特許第6699727号(P6699727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6699727空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699727
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20200518BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20200518BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20200518BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20200518BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C35/02
   B60C13/00 A
   B60C13/00 D
   B60C15/00 L
   B29L30:00
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-520197(P2018-520197)
(86)(22)【出願日】2018年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2018015973
(87)【国際公開番号】WO2018194081
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2018年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2017-83562(P2017-83562)
(32)【優先日】2017年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】波多野 敦也
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−096914(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0167328(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/185043(WO,A1)
【文献】 特開2013−173458(JP,A)
【文献】 特開2014−037214(JP,A)
【文献】 特開平01−120309(JP,A)
【文献】 特開平10−086615(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/174920(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
B29C 33/00−33/76
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記加硫タイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mm以下になる場合、前記平面を前記未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ面にする、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記加硫タイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mmより大きくなる場合、前記平面を前記未加硫タイヤに近づく側に突出した面にする、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記加硫タイヤにおいて、前記加硫タイヤの前記平面領域から最も近い前記加硫タイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、前記平面領域を囲む前記湾曲面に対応した前記加硫タイヤの湾曲面領域の線状の辺から最も近い前記カーカスコードまでの最短距離の65%以上である、請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記金型内表面において、前記平面は、前記平面を囲む前記湾曲面の基部に対して前記未加硫タイヤに近づく側に突出した面であり、
前記加硫タイヤにおいて、前記加硫タイヤの前記平面領域から最も近い前記加硫タイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、前記基部から最も近い前記カーカスコードまでの最短距離の65%以上である、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記加硫タイヤにおける前記平面領域は、前記平面領域を囲む、前記湾曲面に対応した前記加硫タイヤの湾曲面領域の線状の辺が作る面に対して傾斜するように、前記平面は設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記加硫タイヤにおける前記平面領域は、前記平面領域を囲む、前記湾曲面に対応した前記加硫タイヤの湾曲面領域の線状の辺が作る面に対して傾斜するように、前記平面は設けられ、
前記平面は、前記平面の一部が前記未加硫タイヤに近づく側に突出し、前記平面の他の一部が、前記未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ傾斜面である、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記平面は、メッキ層を最表面に備える、請求項1〜のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記金型本体部の複数の箇所のそれぞれに、前記部材を取り付けることにより、前記金型内表面を形成し、
前記二次元コードを刻印するとき、前記複数の箇所のそれぞれにおける前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の前記平面領域に前記二次元コードを刻印する、請求項1〜のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記二次元コードは、前記平面領域の面に対して直交する方向に延びる複数のドット孔をあけることにより刻印される、請求項1〜のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型であって、
前記未加硫タイヤと当接する部分が湾曲面を有する金型本体部と、
前記未加硫タイヤと当接する部分が平面を有する交換可能な部材と、を有し、
前記平面は、前記湾曲面に囲まれるように設けられ、
前記平面は、前記平面を囲む前記湾曲面の基部が作る面に対して傾斜し、前記平面の一部が前記未加硫タイヤに近づく側に突出し、前記平面の他の一部は、前記未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んでいる、ことを特徴とするタイヤ金型。
【請求項11】
空気入りタイヤであって、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記空気入りタイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mm以下であり、前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から突出した面である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項12】
空気入りタイヤであって、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記空気入りタイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mmより大きく、前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から凹んだ面である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項13】
空気入りタイヤであって、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から凹んだ面であり、
前記平面領域から最も近い前記空気入りタイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から最も近い前記カーカスコードまでの最短距離の65%以上である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項14】
空気入りタイヤであって、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺が作る面に対して傾斜するように設けられ、
前記平面領域の一部は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から凹前記平面領域の一部は、前記線状の辺から突出している、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項15】
前記平面領域は、前記空気入りタイヤの回転軸に直交する基準平面に対して傾斜する、請求項14に記載の空気入りタイヤ。
【請求項16】
前記ドットパターンにおける前記表面の凹凸は、前記平面領域に形成された複数のドット孔で形成され、
前記ドット孔は、前記平面領域の面に対して直交する方向に延びている、請求項11〜15のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤに関する。具体的には、本発明は、タイヤ側面部に二次元コードを備える空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤのタイヤ側面部に、二次元コードを設けることが提案されている。二次元コードは、一次元コードに較べて多くの情報を含ませることができるので、種々の情報を二次元コードに含ませて、タイヤを管理することができる。特に、タイヤ側面部に、所定のドット孔のパターンで刻印することで、タイヤ側面部に二次元コードを設けることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/00714号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような二次元コードが刻印された空気入りタイヤ(以降、単にタイヤという)を保管するとき、複数のタイヤを積み重ね、あるいは、タイヤラック内で複数のタイヤ同士を接触させて保管するので、タイヤ同士がこすれ、二次元コードが不鮮明になる場合がある。タイヤ同士がこすれても、二次元コードが不鮮明にならないように、二次元コードをサイドウォール面から窪んだ領域に刻印することも考えられる。この場合、タイヤを加硫して所定の形状にするタイヤ金型に、窪んだ領域を形成するために、タイヤ金型の未加硫タイヤと当接する金型内表面に凸状部分が設けられる。しかし、この凸状部分を設けるには、タイヤ金型に追加加工する必要がある。しかし、すでに使用しているタイヤ金型の金型内表面に追加加工をすることは難しく、金型内表面に凹状部分を設ける加工に比べて工数がかかる。また、タイヤの軽量化のために、サイドゴム部材の厚さを薄くしたタイヤのサイドウォール部に、窪んだ領域を形成し、その領域にドット孔を形成して二次元コードを刻印することは、タイヤ強度を低下させる可能性があるので好ましくない。
【0005】
また、タイヤ金型は加硫したタイヤ本数が所定数に達すると、加硫機から取り外され、サンドブラストを用いて金型内表面に付着した汚れを除去するクリーニングが施される。金型内表面は、このサンドブラストにより傷を受け易い。このため、タイヤ金型を用いて作製される加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部のタイヤ壁面部の表面は、タイヤ金型のクリーニングの回数に伴って光沢を失い易い。このようなタイヤ壁面部に二次元コードを刻印すると、2種類の濃淡要素で識別するドットパターンのコントラストが低下し、二次元コードの読み取りが難しくなる場合が生じる。このため、二次元コードを設ける面は、光沢のある面であることが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、二次元コードをタイヤ側面部に設ける場合、二次元コードのコントラストの低下を抑制することができる空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、空気入りタイヤの製造方法である。当該製造方法は、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記加硫タイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mm以下になる場合、前記平面を前記未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ面にする。
【0008】
本発明の一態様は、空気入りタイヤの製造方法である。当該製造方法は、
空気入りタイヤの製造方法であって、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記加硫タイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mmより大きくなる場合、前記平面を前記未加硫タイヤに近づく側に突出した面にする。
【0009】
前記加硫タイヤにおいて、前記加硫タイヤの前記平面領域から最も近い前記加硫タイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、前記平面領域を囲む前記湾曲面に対応した前記加硫タイヤの湾曲面領域の線状の辺から最も近い前記カーカスコードまでの最短距離の65%以上である、ことが好ましい。
【0010】
本発明の一態様は、空気入りタイヤの製造方法である。当該製造方法は、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記金型内表面において、前記平面は、前記平面を囲む前記湾曲面の基部に対して前記未加硫タイヤに近づく側に突出した面であり、
前記加硫タイヤにおいて、前記加硫タイヤの前記平面領域から最も近い前記加硫タイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、前記基部から最も近い前記カーカスコードまでの最短距離の65%以上である。
【0011】
前記加硫タイヤにおける前記平面領域は、前記平面領域を囲む、前記湾曲面に対応した前記加硫タイヤの湾曲面領域の線状の辺が作る面に対して傾斜するように、前記平面は設けられている、ことが好ましい。
【0012】
本発明の一態様は、空気入りタイヤの製造方法である。当該製造方法は、
未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型の金型本体部に、平滑な平面を有する交換可能な部材を取り付けることにより、前記金型本体部の湾曲面と前記湾曲面によって囲まれた前記平面とを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成するステップと、
前記金型内表面に前記未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製するステップと、
前記加硫タイヤの前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンが形成される二次元コードを刻印することにより、空気入りタイヤを製造するステップと、を含み、
前記加硫タイヤにおける前記平面領域は、前記平面領域を囲む、前記湾曲面に対応した前記加硫タイヤの湾曲面領域の線状の辺が作る面に対して傾斜するように、前記平面は設けられ、
前記平面は、前記平面の一部が前記未加硫タイヤに近づく側に突出し、前記平面の他の一部が、前記未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ傾斜面である。
【0014】
前記平面は、メッキ層を最表面に備える、ことが好ましい。
【0015】
前記金型本体部の複数の箇所のそれぞれに、前記部材を取り付けることにより、前記金型内表面を形成し、
前記二次元コードを刻印するとき、前記複数の箇所のそれぞれにおける前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の前記平面領域に前記二次元コードを刻印する、ことが好ましい。
【0016】
さらに、前記金型本体部の複数の箇所のそれぞれに、前記部材を取り付けることにより、前記サイド金型内表面を形成し、
前記二次元コードを刻印するとき、前記複数の箇所のそれぞれにおける前記平面に対応した前記サイドウォール部あるいは前記ビード部の平面領域に前記二次元コードを刻印する、ことが好ましい。
前記二次元コードは、前記平面領域の面に対して直交する方向に延びる複数のドット孔をあけることにより刻印される、ことが好ましい。
【0017】
本発明の他の一態様は、未加硫タイヤと当接して前記未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型である。当該タイヤ金型は、
前記未加硫タイヤと当接する部分が湾曲面を有する金型本体部と、
前記未加硫タイヤと当接する部分が平面を有する交換可能な部材と、を有する。
前記平面は、前記湾曲面に囲まれるように設けられ、
前記平面は、前記平面を囲む前記湾曲面の基部が作る面に対して傾斜し、前記平面の一部が前記未加硫タイヤに近づく側に突出し、前記平面の他の一部は、前記未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んでいる。
【0018】
本発明のさらに他の一態様は、空気入りタイヤである。当該空気入りタイヤは、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記空気入りタイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mm以下であり、前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から突出した面である。
【0019】
本発明のさらに他の一態様は、空気入りタイヤである。当該空気入りタイヤは、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記空気入りタイヤの前記二次元コードを刻印する箇所の、前記二次元コードを刻印する前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mmより大きく、前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から凹んだ面である。
【0020】
本発明のさらに他の一態様は、空気入りタイヤである。当該空気入りタイヤは、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から凹んだ面であり、
前記平面領域から最も近い前記空気入りタイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から最も近い前記カーカスコードまでの最短距離の65%以上である。
本発明のさらに他の一態様は、空気入りタイヤである。当該空気入りタイヤは、
路面と接触するトレッド部と、
前記トレッド部をタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられたサイドウォール部と、
前記サイドウォール部に接続され、前記サイドウォール部に対してタイヤ径方向内側に位置するビード部と、を備え、
前記サイドウォール部あるいは前記ビード部のタイヤ側面部の表面は、
タイヤ径方向に沿ってタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状の湾曲面領域と、
前記湾曲面領域に囲まれるように設けられた平面領域と、を備え、
前記平面領域には、前記表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成された二次元コードが設けられ、
前記平面領域は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺が作る面に対して傾斜するように設けられ、
前記平面領域の一部は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から凹み、前記平面領域の一部は、前記湾曲面領域の前記平面領域を囲む線状の辺から突出している。
前記平面領域は、前記空気入りタイヤの回転軸に直交する基準平面に対して傾斜する、ことが好ましい。
前記ドットパターンにおける前記表面の凹凸は、前記平面領域に形成された複数のドット孔で形成され、
前記ドット孔は、前記平面領域の面に対して直交する方向に延びている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上述の空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤによれば、二次元コードをタイヤ側面部に設ける場合、二次元コードのコントラストの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態の空気入りタイヤの構成の一例を示す図である。
図2】(a),(b)は、一実施形態の空気入りタイヤに設けられる二次元コードの例を説明する図である。
図3】(a)は、空気入りタイヤに設けられた二次元コードの断面の一例を拡大した図であり、(b)は、(a)に示す二次元コードを刻印する前の二次元コードの配置予定領域の断面の一例を拡大して示す図であり、(c)は、(b)に示す二次元コードの配置予定領域を形成するタイヤ金型の要部の断面の一例を拡大して示す図である。
図4】(a)は、空気入りタイヤに設けられた二次元コードの断面の別の例を拡大した図であり、(b)は、(a)に示す二次元コード刻印前の二次元コードの配置予定領域の断面の一例を拡大して示す図であり、(c)は、(b)に示す二次元コードの配置予定領域を形成するタイヤ金型の要部の断面の一例を拡大して示す図である。
図5】(a)は、空気入りタイヤに設けられた二次元コードの断面のさらに別の例を拡大した図であり、(b)は、(a)に示す二次元コード刻印前の二次元コードの配置予定領域の断面の一例を拡大して示す図であり、(c)は、(b)に示す二次元コードの配置予定領域を形成するタイヤ金型の要部の断面の一例を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態の空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤについて詳細に説明する。
【0024】
(定義)
本明細書において、タイヤ幅方向は、空気入りタイヤ(タイヤという)の回転軸と平行な方向である。タイヤ幅方向外側は、タイヤ幅方向において、タイヤ赤道面を表すタイヤセンターラインCL(図1参照)から離れる側である。また、タイヤ幅方向内側は、タイヤ幅方向において、タイヤセンターラインCLに近づく側である。タイヤ周方向は、空気入りタイヤの回転軸を回転の中心として回転する方向である。タイヤ径方向は、空気入りタイヤの回転軸に直交する方向である。タイヤ径方向外側は、前記回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ径方向内側は、前記回転軸に近づく側をいう。
【0025】
本明細書で言う二次元コードは、一方向にしか情報を持たない一次元コード(バーコードに対し、二方向に情報を持つマトリックス表示方式のコードである。二次元コードとして、例えば、QRコード(登録商標)、データマトリクス(登録商標)、Maxicode、PDF−417(登録商標)、16Kコード(登録商標)、49コード(登録商標)、Aztecコード(登録商標)、SPコード(登録商標)、ベリコード(登録商標)、及び、CPコード(登録商標)を含む。
【0026】
(空気入りタイヤ)
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ10(以降、単にタイヤ10という)の構成の一例を示す図である。
【0027】
タイヤ10は、トレッドパターンを有するトレッド部10Tと、一対のビード部10Bと、トレッド部10Tの両側に設けられ、一対のビード部10Bとトレッド部10Tに接続される一対のサイドウォール部10Sと、を備える。トレッド部10Tは路面と接触する部分である。サイドウォール部10Sは、トレッド部10Tをタイヤ幅方向の両側から挟むように設けられた部分である。ビード部10Bは、サイドウォール部10Sに接続され、サイドウォール部10Sに対してタイヤ径方向内側に位置する部分である。
【0028】
タイヤ10は、骨格材として、カーカスプライ12と、ベルト14と、ビードコア16とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム部材18と、サイドゴム部材20と、ビードフィラーゴム部材22と、リムクッションゴム部材24と、インナーライナゴム部材26と、を主に有する。
【0029】
カーカスプライ12は、一対の円環状のビードコア16の間を巻きまわしてトロイダル形状を成した、有機繊維をゴムで被覆したカーカスプライ材で構成されている。カーカスプライ12は、ビードコア16の周りに巻きまわされてタイヤ径方向外側に延びている。カーカスプライ12のタイヤ径方向外側に2枚のベルト材14a,14bで構成されるベルト14が設けられている。ベルト14は、タイヤ周方向(図1の紙面に垂直方向)に対して、所定の角度、例えば20〜30度傾斜して配されたスチールコードにゴムを被覆した部材で構成され、下層のベルト材14aが上層のベルト材14bに比べてタイヤ幅方向の幅が長い。2層のベルト材14a,14bのスチールコードの傾斜方向は互いに逆方向である。このため、ベルト材14a,14bは、交錯層となっており、充填された空気圧によるカーカスプライ12の膨張を抑制する。
【0030】
ベルト14のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム部材18が設けられ、トレッドゴム部材18の両端部には、サイドゴム部材20が接続されてサイドウォール部10Sを形成している。サイドゴム部材20のタイヤ径方向内側の端には、リムクッションゴム部材24が設けられ、タイヤ10を装着するリムと接触する。ビードコア16のタイヤ径方向外側には、ビードコア16の周りに巻きまわす前のカーカスプライ12の部分と、ビードコア16の周りに巻きまわした部分との間に挟まれるようにビードフィラーゴム部材22が設けられている。タイヤ10とリムとで囲まれる空気を充填するタイヤ空洞領域に面するタイヤ10の内表面には、インナーライナゴム部材26が設けられている。
この他に、ベルト材14bとトレッドゴム部材18との間には、ベルト14のタイヤ径方向外側からベルト14を覆う、有機繊維をゴムで被覆した2層のベルトカバー30を備える。
このようなタイヤ10のサイドウォール部10Sあるいはビード部10Bのタイヤ側面部11には、平面領域11Bが設けられている。この平面領域11Bには、以下に示す二次元コード40が刻印されている。
【0031】
(二次元コード)
図2(a),(b)は、タイヤ10のビード部10B及びサイドウォール部10Sを含むタイヤ側面部11に設けられる二次元コードの例を説明する図である。
タイヤ側面部11の表面は、図2(a)に示すように、湾曲面領域11Aと、平面領域11Bとを備える。
湾曲面領域11Aは、サイドウォール部10Sあるいはビード部10Bがタイヤ幅方向外側に突出した湾曲形状であって、この湾曲形状が同じ形状を保ちながらタイヤ周方向に延在している領域である。
【0032】
平面領域11Bは、湾曲面領域11Aに囲まれるように設けられた平面を成す領域である。平面領域11Bは、平面領域11Bを囲む湾曲面領域11Aの基部に対して基部が作る面の法線方向外側(タイヤ赤道面から離れる側)に突出し、あるいは内側(タイヤ赤道面に近づく側)に凹むように位置しており、平面領域11Bは、湾曲面領域11Aの基部と面一にはなっていない。基部とは、平面領域11Bを囲む湾曲面領域11Aの端(線状の辺)をいう。基部が作る面とは、基部によって囲まれる領域内に、湾曲面領域11Aを滑らかに延長してできる平面あるいは曲面をいう。
【0033】
このような平面領域11Bには、二次元コード40が刻印されている。二次元コード40は、平面領域11Bの表面の凹凸によって互いに識別可能に形成された2種類の濃淡要素でドットパターンが形成されたものである。二次元コードは、その配置領域を格子状に分割した同一サイズの矩形形状(正方形形状)の複数の単位セル領域に対応して識別可能な濃淡要素が形成されてドットパターンが形成されたものである。一実施形態の二次元コード40は、図2(b)に示すように、濃淡要素の1つ1つを構成する単位セル領域Cに対応して、濃淡要素の濃領域(図示では、黒い領域)にドット孔42を1つ形成する形態である。ドット孔42の形成された単位セル領域Cでは、光がドット孔42に進入し、ドット孔42内で反射してドット孔42から外へ向けて反射する成分が少なくなるので、ドット孔42の形成された単位セル領域Cは、ドット孔42が形成されていない平面領域11Bの一部である単位セル領域Cに比べて、黒い領域として見る者には識別される。しかし、ドット孔42の形成されていない単位セル領域Cに微小な表面凹凸があると、この微小な表面凹凸によって入射した光は拡散反射するので、ドット孔42の形成されていない単位セル領域Cは、ドット孔42の形成された黒い単位セル領域Cに対してコントラストが低下し易い。このため、二次元コード40の誤った読み取りが生じ易くなる。例えば、タイヤ保管中にタイヤ側面部11同士が擦れて平面領域11Bに傷がつき易い。また、タイヤ10の製造過程で用いるタイヤ金型は、タイヤ金型は加硫したタイヤ本数が所定数に達すると、サンドブラストを用いて金型内表面のクリーニングを行うので、タイヤ金型のクリーニングの回数に伴って光沢を失い易い。このようなタイヤ側面部11に二次元コードを刻印しても、コントラストの強い二次元コード40を提供することはできない。
【0034】
このため、本実施形態では、二次元コード40が刻印される前の平面領域11Bの表面凹凸は、湾曲面領域11Aの表面凹凸に比べて小さい。一実施形態によれば、平面領域11Bの算術平均粗さRa(JIS B 0601:2001)は、湾曲面領域11Aの基部を含む領域における算術平均粗さRaに比べて小さいことが好ましい。平面領域11Bの算術平均粗さRaは、例えば、10μm以下であり、好ましくは5μm以下である。一方、湾曲面領域11Aの算術平均粗さRaは、例えば10μm〜100μmであり、好ましくは、12μm〜100μmである。
【0035】
平面領域10Aの表面が曲面ではなく平面であるのは、光が一方向から二次元コード40に入射した時、ドット孔42の形成されていない単位セル領域Cがすべて鏡面反射した光を受光することができ、これにより、ドット孔42の形成されていない単位セル領域Cとドット孔42の形成された単位セル領域Cとの間のコントラストが二次元コード40の全領域で大きくなり二次元コード40全体の読み取りが容易にできるからである。このため、平面領域11Bの平面の向きは、二次元コード40の読み取りが容易にできるように設定されればよい。一実施形態によれば、平面領域11Bの平面は、タイヤ10の回転軸に直交する基準平面に対して傾斜してもよい。一実施形態によれば、平面領域11Bの平面は、湾曲面領域11Aの平面領域11Bを囲む基部が作る面に平行、あるいは略平行であってもよい。一実施形態によれば、平面領域10Bの平面は、上記基部が作る面に対して非平行、すなわち傾斜したものも好ましい。
【0036】
図3(a)は、タイヤ10に設けられた二次元コード40の断面の一例を拡大した図である。図3(b)は、図3(a)に示す二次元コード40を刻印する前の二次元コードの配置予定領域の断面の一例を拡大して示す図である。図3(a)は、二次元コード40をタイヤ周方向に沿って切断した断面を示す。
図3(a)に示す例では、平面領域11Bは、平面領域11Bを囲む湾曲面領域11の基部に対してタイヤ赤道面側に凹んだ位置にある。したがって、二次元コード40は、平面領域11Bを囲む湾曲面領域11Aの基部に対してタイヤ赤道面側に凹んだ位置に設けられる。このような二次元コード40は、図3(b)に示すように、平面領域11Bにレーザ光を照射して、所望のドット孔42のパターンでドットパターンを形成することで得られる。
なお、図3(a)に示されるように、二次元コード40のドット孔42は、平面領域11Bの面に対して直交する方向に延びていることが好ましい。このようなドット孔42を設けることで、ドット孔42に進入した光が外へ向けて出る成分を少なくするので、ドット孔42の形成されていない単位セル領域Cとドット孔42の形成された単位セル領域Cとの間のコントラストを大きくすることができる。
したがって、このように湾曲面領域11Aの基部に対して凹んだ平面領域11Bを備えるタイヤ壁面部11は、以下説明するタイヤ金型によって形成することができる。
【0037】
(タイヤ金型)
タイヤ金型は、未加硫タイヤと当接して未加硫タイヤを加熱して加硫させて所定の形状にする型である。タイヤ金型は、図示されない加硫機に組み込まれて、未加硫タイヤを加硫して加硫タイヤを作製する。
【0038】
図3(c)は、一実施形態のタイヤ金型60の要部の断面の一例を拡大して示す図である。
タイヤ金型60は、金型本体部62と、部材64とを備える。
金型本体部62は、未加硫タイヤと当接する部分が湾曲した湾曲面62Aを有する。図3(c)では、湾曲面62Aは直線状に示されている。
部材64は、未加硫タイヤと当接する部分が平滑な平面をなした平面64Aを有する。部材64は、金型本体部62に設けられた凹部に差し込まれて金型本体部62に配置される。金型本体部62の凹部は、部材64の形状に合わせた形状になっている。部材64は、図示される例では、湾曲面62Aと反対側に設けられた座ぐり孔62Bを介して図示されないボルトにより部材64は金型本体部62に固定される。部材64の固定方法は、ボルトによる固定に限らず、機械的な固定の他、接着剤を用いた固定であってもよい。部材64は、交換可能な部材である。
【0039】
したがって、金型本体部62に、平面64Aを有する部材64を取り付けることにより、金型本体部62の湾曲面62Aと湾曲面62Aによって囲まれた平面64Aとを含む、タイヤ側面部11の形状を形作るサイド金型内表面が形成される。
ここで、平面64Aは、平面64Aを囲む湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤに近づく側に突出している。
このタイヤ金型60を用いて加硫を行うことにより、図3(b)に示すように、平面領域11Bを囲む湾曲面領域11Aの基部に対してタイヤ赤道面側に凹んだ位置にある形状のタイヤ側面部11を形成する。
【0040】
ここで、部材64を交換可能とするのは、部材64の平面64Aがサンドブラストによるクリーニングを複数回行って、平面64Aに傷が多数つくと、金型本体部62から部材64を取り外して新品な部材64と交換するためである。新品の部材64の平面64Aは傷が無く、表面凹凸が極めて小さいことから、新品の部材64を用いたタイヤ金型で加硫をして得られる加硫タイヤの平面領域11Bの表面粗さは小さく、光沢のある面となっている。したがって、この光沢のある面に二次元コード40を刻印することで、コントラストの強い二次元コード40を形成することができる。
【0041】
なお、一実施形態によれば、平面64Aは、メッキ層を最表面に備えることが好ましい。メッキ層は、硬質クロムメッキで形成された硬質クロムメッキ層であることが好ましい。平面64Aは、メッキ層を最表面に備えることで、サンドブラストに対して傷がつき難いので、部材64の交換頻度を低減することができる他、光沢のある平面領域11Bを提供することができる。
【0042】
図4(a)〜(c)は、平面領域11Bが、湾曲面領域11Aの基部に対してタイヤ赤道面から離れる側に突出した例を示す図である。
具体的には、図4(a)は、タイヤ10に設けられた二次元コード40の断面の例を拡大した図である。図4(b)は、図4(a)に示す二次元コード40の刻印前の二次元コード配置予定領域の断面の一例を拡大して示す図である。図4(c)は、図4(b)に示す二次元コードの配置予定領域を形成するタイヤ金型60の要部の断面の一例を拡大して示す図である。
【0043】
図4(a),(b)に示す例では、平面領域11Bが、湾曲面領域11Aの基部に対してタイヤ赤道面から離れる側に突出している。このような形状を形成するタイヤ金型60では、図4(c)に示すように、平面64Aは、平面64Aを囲む湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んでいる。
このようなタイヤ金型60を用いても、部材64の平面64Aがサンドブラストによるクリーニングを複数回行って、平面64Aに傷が多数つくと、金型本体部62から部材64を取り外して新品な部材64と交換することができる。したがって、この光沢のある面に二次元コード40を刻印するので、コントラストの強い二次元コード40を形成することができる。
【0044】
図5(a)〜(c)は、平面領域11Bが、平面であるが、湾曲面領域11Aの基部が作る面に対して傾斜した面である例を示す図である。
具体的には、図5(a)は、タイヤ10に設けられた二次元コード40の断面の例を拡大した図である。図5(b)は、図5(a)に示す二次元コード40の刻印前の二次元コードの配置予定領域の断面の一例を拡大して示す図である。図5(c)は、図5(b)に示す二次元コードの配置予定領域を形成するタイヤ金型60の要部の断面の一例を拡大して示す図である。
【0045】
図5(a),(b)に示す例では、平面領域11Bの、タイヤ径方向の一方の側の端では、湾曲面領域11Aの基部に対してタイヤ赤道面から離れる側に突出し、タイヤ径方向の他方の側の端では、湾曲面領域11Aの基部に対してタイヤ赤道面に近づく側に凹んでいる。このような形状を形成するタイヤ金型60では、平面64Aの、タイヤ径方向に対応する金型径方向の一方の側の端において平面64Aを囲む湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んでおり、金型径方向の他方の側の端において平面64Aを囲む湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤに近づく側に突出している。
このように、平面領域11B及び平面64Aは、基部が作る面に対して傾斜している。このように傾斜した平面領域11Bを設けることで、特定の方向においてコントラストの強い二次元コード40を形成することができるので、二次元コード40の読み取りが容易にできる。
【0046】
なお、図5(a)〜(c)では、タイヤ径方向において、平面領域11Bは、湾曲面62Aの基部が作る面に対して傾斜するが、タイヤ周方向において、平面領域11Bは、基部が作る面に対して傾斜してもよい。また、傾斜する平面領域11Bは、湾曲面領域11Aの基部に対していずれの場所でもタイヤ赤道面に近づく側に凹んだ形状であってもよいし、湾曲面領域11Aの基部に対していずれの場所でもタイヤ赤道面から遠ざかる側に突出した形状であってもよい。
【0047】
(タイヤの製造方法)
このようなタイヤ10は、タイヤ金型60を用いて以下のように製造することができる。
(1)まず、未加硫インナーライナゴム部材、カーカスプライ12、ビードコア16、ベルト14と、未加硫トレッドゴム部材、未加硫サイドゴム部材、未加硫ビードフィラーゴム、及び未加硫リムクッションゴム等が所定の位置に積層された円筒形状の未加硫タイヤを成形する。
(2)成形した未加硫タイヤを、タイヤ金型60の金型内表面に当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製する。このとき、未加硫タイヤを加硫させて所定の形状にするタイヤ金型60の金型本体部62に、図3(c)、図4(c)、あるいは図5(c)に示すように、平面64Aを有する交換可能な部材64を取り付ける。これにより、金型本体部62の湾曲面62Aと湾曲面62Aによって囲まれた平面64Aとを含む、加硫タイヤのサイドウォール部及びビード部の形状を形作る金型内表面を形成する。
(3)この金型内表面に未加硫タイヤを当接させて加硫することにより加硫タイヤを作製する。
(4)作製した加硫タイヤの平面64Aに対応した平面領域11Bに、表面の凹凸によって互いに識別可能に形成される2種類の濃淡要素でドットパターンを形成して二次元コード40を刻印する。これにより、空気入りタイヤ10を製造する。具体的には、平面領域11Bにレーザ光を照射して、所望のドット孔のパターンでドットパターンを形成することで刻印が行われる。
【0048】
このとき、一実施形態によれば、図4(c)に示すように、金型内表面において、平面64Aは、平面64Aを囲む湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ面とすることが好ましい。このような平面64Aを設ける場合は、加硫タイヤの二次元コード40を刻印する箇所の、刻印前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mm以下となる場合に限ることが好ましい。加硫タイヤにおけるサイドゴム部材の最小厚さは、目標とする設計寸法から予め推定することができる。最小厚さが上記範囲から外れる場合に平面64Aを、湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ面にすると、タイヤ壁面部11の平面領域11Bが湾曲面領域11Aの基部から突出する形状になり、サイドゴム部材が必要以上に厚くなり、不必要な重量増加になり、ユニフォーミティや荷重バランスの点で好ましくない。
【0049】
一実施形態によれば、二次元コード40は、平面領域11Bの面に対して直交する方向に延びる複数のドット孔42をあけることにより刻印される、ことが好ましい。ドット孔42の深さ方向を平面領域11Bの面に対して直交する方向とすることで、ドット孔42に進入した光が外へ向けて出る成分を少なくするので、ドット孔42の形成されていない単位セル領域Cとドット孔42の形成された単位セル領域Cとの間のコントラストを大きくすることができる。
【0050】
別の一実施形態によれば、図3(c)に示すように、金型内表面において、平面64Aは、平面64Aを囲む湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤに近づく側に突出した面とすることが好ましい。このような平面64Aを設ける場合は、加硫タイヤのサイドゴム部材の湾曲面62Aに対応した湾曲面領域11Aにおける刻印前のサイドゴム部材の最小厚さが5.8mmより大きくなる場合に限ることが好ましい。加硫タイヤにおけるサイドゴム部材の最小厚さは、目標とする設計寸法から予め推定することができる。最小厚さが上記範囲から外れる場合に平面64Aを、湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤに近づく側に突出させると、タイヤ壁面部11の平面領域11Bにおけるサイドゴム部材の厚さが十分に確保できず、タイヤ特性上好ましくない。
この場合、加硫タイヤにおいて、加硫タイヤの平面領域11Bから最も近い加硫タイヤ内のカーカスコードまでの最短距離が、湾曲面領域11Aの基部から最も近い加硫タイヤ内のカーカスコードまでの最短距離の65%以上である、ことが好ましい。これにより、サイドゴム部材のタイヤ特性上の機能を発揮させる程度のサイドゴム部材の厚さを確保することができる。
【0051】
別の一実施形態によれば、図5(b)に示すように、加硫タイヤにおける平面領域11Bは、平面領域11Bを囲む湾曲面領域11Aの基部が作る面に対して傾斜するように、平面64Aは設けられていることも好ましい。
この場合、図5(c)に示すように、タイヤ金型60の平面64Aは、平面64Aの一部が湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤに近づく側に突出し、平面64Aの他の一部が湾曲面62Aの基部に対して未加硫タイヤから遠ざかる側に凹んだ面である、ことも好ましい。
【0052】
また、別の一実施形態によれば、平面64Aは、メッキ層を最表面に備えることが好ましい。これにより、平面64Aは、サンドブラストによるクリーニングによって傷を受け難くでき、部材64の交換頻度を抑制することができる。
【0053】
本実施形態は、部材64を1つ設け、タイヤ10において平面領域11Bを1つ設け、したがって、二次元コード40をタイヤ側面部11の1箇所に設ける。しかし、別の一実施形態によれば、金型本体部62に、部材64の他に、平面を有する交換可能な別の部材64を取り付けることにより、金型本体部62の湾曲面62Aと平面64A及び別の部材の平面と、を含む金型内表面を形成し、部材64の平面64A及び別の部材の平面のそれぞれに対応した2つの平面領域に二次元コード40を刻印することも好ましい。タイヤ10の保管中、タイヤ壁面部同士が擦れて一方の二次元コード40のコントラストが弱くなって読み取りが困難になっても、別の二次元コード40を読み取ることができる場合が多い。
【0054】
以上、本発明の空気入りタイヤの製造方法、タイヤ金型、及び空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更してもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0055】
10 空気入りタイヤ
11 タイヤ側面部
11A 湾曲面領域
11B 平面領域
12 カーカスプライ
14 ベルト
14a,14b ベルト材
16 ビードコア
18 トレッドゴム部材
20 サイドゴム部材
22 ビードフィラーゴム部材
24 リムクッションゴム部材
26 インナーライナゴム部材
30 ベルトカバー
40 二次元コード
42 ドット孔
60 タイヤ金型
62 金型本体部
62A 湾曲面
62B 座ぐり孔
64 部材
64A 平面
図1
図2
図3
図4
図5