特許第6699267号(P6699267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6699267-非水電解質二次電池用非水電解質 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699267
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用非水電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20200518BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20200518BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200518BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0569
   H01M10/052
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-54266(P2016-54266)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-168373(P2017-168373A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀美
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕江
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/100000(WO,A1)
【文献】 特開2007−250424(JP,A)
【文献】 特開2017−027656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01M 10/0569
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒と、ピロリン酸マグネシウムを含有している、非水電解質二次電池用非水電解質。
【請求項2】
前記非水溶媒は、フッ素置換環状カーボネートを含有している、請求項1記載の非水電解質二次電池用非水電解質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用非水電解質を用いた非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用非水電解質を用いて、非水電解質二次電池を製造することを特徴とする、非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用非水電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池は、ノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器の電源として用いられてきた。近年、非水電解質二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの自動車用電源としても用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池を構成する正極活物質としてはリチウム含有遷移金属酸化物が、負極活物質としてはグラファイトに代表される炭素材料が、非水電解質としては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートとジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを主構成成分とする非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を溶解したものが広く知られている。
【0004】
特許文献1には、Mgを負極活物質として用いた非水電解質二次電池(表51)が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ピロ燐酸カリウムを添加した電解液を用いた非水電解質電池(実施例12)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−233208号公報
【特許文献2】特開2001−357874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水電解質二次電池は、充放電サイクルによる容量維持率の低下が問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、ピロリン酸マグネシウムを含有している、非水電解質二次電池用非水電解質である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、充放電サイクルによる容量維持率の低下が抑制された非水電解質二次電池とすることのできる非水電解質二次電池用非水電解質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図
図2】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一側面は、ピロリン酸マグネシウムを含有している、非水電解質二次電池用非水電解質である。
【0012】
本発明の一側面によれば、充放電サイクルによる容量維持率の低下が抑制された非水電解質二次電池とすることのできる非水電解質二次電池用非水電解質を提供できる。
【0013】
本発明の他の一側面は、前記非水電解質を備えた非水電解質二次電池である。
【0014】
本発明の他の一側面によれば、充放電サイクルによる容量維持率の低下が抑制された非水電解質二次電池を提供できる。
【0015】
本発明の他の一側面は、前記非水電解質二次電池の製造方法である。
【0016】
本発明の他の一側面によれば、充放電サイクルによる容量維持率の低下が抑制された非水電解質二次電池の製造方法を提供できる。
【0017】
本発明の一側面に係る構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0018】
本実施態様に係る非水電解質二次電池用非水電解質を製造する方法については限定されない。例えば、非水溶媒、又は、非水溶媒に電解質塩が溶解している溶液に、ピロリン酸マグネシウムを例えば0.01〜2質量%程度添加し、撹拌する工程を採用できる。ピロリン酸マグネシウムは、非水溶媒への溶解度が小さいから、未溶解のピロリン酸マグネシウムが前記非水溶媒または前記溶液中に残存する。残存したピロリン酸マグネシウムは、ろ過等により取り除いてもよく、このまま非水電解質中に分散又は沈降させておいてもよい。この方法により得られる非水電解質には、飽和溶解量のピロリン酸マグネシウムが存在し、その存在量は微量である。このようにして、ピロリン酸マグネシウムが添加されてなる非水電解質を製造できる。ピロリン酸マグネシウムが添加されてなる非水電解質は、ピロリン酸アニオン(P4−)とマグネシウムカチオン(Mg2+)を含有する。
【0019】
また、ピロリン酸マグネシウムを添加する代わりに、ピロリン酸アニオン(P4−)を解離しうる化合物とマグネシウムカチオン(Mg2+)を解離しうる化合物とを添加しても、ピロリン酸アニオン(P4−)とマグネシウムカチオン(Mg2+)を含有している非水電解質を製造できる。このようにして製造された非水電解質も、本明細書にいう「ピロリン酸マグネシウムを含有している、非水電解質二次電池用非水電解質」に相当し、本発明の技術的範囲に属する。ここで、ピロリン酸アニオン(P4−)を解離しうる化合物またはマグネシウムカチオン(Mg2+)を解離しうる化合物として、カルシウムカチオンやカリウムカチオンを解離しうる化合物を用いないことにより、本発明の効果が抑制される虞が低減できるため、好ましい。
【0020】
本実施態様に係る非水電解質二次電池用非水電解質は、特に、充電時に正極電位が4.4V(vs.Li/Li)以上となる非水電解質二次電池に適用した場合に優れた効果が発揮される。
【0021】
本実施態様に係る非水電解質二次電池用非水電解質が含有する非水溶媒は、限定されず、一般にリチウム電池等への使用が提案されている非水溶媒が使用可能である。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0022】
後述するように、前記環状カーボネートとして、例えば、フルオロエチレンカーボネート等のフッ素置換環状カーボネートを用いると、ピロリン酸マグネシウムとの相乗効果により、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を提供できるため、好ましい。
【0023】
前記非水溶媒が、エチレンカーボネート等の環状カーボネートと、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートとを含有する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計体積中に占める環状カーボネートの体積比率は、5体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましい。また、50体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0024】
前記非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−C、NClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0025】
本実施態様に係る非水電解質二次電池の正極に用いる正極活物質としては特に制限はなく、種々の材料を適宜使用できる。なかでも、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離可能であり、正極電位が4.4V(vs.Li/Li)以上となるものが好ましく、一般に非水電解質二次電池の正極活物質に使用されるリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物等が使用できる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等が挙げられる。リチウムニッケルマンガン複合酸化物としては、例えば、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル構造を有するLiNiMn2−y4−δ(0<x<1.1、0.45<y<0.55、0≦δ<0.4)、LiNi1/2Mn1/2等のα−NaFeO型結晶構造を有するLiMeO(MeはNi、及びMnを含む遷移金属)や、Li1.11Ni0.29Mn0.60(Li/Me=1.25)等のα−NaFeO型結晶構造を有するLi1+αMe1−α(0<α、MeはNi、及びMnを含む遷移金属)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の同じくα−NaFeO型結晶構造を有するLiMeO(MeはNi、Co及びMnを含む遷移金属)や、Li1.09Co0.11Ni0.18Mn0.62(Li/Me=1.2)、Li1.11Co0.11Ni0.18Mn0.60(Li/Me=1.25)等のα−NaFeO型結晶構造を有するLi1+αMe1−α(0<α、MeはNi、Co及びMnを含む遷移金属)を使用することができる。ポリアニオン化合物としては、例えば、LiNiPO、LiCoPO、LiCoPOF、LiMnSiO等を使用することができる。
【0026】
本実施態様に係る非水電解質二次電池を構成する負極に使用する負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離可能なものであり、正極電位が4.4V(vs.Li/Li+)以上となる正極と組み合わせて高電圧で使用できるものが好ましく、一般に非水電解質二次電池の負極活物質に使用される炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が使用できる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、難黒鉛化性炭素、低温焼成易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。中でも炭素質材料が安全性の点から好ましく、特に黒鉛が好ましい。
【0027】
前記正極活物質の粉体および負極活物質の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質二次電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0028】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極活物質について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0029】
前記導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,塊状黒鉛等の天然黒鉛;人造黒鉛;カーボンブラック;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;カーボンウイスカー;炭素繊維;銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等の金属粉;金属繊維;導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0030】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0031】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVdF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0032】
前記フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して30重量%以下が好ましい。
【0033】
前記正極及び前記負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極活物質)、およびその他の材料を混練して合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布または圧着して、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度加熱処理することにより、好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されない。
【0034】
前記セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質二次電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂;ポリフッ化ビニリデン;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体;フッ化ビニリデン−エチレン共重合体;フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体;フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0035】
前記セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0036】
また、前記セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0037】
さらに、前記セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。例えば、ポリエチレン製多孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーからなる微孔性フィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に非水電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0038】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、電子線(EB)照射、又は、ラジカル開始剤を添加して加熱若しくは紫外線(UV)照射を行うこと等により、架橋反応を行わせることが可能である。
【0039】
図1に、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0040】
前記非水電解質二次電池の構成については特に限定されず、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明の一実施形態は、上記の非水電解質二次電池を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0041】
<初期性能試験>
本明細書において、非水電解質二次電池の初期性能試験は、次の条件にて行う。非水電解質二次電池は、まず、25℃にて、2サイクルの初期充放電工程に供される。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行う。充電は、電流0.2CmA、電圧4.35V、8時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流0.2CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とする。充電後及び放電後に、それぞれ10分の休止時間を設定する。なお、本明細書において、実施例に係る非水電解質二次電池は、負極活物質に黒鉛が用いられている。この場合、充電末期の正極電位の値は電池電圧の値に対して約0.05V大きいものとなることがわかっている。従って、充電末期の正極電位は約4.4V(vs. Li/Li)となる。2サイクル目の放電容量を「初期放電容量(mAh)」とする。再び上記と同じ条件で充電した後、インピーダンスメーターを用いて交流(AC)1kHzを印加することにより「初期内部抵抗(mΩ)」を測定する。また、電池厚みをノギスで測定し、「初期電池厚み(mm)」とする。
【0042】
<充放電サイクル試験>
本明細書において、非水電解質二次電池の充放電サイクル試験は、次の条件にて行う。非水電解質二次電池は、上記初期性能試験の後、45℃にて、充放電を行う。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行う。充電は、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とする。充電後及び放電後に、それぞれ10分の休止時間を設定する。
【0043】
上記充放電を75サイクル行った後、25℃にて、上記初期性能試験と同じ条件で1サイクル充放電を行い、「75サイクル目放電容量(mAh)」を求める。次に、上記と同じ条件で充電した後、インピーダンスメーターを用いて交流(AC)1kHzを印加することにより「75サイクル目内部抵抗(mΩ)」を測定する。また、電池厚みをノギスで測定し、「75サイクル目電池厚み(mm)」とする。前記「初期放電容量(mAh)」に対する前記「75サイクル目放電容量(mAh)」の百分率を「放電容量維持率(%)」とする。「初期内部抵抗(Ω)」に対する「75サイクル目内部抵抗(Ω)」の百分率を「内部抵抗増加率(%)」とする。「初期電池厚み(mm)」に対する「75サイクル目電池厚み(mm)」の百分率を「電池厚み増加率(%)」とする。
【0044】
<サイクル寿命試験>
本明細書において、非水電解質二次電池のサイクル寿命試験は、次の条件にて行う。上記充放電サイクル試験の条件にて充放電を継続し、放電容量(mAh)が、「初期放電容量(mAh)」の60%に低下するまでに充放電されたサイクル数を計測し、「サイクル寿命」とする。
【実施例】
【0045】
(比較例1)
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を比較例1に係る非水電解質とする。
【0046】
(実施例1)
上記比較例1に係る非水電解質に対して、1.0質量%のピロリン酸マグネシウム(Mg、和光純薬社製)を添加し、十分に撹拌した後静置し、上澄みを採取した。従って、この非水電解質中には、ピロリン酸マグネシウムが飽和しており、溶解しているピロリン酸マグネシウムの量は1.0質量%未満である。このようにして、ピロリン酸マグネシウムが添加された非水電解質を作製した。これを実施例1に係る非水電解質とする。
【0047】
(比較例2)
上記比較例1に係る非水電解質に対して、1.0質量%のピロリン酸カルシウム(Ca、Strem Chemicals社製)を添加し、十分に撹拌した後静置し、上澄みを採取した。これを比較例2に係る非水電解質とする。
【0048】
(比較例3)
上記比較例1に係る非水電解質に対して、1.0質量%のピロリン酸カリウム(K、和光純薬社製)を添加し、十分に撹拌した後静置し、上澄みを採取した。これを比較例3に係る非水電解質とする。
【0049】
(非水電解質二次電池の作製)
これらの非水電解質をそれぞれ用いて、次の手順にて非水電解質二次電池を作製した。以下の実施例では、α−NaFeO型結晶構造を有しLiNi1/3Mn1/3Co1/3で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた。
【0050】
前記正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比94:3:3の割合(固形分換算)で含有し、N−メチルピロリドン(NMP)を溶剤とする正極ペーストを作製し、厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔集電体の両面に塗布した後、NMPを揮発させた。該正極をローラープレス機により加圧成型して正極活物質層を成型した後、100℃で14時間真空乾燥して、極板中の水分を揮発させた。このようにして正極板を作製した。
【0051】
黒鉛、スチレン−ブタジエン・ゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を質量比97:2:1の割合(固形分換算)で混合し、水を溶剤とする負極ペーストを作製し、厚さ10μmの帯状の銅箔集電体の両面に塗布した後、水を揮発させた。該負極をローラープレス機により加圧成型して負極活物質層を成型した後、100℃で12時間真空乾燥して、極板中の水分を揮発させた。このようにして負極板を作製した。
【0052】
ポリエチレン製の多孔膜からなるセパレータを介して正極板と負極板を積層し、扁平形状に巻回して発電要素を作製し、アルミニウム製の角型電槽缶に収納し、正負極端子を取り付けた。この容器内部に非水電解質を注入したのちに封口した。このようにして、実施例1及び比較例1〜4に係る設計容量800mAh(1CmA=800mAh)の非水電解質二次電池を作製した。
【0053】
上記手順に従って、初期性能試験、及び充放電サイクル試験を行い、「放電容量維持率(%)」、「内部抵抗増加率(%)」、及び「電池厚み増加率(%)」を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から、添加剤としてピロリン酸マグネシウムを含有している非水電解質を用いた実施例1の非水電解質二次電池は、添加剤を含有しない比較例1の非水電解質や、他のピロリン酸化合物を用いた比較例2、及び3の非水電解質を用いた非水電解質二次電池に比べて、充放電サイクルによる容量維持率の低下が抑制されていることがわかった。また、充放電サイクルによる内部抵抗の増加が抑制されていることがわかった。また、充放電サイクルによる電池厚みの増加が抑制されていることがわかった。
【0056】
(比較例4)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:9の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を比較例4に係る非水電解質とする。
【0057】
(実施例2)
上記比較例4に係る非水電解質に対して、1.0質量%のピロリン酸マグネシウム(Mg、和光純薬社製)を添加し、十分に撹拌した後静置し、上澄みを採取した。これを実施例2に係る非水電解質とする。
【0058】
実施例1、2、及び比較例1、4の非水電解質を用いて、上記した実施例1の非水電解質二次電池と同じ材料を用い、同じ手順にて、非水電解質二次電池を作製した。但し、設計容量は850mAh(1CmA=850mAh)とした。
【0059】
上記手順に従って、初期性能試験、及び充放電サイクル試験を行い、「サイクル寿命」を求めた。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2から、本実施形態に係る非水電解質二次電池用非水電解質は、含有する非水溶媒の種類が異なっていても、本発明の効果が奏されることにより、サイクル寿命が優れていることがわかる。特に、添加剤としてピロリン酸マグネシウムを、環状カーボネートとしてフッ素置換環状カーボネートであるフルオロエチレンカーボネート(FEC)を、それぞれ含有する実施例2の非水電解質を用いた非水電解質二次電池を、ピロリン酸マグネシウムを含有しない比較例4の非水電解質を用いた非水電解質二次電池と比較すると、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とピロリン酸マグネシウムとの相乗効果により、サイクル寿命が大幅に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
近年、自動車用電源として用いられる非水電解質二次電池においても、高エネルギー密度化が求められている。このため、従来よりも高い電圧で充電する使用方法が採用された場合であっても、優れた性能が発揮できる非水電解質二次電池が求められていた。本実施態様に係る非水電解質二次電池用非水電解質は、特に、充電時に正極電位が4.4V(vs.Li/Li)以上となる非水電解質二次電池に適用した場合に優れた効果が発揮されるから、産業用の利用可能性が高い。
【0063】
(符号の説明)
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2