(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699420
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】材料試験機用保持具
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20200518BHJP
【FI】
G01N3/04 P
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-140146(P2016-140146)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-9925(P2018-9925A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2018年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】金田 匡規
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−149214(JP,A)
【文献】
特開2009−109365(JP,A)
【文献】
特開2013−200234(JP,A)
【文献】
特開2012−040101(JP,A)
【文献】
特開2012−159408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水試験片に対して材料試験を行うときに、前記含水試験片を保持するための材料試験機用保持具であって、
前記含水試験片の試験領域の両端部と面接触することにより、前記含水試験片の水分が浸入可能な多数の凹部を有する一対の保持部材を備え、
当該一対の保持部材上に前記含水試験片の両端を載置し、前記一対の保持部材と前記含水試験片の片面とを接触させることにより、前記含水試験片を保持するとともに、前記一対の保持部材を互いに離隔する方向に移動させることにより、前記含水試験片に引張試験力を付与することを特徴とする材料試験機用保持具。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機用保持具において、
前記保持部材は、多孔質の材料から構成される材料試験機用保持具。
【請求項3】
請求項2に記載の材料試験機用保持具において、
前記保持部材はスポンジ状部材から構成される材料試験機用保持具。
【請求項4】
請求項3に記載の材料試験機用保持具において、
前記保持部材における前記含水試験片と接触する領域以外の領域を、剛性を有する支持部材により支持する材料試験機用保持具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の材料試験機用保持具において、
前記保持部材における前記含水試験片との接触面を、曲面状とする材料試験機用保持具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の材料試験機用保持具において、
前記保持部材は、その上部に前記含水試験片を載置した状態で水平方向に移動する材料試験機用保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、材料試験機用保持具に関し、特に、含水試験片に対して材料試験を行うときに好適な材料試験機用保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の材料試験機において、試験片101に対して材料試験を行う様子を示す説明図である。
【0003】
この図に示すように、試験片101に対して、引張試験を行うときには、試験片101の上端部を上つかみ具における一対のつかみ歯31により把持するとともに、試験片101の下端部を下つかみ具における一対のつかみ歯32により把持し、上つかみ具と下つかみ具とを互いに離隔する方向に移動させることにより、試験片101に対して引張試験力を負荷している。
【0004】
なお、フィルムの表面硬度を測定するときに、このフィルムを固定するための固定ステージとして、フィルムとの当接面を多孔質セラミックで構成し、フィルムを真空吸着することにより、このフィルムを固定するフィルム固定用固定ステージも提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−88252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、生体材料のように、薄くて脆弱で、かつ、水分を含有する材質からなる試験片(本発明では、含水試験片と称する)に対して引張試験を行う場合においては、
図5に示すように、試験片101をつかみ歯31、32により把持する構成を採用したときには、つかみ歯31、32による試験片101の把持部に損傷を与えることになる。このように試験片101に損傷が生じた場合には、この損傷部位が破断の起点となってしまい、正確な引張試験を実行することができないという問題が生ずる。このような問題は、特許文献1に記載されたフィルム固定用固定ステージをつかみ具として適用した場合においても、その真空吸着領域で同様に生ずる問題である。
【0007】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、含水試験片に対して材料試験を行う場合においても、試験片に損傷を与えることなく、試験片を好適に保持することが可能な材料試験機用保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、含水試験片に対して材料試験を行うときに、前記含水試験片を保持するための材料試験機用保持具であって、前記含水試験片の
試験領域の両端部と面接触することにより、前記含水試験片の水分が浸入可能な多数の凹部を有する
一対の保持部材を備え、当該
一対の保持部材上に前記含水試験片の両端を載置し、前記一対の保持部材と前記含水試験片の片面とを接触させることにより、前記含水試験片を保持する
とともに、前記一対の保持部材を互いに離隔する方向に移動させることにより、前記含水試験片に引張試験力を付与することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験機用保持具において、前記保持部材は、多孔質の材料から構成される。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の材料試験機用保持具において、前記保持部材はスポンジ状部材から構成される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の材料試験機用保持具において、前記保持部材における前記含水試験片と接触する領域以外の領域を、剛性を有する支持部材により支持する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の材料試験機用保持具において、前記保持部材における前記含水試験片との接触面を、曲面状とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の材料試験機用保持具において、前記保持部材は、その上部に前記含水試験片を載置した状態で水平方向に移動する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、含水試験片の片面と、その水分が浸入可能な多数の凹部を有する保持部材とを接触させることにより、含水試験片を保持することから、試験片に損傷を与えることなく、試験片を好適に保持することが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、スポンジ状部材を、剛性を有する部材で支持することにより、保持具の形状を安定させた状態で材料試験を行うことが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、保持部材における試験片との接触面を曲面状とすることにより、試験片の引張方向に対する保持力を増加させて、試験片をより確実に保持することが可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、保持部材上に試験片を載置することで、試験片を安定して保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の第1実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機の側面概要図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機の平面概要図である。
【
図3】この発明の第2実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機の側面概要図である。
【
図4】この発明の第2実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機の平面概要図である。
【
図5】従来の材料試験機において、試験片101に対して材料試験を行う様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機の側面概要図であり、
図2は、その平面概要図である。
【0020】
この材料試験機は、生体材料等の水分を内部に含有した材質からなる含水試験片100に対して材料試験としての引張試験を行うものである。この含水試験片100としては、例えば、人間の皮膚の細胞を培養してシート状とした細胞シート等である。この含水試験片100は、
図1および
図2においては厚さを誇張して表現しているが、極めて薄く、かつ、脆弱であるという性質を有する。なおここで水分を含有しているとは、絞れば液体としての水がしたたり落ちるようなものや、絞っても水はしたたり落ちない程度に湿った状態のものも含むものである。また水分とは化合物としての水だけでなく、油分などを含む液体状のものを含んだ概念である。
【0021】
この材料試験機は、水平方向を向けて配設された一対のボールねじ15を回転可能に支持するベース26上に配設された一対の固定部24、25と、その内部に一対のボールねじ15に螺合するナット部を備えた移動部14とを有する。移動部14には、保持部材11と、支持部材12と、連結部材13とから構成されるこの発明に係る材料試験機用保持具が接続されている。これに対して、一対の固定部24、25のうちの一方の固定部24には、保持部材11と、支持部材12と、連結部材13とから構成されるこの発明に係る材料試験機用保持具が、ロードセル23を介して接続されている。
【0022】
各ボールねじ15の一端には、同期プーリ16が配設されている。これらの同期プーリ16には、同期ベルト18が巻回されている。この同期ベルト18は、ベース26上に配設されたモータ19の駆動により回転する同期プーリ17とも係合している。このため、一対のボールねじ15は、モータ19の駆動により、互いに同期して回転する。そして、このボールねじ15の回転により、移動部14が水平方向に移動する。
【0023】
この発明に係る材料試験機用保持具を構成する支持部材12と連結部材13とは、金属により構成されており、保持部材11は、シート形状を有するスポンジ状部材から構成されている。保持部材11は接着剤による接着やその他の方法により支持部材12の上に固着されている。このスポンジ状部材からなる保持部材11は、多孔質であり、含水試験片100と面接触したときには、含水試験片100の水分が多孔質に形成された凹部に染みこんで凹部内に浸入する。これにより、含水試験片100と多孔質に形成された凸部とが直接的に接触し、含水試験片100と保持部材11との間に摩擦抵抗または付着力を生じさせることができる。
【0024】
このときには、含水試験片100と保持部材11とは、スポンジ状部材に形成された極めて多数の凹凸を介して面接触していることから、含水試験片100と保持部材11とに対して、その接触面に平行な方向に相対的に移動させようとする力が生じたとしても、その力を接触面全域で分散させることが可能となる。このため、含水試験片100が保持部材11との接触部で損傷することはない。
【0025】
以上のような構成を有する材料試験機用保持具を備えた材料試験機において、生体材料等の含水試験片100に対して引張試験を行うときには、
図1および
図2に示すように、含水試験片100を保持部材11上に載置する。このときには、含水試験片100に含有される水分がスポンジ状部材から構成される保持部材11における凹部内に浸入することにより、含水試験片100と多孔質に形成された凸部とが直接的に接触し、含水試験片100と保持部材11との間に摩擦抵抗または付着力が発生する。この状態において、モータ19の駆動により、移動部14を一方の固定部24から離隔する方向に移動させることにより、含水試験片100に対して引張試験力を付与する。このときの試験力は、ロードセル23により測定される。
【0026】
次に、この発明の他の実施形態について説明する。
図3は、この発明の第2実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機の側面概要図であり、
図4は、その平面概要図である。なお、上述した第1実施形態と同様の部材については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0027】
上述した第1実施形態に係る材料試験機用保持具においては、保持部材11の上面と支持部材12の上面とが平面状となっており、保持部材11と含水試験片100との接触領域も平面状となっていた。これに対して、この第2実施形態においては、支持部材22が、移動部14の移動方向と直交する方向を向く円筒形状を有し、支持部材22の上面が曲面状となっている。これにより、支持部材22により支持された保持部材21の上面も、支持部材22の上面に沿った曲面状となっている。なお、この保持部材21も、第1実施形態に係る保持部材11と同様、シート形状を有する多孔質のスポンジ状部材から構成されている。
【0028】
この第2実施形態に係る材料試験機用保持具を備えた材料試験機において、含水試験片100に対して引張試験を行うときには、
図3および
図4に示すように、含水試験片100を保持部材21上に載置する。これにより、含水試験片100に含有される水分がスポンジ状部材から構成される保持部材21における凹部内に浸入することにより、含水試験片100と多孔質に形成された凸部とが直接的に接触し、含水試験片100と保持部材21との間に摩擦抵抗または付着力を発生する。
【0029】
このとき、この第2実施形態に係る材料試験機用保持具においては、保持部材21の上面が曲面状となっていることから、含水試験片100における保持部材21との当接領域も曲面状となる。これにより、含水試験片100が平面状であった場合と比較して、含水試験片100の引張方向に対する保持力を増加させることができ、含水試験片100をより確実に保持することが可能となる。
【0030】
なお、上述した実施形態においては、いずれも、保持部材11、21としてスポンジ状部材を使用している。しかしながら、保持部材11、21としては、スポンジ状部材に限らず、例えば、セラミック等から構成されるその他の多孔質の材料を使用してもよい。また、多孔質の材料に限らず、含水試験片100と面接触することにより含水試験片100の水分が浸入可能な、多数の凹部を有するその他の保持部材を使用してもよい。
【0031】
また、上述した実施形態においては、軟質のスポンジ状部材から構成される保持部材11、21を支持部材12、22により支持することにより、保持具の形状を安定させている。しかしながら、保持部材としてセラミックや多孔質の金属等を使用した場合において、この保持部材自体が剛性を有するときには、上述した支持部材12を省略するようにしてもよい。
【0032】
また、上述した実施形態においては、含水試験片100を水平方向とした状態で一対の保持部材11、21上に載置し、含水試験片100に対して水平方向を向く試験力を付与している。しかしながら、含水試験片100の水分が保持部材11、21に浸入することで、含水試験片100の表面を鉛直方向に向けて配置した場合においても含水試験片100が保持部材11、21により保持し得る場合には、含水試験片100を、鉛直方向を向けて配置し、鉛直方向を向く試験力を付与して引張試験を行ってもよい。
【0033】
さらに、上述した実施形態においては、含水試験片100として平面状のものを使用しているが、含水試験片100はこのような形状のものに限定されるものではない。例えば、水分を含有する紐状の試験片や筒状の試験片に対して引張試験を実行するときに、この発明に係る材料試験機用保持具を使用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
11 保持部材
12 支持部材
13 連結部材
14 移動部
15 ボールねじ
19 モータ
21 保持部材
22 支持部材
23 ロードセル
24 固定部
25 固定部
100 含水試験片