特許第6699356号(P6699356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699356
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】オーバーランニングクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/07 20060101AFI20200518BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20200518BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   F16D41/07 D
   F16D41/07 B
   F16D41/08 A
   F16D41/06 D
   F16D41/06 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-107341(P2016-107341)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-214950(P2017-214950A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 英滋
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭52−143560(JP,U)
【文献】 特開昭62−110032(JP,A)
【文献】 特開平05−302632(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00 − 47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
内輪と、
係合部材と、
離間手段
付勢手段と、
制御手段と、
を備え、
係合部材は、内輪と外輪とを係合可能であり、
離間手段は、係合部材が外輪及び内輪に係合している状態において、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させることが可能であり、
制御手段は、
付勢手段により、係合部材を係合方向とは反対方向に付勢する第1制御と、
離間手段により、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させる第2制御と、
を順次または同時に実行可能である、
オーバーランニングクラッチ。
【請求項2】
外輪と、
内輪と、
係合部材と、
離間手段
を備え、
係合部材は、内輪と外輪とを係合可能であり、
離間手段は、係合部材が外輪及び内輪に係合している状態において、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させることが可能であり、
離間手段は、係合部材を外輪または内輪方向へ収縮させることにより、係合部材を内輪または外輪から離間させる、
オーバーランニングクラッチ。
【請求項3】
外輪と、
内輪と、
係合部材と、
離間手段
を備え、
係合部材は、内輪と外輪とを係合可能であり、
離間手段は、係合部材が外輪及び内輪に係合している状態において、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させることが可能であり、
離間手段は、
外輪の係合面を、内輪から離間する方向に変位させる手段、及び、
内輪の係合面を、外輪から離間する方向に変位させる手段、
の少なくとも一方である、オーバーランニングクラッチ。
【請求項4】
外輪と、
内輪と、
係合部材と、
離間手段
を備え、
係合部材は、内輪と外輪とを係合可能であり、
離間手段は、係合部材が外輪及び内輪に係合している状態において、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させることが可能であり、
離間手段は、磁歪素子を含んで構成される、オーバーランニングクラッチ。
【請求項5】
外輪と、
内輪と、
係合部材と、
離間手段
を備え、
係合部材は、内輪と外輪とを係合可能であり、
離間手段は、係合部材が外輪及び内輪に係合している状態において、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させることが可能であり、
離間手段は、圧電素子を含んで構成され、
係合部材は複数設けられ、
内輪または外輪に圧電素子が一つのみ設けられ、
圧電素子は、当該圧電素子が取り付けられた内輪または外輪の固有振動数で振動可能である、オーバーランニングクラッチ。
【請求項6】
請求項に記載のオーバーランニングクラッチであって、
付勢手段は、電磁石により構成される、オーバーランニングクラッチ。
【請求項7】
請求項1に記載のオーバーランニングクラッチであって、
付勢手段は、弾性部材により構成され、
係合部材を係合方向に付勢する電磁石を備え、
制御手段は、第1制御の際に電磁石への電力供給を遮断する、オーバーランニングクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバーランニングクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内輪と外輪との間に設けられ、両者の回転速度差に応じて係合/解放状態が切り替わる、オーバーランニングクラッチが知られている。このようなオーバーランニングクラッチは、例えば相対的に外輪が時計回りのときに係合状態となり、反時計回りのときに解放状態となる。
【0003】
例えば特許文献1では、係合/解放方向を切り替え可能な2方向クラッチが示されている。外輪とその内周側に設けられた回転軸との間にはクサビ空間が形成され、このクサビ空間にコロが配置される。クサビ空間、特にコロの径より広い部分(解放部分、空転部分)と狭い部分(係合部分)との配置を反時計回り寄りや時計回り寄り等、種々変更することで、係合/解放方向を変更できる。例えばコロの径よりも広い部分を、クサビ空間の反時計回り側の端部とすることで、反時計回りを解放方向にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−302632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コロやコマ等の係合部材が一旦係合状態(噛み込み状態)に至ると、内輪及び外輪の相対回転が切り替わらなければ基本的には解放状態に切り替わらない。仮に、異常回転等により、内輪と外輪との相対回転が切り替わらない間に内輪と外輪との駆動力伝達を遮断しようとすると、係合状態の係合部材を無理やり係合方向とは逆方向に引き抜く必要がある。このとき、係合部材を引き抜くには、例えば伝達トルク以上の力等、大きな力が必要となるが、その際に係合部材やこれと噛み合う内輪外周面及び外輪内周面等に損傷が加わるおそれがある。そこで本発明は、係合状態の係合部材に対して、伝達トルクを下回る力で、その係合状態を解放状態に切り替えることの可能な、オーバーランニングクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るオーバーランニングクラッチは、外輪と、内輪と、係合部材と、離間部材とを備える。係合部材は、内輪と外輪とを係合可能である。離間手段は、係合部材が外輪及び内輪に係合している状態において、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させることが可能である。
【0007】
また、上記発明において、オーバーランニングクラッチは、付勢手段と、制御手段とを備えてもよい。この場合において制御手段は、付勢手段により、係合手段を係合方向とは反対方向に付勢する第1制御と、離間手段により、係合部材の係合面を、外輪及び内輪の少なくとも一方の係合面に対して垂直方向に離間させる第2制御と、を順次または同時に実行可能である。
【0008】
また、上記発明において、離間手段は、係合部材を外輪または内輪方向へ収縮させることにより、係合部材を内輪または外輪から離間させるようにしてもよい。
【0009】
また、上記発明において、離間手段は、外輪の係合面を、内輪から離間する方向に変位させる手段、及び、内輪の係合面を、外輪から離間する方向に変位させる手段、の少なくとも一方であってよい。
【0010】
また、上記発明において、離間手段は、磁歪素子を含んで構成されてよい。
【0011】
また、上記発明において、離間手段は、圧電素子を含んで構成されてよい。この場合において、係合部材は複数設けられ、内輪、外輪、及び係合部材のいずれかに圧電素子が一つのみ設けられ、圧電素子は、内輪、外輪、係合部材及びオーバーランニングクラッチ全体のいずれかの固有振動数で振動可能である。
【0012】
また、上記発明において、付勢手段は、弾性部材及び電磁石の少なくとも一方により構成されてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、係合状態の係合部材に対して、伝達トルクを下回る力で、その係合状態を解放状態に切り替えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ(スプラグ型)の一部構成を例示する図である。
図2】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ(スプラグ型)の、係合状態から解放状態への切り替えプロセスを説明する図である。
図3】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ(スプラグ型)の別例を示す図である。
図4】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチの別例(ローラクラッチ型)を示す図である。
図5】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチの別例(ローラクラッチ型)の、係合状態から解放状態への切り替えプロセスを説明する図である。
図6】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチの更なる別例を示す図である。
図7】本実施形態に係るオーバーランニングクラッチの更なる別例の、係合状態から解放状態への切り替えプロセスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1に、本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ10を例示する。図1に示すオーバーランニングクラッチ10はスプラグ型のクラッチであり、内輪12、外輪14、スプラグカム16、支持リング18、スプリング20、及び電磁石22を含んで構成される。
【0016】
内輪12の外周面24と外輪14の内周面26とは離間されており、この離間空間にスプラグカム16、支持リング18、スプリング20、及び電磁石22が配置される。内輪12の外周面24及び外輪14の内周面26との間にスプラグカム16が噛み込まれると(係合されると)、スプラグカム16を介して内輪12及び外輪14の間でトルクが伝達される。つまり、内輪12の外周面24及び外輪14の内周面26はともに係合面を構成する。
【0017】
スプラグカム16は、内輪12及び外輪14と同心状に形成された支持リング18に、周方向に沿って複数設けられる係合部材である。スプラグカム16は、支持リング18に回動可能に支持される。図1に示す例では、外輪14が内輪12に対して相対的に時計方向に回転するときに、スプラグカム16が時計方向に回動して内輪12及び外輪14に噛み込まれる(係合状態)。一方、外輪14が内輪12に対して相対的に反時計方向に回転するときに、スプラグカム16が反時計方向に回動して内輪12及び外輪14から離脱する(解放状態)。
【0018】
スプラグカム16は磁歪素子28及びウェイト30を備える。後述するように、磁気が与えられることで磁歪素子28が変形し、これによってスプラグカム16は内輪12及び外輪14から離間する。磁歪素子28は、例えば、鉄(Fe)とテルビウム(Tb)やディスプロシウム(Dy)等の希土類元素を混ぜ合わせた材料から構成される。なお、本実施形態及びそれ以降の別例を含め、磁歪素子28は、特許請求の範囲における離間部材に含まれる。また電磁石22は、特許請求の範囲における付勢手段に含まれる。
【0019】
電磁石22と磁歪素子28間の磁路となるウェイト30は、透磁性部材から構成されることが好適である。加えてウェイト30は、電磁石22による磁力に引き寄せられる磁性材料から構成されることが好適である。例えばウェイト30は、鉄やニッケル、及びこれらの合金から構成される。
【0020】
スプリング20は、スプラグカム16を係合方向に付勢する弾性部材である。図1の例では、スプリング20は内輪12側に設けられ、スプラグカム16を時計回り方向に付勢する。
【0021】
電磁石22は、スプラグカム16に対向して当該スプラグカム16の磁歪素子28に磁気を与える。また、その磁気によりスプラグカム16のウェイト30を引き寄せる。電磁石22は、例えば内輪12から径方向に延設された支柱32の先端部に設けられる。内輪12等に設けられた電流源31(図2参照)により、電磁石22に電流が供給される。
【0022】
図2には、本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ10を係合状態から解放状態に切り替える際の模式図が例示されている。この例において、外輪14は内輪12に対して相対的に時計回り(係合方向)に回転しているものとする。また、初期状態として、オーバーランニングクラッチ10は係合状態、すなわち、スプラグカム16の係合面が内輪12の外周面24及び外輪14の内周面26に係合しているものとする。
【0023】
上記初期状態の後、例えば内輪12に設けられた電流源31から電磁石22に電流が供給されると、電磁石から磁束が発生する。この磁束によりスプラグカム16のウェイト30→磁歪素子28→内輪12→支柱32→電磁石22とのループ経路L(磁路)が形成される。このとき、磁歪素子28に磁気が加わることで磁歪素子28が外輪方向及び内輪方向の少なくとも一方向に収縮する。図2では、磁歪素子28が回動中心に向かって収縮する例が破線で示されている。
【0024】
磁歪素子28の収縮に伴い、スプラグカム16の係合面34が、内輪12及び外輪14の少なくとも一方の係合面24、26に対して垂直方向に離間する。これによりオーバーランニングクラッチ10(より正確にはスプラグカム16)が係合状態から解放状態に切り替わる。
【0025】
なお、垂直方向とは、係合面に対する90°方向のみを指すものではなく、実質的に垂直と捉えてもよい範囲を含むものとする。例えば機械的な精度をや公差を考慮して、85°以上95°以下の範囲を垂直方向に含めてもよい。
【0026】
スプラグカム16を係合状態から解放状態に切り替えるに当たり、仮に、内輪12及び外輪14からスプラグカム16を、その係合面34に平行に引き抜いて離間させようとする場合、内輪12及び外輪14との間で伝達されるトルク以上の力を加えないと、原理上、スプラグカム16を内輪12及び外輪14から外せない。
【0027】
これに対して本実施形態では、スプラグカム16、内輪12及び外輪14の各係合面34、24、26に対して垂直に、スプラグカム16と、内輪12及び外輪14とを離間させている。この様な構成を備えることで、離間に要する力を、内輪12及び外輪14間で伝達されるトルク未満に抑えることが可能となる。
【0028】
加えて、本実施形態では、電磁石22によりスプラグカム16のウェイト30を引き寄せ、スプラグカム16を係合方向とは反対方向に付勢する。このとき、電磁石22による吸引力(より正確にはモーメント)は、スプリング20による弾性力(より正確にはモーメント)より大きいことが好適である。このようにすることで、内輪12及び外輪14から一旦離間したスプラグカム16を解放方向である反時計回りに回動させ、オーバーランニングクラッチ10を確実に係合状態から解放状態に切り替えることが可能となる。
【0029】
なお、図1、2に例示する実施形態では、磁気を与えることで収縮する磁歪素子28を用いていたが、この形態に限らない。磁歪素子28は、上記の性質に代えて、磁気が加えられている間は伸張し、磁気が遮断されると収縮する(元に戻る)性質を備えたものが知られている。このような磁歪素子28’を用いてオーバーランニングクラッチ10の構成部材として用いてもよい。
【0030】
図3には、スプラグカム16に磁歪素子28’を設けたオーバーランニングクラッチ10が例示されている。磁歪素子28’は、磁気が加えられている間は伸張し、磁気が遮断されると収縮する(元に戻る)性質を備えている。
【0031】
また、電磁石22はスプラグカム16よりも係合方向側、つまり時計回り上流側に設けられており、スプラグカム16を吸引して時計回り(係合方向)に付勢する。一方、スプリング20はスプラグカム16よりも解放方向側、つまり反時計回り上流側に設けられており、スプラグカム16を反時計回り(解放方向)に付勢する。
【0032】
図1の実施形態と比較すると、図1では、スプラグカム16を係合方向に付勢する手段がスプリング20であったのに対して、図3では電磁石22がその役割を担う。また、図1では、スプラグカム16を解放方向に付勢する手段が電磁石22であったのに対して、図3ではスプリング20がその役割を担う。スプリング20の弾性力と電磁石22の吸引力(正確にはモーメント)の大小関係は、図1図3ともにスプリング20の弾性力 < 電磁石22の吸引力である。
【0033】
このような構成において、外輪14が内輪12に対して時計回りに回転している際に、オーバーランニングクラッチ10を係合状態にさせる。まず、電磁石22に電流が供給される。電磁石22から生じた磁束により磁歪素子28’は伸張され、また電磁石22によりスプラグカム16が時計回りに吸引される。これによりスプラグカム16が内輪12及び外輪14と係合する。
【0034】
スプラグカム16を係合状態から解放状態に切り替える際には、電磁石22への電流供給を遮断する。これによって磁歪素子28’は収縮し(元に戻り)、スプラグカム16の係合面34が、内輪12及び外輪14の少なくとも一方の係合面24、26に対して垂直方向に離間する。さらに電磁石22の吸引力がゼロになることで、スプラグカム16はスプリング20により解放方向、つまり反時計回りに付勢される。
【0035】
<第1実施形態の変形例>
図1図3では、離間部材に磁歪素子28、28’を含めていたが、これに代えて、圧電素子及びこれに電圧を印加する電圧源を備えるようにしてもよい。例えば、図1の磁歪素子28に代えて、電圧印加時に収縮する電圧素子を設けてもよい。また、図3の磁歪素子28’に代えて、電圧印加時に伸長し、電圧遮断時に収縮する(元に戻る)電圧素子を設けてもよい。スプラグカム16に設けられた圧電素子への電圧印加は、例えば外輪14及び内輪12の一方を正極側、他方を負極側とした回路を形成すると、係合時にスプラグカム16に電圧を印加できる。
【0036】
<第2実施形態>
図4には、本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ10の別例として、ローラクラッチの例が示されている。このオーバーランニングクラッチ10は、内輪12、外輪14、ローラ36、スプリング20、電磁石22、及び圧電素子40を備える。この例において、ローラ36は係合部材に含まれる。また電磁石22は付勢手段に含まれ、圧電素子40は離間手段に含まれる。
【0037】
内輪12の外周面24と及び外輪14の内周面26とは離間されており、この離間空間にローラ36、スプリング20、及び電磁石22が配置される。また、ローラ36、スプリング20、及び電磁石22が配置される空間(楔空間38)は、ローラ36の径以上となる部分から徐々にローラ36の径未満となるように狭められていくテーパ形状に形成されている。ローラ36の径以上となる部分にローラ36を付勢する場合、解放方向への付勢となり、ローラ36の径未満となる部分にローラ36を付勢する場合、係合部分への付勢となる。
【0038】
図4に示す例では、楔空間38は時計回り方向に狭まるようなテーパ形状に形成されている。このことから、外輪14が内輪12に対して時計回りに回転するときにローラ36が内輪12及び外輪14に係合される(噛み込まれる)。一方、外輪14が内輪12に対して反時計方向に回転するときにローラ36が内輪12及び外輪14から外れる(解放状態)。
【0039】
スプリング20はローラ36を係合方向に、つまり楔空間38においてローラ36の径未満となる部分に向かって付勢する。また後述するように、電磁石22はローラ36を解放方向に、つまり楔空間38においてローラ36の径以上となる部分に向かって付勢する。
【0040】
楔空間38を画成する、内輪12の外周面24及び外輪14の内周面26の少なくとも一方には、圧電素子40が設けられる。圧電素子40は、楔空間38のうち、ローラ36との係合面、すなわち、ローラ36の径未満となる部分に少なくともその一部が含まれるように配置される。つまり、圧電素子40の表面(楔空間38に露出する表面)は係合面として機能し、ローラ36と係合される。
【0041】
ローラ36は、電磁石22による磁力に引き寄せられる磁性材料から構成されることが好適である。例えばローラ36は、鉄やニッケル、及びこれらの合金から構成される。
【0042】
図5には、本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ10を、係合状態から解放状態に切り替える際の模式図が例示されている。この例において、外輪14は内輪12に対して相対的に時計回り(係合方向)に回転しているものとする。また、初期状態として、オーバーランニングクラッチ10は係合状態、すなわち、ローラ36の係合面34が、内輪12の係合面24(外周面)と、外輪14の係合面26(圧電素子40の表面)とに係合しているものとする。
【0043】
上記初期状態の後、外輪14等に設けられた電圧源41から圧電素子40に電圧が印加されると、圧電素子40が内輪方向及び外輪方向の少なくとも一方に収縮する。図5に示す例では、圧電素子40が外輪14に設けられていることから、電圧印加によって外輪側(外径側)に収縮する。
【0044】
圧電素子40の収縮に伴い、外輪14の係合面26が、ローラ36の係合面34に対して垂直方向に離間する。言い換えると、外輪14の係合面26が、内輪から離間する方向に変位する。これによりオーバーランニングクラッチ10(より正確にはローラ36)が係合状態から解放状態に切り替わる。なお、圧電素子40が内輪12に設けられている場合には、内輪12の係合面24が、ローラ36の係合面34に対して垂直方向に離間する。言い換えると、内輪12の係合面24が、外輪から離間する方向に変位する。
【0045】
加えて、本実施形態では、電流源31から電磁石22に電流を供給して磁界を生じさせ、ローラ36を引き寄せる。つまり、ローラ36を係合方向とは反対方向(解放方向)に付勢する。このとき、電磁石22による吸引力は、スプリング20による弾性力より大きいことが好適である。
【0046】
仮に、圧電素子40を収縮させた後、ローラ36を解放方向に引き寄せないと、ローラ36はスプリング20によって係合方向に付勢されて、圧電素子40が配置されていない箇所まで引き寄せられ、再度係合状態に至る可能性がある。本実施形態のように、圧電素子40の収縮と解放方向への引き寄せを同時に行うことで、解放後の再係合を防止可能となる。なお、解放方向への引き寄せ、つまり、電磁石22への電流供給は、圧電素子40への電圧印加に先駆けて行うようにしてもよい。
【0047】
<第3実施形態>
図6には、本実施形態に係るオーバーランニングクラッチ10の更なる別例が示されている。この例では、離間部材として、磁歪素子28の他に、またはこれに代えて、圧電素子40が含まれる。すなわち、圧電素子40によりオーバーランニングクラッチ10の構成部材を変形させ、それによって係合部材を、内輪12及び外輪14の係合面から垂直方向に離間させる。
【0048】
図6には、スプラグ型のオーバーランニングクラッチ10が例示されている。これに代えて、ローラクラッチ型のオーバーランニングクラッチ10に本実施形態を適用してもよい。
【0049】
図6に示すオーバーランニングクラッチ10は、図1にて例示したオーバーランニングクラッチ10と比較して、スプラグカム16の構成を変化させている。すなわち、スプラグカム16から磁歪素子28を取り去り、透磁性部材のウェイト30のみにてスプラグカム16’を構成している。
【0050】
さらに、オーバーランニングクラッチ10の、内輪12、外輪14、及び係合部材であるスプラグカム16’の少なくともいずれか一つには、圧電素子40が設けられる。図6に示す例では、外輪14の外周面に圧電素子40が設けられている。圧電素子40は一つのみであってもよいが、後述する振動モードの生成に当たり、協調的に作動可能であれば複数設けてもよい。また、制御の簡素化を狙って、圧電素子40はオーバーランニングクラッチ10に一つのみ設けてもよい。なお、スプラグカム16’の構成及び圧電素子40以外の構成は図1の実施形態と同様であることから、詳細な構成の説明は適宜省略する。
【0051】
図6には、オーバーランニングクラッチ10を係合状態から解放状態に切り替える際の模式図が示されている。この例において、外輪14は内輪12に対して相対的に時計回り(係合方向)に回転しているものとする。また、初期状態として、オーバーランニングクラッチ10は係合状態、すなわち、スプラグカム16’の係合面が内輪12の外周面24及び外輪14の内周面26に係合しているものとする。
【0052】
上記初期状態から圧電素子40に交流電圧が印加されると、圧電素子40が電圧波形に応じて変形する。これに伴い、圧電素子40が取り付けられた外輪14も変形する。圧電素子40の変位を調整してオーバーランニングクラッチ10を共振させることで、大きな変異を得ることができる。図6の破線は、外輪14の径方向の2次の振動モード(共振時)を示す。圧電素子40に加える電圧波形の振動数は、例えば、内輪12単独、外輪14単独、係合部材(スプラグカム16’)、及びオーバーランニングクラッチ10全体の各固有振動数のいずれかであってよい。
【0053】
圧電素子40に印加する交流電圧の振幅を増加させるに従い、外輪14の変形振幅が増加する。さらに図7に示すように、外輪14の振幅が閾値Athを超過する。この閾値Athは、例えば係合状態のスプラグカム16’の係合面34が外輪14の係合面26から垂直方向に完全に離間する程度の振幅を示しており、事前に試験やシミュレーション等で取得可能である。
【0054】
さらに、外輪14の振幅が閾値Athを超過した時点で、電磁石22に電流を供給して磁気を発生させ、スプラグカム16’を解放方向に付勢(反時計方向に回転)させる。または、外輪14の振幅が閾値Athを超過する前段階から、電磁石22に電流を供給させておいてもよい。このようにすることで、オーバーランニングクラッチ10(正確にはスプラグカム16)を係合状態から解放状態に切り替えることができる。
【0055】
なお、図6の実施形態では、磁歪素子28による係合部材(スプラグカム)の収縮または伸長を利用せずに、圧電素子40による変形のみにて、係合部材を外輪及び内輪から離脱させていたが、この形態に限らない。例えば図1のオーバーランニングクラッチ10に圧電素子40を適用して、離脱を促進させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 オーバーランニングクラッチ、12 内輪、14 外輪、16 スプラグカム(係合部材)、18 支持リング、20 スプリング、22 電磁石(離間手段)、24 内輪の外周面(係合面)、26 外輪の内周面(係合面)、28 磁歪素子(離間手段)、30 ウェイト、31 電流源、32 支柱、34 係合手段の係合面、36 ローラ、38 楔空間、40 圧電素子、41 電圧源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7