特許第6699554号(P6699554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許6699554淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法
<>
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000002
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000003
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000004
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000005
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000006
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000007
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000008
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000009
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000010
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000011
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000012
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000013
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000014
  • 特許6699554-淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699554
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20200518BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20200518BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C02F1/44 G
   B01D65/02
   B01D61/58
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-547193(P2016-547193)
(86)(22)【出願日】2016年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2016066772
(87)【国際公開番号】WO2016199725
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2019年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-116428(P2015-116428)
(32)【優先日】2015年6月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楯岡 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】富岡 一憲
(72)【発明者】
【氏名】前田 智宏
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/039224(WO,A1)
【文献】 特開2010−125395(JP,A)
【文献】 特開平10−263539(JP,A)
【文献】 特開2007−181822(JP,A)
【文献】 特開2013−188710(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057156(WO,A1)
【文献】 特開2004−237281(JP,A)
【文献】 特開2000−210543(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0105617(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00 − 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過して前処理水を製造する前処理膜モジュールを備えた複数の系列で構成される前処理手段と、前記前処理水を供給して淡水を製造する半透膜モジュールを備えた脱塩手段とを有する淡水製造装置であって、
前記淡水製造装置は前記脱塩手段に前記前処理水を直接供給する高圧ポンプと、一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続され他端が前記高圧ポンプに接続された第1の連結配管と、一端が前記高圧ポンプに接続され他端が前記脱塩手段に接続された第2の連結配管と、一端が前記脱塩手段に接続された透過水配管および濃縮水排水配管と、前記第1の連結配管上に設けられ前記高圧ポンプに供給される前記前処理水の圧力を測定する圧力計と、前記前処理水の圧力を一定とするための圧力制御手段とを備え、
前記前処理手段は各系列の原水側に開閉速度を調整可能な原水供給弁と、各系列の前処理水側に開閉速度を調整可能なろ過弁と、ろ過時に閉となる逆洗排水弁と、ろ過開始工程、ろ過工程、ろ過終了工程、洗浄工程を繰り返して運転し、かつ前記洗浄工程を行う系列以外の少なくとも1系列が前記ろ過工程を継続させるよう制御する制御手段とを備え、
さらにろ過開始時には前記原水供給弁と前記逆洗排水弁とろ過弁が閉の状態から、(i)前記原水供給弁の開速度を調整し前記前処理水の圧力変動を抑えつつ、前記原水供給弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記原水供給弁が所定の開度以上となってから前記ろ過弁の開動作を開始する、あるいは(ii)前記ろ過弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記ろ過弁が所定の開度以上となってから前記原水供給弁の開動作を開始するろ過開始工程制御手段を備えてなることを特徴とする淡水製造装置。
【請求項2】
(i)前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で前記原水供給弁を閉とし、前記原水供給弁が所定の開度以下となってから前記ろ過弁の閉動作を開始する、または(ii)前記前処理水の圧力の変動を抑えるよう調整した閉速度で前記ろ過弁を閉とし、前記ろ過弁が所定の開度以下となってから前記原水供給弁の閉動作を開始するろ過終了工程制御手段を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の淡水製造装置。
【請求項3】
前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した開速度で前記原水供給弁を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とする洗浄工程制御手段を備えてなることを特徴とする、請求項1または2に記載の淡水製造装置。
【請求項4】
前記前処理手段は、前記原水を前記前処理手段に供給する少なくとも前記原水を供給する原水供給ポンプ、一端が前記原水供給ポンプに接続され他端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続された原水供給配管を含む第1の給水手段と、前記第1の給水手段とは別に前記原水または前記原水とは異なる被処理水である給水用水を前記前処理手段に供給する第2の給水手段を備えてなることを特徴とする、請求項1または2に記載の淡水製造装置。
【請求項5】
前記第2の給水手段が、濃縮水排水配管を分岐し、その一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続される給水用配管を備えてなることを特徴とする請求項記載の淡水製造装置。
【請求項6】
原水をろ過して前処理水を製造する前処理膜モジュールを備えた複数の系列で構成される前処理手段と、前記前処理水を供給して淡水を製造する半透膜モジュールを備えた脱塩手段とを有する淡水製造装置の運転方法であって、
前記淡水製造装置は前記脱塩手段に前記前処理水を直接供給する高圧ポンプと、一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続され他端が前記高圧ポンプに接続された第1の連結配管と、一端が前記高圧ポンプに接続され他端が前記脱塩手段に接続された第2の連結配管と、一端が前記脱塩手段に接続された透過水配管および濃縮水排水配管と、前記第1の連結配管上に設けられ前記高圧ポンプに供給される前記前処理水の圧力を測定する圧力計と、前記前処理水の圧力を一定とするための圧力制御手段とを備え、
前記前処理手段は各系列の原水側に開閉速度を調整可能な原水供給弁と、各系列の前処理水側に開閉速度を調整可能なろ過弁と、ろ過時に閉となる逆洗排水弁とを備え、ろ過開始工程、ろ過工程、ろ過終了工程、洗浄工程を繰り返して運転すると共に、前記洗浄工程を行う系列以外の少なくとも1系列が前記ろ過工程を継続し、前記高圧ポンプを介して直接前記前処理水を脱塩手段に供給して淡水を製造するように制御し、
さらにろ過開始時には前記原水供給弁と前記逆洗排水弁とろ過弁が閉の状態から、(i)前記原水供給弁の開速度を調整し前記前処理水の圧力変動を抑えつつ、前記原水供給弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記原水供給弁が所定の開度以上となってから前記ろ過弁の開動作を開始する制御を行う、あるいは(ii)前記ろ過弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記ろ過弁が所定の開度以上となってから前記原水供給弁の開動作を開始する制御を行う、ことを特徴とする淡水製造装置の運転方法。
【請求項7】
前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で前記原水供給弁を閉とし、前記原水供給弁が所定の開度以下となってから前記ろ過弁の閉動作を開始する、または前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で前記ろ過弁を閉とし、前記ろ過弁が所定の開度以下となってから前記原水供給弁の閉動作を開始することを特徴とする、請求項に記載の淡水製造装置の運転方法。
【請求項8】
前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した速度で前記原水供給弁を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とすることを特徴とする、請求項6または7に記載の淡水製造装置の運転方法。
【請求項9】
前記原水を前記前処理手段に供給する少なくとも前記原水を供給する原水供給ポンプ、一端が前記原水供給ポンプに接続され他端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続された原水供給配管を含む第1の給水手段と、前記第1の給水手段とは別に前記原水または前記原水とは異なる被処理水である給水用水を前記前処理手段に供給する第2の給水手段を備え、前処理水を製造するろ過工程時には前記第1の給水手段を利用して前記原水を前記前処理手段の対象の系列に供給し、前記前処理膜モジュールを洗浄する洗浄工程時に前記第2の給水手段を利用して前記前処理手段の対象の系列に前記給水用水を供給することを特徴とする請求項6または7に記載の淡水製造装置の運転方法。
【請求項10】
前記第2の給水手段が、濃縮水排水配管を分岐し、その一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続される給水用配管を備え、前記前処理手段の洗浄工程時に前記濃縮水排水配管から排出される排出水を給水用水として供給することを特徴とする請求項に記載の淡水製造装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水を前処理手段で処理して前処理水を製造し、前処理水を脱塩手段で処理して淡水を製造する淡水製造装置およびその淡水製造装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化などで使用される半透膜モジュールを備えた淡水製造装置は、省エネルギーおよび省スペースの特長を有するため、様々な分野での使用が拡大している。例えば、河川水や地下水や下排水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへの適用や、下排水再利用半透膜処理工程や海水淡水化半透膜処理工程への適用が挙げられる。海水淡水化などで使用される半透膜分離装置は、基本的には濁質成分除去等の前処理を施した前処理水を、高圧ポンプで所定の圧力に高めて半透膜モジュールに供給し、この半透膜モジュールの逆浸透作用により被処理液中の溶解成分を分離させ、透過水を得るように構成される。
【0003】
前処理としては、砂ろ過や膜ろ過が挙げられ、特に膜ろ過が好ましく用いられる。前処理手段には、精密ろ過膜や限外ろ過膜で構成される前処理膜モジュールが使用される。従来、図13に示されるように、原水槽3に貯留された原水を、原水供給ポンプ4を用いて前処理手段1に供給し、得られた前処理水は、一旦中間タンク18に貯留され、この前処理水を、さらに高圧ポンプ6を用いて脱塩手段2の半透膜モジュール7に供給し、処理を行っていた。しかしながら、この方法では、中間タンク18内に微生物が発生し、半透膜モジュール7が汚れやすくなるという欠点を有していることに加え、中間タンク18を設置することにより高圧ポンプ6の吸引圧力が不足になる場合があり、その場合は高圧ポンプ6の供給側にもう一台ブースターポンプ19を設置する必要があるため設備費が余分に必要となっていた。
【0004】
このような課題を解決するために、前処理膜モジュールにより前処理水を直接脱塩手段に供給し、処理を行う手段が提案されている(特許文献1、2および3参照。)。これらの提案の特徴は、従来必要であった中間タンク18を設ける必要がないことにある。
【0005】
一方、前処理膜モジュールは、ろ過を継続すると、原水に含まれる濁質、有機物および無機物等の除去対象物が蓄積し、前処理膜モジュールのろ過抵抗が上昇し、やがてはろ過を継続することができなくなる。このような前処理膜モジュールのろ過抵抗上昇を抑えるためには、ろ過とは逆方向に膜ろ過水あるいは清澄水を圧力で押し込み、膜表面や膜細孔内に蓄積した汚れ成分を除去する逆圧洗浄、膜の原水側(原水側)に気泡を導入して膜を振動させ、膜同士を触れ合わせることにより膜表面の付着物質を掻き落とす空気洗浄、あるいは膜の原水側にろ過をさせない状態で原水を導入して汚れを除去するフラッシング洗浄等の物理洗浄等を行うことが必要である。
【0006】
また、これらの洗浄後は、汚濁水が前処理膜モジュールの原水側に滞留することになるので、前処理膜モジュール内の水を排水後、新たに原水を給水することが一般的に行われる。(以降、一連の操作をまとめて洗浄工程と記載することがある。)この洗浄工程中は、複数系列設置されている前処理手段の一系列若しくは限定された系列が、ろ過系列から隔離される。
【0007】
中間タンクが無い場合、前処理手段と脱塩手段は直接接続されているため、前処理膜モジュールがろ過工程から洗浄工程への移行の際や洗浄工程からろ過工程への移行の際に、脱塩手段への押込み圧力(前処理水の圧力)が変動し、脱塩手段の安定運転を害すると共に、前処理膜モジュールやポンプにダメージを与える可能性がある。
【0008】
このような課題を解決するため、特許文献3には、図14に示されるように、前処理水の圧力を一定に保つように働く圧力制御弁CV1や前処理膜モジュール5に供給される原水流量を制御するための流量制御弁CV2を設けた前処理手段1を有する淡水製造装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開平10−263539号公報
【特許文献2】日本国特開2007−181822号公報
【特許文献3】国際公開第2013/039224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3で提案の淡水製造装置では、前処理手段の工程移行や洗浄工程中に原水による給水やフラッシング洗浄を行う場合、前処理水の圧力の変動を抑えるために原水流量制御弁やろ過弁をゆっくり開閉させる必要があった。そのため、工程移行時間や洗浄工程時間が延びてしまい、洗浄を行っていない他系列の前処理膜モジュールのろ過量(負荷)が増えるため、膜のファウリングが早く進行するという課題があった。さらに、原水流量制御弁やろ過弁をゆっくり開閉させても、前処理水の圧力の変動を無くすことは難しく、圧力変動を可能な限り抑える技術が必要であった。
【0011】
そこで本発明の目的は、前処理膜モジュールを有する前処理手段で原水をろ過して得られた前処理水を、中間タンクを介さず直接脱塩手段に供給する淡水製造装置において、前処理水の圧力の変動を抑えて脱塩手段を安定運転させつつ、前処理手段の洗浄工程時間を短縮して運転を行うことが可能な淡水製造装置およびその淡水製造装置の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するため、本発明の淡水製造装置および淡水製造装置の運転方法は、次の特徴を有するものである。
【0013】
(1)本発明の淡水製造装置は、原水をろ過して前処理水を製造する前処理膜モジュールを備えた複数の系列で構成される前処理手段と、前記前処理水を供給して淡水を製造する半透膜モジュールを備えた脱塩手段とを有する淡水製造装置であって、前記前処理手段は各系列の原水側に開閉速度を調整可能な原水供給弁と、各系列の前処理水側に開閉速度を調整可能なろ過弁とを備え、さらに(i)ろ過開始時には前記原水供給弁の開速度を調整し前記前処理水の圧力変動を抑えつつ、前記原水供給弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記原水供給弁が所定の開度以上となってから前記ろ過弁の開動作を開始する、あるいは(ii)前記ろ過弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記ろ過弁が所定の開度以上となってから前記原水供給弁の開動作を開始するろ過開始工程制御手段を備えてなることを特徴とする淡水製造装置である。
(2)本発明の淡水製造装置の好ましい態様によれば、前記脱塩手段に前記前処理水を直接供給する高圧ポンプと、一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続され他端が前記高圧ポンプに接続された第1の連結配管と、一端が前記高圧ポンプに接続され他端が前記脱塩手段に接続された第2の連結配管と、一端が前記脱塩手段に接続された透過水配管および濃縮水排水配管を備えることを特徴とする(1)の淡水製造装置である。
(3)本発明の淡水製造装置の好ましい態様によれば、(i)前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で前記原水供給弁を閉とし、前記原水供給弁が所定の開度以下となってから前記ろ過弁の閉動作を開始する、または(ii)前記前処理水の圧力の変動を抑えるよう調整した閉速度で前記ろ過弁を閉とし、前記ろ過弁が所定の開度以下となってから前記原水供給弁の閉動作を開始するろ過終了工程制御手段を備えてなることを特徴とする(1)または(2)記載の淡水製造装置である。
(4)本発明の淡水製造装置の好ましい態様によれば、前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した開速度で前記原水供給弁を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とする洗浄工程制御手段を備えてなることを特徴とする(1)〜(3)記載の淡水製造装置である。
(5)本発明の淡水製造装置の好ましい態様によれば、前記前処理手段は、前記原水を前記前処理手段に供給する少なくとも前記原水を供給する原水供給ポンプ、一端が前記原水供給ポンプに接続され他端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続された原水供給配管を含む第1の給水手段と、前記第1の給水手段とは別に前記原水または前記原水とは異なる被処理水である給水用水を前記前処理手段に供給する第2の給水手段を備えてなることを特徴とする(1)〜(3)記載の淡水製造装置である。
(6)本発明の淡水製造装置の好ましい態様によれば、前記第2の給水手段が、濃縮水排水配管を分岐し、その一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続される給水用配管を備えてなることを特徴とする(5)記載の淡水製造装置である。
(7)本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、原水をろ過して前処理水を製造する前処理膜モジュールを備えた複数の系列で構成される前処理手段と、前記前処理水を供給して淡水を製造する半透膜モジュールを備えた脱塩手段とを有する淡水製造装置の運転方法であって、前記前処理手段は各系列の原水側に開閉速度を調整可能な原水供給弁と、各系列の前処理水側に開閉速度を調整可能なろ過弁とを備え、さらに(i)ろ過開始時には前記原水供給弁の開速度を調整し前記前処理水の圧力変動を抑えつつ、前記原水供給弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記原水供給弁が所定の開度以上となってから前記ろ過弁の開動作を開始する制御を行う、あるいは(ii)前記ろ過弁の開動作を開始し前記前処理膜モジュールの原水側圧力が所定の圧力以上または前記ろ過弁が所定の開度以上となってから前記原水供給弁の開動作を開始する制御を行う、ことを特徴とする淡水製造装置の運転方法である。
(8)本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、前記脱塩手段に前記前処理水を供給する高圧ポンプと、一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続され他端が前記高圧ポンプに接続された第1の連結配管と、一端が前記高圧ポンプに接続され他端が前記脱塩手段に接続された第2の連結配管と、一端が前記脱塩手段に接続された透過水配管および濃縮水排水配管を備え、前記高圧ポンプを介して直接前記前処理水を脱塩手段に供給し、淡水を製造することを特徴とする(7)の淡水製造装置の運転方法である。
(9)本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で前記原水供給弁を閉とし、前記原水供給弁が所定の開度以下となってから前記ろ過弁の閉動作を開始する、または前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で前記ろ過弁を閉とし、前記ろ過弁が所定の開度以下となってから前記原水供給弁の閉動作を開始することを特徴とする(7)または(8)記載の淡水製造装置の運転方法である。
(10)本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した速度で前記原水供給弁を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前記前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とすることを特徴とする(7)〜(9)記載の淡水製造装置の運転方法である。
(11)本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、前記原水を前記前処理手段に供給する少なくとも前記原水を供給する原水供給ポンプ、一端が前記原水供給ポンプに接続され他端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続された原水供給配管を含む第1の給水手段と、前記第1の給水手段とは別に前記原水または前記原水とは異なる被処理水である給水用水を前記前処理手段に供給する第2の給水手段を備え、前処理水を製造するろ過工程時には前記第1の給水手段を利用して前記原水を前記前処理手段の対象の系列に供給し、前記前処理膜モジュールを洗浄する洗浄工程時の少なくとも一部では前記第2の給水手段を利用して前記給水用水を前記前処理手段の対象の系列に供給することを特徴とする(7)〜(9)記載の淡水製造装置の運転方法である。
(12)本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、前記第2の給水手段が、濃縮水排水配管を分岐し、その一端が前記前処理手段のそれぞれの系列に接続される給水用配管を備え、前記前処理手段の洗浄工程時に前記濃縮水排水配管から排出される排出水を給水用水として供給することを特徴とする(11)の淡水製造装置の運転方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前処理水の圧力変動を抑えた前処理手段の運転を行うことができるので、脱塩手段を安定運転させることが可能な淡水製造装置が得られる。さらに前処理手段の洗浄工程における給水やフラッシング洗浄時間を短縮させることが可能となり、洗浄を行っていない他系列の負荷を軽減することになるので、前処理膜の汚れを抑えた前処理手段の運転が可能な淡水製造装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の淡水製造装置の一例を示す装置概略フロー図である。
図2図2は、本発明の淡水製造装置の別の一例を示す装置概略フロー図である。
図3図3は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図4図4は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図5図5は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図6図6は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図7図7は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図8図8は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図9図9は、本発明の淡水製造装置のさらに別の一例を示す装置概略フロー図である。
図10図10は、本発明に係る前処理手段の一例を示す装置概略フロー図である。
図11図11は、本発明に係る前処理手段の運転方法の一例を示すタイムチャート図である。
図12図12は、本発明に係る前処理手段の運転方法の別の一例を示すタイムチャート図である。
図13図13は、従来の淡水製造装置の一例を示す装置概略フロー図である。
図14図14は、従来の淡水製造装置の別の一例を示す装置概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面に示す実施態様に基づいて本発明の淡水製造装置について、さらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0017】
本発明の淡水製造装置は、例えば、図1または2に示されるように、原水を処理して前処理水を製造する複数の系列で構成され、前処理膜モジュール5(5a、5b)を備えた前処理手段1と、前処理水を処理して淡水を製造する半透膜モジュール7を備えた脱塩手段2から構成される。また、前処理手段1に前記の原水を供給する原水供給ポンプ4、および一端が原水槽3に接続され他端が原水供給ポンプ4に接続された第1の原水供給配管PL1、および一端が原水供給ポンプ4に接続され他端がそれぞれの前処理手段1に接続された第2の原水供給配管PL2を含む第1の給水手段と、前処理水を半透膜モジュール7に供給する高圧ポンプ6と、一端が前処理手段1に接続され他端が高圧ポンプ6に接続された第1の連結配管PL3と、一端が高圧ポンプ6に接続され他端が脱塩手段2に接続された第2の連結配管PL4と、一端が脱塩手段2に接続された透過水配管PL5および濃縮水排水配管PL6と、第1の連結配管PL3上に設けられ高圧ポンプ6に供給される前処理水の圧力を測定する圧力計8と、圧力を一定とするための圧力制御手段と、第1の給水手段とは別に、原水または原水とは異なる被処理水である給水用水を前処理手段1に供給する第2の給水手段10が備えられた淡水製造装置である。
【0018】
前処理手段1の各系列には、原水側に原水供給時は開となる開閉速度を調整可能な原水供給弁V1と、ろ過時に閉となる逆洗排水弁V5と、各系列の前処理水側にろ過時に開となる開閉速度を調整可能なろ過弁V2を備える。
【0019】
さらに淡水製造装置は、定期的にろ過開始工程、ろ過工程、ろ過終了工程、前処理手段1(前処理膜モジュール5a、5b)を洗浄する洗浄工程を繰り返して運転するよう制御するための制御手段(演算装置、コンピュータ)を有する。ろ過開始工程時には、(i)原水供給弁V1と逆洗排水弁V5とろ過弁V2が閉の状態から原水供給弁V1の開速度を調整し前処理水の圧力変動を抑えつつ、原水供給弁V1の開動作を開始し前処理膜モジュール5a、5bの原水側圧力が所定の圧力以上(圧力計図示無し)または原水供給弁V1が所定の開度以上となってからろ過弁V2の開動作を開始する、あるいは(ii)ろ過弁V2の開動作を開始し前処理膜モジュール5a、5bの原水側圧力が所定の圧力以上またはろ過弁V2が所定の開度以上となってから原水供給弁V1の開動作を開始する。ろ過工程時には、原水供給弁V1を開、逆洗排水弁V5を閉、ろ過弁V2を開とする。ろ過終了工程時には、(i)前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で原水供給弁V1を閉とし、原水供給弁V1が所定の開度以下となってからろ過弁V2を閉とする、または(ii)前処理水の圧力の変動を抑えるよう調整した閉速度でろ過弁V2を閉とし、ろ過弁V2が所定の開度以下になってから原水供給弁V1を閉とする、いずれかの制御をした後に逆洗排水弁V5を開とする。制御手段は、ろ過開始工程時にはろ過開始工程制御手段、ろ過工程時にはろ過工程制御手段、ろ過終了工程時にはろ過終了工程制御手段、洗浄工程時には洗浄工程制御手段として機能する。
【0020】
なお、第2の給水手段10を備えない形態の場合、前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した開速度で原水供給弁V1を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID(Proportional-Integral-Differential)演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とする制御手段を備えることが好ましい。また、前処理手段1では洗浄工程を行う系列以外の少なくとも1系列はろ過工程を継続させる制御手段も有する。
【0021】
圧力制御手段は特に限定されないが、図1に示すように、処理水圧を一定となるように原水供給ポンプ4の出力を制御するインバータおよび圧力制御部9を備える形態や、図2に示すような第2の原水供給配管PL2上で分岐し原水を系外に排出するバイパス配管PL7と、バイパス配管PL7上に設けられ前処理水圧を一定となるように制御する圧力制御弁CV1および圧力制御部9を備える形態をとることができる。
【0022】
なお、図2ではバイパス配管PL7によって原水は原水槽3へ還流させる形態としている。ここでは、複数の系列からなる前処理手段1を設けており、複数の系列へは、一つの原水槽3から原水を供給している。そのため、複数の前処理手段1のうち、ろ過している系列、洗浄をしている系列などと言う際には、原水槽を含まない範囲を系列と呼ぶこととする。このことから、バイパス配管PL7によって原水を原水槽3へ還流させることを、原水を系外に排出する、と表現することとする。
【0023】
複数の系列について、それぞれに原水槽がある場合や、原水槽まで含めて系列と言う際には、バイパス配管PL7によって原水を原水槽3へ還流させることを、そのまま原水を原水槽へ還流させると表現する。
【0024】
次に、本発明に係る第2の給水手段10の具体例を、図3〜9を用いて説明する。本発明に係る第2の給水手段10の第1の形態は、脱塩手段2から排出される濃縮水を給水用水として利用するものである。具体的には、図3に示されるように、脱塩手段2の濃縮水排水配管PL6上には、濃縮水の流量を測定するための流量計11と、流量を制御するための流量制御弁CV2および流量制御部12が備えられ、さらに濃縮水排水配管PL6を分岐し、その一端が前処理膜モジュール5a、5bの原水側に接続される給水用配管PL8を備えるものである。なお図4に示すように、給水用配管PL8は前処理膜モジュールの前処理水側に接続される形態でも構わない。
【0025】
給水用配管PL8上および、濃縮水排水配管PL6上には、流路を切り替えるための給水弁V3、V3aおよびV3bが備えられており、濃縮水の一部または全量を前処理手段1の洗浄工程における給水やフラッシング洗浄の際に前処理膜モジュールの原水側へ供給する。濃縮水圧力を再利用するので新たにポンプを設ける必要がなく、従来系外に排出されていた濃縮水を有効活用して前処理手段1へ供給することができるので、生産水の回収率(生産性)が向上する。給水用配管PL8を前処理膜モジュールの前処理水側に接続する形態の場合は、省エネの効果を得つつ逆洗による前処理膜の洗浄も併せて行うことができるので好ましい態様である。
【0026】
本発明に係る第2の給水手段の第2の形態は、原水とは異なる被処理水を給水用水として利用するものである。具体的には、図5に示されるように、給水用水を貯留するための第2の原水槽13と、一端が第2の原水槽13に接続され他端が前処理膜モジュール5a、5bの原水側に接続された給水用配管PL8を備えるものである。給水用配管PL8上には、給水ポンプ14と、給水時に開となる給水弁V3a、V3bが備えられている。給水用水の供給手段として、図6に示されるように、第2の原水槽13を前処理手段1より高所へ設置し、給水ポンプ14を使用せずに水頭差を利用して給水用水を前処理膜モジュール5a、5bへ供給する形態をとれば、新たな設備や動力を必要としないため好ましい態様である。
【0027】
原水とは異なる被処理水(給水用水)としては、脱塩手段2で製造した淡水または脱塩手段から排出される濃縮水やフラッシング洗浄排水などの排出水、前処理水圧を制御するためにバイパス配管PL7によって排出された原水、前処理手段1で処理した前処理水を利用することができる。給水用水には、バイパス配管PL7によって排出された原水、脱塩手段から排出される濃縮水やフラッシング洗浄排水を使用すると排水の量を減らすことができるので好ましい態様である。
【0028】
また図示してないが、前処理手段1の逆洗による洗浄のために逆洗水槽16を設ける場合は、第2の原水槽13を逆洗水槽16として併用することができる。その場合、給水用水(逆洗水)は、前処理水や脱塩手段2で製造された淡水であることが好ましい。
【0029】
本発明に係る第2の給水手段の第3の形態は、原水を利用するものであり、図7に示されるように、一端が原水槽3に接続され他端が前処理膜モジュール5a、5bの原水側に接続された給水用配管PL8を備えるものである。給水用配管PL8上には、給水ポンプ14と、給水時に開となる給水弁V3a、V3bが備えられている。
【0030】
図8に示されるように、原水の供給手段として原水槽3を前処理手段1より高所へ設置し、給水ポンプ14を使用せずに水頭差を利用して原水を供給する形態でも良い。新たに第2の原水槽を設ける必要がないので、設備費低減及び省スペース化の点で好ましい態様である。
【0031】
本発明に係る第2の給水手段10の第4の形態は、前処理手段1の前処理水圧を制御するために備えたバイパス配管PL7によって系外に排出された原水を前処理手段1の洗浄工程中に使用する給水用水として直接利用するものである。具体的には、図9に示されるように、バイパス配管PL7をさらに分岐し、その一端がそれぞれの前処理膜モジュール5a、5bの原水側に接続される給水用配管PL8を備えるものである。給水用配管PL8上には、バイパスされた原水の流路を切り替えるための給水弁V3、V3a、V3bが備えられており、前処理手段1の洗浄工程における前処理膜モジュールの給水やフラッシング洗浄の際に各給水弁の操作によってバイパスされた原水の一部または全量を前処理膜モジュール5a、5bの原水側へ供給する。新たに動力を必要とするポンプを設けることなく、系外に排出される原水を有効活用して前処理手段1へ供給することができるので、生産水の回収率(生産性)が向上する。
【0032】
なお、本発明の淡水製造装置は第2の給水手段10を利用しない形態をとることも可能である。その場合は原水供給ポンプ4から供給される原水を利用し、原水供給弁V1を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を前処理膜モジュール5a、5bの原水側へ供給する。原水を所定の時間供給した後には原水供給弁V1を全閉とする操作を行う。
【0033】
本発明が適用可能な原水としては、海水、河川水、地下水、下水、工業廃水、およびそれらの処理水や混合水など、様々な原水が挙げられる。
【0034】
前処理手段1は、性能面および洗浄工程を考慮して複数の系列からなる前処理膜モジュール5で構成される装置が好ましいが、これに代えて砂ろ過装置を用いることができる。前処理膜モジュール5に使用される膜としては、0.1μm以上の粒子や高分子化合物を阻止することができる精密ろ過膜や、2nm以上0.1μm未満の粒子や高分子化合物を阻止することができる限外ろ過膜等が好ましく用いられる。
【0035】
前処理膜モジュール5に用いられる精密ろ過膜および/または限外ろ過膜の形態としては、中空糸膜型、平膜型、スパイラル型およびチューブラー型等のろ過膜を用いることができるが、コスト低減の観点から中空糸膜型のろ過膜が好ましく用いられる。
【0036】
また、膜ろ過方式としては、全量ろ過型モジュールでもクロスフローろ過型モジュールであっても差し支えないが、エネルギー消費量が少ないという観点から、全量ろ過型モジュールである方が好ましい態様である。さらに、ろ過型モジュールは、加圧型モジュールであっても浸漬型モジュールであっても差し支えないが、高流束運転が可能であるという観点から、加圧型モジュールである方が好ましい態様である。また、ろ過型モジュールは、膜の外側から原水を供給し内側から透過水を得る外圧式であっても、膜の内側から原水を供給し、外側から透過水を得る内圧式であっても差し支えないが、前処理の簡便さの観点から、外圧式である方が好ましい態様である。
【0037】
前処理膜モジュール5に用いられる精密ろ過膜および/または限外ろ過膜の素材としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、およびポリテトラフルオロエチレンなどや、これらの複合素材を例示することができる。中でも、ポリフッ化ビニリデンは、耐薬品性に優れているため、精密ろ過膜および/または限外ろ過膜を定期的に薬品洗浄することにより、精密ろ過膜および/または限外ろ過膜のろ過機能が回復し、前処理膜モジュールの長寿命化につながるので、精密ろ過膜および/または限外ろ過膜の素材として特に好ましく用いられる。
【0038】
前処理膜モジュール5のケースの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブテン等のポリオレフィン樹脂や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、フッ化エチレンポリプロピレンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、三フッ化塩化エチレン−エチレンコポリマー(ECTFE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、そしてポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素樹脂、さらにポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独または混合して用いられる。また、上記の樹脂以外の材質では、アルミニウムやステンレス鋼などが好ましく、さらに、樹脂と金属の複合体や、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂などの複合材料も使用することができる。
【0039】
また、本発明の脱塩手段2における半透膜モジュール7は、平膜状の膜を集水管の周囲に巻囲したスパイラル型エレメント、プレート型支持板の両面に平膜を貼ったものを、スペーサーを介して一定の間隔で積層してモジュール化したプレート・アンド・フレーム型エレメント、管状膜を用いたチューブラー型エレメント、および中空糸膜を束ねてケースに収納した中空糸膜エレメントを、耐圧容器に単数もしくは複数個直列に接続して収容して構成される。
【0040】
エレメントの形態としては、いずれの形態であってもよいが、操作性や互換性の観点からはスパイラル型エレメントを使用することが好ましい態様である。エレメント本数は、膜性能に応じて任意に設定することができる。スパイラル型エレメントを用いた場合、1つのモジュールに装填するエレメントの本数は、直列に1本から8本程度に配列することが好ましい。また、半透膜モジュール7を複数本並列に配置することもできる。
【0041】
半透膜モジュール7を構成する半透膜には、ナノろ過膜や逆浸透膜などの脱塩性能を有するものが使用でき、その素材としては、例えば、ポリアミド系、ポリピペラジンアミド系およびポリエステルアミド系のポリマー、あるいはこれらのポリマーに水溶性のビニルポリマーを架橋したものなどを使用することができる。また、その膜構造としては、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片面の膜に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有するもの(非対称膜)や、このような非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い分離機能層を有するもの(複合膜)などを使用することができる。しかしながら、高造水量のためには複合膜であることが好ましく、中でも、透過水量と耐薬品性等の観点から、ポリアミド系複合膜が好ましく、さらにはピペラジンポリアミド系複合膜が好ましく用いられる。
【0042】
また、第1の原水供給配管PL1、第2の原水供給配管PL2、第1の連結配管PL3、第2の連結配管PL4、透過水配管PL5、濃縮水排水配管PL6、バイパス配管PL7、および給水用配管PL8などの各配管としては、塩化ビニル管やポリエチレン管などの樹脂配管、炭素鋼鋼管やステンレス鋼管などの金属管、もしくは金属管内に樹脂をライニングしたライニング管などいずれであっても構わないが、その材質としては、原水の水質および装置の必要圧力を考慮して選定することが必要である。特に、第2の連結配管PL4は高圧になることが多いため、樹脂配管ではなく金属管もしくはライニング管が好ましく用いられる。
【0043】
原水供給ポンプ4、給水ポンプ14、および逆洗ポンプ15としては、渦巻きポンプを使用することが一般的であり、また高圧ポンプ6に関しては、渦巻きポンプもしくはプランジャーポンプを使用することが一般的である。
【0044】
原水槽3としては、コンクリートタンクもしくはポリエチレン、ポリプロピレンおよびFRPなどの樹脂タンクのいずれも用いることができる。また、原水を、海、河川および井戸などから直接取水して前処理手段1に供給する場合は、原水槽は設置しない態様とすることができる。
【0045】
圧力計8は、電子式の圧力伝送器が好ましい。また、接液部の材質は第1の連結配管PL3の配管材質と同様、原水水質を考慮し選定されるものとする。
【0046】
圧力制御弁CV1、原水供給弁V1、流量制御弁CV2は、電動作動弁と空気作動弁のいずれでも構わないが、応答性を考慮するとポジショナー付きの空気作動弁が好ましく用いられる。弁本体は、グローブ弁やバタフライ弁などが一般的である。
【0047】
圧力制御部9と流量制御部12は、PID制御とすることが一般的であり、本発明の淡水製造装置全体を制御するPLCもしくはDCSのPID制御機能を用いて制御するか、または新たにPIDワンループコントローラーを用いて制御することができる。
【0048】
さらに、前処理手段1の工程移行の際、圧力変動を少なくするには、工程の移行に関わる原水供給弁V1や逆洗排水弁V5と、前処理水側に設置されるろ過弁V2の開閉速度をできるだけ緩やかにすることが好ましい。そのため原水供給弁V1や逆洗排水弁、ろ過弁V2が空気式の場合は、スピードコントローラもしくはポジショナーを設置することが好ましい態様である。
【0049】
次に、本発明の淡水製造装置の運転方法について説明する。なお、本発明の淡水製造装置は上記のとおりであり、それらに準じて本発明の運転方法を説明するが、本発明の淡水製造装置実施態様に限定されるものではない。ここでは、前処理膜および半透膜の汚れを防ぎつつ、脱塩手段の運転を害することなく淡水製造装置(特に前処理手段1)の運転を行うことについて説明する。
【0050】
本発明の淡水製造装置における前処理手段1の運転方法においては、定期的にろ過開始工程、ろ過工程、ろ過終了工程、前処理手段1(前処理膜モジュール5a、5b)を洗浄する洗浄工程を繰り返して運転するよう制御することを基本とする。ろ過開始工程時には、(i)原水供給弁V1と逆洗排水弁V5とろ過弁V2が閉の状態から、原水供給弁V1の開速度を調整し前処理水の圧力変動を抑えつつ、原水供給弁V1の開動作を開始し前処理膜モジュール5a、5bの原水側圧力が所定の圧力以上または原水供給弁V1が所定の開度以上となってからろ過弁V2の開動作を開始する、あるいは(ii)ろ過弁V2の開動作を開始し前処理膜モジュール5a、5bの原水側圧力が所定の圧力以上またはろ過弁V2が所定の開度以上となってから原水供給弁V1の開動作を開始する。ろ過工程時には、原水供給弁V1を全開、逆洗排水弁V5を全閉、ろ過弁V2を全開とする。ろ過終了工程時には、(i)前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で原水供給弁V1を閉とし所定の開度以下となってからろ過弁V2を閉とする、または(ii)前処理水の圧力の変動を抑えるよう調整した閉速度でろ過弁V2を閉とし所定の開度以下となってから原水供給弁V1を閉とする操作の後、逆洗排水弁V5を開とする。さらに洗浄工程時には第1の給水手段とは別に備えてなる第2の給水手段10を利用して前処理手段1へ原水または原水とは異なる被処理水からなる給水用水を供給することで前処理手段1の給水および/またはフラッシング洗浄を行う。
【0051】
なお、第2の給水手段10を備えない形態の場合、洗浄工程時における給水および/またはフラッシング洗浄は、前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した開速度で原水供給弁V1を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開とした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とする制御を行うことが好ましい。
【0052】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、ろ過工程から切り離された前処理手段1の洗浄工程を行うに際し、脱塩手段2からの排出される濃縮水またはフラッシング洗浄排水を給水用水として利用して前処理手段1の洗浄工程中に給水および/またはフラッシング洗浄が行われる。
【0053】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、ろ過工程から切り離された前処理手段1の洗浄工程を行うに際し、第2の原水槽13に貯留された第2の原水を給水ポンプ14で供給することで前処理手段1の洗浄工程中に給水および/またはフラッシング洗浄が行われる。
【0054】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、ろ過工程から切り離された前処理膜モジュール5の洗浄工程を行うに際し、前処理手段1の洗浄工程中に水頭差を利用して第2の原水槽13から給水用水を供給し、給水および/またはフラッシング洗浄が行われる。
【0055】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法は、脱塩手段2からの排出される濃縮水またはフラッシング洗浄排水を給水用水として利用して前処理手段1の洗浄工程中に給水を行い、ろ過工程へ復帰する際に、脱塩手段2へ供給される前処理水流量に対する脱塩手段で製造された淡水流量(透過水流量)の比の値として得られる回収率を下げる制御が行われる。
【0056】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、ろ過工程から切り離された前処理手段1の洗浄工程を行うに際し、前処理手段1の洗浄工程中に給水ポンプ14または水頭差を利用して原水を供給し、給水および/またはフラッシング洗浄が行われる。
【0057】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、ろ過の系列から切り離された前処理手段1の洗浄工程を行うに際し、バイパス配管PL7から系外に排出される原水を給水用水として利用し、前処理手段1の洗浄工程中に給水および/またはフラッシング洗浄が行われる。
【0058】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、第2の給水手段10を利用せず、原水供給ポンプで供給される原水を利用し、原水供給弁V1を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を前処理手段1に供給することで、前処理手段1の洗浄工程中に給水および/またはフラッシング洗浄が行われる。原水を所定の時間供給した後には原水供給弁V1を全閉とする操作を行う。
【0059】
本発明の他の淡水製造装置の運転方法においては、給水用水は、原水、前処理手段1で処理された前処理水、脱塩手段2で処理された淡水、脱塩手段2から排出された濃縮水、フラッシング洗浄排水またはそれらの混合水である。
【0060】
さらに、本発明における上記の淡水製造装置の運転方法に関し、前処理手段1の各工程移行および洗浄工程を具体的に説明するために、図10に前処理手段1の装置概略フロー図の一例を、図11、12に工程移行タイムチャートの一例を示す。
【0061】
図10において、前処理手段1には、前処理膜モジュール5と、第2の原水供給配管PL2に設置される開閉速度を調整可能な原水供給弁V1と、この原水供給弁V1と前処理膜モジュール5の間に接続される給水用配管PL8と、前処理水側の第1の連結配管PL3に設置される開閉速度を調整可能なろ過弁V2と、逆洗配管PL9に設置される逆洗弁V4と、逆洗排水配管PL10に設置される逆洗排水弁V5と、給水手段10と、給水用配管PL8に設置される給水弁V3と、逆洗水槽16から逆洗配管PL9を介して逆洗水を供給する逆洗ポンプ15と、空気洗浄(空洗)の際に空気を送り込むためのコンプレッサー17と、空洗用配管PL11に設置される空洗弁V6と、排水配管PL12と、その排水配管PL12上に設置される排水弁V7が設けられている。
【0062】
前処理手段1と脱塩手段2が中間タンクなどを介さずに直接接続されており、本発明の運転方法では、前処理手段1は定期的にろ過工程から洗浄工程に移行してろ過系列から隔離されるため、図10には示していないが同様の前処理手段1または前処理膜モジュール5は複数系列を有し、洗浄工程を行う系列以外の少なくとも1系列はろ過工程を継続させる運転を行う。
【0063】
本発明において、前処理膜モジュール5のろ過抵抗上昇を抑えるために行う前処理手段1の運転は、図11のタイムチャートに示すように、ろ過開始工程、ろ過工程、ろ過終了工程、洗浄工程を繰り返して行われる。
【0064】
ろ過開始工程において、まず逆洗排水弁V5を閉とし、対象となる系列(前処理膜モジュール5)に繋がる全ての弁(V1〜V7)を閉の状態とする、その後、前処理水の圧力(並列して存在する他系列の原水供給圧力)の圧力変動を抑えるよう調整した開速度で原水供給弁V1の開動作を始め、対象系列(前処理膜モジュール)の原水側圧力が所定の圧力以上または原水供給弁V1が所定の開度以上となってからろ過弁V2の開動作を開始する。
【0065】
本発明の淡水製造装置の運転では前処理水の圧力の変動を抑えるため、原水供給弁V1およびろ過弁V2はできるだけ緩やかに開閉したほうがよいが、時間をかけすぎると各工程移行に伴う時間も増えるためろ過工程を継続している前処理膜の負荷が大きくなる。そこで、弁の開度0%から100%に、または100%から0%に到達するまでの設定時間は120秒以内にすることが好ましく、より好ましくは60秒以内となるよう設定することが好ましい。
【0066】
原水供給弁V1とろ過弁V2は同時に開動作を開始させることも可能であるが、加圧されていない対象の系列と圧力を保持したろ過を行っている他系列と合流の際、2箇所同時接続することになるため、圧力変動がより大きくなってしまう。そのため原水供給弁V1とろ過弁V2のどちらか一方を先に開とするほうが好ましい。また前処理水の圧力を一定として運転させつつ、かつ工程移行(弁操作)時間の短縮を行うため、原水供給弁V1とろ過弁V2の開動作を行うタイミングは一部被らせたように運転させることが好ましい。例えば先に原水供給弁V1の開動作を開始した場合、対象系列の原水側圧力が、前処理水の圧設定値の−50kPa以上+50kPa以下(±50kPa)の範囲で設定された圧力に到達した時点でろ過弁V2の開動作を開始することが好ましい。また、原水側圧力が前処理水圧設定値の±50kPa以内となるような原水供給弁開度を予め設定しておけば、原水供給弁V1の開度をろ過弁V2の開動作を開始する条件とすることも好ましい態様である。このことから、図示してないが、原水供給弁V1とろ過弁V2の操作順序を逆にして、原水側圧力が所定の圧力以上またはろ過弁V2が所定の開度以上となってから原水供給弁V1の開動作を開始する操作も同様の効果が得られるので好ましい態様である。
【0067】
ろ過工程においては、ろ過開始工程に引き続き、原水供給弁V1を開、ろ過弁V2を開とした状態を継続してろ過を行う。
【0068】
ろ過終了工程においては、前処理水の圧力の変動を抑えるよう調整した閉速度で原水供給弁V1を閉とし、原水供給弁V1が所定の開度以下となってからろ過弁V2を閉とする、または前処理水の圧力の変動を抑えるよう調整した閉速度でろ過弁V2を閉とし、ろ過弁V2が所定の開度以下となってから原水供給弁V1を閉とする制御を行う。
【0069】
先に閉動作を行う弁の閉速度の設定時間は120秒以内、より好ましくは60秒以内となるよう設定することが好ましい。また先に閉動作を開始した原水供給弁V1またはろ過弁V2のどちらか一方で他系列との遮断できれば2番目に閉とする弁の閉速度は緩やかにする必要はない。ろ過終了工程における上記所定の開度は任意に設定してよいが、ろ過から切り離す観点から設定開度は20%以下にすることが好ましい。
【0070】
次に洗浄工程についてさらに詳細に説明する。ろ過終了工程後、逆圧洗浄(逆洗)を行うため、逆洗弁V4と逆洗排水弁V5を開にする。その後、逆洗水槽16に蓄えられた逆洗水が逆洗ポンプ15によって前処理膜モジュール5の前処理水側から供給されることで逆洗が行われる。
【0071】
逆洗水としては、前処理水、脱塩手段2で製造した淡水および濃縮水などを使用することができる。図10には図示してないが、逆洗水として前処理水や濃縮水を適用する場合、逆洗水槽16や逆洗ポンプ15を介せず、前処理膜モジュール5の前処理水側に直接逆洗水を供給させる形態とすることも可能である。前処理膜をろ過とは反対方向に通り抜けた逆洗水は、開となった逆洗排水弁V5を通して洗浄廃水として前処理膜モジュール5から排出される。所定時間逆洗後、逆洗ポンプ15を停止し、逆洗弁V4を閉とする。
【0072】
また、この逆洗と同時にまたは逆洗に引き続いて、前処理膜モジュール5の下部からコンプレッサー17を利用して加圧空気を供給し、前処理膜を揺動するように洗浄する空気洗浄(空洗)を行うことも可能である。
【0073】
逆洗後、前処理膜モジュール5内に保持されていた洗浄廃水は、前処理膜モジュール5の下部に設置される排水弁V7から排水される。
【0074】
排水後、排水弁V7を閉とし、給水弁V3を開とすることにより、第2の給水手段10から給水用水が前処理膜モジュール5の原水側に供給され、原水側に溜まっていた空気が開である逆洗排水弁V5から抜けることで給水が完了する。このとき、逆洗を利用して給水することも可能であり、その場合は排水弁V7を閉として逆洗を行うことにより前処理膜モジュール5の原水側に水が満たされる。逆洗水には脱塩手段の濃縮水を利用することにより、淡水回収率が向上する。また、逆洗水に淡水を用いた場合は給水用水に脱塩手段の濃縮水を、逆洗水に脱塩手段の濃縮水を用いた場合は給水用水に淡水を利用する形態とすることにより、浸透圧差の影響で微生物にダメージを与え、微生物由来による前処理膜モジュールの汚れを抑えることも可能である。
【0075】
また給水を行う際、前処理膜モジュール5の原水側に保持されていた洗浄廃水を、逆洗排水弁V5を通じて排出するフラッシング洗浄を適用することも可能であり、その際には洗浄廃水を排水弁V7から排出していてもしていなくても構わない。さらに、フラッシング洗浄の際には、同時に加圧空気を供給し、空気洗浄を併用することもできる。
【0076】
第2の給水手段10を利用せず、原水を給水用水として供給する場合は、前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した開速度で原水供給弁V1を所定の開度以上または原水流量が所定の流量以上となるまで開にした後、PID演算による原水流量制御を行って原水を供給し、所定の時間後に前処理水の圧力変動を抑えるよう調整した閉速度で閉とする。原水供給弁V1が閉(開度0%)の状態からPID演算による流量制御を行ってもよいが、流量制御の制御速度が速いと圧力制御が間に合わず、他系列(ろ過工程を行っている前処理膜モジュール5)の原水側圧力が大きく変動し、結果的に前処理水の圧力が変動してしまうので好ましくない。また制御速度が遅いと設定流量に到達するまでに時間を要するため、予め設定した所定の開度または所定の流量に到達するまでは流量制御を行わない方が良い。そのためPID演算による制御を行っていない間の原水供給弁V1は、ろ過開始工程やろ過終了工程時と同様の開閉速度に設定することが好ましい。
【0077】
逆洗排水弁V5から空気が抜け終わった後、原水供給弁V1または給水弁V3を閉とすることで洗浄工程が終了する。洗浄工程が実施されていた前処理膜モジュール5は、他の前処理膜モジュール5と同様にろ過工程に復帰するため、ろ過開始工程へと戻る。給水時に脱塩手段の濃縮水を利用していた場合、そのままろ過工程に復帰すると前処理膜モジュール内に満たされている濃縮水が前処理水として再び脱塩手段へ供給される。脱塩手段で運転条件を変えないまま淡水を製造すると、半透膜モジュールの原水側でスケールが発生し、半透膜の汚れに繋がる可能性があるため、脱塩手段へ供給される前処理水流量に対する脱塩手段で製造された淡水流量(透過水流量)の比の値として得られる回収率を落とすように制御することも好ましい態様である。
【0078】
前処理手段1は複数系列存在し、系列毎に上記のように定期的にろ過開始工程、ろ過工程、ろ過終了工程、洗浄工程が繰り返し実施される。この工程移行に際し、運転系列数が増減することから系内の圧力変動が起こってしまう。この圧力変動が大きいと、高圧ポンプ6の故障の原因となったり、高圧ポンプ6の供給圧低下のインターロックにより脱塩手段2がシャットダウンを引き起こしたりして、脱塩手段2の流量制御に大きな影響を与えてしまう。したがって、この圧力変動をできるだけ小さくすることが、前処理手段と脱塩手段の直結運転では好ましい運転条件となる。高圧ポンプ6の仕様にもよるが、前処理水の圧力(高圧ポンプの吸引圧)の設定値に対して、±10kPa程度の変動に抑えることがより好ましい態様である。圧力変動を抑えることができれば、高圧ポンプの最低吸引圧付近まで設定圧力を下げることが出来るので、その分原水ポンプの動力(消費電力)を抑えることができる。
【0079】
本発明の淡水製造装置により、原水から淡水を製造する淡水の製造方法においては、例えば図2に示されるように、前処理手段1の運転(各工程移行)を行うに際し、高圧ポンプへの押込み圧力(前処理水圧力)を制御する圧力制御部9により第2の原水供給配管PL2上で分岐し原水を系外に排出するバイパス配管PL7上に設けられる圧力制御弁CV1を用いて、第1の連結配管PL3上に設けられる圧力計8が計測する前処理水の圧力の制御を行う。(原水ポンプの出力を制御するインバータを利用する圧力制御手段の場合は図1のような態様となる。)
【0080】
複数系列設置されている前処理手段1の一部の系列がろ過工程から洗浄工程に移行された場合は、運転系列数が減少することにより、高圧ポンプ6への前処理水の供給圧力が減圧されるが、圧力制御部9により圧力制御弁CV1が自動で閉方向となり、系内の圧力が一定に調整される。逆に、前処理手段1で洗浄工程であった系列がろ過工程に復帰する場合は、運転系列数が増加することにより、高圧ポンプ6への前処理水の供給圧力が増圧されるが、圧力制御部9により圧力制御弁CV1が自動で開方向となり、系内の圧力が一定に調整される。
【0081】
また、図14に示されるような特許文献1に記載されている従来の淡水製造装置と同様に、上述した本発明の淡水製造装置の構成に加えて、第2の原水供給配管PL2上に、それぞれの前処理手段1について、それぞれの前処理膜モジュール5に供給される原水流量を測定する流量計11と、それぞれの前処理膜モジュール5に供給される原水流量を制御する流量制御部12および流量制御弁CV2を備え、ろ過工程中の原水流量制御に使用することも可能である。ただし、前処理手段1の後段の脱塩手段2においても、脱塩手段2へ供給される前処理水の流量制御を行っていることが一般的である。その場合は、流量制御が直列接続されることになり、各々の制御同士の干渉効果により制御が発散する可能性があるため、流量制御はしない方が好ましい。
【0082】
洗浄工程における従来の給水方法は、給水手段10を保有しておらず、運転継続している他系列にも接続され規程の圧力を保っている第2の原水供給配管PL2を介して、原水を供給する方法を採用していた。そのため、給水を実施している系列において、逆洗排水弁V5および逆洗排水配管PL10を介して、大気開放状態である排水側へ系外排出されることから、運転継続している他系内の圧力が著しく減圧されるという課題があった。特許文献3には、前処理水の圧力の変動を抑えるために原水の流量制御弁CV2を設け、ゆっくり開閉させることにより減圧を可能な限り抑える対策がなされている。しかしながら、その分給水にかける時間が延びるとともに、洗浄工程を行っていない他系列の前処理膜モジュール5のろ過量(負荷)が増えるため、膜のファウリングが早く進行するという課題があった。
【0083】
そこで、本発明の淡水製造装置により原水から淡水を製造する淡方法においては、前処理手段の洗浄工程における給水やフラッシング洗浄の際に、例えば、前述した図3〜9に示される第2の給水手段を活用することや図11、12に示される弁操作によって前処理手段の工程移行を行うことで、運転継続している他系列の圧力の低下を防ぐことができる。そのため、前処理水の圧力(脱塩手段2への供給圧力)を常に一定とすることができ、脱塩手段2の流量制御に影響を与えることなく、脱塩手段2を安定的に運転することが可能となる。
【0084】
本出願は、2015年6月9日出願の日本特許出願、特願2015−116428に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の淡水製造装置によれば、前処理水の圧力変動を抑えた前処理手段の運転を行うことができるので、脱塩手段を安定運転させることが可能な淡水製造装置を得ることが可能となる。さらに前処理手段の洗浄工程における給水やフラッシング洗浄時間を短縮させることが可能となり、洗浄を行っていない他系列の負荷を軽減することになるので、前処理膜の汚れを抑えた前処理手段の運転が可能となる。
【符号の説明】
【0086】
1:前処理手段
2:脱塩手段
3:原水槽
4:原水供給ポンプ
5:前処理膜モジュール
6:高圧ポンプ
7:半透膜モジュール
8:圧力計
9:圧力制御部
10:第2の給水手段
11:流量計
12:流量制御部
13:第2の原水槽
14:給水ポンプ
15:逆洗ポンプ
16:逆洗水槽
17:コンプレッサー
18:中間タンク
19:ブースターポンプ
CV1:圧力制御弁
CV2:流量制御弁
V1、V1a、V1b:原水供給弁
V2、V2a、V2b:ろ過弁
V3、V3a、V3b:給水弁
V4:逆洗弁
V5:逆洗排水弁
V6:空洗弁
V7:排水弁
PL1:第1の原水供給配管
PL2:第2の原水供給配管
PL3:第1の連結配管
PL4:第2の連結配管
PL5:透過水配管
PL6:濃縮水排水配管
PL7:バイパス配管
PL8:給水用配管
PL9:逆洗配管
PL10:逆洗排水配管
PL11:空洗用配管
PL12:排水配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14