特許第6699291号(P6699291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧

<>
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000002
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000003
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000004
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000005
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000006
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000007
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000008
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000009
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000010
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000011
  • 特許6699291-ブレーキ制御装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699291
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20200518BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   B60T7/12 A
   B60T13/68
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-65399(P2016-65399)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-177919(P2017-177919A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−315569(JP,A)
【文献】 特開2006−213287(JP,A)
【文献】 特開2007−216946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 13/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各車輪に制動力を与えるホイールシリンダと、
前記車両の運転者によるブレーキ操作に応じた圧力を発生する圧力発生部と、
前記圧力発生部と前記ホイールシリンダとを接続する第1液路に設けられ、前記第1液路を開閉する第1電磁弁と、
前記ホイールシリンダとリザーバとを接続する第2液路に設けられ、前記第2液路を開閉する第2電磁弁と、
前記第1液路の前記圧力発生部と前記第1電磁弁の間へフルードを吐出する還流機構とからなるブレーキ装置を備えた車両の車速がゼロである停車状態であるか否かと、内燃機関から前記車輪への動力伝達が抑制された抑制状態であるか否かと、を検出する状態検出部と、
前記車両の運転者によるブレーキ操作を検出する操作検出部と、
前記制動力を前記ブレーキ操作とは独立して制御可能に構成され、前記車両が前記停車状態かつ前記抑制状態である場合において、前記ブレーキ操作が開始されると、前記還流機構がフルードを前記第1液路へ吐出し、前記第1電磁弁を開き、前記第2電磁弁を閉じて、前記制動力を前記停車状態を保持可能な第1制動力まで増加する増加制御と、その後も前記ブレーキ操作が継続されている場合は、前記第1電磁弁および前記第2電磁弁を閉じ、前記第1制動力に維持する維持制御と、前記ブレーキ操作の操作量がゼロになった場合、前記第2電磁弁を開いて前記第1制動力をゼロに減少させる減少制御を実行可能な制御部と、
前記停車状態かつ前記抑制状態である期間の前記ブレーキ操作の回数を記憶する操作記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記操作記憶部により記憶したブレーキ操作回数が所定回数以上になると、前記増圧制御実行後、前記第1電磁弁および前記第2電磁弁を閉状態とし、前記ブレーキ操作量に関わらず前記第1制動力に維持し続ける継続維持制御を実行する、ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記第1電磁弁もしくは前記第2電磁弁のうち、少なくとも一つは、通電により閉状態、非通電で開状態であり、
前記制御部は、前記継続維持制御の期間が所定時間経過後、ブレーキ操作量がゼロであると、前記第1電磁弁もしくは前記第2電磁弁のうち、少なくとも一つは、非通電とする、請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両が前記停車状態かつ前記抑制状態であり、さらに前記制動力がゼロである場合において、前記ブレーキ操作が開始された場合、前記第1制動力と、前記ブレーキ操作の操作量に応じた第2制動力とのうちいずれか大きい方に基づいた勾配で前記制動力を増加させる増加制御を実行し、前記増加制御の実行中に前記制動力が前記第1制動力に達した場合、前記維持制御に移行する、請求項1または2記載のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が停車状態になる場合に、当該停車状態を保持可能な制動力が確保されるまで、運転者によるブレーキ操作に応じて制動力が確保されるように、ブレーキ装置におけるポンプやモータなどのアクチュエータを駆動し続けるブレーキ制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-112240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のブレーキ制御装置では、モータの耐久性向上のため、パーキングレンジやパーキングブレーキ(抑制状態)の使用中は、既に車両停止維持可能制動力が発生しているとみなし、モータ駆動を停止していた。しかしながら、パーキングレンジからドライブレンジへシフト位置を変更したり、パーキングブレーキを解除したり、車両を徐々に発進させる場合、運転者によるブレーキ操作量に応じた制動力だけでは、制動力が不足し、運転者の意図より速く車両が動き出し、違和感を与える恐れがあった。その解決策として、運転者のブレーキ操作が検出されたときには、モータやポンプを駆動し、運転者のブレーキ操作量とは関係なく、停車するのに十分な制動力を車両に付与することが考えられるが、車両を発車しないにも関わらず、運転者がブレーキ操作を頻繁に行うとモータがその度に駆動することになる。つまり、モータやポンプの劣化につながる恐れがある。よって、本発明の課題の一つは、車両発進時の運転者に安心感を与え、ポンプやモータの耐久性を向上させることが可能なブレーキ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のブレーキ制御装置は、例えば車両の各車輪に制動力を与えるホイールシリンダと、車両の運転者によるブレーキ操作に応じた圧力を発生する圧力発生部と、圧力発生部とホイールシリンダとを接続する第1液路に設けられ、第1液路を開閉する第1電磁弁と、ホイールシリンダとリザーバとを接続する第2液路に設けられ、第2液路を開閉する第2電磁弁と、第1液路の圧力発生部と第1電磁弁の間へフルードを吐出する還流機構とからなるブレーキ装置を備えた車両の車速がゼロである停車状態であるか否かと、内燃機関から車輪への動力伝達が抑制された抑制状態であるか否かと、を検出する状態検出部と、車両の運転者によるブレーキ操作を検出する操作検出部と、制動力をブレーキ操作とは独立して制御可能に構成され、車両が停車状態かつ抑制状態である場合において、ブレーキ操作が開始されると、還流機構がフルードを第1液路へ吐出し、第1電磁弁を開き、第2電磁弁を閉じて、制動力を停車状態を保持可能な第1制動力まで増加する増加制御と、その後もブレーキ操作が継続されている場合は、第1電磁弁および第2電磁弁を閉じ、第1制動力に維持する維持制御と、ブレーキ操作の操作量がゼロになった場合、第2電磁弁を開いて第1制動力をゼロに減少させる減少制御を実行可能な制御部と、停車状態かつ抑制状態である期間のブレーキ操作の回数を記憶する操作記憶部と、を備え、制御部は、操作記憶部により記憶したブレーキ操作回数が所定回数以上になると、増圧制御実行後、第1電磁弁および第2電磁弁を閉状態とし、ブレーキ操作量に関わらず第1制動力に維持し続ける継続維持制御を実行することを特徴とする。これにより、例えば、車両が停車状態かつ抑制状態である期間に、運転者がブレーキ操作の開始と解除を頻繁に行ったとしても、その操作が設定回数以上となったら、ブレーキ操作に関わらず、停車状態を維持可能な制動力を確保しつつ、第1電磁弁および第2電磁弁を閉状態とすることで、還流機構を構成するポンプやモータを停止させても、ホイールシリンダの制動力を保持することが可能になる。つまり、ポンプやモータを停止させ続けことができ、これらの駆動頻度が高くなることを抑制することができる。
【0006】
上記のブレーキ制御装置において、例えば、第1電磁弁もしくは第2電磁弁のうち、少なくとも一つは、通電により閉状態、非通電で開状態であり、制御部は、継続維持制御の期間が所定時間経過後、ブレーキ操作量がゼロであると、第1電磁弁もしくは第2電磁弁のうち、少なくとも一つは、非通電としてもよい。これにより、例えば、第1電磁弁と第2電磁弁の内、継続維持制御中は通電状態にあるものを、所定時間が経過し、かつブレーキ操作がされていない場合は、非通電状態とすることが可能となる。つまり、安全性を確保しつつ、電磁弁への長期間の連続通電を防ぐことで、電磁弁の耐久性向上することができる。
【0007】
上記のブレーキ制御装置において、例えば、制御部は、車両が停車状態かつ抑制状態であり、さらに制動力がゼロである場合において、ブレーキ操作が開始された場合、第1制動力と、ブレーキ操作の操作量に応じた第2制動力とのうちいずれか大きい方に基づいた勾配で制動力を増加させる増加制御を実行し、増加制御の実行中に制動力が第1制動力に達した場合、維持制御に移行してもよい。これにより、例えば、第1制動力と第2制動力とが異なる場合であっても、それらのうちいずれか大きい方に基づいた勾配で、制動力が第1制動力まで自動で増加するので、維持制御への移行をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態によるブレーキ制御装置の制御対象であるブレーキ装置の模式的な構成が示された例示図である。
図2図2は、実施形態によるブレーキ制御装置の機能的構成が示された例示ブロック図である。
図3図3は、実施形態による停車保持制御に含まれる複数の制御モードが示された例示図である。
図4図4は、実施形態による停車保持制御の第1モードの具体例が示された例示図である。
図5図5は、実施形態による停車保持制御の第2モードから第3モードへの切り替わりの具体例が示された例示図である。
図6図6は、実施形態による停車保持制御の第2モードから第4モードへの切り替わりの具体例が示された例示図である。
図7図7は、実施形態による停車保持制御の第2モードから第4モードへの切り替わりの図6とは異なる具体例が示された例示図である。
図8図8は、実施形態による停車保持制御の第4モードから他制御への切り替わりの具体例が示された例示図である。
図9図9は、実施形態による停車保持制御の他制御から第5モード、第5モードから第4モードへの切り替わりの具体例が示された例示図である。
図10図10は、実施形態による停車保持制御の第5モードから第3モードへの切り替わりの具体例が示された例示図である。
図11図11は、変形例によるブレーキ制御装置の制御対象であるブレーキ装置の模式的な構成が示された例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の実施形態>
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0010】
図1は、実施形態によるブレーキ制御装置10(図1には不図示、後述の図2参照)の制御対象であるブレーキ装置1の模式的な構成が示された例示図である。このブレーキ装置1は、車両に設けられる。図1に例示されるように、ブレーキ装置1(ブレーキ)は、車輪2FL、2FR、2RLおよび2RRに、液圧による制動力(摩擦制動トルク)を付与するように構成される。
【0011】
ブレーキ装置1は、車両の運転者によるブレーキペダル31の操作に応じた圧力(液圧)を発生する圧力発生部32と、摩擦制動部材を加圧して各車輪2FL、2FR、2RL、および2RRを制動するホイールシリンダ38と、ホイールシリンダ38に与えられる圧力を調整する圧力調整部34FL、34FR、34RLおよび34RRと、フルード(作動流体)を第1液路へ輸送するポンプ39やモータ40などから構成される還流機構37と、を備える。
【0012】
圧力発生部32は、マスタシリンダ32aと、リザーバタンク32bとを備える。マスタシリンダ32aは、ブレーキペダル31の操作(踏み込み)に伴って押し込まれ、2つの吐出ポートにフルードを吐出する。これら2つの吐出ポートは、それぞれ、遮断電磁弁33を介して、フロント側の圧力調整部34FRおよびリヤ側の圧力調整部34RLと、フロント側の圧力調整部34FLおよびリヤ側の圧力調整部34RRとに接続される。なお、遮断電磁弁33は、ブレーキ制御装置10の制御に基づいて開閉する。フルードは、リザーバタンク32bから補充される。
【0013】
圧力調整部34FL、34FR、34RL、および34RRは、それぞれ、開状態と閉状態とを電気的に切り替え可能な第1電磁弁35および第2電磁弁36を有している。ホイールシリンダ38は、第1電磁弁35および第2電磁弁36の間に接続されている。また、第1液路60は、吐出ポートから遮断電磁弁33、第1電磁弁35、ホールシリンダ38へと接続する液路のことをいう。第1電磁弁35は、ホイールシリンダ38と遮断電磁弁33との間に設けられ、第2電磁弁36は、ホイールシリンダ38とリザーバ41との間に設けられている。そして、第2液路61は、ホイールシリンダ38から第2電磁弁36、リザーバ41へと接続する液路のことをいう。第1電磁弁35および第2電磁弁36は、ブレーキ制御装置10の制御に基づいて開閉することで、ホイールシリンダ38で発生する圧力を、昇圧、維持、減圧することができる。ここで、第1電磁弁35は非通電で開状態となる、所謂、常開型電磁弁、第2電磁弁36は非通電で閉状態となる、所謂、常閉型電磁弁を採用している。
【0014】
還流機構37は、リザーバ41およびポンプ39と、フロント側およびリヤ側のポンプ39を回転してフルードを第1液路60側に輸送させるモータ40と、を備える。リザーバ41およびポンプ39は、圧力調整部34FRおよび34RLの組み合わせと、圧力調整部34FLおよび34RRの組み合わせとに対応してそれぞれ1つずつ設けられる
【0015】
また、ブレーキ装置1には、ブレーキペダル31の操作量(ストローク)を検出可能なストロークセンサ51や、マスタシリンダ32aで発生する圧力を検出可能な圧力センサ52などが設けられている。
【0016】
実施形態によるブレーキ制御装置10は、モータ40(ポンプ39)の駆動と、各種電磁弁33、35および36の駆動とを制御する。ブレーキ制御装置10は、例えば、ブレーキECUの一部を構成している。ブレーキ制御装置10は、ブレーキECUの他の部分と一体化されてもよいし、当該他の部分とは別個に構成されてもよい。以下、ブレーキ制御装置10の機能的構成、および当該機能的構成によって実現される制御についてより具体的に説明する。
【0017】
図2は、実施形態によるブレーキ制御装置10の機能的構成が示された例示ブロック図である。図2に例示されるように、ブレーキ制御装置10は、状態検出部10aと、操作検出部10bと、制御部10cと、操作記憶部10dとを備える。例えば、ブレーキ制御装置10は、CPUやROMやRAMなどのハードウェア(いずれも図示せず)を備え、ROMに格納されたソフトウェアとしての種々のプログラムをCPUにより実行することで、図2に例示された各構成をRAM上に実現する。なお、実施形態では、図2に例示された各構成に対応する専用の回路などを設け、ハードウェアのみによって、図2に例示された各構成を実現してもよい。
【0018】
状態検出部10aは、車両の状態を検出する。具体的に、状態検出部10aは、車両が、車速がゼロである停車状態であるか否かと、内燃機関(不図示)から車輪への動力伝達が抑制された抑制状態(非動力伝達状態、非動力伝達可能状態)であるか否かと、を検出する。抑制状態の例としては、例えば、シフトレンジがPレンジ(パーキングレンジ)またはNレンジ(ニュートラルレンジ)である状態や、パーキングブレーキが作動している状態などが挙げられる。なお、以下では、抑制状態以外の状態、つまり動力伝達が抑制されることなく行われる状態を、非抑制状態(動力伝達状態、動力伝達可能状態)という。非抑制状態の例としては、シフトレンジがDレンジ(ドライブレンジ)に設定された状態が挙げられる。
【0019】
操作検出部10bは、運転者によるブレーキ操作(ブレーキペダル31の操作)を検出する。具体的に、操作検出部10bは、ストロークセンサ51および圧力センサ52の検出結果に基づき、運転者によるブレーキペダル31の踏み込み操作、踏み戻し操作、およびそれらの操作量を検出する。
【0020】
制御部10cは、ブレーキ装置10により発生する制動力を、運転者によるブレーキ操作とは独立に制御可能に構成される。
【0021】
操作記憶部10dは、運転者によるブレーキ操作の回数を記録する。具体的には、停車状態および抑制状態が継続している期間において、ストロークセンサ51および圧力センサ52の検出結果に基づき、運転者がブレーキペダル操作をしていない(踏んでいない)状態から、ブレーキ操作を開始した回数を記録する。
【0022】
ここで、実施形態による制御部10cは、車両が停車状態である場合、当該停車状態を保持するため、次のような停車保持制御S10を実行する。
【0023】
図3は、実施形態による停車保持制御S10に含まれる複数の制御モードが示された例示図である。この図3の例では、停車保持制御S10以外の制御(たとえば、車速がゼロではない通常走行時の制御)が、他制御S20として図示されている。
【0024】
図3に例示されるように、実施形態による停車保持制御S10は、第1モードS11と、第2モードS12と、第3モードS13と、第4モードS14と、第5モードとを含む。第1モードS11は、本発明の「増加制御」を含む制御の一例であり、第2モードS12は、本発明の「維持制御」を含む制御の一例である。また、第3モードS13は、本発明の「第1減少制御」を含む制御の一例であり、第4モードS14は、本発明の「第2減少制御」を含む制御の一例であり、第5モードS15は、本発明の「継続維持制御」を含む制御の一例である。以下、これら5つの制御モードで実行される具体的な処理、および各制御モード間の移行条件について説明する。
【0025】
図4は、実施形態による停車保持制御S10の第1モードS11の具体例が示された例示図である。この第1モードS11は、車両が停車状態かつ抑制状態であり、さらに制動力(ホイールシリンダ38の圧力)がゼロである場合において、ブレーキ操作(ブレーキペダル31の踏み込み操作)が開始された場合に実行される。第1モードS11が実行される状況の一例としては、シフトレンジがPレンジに設定され、かつパーキングブレーキが作動した状態で駐停車している車両に運転者が乗り込み、当該運転者が車両を発進させる前に安全のためブレーキペダル31を踏み込むような状況が挙げられる。なお、以下では、簡単化のため、ホイールシリンダ38の圧力を、W/C圧と記載する。
【0026】
第1モードS11とは、次のような制御のことである。具体的に、第1モードS11とは、車両が停車状態かつ抑制状態であり、さらにW/C圧がゼロである場合において、ブレーキペダル31の踏み込み操作が開始された場合に、車両の停車状態を(確実に)保持可能な所定のW/C圧と、ブレーキペダル31のストロークに応じたW/C圧と、のうちいずれか大きい方に基づいた勾配でW/C圧を増加させる制御のことである。また、この制御では、ある期間内に停車状態を保持可能な所定のW/C圧まで増加させればよく、例えば、ブレーキペダル31のストロークとは関係なく、予め決められた勾配でW/C圧を増加させてもよい。なお、停車状態を保持可能な所定のW/C圧は、車両の性能情報や路面の勾配情報などに基づいて算出される。
【0027】
図4には、車両の停車状態を保持可能な所定のW/C圧P1の方が、ブレーキペダル31のストロークX1に応じたW/C圧P2より大きい場合(つまり運転者によるブレーキペダル31の踏み込みが不足している場合)が例示されている。このような状況において何の制御も行わないと、車両の停車状態を保持できるだけのW/C圧が確保されないので、車両が抑制状態から非抑制状態に変化した場合に、運転者の意図よりも速く、または意に反して車両が動き出してしまう可能性がある。そこで、実施形態によるブレーキ制御装置10は、図4に例示されたような状況が発生した場合、第1モードS11の制御を実行することで、W/C圧が所定のW/C圧P1まで加圧されるように、第1電磁弁35を開状態、遮断弁33および第2電磁弁36を閉状態とし、還流機構37のポンプ39(モータ40)を駆動してフルードを第1液路60へ吐出することで、不足分のW/C圧を補う。これにより、車両が抑制状態から非抑制状態に切り替わったとしても、運転者の意に反して車両が動き出すのを回避することができる。なお、図4には、W/C圧の増加勾配の具体例として、W/C圧がP1およびP2へと段階的に増加するような階段状の増加勾配が例示されているが、実施形態では、W/C圧がP2に達すればよく、どのような増加勾配が用いられてもよい。
【0028】
なお、図4の具体例とは異なり、運転者のストロークに応じたW/C圧の方が、上記の所定のW/C圧P1より大きい場合も考えられる。このような場合、ブレーキ制御装置10は、第1モードS11の制御を実行することで、上記の2つのW/C圧のうち大きい方(運転者のストロークに応じたW/C圧)に基づいた勾配で、W/C圧を増加させる。そして、ブレーキ制御装置10は、W/C圧が所定のW/C圧P1に達した段階で、W/C圧を増加させるのを停止する。つまり、還流機構37を構成するポンプ39(モータ40)を停止させ、 第1電磁弁35および第2電磁弁36を閉状態とすることで、W/C圧を保持する。これにより、必要以上にポンプ39(モータ40)を駆動して過剰なW/C圧を発生させるのを抑制することができる。
【0029】
図5は、実施形態による停車保持制御S10の第2モードS12および第3モードS13の具体例が示された例示図である。この図5の具体例では、第2モードS12は、時間t0に対応する点線の直線の左側の領域に図示され、第3モードS13は、時間t0に対応する点線の直線の右側の領域に図示されている。第2モードS12は、上記の第1モードS11においてW/C圧が所定値P1に達した場合に、第1モードS11から移行する形で実行される(図3の矢印A1参照)。また、第3モードS13は、第2モードS12においてストロークがゼロになった場合に、第2モードS12から移行する形で実行される(図3の矢印A2参照)。したがって、第2モードS12および第3モードS13のいずれも、上記の第1モードS11と同様に、車両が停車状態かつ抑制状態である場合に実行される処理である。
【0030】
図5の時間t0より左側の領域に例示されるように、第2モードS12とは、ブレーキペダル31がどのように操作された場合でも、そのストロークの大きさ(ただしゼロ以上)に関わらず、車両の停車状態を保持可能な所定のW/C圧P1を維持する制御である。したがって、第2モードS12においては、W/C圧を加圧する必要がない。すなわち、第2モードS12においては、ブレーキ装置1の各種電磁弁33、35および36(図1参照)を閉状態とすることでW/C圧を所定値P1に維持しておけば、モータ40によってポンプ39を駆動する必要がない。これにより、第2モードS12においては、モータ40およびポンプ39の駆動を停止させておくことができるので、モータ40およびポンプ39の耐久性の向上を図ることができるとともに、静音化を図ることができる。
【0031】
図5の具体例では、時間t0においてストロークがゼロになるため、当該時間t0において、第2モードS12から第3モードS13に制御が移行する。第3モードS13では、第2モードS12で保持されていた所定のW/C圧P1がゼロになるように所定の勾配でW/C圧を減少させる制御が行われる。つまり、ホイールシリンダ38のフルードは開状態の第2電磁弁36を介してリザーバ41へ輸送される。これにより、運転者にブレーキ操作の意思が無い場合にまで所定のW/C圧P1を保持するような過剰な停車保持を抑制することができる。なお、第3モードS13においてブレーキ操作が再び開始された場合、上記の第1モードS11に制御が移行する(図3の矢印A3参照)。また、第3モードS13において車両が動き出した場合(車速がゼロではなくなった場合)、他制御S20(図3参照)に制御が移行する。
【0032】
図6は、実施形態の停車保持制御S10の第2モードS12から第4モードS14への切り替わりの具体例が示された例示図である。この図6の具体例では、第2モードS12は、シフトレンジがPレンジからDレンジに変化した時間t1に対応する点線の直線の左側の領域に図示され、第4モードS14は、時間t1に対応する点線の直線の右側の領域に図示されている。第4モードS14は、第2モードS12の実行中に車両が抑制状態から非抑制状態に変化した場合に、第2モードS12から移行する形で実行される(図3の矢印A4参照)。逆に、第4モードS14の実行中に車両が抑制状態から非抑制状態に変化した場合には、第4モードS14から第2モードS12に制御が移行する(図3の矢印A5参照)。このように、第4モードS14は、車両が停車状態でかつ非抑制状態である場合に実行される。
【0033】
図6に例示されるように、第4モードS14は、車両が抑制状態から非抑制状態に変化した場合(時間t1参照)において、ブレーキ操作の解除(ブレーキペダル31の踏み戻し)が開始された場合に、当該踏み戻しが開始された時点(時間t2参照)でのストロークX2に応じたW/C圧P3と、第2モードS12で保持されていた所定のW/C圧P1との差分に基づいた勾配で、所定のW/C圧P1を減少させる制御である。したがって、第4モードS14においても、第2モードS12と同様に、W/C圧を加圧する必要がなく、モータ40によってポンプ39を駆動せず、第2電磁弁36を開状態することでホイールシリンダ38のフルードをリザーバ41に輸送する。これにより、第4モードS14においても、第2モードS12と同様に、モータ40およびポンプ39の駆動を停止させておくことができるので、モータ40およびポンプ39の耐久性の向上を図ることができるとともに、静音化を図ることができる。
【0034】
図6には、踏み戻しが開始された時点でのストロークX2に応じたW/C圧P3が、第2モードS12で保持されていた所定のW/C圧P1より大きい場合(つまり運転者によるブレーキペダル31の踏み込みが過剰である場合)が例示されている。このような状況において、たとえばブレーキペダル31の踏み戻し量に対応した減圧量で通常通りW/C圧を減少させると、踏み戻しが完了していないのにW/C圧がゼロになり、運転者の操作フィーリングに反して車両が動き出してしまうといった不都合が生じる可能性がある。そこで、実施形態によるブレーキ制御装置10は、図6に例示されたような状況が発生した場合、第4モードS14の制御を実行することで、上記のW/C圧P1およびP3の差分に基づいた勾配で、所定のW/C圧P1を減少させる。具体的に、ブレーキ制御装置10は、ストロークに応じたW/C圧が所定のW/C圧P1となるまでは、所定のW/C圧P1を維持し、その後、運転者による踏み戻し操作に応じてW/C圧を減少させる。これにより、運転者による踏み戻し操作とW/C圧の減少とを整合させることができる。なお、図6の具体例では、踏み戻しが完了した時点、つまり踏み込み量であるストロークがゼロになった時点(時間t3参照)でW/C圧がゼロになるように、W/C圧の減少勾配が設定されている。これにより、運転者による踏み戻し操作とW/C圧の減少とをより整合させることができる。
【0035】
図7は、実施形態の停車保持制御S10の第2モードS12から第4モードS14への切り替わりの図6とは異なる具体例が示された例示図である。この図7の具体例においても、図6の具体例と同様に、第2モードS12は、シフトレンジがPレンジからDレンジに変化した時間t4に対応する点線の直線の左側の領域に図示され、第4モードS14は、時間t4に対応する点線の直線の右側の領域に図示されている。
【0036】
図7には、図6と異なり、踏み戻しが開始された時点(時間t4参照)でのストロークX3に応じたW/C圧P4が、第2モードS12で保持されていた所定のW/C圧P1より小さい場合(つまり運転者によるブレーキペダル31の踏み込みが不足している場合)が例示されている。このような状況において、たとえばブレーキペダル31の踏み戻し量に対応した減圧量で通常通りW/C圧を減少させると、踏み戻しが完了した後でもW/C圧がゼロにならず、運転者の操作フィーリングに反して停車状態が継続するといった不都合が生じる可能性がある。そこで、実施形態によるブレーキ制御装置10は、図7に例示されたような状況が発生した場合、第4モードS14の制御を実行することで、踏み戻しが継続されるにつれて上記のW/C圧P1およびP4の差分が徐々に小さくなるような勾配で、所定のW/C圧P1を減少させる。これにより、運転者による踏み戻し操作とW/C圧の減少とを整合させることができる。また、一般に、図1に例示されたようなブレーキ装置1では、W/C圧は、ストロークの大きさに合わせて発生する。このため、図7に例示されたような状況において何らの制御も行わないと、W/C圧が、不足しているストロークに合わせて急に小さくなるという不都合が生じる。そこで、当該不都合を回避するため、実施形態では、図7に例示されたような状況が発生した場合、第4モードS14の制御を実行することで、上記のW/C圧P1およびP4の差分に基づいた勾配で、W/C圧を徐々に小さくする。なお、図7の具体例においても、図6の具体例と同様に、踏み戻しが完了した時点、つまり踏み込み量であるストロークがゼロになった時点(時間t6参照)でW/C圧がゼロになるように、W/C圧の減少勾配が設定されている。これにより、運転者による踏み戻し操作とW/C圧の減少とをより整合させることができる。
【0037】
なお、上記の図6および図7の具体例では、説明の便宜上、W/C圧がゼロまで減少する場合を説明した。しかしながら、実際には、W/C圧がゼロまで減少しなくても、たとえばアクセルペダル(不図示)の操作に応じた駆動力がW/C圧を上回った場合などにおいては、車両が動き出す場合がある。この場合、車速がゼロではなくなるので、停車保持制御S10である第4モードS14から、通常走行時の制御を含む他制御S20(図3参照)に制御が移行する。なお、逆に、たとえば通常に走行している車両が信号などにより短時間だけ停車する場合など、車両が非抑制状態のまま停車状態になった場合には、他制御S20から第4モードS14に制御が移行する。
【0038】
ここで、通常に走行している車両が、ブレーキペダル31の踏み込みとパーキングブレーキとの両方によって停車する場合を想定する。具体的に、ブレーキペダル31の踏み込みだけでは車両の完全な停車に至らず(つまりW/C圧が車両の停車状態を保持可能な所定のW/C圧に達しておらず)、パーキングブレーキが併せて作動することによって車両が停車するような場合を想定する。この場合、ブレーキ制御装置10による制御は、他制御S20から第4モードS14を経由して第2モードS12に移行する。しかしながら、この場合では、上記のように、第2モードS12への移行時のW/C圧が、上記の所定のW/C圧に達していない。そこで、このような状況が発生した場合、ブレーキ制御装置10による制御は、第2モードS12から第1モードS11に移行する(図3の矢印A6参照)。そして、第1モードS11において、W/C圧が、上記の所定のW/C圧に達するまで加圧される。なお、第1モードS11に移行した後の制御の流れは、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0039】
また、車両が停車状態かつ抑制状態であり、かつW/C圧がゼロである場合に、運転者がブレーキペダル31を浅く(操作量が小さい)、短時間踏み込んだ場合を想定する。この場合、ブレーキ制御装置10はブレーキ操作が開始された時点で第1モードS11を実行するが、W/C圧が車両を停車状態を維持可能なP1に達する前に、ブレーキ操作が解除される可能性がある。このような状況が発生した場合、ブレーキ制御装置10は、第1モードS11から第3モードS13へ移行する。(図3の矢印A7参照)
【0040】
図8は、実施形態による停車保持制御S10の第4モードS14から他制御S20への切り替わりの具体例が示された例示図である。この図8の具体例では、第4モードS14は、車速がゼロからゼロより大きい値に変化した時間t9に対応する点線の直線の左側の領域に図示され、他制御S20は、時間t9に対応する点線の直線の右側の領域に図示されている。
【0041】
図8の具体例では、時間t7まで、一定のストロークX4が維持され、時間t7から時間t8まで、ストロークが大きくなり、時間t8以降、ストロークが減少している。なお、図8の具体例において、ストロークX4に応じたW/C圧は、所定のW/C圧P1と一致しているものとする。ここで、所定のW/C圧P1とは、上記のように、車両の停車状態を保持可能なW/C圧のことである。このため、所定のW/C圧P1が確保されていれば、車両が動き出すことはなく、当該所定のW/C圧P1をブレーキペダル31の更なる踏み込みに応じて更に加圧する必要はない。これにより、第4モードS14においても、上記の第2モードS12および第4モードS14と同様に、W/C圧を加圧するためのモータ40およびポンプ39の駆動を停止させておくことができるので、モータ40およびポンプ39の耐久性の向上を図ることができるとともに、静音化を図ることができる。
【0042】
このように、実施形態では、第4モードS14において所定のW/C圧P1が確保されている場合、ブレーキペダル31の更なる踏み込みが行われた場合でも、当該所定のW/C圧P1がそのまま維持される。そして、第4モードS14においてブレーキペダル31の踏み戻しが開始された場合、上述したように、当該踏み戻しの開始時点でのストロークに対応したW/C圧と、所定のW/C圧P1との差分に基づいた勾配で、W/C圧P1が減少する。図8の具体例では、ブレーキペダル31の踏み戻しによるストロークの減少が始まった時間t8以降において、W/C圧が所定値P1から減少する。そして、W/C圧の減少に伴って車両が動き出し、車速がゼロではなくなった場合、第4モードS14から、通常走行時の制御を含む他制御S20に制御が移行する。通常走行時の制御では、運転者によるブレーキペダル31の踏み込みに応じてW/C圧を加圧する必要があるので、モータ40によりポンプ39は、第4モードS14から通常走行時の制御に切り替わる際に、停止状態から駆動状態に切り替わる。
【0043】
図9は、車両が停車状態および抑制状態であるとき、実施形態の停車保持制御S10の第1モードS11、第2モードS12、第3モードS13から、第5モードS15への切り替わり、また第5モードS15から第4モードS14への切り替わりの具体例が示された例示図である。
【0044】
この図9の具体例において、第1モードS11、第2モードS12、第3モードS13は、時間t13に対応する点線の左側の領域に図示され、第5モードS15は、時間t13に対応する点線の右側の領域から時間t15に対応する点線の左側領域に図示されている。また、時間t15に対応する点線の右側領域には、第4モードS14が図示されている。
【0045】
図9の具体例では、操作記憶部10dが、停車状態および抑制状態が継続している間の第1モードS11の実行回数をブレーキ操作が開始された回数としてカウントし、当該操作回数が2回以上となり、W/C圧がP1に到達すると、第1モードS11から第5モードS15へと移行するよう設定されている。(図3の矢印A8参照)ここでは、操作記憶部10dがブレーキ操作が開始された回数として、第1モードS11の実行回数としたが、例えば、第3モードS13の実行回数として、所定回数を超えた後にブレーキ操作が検出されたら、第5モードS15へ移行するようにしてもよいし、他の方法を採用してもよい。
【0046】
図9では、時間t10でブレーキ操作が開始されると、W/C圧がゼロの状態から停車状態を保持可能なW/C圧P1まで昇圧される。操作記憶部10dは、時間t10で操作回数1回をカウントする。その後、ブレーキ操作が解除されたことに伴い、P1に維持されていたW/C圧がゼロに減圧される。(図3の矢印A2参照)
【0047】
ここで、時間t10でブレーキ操作が開始され、W/C圧をP1まで昇圧する増加制御(第1モードS11)中、つまり圧力がP1に到達する前にブレーキ操作が解除されることがある。この場合、第2モードS12を経由せず、第1モードS11から第3モードS13へ移行する(図3の矢印A7参照)。また、操作記憶部10dは第1モードS11の実行回数をカウントするため、上述のような第1モードS11から第2モードS12を経て第3モードS13へ移行する場合(図3の矢印A1、A2、A3)も、第1モードS11から第3モードS13へ移行する(図3の矢印A7参照)場合も、操作回数は1回としてカウントされる。
【0048】
停車状態かつ抑制状態が継続している時間t12でブレーキ操作が再開されると、W/C圧をP1まで昇圧する増加制御が実行され、操作回数の積算が2回となる。そして、第1モードS11から、W/C圧P1まで昇圧され次第、つまり、時間t13において、第5モードS15へ移行する。(図3の矢印A8参照)そのため、時間t13以降にブレーキ操作が解除され、時間t14でブレーキ操作が再開されるが、W/C圧P1に保持され続ける。なお、ここでは、第1電磁弁35および第2電磁弁36は閉状態とされている。これにより、運転者がブレーキ操作の開始と解除を繰り返し行っても、その度にポンプ39やモータ40を駆動することがなく、耐久性を確保できる。
【0049】
次に、時間t15において、ブレーキ操作されたまま、シフトレンジがPレンジ(抑制状態)からDレンジ(非抑制状態)に変化されると、第5モードS15から第4モードS14へ移行する(図3のA10参照)。このとき、操作記憶部10dが記憶する実行回数はゼロとされる。その後、時間t16でブレーキ操作の解除が始まると、上述したようにW/C圧がゼロになるように各種電磁弁33、35、36が制御される。これにより、運転者が発進する意図がある場合には、運転者に違和感を与えることなく、スムーズに車両を発進させることができる。
【0050】
また、この具体例では、第5モードS15の継続時間が所定期間T1を超え、ブレーキ操作量がゼロであると第3モードS13に自動的に移行するように設定してもよいし、停止状態かつ抑制状態が継続する期間は第5モードS15が継続し続けるように設定してもよい。なお、所定期間T1を超えると第3モードS13に移行する具体例は、図10にて説明する。
【0051】
また、この具体例では、車室内にインジケータを設け、第5モードS15の継続時間中は、点灯または点滅することで、運転者に継続維持制御中であることを知らせてもよい。
【0052】
図10は、車両が停車状態および抑制状態であるとき、実施形態の停車保持制御S10の第5モードS15、また第5モードS15から第3モードS13への切り替わりの具体例が示された例示図である。
【0053】
この図10の具体例において、第5モードS15は、時間0(ゼロ)から時間t17に対応する点線の左側の領域に図示され、第3モードS13は、時間t17に対応する点線の右側の領域に図示されている。なお、第5モードS15は、時間0(ゼロ)から開始されたこととする。
【0054】
図10の具体例では、操作記憶部10dが所定回数3回で設定されている。つまり、ブレーキの操作回数が3回になると、第1モードS11から第5モードS15へ移行する。(図3の矢印A8参照)また、この具体例では、第5モードS15開始後、所定期間T1(例えば、180秒)を経過し、ブレーキ操作量がゼロであると制御部10cにより第5モードS15から第3モードS13へ移行する。このとき、操作記憶部10dは、操作回数がリセットされ、操作回数の積算がゼロとなる。
【0055】
そして、所定期間T1が経過した時間t17において、ブレーキ操作がされている場合は、第5モードS15が継続される。なお、この具体例では、所定期間T1経過後、ブレーキ操作量がゼロであるため、第5モードS15から第3モードS13へ移行する場合が図示されている。(図3の矢印A9参照)第3モードS13へ移行した後の制御の流れは上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0056】
ここで、図1に示したブレーキ制御装置10では、常開型の第1電磁弁35は、非通電で開状態であり、常閉型の第2電磁弁36は、非通電で閉状態である。そのため、第5モードS15において、これら電磁弁35、36は、ポンプ39やモータ40が停止状態で、W/C圧を維持するために、常開型の第1電磁弁35を通電により閉じ、常閉型の第2電磁弁36を非通電で閉じた状態とされている。そのため、第5モードS15が継続することにより、常開の第1電磁弁35は通電され続け、負荷がかかる。第3モードS13へ移行することで、第5モードS15で保持されていた所定のW/C圧P1がゼロになるように所定の勾配でW/C圧を減少させる制御が行われ、その後、W/C圧がゼロに保持され続ける。つまり、W/C圧がゼロになった後は、第1電磁弁35は非通電状態とする(図1の状態)ことができ、第5モードS15を長時間継続した場合と比較し、その負荷が低減される。
【0057】
また、図示していないが、上記とは異なり、所定期間T1を経過した時間t17において、ブレーキ操作がされている(ストロークがゼロでない)場合は、時間t17経過後も第5モードS15 が継続され、第1電磁弁35および第2電磁弁36は閉状態を維持する。そして、その後、ブレーキ操作が解除されたら、第3モードS13へ移行する。(図3の矢印A9)
【0058】
また、図示していないが、所定期間T1が経過する前にシフトレンジがPレンジ(抑制状態)からDレンジ(非抑制状態)に変更された場合は、第5モードS15から第4モードS14へ移行される。(図4の矢印A10参照)第4モードS14へ移行した後の制御の流れは上記図6図7と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0059】
さらに、図示していないが、Pレンジと同じく、抑制状態であるNレンジ中に第5モードS15で所定時間T1が経過した場合は、EPB(電動パーキングブレーキ)など、別のシステムによる制動力の保持を継続することが望ましい。こうすることで、坂路で停車している場合や、運転者が降車してしまった際などに、車両が動き出してしまうことを確実に防止することが可能になる。
【0060】
<変形例>
上述の説明では、リザーバタンクとポンプとが直接接続されていない、いわゆるインライン構造のブレーキ装置に実施形態の技術を適用する例について説明した。しかしながら、実施形態の技術は、リザーバタンクとポンプとが直接接続された、いわゆるアウトライン構造のブレーキ装置にも適用可能である。以下、変形例として、アウトライン構造のブレーキ装置の概略を説明する。
【0061】
図11は、変形例によるブレーキ制御装置の制御対象であるブレーキ装置1aの模式的な構成が示された例示図である。図11に例示されるように、変形例によるブレーキ装置1aは、リザーバタンク32bとポンプ39とが直接接続された、いわゆるアウトライン構造を有する。変形例によるブレーキ装置1aも、図1に例示された実施形態による各種電磁弁33、35および36と同様の各種電磁弁33a、35aおよび36aを備えている。
【0062】
遮断電磁弁33aは、マスタシリンダ32aの2つの吐出ポートに対応するように2つ設けられている。また、第1電磁弁35aおよび第2電磁弁36aの組み合わせは、4つの車輪2FL、2FR、2RLおよび2RRに対応するように4つ設けられている。車輪2FLに対応する第1電磁弁35aおよび第2電磁弁36aの組み合わせは、当該車輪2FLを制動するホイールシリンダ38に与えられる圧力を調整する圧力調整部34aFLを構成する。同様に、車輪2FR、2RLおよび2RRに対応する第1電磁弁35aおよび第2電磁弁36aの組み合わせは、それぞれ、車輪2FR、2RLおよび2RRを制動するホイールシリンダ38に与えられる圧力を調整する圧力調整部34aFR、34aRLおよび34aRRを構成する。
【0063】
ここで、変形例では、2つのポンプ39の吸入側と、リザーバタンク32bとが直接接続されている。また、変形例では、2つのポンプ39の吸入側と、マスタシリンダ32aの一方の吐出ポートとが、ブレーキペダル31のシミュレータとして機能する第3電磁弁42aおよび第4電磁弁43aを介して接続されている。上述した実施形態の技術(第1モードS11〜第5モードS15を含んだ停車保持制御S10)は、このようないわゆるアウトライン構造のブレーキ装置1aにも適用可能である。
【0064】
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1,1a…ブレーキ装置、10…ブレーキ制御装置、10a…状態検出部、10b…操作検出部、10c…制御部、10d…操作記憶部、32…圧力発生部、34FR,34RL、34RR、34FL…圧力調整部、35…第1電磁弁、36…第2電磁弁、37…還流機構、60…第1液路、61…第2液路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11