(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、第1層と第2層を含み、厚みが1mm以下の繊維強化プラスチック成形体である。繊維強化プラスチック成形体の第1層は、少なくとも強化繊維と、限界酸素指数が30以上の第1の樹脂を含み、繊維強化プラスチック成形体の第2層は、少なくとも強化繊維と、限界酸素指数が30以上の第1の樹脂と、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含む。また、第1層が、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含む場合は、第2層に含まれる第2の樹脂の含有率は、第1層に含まれる第2の樹脂の含有率よりも高い。さらに、第2層の厚みは、繊維強化プラスチック成形体の厚みの1/3以下である。
【0016】
図1は、本発明の繊維強化プラスチック成形体の構成を表す断面図である。
図1に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体1は、第1層10と、第2層12を有する。本発明の繊維強化プラスチック成形体1は、第1層10と、第2層12からなる2層成形体であることが好ましいが、第1層10と第2層12の間や、第1層10の面上であって、第2層12が設けられている側とは反対側に他の層が設けられていてもよい。なお、第2層12の面上には、第2層に含まれる第2の樹脂を含有する層を設けると、該層と第2層との接着性が向上するため好ましい。
【0017】
第2層の面上に第2層に含まれる第2の樹脂を含有する層を設ける場合、本発明の繊維強化プラスチック成形体をセットし、そこに射出成形機で第2の樹脂を流し込んで貼合してもよい。また、ダイコーターで第2の層上に第2の樹脂を塗工してもよい。さらに、繊維強化プラスチック成形体の第2層上にアウトサート成形部材を付着固定させ一体化させた成形体(アウトサート成形体ともいう)としてもよい。
【0018】
(アウトサート成形体)
図2は、アウトサート成形体20の構成を表す断面図である。
図2に示されているように、アウトサート成形体20は、繊維強化プラスチック成形体とアウトサート成形部材22を有し、繊維強化プラスチック成形体は、第1層10と第2層12を有することが好ましい。また、アウトサート成形体20においては、アウトサート成形部材22を繊維強化プラスチック成形体の第2層12上に付着固定させることが好ましい。アウトサート成形部材22は、第2層12の面上の一部に成形されることが好ましく、第2層12の少なくとも一部は露出した状態となる。
【0019】
アウトサート成形部材は、繊維強化プラスチック成形体の第2層上にアウトサート射出成形法によって成形されることが好ましい。
【0020】
アウトサート成形部材は、射出用強化繊維と射出用熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。ここで、繊維強化プラスチック成形体の第2層に含まれる熱可塑性樹脂と射出用熱可塑性樹脂の少なくとも一部は同種の樹脂であることが好ましい。さらに、第2層に含まれる限界酸素指数が27以下の第2の樹脂と、射出用熱可塑性樹脂の少なくとも一部が同種であることがより好ましい。例えば、第2層に含まれる第2の樹脂がポリカーボネートである場合、射出用熱可塑性樹脂はポリカーボネートを含むことが好ましい。このような樹脂を含むことにより、第2層に含まれる第2の樹脂と射出用熱可塑性樹脂が相溶するため、アウトサート成形部材と繊維強化プラスチック成形体の接合性を良好なものとすることができる。
【0021】
近年、スーパーエンプラ樹脂等を含む繊維強化プラスチック成形体が多用されており、アウトサート成形部材にも繊維強化プラスチックが使用されるようになってきている。しかし、繊維強化プラスチック成形体がスーパーエンプラ樹脂を含む場合、アウトサート成形部材に同種のスーパーエンプラ樹脂を用いないと良好な接着性が得られない場合がある。一方で、繊維強化プラスチック成形体がスーパーエンプラ樹脂を含む場合に、良好な接着性を得るために、アウトサート成形部材にスーパーエンプラ樹脂を含有させると、アウトサート成形部材を加工するために特別な設備が必要となり、コストがかかるという問題があった。
しかし、本発明では、繊維強化プラスチック成形体に第2層を設け、この第2層に限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含有させることにより、アウトサート成形部材にスーパーエンプラ樹脂を用いずにアウトサート成形部材を成形することができる。このような場合、アウトサート成形部材を加工するために特別な設備も必要にならず、効率よく、アウトサート成形体を成形することができる。
【0022】
射出用強化繊維としては、繊維強化プラスチック成形体に用いることができる強化繊維を例示することができる。また、射出用熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を例示することができ、第2の樹脂を好ましい樹脂として例示することができる。
【0023】
アウトサート成形部材は、複雑な形状、かつ微細な構造とすることができる。このため、アウトサート成形体は、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケースなどの電気、電子機器部品に好ましく用いられる。
【0024】
(繊維強化プラスチック成形体の構成)
本発明の繊維強化プラスチック成形体1は、第1層10と第2層12を含む多層成形体であるが、各層間の境界面は明確に設けられていなくてもよい。例えば、第1層と第2層の樹脂が相溶した状態で層を構成していてもよい。このような場合、第2層の厚みの測定は、以下のような方法を例示することができる。
【0025】
<測定方法>
(1.第2の樹脂の含有率が高い部分の存在する面の特定)
まず繊維強化プラスチック成形体の両表面の不純物等を除去するために、繊維強化プラスチック成形体の両表面を層の厚み方向に、各々3〜5μm削る。
次いで、繊維強化プラスチック成形体の両表面をATR法を用いてFT−IR分析を行い、両表面の赤外線吸収スペクトルを求める。そして、第2の樹脂に特有のピークで、第1の樹脂には存しないピークのうち、最も吸収強度の強いピークをひとつ選定する。ここで第2の樹脂であるか否か、すなわち限界酸素指数が27以下であるか否かは、市販のFT−IRスペクトルのデータベースに照らし合わせて樹脂の種類を特定すれば、公知文献からその樹脂の限界酸素指数を調査することで判断できる。市販のFT−IRスペクトルのデータベースとしてはサーモサイエンティフィック社 FT−IR and RamanSpectral Librariesや、Aldrich FT−IR Collection Editionなどが例示されるが、これに限定されるものではない。そして、第2の樹脂に特有のピークの吸収強度(以下、absorbance(x)という)が高い方を第2層側の面とし、その面の第2の樹脂に特有のピークの吸収強度をabsorbance(1)とする。
なお、繊維強化プラスチック成形体が第1層と第2層以外に表面層等を有する場合は、第1層と第2層を露出させるために、表面層を削り取ることで表面層の除去を行う。第1層と第2層の両表面の露出は、光学顕微鏡で強化繊維の露出の有無によって確認でき、光学顕微鏡で強化繊維が観察されるまで表面層を3〜5μmずつ削り取る。
【0026】
(2.第2の樹脂の含有率が高い部分が存する面の厚さの測定)
第2層側の面を4〜6μm削り取り、露出した面について同様にabsorbance(2)を求める。これを繰り返し、求めたabsorbance(x)(xは1〜n)がabsorbance(1)の50%以上の領域までを第2層とし、50%未満の領域を第1層とする。また、50%未満となった時までに削り取られた支持層の厚さの合計を、第2層の厚さとする。
【0027】
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、厚みが1mm以下と薄く、限界酸素指数が27以下の樹脂を含有するにも関わらず、難燃性が十分に高いという特徴を有している。
通常、繊維強化プラスチック成形体の厚みは薄くなるほど難燃性が低下する傾向にある。また、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂は、難燃性が低いため、繊維強化プラスチック成形体に含有させると、十分な難燃性を維持することができなかった。
しかし、本発明では、厚みが所定以下の第2層に限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を偏在させることによって、厚みが1mm以下の繊維強化プラスチック成形体に、限界酸素指数が27以下の樹脂を含有させても十分な難燃性を得ることに成功した。すなわち、本発明は、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含有した場合であっても繊維強化プラスチック成形体全体の難燃性を維持し得たものである。
【0028】
第1層が、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含む場合は、第2層に含まれる第2の樹脂の含有率は、第1層に含まれる第2の樹脂の含有率よりも高い。なお、第1層が、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含まない場合においても、当然に第2層に含まれる第2の樹脂の含有率は、第1層に含まれる第2の樹脂の含有率よりも高くなる。具体的には、第2層中に含まれる第2の樹脂の含有量は、第2層の全質量に対して10〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましく、10〜30質量%であることがよりさらに好ましく、15〜30質量%であることが特に好ましい。第2の樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の難燃性をより効果的に高めることができる。
【0029】
第1層は、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を第1層の全質量に対して10質量%未満含むことが好ましい。なお、第1層は、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を8質量%以下含むことがより好ましく、第2の樹脂を含まなくてもよい。
【0030】
本発明の繊維強化プラスチック成形体において、第2層の厚みは、繊維強化プラスチック成形体の厚みの1/3以下であればよく、1/4以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。第2層の厚みを上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の難燃性をより効果的に高めることができる。
【0031】
上記の構成を採用することで、本発明の繊維強化プラスチック成形体は厚みが1mm以下、或いは0.7mm以下、更には0.5mm以下であっても十分な難燃性を得ることができる。本発明の繊維強化プラスチック成形体の厚みは、0.2〜0.7mmであることが好ましい。
【0032】
限界酸素指数が27以下の第2の樹脂は、少なくとも第2層に含まれる。ここで、繊維強化プラスチック成形体全体の中に含まれる限界酸素指数が27以下の第2の樹脂の含有量は繊維強化プラスチック成形体の全質量に対して、5〜60質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、5〜15質量%であることがさらに好ましい。第2の樹脂が第1層と第2層の両方に含まれる場合、両方の層に含まれる第2の樹脂の合計質量が上記範囲内であることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられる第1の樹脂の限界酸素指数は30以上であればよく、32以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましい。また、本発明に用いられる第2の樹脂の限界酸素指数は27以下であればよい。
【0034】
(繊維強化プラスチック成形体の成形方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、後述する繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形することにより成形される。繊維強化プラスチック成形体用基材は、目的とする形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。繊維強化プラスチック成形体は、繊維強化プラスチック成形体用基材を、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱した金型によって加熱加圧成形することで成形される。このように、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、一般的な繊維強化プラスチック成形体用基材の加熱加圧成形方法を用いて加工される。
【0035】
繊維強化プラスチック成形体用基材から繊維強化プラスチック成形体を成形する際には、具体的には、繊維強化プラスチック成形体用基材を150〜600℃の温度で加熱加圧成形することが好ましい。なお、加熱温度は、熱可塑性樹脂繊維が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
【0036】
繊維強化プラスチック成形体を成形する際の圧力としては、5〜20MPaが好ましい。また、所望の保持温度に到達するまでの昇温速度は3〜20℃/分が好ましく、所望の熱プレス温度での保持時間としては1〜30分、その後、成形体を取り出す温度(200℃以下)までは圧力を維持しながら、3〜20℃/分の冷却速度とするのが好ましい。さらに、生産効率はやや落ちるものの、熱プレスの保持温度から熱可塑性樹脂のガラス転移温度までは空冷でゆっくりと0.1〜3℃/分で冷却することも、強度向上の観点からは好ましい。また、急速加熱、急速冷却(ヒートアンドクール)成形を用いて熱プレス成形することも可能であり、その場合の昇温、冷却速度はそれぞれ30〜500℃/分である。更に、赤外線ヒーターによる場合は、温度として150〜600℃、好ましくは200〜500℃で1〜30分間加熱し、その後30〜150MPaの圧力で成形することができる。
【0037】
(繊維強化プラスチック成形体用基材)
本発明は、上述した繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用基材に関するものでもある。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、第1層と第2層を有し、第2層の厚みは繊維強化プラスチック成形体の厚みに1/3以下である。このような構成を有する繊維強化プラスチック成形体を成形するために、本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、第1層用不織布と、第2層用不織布を有する。第1層用不織布は、少なくとも強化繊維と、限界酸素指数が30以上の第1の樹脂とを含み、第2層用不織布は、少なくとも強化繊維と、限界酸素指数が30以上の第1の樹脂と、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂とを含む。また、第1層用不織布が、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含む場合は、第2層用不織布に含まれる第2の樹脂の含有率は、第1層用不織布に含まれる第2の樹脂の含有率よりも高い。さらに、第1層用不織布の目付け(g/m
2)をA1とし、第1層用不織布の真密度(g/cm
3)をQ1とし、第2層用不織布の目付け(g/m
2)をA2とし、第2層用不織布の真密度(g/cm
3)をQ2とし、繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度(g/cm
3)をQAとした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
(A2×QA/Q2)×3<A1+A2 式(1)
式(1)において、QA=(A2×Q2+A1×Q1)/(A1+A2)である。
【0038】
ここで、各不織布及び繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度(g/cm
3)とは、空孔を含まない固体そのものの密度であり、理論密度と言われるものである。真密度は、各不織布や繊維強化プラスチック成形体用基材を構成する繊維そのものの真密度と、その質量比(%)から求めることができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度は、下記計算式で算出することができる。
繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度=(強化繊維の真密度×質量比%)+(熱可塑性樹脂の真密度×質量比%)+(バインダーの真密度×質量比%)
【0039】
また、繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度は、上記方法以外に、ピクノメーター法(液相置換法)や気相置換法を用いて求めてもよい。
ピクノメーター法(液相置換法)はJIS R 1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠した方法で、エタノール水溶液、ブタノール等の液に繊維強化プラスチック成形体用基材を漬け、アルキメデスの原理で、体積を測定する方法である。繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度は、繊維強化プラスチック成形体用基材の重さを上記の方法で測定した体積で除すことによって算出することができる。
また、気相置換法は、JIS R 1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠した方法で、ヘリウムガス等で置換して、体積を測定する方法である。繊維強化プラスチック成形体用基材の真密度は、繊維強化プラスチック成形体用基材の重さを上記の方法で測定した体積で除すことによって算出することができる。
【0040】
第1層用不織布が、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含む場合は、第2層用不織布に含まれる第2の樹脂の含有率は、第1層用不織布に含まれる第2の樹脂の含有率よりも高い。なお、第1層用不織布が、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を含まない場合においても、当然に第2層用不織布に含まれる第2の樹脂の含有率は、第1層用不織布に含まれる第2の樹脂の含有率よりも高くなる。具体的には、第2層用不織布中に含まれる第2の樹脂の含有量は、第2層用不織布の全質量に対して10〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましく、10〜30質量%であることがよりさらに好ましく、15〜30質量%であることが特に好ましい。
【0041】
第1層用不織布は、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を第1層用不織布の全質量に対して10質量%未満含むことが好ましい。なお、第1層用不織布は、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂を8質量%以下含むことがより好ましく、第2の樹脂を含まなくてもよい。
【0042】
限界酸素指数が27以下の第2の樹脂は、少なくとも第2層用不織布に含まれるものである。ここで、繊維強化プラスチック成形体用基材全体の中に含まれる限界酸素指数が27以下の第2の樹脂の含有量は繊維強化プラスチック成形体用基材の全質量に対して、5〜60質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、5〜15質量%であることがさらに好ましい。第2の樹脂が第1層用不織布と第2層用不織布の両方に含まれる場合、両方の不織布に含まれる第2の樹脂の合計質量が上記範囲内であることが好ましい。
【0043】
本発明に用いられる第1の樹脂の限界酸素指数は30以上であればよく、32以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましい。また、本発明に用いられる第2の樹脂の限界酸素指数は27以下であればよい。
【0044】
(熱可塑性樹脂)
本発明で用いる限界酸素指数が30以上の第1の樹脂と、限界酸素指数が27以下の第2の樹脂は熱可塑性樹脂である。繊維強化プラスチック成形体用基材においては、熱可塑性樹脂は繊維状(熱可塑性繊維)であることが好ましい。熱可塑性繊維は、加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を形成する。このような熱可塑性繊維を用いることによって、繊維強化プラスチック成形体用基材を加工する際の加熱加圧成形時間を短縮することができ、繊維強化プラスチック成形体の生産性を高めることができる。
【0045】
限界酸素指数が30以上の第1の樹脂としては、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を例示することができる。なお、ポリエーテルイミドの限界酸素指数(LOI)は47であり、ポリエーテルエーテルケトンの限界酸素指数(LOI)は43であり、ポリエーテルケトンケトンの限界酸素指数(LOI)は
47であり、ポリフェニレンサルファイドの限界酸素指数(LOI)は33である。中でも、第1の樹脂は、ポリエーテルイミド及びポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0046】
限界酸素指数が27以下の第2の樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)等を例示することができる。これらの樹脂は用途に応じて選択することができる。なお、ポリカーボネートの限界酸素指数(LOI)は26であり、アクリルの限界酸素指数(LOI)は19であり、ポリエチレンの限界酸素指数(LOI)は17であり、ポリプロピレンの限界酸素指数(LOI)は18であり、ポリエステルの限界酸素指数(LOI)は18であり、ポリアミドの限界酸素指数(LOI)は24である。中でも、耐衝撃性の面から、第2の樹脂は、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリアミドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ポリアミドとしては、強度の面からナイロン6を好ましく例示できる。また、湿式抄紙法においては、ポリエチレンテレフタレートと変性ポリエチレンテレフタレートの芯鞘バインダー繊維が好ましく用いられる。
【0047】
本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。なお、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。
【0048】
第1の樹脂及び第2の樹脂のASTM E−662に記載の方法で測定した20分燃焼時の発煙量は30ds前後であることが好ましい。発煙量を上記範囲とすることにより、発煙量が少ない繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0049】
第1の樹脂及び第2の樹脂のガラス転移温度は、140℃以上であることが好ましい。第1の樹脂及び第2の樹脂には、繊維強化プラスチック成形体を形成する際に300℃から400℃というような温度条件下で十分に流動的であることが求められる。なお、PPS樹脂のようにガラス転移温度が140℃未満の第1の樹脂(スーパーエンプラ樹脂)であっても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となるスーパーエンプラを繊維化したものであれば使用可能である。
【0050】
繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる第1の樹脂及び第2の樹脂は、熱可塑性繊維であることが好ましく、この場合の繊維長は、2〜100mmであることが好ましく、2〜50mmであることがより好ましく、5〜50mmであることがさらに好ましく、5〜40mmであることがよりさらに好ましく、10〜25mmであることが特に好ましい。熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から熱可塑性繊維が脱落することを抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。また、熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性繊維の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
【0051】
本発明で用いられる繊維強化プラスチック成形体用基材では、熱可塑性繊維が繊維形態をしていることによりシート中に空隙が存在している。
本発明では、熱可塑性繊維が加熱加圧成形前には、繊維形態を維持しているため、繊維強化プラスチック成形体を形成する前は、シート自体がしなやかでドレープ性がある。このため、繊維強化プラスチック成形体用基材を巻き取りの形態で保管・輸送することが可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
【0052】
(強化繊維)
強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの強化繊維は、1種のみを使用してもよく、複数種を使用してもよい。また、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
【0053】
強化繊維として、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を使用した場合、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる熱可塑性繊維の溶融温度で加熱加圧処理することにより繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。
また、強化繊維として、アラミド繊維等の高耐熱性・高強度の有機繊維を使用した場合は、高度な平滑性の要求される精密な研磨用の機器に適する繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。アラミド等の有機繊維を強化繊維として含有する繊維強化プラスチック成形体用基材から形成される繊維強化プラスチック成形体は、一般的に強化繊維として無機繊維を使用した繊維強化プラスチック成形体用基材から形成される成形体よりも耐摩耗性に優れる。また、擦過等によって繊維強化プラスチック成形体の一部が削り取られたとしても、その削り粕が無機繊維よりも柔らかいので、被研磨物を傷つけるおそれが少ない。
【0054】
強化繊維の繊維長は、6〜150mmであることが好ましく、6〜100mmであることがより好ましく、8〜60mmであることがさらに好ましい。強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から強化繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
【0055】
なお、強化繊維の繊維径は、特に限定されないが、一般的には繊維径が5〜25μm程度の繊維が好適に使用される。
【0056】
(炭素繊維)
強化繊維としては炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維に含まれる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0057】
炭素繊維の繊維長は、6〜100mmであることが好ましく、6〜50mmであることがより好ましく、8〜50mmであることがさらに好ましい。炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から炭素繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
【0058】
炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、曲げ強度が大幅に向上する。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
【0059】
炭素繊維の繊維径は特に限定されないが、好ましい範囲としては5〜20μmが好ましい。炭素繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。
【0060】
(強化繊維と熱可塑性樹脂の配合比)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体において、強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比は10:90〜80:20であることが好ましく、20:80〜70:30であることがより好ましく、30:70〜70:30であることがさらに好ましい。強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比を上記範囲内とすることにより、軽量であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0061】
(バインダー成分)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、バインダー成分をさらに含むことが好ましい。バインダー成分は、繊維強化プラスチック成形体用基材の全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、0.4〜9質量%であることがさらに好ましく、0.5〜8質量%であることが特に好ましい。バインダー成分の含有量を上記範囲内とすることにより、製造工程中の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。なお、バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなる。しかし、上記の範囲においては臭気の問題はほとんど発生せず、また繰り返しの断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
【0062】
バインダー成分としては、一般的に不織布製造に使用される、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。
【0063】
バインダー成分は、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位、エチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。中でも、バインダー成分は、メチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位及びエチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。また、これらのモノマーは他のモノマー、例えばスチレンや酢酸ビニル、アクリルアミド等と共重合させてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を含むことを意味する。
【0064】
更に、本発明で好ましいバインダー成分として、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を変性することで融点を低下させたものであれば特に限定されないが、変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。変性ポリエチレンテレフタレートとしては、共重合ポリエチレンテレフタレート(coPET)が好ましく、例えば、ウレタン変性共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエステル樹脂は本発明の熱可塑性繊維と加熱溶融時に相溶するため、冷却後も熱や樹脂の機能を損ないにくいため、好ましく用いられる。
共重合ポリエチレンテレフタレートは、融点が140℃以下のものが好ましく、120℃以下ものがより好ましい。また、特公平1−30926号公報に記載のような変性ポリエステル樹脂を使用してもよい。変性ポリエステル樹脂の具体例として、特に、ユニチカ社製商品名「メルティ4000」(繊維全てが共重合ポリエチレンテレフタレートである繊維)が好ましく挙げられる。また、上記芯鞘構造のバインダー繊維としては、ユニチカ社製商品名「メルティ4080」や、クラレ社製商品名「N−720」等が好適に使用できる。
【0065】
本発明では、バインダー成分として用いられる樹脂は、限界酸素指数が27以下であってもよく、このような場合、バインダー成分は第2の樹脂として繊維強化プラスチック成形体に存在することとなる。一般にバインダー成分として用いられる樹脂は限界酸素指数が低い。しかし、バインダーのエマルジョン液(アクリル樹脂等)又は水溶液(PVA等)をスプレー若しくはディッピングにより付与し、ヤンキードライヤー等を用いて片面を急速乾燥することで、バインダーを表層領域に偏在させることができる。このように、バインダー成分を使用することによって本発明の構成とした場合であっても、十分な難燃性の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0066】
(繊維形状)
本発明では、熱可塑性繊維と強化繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。また、バインダー繊維もチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材中で、各種繊維を均一に混合することができる。また、繊維の断面形状は円形に限定されず、楕円形等、異形断面のものも使用できる。
【0067】
(繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程は、強化繊維と、熱可塑性繊維を混合し、湿式抄紙法又は乾式抄紙法によって繊維強化プラスチック成形体用基材を形成する工程を含む。湿式抄紙法は、熱可塑性繊維、強化繊維のチョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法である。なお、繊維強化プラスチック成形体用基材を形成する工程では、強化繊維と、熱可塑性繊維に加えてバインダー成分を添加することとしてもよい。また、乾式抄紙法は、強化繊維と熱可塑性繊維を気体中で混合し、次いでネット上に捕捉してマットを得る方法である。このような方法は、エアレイドと呼ばれることもある。
【0068】
繊維強化プラスチック成形体用基材を製造する工程では、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを不織布に内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥させる工程を含むことが好ましい。すなわち、繊維強化プラスチック成形体用基材を形成する工程は、湿式抄紙法で繊維強化プラスチック成形体用基材を製造する工程と、バインダー成分を含む溶液等を不織布に内添、塗布又は含浸させる工程を含むことが好ましい。さらに、内添、塗布又は含浸後には、加熱乾燥させる工程を含む。このような工程を設けることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材の表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
【0069】
なお、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用基材に内添、塗布又は含浸させた後は、その繊維強化プラスチック成形体用基材を急速に加熱することが好ましい。このような加熱工程を設けることにより、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用基材の表層領域に移行させることができる。さらに、バインダー成分を水掻き膜状に局在させることができる。
【0070】
湿式抄紙法で繊維強化プラスチック成形体用基材を抄紙する際には、円網抄紙機、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙することが好ましい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0072】
<実施例1>
(第1層用不織布の作製)
繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製、CS815)をスラリー濃度0.5%となるように水中に投入し、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)を、炭素繊維100質量部に対して1質量部となるよう添加した。尚、エマノーン3199Vはあらかじめ0.5%濃度の水溶液となるように水に溶解して添加した。その後、古紙離解用パルパーを用いて30秒間攪拌して初期分散を行った後、スラリー濃度0.15%となるように水で希釈した(炭素繊維スラリー)。
【0073】
別容器にて、粉末のアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤である「スミフロック」の0.1%濃度水溶液を作成した。これを、上記の炭素繊維スラリーに、液全体に対して増粘剤の固形分添加量が60ppmとなるように添加した。その後、攪拌し、ほぼ完全に炭素繊維がモノフィラメント化するまで分散させた。
【0074】
次いで、太さ2.2dtex、繊維長15mmのポリエーテルイミド繊維及びPET/変性PET芯鞘バインダー繊維(クラレ社製、N720)を表2の配合比となるように計量し、スラリー濃度が10%となるように上記の炭素繊維スラリーに投入した(第1の原料スラリー)。そして、この第1の原料スラリーを連続して傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、5.5L/minの速度で抄紙し、幅50cm、坪量228.5g/m
2の第1層用不織布を得た。
【0075】
(第2層用不織布の作製)
第1層用不織布の作製手順と同様にして、0.15%濃度の炭素繊維スラリーを作成し、ポリエーテルイミド繊維、ポリカーボネート繊維及びPET/変性PET芯鞘バインダー繊維を表2の第2層の配合比となるように計量し、スラリー濃度が10%となるように上記の炭素繊維スラリーに投入した(第2の原料スラリー)。そして、この第2の原料スラリーを連続して傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、5.5L/minの速度で抄紙し、幅50cm、坪量を228g/m
2の第2層用不織布を得た。
【0076】
得られた第1層用不織布を4枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を2枚積層し、繊維強化プラスチック成形体用基材を作製した。この繊維強化プラスチック成形体用基材を、プレス圧10MPa、加熱温度300℃で5分間プレスし、70℃に冷却して繊維強化プラスチック成形体を得た。なお、繊維強化プラスチック成形体の各層の繊維の配合比は、繊維強化プラスチック成形体用基材の各層の配合比と同一である。
【0077】
<実施例2>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量203.7g/m
2の第1層用不織布を得た。
第2層用不織布の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更した。第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量147.5g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を3枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を2枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0078】
<実施例3>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量220.7g/m
2の第1層用不織布を得た。
実施例2で得られた第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量125g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を3枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を2枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0079】
<実施例4>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量198.7g/m
2の第1層用不織布を得た。
実施例2で得られた第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量225g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を3枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0080】
<実施例5>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量177.5g/m
2の第1層用不織布を得た。
第2層の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更し、第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量105g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を4枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0081】
<実施例6>
実施例5と同様にして第1層用不織布を得た。
第2層の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更し、第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量105g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を4枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0082】
<実施例7>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量253g/m
2の第1層用不織布を得た。
実施例6と同様にして第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を2枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0083】
<実施例8>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量251.5g/m
2の第1層用不織布を得た。
実施例7の第2層用不織布に用いたポリエーテルイミド繊維の配合比と、ポリカーボネート繊維の配合比を表2に示す配合比に変更した以外は実施例7と同様にして、第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を2枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0084】
<実施例9>
実施例8の第1層用不織布に用いたポリエーテルイミド繊維を、ポリフェニレンサルファイド繊維(東洋紡社製「プロコン」)36.5質量%に変更した以外は、実施例8と同様にして第1層用不織布を得た。
実施例8の第2層用不織布に用いたポリエーテルイミド繊維をポリフェニレンサルファイド繊維(東洋紡社製「プロコン」)に変更した以外は、実施例8と同様にして第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を2枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0085】
<実施例10>
実施例8と同様にして第1層用不織布を得た。
実施例8の第2層用不織布にポリカーボネート繊維を、ナイロン6繊維(東レ社製、アミラン100−3.3Tx110K C4(カット長15mm))に変更した以外は、実施例8と同様にして第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を2枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を1枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0086】
<比較例1>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量340g/m
2の第1層用不織布を得た。
第2層の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更し、第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量335g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を2枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を2枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0087】
<比較例2>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量175.75g/m
2の第1層用不織布を得た。
第2層の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更し、第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量175g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を4枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を4枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0088】
<比較例3>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量215.5g/m
2の第1層用不織布を得た。
第2層の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更し、第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量215g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を2枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を2枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0089】
<比較例4>
実施例1で得られた第1の原料スラリーの流速を調整することで坪量152g/m
2の第1層用不織布を得た。
第2層の繊維の配合比を表2に示す通りとなるように変更し、第2の原料スラリーの流速を調整することで坪量151.5g/m
2の第2層用不織布を得た。
第1層用不織布を3枚積層し、さらにその上に第2層用不織布を3枚積層し、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0090】
<評価>
(燃焼性試験)
実施例及び比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体の難燃性をUL94V試験(20mm垂直燃焼試験)により評価した。具体的には、繊維強化プラスチック成形体(幅13mm、長さ125mm、)の上端をクランプに垂直に取り付け、下端(幅方向の辺)中央に、6インチ炎を2回接炎後、繊維強化プラスチック成形体の燃焼時間を測定した。測定結果は、「各試験片の燃焼時間」とした。消火後直ちに20秒間再び接炎し除去した。上記燃焼試験を5本の繊維強化プラスチック成形体で行い、5本の合計燃焼時間を記録した。
次いで、繊維強化プラスチック成形体に接炎後、煙っている状態にある時間(グローイング時間)を測定した。
また、繊維強化プラスチック成形体がクランプの部分まで燃焼したものを「クランプまでの燃焼あり」と記載した。
さらに、繊維強化プラスチック成形体を燃焼させた際に、12インチ下に置かれた外科用脱脂綿の着火の有無を記録した。結果は、「滴下物による綿着火」の欄に記載した。
【0091】
難燃性の評価基準は下記表1の通りである。V−0が最も難燃性が高く、V−1、V−2の順に難燃性は低下する。なお、V−不適合とは、V−2の要件のいずれかを満たさない場合であり、難燃性が不十分な状態である。本発明では、実用的に、V−0〜V−2が合格レベルである。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
上記結果より、繊維強化プラスチック成形体の第2層の厚みが全体の厚みの1/3(0.33)以下である場合に、繊維強化プラスチック成形体の難燃性が高められることがわかった。通常、全体の厚みが薄いものほど難燃性は劣るが、限界酸素指数が27以下の樹脂(第2の樹脂)を所定量以上含む第2層の厚みを全体の厚みに対して小さくすることにより、難燃性が優れる成形体が得られた。このように、限界酸素指数が27以下の樹脂(第2の樹脂)を繊維強化プラスチック成形体の表層領域に偏在させることにより、繊維強化プラスチック成形体の難燃性を高めることができることがわかった。
また、実施例で得られた繊維強化プラスチック成形体においては、第1層と第2層の接着性が良好であり、全体の強度に優れた繊維強化プラスチック成形体が得られた。