(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6699997
(24)【登録日】2020年5月7日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】瓦固定用ねじ釘
(51)【国際特許分類】
E04D 1/34 20060101AFI20200518BHJP
F16B 15/06 20060101ALI20200518BHJP
F16B 25/00 20060101ALI20200518BHJP
F16B 35/04 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
E04D1/34 J
F16B15/06 A
F16B15/06 B
F16B25/00 N
F16B35/04 R
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-119273(P2015-119273)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-2624(P2017-2624A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390016322
【氏名又は名称】アマテイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(74)【代理人】
【識別番号】100069578
【弁理士】
【氏名又は名称】藤川 忠司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】野田 徹
(72)【発明者】
【氏名】狭間 貴博
【審査官】
園田 かれん
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4861575(JP,B2)
【文献】
実開昭60−054822(JP,U)
【文献】
特開2006−118175(JP,A)
【文献】
実開昭63−001909(JP,U)
【文献】
特開平09−067903(JP,A)
【文献】
特開2000−081009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/34
F16B 15/00−15/02
F16B 15/06
F16B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
瓦を桟木、下葺材及び野地板にわたって固定するための瓦固定用ねじ釘であって、
軸部と、該軸部の一端に大径に形成された頭部と、前記軸部の他端に先尖状に形成された先端部と、を備え、
前記軸部は、前記頭部の裏面直下から軸部中途部に向かって形成された螺旋状突条からなるねじ部と、ねじ部に続いて軸部中途部から先端部側に向かって形成された環状突条の群からなるリング部と、を有し、
前記リング部は、そのピッチが、前記下葺材の厚さよりも小さく形成されてなり、
前記軸部の一端に形成される前記頭部は、瓦の釘穴に挿通される軸部のねじ部が釘穴内を径方向に偏位してねじ部が釘穴内壁に接触した状態で、ねじ部中心から偏位距離の最も大きな釘穴内壁までの距離を半径とする仮想円形に対して、これよりも大きな半径の円形状頭部に形成されてなり、
前記軸部のねじ部は、瓦の釘穴内と、桟木の内部とにわたって位置する長さに形成され、前記軸部のリング部は、桟木の内部における下部から野地板を貫通する長さに形成され、
且つ、前記リング部はその外径がねじ部に続いて軸部中途部から先端部側に向かって縮径するテーパ状に形成されている瓦固定用ねじ釘。
【請求項2】
前記リング部のピッチは0.5mm以上1.9mm以下の範囲である請求項1に記載の瓦固定用ねじ釘。
【請求項3】
前記リング部のテーパ角は軸部中途部から先端部にかけて0.10度以上0.30度以下の範囲である請求項1又は2に記載の瓦固定用ねじ釘。
【請求項4】
前記リング部の環状突条の先端部側の傾斜突条面の傾斜角度が頭部側の傾斜突条面の傾斜角度よりも大きく形成されてなる請求項1〜3の何れかに記載の瓦固定用ねじ釘。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瓦を桟木、下葺材及び野地板にわたって固定するための瓦固定用ねじ釘に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋根葺きに使用される瓦は、上面から瓦に形成された釘穴を挿通して桟木、下葺材及び野地板の順に、ねじ釘を打ち込むことによって、桟木、下葺材及び野地板に固定されている。この種のねじ釘としては、ねじ釘が打ち込まれたときに、瓦の上面に係止される頭部と、瓦の釘穴に位置する円柱状のスムース部(ねじ無し部)と、桟木の内部に位置するねじ部と、下葺材及び野地板の内部に位置する抜け止め部と、を有するねじ釘が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4861575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のねじ釘では、スムース部(ねじ無し部)の長さが瓦の厚さと同一であり、ねじ部の長さが桟木の厚さと同一であり、リング部のピッチが下葺材の厚さよりも大きくなっているため、又、ねじ部一端に形成される頭部の構造に充分な配慮がなされていなかったため、ねじ釘を桟木、下葺材及び野地板に打ち込んだときに、頭部が瓦の上面に係止され、スムース部が瓦の釘穴を挿通し、ねじ部が桟木の内部を貫通し、リング部が下葺材及び野地板の内部を貫通して、瓦を固定しているが、台風等の大雨時において、瓦とこの上面に係止される頭部との間から雨水が浸入し、この雨水がねじ部の螺旋状の谷部を伝って桟木の内部を通過し、雨水がリング部と下葺材との間の僅かな隙間を伝って下葺材の内部を通過することによって、野地板に雨水が浸入する問題があった。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みて、瓦を桟木、下葺材及び野地板にわたって固定するための瓦固定用ねじ釘において、瓦の釘穴への雨水の浸入を可能なかぎり阻止すると共に、ねじ釘の引抜耐力を向上させ、野地板への雨水の浸入を確実に防止することができる瓦固定用ねじ釘を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明に係る瓦固定用ねじ釘1は、
図4に示すように、瓦11を桟木12、下葺材13及び野地板14にわたって固定するための瓦固定用ねじ釘であって、軸部3と、軸部3の一端に大径に形成された頭部2と、軸部3の他端に先尖状に形成された先端部4と、を備え、軸部3は、頭部2の裏面直下2aから軸部中途部3aに向かって形成された螺旋状突条5a1からなるねじ部5aと、ねじ部5aに続いて軸部中途部3aから先端部4側に向かって形成された環状突条5b1の群からなるリング部5bと、を有し、リング部5bのピッチP2(
図3)が下葺材13の厚さT3(
図4)よりも小さく形成されてなり、
前記軸部の一端に形成される前記頭部2は、
図5に示すように、瓦11の釘穴11aに挿通される軸部3のねじ部5aが釘穴11a内を径方向に偏位して、ねじ部5aの螺旋状突条5a1が釘穴内壁11a1に接触した状態で、ねじ部中心5aGから偏位距離の最も大きな釘穴内壁11a2までの距離を半径r1とする仮想円形に対して、これよりも大きな半径r2の円形状頭部2に形成されてなり、
前記軸部3のねじ部5aは、
図4に示すように、瓦11の釘穴11a内と、桟木12の内部とにわたって位置する長さに形成され、前記軸部3のリング部5bは桟木12の
内部における下部から野地板14を貫通する長さに形成され、
且つ、
図1に示すように、前記リング部5bはその外径が
ねじ部5aに続いて軸部中途部3a側から先端部4側に向かって縮径するテーパ状に形成された構成よりなる。
【0007】
【0008】
【0009】
請求項
2の発明は、上記請求項
1に記載の瓦固定用ねじ釘1において、リング部5bのピッチP2(
図3)は0.5mm以上1.9mm以下の範囲とした構成よりなる。
【0010】
【0011】
請求項
3の発明は、上記請求項1又は2の瓦固定用ねじ釘1において、リング部5bのテーパ角a(
図1)は軸部中途部3aから先端部4にかけて0.10度以上0.30度以下の範囲とした構成よりなる。
【0012】
請求項
4の発明は、請求項1〜
3の何れかに記載の瓦固定用ねじ釘1において、リング部5bの環状突条5b1の先端部4側の傾斜突条面5b2の傾斜角度d(
図3)が頭部2側の傾斜突条面5b3の傾斜角度eよりも大きく形成された構成よりなる。
【発明の効果】
【0013】
以下に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明すると、本発明では、リング部5bのピッチP2(
図3)が下葺材13の厚さT3(
図4)よりも小さいから、リング部5bを下葺材13の内部に貫通させたとき、2つ以上の環状突条5b1,5b1が下葺材13の内部に配置されることになるから、リング部5bと下葺材13との接触面積がさらに増加する。したがって、リング部5bと下葺材13との密着性、すなわちシール性をさらに向上させることができるから、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。
【0014】
又、本発明によれば、桟木12、下葺材13及び野地板14にわたってねじ釘1を打ち込んだときに、ねじ部5aが桟木12の内部を螺旋状突条5a1に案内されて螺旋状に回転しながら進入し、打ち込み部分に螺旋状軌跡が形成される。したがって、ねじ釘1を桟木12、下葺材13及び野地板14から引き抜く際に上記螺旋状突条5a1の抵抗を受けるため、引抜耐力を向上させることができ、瓦11を桟木12、下葺材13及び野地板14に強固に固定することができると共に、軸部3が先端部4側に形成され環状突条5b1の群からなるリング部5bを有しているため、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだときに、リング部5bが下葺材13及び野地板14の内部に進入する。したがって、ねじ釘1を桟木12、下葺材13及び野地板14から引き抜くときに、リング部5bの環状突条5b1の抵抗をも受けて、ねじ釘1の引抜耐力をさらに向上させることができる。
【0015】
又、本発明によれば、
図5に示すように、瓦11の釘穴11aに挿通される軸部3のねじ部5aが釘穴11a内を径方向に偏位して、ねじ部5aの螺旋状突条5a1が釘穴内壁11a1に接触した状態で、ねじ部中心5aGから偏位距離の最も大きな釘穴内壁11a2までの距離を半径r1とする仮想円形に対して、これよりも大きな半径r2の円形状頭部2が軸部3の一端に形成されてなるため、瓦11の釘穴11aに挿通される軸部3のねじ部5aが釘穴11a内を径方向に大きく偏位しても、軸部3の一端に形成される頭部2は常に釘穴11aの開口端を閉塞しており、これがために釘穴11a開口端から釘穴11a内に雨水が浸入するのをできるだけ防止することができる。
【0016】
又、本発明によれば、軸部3が、頭部2側に形成され螺旋状突条5a1からなるねじ部5aと、先端部4側に形成され環状突条5b1の群からなるリング部5bと、を有し、軸部3のねじ部5aは、瓦11の釘穴11a内と、桟木12の内部とにわたって位置する長さに形成され、リング部5bは桟木12の一部、下葺材13及び野地板14の全部を貫通している。すなわち、ねじ部5aは、桟木12の内部のみを貫通し、下葺材13及び野地板14の内部を貫通していない。言い換えれば、ねじ部5aは桟木12の上側部分の内部を貫通し、リング部5bは、桟木12の下側部分の内部と、下葺材13の内部の全部と、野地板14の内部の全部とを貫通している。すなわち、ねじ部5aが下葺材13及び野地板14の内部を貫通していないから、ねじ釘1の頭部2と瓦11との間の隙間から雨水が浸入したとしても、雨水がねじ部5aの螺旋状突条5a1に案内され、その谷部5a2を伝って桟木12の内部に浸入するが、ねじ部5aに続くリング部5bは軸方向に隣接して設けられた多数の環状突条5b1からなるため、雨水は環状突条5b1に阻止されて環状突条5b1間の谷部5b4に浸入することがない。したがって、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。さらに、この場合には、リング部5bは、桟木12の一部と下葺材13の内部の全部を貫通しているから、リング部5bと桟木1の一部および下葺材13との接触面積の増加によって、リング部5bと桟木1の一部および下葺材13との密着性、すなわちシール性を向上させることができる。したがって、雨水がねじ部5aの谷部5a2を伝って桟木12の内部を中途部まで通過したとしても、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。
なお且つ、本発明によれば、その外径がリング部5bは頭部2側から先端部4側に向かって縮径するテーパ状、すなわち、その外径が頭部2側から先端部4側に向かって先細り形状に形成されているから、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだときに、リング部5bが下葺材13の内部に貫通孔が徐々に広がるように打ち込まれるから、リング部5bが下葺材13の内部に隙間なく密着させてシール性を向上させ、野地板14への雨水の浸入をより確実に防止することができる。
【0017】
請求項
2の発明によれば、リング部5bのピッチP2は0.5mm以上1.9mm以下の範囲であり、下葺材13の厚さT3は、一般に、1.0mm以上4.0mm以下の範囲であり、リング部5bのピッチP2を下葺材13の厚さT3よりも小さいから、リング部5bと下葺材13との密着性、すなわちシール性をさらに向上させることができ、野地板14への雨水の浸入をさらに確実に防止することができる。この場合に2つ以上の環状突条5b1,5b1が下葺材13の内部に配置されることが好ましい。
【0018】
【0019】
請求項
3の発明によれば、リング部5bのテーパ角a(
図1)は軸部中途部3aから先端部4にかけて0.10度以上0.30度以下の範囲からなり、0.10度以下または反対に0.30度以上であれば、リング部5bが打ち込まれる下葺材13に対する密着度、すなわちシール性が不十分となり、0.10度以上0.30度以下の範囲が密着度、すなわちシール性が良好となり、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだときに、野地板14への雨水の浸入をさらに防止する効果があり、且つ、上記範囲内であれば、リング部5bのテーパ加工が容易に行なうことができ、量産に適する。
【0020】
請求項
4の発明によれば、
図3に示すように、リング部5bの環状突条5b1の先端部4側の傾斜突条面5b2の傾斜角度dが頭部2側の傾斜突条面5b3の傾斜角度eよりも大きく形成されてなるため、リング部5bを下葺材13に打ち込む際にその先端部4側の傾斜突条面5b2が下葺材13に無理なく打ち込まれることになり、リング部5bと下葺材13との間の密着性が良好となり、より有効にシール性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るねじ釘を例示する平面図である。
【
図2】同ねじ釘のねじ部のA−B間を拡大して例示する平面図である。
【
図3】同ねじ釘のリング部のC−D間を拡大して例示する平面図である。
【
図4】同ねじ釘を瓦の上面から桟木、下葺材及び野地板に打ち込んだ状態を例示し、(a)は全体を例示する縦断側面図、(b)はねじ部及びリング部のE部分を拡大して示す縦断側面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るねじ釘が瓦に打ち込まれたときのねじ釘の頭部とこれに閉塞される瓦の釘穴とねじ部との関係を平面的に表した拡大図である。
【
図6】従来技術のねじ釘が瓦に打ち込まれたときのねじ釘の頭部とこれに閉塞される瓦の釘穴とねじ部との関係を平面的に表した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るねじ釘の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
本発明に係るねじ釘1は、
図4に示すように、瓦11を桟木12、下葺材13及び野地板14に固定するための瓦固定用のねじ釘である。瓦11は、陶器製の板状部材であって、ねじ釘1が挿通される釘穴11aが形成されており、瓦11の厚さT1は、一般に、10mm以上20mm以下の範囲であって、本実施形態では、10mmである。桟木12は、米松からなる角材であって、桟木12の厚さT2は、一般に、20mm以上30mm以下の範囲であって、本実施形態では、27mmである。下葺材13は、ゴムアスファルトルーフィングからなる防水シートであって、下葺材13の厚さT3は、一般に、1.0mm以上4.0mm以下の範囲であって、本実施形態では、2mmである。野地板14は、杉からなる構造用合板等の屋根下地材であって、野地板14の厚さT4は、一般に、10mm以上30mm以下の範囲であって、本実施形態では、13mmである。本実施形態では、野地板14の上面に下葺材13を敷設固定し、下葺材13の上面に屋根の流れ方向に所定の間隔をあけて桟木12を配置固定し、桟木12の上面に瓦11を敷設した状態で、瓦11の上面に頭部2を係止させ、瓦11の釘穴11aを挿通して桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込むことによって、瓦11を桟木12、下葺材13及び野地板14に固定している。
【0024】
ねじ釘1は、
図1に示すように、軸部3と、軸部3の一端に大径に形成された頭部2と、軸部3の他端に先尖状に形成された先端部4と、を備えている。頭部2、軸部3及び先端部4は、SUS304等のステンレス合金により一体的に形成されている。
【0025】
頭部2は、
図1及び
図4に示すように、円板形状(一般に、平頭形状)であって、瓦11の上面からねじ釘1を打ち込むときにハンマー等で打撃するための部位であって、ねじ釘1を打ち込んだときに瓦11の上面に係止される部位である。
【0026】
本発明は、この頭部2の構造に一つの特徴を有するので、
図5によって詳述する。
図5は、ねじ釘1が瓦に打ち込まれたときのねじ釘1の頭部2とこれに閉塞される瓦11の釘穴11aとねじ釘1のねじ部5aとの関係を平面的に表した拡大図である。
【0027】
同様に、
図6は、従来技術のねじ釘が瓦に打ち込まれたときのねじ釘の頭部とこれに閉塞される瓦の釘穴とねじ部との関係を平面的に表した拡大図である。先ず従来技術について説明すると、ねじ釘が瓦11の釘穴11aから桟木12、下葺材13及び野地板14に打ち込まれたときに、ねじ釘の軸部20が瓦11の釘穴11aの平面視中心部に位置した状態に打ち込まれるのが好ましいが、実際には、軸部20は釘穴11aの中心部から外れ、釘穴11aの内壁11a1側に径方向に偏位して、この偏位内壁11a1に接触した状態で打ち込まれる場合がある。この軸部20が釘穴11a内で径方向に偏位すると軸部20の一端に形成されている頭部21も瓦11の釘穴11aの上面から径方向に偏位して、頭部21が釘穴11aの上面開口部11a3から離脱して、
図6に示すように、該上面開口部11a3の一部に頭部2で閉塞されない部分Pが発生し、この開口部分Pより雨水が釘穴11a内に浸入することになる。従来では、頭部2で瓦11の釘穴11aの上面開口部11a3を閉塞するという配慮はなく、該開口部分Pより雨水が釘穴11a内に浸入することはやむを得ない、釘穴11a内に浸入した雨水は下葺材13や野地板14部分で遮断すればよいという思想であった。
【0028】
これに対し、本発明は、できるだけ雨水が瓦11の釘穴11a内へ浸入するのを阻止するという思想に基づくことを特徴とし、本発明では、頭部2の構成を次のようにした。すなわち、瓦11の釘穴11aに挿通される軸部3のねじ部5aが釘穴11a内を径方向に偏位して、ねじ部5aの螺旋状突条5a1が釘穴内壁11a1に接触したときに、ねじ部中心5aGから偏位距離の最も大きなねじ部内壁11a2までの距離を半径r1とする仮想円形に対して、これよりも大きな半径r2の円形状頭部2が軸部3の一端に形成されてなるものとした。これによって、瓦11の釘穴11aに挿通される軸部3のねじ部5aが釘穴11a内を径方向に大きく偏位しても、軸部3の一端に形成される頭部2は常に釘穴11aの開口端を閉塞しており、これがために釘穴11a開口端から釘穴11a内に雨水が浸入するのを確実に防止することができるようにしたものである。一例として、瓦11の釘穴11aの内径を5mmとし、ねじ釘1のねじ部5aの外径を2.9mmとした場合に、外径が7.5mmの頭部2を軸部3の一端部に形成することによって、軸部3のねじ部5aが釘穴11a内を径方向に最大偏位しても頭部2と瓦11の釘穴11aとの間に隙間が発生することがなく、雨水の浸入を可能なかぎり阻止することができる。
【0029】
この場合、従来技術にあっては、瓦11の釘穴11aに位置する軸部3のスムース部(ねじ無し部)は桟木12等の内部に位置する軸部3のねじ部に比べて外径が小径となっているため、それだけ釘穴11a内での偏位量が多く、それにつれて頭部21の偏位量も多いから、この面からも頭部21は釘穴11aの上面開口部から大きく離脱して開口部分Pが大きく表れる傾向にあった。
【0030】
しかるに、本発明では、瓦11の釘穴11aに位置する軸部3のねじ部5aは桟木12等の内部に位置する軸部3のねじ部5aと同径であり、従来技術のスムース部(ねじ無し部)に比べて径大に形成されているから、その分だけ軸部3の釘穴11a内での偏位量が少ないから、それにつれて頭部2の偏位量も少なく釘穴11aの上面開口部11a3から離脱することがなく、雨水の浸入を阻止することができる。
【0031】
軸部3は、
図4に示すように、頭部2の裏面側に直結し隣接して形成され螺旋状突条5a1からなるねじ部5aと、ねじ部5aと先端部4との間に形成され環状突条5b1の群からなるリング部5bと、を有している。
【0032】
ねじ部5aは、
図4に示すように、瓦11の上面から桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだとき、該ねじ部5aの螺旋状突条5a1は瓦11及び桟木12の内部に位置する。ねじ部5aの螺旋状突条5a1は多条ねじであって、本実施形態では、4条ねじである。ねじ部5aのピッチP1(
図2)は1.45mmであり、ねじ部5aのリード角は45度であり、ねじ部5aのねじ山の角度cは60度である。また、ねじ部5aの外径D2(
図1)は2.9mmである。また、ねじ部5aの長さL1(
図4)は33mmで、瓦11の厚さT1よりも大きく、瓦11の厚さT1と桟木12の厚さT2との合計長さよりも小さくなっている。このため、ねじ部5aは、瓦11の釘穴11aに挿通され、桟木12の内部のみ位置し、下葺材13及び野地板14の内部を貫通しないようになっている。
【0033】
リング部5bは、
図4に示すように、瓦11の上面から桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだとき、桟木12の下側部分の内部と、下葺材13及び野地板14の内部とにリング部5bの環状突条5b1が位置する。リング部5bの環状突条5b1は、
図3に示すように、軸方向に等配された円柱状の平坦状谷部5b4の間に設けられた軸方向断面が山形の突起であって、該環状突条5b1の先端部側の傾斜突条面5b2の傾斜角度dが頭部側の傾斜突条面5b3の傾斜角度eよりも大きく形成されている。この実施例では、先端部側の傾斜突条面5b2の傾斜角度dは60度であり、頭部側の傾斜突条面5b3の傾斜角度eは30度である。すなわち、環状突条5b1の先端部側の傾斜突条面5b2の傾斜角度dが頭部側の傾斜突条面5b3の傾斜角度eよりも大きく形成されているため、リング部5bを下葺材13の内部に打ち込んだ時に生成される貫通孔の内径がリング部5bの外径よりも大きくなることがなく、リング部5bが下葺材13の内部に隙間なく密着してシール性を良好に維持し、野地板14への雨水の浸入をより確実に防止することができる。また、リング部5bのピッチP2(
図3)は、0.8mmであって、下葺材13の厚さT3(2mm)よりも小さくなっている。このため、
図4(b)に示すように、リング部5bを下葺材13の内部に貫通させたとき、2つの環状突条5b1,5b1が下葺材13の内部に配置されることになるから、リング部5bと下葺材13との接触面積がさらに増加する。これにより、リング部5bと下葺材13との密着性、すなわちシール性をさらに向上させることができるから、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。
【0034】
リング部5bの外径は、
図1から目視で判別することはできないが、その頭部2側から先端部4側に向かって縮径するテーパ角度a、すなわち、頭部2側、正確には軸部の長手方向中程3aから先端部4側に向かって微小な先細り形状に形成されている。リング部5bの頭部2側の最大外径D3(
図1)は、2.75mmであり、リング部5bの先端部4側の最小外径D4は、2.64mmで、リング部5bの長さL2(
図4)は、26.4mmである。したがって、リング部5bのテーパ角aは、0.12度である。
【0035】
また、本実施形態では、ねじ部5aは、螺旋状突条5a1のみからなり、前記特許文献所載の従来の発明のように、螺旋状突条5a1上に環状の溝部等が形成されていない。本実施形態では、螺旋状突条上に環状の溝部が形成されたねじ部を有する従来のねじ釘に比して、ねじ部5aの桟木12に対する締結力を強固にすることができるから、ねじ釘1を桟木12、下葺材13及び野地板14から引き抜く際の引抜耐力を向上させることができる。
【0036】
先端部4は、四角錐形状(一般に、角先形状)の部位であって、
図4に示すように、瓦11の上面から桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだとき、野地板14の下面側に突出する部位である。先端部4の長さL3は、5.6mmである。先端部4の先尖角bは、
図1に示すように、25度であって、先端部4の先尖角bを従来の先端部の先尖角(例えば、35度)よりも小さくすることができるから、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込みやすくなる。
【0037】
しかして、本発明によれば、上述した実施形態から示唆されるように、軸部3が頭部2側に形成され螺旋状突条5a1からなるねじ部5aを有しているため、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだときに、ねじ部5aが桟木12の内部を螺旋状に回転しながら進入し、打ち込み部分に螺旋状突起が形成され、ねじ釘1を桟木12、下葺材13及び野地板14から引き抜く際に打ち込み部分の螺旋状突起の抵抗によって引抜耐力を向上させることができ、瓦11を桟木12、下葺材13及び野地板14に強固に固定することができる。さらに、本発明によれば、軸部3が先端部4側に形成され環状突条5b1の群からなるリング部5bを有しているため、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだときに、リング部5bが下葺材13及び野地板14の内部に進入する。したがって、ねじ釘1を桟木12、下葺材13及び野地板14から引き抜くときに、リング部5bの環状突条5b1の抵抗を受け、ねじ釘1の引抜耐力をさらに向上させることができる。
【0038】
さらに、本発明によれば、軸部3が、頭部2側に形成され螺旋状突条5a1からなるねじ部5aと、先端部4側に形成され環状突条5b1の群からなるリング部5bと、を有し、軸部3のねじ部5aは、瓦11の釘穴11a内と、桟木12の内部とにわたって位置する長さに形成されてなるから、桟木12、下葺材13及び野地板14にねじ釘1を打ち込んだときに、ねじ部5aは桟木12の内部を貫通し、リング部5bは下葺材13及び野地板14の内部を貫通している。すなわち、ねじ部5aは、桟木12の内部のみを貫通し、下葺材13及び野地板14の内部を貫通していない。この場合には、ねじ部5aが下葺材13及び野地板14の内部を貫通していないから、ねじ釘1の頭部2と瓦11との間の隙間から雨水が浸入したとしても、雨水はねじ部5aの螺旋状の谷部5a2を伝って桟木12の内部に浸入するが、ねじ部5aに続くリング部5bは軸方向に隣接して設けられた多数の環状突条5b1からなるため、雨水は環状突条5b1に阻止されて環状突条5b1間の谷部5b4に浸入することがないから、雨水が下葺材13及び野地板14の内部に浸入することがない。したがって、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。さらに、リング部5bは、下葺材13の内部の全部を貫通しているから、リング部5bと下葺材13との接触面積の増加によって、リング部5bと下葺材13との密着性、すなわちシール性を向上させることができる。したがって、雨水がねじ部5aの谷部5a2を伝って桟木12の内部をその中途部まで通過したとしても、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。
【0039】
又、本発明によれば、リング部5bのピッチP2が下葺材13の厚さT3よりも小さいから、リング部5bを下葺材13の内部に貫通させたとき、2つ以上の環状突条5b1,5b1が下葺材13の内部に配置されることになるから、リング部5bと下葺材13との接触面積がさらに増加する。したがって、リング部5bと下葺材13との密着性、すなわちシール性をさらに向上させることができるから、野地板14への雨水の浸入を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ねじ釘
2 頭部
2a 頭部の裏面直下
3 軸部
3a 軸部中途部
4 先端部
5a ねじ部
5a1 螺旋状突条
5a2 谷部
5aG ねじ部中心
5b リング部
5b1 環状突条
5b2 先端部側の傾斜突条面
5b3 頭部側の傾斜突条面
5b4 谷部
11 瓦
11a 釘穴
11a1 釘穴内壁
11a2 釘穴内壁
11a3 上面開口部
12 桟木
13 下葺材
14 野地板
a リング部のテーパ角
b 先端部の先尖角
c ねじ部のねじ山の角度
d 先端部側の傾斜突条面の傾斜角
e 頭部側の傾斜突条面の傾斜角
r1 ねじ部中心から偏位距離の最も大きな釘穴内壁までの距離
r2 r1よりも大きな距離
D1 頭部の外径
D2 ねじ部の外径
D3 リング部の最大外径
D4 リング部の最小外径
L1 ねじ部の長さ
L2 リング部の長さ
L3 先端部の長さ
P 開口部分
P1 ねじ部のピッチ
P2 リング部のピッチ
T1 瓦の厚さ
T2 桟木の厚さ
T3 下葺材の厚さ
T4 野地板の厚さ