特許第6700510号(P6700510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6700510
(24)【登録日】2020年5月8日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】灌流培養装置及び遠心分離機
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20200518BHJP
   C12M 1/10 20060101ALI20200518BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12M1/10
   C12M3/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-248966(P2018-248966)
(22)【出願日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年6月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 陽一
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−252558(JP,A)
【文献】 特開2015−142883(JP,A)
【文献】 特表2015−513445(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/141394(WO,A1)
【文献】 特開平5−76344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽から送液された培養液を遠心分離する遠心分離槽と、
前記遠心分離槽から、前記培養液の遠心分離上清を排出させる排出機構と、
を有し、
前記遠心分離槽は、円筒状の内壁面を備えるとともに、前記内壁面の中心軸線を中心に回転することにより前記培養液を遠心分離させるように構成され
_前記遠心分離槽が回転して前記培養液が前記内壁面に押し付けられて筒状になりながら遠心分離した状態で、前記排出機構の吸引管の開口を前記培養液の液面に近接させて前記開口から前記遠心分離槽内の空気を吸引することにより、前記培養液の液面から前記遠心分離上清を吸引して前記空気とともに前記遠心分離槽外に排出させる灌流培養装置。
【請求項2】
請求項1に記載の灌流培養装置において、
前記培養液の遠心分離処理を、前記培養液を前記遠心分離槽に送液しながら行う灌流培養装置。
【請求項3】
請求項1に記載の灌流培養装置において、
前記培養液の遠心分離処理を、前記培養液の前記遠心分離槽への送液を停止した状態で行う灌流培養装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の灌流培養装置において、
無菌エアを導入可能に構成された、前記遠心分離槽を収納する筐体をさらに有する灌流培養装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の灌流培養装置において、
前記吸引管は、前記開口と前記内壁面との間隔を調整可能に構成されている灌流培養装置。
【請求項6】
請求項5に記載の灌流培養装置において、
前記吸引管は、前記空気を吸引しながら前記開口を前記内壁面に向かって移動させることが可能に構成されている灌流培養装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の灌流培養装置において、
前記回転槽から、前記培養液の残留物を回収する回収機構をさらに有する灌流培養装置。
【請求項8】
処理液を遠心分離処理する遠心分離槽と、
前記遠心分離槽から、前記処理液の遠心分離上清を排出させる排出機構と、
を有し、
前記遠心分離槽は、円筒状の内壁面を備えるとともに、前記内壁面の中心軸線を中心に回転することにより前記処理液を遠心分離するように構成され
_前記遠心分離槽が回転して前記処理液が前記内壁面に押し付けられて筒状になりながら遠心分離した状態で、前記排出機構の吸引管の開口を前記処理液の液面に近接させて前記開口から前記遠心分離槽内の空気を吸引することにより、前記処理液の液面から前記遠心分離上清を吸引して前記空気とともに前記遠心分離槽外に排出させる遠心分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌流培養装置、特に、遠心分離を利用した灌流培養装置、及び、遠心分離機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬や食品などの分野では、目的物の生産に細胞の培養技術が利用されることがあり、培養液中の細胞の密度を高めることができれば、目的物の生産効率を高めることができる。
ところで、細胞の培養工程では、細胞は種々の代謝物を生成するため、これが細胞の増殖阻害や物質生産阻害の原因になり、細胞の培養効率を低下させることがあった。
これを解消して細胞の高密度培養を実現する技術として、培養槽から培養液を取り出して、濾過膜や遠心力を利用して代謝物を分離するとともに、取り出された細胞を培養槽に戻し、新鮮な培養液を加える灌流培養手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52−114085号公報
【特許文献2】特開昭63−252558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞の分離に濾過膜を利用する場合、濾過膜の目詰まりを起こす可能性があるため、長期の培養に利用するにあたってはこれを防止する工夫が必要になる。また、細胞の分離に遠心力を利用する場合、装置を簡素化することが難しかった。
【0005】
本発明の目的の一つは、長期の培養に利用することが可能で、かつ、機構が単純で取扱いが容易な灌流培養装置、及び、遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る灌流培養装置は、
培養槽から送液された培養液を遠心分離する遠心分離槽と、
前記遠心分離槽から、前記培養液の遠心分離上清を排出させる排出機構と、
を有し、
前記遠心分離槽は、円筒状の内壁面を備えるとともに、前記内壁面の中心軸線を中心に回転することにより前記培養液を遠心分離させるように構成され、
前記排出機構は、遠心分離処理中の前記培養液よりも前記中心軸線側に配置されて前記内壁面と対向する第一端部と、前記遠心分離槽外に配置される第二端部とを備えた吸引管を含み、
前記遠心分離槽が回転して前記培養液が遠心分離した状態で、前記吸引管の前記第一端部から前記遠心分離槽内の空気を吸引することにより、前記空気とともに前記培養液の遠心分離上清を前記第二端部から排出させる。
【0007】
この発明によると、遠心分離上清を容易に排出することが可能で、かつ、機構が単純で取扱いが容易な灌流培養装置を提供することができる。
【0008】
(2)この灌流培養装置において、
前記培養液の遠心分離処理を、前記培養液を前記遠心分離槽に送液しながら行ってもよい。
【0009】
(3)この灌流培養装置において、
前記培養液の遠心分離処理を、前記培養液の前記遠心分離槽への送液を停止した状態で行ってもよい。
【0010】
(4)この灌流培養装置において、
無菌エアを導入可能に構成された、前記遠心分離槽を収納する筐体をさらに有していてもよい。
【0011】
(5)この灌流培養装置において、
前記吸引管は、前記第一端部と前記内壁面との間隔を調整可能に構成されていてもよい。
【0012】
(6)この灌流培養装置において、
前記吸引管は、前記空気を吸引しながら前記第一端部を前記内壁面に向かって移動させることが可能に構成されていてもよい。
【0013】
(7)この灌流培養装置において、
前記回転槽から、前記培養液の残留物を回収する回収機構をさらに有してもよい。
【0014】
(8)本発明に係る遠心分離機は、
処理液を遠心分離処理する遠心分離槽と、
前記遠心分離槽から、前記処理液の遠心分離上清を排出させる排出機構と、
を有し、
前記遠心分離槽は、円筒状の内壁面を備えるとともに、前記内壁面の中心軸線を中心に回転することにより前記処理液を遠心分離するように構成され、
前記排出機構は、遠心分離処理中の前記処理液よりも前記中心軸線側に配置されて前記内壁面と対向する第一端部と、前記遠心分離槽外に配置される第二端部とを備えた吸引管を含み、
前記遠心分離槽が回転して前記処理液が遠心分離した状態で、前記吸引管の前記第一端部から前記遠心分離槽内の空気を吸引することにより、前記空気とともに前記処理液の遠心分離上清を前記第二端部から排出させる。
【0015】
この発明によると、遠心分離上清を容易に排出することが可能で、かつ、機構が単純で取扱いが容易な遠心分離機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る灌流培養装置について説明するための図。
図2】本実施の形態に係る灌流培養工程について説明するための図。
図3】変形例に係る灌流培養装置について説明するための図。
図4】変形例に係る灌流培養装置について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施の形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。すなわち、以下の実施の形態で説明するすべての構成が本発明にとって必須であるとは限らない。また、本発明は、以下の内容を自由に組み合わせたものを含む。
【0018】
(1)灌流培養装置1の構成
はじめに、図1を参照して、本発明を適用した実施の形態に係る灌流培養装置1の構成について説明する。灌流培養装置1は、培養液中で、種々の細胞(例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、微生物、細菌等)を培養する装置として構成される。
【0019】
本実施の形態に係る灌流培養装置1は、培養槽10を有する。培養槽10は、培養対象となる細胞が分散された培養液Wを保持する部材で、培養液Wを所望の状態に維持するための種々の機構を備える。培養槽10で培養液Wの状態を調整することにより、培養液W中で細胞が適切に培養され、目的物の生成が可能になる。
培養槽10は、特に図示しないが、培養工程を適切に制御するための種々の機構(付帯設備)を備えた構成とすることが可能である。例えば、培養液Wの状態(溶存酸素やpH、温度など)を計測する計測装置や、培養の進捗度を計測する計測装置(細胞密度やグルコース濃度などの計測装置)、培養液Wの状態を調整するための調整機構、培養液W(新鮮な液体培地)や栄養素などを供給する供給機構、培養液Wを抜き出すサンプリング機構などの設備(付帯設備)を備えた構成とすることができる。
【0020】
本実施の形態に係る灌流培養装置1は、送液手段20を有する。送液手段20は、培養槽10内の培養液Wを、遠心分離槽30に送液する役割を果たす。
送液手段20は、送液管22を有する。送液管22は、培養槽10内に配置される第一端部24と、遠心分離槽30内に配置される第二端部26とを有する。送液手段20は、また、ポンプ28を有する。ポンプ28によって、培養槽10内の培養液Wを、送液管22を介して、遠心分離槽30に送液することができる。なお、本実施の形態に適用可能なポンプは特に限定されるものではないが、細胞にダメージを与えないポンプを選定することが好ましい。また、変形例として、ポンプ28に代えて、培養槽10の内圧を高めることにより、培養液Wを培養槽10から遠心分離槽30に送液することも可能である。
【0021】
本実施の形態に係る灌流培養装置1は、遠心分離槽30を有する。遠心分離槽30は、培養槽10から送液された培養液Wを遠心分離処理して、遠心分離上清と沈殿物に分離する役割を果たす。遠心分離槽30は、円筒形となった内壁面32を有し、内壁面32の中心軸線Lを中心に回転可能に構成される。遠心分離槽30が内壁面32の中心軸線Lを中心に回転することにより、遠心分離槽30に収納された培養液Wは内壁面32に押し付けられ、筒状になりながら遠心分離される。
遠心分離槽30は、つば部34を有する。つば部34は、中央が開口した円板状の部材で、遠心分離槽30の上端に配置される。つば部34によって、内壁面32に押し付けられた培養液Wが、遠心分離槽30からこぼれ出ることを防止することができる。なお、遠心分離槽30は、その内壁面32にバッフルを有する構成とすることも可能である(図示せず)。バッフルによって、培養液Wの周方向への移動が規制されるため、効率よく遠心分離処理を行うことができる。
本実施の形態では、遠心分離槽30は、筐体40内に配置される。具体的には、遠心分離槽30は、筐体40内で、回転可能な態様で保持される。例えば、筐体40の底面に設けられた軸体42を、遠心分離槽30の底面に設けられた凹部に挿入し、図示しないベアリングを介して両者を取り付けることにより、遠心分離槽30を回転可能とすることができる。
筐体40は、無菌エアを導入することが可能に構成されている。例えば筐体40は、フィルタ44を介して、その内部に無菌エアを導入することが可能な構成とすることができる。なお、本実施の形態では、フィルタ44を、逆止弁を介して筐体40に取り付けることも可能である。これにより、筐体40の内圧を高めて、遠心分離槽30に保持された培養液W(遠心分離処理の残留物)を、培養槽10に返送することが可能になる。
【0022】
本実施の形態に係る灌流培養装置1は、駆動機構50を有する。駆動機構50は、遠心分離槽30を回転駆動する役割を果たす。駆動機構50は、磁石52と、磁石52を保持する保持体54とを有する。磁石52を、遠心分離槽30の底部に設けられた磁石36と対向させ、モータ56で保持体54を回転させることにより、遠心分離槽30を、磁石52(保持体54)と伴回りさせることができる。
【0023】
本実施の形態に係る灌流培養装置1は、排出機構60を有する。排出機構60は、遠心分離槽30から、培養液W(培養液Wの遠心分離上清)を排出させる役割を果たす。排出機構60は、吸引管62を通して、培養液Wを遠心分離槽30から排出させる。
吸引管62は、第一端部64を有する。第一端部64(その開口)は、遠心分離処理中の培養液Wよりも中心軸線L側に配置されて内壁面32と対向する。言い換えると、吸引管62は、第一端部64と内壁面32との間隔が、内壁面32に押し付けられて筒状になった培養液Wの厚みよりも大きくなるように配置されている。これによると、第一端部64が培養液Wと接触することを防止でき、遠心分離槽30内で培養液Wが遠心分離された状態を維持することが可能になるとともに、培養液Wの遠心分離上清と第一端部64とを近接させることが可能になる。
なお、第一端部64は、上視図において凸曲面になるように構成することができる。これによると、第一端部64と培養液Wの液面との間隔を調整することができ、効率よく培養液W(遠心分離上清)を吸引することが可能になる。特に、第一端部64は、上視図において培養液Wの液面に沿った形状になるように構成することが可能である(図示せず)。
また、灌流培養装置1では、第一端部64は、遠心分離槽30の上端近傍に(つば部34に隣接するように)配置されている。ただし本発明はこれに限られるものではなく、第一端部64は、処理対象や手順などに合わせて、遠心分離槽30の底面近傍から上端近傍のいずれかの位置に配置することができる。
【0024】
吸引管62は、第二端部66を有する。第二端部66は、遠心分離槽30の外部に配置され、第一端部64から吸引された空気及び培養液Wは、第二端部66から排出される。本実施の形態では、第二端部66は、ポット68内に配置される。ポット68は、吸引管62を介して、筐体40と気密に接続することができる。
【0025】
排出機構60は、ポンプ70を有する。ポンプ70は、第一端部64から第二端部66へ、培養液W(遠心分離上清)を送液する役割を果たす。本実施の形態では、ポンプ70は、ポット68内を陰圧にするように(ポット68の空気を吸引するように)構成されている。これにより、遠心分離槽30内の空気が第一端部64から吸引され、該空気とともに、培養液Wの遠心分離上清が第二端部66から排出される。なお、本実施の形態に適用可能なポンプの種類は特に限定されないが、例えば、既に公知となっているいずれかの真空ポンプを利用することができる。
なお、本実施の形態では、吸引管62を培養液Wの液面に近接させた状態(接触しない状態)で、培養液Wの液面から遠心分離上清が吸引されるように、排出機構60の吸引量(単位時間当たりの吸引量)を設定する。これにより、培養液Wの遠心分離状態を乱すことなく、培養液Wの遠心分離上清を排出することが可能になる。なお、「吸引量」とは、単位時間当たりに吸引する流体の量(体積)を指す。すなわち、ここで設定された体積の流体(空気)が、単位時間当たりに、ポンプ70によって吸引され、遠心分離槽30から排出されることになる。
【0026】
本実施の形態では、灌流培養装置1を、遠心分離槽30から培養液W(培養液Wの遠心分離残留物)を回収するための回収機構を備えた構成とすることができる。本実施の形態では、回収機構は、残留物を回収して培養槽10に返送する返送機構として実現されている。具体的には、灌流培養装置1は、一端が遠心分離槽30の底面近傍に配置され、他端が培養槽10内に配置された返送管72を有する。これにより、例えば筐体40の内圧を高めることで、返送管72を通じて遠心分離槽30から培養槽10に培養液W(培養液Wの遠心分離残留物)を返送することが可能になる。
なお、筐体40の内圧を高める方法は特に限定されるものではないが、ポンプ70を利用してポット68内に無菌エアを導入することにより、筐体40の内圧を高めることが可能になる。また、返送管72の他端を、培養槽10ではなく別の回収容器に接続することも可能である。
【0027】
灌流培養装置1は、その他の種々の機器を備えた構成とすることができる。例えば灌流培養装置1は、その動作を統括制御する制御装置や、外部機器との通信を行う通信機器、記録装置などの機器を備えた構成とすることができる。
【0028】
(2)灌流培養工程
次に、本発明を適用した実施の形態に係る灌流培養工程について、図2を参照して説明する。
【0029】
本実施の形態に係る灌流培養工程は、培養槽10内で、培養液Wに分散された細胞を培養する工程を含む(ステップS100)。本工程は、培養槽10に培養液Wを供給するとともに細胞を播種し、培養液Wの状態を所望の状態に維持することによって実現することができる。具体的には、本工程は、培養槽10内の培養液Wの温度や溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、pH、細胞密度、などが所望の値になるように、各種の付帯設備を制御することにより実現することができる。また、本工程は、培養液W(新鮮な液体培地)を供給しながら行うことも可能である。これにより、後述する培養液Wの分離工程などで培養槽10から培養液Wが排出された場合でも、適切な培養液Wの量を維持することが可能になる。なお、本工程は、灌流培養工程の終了条件を満たすまで継続される。
【0030】
本実施の形態に係る灌流培養工程は、灌流培養処理の終了条件を満たすか否かの判定を行う工程を含む(ステップS110)。
すなわち、本実施の形態に係る灌流培養工程は、灌流培養処理の終了条件を満たすまで(ステップS110でYesになるまで)、培養槽10内で培養液Wに分散された細胞を培養する工程を継続し、以下の、培養液Wの遠心分離工程(ステップS120)、培養液Wの排出工程(ステップS130)、培養液Wの返送工程(ステップS140)を行う。
なお、培養工程の終了条件の判定には、種々の情報を利用することができる。例えば、培養開始からの経過時間や、後述する遠心分離工程・返送工程の回数、培養液Wの状態(培養液W中の細胞や生産物の量や密度)など、目的とする培養に合致した指標を選択することができる。
【0031】
本実施の形態に係る灌流培養工程は、培養液Wを遠心分離処理する工程を含む(ステップS120)。具体的には、遠心分離槽30を所定の速度で回転させて、培養槽10から送液された培養液Wを遠心分離処理する。すなわち、培養槽10から送液されて遠心分離槽30に保持された培養液Wは、遠心分離槽30内で遠心力を受けて内壁面32に押し付けられ、筒状となる。ここで、遠心分離槽30内で内壁面32に押し付けられた培養液Wは、遠心力の影響を受けて比重の小さい成分は回転中心側に、比重の大きい成分は内壁面32側に移動する。細胞培養の分野においては、一般的に、細胞は比重が大きい成分に分類されることから、培養液Wの遠心分離処理により、細胞は内壁面32側に、その他の成分(細胞の代謝物などであって、必要に応じて「遠心分離上清」と呼ぶ)は回転中心側に集まることになる。
なお、培養液Wの遠心分離処理は、培養槽10から遠心分離槽30に培養液Wを供給しながら行ってもよく、培養液Wの供給を止めてから行ってもよい。
また、本工程における遠心分離槽30の回転速度は特に限られるものではなく、処理対象に応じて設定することができる。また、遠心分離槽30の回転速度は、常に一定に維持してもよく、処理中に変更することも可能である。
【0032】
本実施の形態に係る灌流培養工程は、培養液W(培養液Wの遠心分離上清)を遠心分離槽30から排出させる工程を含む(ステップS130)。本工程は、遠心分離槽30を所定の速度で回転させながら、吸引管62の第一端部64から遠心分離槽30内の空気を吸引することによって実現することができる。すなわち、灌流培養装置1によると、吸引管62の第一端部64は、遠心分離状態の培養液Wよりも中心軸線L側に配置され、内壁面32(培養液W)と対向している。この状態で第一端部64から必要十分な量の空気を吸引することにより、第一端部64近傍の培養液Wを空気とともに吸引し、第二端部66から排出させることが可能になる。ところで、上記の通り、培養液Wは遠心分離槽30内で遠心分離され、遠心分離上清が回転中心側(第一端部64近傍)に集まることから、吸引管62の第一端部64からは、培養液Wの遠心分離上清が吸引されることになり、細胞などの比重の大きい成分は遠心分離槽30内に残留することになる。また、必要に応じて細胞を含んだ上清を吸引し、細胞密度を調整することも可能である。
なお、培養液Wを遠心分離槽30から排出させる工程は、培養液Wを遠心分離槽30に供給しながら行ってもよく、培養液Wの供給を止めてから行ってもよい。本工程を、培養液Wを遠心分離槽30に供給しながら行う場合、培養液Wが遠心分離槽30からあふれないように、排出機構60の吸引量を、培養液Wの供給速度よりも十分大きくすることが好ましい。
また、培養液Wを遠心分離槽30から排出させる工程は、遠心分離槽30の回転速度やポンプ70の吸引速度を一定にしたまま行ってもよく、これらを途中で変更させてもよい。
そして、所定の終了条件を満たすことを確認して、培養液Wの排出工程を終了する。なお、終了条件は特に限定されるものではないが、例えば処理時間や、排出量に応じて排出工程を終了することができる。
【0033】
本実施の形態に係る灌流培養工程は、遠心分離槽30に残留した残留物を回収し、培養槽10に返送する工程を含む(ステップS140)。本工程は、遠心分離槽30の回転を停止させて残留物を遠心分離槽30の底部に落下させた後、ポンプ70でポット68に無菌エアを供給することによって実現することができる。すなわち、ポット68に無菌エアを供給して筐体40の内圧を高めることにより、返送管72を通して、遠心分離槽30に残留した残留物を培養槽10に送ることが可能になる。
【0034】
そして、培養槽10内で細胞を培養する工程(ステップS100)を継続しながら、培養液Wの遠心分離工程(ステップS120)、培養液Wの排出工程(ステップS130)、培養液Wの返送工程(ステップS140)を繰返し、灌流培養工程の終了条件を満たしたときに(ステップS110でYes)、細胞培養工程を終了し(ステップS150)、灌流培養工程を終了する。
なお、培養液Wの返送工程(ステップS140)は、培養液Wの遠心分離工程(ステップS120)、及び、培養液Wの排出工程(ステップS130)を行うたびに実施してもよいが、培養液Wの遠心分離工程(ステップS120)及び培養液Wの排出工程(ステップS130)を複数回行った後に実施することも可能である。
【0035】
(3)作用効果
本実施の形態によると、遠心分離槽30内で遠心分離された培養液Wを、遠心分離槽30の回転中心側から、空気とともに吸引して排出させる。これによると、吸引管62(第一端部64)を、遠心分離状態にある培養液Wの液面と接触させることなく(すなわち、吸引管62で培養液Wの遠心分離状態を乱すことなく)、培養液Wの遠心分離上清を排出させることが可能になる。すなわち、本実施の形態によると、遠心分離上清を容易に排出することが可能で、かつ、構成が単純で取扱いが容易な灌流培養装置を提供することができる。
【0036】
(4)変形例
次に、図3を参照して、本実施の形態の変形例について説明する。
本実施の形態では、灌流培養装置は、遠心分離槽80を有する。遠心分離槽80は、円筒状の側面部82と、底面部84とを有する。遠心分離槽80は、また、中央軸86を有する。なお、底面部84には磁石88が取り付けられており、これにより、遠心分離槽80を、中央軸86(側面部82の中心軸線)を中心に回転させることが可能になる。
【0037】
灌流培養装置は、筐体90を有する。筐体90は、遠心分離槽80を収納する部材である。筐体90は、円筒状の側面部92と、底面部94とを有する。筐体90は、また、固定軸96を有する。固定軸96に遠心分離槽80の中央軸86を挿入することで、遠心分離槽80を、筐体90内で回転可能に保持することができる。
筐体90は上蓋100を有する。上蓋100により、筐体90を気密に構成することが可能になる。上蓋100には複数の貫通穴が設けられており、種々の部材が取り付け可能に構成されている。
筐体90には、吸引管110が取り付けられている。吸引管110は、その端部112が、遠心分離槽80の側面部82に向けて開口し、側面部82と所定の間隔をあけて対向するように設けられている。そして、本実施の形態では、吸引管110は、端部112と側面部82との間隔を調整することが可能に構成されている。具体的には、吸引管110は、テーパー状の貫通穴が設けられた取り付け具114を介して、上蓋100に取り付けられている。これにより、取り付け具114内で、吸引管110の取り付け角を調整することが可能になり、端部112と側面部82との間隔を変更することが可能になる。
そして、灌流培養装置は、吸引管110の端部112と側面部82との間隔を調整するための調整機構を備えた構成とすることができる(図示せず)。調整機構は、筐体90の外側で吸引管110を動かして、端部112と側面部82との間隔を調整する駆動機構によって実現することができる。調整機構は、吸引管110で培養液W及び空気を吸引しながら、端部112を側面部82に近づけるように構成することができる。このとき、調整機構は、端部112(吸引管110)が、培養液Wの液面に接触しないように、吸引管110の挙動を調整するように構成することが好ましい。
なお、筐体90には、吸引管110の他に、返送管120や、無菌エアを導入するための吸気ノズル(図示せず)を有する構成とすることができる。
【0038】
この灌流培養装置によると、吸引管110の端部112と側面部82(遠心分離槽80の内壁面)との間隔を調整することが可能になる。そのため、遠心分離槽80から培養液Wを排出させて培養液Wの液面位置が変動した場合でも、端部112を、遠心分離状態にある培養液Wの液面に近接させることが可能になることから、効率よく培養液Wを排出させることが可能になる。
特に、培養液Wを排出させながら端部112を側面部82に近づけることにより、端部112と培養液Wの液面とを接触させることなく、端部112が培養液Wの液面に近接した状態を維持することができる。そのため、吸引管110の吸引量を大きくすることなく、効率よく、培養液Wを排出させることが可能になる。
また、遠心分離槽80に所定量の培養液Wを供給して所定時間遠心分離を行い、その後に端部112を培養液Wの液面に近接させて培養液Wを排出することで、遠心分離を行う時間を十分に確保することができるので、培養液Wが遠心分離しにくいものである場合でも良好に遠心分離を行うことができる。
【0039】
なお、吸引管110の端部112と側面部82との間隔を調整する機構は、上記に限られるものではなく、他の構成によって実現することも可能である。例えば図4に示すように、蛇腹管140を利用して、端部112と側面部82との間隔を調整することも可能である。すなわち、図4に示ように、上蓋100に形成された、吸引管110よりも外形が大きい貫通穴を貫通するように吸引管110を設けるとともに、当該貫通穴を蛇腹管140で覆った構成とすることができる。ここで、蛇腹管140は、一端が吸引管110に取り付けられ、他端が、貫通穴を覆うように、上蓋100に取り付けられている。これによると、吸引管110は貫通穴の内部で姿勢を変えることが可能になって端部112と側面部82との間隔を調整することができるとともに、蛇腹管140によって、筐体90内が汚染されることを防止することができる。
あるいは別の例として、吸引管110を、直線的に伸びる直進部と、直進部の先端から屈曲して延びる屈曲部を有する構成とし、吸引管110を、直進部を中心に回転させることで、吸引管110の端部112(屈曲部の先端)と側面部82との間隔を変更させることも可能である(図示せず)。
【符号の説明】
【0040】
1…灌流培養装置、 10…培養槽、 20…送液手段、 22…送液管、 24…第一端部、 26…第二端部、 28…ポンプ、 30…遠心分離槽、 32…内壁面、 34…つば部、 36…磁石、 40…筐体、 42…軸体、 44…フィルタ、 50…駆動機構、 52…磁石、 54…保持体、 56…モータ、 60…排出機構、 62…吸引管、 64…第一端部、 66…第二端部、 68…ポット、 70…ポンプ、 72…返送管、 80…遠心分離槽、 82…側面部、 84…底面部、 86…中央軸、 88…磁石、 90…筐体、 92…側面部、 94…底面部、 96…固定軸、 100…上蓋、 110…吸引管、 112…端部、 120…返送管、 140…蛇腹管、 W…培養液
【要約】
【課題】 本発明の目的は、長期の培養に利用することが可能で、かつ、機構が単純で取扱いが容易な灌流培養装置、及び、遠心分離機を提供することにある。
【解決手段】 灌流培養装置は、培養槽10から送液された培養液Wを遠心分離する遠心分離槽30と、遠心分離槽から、培養液の遠心分離上清を排出させる排出機構60と、を有する。遠心分離槽は、円筒状の内壁面32を備えるとともに、内壁面の中心軸線を中心に回転することにより培養液を遠心分離させるように構成される。排出機構は、遠心分離処理中の培養液よりも中心軸線側に配置されて内壁面と対向する第一端部64と、遠心分離槽外に配置される第二端部66とを備えた吸引管62を含む。遠心分離槽が回転して培養液が遠心分離した状態で、吸引管の第一端部から遠心分離槽内の空気を吸引することにより、空気とともに培養液の遠心分離上清を第二端部から排出させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4