(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも内表面側に緻密層を有する中空糸膜であって、前記中空糸膜の内表面を原子間力顕微鏡で観察したとき、前記中空糸膜の長さ方向に配向した複数の溝様凹部が観察され、前記凹部の長さと幅の比であるアスペクト比が3以上30以下であり、前記中空糸膜の乾燥状態における降伏強度が30g/filament以上、破断伸度が20%/filament以下であることを特徴とする中空糸膜。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の中空糸膜は、限外ろ過膜の範疇に含まれるものであり、具体的には細孔の平均孔径は3nm〜50nm程度、分子量で言えば数千〜数十万の高分子物質やコロイド状物質を透過せず、それ以下の中分子物質やイオン類を透過させる大きさの細孔を有するものである。
【0010】
従来、血液適合性や性能の向上に対しては、血球成分や血漿タンパクの膜表面への吸着や目詰まりを抑制するために中空糸膜内表面の平滑性を高める方向で開発が進められてきた。しかし、血流量やろ過量の増大に適応するためには従来の開発志向では限界があった。本発明者は、少なくとも内表面側に緻密層を有する中空糸膜であって、前記中空糸膜の内表面を原子間力顕微鏡で観察したとき、前記中空糸膜の長さ方向に配向した複数の溝様凹部が観察され、前記凹部の長さと幅の比であるアスペクト比が3以上30以下であり、前記中空糸膜の乾燥状態における降伏強度が30g/filament以上、破断伸度が25%/filament以下とすることにより、後希釈血液透析ろ過のような中空糸膜にとって過酷な条件での血液浄化療法に用いた場合にも、膜面への血球成分やタンパク等の吸着、目詰まりを抑制することができることを見出し、ついに本発明に到達した。
【0011】
本発明において、中空糸膜を構成する材料としては、セルロースアセテート系ポリマーを使用するのが好ましい。セルロースアセテート系ポリマーとしては、補体活性の抑制や血液凝固の低さといった血液適合性の面から水酸基がある程度キャップされたセルロースジアセテートやセルローストリアセテートが好ましい。セルロース系ポリマーを主成分とする中空糸膜を血液浄化に用いると白血球の一過性減少が生じることがあり、血液適合性の面で課題があったが、セルロースの水酸基の一部をアセチル基で置換したセルロースアセテート系ポリマーを用いることにより血液適合性を改善できるメリットがある。具体的には、酢化度が53〜62であり、6%粘度が140mPa・s超200mPa・s未満である比較的低粘度のセルローストリアセテートが好ましい。
【0012】
本発明において、中空糸膜の内表面を原子間力顕微鏡を用いて後述するような条件で観察した際に、中空糸膜の長さ方向に配向した複数の溝様の凹部を有するのが好ましい(
図5)。より詳細には、およそ2μm四方の観測視野において、中空糸膜の長さ方向に配向した溝様の凹部を10以上有するのが好ましい。詳細な理由は不明だが、凹部と凹部の間隔を特定の範囲にすると血液の整流効果が高められるためか、タンパク等の吸着が少なくなるだけでなく、白血球の一過性減少が抑制される傾向にある。そのため、前記凹部が15以上観察される内表面がより好ましい。
【0013】
本発明において、前記凹部の平均長さ(長径)は、200nm以上500nm以下であることが好ましい。凹部の長さが短すぎると、血液の整流効果が低下するためか、凹部に血球成分やタンパク等が留まり易くなり、本発明の効果が得られにくい。また、凹部の長さが長すぎると、凹部が裂けるなど膜表面構造の欠陥となりやすい。ここで、平均長さ(長径)は、後述するように最長および最短を含めた5点の平均値である。
【0014】
本発明において、前記凹部の平均幅(短径)は、10nm以上100nm以下であることが好ましい。凹部の幅が短すぎると、十分な血流の整流効果が得られないことがある。また、凹部の幅が広すぎる(短すぎる)と、凹部に血球成分やタンパクが留まりやすくなり、本発明の効果が得られにくい。ここで、平均幅(短径)は、後述するように最大および最小を含めた5点の平均値である。
【0015】
本発明において、前記凹部の平均長さと平均幅の比であるアスペクト比(平均長さ/平均幅)は、3以上30以下であることが好ましい。アスペクト比が小さすぎると、凹部が長さの割に幅の広い形状となるため、血流の整流効果が得られにくくなり、凹部に血液成分が留まりやすくなる。一方、アスペクト比が大きすぎて問題が起こることはほぼないと考えられる。
【0016】
本発明において、前記凹部の平均深さは、30nm以下であることが好ましい。凹部の深さが大きすぎると、凹部の幅との兼ね合いもあるが血液等の流体の流れに淀みが生じやすくなり、β2−マイクログロブリン等の透過性が低下したり、透過性の経時安定性が低下することがある。また、白血球の一過性減少が大きくなることがある。また、前記凹部の平均深さは、10nm以上であることが好ましい。一方、凹部の深さが小さすぎると、血液等の流体の流れに対する整流効果が得られず、透過性の経時安定性が低下することがある。そのため、凹部の平均深さは、10nm以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明において、中空糸膜は、内表面側に緻密層を有し、前記緻密層以外の部分は物質の透過抵抗とならない程度に拡大された孔を有することが好ましい。具体的には、内表面に緻密層を有し、外表面に向かって次第に孔が拡大するような構造や、内表面から外表面に向かって当初孔が拡大し、そのまま中間部を過ぎて外表面近傍まで孔がほぼ一定で推移し、外表面付近で孔が拡大するか、または縮小するような構造も含む。
【0018】
本発明において、緻密層は、中空糸膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3,000倍で撮影した写真(
図3)において、実質的に空隙の存在が認められない部分を指す。ここで、実質的にとは、通常の写真サイズ(L判)にて目視でポリマー部と空隙部が明確に判別されないことを意味する。緻密層の厚みは2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。被処理液(血液)を中空糸膜の中空部に流して処理する場合に、緻密層は、物質の透過抵抗を小さくする意味で薄い方が好ましいが、薄すぎると内表面構造の欠陥が緻密層の完全性を損なうおそれがあるので、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。また、緻密層以外の支持層部は、物質の透過抵抗とならない程度の細孔径や空隙を有するとともに膜形状を維持できる程度の厚みを有するものであればよい。
【0019】
本発明において、血液の流動安定性を確保するためには中空糸膜の内径を130μm以上280μm未満とするのが好ましい。中空糸膜の内径が小さすぎると、血流量を増加した際に血流の線速度が高くなりすぎ、血球成分がダメージを受ける可能性がある。一方、中空糸膜の内径が大きすぎると、膜面積を稼ぐためにモジュール(血液浄化器)のサイズを大きくする必要が生じるなど使用の利便性を損なう。
【0020】
本発明において、中空糸膜の膜厚は、特に限定されないが、18μm以上30μm未満とするのが好ましい。中空糸膜の膜厚が薄すぎると、透過性能は高まるが必要な強度を維持することが困難になる。また、膜厚が厚すぎると、物質の透過抵抗が大きくなり、除去物質の透過性が不充分となることがある。
【0021】
本発明の中空糸膜を得るためには、乾湿式紡糸法を利用して製膜するのが好ましい。紡糸原液は、セルロースアセテート系ポリマー、溶媒、必要により非溶媒を混合溶解したものを用いる。芯液は、セルロースアセテート系ポリマーに対して凝固性のある液体を用いる。2重管ノズルの環状部(スリット部)より紡糸原液を吐出し、同時に中心孔(内孔)より芯液を吐出し、空走部を通過させた後、凝固浴に導き、中空糸膜形状を固定する。得られた中空糸膜を洗浄して過剰の溶媒等を除去し、必要により膜孔保持剤を中空部および細孔(または空隙)内に含浸させた後、乾燥して巻き取る。
【0022】
本発明の中空糸膜を得るための技術的手段について、以下詳細に説明する。中空糸膜の内表面の構造を制御するためには、芯液と紡糸原液(ドープ)が接触して膜表面を形成させる工程を厳密に制御することが重要である。すなわち、紡糸原液と芯液の吐出線速度比(線速比)、ドラフト比の最適化が重要である。具体的には、セルロースアセテート系ポリマーを含む紡糸原液に対して凝固性のある液体を芯液として用いた上で、紡糸原液の吐出線速度と芯液の吐出線速度をほぼ等速とすることが重要である。ここで、ほぼ等速とは、紡糸原液の吐出線速度と芯液の吐出線速度との比を0.95〜1.05に調整することを意味する。
【0023】
本発明において、紡糸原液の吐出線速度は、前記環状部(スリット部)の断面積と紡糸原液の吐出量から求められる値であり、一方、芯液の吐出線速度は、環状部(スリット部)の内径を基準とした断面積と芯液の吐出量から求められる値である。例えば、スリット外径が500μm、スリット内径が300μmの2重管ノズルを用いて、紡糸原液を3cc/min、芯液を2cc/minで吐出する場合について、線速比(紡糸原液の吐出線速度/芯液の吐出線速度)を求めると、下記のようになる。
紡糸原液の吐出線速度(m/min)=紡糸原液の吐出量/スリット部断面積=3cc/1.26×10
−3cm
2/100=23.8
芯液の吐出線速度(m/min)=芯液の吐出量/スリット部内径基準の断面積=2cc/7.07×10
−4cm
2/100=28.3
線速比=紡糸原液の吐出線速度/芯液の吐出線速度=23.8/28.3=0.84
【0024】
紡糸原液の吐出線速度と芯液の吐出線速度との比(線速比)が大きすぎても小さすぎても、紡糸原液と芯液との速度差が大きくなるので界面における流れの乱れが生じ、すなわち膜の表面構造が粗くなる(凹凸が大きくなる)傾向がある。特に、芯液の吐出線速度が相対的に速い場合にこのような現象が起こりやすくなる。
【0025】
また、本発明において、ドラフト比は、凝固浴からの引出し速度/紡糸原液の吐出線速度を表す。中空糸膜の内表面の構造を本発明の範囲に制御するためには、ドラフト比を0.80〜0.85とするのが好ましい。例えば、凝固浴からの引出し速度が50m/min、紡糸原液の吐出線速度が40m/minであれば、ドラフト比は1.25となる。ドラフト比が大きいと、構造が固定化されつつある中空糸膜を過度に引っ張ることになるので、内表面に形成された凹部を引き伸ばすことになり、極端な場合には凹部が裂けるなどの欠陥が生じることになる。また、ドラフト比が小さい場合は、中空糸膜長さ方向に発生した微小な凹凸(皺)を均す効果が得られず、中空糸膜の内表面近傍を流れる流体の整流効果が得られないことがある。
【0026】
前記した条件を採用することによって、本発明の中空糸膜の特徴的な構造を達成することができる。以下、前記した条件を採用する前提となるその他の製造条件について説明する。
【0027】
本発明において、紡糸原液は、セルロースアセテート系ポリマー、溶媒、非溶媒を混合溶解したものを使用するのが好ましい。具体的には、セルロースアセテート系ポリマー/溶媒/非溶媒=15〜20/52〜64/16〜33の範囲で調製するのが好ましい。
【0028】
本発明において、セルロースアセテート系ポリマーの溶媒としては、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略記することがある)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどを使用するのが好ましい。また、非溶媒としては、エチレングリコール、トリエチレングリコール(以下、TEGと略記することがある)、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、アルコール類などが挙げられる。これらの溶媒、非溶媒は、水と良好な相溶性を有する。
【0029】
本発明において、芯液は、溶媒、非溶媒および水からなる水溶液が使用でき、溶媒/非溶媒/水=0〜14/0〜6/80〜100の範囲で調製するのが好ましいが、非溶媒と水との混合液を用いるのがより好ましく、水単独がさらに好ましい。ここで、水は、イオン交換水、蒸留水、RO水、精製水、超純水などが挙げられる。
【0030】
前記得られた紡糸原液および芯液をそれぞれ、2重管ノズルのスリット部および中心孔より同時に吐出し、空中走行部を通過させた後、凝固浴中に浸漬して中空糸状に成形する。内径が200μm程度の中空糸膜を得る場合には、用いるノズルは、スリット外径が250〜300μm、スリット内径が180〜230μmのものを使用するのが好ましい。また、ノズル温度は、紡糸原液側は熱媒温度として55〜65℃に調整し、芯液側は冷媒温度として10〜15℃に調整するのが好ましい。
【0031】
空中走行部は、紡糸速度にもよるが5mm〜100mmとするのが好ましい。また、必要により、空中走行部の湿度や温度をコントロールしても良い。空中走行部を通過させた後、溶媒/非溶媒/水=49〜56/21〜24/20〜30の範囲で調製された凝固浴に浸漬して中空糸膜を形成する。凝固液の水含量が低い方が膜断面の非対称性が高まるため、溶媒/非溶媒/水=52.5〜56/22.5〜24/20〜25がより好ましい。また、凝固浴の温度は、40〜50℃に調整するのが好ましい。
【0032】
凝固浴から引き出された中空糸膜は、引き続き水洗して過剰の溶媒、非溶媒を除去した後、必要によりグリセリン浴に浸漬して中空糸膜内の水をグリセリン水溶液に置換する。この時、グリセリンの濃度は85〜93重量%とするのが好ましい。また、グリセリン水溶液の温度は88〜96℃に調整するのが好ましい。
【0033】
グリセリン浴から引き出した中空糸膜は、さらに乾燥して巻取る。乾燥温度は、35〜60℃に調整するのが好ましい。
【0034】
得られた中空糸膜は、必要により、クリンプを付与するなどした後、所定本数をケースに収納して血液の入口および出口、透析液の入口および出口を有するモジュールを作製することができる。
【0035】
本発明において、乾燥状態の中空糸膜を用いて測定された降伏強度が30g/filament以上、破断伸度が20%/filament以下であることが好ましい。降伏強度は高い方が、血液浄化器(モジュール)作製の歩留まりがよくなるので好ましいが、破断伸度が高すぎると、逆にモジュール作製の歩留まりが低下するだけでなく、その後の保管中や輸送中の熱履歴による性能変化が起こりやすい問題があるとか、理由はよくわからないがろ過安定性が低くなる(ΔTMPが大きくなる)問題がある。また、破断伸度が低すぎると、取り扱い性が難しくなるので、10%/filament以上が好ましく、15%/filament以上がより好ましい。本発明においては、内表面の構造の最適化だけでなく、強伸度を特定の範囲にすることにより、性能と取り扱い性のバランスに優れた中空糸膜を得ることができる。
【0036】
本発明の中空糸膜は、血液透析だけでなく血液透析ろ過や血液ろ過といった過酷な条件での使用を想定しているため、37℃で測定した純水の透水性(UFR)が200ml/(m
2・hr・mmHg)以上1500ml/(m
2・hr・mmHg)以下、牛血漿系を用いてろ過流速15ml/min.で測定したβ2−MG(β2−マイクログロブリン)のクリアランス(内径基準の膜面積2.1m
2)が65ml/min.以上90ml/min.以下、且つアルブミンなどの有用タンパクの漏れ量が1.5g/(3L除水、同膜面積2.1m
2)以下という基本性能に加えて、以下のような特性を有する。
【0037】
すなわち、膜内表面の緻密層へのタンパク吸着などのファウリングを抑制でき、また、ろ過による血液の濃縮が進行した後も高いろ過安定性を維持できるため、後希釈型の血液透析ろ過療法において、安定して高い性能を発現することが期待される。
【0038】
本発明において、後述するろ過安定性試験において、血液試験液を血液浄化器(モジュール)の中空糸膜内側(中空部)に350mL/min.で送液し、75mL/min.の割合で血液をろ過したときに、送液開始後15分後のTMPと240分後のTMPの差が13mmHg以下であるのが好ましい。10mmHg以下がより好ましい。
【0039】
また、本発明において、後述するタンパク吸着量の試験を実施したときに、5.0mg/m
2以下であるのが好ましい。より好ましくは、4.5mg/m
2以下、さらに好ましくは4.0mg/m
2以下である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0041】
(中空糸膜の外径、内径および膜厚の測定)
中空糸膜の外径、内径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon−V−12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とした。膜厚は(外径−内径)/2で算出した。最大、最小を含む5断面について同様に測定を行い、平均値を内径、外径および膜厚とした。
【0042】
(膜面積の計算)
モジュールの膜面積A(m
2)は中空糸膜の内径を基準として求めた。
A=n×π×d×L
ここで、nは透析器内の中空糸膜本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lは透析器内の中空糸膜の有効長(m)である。
【0043】
(6%粘度)
混合溶剤[塩化メチレン:メタノール=91:9(重量比)]61.67gを三角フラスコに採取し、105±5℃で2時間乾燥した試料3.00gを投入し、密栓した。その後、横振り振盪機で1.5時間振盪し、さらに回転振盪機で1時間振盪して、完全に溶解させた。次に、得られた6wt/vol%溶液の温度を恒温槽で25±1℃に調整し、オストワルト粘度計を用いて計時用標線間の流下時間を測定し、下記式から粘度を求めた。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(sec)/粘度計係数
なお、粘度計係数は、粘度計校正用標準液を用いて、上記と同様の操作で流下時間(sec)を測定し、下記式から求めた。
粘度計係数=[標準液絶対粘度(mPa・s)×溶液の密度(1.235g/cm
3)]/[標準液の密度(g/cm
3)×標準液の流下時間(sec)]
【0044】
(破断強伸度、降伏強伸度の測定)
中空糸膜の強伸度は、テンシロン万能試験機(東洋ボールドウィン社製UTMII)を用い、乾燥した中空糸膜1本を約15cmの長さに切断してチャック間(距離約10cm)に弛みのないよう取り付け、20±5℃、60±10%RHの温湿度環境下、クロスヘッドスピード10cm/minで中空糸膜を引張り、測定を行った。得られたチャート紙より破断伸度と破断強度を読み取った。また、
図4に示されるように、S−Sカーブより補助線を設け、二つの補助線が交差した点を降伏点と定義し、その点における強度を降伏強度、伸度を降伏伸度とした。
【0045】
(タンパク吸着量の測定)
中空糸膜の内径を基準とした膜面積が1.5m
2のモジュールを用い、透析液側には予め流動パラフィンを封入しておき、透析液側から水溶液が血液側に流れ込まないようにした。100mg/lの濃度に調整した37℃のアルブミン水溶液を500ml準備して、予め37℃に保温しておいたモジュールの血液側に200ml/min.の流速で4時間循環を行った。吸着量は、アルブミン水溶液の初期濃度と循環後の濃度から、次式を用いて求めた。なお、アルブミン濃度は、A/G B−テストワコー(和光純薬工業社製)を用いてブロムクレゾールグリーン法(BCG法)により求めた。
吸着量(mg)=(初期濃度−循環後の濃度)×0.5
【0046】
(ろ過安定性評価)
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を用いた。牛血漿で希釈し、ヘマトクリットを30%に調整した。該血液を血液浄化器(モジュール)の中空糸膜内側に350mL/min.で送液し、75mL/min.の割合で血液をろ過した。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とした。溶血を防止する目的で血液浄化器は予め生理食塩水で十分に置換しておいた。循環開始後15分後に所定のろ過流量を得ていることをメスシリンダーにろ液を採取して確認し、同時に透析回路の圧力チャンバー部位でそれぞれ血液入口(Pi)、血液出口(Po)、濾液導出部(Pf)の圧力を測定し、
TMP=Pf−(Pi+Po)/2
により算出した。同様に240分経過後のTMPを測定し、
△TMP=│TMP240−TMP15│
により算出した。
【0047】
(中空糸膜内表面構造の測定)
評価する中空糸膜の内表面を露出させたものを試料とした。原子間力顕微鏡(AFM)E−Sweep/SPI4000(日立ハイテクサイエンス社)を用いて形態観察を行った。観察モードはDFMモード、スキャナーは20μm Scanner、カンチレバーはDF−3、観測視野は2μm四方とした。装置付属のソフトウェア(SPIWin Version 4.17F7)を用い、平坦化処理を施した。また、FFT像も同ソフトウェアを用いて、平坦化処理を施したAFM像から作成した。平坦化処理は、2次傾き補正とY方向のフラット処理を実施し、観察像に最適な平坦化処理を行う必要がある。得られたFFT像をjpeg像に変換し、画像解析計測ソフトウェアWinROOF2013(mitani corporation)を用いて画像解析を行った。取り込んだ画像を2値化処理(表色系:RGB、R:しきい値0〜170、G:しきい値0〜170、B:しきい値0〜170)を行い、得られた画像より自動計測により凹部の長径と凹部の短径を計測し、アスペクト比を算出した(
図1、
図2)。最大、最小を含む5点計測し、平均長径および平均短径とした。
アスペクト比=凹部の平均長径/凹部の平均短径
【0048】
(中空糸膜構造の観察)
中空糸膜を軽く水洗して付着しているグリセリンを除去した。水に濡れたままの中空糸膜を速やかに液体窒素中に浸漬して凍結させた後、液体窒素から取り出した。断面観察用のサンプルは凍結状態で折り曲げて切断した。得られたサンプルを試料台に固定し、カーボン蒸着を行った。蒸着後のサンプルについて走査型電子顕微鏡(日立製S−2500)を用いて加速電圧5kV、倍率3,000倍にて観察を行った。
【0049】
(実施例1)
セルローストリアセテート(6%粘度=162mPa・s、ダイセル化学工業社)17.3質量%、NMP(三菱化学社)57.89質量%およびTEG(三井化学社)24.81質量%を均一に溶解して紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液を2重管ノズルのスリット部より1.80cc/minで吐出し、同時に芯液としてRO水を中心孔より2.18cc/minで吐出した。2重管ノズルは、スリット外径270μm、スリット内径200μmのものを使用した。紡糸原液側は、熱媒を65℃に設定し、芯液側は、冷媒を10℃に設定した。ノズルから吐出された紡糸原液は25mmの空走部を通過させた後、NMP/TEG/水=54.6/23.4/22からなる43℃の凝固液中に導いて固化させた。固化した中空糸膜を57.0m/minの速度で引出し、引き続き水洗、グリセリン付着処理後、乾燥して巻き取った。なお、水洗およびグリセリン付着処理工程においては極力延伸がかからないよう配慮した。得られた中空糸膜を束にしてケースに挿入し、両端をポリウレタン樹脂で接着固定した後、樹脂の一部を切削し、中空糸膜両端が開口したモジュールを作製した。評価結果を表1、2にまとめた。
【0050】
(実施例2)
凝固液中からの引出し速度を55.0m/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0051】
(実施例3)
凝固液中からの引出し速度を59.0m/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0052】
(実施例4)
芯液の吐出量を2.08cc/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0053】
(実施例5)
芯液の吐出量を2.30cc/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0054】
(実施例6)
紡糸原液の吐出量を1.88cc/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0055】
(実施例7)
紡糸原液の吐出量を1.70cc/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0056】
(比較例1)
芯液の吐出量を2.40cc/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0057】
(比較例2)
芯液の吐出量を2.00cc/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0058】
(比較例3)
凝固液中からの引出し速度を62.0m/minとした以外は、比較例1と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0059】
(比較例4)
凝固液中からの引出し速度を53.0m/minとした以外は、比較例2と同様にして中空糸膜を製造し、モジュールを作製した。
【0060】
(比較例5)
セルローストリアセテート19.0質量%、NMP68.85質量%およびTEG12.15質量%を均一に溶解して紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液を2重管ノズルのスリット部より芯液として予め脱気処理した水とともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された、空中走行部を通過後、NMP/TEG/水=59.5/10.5/30からなる44℃の凝固液中に導いて固化させた。引き続き、95℃の水洗工程を延伸5%で10秒通過させた後、95℃、88質量%のグリセリン浴を延伸3%で3秒通過させ、ドライヤーで乾燥した。得られた中空糸膜を用いて、実施例1と同様にしてモジュールを作製した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表2から明らかなように、実施例1〜7の中空糸膜はいずれも、膜内表面へのタンパク吸着量が低く抑えられているだけでなく、ろ過安定性に優れている(ΔTMPが小さい)ので、通常の血液透析だけでなく高負荷条件である後希釈型の血液透析ろ過条件においても高効率に血液浄化を行うことが可能である。これに対して、比較例1、3の中空糸膜は、中空糸膜内表面のアスペクト比が大きいため、ろ過安定性が低く、血液透析ろ過には不向きである。また、比較例2、4の中空糸膜は、中空糸膜内表面のアスペクト比が小さいため、タンパク吸着量が多い問題がある。さらに、比較例5の中空糸膜は、水洗工程およびグリセリン付着工程での延伸が大きいためか、中空糸膜内表面のアスペクト比が大きいだけでなく、降伏強度と破断伸度のバランスが好ましい範囲を外れている。そのため、膜表面へのタンパク吸着量が多く、ろ過安定性も低い結果となった。