特許第6700741号(P6700741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6700741
(24)【登録日】2020年5月8日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20200518BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20200518BHJP
   C08L 1/04 20060101ALI20200518BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20200518BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20200518BHJP
   C08L 61/12 20060101ALI20200518BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20200518BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20200518BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K7/02
   C08L1/04
   C08L1/08
   C08K5/13
   C08L61/12
   C08K5/17
   C08K3/06
   C08J3/20 DCEQ
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-229921(P2015-229921)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-95611(P2017-95611A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷 朝博
【審査官】 阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−018918(JP,A)
【文献】 特開2014−088503(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/142319(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0022311(KR,A)
【文献】 特表2013−510920(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/050117(WO,A1)
【文献】 特開2013−253222(JP,A)
【文献】 特開2013−151586(JP,A)
【文献】 特公昭49−039187(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/、9/、11/、13/、15/
C08L21/、23/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びカチオン化セルロースナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む変性セルロースナノファイバーゴム成分、レゾルシン又はレゾルシン誘導体であるメチレンアクセプター化合物、及びメチレンドナー化合物を含み、
メチレンドナー化合物の含有量がメチレンアクセプター化合物の含有量100重量%に対して10〜90重量%である
ゴム組成物。
【請求項2】
酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、0.5mmol/g〜3.0mmol/gである、請求項に記載のゴム組成物。
【請求項3】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01〜0.50である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
カチオン化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.01〜0.40である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
メチレンドナー化合物が、ヘキサメチレンテトラミンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
変性セルロースナノファイバーゴム成分、レゾルシン又はレゾルシン誘導体であるメチレンアクセプター化合物、及びメチレンドナー化合物を含む材料を混合することを含
メチレンドナー化合物の使用量がメチレンアクセプター化合物の使用量100重量%に対して10〜90重量%である、
請求項1〜のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
硫黄及び加硫促進剤以外の材料を先に混合して加熱した後、硫黄及び加硫促進剤を混合して再び加熱する、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。具体的には、セルロースナノファイバーを含有するゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースナノファイバーと呼ばれる、植物繊維をナノレベルまで細かくほぐすことによって製造される素材をゴム組成物に含有させることにより、引張強度などゴム組成物における各種強度を向上させる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、平均径が0.5μm未満の短繊維とゴムラテックスとを撹拌混合して得られるゴム/短繊維のマスターバッチが記載され、前記短繊維の例としてセルロースが挙げられている。この文献によれば、あらかじめ平均繊維径が0.5μm未満の短繊維を水中でフィブリル化させた分散液とし、これをゴムラテックスと混合して乾燥させることにより、短繊維をゴム中に均一に分散させることができ、このゴム/短繊維のマスターバッチを利用することにより、ゴム補強性と耐疲労性のバランスが取れたゴム組成物を得ることができるとされている。
【0004】
特許文献2には、ゴム成分、セルロースミクロフィブリル等のミクロフィブリル化植物繊維、フェノール樹脂及び硬化剤を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法が開示されている。この文献によれば、ミクロフィブリル化植物繊維とフェノール樹脂とを併用することで、フェノール樹脂による補強効果とミクロフィブリル化植物繊維による補強効果とが相乗的に働き、充分な補強性を担保することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−206864号公報
【特許文献2】特許第5616369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のゴム組成物において、短繊維とゴム成分は分子間力で結合していると考えられるが、分子間力は他の結合と比較して比較的弱い結合である。そのため、特許文献1のゴム組成物に対して大きなひずみを与えると、結合が切れる、すなわち短繊維とゴム成分との間に空隙が発生することがあり、結果として十分な補強性が得られない場合があった。
【0007】
特許文献2のゴム組成物においては、一定の効果は期待できるものの、ミクロフィブリル化植物繊維とゴム成分の接着が十分とは言えず、さらなる改善が求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、大きなひずみを与えた場合でも、十分な補強性を持ったゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、化学変性されたセルロースナノファイバー、メチレンアクセプター化合物、メチレンドナー化合物、ゴム成分を含む材料を加熱処理することにより、十分な補強性をもつゴム組成物が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]変性セルロースナノファイバー及びゴム成分を含むゴム組成物。
[2]変性セルロースナノファイバーは、酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びカチオン化セルロースナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載のゴム組成物。
[3]酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、0.5mmol/g〜3.0mmol/gである、[2]に記載のゴム組成物。
[4]カルボキシル化セルロースナノファイバーの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01〜0.50である、[2]に記載のゴム組成物。
[5]カチオン化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.01〜0.40である、[2]に記載のゴム組成物。
[6]メチレンアクセプター化合物及びメチレンドナー化合物を更に含む[1]〜[5]のいずれか1項に記載のゴム組成物。
[7]メチレンアクセプター化合物が、レゾルシン、レゾルシン誘導体及びレゾルシン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[6]に記載のゴム組成物。
[8]メチレンドナー化合物が、ヘキサメチレンテトラミンである、[5]又は[6]のいずれかに記載のゴム組成物。
[9]変性セルロースナノファイバー及びゴム成分を含む材料を混合することを含む、[1]〜[8]に記載のゴム組成物の製造方法。
[10]硫黄及び加硫促進剤以外の材料を先に混合して加熱した後、硫黄及び加硫促進剤を混合して再び加熱する、[9]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大きなひずみを与えた場合でも、十分な補強性を持ったゴム組成物を提供することができる。
【0012】
本発明のゴム組成物において、このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。ゴム成分と変性セルロースナノファイバーの間には三次元構造体が形成され、該構造体中の水酸基が変性セルロースナノファイバー中の官能基と化学結合(例えば共有結合、水素結合)を形成し、それが接着性の向上に寄与しているのではないかと推測される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム組成物は、変性セルロースナノファイバー、ゴム成分を少なくとも含む。
【0014】
<変性セルロースナノファイバー>
変性セルロースナノファイバーは、セルロース原料から変性及び解繊を経て得られる微細繊維である。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、通常3〜500nm程度である。平均繊維径及び平均繊維長は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができる。
【0015】
変性セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0016】
変性セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0017】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30〜60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10〜30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0018】
<変性>
変性セルロースナノファイバーは、十分な補強性を発揮し得る。その理由は、セルロース原料の変性により繊維の微細化が十分に進み、均一な繊維長及び繊維径が得られるためである。また、補強性を発揮するのに有効な繊維長及び繊維径を持つ繊維数が十分に確保できるためである。
【0019】
セルロース原料を変性するための変性方法は特に制限されないが、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などの化学変性が挙げられる。中でも、N−オキシル化合物を用いた酸化、カルボキシメチル化、カチオン化が好ましい。
【0020】
<酸化>
酸化によりセルロース原料を変性する場合、得られる酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、好ましくは0.5mmol/g以上、より好ましくは0.8mmol/g以上、更に好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、0.5mmol/g〜3.0mmol/gが好ましく、0.8mmol/g〜2.5mmol/gがより好ましく、1.0mmol/g〜2.0mmol/gが更に好ましい。
【0021】
酸化の方法は特に限定されないが、1つの例としては、N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0022】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)が挙げられる。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0023】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N−オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.02〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0024】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0025】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。N−オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0026】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4〜40℃が好ましく、15〜30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8〜12、より好ましくは10〜11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0027】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5〜6時間、例えば0.5〜4時間程度である。
【0028】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0029】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50〜250g/m3であることが好ましく、50〜220g/m3であることがより好ましい。オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1量部以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30重量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1〜30重量%であることが好ましく、5〜30重量%であることがより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1〜360分程度であり、30〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0030】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。追酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0031】
酸化セルロースナノファイバーに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0032】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0033】
<カルボキシメチル化>
カルボキシル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシル化セルロース又はセルロースナノファイバー中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01〜0.50が好ましく、0.05〜0.40がより好ましく、0.10〜0.30が更に好ましい。
【0034】
カルボキシル化の方法は特に限定されないが例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60重量%以上又は95重量%以下であり、60〜95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3〜20重量倍であることが好ましい。
【0035】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5〜20倍モルが好ましく、1.0〜10倍モルがより好ましく、1.5〜5倍モルがさらに好ましい。
【0036】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0〜70℃、好ましくは10〜60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間である。
【0037】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05〜10.0倍モルであり、より好ましくは0.5〜5であり、更に好ましくは0.8〜3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30〜90℃、好ましくは40〜80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分〜10時間であり、好ましくは1時間〜4時間である。カルボキシル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0038】
カルボキシル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法によって行えばよい。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのSOで過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
【0039】
A=[(100×F’−(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0040】
<カチオン化>
カチオン化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカチオン化セルロースナノファイバーは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等のカチオン、又は該カチオンを有する基を分子中に含んでいればよい。カチオン化セルロースナノファイバーは、アンモニウムを有する基を含むことが好ましく、四級アンモニウムを有する基を含むことがより好ましい。
【0041】
カチオン化の方法は特に限定されないが例えば、セルロース原料にカチオン化剤と触媒を水及び/又はアルコールの存在下で反応させる方法が挙げられる。カチオン化剤としては例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト(例:3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムハイドライト)又はこれらのハロヒドリン型などが挙げられ、これらのいずれかを用いることで、四級アンモニウムを含む基を有するカチオン化セルロースを得ることができる。触媒としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属が挙げられる。アルコールとしては例えば、炭素数1〜4のアルコールが挙げられる。カチオン化剤の量は、好ましくはセルロース原料100重量%に対して5重量%以上であり、より好ましくは10重量%以上である。上限は通常800重量%以下であり、好ましくは500重量%以下である。触媒の量は、好ましくはセルロース繊維100重量%に対して0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。上限は通常7重量%以下であり、好ましくは3重量%以下である。アルコールの量は、好ましくはセルロース繊維100重量%に対して50重量%以上であり、より好ましくは100重量%以上である。上限は通常50000重量%以下であり、好ましくは500重量%以下である。
【0042】
カチオン化の際の反応温度は通常10℃以上、好ましくは30℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、通常10分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは5時間以下である。カチオン化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0043】
カチオン化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、カチオン化剤の添加量、水及び/又はアルコールの組成比率のコントロールによって調整することができる。カチオン置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を示す。言い換えると、カチオン置換度は、「導入された置換基のモル数をグルコピラノース環の水酸基の総モル数で割った値」として定義される。純粋セルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、カチオン置換度の理論最大値は3(最小値は0)である。
【0044】
カチオン化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましい。上限は、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。従って、0.01〜0.40であることが好ましく、0.02〜0.30がより好ましく、0.03〜0.20が更に好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01以上であることにより、十分にナノ解繊することができる。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.40以下であることにより、膨潤又は溶解を抑制することができ、これにより繊維形態を維持することができ、ナノファイバーとして得られない事態を防止することができる。
【0045】
グルコース単位当たりのカチオン置換度の測定方法の一例を以下に説明する。試料(カチオン化セルロース)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN−10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式によりカチオン化度を算出する。ここでいうカチオン置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値である。
カチオン置換度=(162×N)/(1−151.6×N)
N:窒素含有量
【0046】
<分散>
セルロース原料に変性処理又は解繊処理を行う際には、セルロース原料の分散処理を行い、セルロース原料の分散体を調製してもよい。セルロース原料を分散させる溶媒は、セルロース原料が親水性であることから、水であることが好ましい。
【0047】
<解繊>
解繊は、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、後に行ってもよい。また、解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0048】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に上記圧力を印加することができかつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。
【0049】
解繊をセルロース原料の分散体に対して行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0050】
解繊(好ましくは高圧ホモジナイザーでの解繊)、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0051】
<変性セルロースナノファイバーの形態>
ゴム成分と組み合わせられる変性セルロースナノファイバーの形態は、特に限定されるものではなく、例えば、変性セルロースナノファイバーの分散液、分散液の乾燥固形物、分散液の湿潤固形物、セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合液、混合液の乾燥固形物、混合液の湿潤固形物などが挙げられる。湿潤固形物とは、分散液と乾燥固形物との中間の態様の固形物である。水溶性高分子としては例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、陽性澱粉、燐酸化澱粉、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ゲランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、ジェランガム、ペクチン、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、カルボキシメチルセルロース及びその塩を用いることが相溶性の点から好ましい。
【0052】
<乾燥>
変性セルロースナノファイバーの乾燥固形物及び湿潤固形物は、変性セルロースナノファイバーの分散液又は変性セルロースナノファイバーと水溶性高分子の混合液を乾燥して調製すればよい。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥が挙げられる。乾燥装置としては例えば、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置等、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等が挙げられる。これらの乾燥装置は、単独で用いてもよいし、2つ以上組み合わせて用いてもよい。乾燥装置は、ドラム乾燥装置が好ましい。これにより、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給することができるので、エネルギー効率を高めることができる。また、必要以上に熱を加えずに直ちに乾燥物を回収することができる。
【0053】
<ゴム成分>
ゴム成分は通常、有機高分子を主成分とする、弾性限界が高く弾性率の低い成分である。ゴム成分は、天然ゴム及び合成ゴムに大別され、本発明においてはいずれでもよく、両者の組み合わせでもよい。天然ゴムとしては、化学修飾を施さない、狭義の天然ゴムでもよく、また塩素化天然ゴム、クロロスルホン化天然ゴム、エポキシ化天然ゴムのように、天然ゴムを化学修飾したものでもよい。合成ゴムとしては例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴムエチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)が挙げられる。天然ゴムとしては例えば、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴムが挙げられる。ゴム成分は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。ゴム成分は、固形状及び液状のいずれでもよい。液状のゴム成分としては例えば、ゴム成分の分散液、ゴム成分の溶液が挙げられる。溶媒としては例えば、水、有機溶媒が挙げられる。
【0054】
<メチレンアクセプター化合物、及びメチレンドナー化合物>
本発明のゴム組成物は、メチレンアクセプター化合物及び/又はメチレンドナー化合物を含んでいてもよい。
【0055】
メチレンアクセプター化合物とは通常、メチレン基を受容でき、かつ、メチレンドナー化合物と混合して加熱することにより硬化反応し得る化合物である。メチレンアクセプター化合物としては例えば、フェノール、レゾルシノール、レゾルシン、クレゾールなどのフェノール化合物及びその誘導体、レゾルシン系樹脂、クレゾール系樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。フェノール樹脂としては例えば、上記フェノール化合物及びその誘導体とホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド化合物との縮合物が挙げられる。フェノール樹脂は、縮合の際の触媒によりノボラック樹脂(酸性触媒)、レゾール樹脂(アルカリ性触媒)に分類できるが、本発明においてはいずれを使用してもよい。フェノール樹脂は、オイル又は脂肪酸で変性されていてもよい。オイル及び脂肪酸としては例えば、ロジン油、トール油、カシュー油、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸などが挙げられる。
【0056】
メチレンドナー化合物とは通常、メチレン基を供与でき、かつ、メチレンアクセプター化合物と混合して加熱することにより硬化反応し得る化合物である。メチレンアクセプター化合物としては例えば、ヘキサメチレンテトラミン、メラミン誘導体が挙げられる。メラミン誘導体としては例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサキス−(メトキシメチル)メラミン等が挙げられる。
【0057】
メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物の組み合わせとしては例えば、クレゾール、クレゾール誘導体又はクレゾール系樹脂とペンタメトキシメチルメラミンとの組み合わせ、レゾルシン、レゾルシン誘導体又はレゾルシン系樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせ、カシュー変性フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせ、フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせが挙げられる。中でもクレゾール、クレゾール誘導体又はクレゾール系樹脂とペンタメトキシメチルメラミンとの組み合わせ、レゾルシン、レゾルシン誘導体又はレゾルシン系樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの組み合わせが好ましい。
【0058】
<含有量>
ゴム組成物における変性セルロースナノファイバーの含有量は、ゴム成分100重量%に対して1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、50重量%以下が好ましく、40重量%以下が好ましく、30重量%以下が更に好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持することができる。従って、1〜50重量%であることが好ましい。
【0059】
ゴム組成物がメチレンアクセプター化合物を含む場合その含有量は、ゴム成分100重量%に対して1重量%以上が好ましく、1.3重量%以上がより好ましく、1.5重量%以上がさらに好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、50重量%以下が好ましく、20重量%以下より好ましく、10重量%以下が更に好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持することができる。従って、1〜50重量%が好ましく、1.3〜20重量%がより好ましく、1.5〜10重量%が更に好ましい。
【0060】
ゴム組成物がメチレンドナー化合物を含む場合その含有量は、メチレンアクセプター化合物100重量%に対して10重量%が好ましく、20重量%以上がより好ましく、25重量%以上がさらに好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、100重量%以下が好ましく、90重量%以下が好ましく、85重量%以下が更に好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持することができる。従って、10〜100重量%が好ましく、20〜90重量%がより好ましく、25〜85重量%が更に好ましい。
【0061】
本発明のゴム組成物は、必要に応じて1又は2以上の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては例えば、補強剤(カーボンブラック、シリカ等)、シランカップリング剤、硫黄、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫促進助剤、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤、着色剤などゴム工業で使用され得る配合剤が挙げられる。このうち硫黄、加硫促進剤が好ましい。加硫促進剤としては例えば、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドが挙げられる。
【0062】
ゴム組成物が硫黄を含む場合その含有量は、ゴム成分に対し1.0重量%以上が好ましく、1.5重量%以上がより好ましく、1.7重量%以上がさらに好ましい。上限は、10重量%以下が好ましく、7重量%以下が好ましく、5重量%以下が更に好ましい。
【0063】
ゴム組成物が加硫促進剤を含む場合その含有量は、ゴム成分に対し0.1重量%が好ましく、0.3重量%以上がより好ましく、0.4重量%以上がさらに好ましい。上限は、5重量%以下が好ましく、3重量%以下が好ましく、2重量%以下が更に好ましい。
【0064】
<製造方法>
ゴム組成物は、変性セルロースナノファイバー及びゴム成分、及び必要に応じて含まれる各成分を混合して製造することができる。
【0065】
混合における材料添加の順序は、特に限定されず、各成分を一度に混合してもよいし、いずれかの材料を先に混合した後で残りの材料を混合してもよい。第1の例としては、変性セルロースナノファイバーとゴム成分を先に混合し、得られるマスターバッチにそれ以外の材料(例えば、メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物)を混合する方法が挙げられる。具体的には例えば、変性セルロースナノファイバーの分散液とゴム成分の分散液(ラテックス)を混合し(例:ミキサー等による撹拌)、水を除去し、得られるマスターバッチ(通常は固形物)に対し、メチレンアクセプター化合物及びメチレンドナー化合物を含む成分を添加して素練り及び混練り(例:オープンロール等の装置)する。これにより、ゴム成分中に化学変性セルロースナノファイバーを均一に分散させることができる。
【0066】
第2の例としては、変性セルロースナノファイバー、ゴム成分、メチレンアクセプター化合物、及びメチレンドナー化合物を含む各成分を一度に混合し、水を除去する方法が挙げられる。具体的には例えば、変性セルロースナノファイバーの分散液、ゴム成分の分散液(ラテックス)、メチレンアクセプター化合物、及びメチレンドナー化合物を混合し(例:ミキサー等による撹拌)、得られる混合物から水を除去する。これにより、いずれの成分をも均一に分散させることができる。
【0067】
マスターバッチ又は混合物から水を除去する方法は、特に制限されず、例えば、オーブンなどの乾燥器で乾燥させる方法、pHを2〜6に調整して凝固させて脱水及び乾燥する方法が挙げられる。
【0068】
第3の例としては、ゴム成分に対しそれ以外の成分を任意の順番で添加し混合する方法が挙げられる。具体的には例えば、変性セルロースナノファイバーゴム成分の固形物に対し、変性セルロースナノファイバーの固形物、メチレンアクセプター化合物、メチレンドナー化合物を任意の順番で混合し、同様にオープンロール等の装置で素練り及び混練りする。これにより、水を除去する工程を省略できる。
【0069】
素練り及び混練り装置としては例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどが挙げられる。
【0070】
混合の際の(例えば、素練り及び混練りの際の)の温度は、常温程度(15〜30℃程度)でもよいが、ゴム成分が架橋反応しない程度に高温に加熱してもよい。例えば140℃以下、より好ましくは120℃以下である。また下限は70℃以上、好ましくは80℃以上である。従って加熱温度は、80〜140℃程度が好ましく、80〜120℃程度がより好ましい。硫黄及び加硫促進剤の添加時期は、メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物の添加時期より後であることが好ましい。すなわち、硫黄及び加硫促進剤を添加せずにメチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物を含む材料を混合して素練り開始後に、硫黄及び加硫促進剤を追加してさらに素練り及び混練りを行うことが好ましい。これにより、メチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物が加熱により予備的に縮合し、その縮合物とゴム成分及び化学変性セルロースナノファイバーとの相互作用が効果的に発揮され得る。
【0071】
混合終了後に、必要に応じて成形を行ってもよい。成形装置としては、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等が挙げられ、最終製品の形状、用途、成形方法に応じて適宜選択すればよい。
【0072】
混合終了後に、好ましくは成形後に、加熱する(加硫、架橋)ことが好ましい。これによりメチレンアクセプター化合物とメチレンドナー化合物が加熱により縮合反応して三次元網状構造体を形成し、この構造体がゴム成分及びセルロースナノファイバーとそれぞれ相互作用することにより、ゴム組成物を効果的に補強することができる。加熱温度は、150℃以上が好ましく、上限は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。従って、150〜200℃程度が好ましく、150〜180℃程度がより好ましい。加熱装置としては例えば、型加硫、缶加硫、連続加硫等の加硫装置が挙げられる。
【0073】
最終製品とする前に、必要に応じ仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理としては例えば、研磨、表面処理、リップ仕上げ、リップ裁断、塩素処理などが挙げられ、これらの処理のうち1つのみを行ってもよいし2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0074】
本発明のゴム組成物の用途は、特に制限されず、例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等;携帯電話等の移動通信機器等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等が挙げられる。これら以外であっても、ゴムや柔軟なプラスチックが用いられている部材への適用が可能であり、タイヤへの適用が好適である。タイヤとしては例えば、乗用車用、トラック用、バス用、重車両用などの空気入りタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
<製造例1> 酸化セルロースナノファイバーの製造
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、酸化セルロースナノファイバー分散液を得た。平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
【0077】
<製造例2> カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g(発底原料の無水グルコース残基当たり2.25倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算、パルプのグルコース残基当たり1.5倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化したパルプを得た。これを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊しカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを得た。平均繊維径は15nm、アスペクト比は50であった。
【0078】
<製造例3> カチオン化セルロースナノファイバーの製造
パルプを攪拌することができるパルパーに、パルプ(NBKP、日本製紙(株)製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で24g加え、パルプ固形濃度が15%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、カチオン化剤として3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを200g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカチオン置換度0.05のカチオン変性されたパルプを得た。これを固形濃度1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、140MPaの圧力で2回処理した。平均繊維径は25nm、アスペクト比は50であった。
【0079】
なお、上記製造例におけるカルボキシル基量、カルボキシメチル置換度、カチオン置換度は、上段にて説明した方法により測定された。
【0080】
<実施例1>
製造例1で得られた酸化セルロースナノファイバーの固形分濃度1%水分散液325gと、天然ゴムラテックス(商品名:HAラテックス、レヂテックス社、固形分濃度65%)100gを混合してゴム成分と変性セルロースナノファイバーとの重量比が100:5となるようにし、TKホモミキサー(8000rpm)で60分間攪拌した。この水性懸濁液を、70℃の加熱オーブン中で10時間乾燥させることにより、マスターバッチを得た。
【0081】
このマスターバッチに対し、レゾルシン1.63g(ゴム成分に対し2.5重量%)、ヘキサメチレンテトラミン1.04g(レゾルシンに対し63.8重量%)を添加し、オープンロール(関西ロール株式会社製)にて、30℃で10分間混練した。次に、硫黄2.3g(ゴム成分に対し3.5重量%)、加硫促進剤(BBS、N‐t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)0.5g(ゴム成分に対し0.5重量%)、酸化亜鉛3.9g(ゴム成分に対し6重量%)を加え、オープンロール(関西ロール株式会社製)を用い、30℃で10分間混練して、未加硫のゴム組成物のシートを得た。
【0082】
このシートを、金型にはさみ、150℃で10分間プレス加硫することにより、厚さ2mmの加硫ゴム組成物のシートを得た。これを所定の形状の試験片に裁断し、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、補強性の一つである引張強度を示すものとして、100%ひずみ時、及び300%ひずみ時における応力をそれぞれ測定した。各々の数値が大きい程、加硫ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの機械強度に優れることを示す。
【0083】
また、上記とは別の試験片を用意し、補強性の別の指標である耐摩耗性を評価するために、JIS K6264「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−耐摩耗性の求め方−」に従い、テーバー摩耗試験機を用い摩耗体積を測定した。摩耗体積が小さいほど、加硫ゴム組成物が良好に補強されていることを示す。
【0084】
<実施例2>
実施例1において、酸化セルロースナノファイバーを、製造例2で得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0085】
<実施例3>
実施例1において、酸化セルロースナノファイバーを、製造例3で得られたカチオン化セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0086】
<比較例1>
実施例1において、セルロースファイバーを使用せず、かつレゾルシン及びヘキサメチレンテトラミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0087】
<比較例2>
実施例1において、セルロースナノファイバーを使用しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0088】
<比較例3>
実施例1における酸化セルロースナノファイバーを、化学変性しない粉末セルロース(KCロックW−400、日本製紙製)をディスクミルにより粉砕した、未変性セルロースナノファイバー(平均繊維径:30nm、アスペクト比:50)に変更し、かつレゾルシン及びヘキサメチレンテトラミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0089】
<比較例4>
実施例1における酸化セルロースナノファイバーを、化学変性しない粉末セルロース(KCフロックW−400、日本製紙製)をディスクミルにより粉砕した、未変性セルロースナノファイバー(平均繊維径:30nm、アスペクト比:50)に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0090】
<比較例5>
実施例1において、レゾルシン及びヘキサメチレンテトラミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0091】
<比較例6>
実施例1において、酸化セルロースナノファイバーを、製造例2で得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーに変更し、かつレゾルシン及びヘキサメチレンテトラミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0092】
<比較例7>
実施例1において、酸化セルロースナノファイバーを、製造例3で得られたカチオン化セルロースナノファイバーに変更し、かつレゾルシン及びヘキサメチレンテトラミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から明らかなように、変性セルロースナノファイバー、メチレンアクセプター化合物、メチレンドナー化合物、ゴム成分を含む材料を加熱処理することによって得られた実施例1〜3のゴム組成物では、変性セルロースナノファイバーを含まない比較例1および2、未変性セルロースナノファイバーを含む比較例3および4、変性セルロースナノファイバーを含むがメチレンアクセプター化合物およびメチレンドナー化合物を含まない比較例5〜7のいずれに対しても、100%、300%ひずみ時における応力がいずれも高く、また摩耗体積が小さく、これらの高い水準で両立していることから、ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの機械強度に優れることが分かる。