1コーナ切れ刃22A等又はその近傍であるために大きな切削抵抗を受け得る位置で、切削抵抗を好適に受け止めることが可能になる。従って、従来と比較して、切削抵抗に伴う位置ずれを抑制することが可能になる。
【0054】
また、第1拘束面26A21等を、ボデー50の回転方向を向くように、すなわち、貫通穴Hの中心軸AXと平行、又は、平行に近くなるように設けることにより、ボデー50の剛性が大きい方向で、第1拘束面26A21とボデー50を当接させることが可能になるため、より好適に位置ずれを抑制することが可能になる。
【0055】
更に、第1拘束面26A21等と異なる位置及び角度に設けられた第3副拘束面26C22等で切削インサート10を支持させることが可能になる。このように第1拘束面26A21等とは独立した1、又は、2以上の面で切削インサート10を支持させることが可能になるから、切削抵抗に伴う位置ずれを抑制することが可能になる。特に、貫通穴Hの中心軸AXと、切削に用いる主切れ刃18B等との距離よりも、小さい距離を有する位置に、第2副拘束面26C22等が設けられているから、同様に、第2副拘束面26C22等に作用するモーメントを小さくすることが可能になる。
【0056】
また、例えば、主切れ刃18Bを切削に用いる場合、すくい面を有する第2周側面16Bには、第2凹面26Bが設けられる。このため、第2凹面26Bが設けられていない場合と比較して、切りくずの排出を阻害することを抑制することが可能になる。特に、ラジアルレーキを負にする場合であっても、切りくずの排出を阻害することを抑制することが可能になる。
【0057】
また、切削インサート10を支持するボデー50は、第1凹面26A等が形成されているため、回転軸を基準とする周方向にも、径方向にも、従来のボデーよりも剛性を高めることが可能になる。このように、切削インサート10を用いることにより、これを支持するボデーの剛性を高めさせることが可能になる。
【0058】
また、切削インサート10は、第1主切れ刃18A等の逃げ面となる第1端面12側において、ボデーと当接しないように構成することが可能になる。従って、逃げ面側の端面においてボデーと当接することにより拘束される切削インサートと比較して、逃げ角を変更することが可能になる。従って、切削インサート10は、多様な被削材及び加工目的に合わせて最適な逃げ角で切削を行うことが可能になる。例えば、対溶着性を挙げるために逃げ角を大きくしたり、刃先強度を持たせるために逃げ角を小さくすることが可能になる。
【0059】
また、切削インサート10は、第1端面12の面積よりも、第2端面14の面積の方が小さい。従って、例えば、ラフィングエンドミルなどのインサートとして切削インサート10を使用する場合、刃数(取り付ける切削インサート10の数)を多くすることが可能になる。
【0060】
なお、切削インサート10は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲で変形することが可能である。例えば、本発明と無関係な部分において、回転対称ではない部分を備えてもよい。また、第1主切れ刃18A、第2主切れ刃18B及び第3主切れ刃18Cに隣接させて、ランドが形成されてもよい。
【0061】
続いて、切削インサート10及びボデー50を備えるフライス100について説明する。
図6は、フライス100の斜視図である。
図7は、ボデー50の斜視図である。
【0062】
これら図面に示されるように、ボデー50には、複数の切削インサート10が取り付けられる。また、切削インサート10は、貫通穴Hを挿通し、ボデー50に形成される雌ねじと螺合する雄ねじ60によってボデー50に対して押し付けられている。
図7に示されるように、切削インサート10の取付部には、第2端面14と当接する底面52と、例えば、第2主切れ刃18Bを用いて切削する場合、第1拘束面26A21と当接する第1顎部54と、第3副拘束面26C22と当接する第2顎部56とが形成される。第1顎部54によって、第1拘束面26A21と当接する部分におけるボデー50の回転軸AX2を基準とする周方向(回転方向)の長さは、第1顎部54を形成しない場合と比較して大きくなる。このため、ボデー50の剛性を高めることが可能になる。また、切削インサート10の切削抵抗に伴う位置ずれを抑制することが可能になる。
【0063】
本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。例えば、貫通穴H内に挿入されるレバーを用いて切削インサート10をボデーに取り付けてもよい。また、エンドミルなど他の転削工具に切削インサート10を利用してもよい。三角形状以外に、四角形状など他の多角形状の切削インサートに本発明を提供してもよい。また、当業者の通常の創作能力の範囲内で、実施形態における一部の構成要素を、削除したり、他の構成要素と置換してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 切削インサート
12 第1端面
14 第2端面
16A 第1周側面
16B 第2周側面
16C 第3周側面
18A 第1主切れ刃
18B 第2主切れ刃
18C 第3主切れ刃
20A 第1副切れ刃
20B 第2副切れ刃
20C 第3副切れ刃
22A 第1コーナ切れ刃
22B 第2コーナ切れ刃
22C 第3コーナ切れ刃
24A 第1すくい面
24B 第2すくい面
24C 第3すくい面
26A 第1凹面
26A1 第1底面
26A2 第1壁面
26A21 第1拘束面
26A22 第1副拘束面
26B 第2凹面
26C 第3凹面
50 ボデー
54 第1顎部
56 第2顎部
100 フライス
【要約】
【課題】切れ刃に負荷がかかっても、刃先位置を安定させることが可能となる切削インサートを提供すること。
【解決手段】第1端面12と、第2端面14とを備え、第1周側面16Aは、第1主切れ刃18Aに隣接する第1すくい面24Aと、第2端面14に接続され、第1すくい面24Aから貫通穴Hの中心軸AXに向かって窪んで形成される第1凹面26Aを備え、第1凹面26Aは、貫通穴Hの中心軸に平行な方向から見たときに、貫通穴Hの中心軸AXと第2主切れ刃18Bとの距離よりも、第2主切れ刃18Bとの距離が小さい位置に設けられた第1拘束面26A21を有する。
【選択図】
図1