(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6700664
(24)【登録日】2020年5月8日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】相関原子分解能断層撮影分析用の適応性がある(malleable)薄片の製作
(51)【国際特許分類】
H01J 37/285 20060101AFI20200518BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20200518BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20200518BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20200518BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20200518BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20200518BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
H01J37/285
H01J37/28 X
H01J37/317 D
H01J37/28
H01J37/20 A
H01J37/22 501A
G01N27/62 F
G01N1/28 F
G01N1/28 G
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-42328(P2015-42328)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-170600(P2015-170600A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2018年3月4日
(31)【優先権主張番号】61/948,516
(32)【優先日】2014年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501419107
【氏名又は名称】エフ・イ−・アイ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー・アルヴィス
【審査官】
橋本 直明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−059002(JP,A)
【文献】
特開2006−052967(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0214468(US,A1)
【文献】
特開2010−243458(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0037706(US,A1)
【文献】
特開2005−233786(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/075908(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/285
G01N 1/28
G01N 27/62
H01J 37/20
H01J 37/22
H01J 37/28
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S/TEMと原子プローブ顕微鏡法の両方によって試料を分析する方法であって、
集束イオン・ビームを使用してバルク材料を加工することにより、関心領域を含む、200nm未満の厚さを有する薄片を形成することと、
マイクロマニピュレータを使用して前記バルク材料から前記薄片を抽出することと、
S/TEM(透過電子顕微鏡または走査型透過電子顕微鏡)を使用して前記関心領域の画像を形成することと、
前記薄片が埋め込まれたより厚い構造体を形成するために、前記S/TEMで前記関心領域の前記画像を形成した後に、ビーム誘起付着、物理蒸着、または化学蒸着を用いて前記薄片上に材料を付着させることであって、前記材料を前記関心領域上の前記薄片の面上に付着させることと、
前記薄片が埋め込まれた前記より厚い構造体から、イオン・ビーム・ミリングを使用して、前記関心領域が含まれる前記薄片の部分と付着した前記材料の一部とを含む針形試料を形成することと、
原子プローブ顕微鏡を使用して前記針形試料中の前記関心領域の原子プローブ顕微鏡画像を形成することと
を含む方法。
【請求項2】
前記原子プローブ顕微鏡を使用して前記関心領域の画像を形成することが、前記針形試料の3次元マップを形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記S/TEMを使用して前記関心領域の画像を形成することが、前記S/TEMの電子ビームに対する角度が異なる前記試料の画像を形成して、前記関心領域の3次元画像を断層撮影によって形成することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記S/TEMによって得られた情報と、前記原子プローブ顕微鏡によって得られた情報とをディスプレイ上で結合することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
S/TEMと前記原子プローブ顕微鏡の両方に適合するマウント上に前記薄片を配置することをさらに含み、前記S/TEMは走査型透過電子顕微鏡を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記薄片が、前記薄片を抽出した前記バルク材料の頂部に対応する上面を有し、前記薄片が、前記マウント上において、前記上面が実質的に水平になる向きに配置される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記薄片が、前記薄片を抽出した前記バルク材料の頂部に対応する上面を有し、前記薄片が、前記マウント上において、前記上面が実質的に垂直になる向きに配置される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記薄片が、前記薄片を抽出した前記バルク材料の頂部に対応する上面を有し、前記薄片が、前記マウント上において、前記上面が前記マウントに接触するように配置される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記薄片上に前記材料を付着させることが、前記関心領域の質量とは異なる質量を有する材料を付着させることを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記薄片上に付着させた前記材料が、シリコン、ニッケル、コバルトおよび/またはクロムを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記関心領域が、前記針形試料の先端から30nmから2マイクロメートルの間のところに位置する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記薄片上に前記材料を付着させることが、選択された材料で前記薄片を均一にコーティングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記薄片上に前記材料を付着させることが、物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)によってシリコンを付着させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記薄片上に前記材料を付着させることが、ニッケル、コバルト、またはクロムをPVDによって付着させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記関心領域からのS/TEMの構造情報と前記関心領域からの原子プローブ顕微鏡の元素情報とを関連付けることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記関心領域からのS/TEMの構造情報と前記関心領域からの原子プローブ顕微鏡の元素情報とを関連付けることが、試料の3次元微小構造および組成を再構成することを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡法(transmission electron microscopy)および原子プローブ顕微鏡法(atom probe microscopy)に使用することができる試料を形成するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
断層撮影(tomography)は、例えば医学、歯学、生物学、環境科学、毒物学、鉱物学、電子工学などのさまざまな分野において幅広い用途を有する急速に進歩している画像化技術である。断層撮影は、例えば試料の原子構造および化学分析などのさまざまなタイプの情報を得るために、X線システム、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型透過電子顕微鏡(scanning transmission electron microscope:STEM)および/または原子プローブ顕微鏡法(APM)などのさまざまなツールを使用して試料の3D画像を形成するプロセスである。3D断層撮影データ・セットは通常、光子(例えば光学もしくはX線)顕微鏡または電子顕微鏡から、異なる角度で撮影された試料の一連の2D投影画像を再構成することによって得られ、または、APMの場合には、電界蒸発し、位置敏感型検出器(position−sensitive detector)に当たった一連の原子から、ある体積を再構成することによって得られる。
【0003】
TEMおよびSTEMは、観察者がナノメートル規模の極めて小さな特徴部分(feature)を見ることを可能にし、試料の内部構造の分析を可能にする。便宜上、TEMおよびSTEMへの言及は用語「S/TEM」によって示され、S/TEM用の試料を調製すると言うときには、TEMまたはSTEM上で観察するための試料を調製することを含むものと理解される。ビーム中の電子の多くが試料を透過し、反対側に出ることを可能にするため、試料は十分に薄くなければならない。薄いS/TEM試料は「薄片(lamella)」として知られており、通常はバルク(bulk)試料材料から切り出される。薄片は通常、100nm未満の厚さを有するが、用途によってはこれよりもかなり薄くしなければならない。S/TEM断層撮影では、薄片に電子ビームを通し、回転の度数を次第に増大させて、薄い試料を横切る傾斜した一連の2次元投影を形成する。これらの2次元投影から、元の構造体の3次元レンダリングを構成することができる。
【0004】
原子プローブ顕微鏡(APM)は通常、試料マウント(sample mount)、電極および検出器を含む。分析中、試料は、試料マウントによって担持され、試料には正電荷が加えられる。試料は通常、細くされた針形の先端を有する柱(pillar)の形態を有する。検出器は、試料から間隔を置いて配置されており、接地されているかまたは負に帯電している。電極は、試料と検出器の間に位置し、接地されているかまたは負に帯電している。試料には、電気パルスおよび/またはレーザ・パルスが断続的に加えられ、それによって針の先端の原子がイオン化し分離する。すなわち試料から「蒸発」する。イオン化された原子、分子または原子クラスタは、電極の開口部を通り抜け、検出器の表面に衝突し、その結果、イオンが検出、すなわち「カウント」される。イオン化された原子の元素同定は、イオン化された原子の質量/電荷比に基づいて変動する針表面と検出器の間の原子の飛行時間を測定することによって決定することができる。針の表面におけるイオン化された原子の位置は、検出器上における原子の衝突位置を測定することによって決定することができる。したがって、試料を蒸発させると、試料の成分の3次元マップを構成することができる。
【0005】
S/TEMは、より望ましい構造データを提供し、APMは、より望ましい組成データを提供する。単独で使用されたS/TEMまたはAPMからの異なる断層撮影データは、最適な材料分析を妨げる。相関S/TEM−APM断層撮影(correlative S/TEM and APM tomography)は、S/TEMからのデータとAPMからのデータの両方を利用して、試料から、有益な構造情報および化学情報を得る。データの質は、例えばサイズ、形状および密度、ならびに分析対象の体積中の特徴部分の組成および空間分布など、試料のさまざまな様相によって変動し得る。現在の相関S/TEM−APM断層撮影は通常、名目上円柱形であり、関心領域(region of interest:ROI)を含む柱形の針試料を使用する。例えば試料の厚さおよび特徴部分を不明瞭にする投影効果の結果として、柱試料からの断層撮影系列中の個々のそれぞれのS/TEM画像の質は、薄片試料で達成することができる画質よりもいくぶん低い。APM断層撮影データ取得実験から得られるデータの質は、試料の異なるエリアにわたる元素の3次元配置に大きく依存する。一般に、APM試料は、元素に関して不均質であり、試料は実際上、試料の電界蒸発部分を横切る識別できない数および分布の蒸発電界を有し、それらのそれぞれの領域は、電界蒸発を支配する基本式Ei=kV/riを同時に満たすために名目上半球状の形状を形成しなければならない。上式で、Eiは、APM試料の表面のi番目の元素の蒸発電界、riは、APM試料の表面のi番目の元素の半径、Vは、データ取得実験の特定の時刻に試料に印加される電圧、kは、主として電極および試料の幾何形状に依存する比例定数である。APM試料の表面の電界蒸発している元素のうちの1つまたは複数の元素が、この電界蒸発式の要件を満たすことができない場合、試料は、(電圧またはレーザ・パルスと相関しない)制御できない形で自発的に蒸発し、データ中のノイズまたは試料の破滅的な破壊につながる可能性がある。加えて、ROIの目に見えない特徴部分または埋め込まれた特徴部分が柱内に適正に配置された柱試料を形成することが困難なことがある。柱試料を使用してS/TEMとAPMを相関させることの別の欠点は、APMデータ・セットの視野が、形成された柱形の試料の内側約50%に制限されるため、S/TEMデータの質とAPM内の分析体積の間に妥協が生じることである。加えて、APMが首尾よくROIを切り抜けた場合であっても、分析の再構成段階またはデータ・レンダリング段階中に適切に補正することができないかなりの歪みおよびノイズが生データ中に存在することがしばしばある。APMデータ取得、再構成および分析の現在の問題点は例えば、Larson他、「Atom probe tomography spatial reconstruction:Status and directions」、Current Opinion in Solid State and Materials Science、17巻(2013年、236〜247ページ)に記載されている。相関S/TEM−APM断層撮影に関する別の問題は、例えばホログラフィ(holography)、微分位相差(differential phase contrast)、位相板コントラスト増強(phase−plate contrast ehhancement)、格子結像(lattice imaging)および分析などの先進のS/TEM画像化技法およびS/TEM分析技法が、柱形の試料にあまり適合しないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0319849号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0248354号明細書
【特許文献3】国際出願公開第2012/103534号
【特許文献4】米国特許第7,442,924号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Larson他、「Atom probe tomography spatial reconstruction:Status and directions」、Current Opinion in Solid State and Materials Science、17巻(2013年、236〜247ページ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、相関S/TEM−APM分析を改良する分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
いくつかの実施形態では、相関S/TEM−APM断層撮影用の試料が、S/TEMの微小構造精度および微小構造分解能とAPMの化学的感度とを有する良質のデータを提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、産業に関連した幅広い範囲の材料において、高分解能のS/TEM傾斜系列(tilt−series)データと、最小限の歪みを有するAPMデータとを一貫して生み出すことができる、部位特定(site−specific)S/TEM−APM分析を可能にする試料を調製する。関心領域(ROI)を含む極薄の薄片をミリングし、その薄片をS/TEM分析に使用し、次いで、その薄片を、APM分析用の針形の試料に再成形することができるように、試料は、S/TEMおよびAPMに適合した試料ホルダ上に配置することが好ましい。これは、APM用の針形試料内に埋め込まれた薄片内にROIが位置する試料の新たな形態を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態はさらに、相関S/TEM−APM断層撮影のAPM部分用の針形試料を形成する方法を提供する。バルク材料から、ROIを含む薄い薄片を形成し、その薄片を、ROIの元素成分の電界蒸発特性を補完するように選択された材料でコーティングする。このコーティング・ステップが完了した後、薄片を、APMを用いた分析用の針形試料に形成する。
【0012】
いくつかの実施形態はさらに、相関S/TEM−APM分析を実行する方法を提供する。試料材料のバルクから、ROIを含む試料を切り出し、薄い薄片に形成する。次いで、この薄片をS/TEMを用いて分析して、画像を形成する。任意選択で、この薄片試料およびマウントを洗浄して、S/TEM画像化の時間と後続のAPM分析用試料の再処理の間に蓄積する汚染を除去することができる。次いで、ROIを含むこの薄片を、選択された材料内に埋め込み、針形試料に形成する。次いで、この針形試料をAPMを用いて分析し、その結果得られたデータを、S/TEMデータと併合し、S/TEMデータと相関させる。
【0013】
薄片はS/TEM分析に対して使用することができるが、本発明の実施形態に従って調製された試料は、改良されたAPMデータを提供し、S/TEM上でさらに観察されることなくAPM上で分析することができる。
【0014】
以上では、以下の本発明の詳細な説明をより十分に理解できるように、本発明の特徴および技術上の利点をかなり大まかに概説した。以下では、本発明の追加の特徴および利点を説明する。開示される着想および特定の実施形態を、本発明の目的と同じ目的を達成するために他の構造体を変更しまたは設計するベースとして容易に利用することができることを当業者は理解すべきである。さらに、このような等価の構造体は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲を逸脱しないことを当業者は理解すべきである。
【0015】
次に、本発明および本発明の利点のより完全な理解のため、添付図面に関して書かれた以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】TEM分析用の試料薄片を基板から調製する初期の向きに配置されたFIBシステムを示す図である。
【
図2A】マウント上においてさまざまな向きに配置された試料薄片を示す図である。
【
図2B】マウント上においてさまざまな向きに配置された試料薄片を示す図である。
【
図2C】マウント上においてさまざまな向きに配置された試料薄片を示す図である。
【
図3】材料コーティングを有する試料薄片を示す図である。
【
図4】針形試料の先端内に関心領域がどのように位置するのかを示す、
図3と同様の図である。
【
図5】針先端内に関心領域が位置する針形試料の様式化された(stylized)図である。
【
図6】円錐の長軸に直角な方向に観察するように関心領域が配置された針形試料を示す図である。
【
図7】円錐の軸に沿った方向に観察するように関心領域が配置された針形試料を示す図である。
【
図9】S/TEM−APM分析用の試料を処理する包括的な流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
いくつかの実施形態によれば、集束イオン・ビームまたは他の方法を使用して、S/TEM分析に適した薄片を調製する。任意選択でS/TEM上で観察した後、この薄い薄片上に材料を付着させて、薄片が埋め込まれたより厚い構造体を形成する。次いで、このより厚い構造体をミリングして、原子プローブ顕微鏡法用の針状の構造体を形成する。このように、この一般的なシーケンスに従って、バルク試料から抜き出された関心領域をS/TEM向けに最適化することができ、次いで、これとは別に、関心領域をAPM分析向けに最適化することができる。埋め込まれた薄片試料構造体はさらに、バルク基板内における位置に関してはほとんど変化していない関心領域と周囲の元のマトリックス材料とを有する従来の円錐形または針形の構造体に比べて改良された電界蒸発特性を示す。これらの2つのデータ源からの改良されたデータは、より容易に相関させることができ、したがって試料の再構成された3次元微小構造および組成の正確さを向上させることができる。S/TEMからのデータとAPMからのデータとを相関させることによって、S/TEMからの精密な構造情報と、APMからの精密な元素情報とを得ることができる。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、材料のバルクから、関心領域(ROI)を含む試料を、標準FIB技法を使用して切り出す。バルク材料から試料を切り出す一例を
図1に示す。装置の試料ステージ106にバルク試料材料108が装填されている。ステージ106は、平行移動、回転および傾斜を含む複数の運動軸を、薄片形成プロセスのそれぞれのステップで試料の最適な向きを達成することができるような態様で提供することができる。FIBカラム102は、S/TEM分析用の試料薄片を作製するための初期ミリングをバルク試料材料上で実行する向きに示されている。この実施形態では、基板108が、FIBカラム102から発射された集束イオン・ビーム104に対して基板108の上面が直角となるような向きに配置されている。関心領域を保護し、イオン・ミリング生成物を低減させるため、通常は、関心領域の上に、保護層またはキャッピング層107を、例えば白金、タングステンまたは二酸化シリコンのビーム誘起付着によって付着させる。前述のビーム誘起付着の代わりに、またはビーム誘起付着に加えて、集束イオン・ビーム・システムに試料を装填する前に、試料の表面に保護キャッピング層を付着させることもできる。薄片110を作製するために実施される大部分の粗いイオン・ビーム加工は、基板108とFIBカラム102をこの向きにして実行される。イオン・ビーム104の集束(すなわち一点に集まる円錐形状)および経路のため、この直角ミリングによって、薄片110を、底部から頂部へ向かってテーパ状にする。すなわち、薄片110は、底部よりも頂部の方が薄い。この実施形態では、薄片110が、境界114のところで基板108にしっかりと結合されたままである。幅または長さが数十マイクロメートルよりも大きな基板に薄片110を形成する場合には、S/TEMで使用する前に、基板108から薄片110を取り出し、薄片110を薄くして電子透過性にしなければならない。加えて、垂直な向きのイオン・ビーム104を用いたミリング中に基板108から除去された材料が、薄片110のその面に再付着し、望ましくない異物層112を形成することもある。同様に、高エネルギーの集束イオン・ビームを使用して基板に薄片を形成すると、その結果として、FIBミリングされた表面の材料およびイオン・ミリングに使用された種、通常はガリウム、アルゴンまたはキセノンのところに、相互に混合された薄い元素層111ができる。層111および112が存在するとS/TEM分析の質が低下する。層111および112は、薄片110をS/TEMで使用する前に除去しまたは研磨によって除かなければならない。
【0019】
オーバチルティング(over−tilting)、研磨および/またはアンダカッティングを使用して試料薄片を後処理するために、FIBシステムを、傾いた向きに配置し直すことができる。オーバチルティングは、薄片110の側面からテーパをなくして、薄片110の側面を実質的に平行にするプロセスである。研磨は、以前の初期ミリングによって薄片110上に蓄積した非晶質層111および112を薄片110から除去するプロセスである。アンダカッティングは、境界114においてまたは境界114の付近で、基板108から薄片110を部分的にまたは完全に分離するプロセスである。薄片110の長軸を軸にして、試料ステージ106またはFIBカラム102を、ある角度116だけ回転させる。すなわち、薄片110の長軸と基板108の上面に対して垂直な線とによって画定される平面に対して、試料ステージ106またはFIBカラム102をある角度116だけ回転させる。言い換えると、
図1に示された薄片110の断面内に位置する
図1の紙面に対して垂直な軸、好ましくは薄片110の断面の中心付近に位置する
図1の紙面に対して垂直な軸を軸にして、試料ステージ106またはFIBカラム102を回転させる。
【0020】
図2A、2Bおよび2Cに示されているように、ROI122を含む薄片120を、S/TEMシステムとAPMシステムの両方に適合する機械式マウント124へ移す。電動機で動くマイクロマニピュレータを使用して薄片120をマウントまで移送し、イオン・ビーム誘起付着プロセスもしくは電子ビーム誘起付着プロセス、または機械的な機構、または接着材を使用して、薄片120をマウントに、公知の方法で取り付ける。薄片120は、マウント124上において任意の向きに取り付けることができる。この向きは、S/TEMおよびAPT内において所望のとおりに観察できるように選ばれる。例えば、
図2Aには、マウント124上においてROI122が「垂直な」向きに配置された、すなわち薄片の上面126の向きが実質的に水平な薄片120が示されている。あるいは、
図2Bに示されているように、薄片120の元の上面126が実質的に垂直な位置まで回転した「90度ぐるりと回った」向きにROI122があるように、薄片120をマウント124上に置くこともできる。別の選択肢が
図2Cに示されており、この図には、元のバルク材料中から抜き出されたときの薄片の向きに対して「上下逆」向きにROI122が装着された薄片120が示されている。それぞれの向きを有利に使用して、試料調製とAPM分析の両方に対して関心領域122を最適化することができる。次いで、マウント上で薄片120を、一連のFIBミリング・パターンによってできるだけ薄く成形する。理想的には、S/TEMを使用した分析中にROI122の観察が妨げられないことを保証するために、側壁130が均一に直角となり、薄片120ができるだけ薄く形成されるように、薄片120を成形する。完成した薄片120は非常に薄く、100nm未満の厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、薄片120が15nm未満の厚さを有することができる。ROI122を含む薄片の観察エリアの厚さの変動は、観察エリア全体にわたって25%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましく、約3%未満であるとよりいっそう好ましい。薄片120は、前述の焦束イオン・ビーム・ミリング法に加えて、限定はされないが、機械成形およびブロード・ビーム・イオン・ミリングを含む公知の従来の技法によって形成することができる。公知の従来の技法の例には、本発明の譲受人に譲渡された、参照によってその全体が本明細書に組み込まれるFuller他の「Preparation of Lamellae for TEM Viewing」という名称の米国特許出願公開第2013/0319849号明細書、本発明の譲受人に譲渡された、参照によってその全体が本明細書に組み込まれるKeady他の「High Throughput TEM Preparation Processes and Hardware for Backside Thinning of Cross−Sectional View Lamella」という名称の米国特許出願公開第2013/0248354号明細書、および本発明の譲受人に譲渡された、参照によってその全体が本明細書に組み込まれるBlackwood他の「TEM Sample Preparation」という名称の国際出願公開第2012/103534 A1号が含まれる。次いで、この薄片を、S/TEM内で、公知のプロセスで分析する。
【0021】
薄片120をS/TEMで分析した後、薄片120およびマウント124を洗浄プロセスにかけることができる。このS/TEM分析は例えば、単一のS/TEM画像の形成、EELS、EDS、電子ホログラフィ、微分位相差、位相板コントラスト増強および電子回折分析を含むことができる。加熱、冷却、さらには環境曝露も、S/TEMデータ取得方法の部分とすることができる。同様に、適切なS/TEM技法または適切なS/TEM技法の組合せを使用したS/TEM断層撮影を、APMデータとの相関の部分として使用することもできる。この洗浄プロセスは、例えば炭素などの表面有機物汚染を除去する公知の一連の光子、プラズマ、ガスもしくは液体洗浄、またはROI内に含まれる特定の材料を選択的に除去もしくは再成形するエッチング剤とすることができる。
【0022】
S/TEM分析が完了した後、薄片120およびマウント124を、例えば電子ビーム誘起付着システムまたはイオン・ビーム誘起付着システムを備えるSEM、超低kVカラムおよび適当なイオン源を備えるFIB、PVD、CVDなどの適当な付着システム内に置く。
図3に示されているように、薄片120を、選択された材料132で均一にコーティングする。コーティング材料132は、ROI122内の元素成分の電界蒸発特性を補完するように選択されることが好ましい。例えば、コーティング材料132は、APMにおいて試料120のデータからコーティング材料132のデータを分離するのを容易にする、ROI122の質量とは異なる質量を有することができる。コーティング材料132は、隙間および空隙を埋めることができるように比較的に高純度で、細粒で、共形であることが好ましく、薄片の表面に密接に結合したコーティングが形成されるように粘着性であることが好ましく、比較的に低温で付着させることが可能であることが好ましい。適当なコーティング材料の例には、CVDシリコンおよびPVDシリコン、ならびにPVDニッケル、PVDコバルトおよびPVDクロムが含まれる。
【0023】
このコーティング・プロセスの後、薄片をFIBに戻し、一連の逐次環状ミルにかけ、公知の方法で成形して、
図4および5に示されているように針形の試料とする。
図4は、針形試料の先端内のROI122の位置の理解を提供するために破線で示された仮定の針先端形状を有する薄片120を示す。ほとんどの場合、薄片の埋め込まれた部分は、名目上、円錐の直径に沿って配置されていると有利である。
図5は、先端136内のROI122の位置および配置の理解を容易にするための誇張された先端136を有する、様式化された針形試料134を示す。しかしながら、先端136は、これよりも円錐形に形成されることを理解すべきである。好ましい任意のFIBミル・プロセスを利用して針形試料を形成することができる。好ましいFIBミル・プロセスの一例が、本発明の譲受人に譲渡された、参照によってその全体が本明細書に組み込まれるGiannuzzi他の「Repetitive Circumferential Milling for Sample Preparation」という名称の米国特許第7,442,924号明細書に示され、開示されている。
【0024】
図6および7は、再構成されたROI133が異なる向きに配置された、再構成された針形APMデータ・セット137を示す。
図6は、再構成されたROI133が、上で論じ、
図2Aに示した「垂直な」向きにあるように形成された針形APMデータ・セット137を示す。この垂直の向きでは、再構成されたROI133が、データ・セットの最上部の再構成されたキャッピング層138よりもかなり下方から始まり、データ・セットの左からデータ・セットの右へ、再構成された円錐形データ・セット137の長軸に対して名目上直角に延びる。
図7は、再構成されたROI133が、上で論じ、
図2Bに示した「90度」の向きにあるように形成された、再構成された針形データ・セット137を示す。この向きでは、再構成されたROI133が、データ・セットの最上部から始まり、再構成されたデータ・セット137の最下部へ向かって下方に延び、円錐の長軸に対して平行に走る。実際の試料では、ROI構造体122が先端136のバルク内に埋め込まれており、ROI構造体122は、物理的な先端136の頂点から約30nmから2マイクロメートルの間の距離のところに埋め込まれていることが好ましい。選択された材料132でROI122をコーティングすると、バルク試料材料から形成された針先端にROIが形成されている場合に達成されるよりも、針先端136のより大きな範囲にわたって、電界がより均一になる。同時に、時間および位置によって変化するこの電界が主に、埋め込まれた薄片の不均質な材料の薄い紐形状に限定される。薄片の幅は、先端全体の直径に比べて小さいため、以前に説明した支配方程式が要求する複雑な先端形状の形成は、試料の「バルク」の中に針を成形することによって形成された、より伝統的な方法で成形された先端の表面全体にわたって材料を再成形することによってではなく、埋め込まれた薄片の露出した表面に位置する材料を再成形することによって達成される。したがって、複雑な先端を成形するエリアが狭いことによって、より制御された電界蒸発が可能になり、微小破壊などの電界蒸発生成物ならびにクラスタ事象および相関関係のない蒸発事象を減らすことができるため、「薄片が埋め込まれた」APM試料は、バルク試料中に形成された針試料よりも「適応性がある」。
【0025】
FIBミリング・プロセスが完了した後、針形試料136をAPMで分析および再構成し、別個のソフトウェア・ツールを使用して、ディジタル化された微小構造を可視化し、S/TEMデータと併合しまたはS/TEMデータと相関させる。
【0026】
図8は、本発明の針形試料を形成するプロセスの流れ図を示す。始めに、ステップ140で、必要に応じてROIを識別し、隔離し、またはROIに印をつける。ステップ142で、S/TEM用の薄片を形成する。次いで、ステップ144で、S/TEMを用いて薄片試料を分析する。このS/TEMは、3Dおよび超高分解能(ultrahigh resolution:UHR)S/TEMを含むことができる。このS/TEM分析の後、ステップ146で、薄片試料を洗浄し、コーティング装置内で薄片試料をコーティングし、埋め込む。次いで、ステップ148で、試料をFIBミリング・プロセスにかけて、針形試料を形成する。ステップ152で、針形試料をAPMを用いて分析し、または、APMとS/TEMの間で試料を往復移動させることによってAPMとS/TEM154の両方で試料を繰返し分析する。次いで、ステップ155で、S/TEMおよびAPMから得られたデータを、別個のソフトウェア・ツールを使用して相関させ、ステップ157で、相関させた構造および元素データならびに画像を表示する。
図9は、
図8に示された包括的なワークフローのそれぞれのステップ内の予想される変更を示す。
【0027】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲が、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。
【符号の説明】
【0028】
102 FIBカラム
104 集束イオン・ビーム
106 試料ステージ
108 基板
110 薄片