(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電動モータと、その電動モータの出力軸の回転を減速して出力するギヤ減速装置と、そのギヤ減速装置からの出力回転によって回動される回転部材の回転運動を直動部材の直線運動に変換する運動変換機構を備え、前記ギヤ減速装置が、ギヤケースおよびギヤケース内に組み込まれた平行軸式のギヤ減速機構とを有してなる電動式直動アクチュエータにおいて、
前記ギヤケースが、ベース板の片面外周部に周壁が設けられたケース本体と、そのケース本体における周壁の開口端部に溶着された蓋体とからなり、前記ベース板および蓋体のそれぞれにはギヤ減速機構のギヤと対向する位置に軸受嵌合部を設け、その軸受嵌合部にギヤを回転自在に支持する転がり軸受を組込み、前記蓋体側の軸受嵌合部に、蓋体の溶着状態で転がり軸受の内外の軌道輪の一方の軌道輪の前記蓋体側の端面を押圧する押圧段部を設け、前記ギヤに、前記転がり軸受の内外の軌道輪の他方の軌道輪の前記ギヤ側の端面を支持する段部を設けたことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
前記ベース板および蓋体のそれぞれに段付き孔を設け、その段付き孔の大径孔部を軸受嵌合部とし、前記蓋体側段付き孔の大径孔部の底部を押圧段部とした請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
前記ベース板および蓋体のそれぞれに段付き軸部を設け、その段付き軸部の小径軸部を軸受嵌合部とし、前記蓋体側段付き軸部の小径軸部の付け根の段部を押圧段部とした請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
前記ケース本体における周壁の開口端部の内周に蓋体嵌合凹部を設け、その蓋体嵌合凹部の底部にテーパ面を形成し、前記蓋体の外周には前記テーパ面に接触される環状エッジを設けて、テーパ面に環状エッジを溶着した請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動式直動アクチュエータ。
電動式直動アクチュエータによりブレーキパッドを直線駆動し、そのブレーキパッドでブレーキディスクを押圧して、そのブレーキディスクに制動力を付与するようにした電動ブレーキ装置において、
前記電動式直動アクチュエータが請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電動式直動アクチュエータからなり、その電動式直動アクチュエータの直動部材で前記ブレーキパッドを直線駆動させるようにしたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【背景技術】
【0002】
電動式ブレーキ装置におけるブレーキパッドを直線駆動する電動式直動アクチュエータとして、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。同文献1に記載された電動式直動アクチュエータにおいては、ブレーキパッド押圧用の直動部材が組み込まれたキャリパハウジングの車体側となるインナ側端部にギヤケースの一端部を接続し、そのギヤケースの他端部に支持された電動モータの出力軸としてのロータ軸の回転をギヤケース内に組み込まれたギヤ減速機構により減速し、そのギヤ減速機構の出力ギヤの回転を運動変換機構により上記直動部材の直線運動に変換して、その直動部材によりブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けるようにしている。
【0003】
ここで、ギヤケース内に組み込まれたギヤ減速機構として、電動モータの出力軸に取り付けられた入力ギヤの回転を第1アイドルギヤに伝達して一次減速し、その第1アイドルギヤと同軸上に設けられた第2アイドルギヤから出力ギヤに伝達して二次減速して出力する平行軸式のギヤ減速機構が採用されている。
【0004】
上記のような平行軸式のギヤ減速機構においては、ギヤを円滑に回転させるため、ギヤの両端部を転がり軸受により回転自在に支持しているが、その転がり軸受に軸受すき間が存在すると、ギヤが振れ回り、振動や騒音が発生し、円滑にトルク伝達することができなくなる。
【0005】
上記のような不都合は、転がり軸受に予圧を付与することによって解消することができる。ここで、ギヤを回転自在に支持する転がり軸受に予圧を付与する方法として、コイルばねや皿ばね等の弾性部材を用いて予圧を付与する方法が知られている。
【0006】
また、特許文献2に記載されているように、ギヤハウジングに形成されたねじ孔にねじ部材をねじ係合し、そのねじ部材のねじ込みにより転がり軸受の外輪を押圧して予圧を付与する方法も従来から知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、弾性部材やねじ部材を用いて転がり軸受に予圧を付与する方法においては、部品点数が多くなってコスト的に不利であると共に、ギヤ減速装置の組立てにも手間がかかり、しかも、弾性部材を組み込むスペースを確保する必要があるため、装置が大型化する不都合がある。
【0009】
この発明の課題は、ギヤ減速装置のギヤを回転自在に支持する転がり軸受に対して部品点数を増やすことなく予圧を付与できるようにしたコスト的に有利な小型化を可能とする電動式直動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明に係る電動式直動アクチュエータにおいては、電動モータと、その電動モータの出力軸の回転を減速して出力するギヤ減速装置と、そのギヤ減速装置からの出力回転によって回動される回転部材の回転運動を直動部材の直線運動に変換する運動変換機構を備え、前記ギヤ減速装置が、ギヤケースおよびギヤケース内に組み込まれた平行軸式のギヤ減速機構とを有してなる電動式直動アクチュエータにおいて、前記ギヤケースが、ベース板の片面外周部に周壁が設けられたケース本体と、そのケース本体における周壁の開口端部に溶着された蓋体とからなり、前記ベース板および蓋体のそれぞれにはギヤ減速機構のギヤと対向する位置に軸受嵌合部を設け、その軸受嵌合部にギヤを回転自在に支持する転がり軸受を組込み、前記蓋体側の軸受嵌合部に、蓋体の溶着状態で転がり軸受の内外の軌道輪の一方を押圧する押圧段部を設けた構成を採用したのである。
【0011】
上記のように、蓋体に設けられた軸受嵌合部に、蓋体の溶着状態で転がり軸受の内外の軌道輪の一方を押圧する押圧段部を設けたことにより、加圧しつつ超音波振動を付与して蓋体を溶着する超音波溶着でもって蓋体を固着することで押圧段部が転がり軸受の内外の軌道輪の一方を押圧して転がり軸受に予圧を付与することになる。
【0012】
ここで、ベース板および蓋体のそれぞれに段付き孔を設け、その段付き孔の大径孔部を軸受嵌合部とし、蓋体側段付き孔の大径孔部の底部を押圧段部としてもよく、あるいは、ベース板および蓋体のそれぞれに段付き軸部を設け、その段付き軸部の小径軸部を軸受嵌合部とし、蓋体側段付き軸部の小径軸部の付け根の段部を押圧段部としてもよい。
【0013】
この発明に係る電動式直動アクチュエータにおいては、上記のように、超音波溶着によってケース本体と蓋体を溶着するため、ケース本体および蓋体のそれぞれを樹脂で形成する。この場合、ケース本体の周壁における開口端部の内周に蓋体が嵌合可能な蓋体嵌合凹部を設け、その蓋体嵌合凹部の底部にテーパ面を形成し、蓋体の外周には上記テーパ面に接触される環状エッジを設け、その環状エッジとテーパ面の接触部を溶着するのがよい。環状エッジとテーパ面の接触部を溶着することにより、蓋体を効果的に超音波溶着することができる。
【0014】
この発明に係る電動ブレーキ装置においては、電動式直動アクチュエータによりブレーキパッドを直線駆動し、そのブレーキパッドでブレーキディスクを押圧して、そのブレーキディスクに制動力を付与するようにした電動ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータとして、この発明に係る上述の電動式直動アクチュエータを採用し、その電動式直動アクチュエータの直動部材で前記ブレーキパッドを直線駆動させる構成とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明においては、上記のように、蓋体に設けられた軸受嵌合部に蓋体の溶着状態で転がり軸受の内外の軌道輪の一方を押圧する押圧段部を設けたことにより、ギヤを回転自在に支持する転がり軸受の組込み状態でケース本体に蓋体を超音波溶着することで転がり軸受に予圧を付与することができ、部品点数を増やすことなく転がり軸受に予圧を付与することができる。
【0016】
また、弾性部材やねじ部材等の予圧付与部品の組込みを不要とし得るため、コストの低減を図ることができると共にギヤ減速装置の組立ての容易化を図ることができ、しかも、予圧付与部品の組込みスペースを確保する必要がないため、ギヤ減速装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1および
図3に示すように、電動ブレーキ装置は、図示省略した車輪と一体に回転するブレーキディスク10と、そのブレーキディスク10の外周囲に設けられたキャリパ11を有する。
【0019】
キャリパ11は、ブレーキディスク10のインナ側に配置される筒状のキャリパハウジング12のアウタ側の端部にブレーキディスク10のアウタ側面の外周部と軸方向で対向する爪部13を設けた構成とされ、上記爪部13によってアウタ側ブレーキパッド14が支持されている。なお、電動ブレーキ装置を車体に取り付けた状態で車体内側をインナ側といい、車体側面側をアウタ側という。
【0020】
ブレーキディスク10のインナ側面の外周部にはインナ側ブレーキパッド15が対向配置され、そのインナ側ブレーキパッド15はキャリパハウジング12に設けられた電動式直動アクチュエータ20によってブレーキディスク10に向けて移動される。
【0021】
ブレーキディスク10のインナ側面の外周部にはマウント16が設けられている。マウント16は図示省略したナックルに固定され、
図3に示すように、その両側部に設けられた対向一対のピン支持片17のそれぞれにブレーキディスク10に対して直交方向に延びるスライドピン18が設けられ、そのスライドピン18のそれぞれによってキャリパ11がスライド自在に支持されている。
【0022】
また、マウント16は、図では詳細に示されていないが、アウタ側ブレーキパッド14およびインナ側ブレーキパッド15のそれぞれを回転不能(回り止め)とする状態でブレーキディスク10に向けて移動可能に支持している。
【0023】
図1に示すように、電動式直動アクチュエータ20は、ハウジングとしてのキャリパハウジング12内に組み込まれた直動部材としての外輪部材21を有する。外輪部材21は円筒状をなし、アウタ側端部の開口はキャップ22の取り付けによって閉塞されている。また、外輪部材21は、キャリパハウジング12によって軸方向にスライド自在に支持されており、後述するようにインナ側ブレーキパッド15に対して回り止めされている。
【0024】
図2に示すように、キャリパハウジング12内には、外輪部材21のインナ側端部より内側に軸支持部材23が組込まれている。軸支持部材23は円盤状をなし、その中央部には外輪部材21側に張り出すボス部23aが設けられている。
【0025】
キャリパハウジング12の車体側となるインナ側端部には内向きフランジ24が設けられ、その内向きフランジ24によって軸支持部材23がキャリパハウジング12のインナ側端部から抜け出るのが防止されている。
【0026】
軸支持部材23のボス部23a内には一対の転がり軸受25が軸方向に間隔をおいて組込まれ、その転がり軸受25によって外輪部材21の軸心上に配置された回転部材としての回転軸26が回転自在に支持されている。
【0027】
図2に示すように、キャリパハウジング12のインナ側の端部には、回転軸26を駆動する回転駆動装置30が設けられている。回転駆動装置30は、電動モータ31と、その電動モータ31の出力軸32の回転を減速して出力するギヤ減速装置33とからなる。
【0028】
図2及び
図3に示すように、ギヤ減速装置33は、ギヤケース34と、そのギヤケース34内に収容されたギヤ減速機構45からなる。ギヤケース34は、ベース板36の片面外周部に周壁37が設けられたケース本体35と、そのケース本体35における周壁37の端部開口を閉塞する蓋体38とからなり、その蓋体38およびケース本体35のいずれも樹脂からなる。
【0029】
ケース本体35におけるベース板36には、周壁37に対する背面側にインロー用突出部39が設けられ、そのインロー用突出部39がキャリパハウジング12のインナ側端部に設けられた前述の内向きフランジ24内に嵌合されている。その嵌合によってベース板36の一端部がキャリパハウジング12のインナ側端部の開口端面に衝合され、その開口端面にねじ込まれるボルト40の締め付けによってキャリパハウジング12のインナ側端部にベース板36の一端部が固定されている。
【0030】
図5および
図6に示すように、ケース本体35における周壁37の開口端部の内周には蓋体嵌合凹部41が設けられ、その蓋体嵌合凹部41の底部にはテーパ面42が設けられている。一方、蓋体38の片面外周部には嵌合突出部43が設けられ、その嵌合突出部43がケース本体35の蓋体嵌合凹部41に嵌合されて、嵌合突出部43における端面外周の環状エッジ44がテーパ面42に衝合され、そのエッジ接触部が超音波溶着により溶着されてケース本体35と一体化されている。
図6の鎖線イは、溶着前の環状エッジを示す。
【0031】
ここで、
図9は、超音波溶着機100を示す。この超音波溶着機100は、加圧ユニット101、発信器102、および振動子103を有し、上記加圧ユニット101により振動子103を同図の矢印で示す方向に加圧しつつ発信器102と振動子103によって発生した超音波振動をホーンと呼称される共振体104を介してケース本体35の蓋体嵌合凹部41(
図5参照)に嵌合された蓋体38に付与して、嵌合突出部43における端面の環状エッジ44とテーパ面42のエッジ接触部を溶着させるようにしている。105は、ケース本体35を支持する治具を示す。
【0032】
図2に示すように、ケース本体35におけるベース板36の他端部はキャリパハウジング12の側方に張り出し、そのベース板36の他端部に電動モータ31が取り付けられて出力軸32がギヤケース34内に臨んでいる。
【0033】
ギヤ減速機構45は、
図2及び
図3に示すように、電動モータ31の出力軸32に取り付けられた入力ギヤ46と、その入力ギヤ46に噛合する第1アイドルギヤ47と、その第1アイドルギヤ47と同軸上に設けられて一体に回転する第2アイドルギヤ48と、その第2アイドルギヤ48に噛合する出力ギヤ49とを有してなり、各ギヤの回転軸心が平行の配置とされた平行軸式ギヤ減速機構からなる。
【0034】
図5に示すように、第1アイドルギヤ47および第2アイドルギヤ48はケース本体35のベース板36と蓋体38に両端部が支持されたギヤ軸50に軸受93を介して回転自在に支持されている。
【0035】
出力ギヤ49は、両側方に張り出す一対のボス部51、52を軸心上に有し、ベース板36に向けて張り出す一方のボス部51の端部には小径軸部51aが設けられ、その小径軸部51aに嵌合された転がり軸受53および他方のボス部52に嵌合された転がり軸受54によって出力ギヤ49が回転自在に支持されている。
【0036】
ここで、小径軸部51aに嵌合された転がり軸受53の内方軌道輪53aは、小径軸部51aの付け根に設けられた肩部55と小径軸部51aの軸端部に取り付けられた止め輪56によって軸方向に位置決めされている。また、転がり軸受53の外方軌道輪53bは、ケース本体35のベース板36に設けられたボス挿入孔57内に組み込まれている。
【0037】
ボス挿入孔57は出力ギヤ49と対向する側を大径孔部57aとする貫通状の段付き孔からなり、その大径孔部57aが軸受嵌合部とされ、その軸受嵌合部57aに転がり軸受53の外方軌道輪53bが嵌合されて、軸受嵌合部57aの底部で外方軌道輪53bが抜止め支持されている。
【0038】
一方、ボス部52に嵌合された転がり軸受54の内方軌道輪54aは、
図7に示すように、ボス部52の付け根部に形成された段部58とボス部52の端部に取り付けられた止め輪59によって軸方向に位置決めされている。また、転がり軸受54の外方軌道輪54bは、蓋体38の内側面に設けられた筒部60内に組み込まれている。
【0039】
筒部60には、出力ギヤ49と対向する側を大径孔部61aとする段付き孔61が設けられ、上記大径孔部61aが軸受嵌合部とされ、その軸受嵌合部61aに転がり軸受54の外方軌道輪54bが嵌合されている。また、軸受嵌合部61aの底部は押圧段部62とされている。この押圧段部62は、ケース本体35に蓋体38を超音波溶着する蓋体38の溶着時に外方軌道輪54bを軸方向に押圧して、出力ギヤ49を回転自在に支持する一対の転がり軸受53、54に予圧を付与している。
【0040】
図2に示すように、回転軸26のインナ側端部はギヤケース34内に臨み、そのインナ側の端部に出力ギヤ49がセレーション嵌合されて回り止めされている。
【0041】
図1に示すように、回転軸26と外輪部材21の相互間には、出力ギヤ49から回転軸26への回転運動を外輪部材21の軸方向への直線運動に変換する運動変換機構70が設けられている。
【0042】
図2および
図4に示すように、運動変換機構70は、外輪部材21と回転軸26との間に組み込まれた遊星ローラ71の外周に外輪部材21の内周に設けられた螺旋突条72に噛合する複数の円周溝73を螺旋突条72と同一ピッチで軸方向に等間隔に形成し、上記回転軸26の回転により、その回転軸26との摩擦接触により遊星ローラ71を自転させつつ公転させて外輪部材21を軸方向に移動させるようにしている。なお、円周溝73に代えて、螺旋突条72と同一のピッチでリード角が相違する螺旋溝を設けるようにしてもよい。
【0043】
ここで、遊星ローラ71は、回転軸26を中心にして回転自在に支持されたキャリア74によって回転自在に支持されている。キャリア74は軸方向で対向する一対のディスク74a、74bを有し、一方のディスク74aの片面外周部には他方のディスク74bに向けて複数の間隔調整部材74cが周方向に間隔をおいて設けられ、その間隔調整部材74cの端面にねじ込まれるねじ75の締付けによって一対のディスク74a、74bが互いに連結されている。
【0044】
図2に示すように、一対のディスク74a、74bのそれぞれは、回転軸26との間に組込まれたすべり軸受76によって回転自在に支持されており、アウタ側ディスク74aを回転自在に支持するすべり軸受76は回転軸26の軸端部に嵌合したワッシャ77および回転軸26の軸端部に取付けた止め輪78によって抜止めされている。
【0045】
また、一対のディスク74a、74bのそれぞれには、軸方向で対向する一対の長孔からなる軸挿入孔79が周方向に間隔をおいて設けられ、その対向一対の軸挿入孔79により両端部がスライド自在に支持された複数のローラ軸80のそれぞれによって遊星ローラ71が回転自在に支持されている。
【0046】
複数のローラ軸80の両端部は、ディスク74a、74bを貫通し、そのディスク74a、74bの外側面から外部に位置する端部外周にリング溝80aが形成され、そのリング溝80aの溝底面に外接するようにして弾性リング81が組付けられている。弾性リング81は拡径した状態での組み付けとされ、その復元弾性により複数のローラ軸80のそれぞれを径方向内方に付勢して、遊星ローラ71を回転軸26の外径面に押し付けている。
【0047】
キャリア74におけるインナ側ディスク74bと遊星ローラ71の軸方向の対向部間には、遊星ローラ71側から順に、スラスト軸受82、加圧座板83および受圧座板84が組み込まれ、加圧座板83と受圧座板84は球面座85を介して接触している。また、受圧座板84とローラ軸80の嵌合面間には隙間が設けられ、その隙間の範囲内においてローラ軸80と加圧座板83は調心自在とされている。
【0048】
また、キャリア74におけるインナ側ディスク74bと回転軸26を回転自在に支持する前述の軸支持部材23間にはバックアッププレート86とスラスト軸受87とが組み込まれ、外輪部材21から遊星ローラ71を介してキャリア74に負荷される軸方向の反力を上記スラスト軸受87で支持するようになっている。
【0049】
図1に示すように、キャリパハウジング12のアウタ側開口部は、外輪部材21のアウタ側端部との間に組み込んだベローズ88によって閉塞されている。
【0050】
外輪部材21のアウタ側端部の開口を閉塞する前述のキャップ22における先端面には回り止め溝89が形成され、その回り止め溝89にインナ側ブレーキパッド15のパッドホルダ90に設けられた回り止め突起91が係合し、その係合によって外輪部材21はインナ側ブレーキパッド15に対して回り止めされている。
【0051】
ここで、パッドホルダ90はマウント16によって軸方向に移動可能に支持され、かつ、回り止めされているため、外輪部材21はキャリパハウジング12に対して回り止めされて、軸方向には移動可能な支持とされている。
【0052】
実施の形態で示す電動ブレーキ装置は上記の構成からなり、
図1は、ブレーキディスク10に対する制動力の解除状態を示し、一対のブレーキパッド14、15はブレーキディスク10に対して離反している。
【0053】
上記のような制動力の解除状態において、
図2に示す電動モータ31を駆動すると、その電動モータ31の出力軸32の回転がギヤ減速機構45により減速されて、
図1および
図2に示す回転軸26に伝達され、回転軸26が制動方向に回転する。
【0054】
回転軸26の外径面には、複数の遊星ローラ71のそれぞれ外径面が弾性接触しているため、上記回転軸26の回転により遊星ローラ71が回転軸26との接触摩擦により自転しつつ公転する。
【0055】
このとき、遊星ローラ71の外径面に形成された円周溝73は外輪部材21の内径面に設けられた螺旋突条72に噛合しているため、その円周溝73と螺旋突条72の噛合によって外輪部材21が軸方向に移動し、その外輪部材21に当接されたインナ側ブレーキパッド15がブレーキディスク10に当接して、そのブレーキディスク10を軸方向に押圧し始める。その押圧力の反力により爪部13に支持されたアウタ側ブレーキパッド14がブレーキディスク10に接近する方向に向けてキャリパ11が移動し、アウタ側ブレーキパッド14がブレーキディスク10に当接して、そのアウタ側ブレーキパッド14がインナ側ブレーキパッド15とでブレーキディスク10の外周部を軸方向両側から強く挟持し、ブレーキディスク10に制動力が負荷される。
【0056】
上記のような制動力の付与時、外輪部材21から遊星ローラ71に軸方向荷重が負荷される。その軸方向荷重の入力部位は、外輪部材21の内径面に設けられた螺旋突条72と遊星ローラ71の外径面に形成された円周溝73の係合部であるため、遊星ローラ71には偏荷重が負荷されることになる。
【0057】
このとき、遊星ローラ71とキャリア74のインナ側ディスク74b間には加圧座板83と受圧座板84が組み込まれ、その両座板73、74の対向面に球面座85が設けられているため、上記のように、遊星ローラ71に偏荷重が負荷されると、加圧座板83が球面座85に接触案内される状態で傾動し、加圧座板83と受圧座板84の接触部で周方向の面圧分布の均一化が図られることになる。
【0058】
このため、スラスト軸受82には、周方向の全体にわたって同じ大きさの軸方向荷重が負荷されることになり、軌道面や転動体が偏摩耗するという不都合の発生はない。
【0059】
ブレーキディスク10の制動後、
図2に示す電動モータ31の出力軸32を逆回転させると、
図1に示す回転軸26が前述と逆方向に減速回転され、自転しつつ公転する遊星ローラ71の円周溝73と螺旋突条72の噛合によって外輪部材21が後退動し、アウタ側ブレーキパッド14およびインナ側ブレーキパッド15がブレーキディスク10の挟持を解除し、制動力の解除状態とされる。
【0060】
実施の形態においては、
図5および
図7に示すように、蓋体38に設けられた軸受嵌合部61aに、蓋体38の溶着状態で転がり軸受54の外方軌道輪54bを押圧する押圧段部62を設けているため、出力ギヤ49を回転自在に支持する転がり軸受54の組込み状態でケース本体35に蓋体38を超音波溶着することで転がり軸受53、54に予圧を付与することができる。
【0061】
このため、出力ギヤ49は振れ回りすることなく円滑に回転し、振動や騒音を発生させることがない。
【0062】
また、弾性部材やねじ部材等の予圧付与部品の組込みを不要する状態で転がり軸受53,54に予圧を付与することができるため、コストの低減を図ることができると共にギヤ減速装置33の組立ての容易化を図ることができ、しかも、予圧付与部品の組込みスペースを確保する必要がないため、小型のギヤ減速装置33を得ることができる。
【0063】
図5においては、ケース本体35に蓋体38を超音波溶着する溶着時、蓋体38に設けられた軸受嵌合部61aの底部の押圧段部62で転がり軸受54の外方軌道輪54bを軸方向に押圧して、転がり軸受53、54のそれぞれに予圧を付与する出力ギヤ49の軸受装置を示したが、軸受装置はこれに限定されるものではない。
【0064】
図8は、出力ギヤ49の軸受装置の他の例を示す。この例においては、出力ギヤ49の両側面に側方に張り出す一対の筒状ボス部63、64を設け、そのボス部63、64の開口端部に大径孔部63a、64aを形成して、各大径孔部63a、64aに転がり軸受53、54を嵌合し、その転がり軸受53、54の外方軌道輪53b、54bを大径孔部63a、64aの底部と開口端部の内周に取り付けた止め輪65で軸方向に位置決めしている。
【0065】
また、ケース本体35のベース板36と蓋体38のそれぞれに段付き軸部66、67を設け、その段付き軸部66、67の先端の小径軸部66a、67aを軸受嵌合部とし、その軸受嵌合部66a、67aに転がり軸受53、54の内方軌道輪53a、54aを嵌合して小径軸部66a、67aの付け根に設けられた段部68、69で内方軌道輪53a、54aを支持し、上記蓋体38側の小径軸部(軸受嵌合部)67aの段部69を押圧段部とし、その押圧段部69で、蓋体38を超音波溶着する溶着時に内方軌道輪54aを軸方向に押圧して、転がり軸受53、54のそれぞれに予圧を付与している。
【0066】
図8に示す軸受装置においても、弾性部材やねじ部材等の予圧付与部品の組込みを不要する状態で転がり軸受53,54に予圧を付与することができる。