(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸受シール機構は、前記撥水性グリスが流れ出たときに流れ出た当該撥水性グリスを受け入れるグリス受部をさらに有する、請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態1)
以下に本発明の実施形態1に係る魚釣用スピニングリールとそれに用いるラインローラについて図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、「前」とは釣糸を繰り出す方向を示し、具体的には
図1及び
図2の左が「前」である。
【0023】
図1に示すように、魚釣用スピニングリール100は、リール本体110、ロータ120、スプール130、ハンドル140、及び釣糸案内機構2を備えている。また、
図2に示すように、魚釣用スピニングリール100は、駆動機構150、オシレーティング機構160、ピニオンギア170、及びスプール軸180をさらに備えている。
【0024】
図1に示すように、リール本体110は、ケース部111と、蓋部112とを有している。蓋部112は、ケース部111に対して取り外し可能である。また、ケース部111は、前後方向に延びる装着部113を有している。装着部113は、釣竿に装着される部分である。
【0025】
図2に示すように、リール本体110は、ケース部111と蓋部112とによって画定される内部空間を有しており、内部空間内に種々の機構を収容している。詳細には、駆動機構150、及びオシレーティング機構160がリール本体110内に収容されている。
【0026】
駆動機構150は、駆動軸151、及び駆動ギア152を備えている。駆動軸151は、ハンドル軸141と連結されており、ハンドル軸141と一体的に回転する。
【0027】
駆動ギア152は駆動軸151に連結されており、駆動軸151と一体的に回転する。駆動ギア152は、フェースギアであり、ピニオンギア170のギア部171と噛み合っている。リール本体110の側面に装着されたハンドル140を回転させることによって、駆動軸151及び駆動ギア152が回転し、ピニオンギア170も回転する。
【0028】
ピニオンギア170は、リール本体110に設けられている。詳細には、ピニオンギア170は、リール本体110内から前方に延びている。ピニオンギア170は、スプール軸180周りに回転可能に配置されている。ピニオンギア170は筒状に形成されており、ピニオンギア170の内部をスプール軸180が延びている。なお、ピニオンギア170は複数の軸受部材を介してリール本体110に支持されている。
【0029】
スプール軸180は、リール本体110内から前方に延びている。スプール軸180は、ハンドル140を回転させることによって、前後方向に往復移動する。詳細には、ハンドル140の回転が、駆動ギア152を介して、ピニオンギア170を回転させる。このピニオンギア170の回転に伴い、オシレーティング機構160がスプール軸180を前後方向に往復移動させる。
【0030】
スプール130は、釣糸が巻きつけられる部材である。スプール130は、スプール軸180の先端部に支持されている。スプール130は、スプール軸180と一体的に前後方向に往復移動する。
【0031】
ロータ120は、スプール130に釣糸を巻きつけるための部材である。ロータ120は、ピニオンギア170の前部に固定されており、ピニオンギア170と一体的に回転する。すなわち、ロータ120はピニオンギア170と相対回転不能である。
【0032】
ロータ120は、ロータ本体部121と、第1ロータアーム122と、第2ロータアーム123とを備えている。ロータ本体部121は、円筒状である。第1ロータアーム122及び第2ロータアーム123は、ロータ本体部121の外周面から前方に向かって延びている。第1ロータアーム122と第2ロータアーム123とは、ロータ本体部121の周方向において、反対側の位置に配置されている。
【0033】
図3は、スピニングリールの正面図である。
図1〜
図3に示すように、釣糸案内機構2は、スプール130に釣糸を案内するための機構である。釣糸案内機構2は、第1ロータアーム122及び第2ロータアーム123の先端部に取り付けられている。
【0034】
釣糸案内機構2は、糸案内姿勢と糸開放姿勢とを取るように、揺動可能に装着されている。この釣糸案内機構2は、第1ベール支持部材21と、第2ベール支持部材22と、ベール23と、支持軸(支持部材)24と、ラインローラ3と、を備えている。
【0035】
第1ベール支持部材21は、第1ロータアーム122に揺動可能に装着されている。詳細には、第1ベール支持部材21は、第1ロータアーム122の先端部の外側に揺動可能に装着されている。
【0036】
第2ベール支持部材22は、第2ロータアーム123に揺動可能に装着されている。詳細には、第2ベール支持部材22は、第2ロータアーム123の先端部の外側に揺動可能に装着されている。
【0037】
図4は釣糸案内機構2の部分拡大図である。
図4に示すように、第1ベール支持部材21は、第1端部21aと第2端部21bとを有する。第1端部21aは、第1ロータアーム122に揺動可能に装着される。第1ベール支持部材21の第2端部21bは、支持軸24(
図5参照)を介して、ベール23の第1端部23aを支持する。
【0038】
図1及び
図2に示すように、第2ベール支持部材22は、第1端部22aと第2端部22bとを有する。第1端部22aは、第2ロータアーム123に揺動可能に装着される。第2端部22bは、ベール23の第2端部23bを支持する。
【0039】
図3に示すように、ベール23は、略U字状のステンレス合金製の部材である。ベール23は、スプール130の外周面に沿って外方に凸となるように湾曲している。このベール23は、第1端部にカバー部23aを有している。
【0040】
このカバー部23aは、支持軸24を介して、第1ベール支持部材21に支持されている。また、ベール23の第2端部23bは、第2ベール支持部材22に支持されている。釣糸案内機構2が糸開放姿勢から糸案内姿勢に復帰したときに、ベール23は、釣り糸をカバー部23aを介してラインローラ3に導く。ラインローラ3は、魚釣用スピニングリール100のスプール130に釣糸を案内するための部材である。
【0041】
図5はラインローラ3を含む釣糸案内機構2の断面図である。ラインローラ3は、不動の支持軸24に対し、案内部材6が支持軸24の周りを軸受部材4によって回転可能に支持されている。釣糸は、回転する案内部材6によってスプール130に案内される。なお、以下の説明において、軸方向とは、ラインローラ3(軸受部材4)の回転軸Oが延びる方向を意味する。すなわち、支持軸24が延びる方向を意味し、
図5では左右方向が軸方向となる。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味する。また、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0042】
図5に示すように、第1ベール支持部材21の第2端部21bには貫通孔21cが形成されている。貫通孔21cは、段付きの貫通孔である。この貫通孔21cには、支持軸24が貫通している。
【0043】
支持軸24は、第1ベール支持部材21とベール23のカバー部23aとの間を延びる。支持軸24は、筒状部241とボルト部242とを含む。筒状部241は、軸部241aと頭部241bとを有している。軸部241aは、円筒状であって、内周面に雌ネジ部が形成されている。頭部241bは、軸部241aよりも径が大きい。この頭部241bがカバー部23aと当接することによって、筒状部241の軸方向の移動が規制される。
【0044】
ボルト部242は、軸部242aと頭部242bとを有する。軸部242aは、円柱状であって、外周面に雄ねじ部が形成されている。このため、ボルト部242は、筒状部241に螺合する。頭部242bは、軸部242aよりも径が大きい。この頭部242bが第1ベール支持部材21の第2端部21bと当接することによって、ボルト部242の軸方向の移動が規制される。
【0045】
図6に示すように、ラインローラ3は、軸受部材4と、保持部材(カラー部材)5と、案内部材6とを備える。また、ラインローラ3は、規制部材7、第1グリス保持部形成部材8、第2グリス保持部形成部材9を備える。なお、ラインローラ3は軸Oを中心とする円環状に形成されており、
図6のように軸Oに平行な断面図では軸Oに対して上下対称であるので、以下では軸Oの上半分に符号を付して説明する。また図の右方向又は左方向を軸方向外側ということがある。以下の断面図において同様である。
【0046】
軸受部材4は、内輪41、外輪42、及び複数の転動体43を有する。内輪41は、円筒状である。支持軸24は、内輪41に嵌合している。このため、内輪41は、支持軸24に対して回転しない。
【0047】
外輪42は、円筒状であって、内輪41よりも径が大きい。外輪42は、内輪41の径方向外側に配置されている。各転動体43は、内輪41と外輪42との間に配置されている。各転動体43は、周方向において互いに間隔をあけて配置されている。内輪41及び外輪42は、金属、例えば、ステンレス鋼によって形成されている。外輪と案内部材6とは保持部材5を介して結合されている。内輪41は支持軸24に嵌合し、支持軸24に対して回転しないように固定支持されている。
【0048】
保持部材(カラー部材)5は、軸方向に並ぶ第1保持部材51及び第2保持部材52を含んでいる。第1保持部材51と第2保持部材52とは、互いに別の部材である。第1保持部材51が第1肩部51aを有し、第2保持部材52が第2肩部52aを有する。保持部材5、すなわち、第1及び第2保持部材51、52は、合成樹脂製であることが好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、第1及び第2保持部材51、52は、POM(ポリアセタール)樹脂によって形成される。
【0049】
保持部材5は、外輪42の外周と両端部とに当接している。具体的には、保持部材5の第1肩部51aと第2肩部52aは、径方向に平板状に形成され、第1肩部51aの内周は、外輪42の第1端部42aと当接し、第2肩部52aの内周は外輪42の第2端部42bと当接する。
【0050】
第1保持部材51は、第1シール部51bを有している。第1シール部51bは、第1肩部51aの下端部から、外輪42の軸方向左方に延在する環状の突出部(環状凸部)である。同様に、第2保持部材52は第2シール部52bを有している。第2シール部52bは、第2肩部52aの下端部から、外輪42の軸方向右方に延在する環状の突出部(環状凸部)である。即ち、第1シール部51bと第2シール部52bは、軸受部材4の両側で反対方向に対称的に延在する。
【0051】
第1保持部材51と第2保持部材52を軸受部材4に装着したとき、第1保持部材51と第2保持部材52の内周面は、軸受部材4の外輪42の外周面と係合し、第1保持部材51と第2保持部材52は外輪42と一体的に回転する。
【0052】
前述のように、案内部材6は軸受部材4の周りを回転する。そのため、軸受部材4の周囲には、軸受部材4から案内部材6(の外周部、ラインローラ3の外部空間)まで通じる空間がある。この空間を通って海水等が軸受部材4にまで到達すると、軸受部材4の機能が低下する原因となる。そのため、海水等が軸受部材4にまで到達しないように、この空間を狭隘な通路(ラビリンス)とし、その通路空間に撥水性グリス10を保持した、グリス保持部が軸受部材4の両側の2カ所に形成されている。2カ所のグリス保持部は、第1グリス保持部形成部材8と第1保持部材51の第1シール部51b、及び第2グリス保持部形成部材9と第2保持部材52の第2シール部52b、によりそれぞれ構成されている。
【0053】
第1グリス保持部形成部材8は、周方向に形成された筒部(環状凸部)8bと、筒部8bから径方向に間隔をあけて周方向に形成された筒部(環状凸部)8cと、筒部8bと筒部8cとを径方向に接続する平板部8dとから構成されている。筒部8cは平板部8dから案内部材6の方向に延出しているが、案内部材6とは当接しないように構成されている。第1グリス保持部形成部材8は、好ましくは合成樹脂製である。第1グリス保持部形成部材8は、第1シール部51bとともに、グリス保持部を構成している。
【0054】
具体的には、第1グリス保持部形成部材8は、筒部8bと筒部8bとの間に環状の陥凹部(環状凹部)8aを有している。陥凹部8aは、第1保持部材51の第1シール部51bと相補的な形状を有している。第1シール部51bは、陥凹部8aに対向しているが、平板部8dには当接しない。つまり、第1シール部51bは環状凹部8aに、断面がコの字状のラビリンス空間(隙間)を有するような寸法構成で対向している。この空間8aに撥水性グリス10が保持されている。
【0055】
撥水性グリス10は、狭隘な空間8aに保持されており、かつ高い稠度を有しているため、環状凹部8aの案内部材6側の端部から流れ出すことはない。
【0056】
また、撥水性グリス10は、軸受部材4の外面にも塗布されている。撥水性グリス10は、接触する海水等を吸収せず撥水するため、軸受部材4の外面に撥水性を与えている。また、撥水性グリス10はラインローラ3の外部から軸受部材4までの通路空間に保持されているため、ラインローラ3の外部から侵入しようとする海水等が軸受部材4の外面まで到達することを効果的に抑制することができる。
【0057】
筒部8bは、その軸受部材4側の端部が軸受部材4の内輪41の第1端部41aと当接している。つまり、第1グリス保持部形成部材8は、軸受部材4の位置を
図6の左方から規制する規制部材としての役割も有している。
【0058】
合成樹脂製の第2グリス保持部形成部材9は、軸受部材4を挟んで第1グリス保持部形成部材8の反対側に配置されている。第2グリス保持部形成部材9は、軸Oに直交する面に対して第1グリス保持部形成部材8と対称に形成されている。
【0059】
第2グリス保持部形成部材9の筒部9bの端部は軸受部材4の内輪41の第2端部41bと当接している。また、第2グリス保持部形成部材9が軸受部材4と当接する側の反対側は、規制部材7が当接して配置されている。規制部材7は、第2グリス保持部形成部材9とともに軸受部材4の位置を
図6の右方から規制している。
【0060】
第1グリス保持部形成部材8と同様に、第2グリス保持部形成部材9は、筒部(環状凸部)9bと筒部(環状凸部)9cとにより環状の陥凹部(環状凹部)9aを形成している。陥凹部9aは、第2保持部材52の第2シール部52bと相補的な形状を有している。第2シール部52bは、環状凹部9aに対して断面がコの字状のラビリンス空間(隙間)を形成するように対向されている。この空間9aには撥水性グリス10が保持されている。以上のように、第2グリス保持部形成部材9は、第2シール部52bとともに、撥水性グリス10を保持するグリス保持部を構成している。
【0061】
撥水性グリス10は、狭隘な空間9aに保持されており、高い稠度を有しているため、環状凹部9aの案内部材6側の端部から流れ出すことはない。
【0062】
また、撥水性グリス10は、軸受部材4の外面にも塗布されており、軸受部材4の外面に撥水性を与える。
【0063】
撥水性グリス10は、海水や河川水に触れてもそれを撥水して吸水しない。そのため、狭隘な通路空間8a、9aに海水等が侵入しても、撥水性グリス10に遮られてそれより奥には海水等は侵入できない。
【0064】
撥水性グリス10は公知のものを用いることができる。例えば、フッ素グリス、シリコーングリス、シリコングリスなどを用いることができる。フッ素グリスは、例えばパーフルオロポリエーテルを主成分とするフッ素オイルにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの増稠剤を加えたものである。シリコーングリスは、例えばポリシロキサンを主成分とするシリコーンオイルに金属石鹸などの増稠剤を加えたものである。シリコングリスは、シリコーンオイルにシリカヒュームなどの増稠剤を加えたものである。
【0065】
図6に示すように、案内部材6は円筒状である。詳細には、案内部材6は軸Oを中心とする円筒状の部材であり、それに釣糸を安定にガイドするため及び保持部材5との係合のための凹凸構造が形成されている。特に限定されないが、案内部材6は、例えば金属製である。例えば案内部材6は、ステンレス鋼によって形成されている。
【0066】
案内部材6は、保持部材5の外周側に配置され、保持部材5の外周面を覆っている。すなわち、保持部材5は、案内部材6内に挿入されている。保持部材5が案内部材6内に挿入された状態において、案内部材6は、保持部材5と係合する。すなわち、案内部材6は、保持部材5に対して軸方向に移動しないよう、保持部材5と係合する。
【0067】
案内部材6は、釣糸を案内するガイド面61を外周に有する。具体的には、ガイド面61に、周方向に延びる環状の溝部62が形成されている。詳細には、この溝部62は、軸方向において、ガイド面61の中央よりも第1保持部材51側の位置に形成されている。ガイド面61は、釣糸を溝部62へと案内するよう、両端部から溝部62に向かって傾斜している。
【0068】
以上の構成を有するラインローラ3は、軸受部材4の周囲に、第1グリス保持部形成部材8と第1シール部51bとから構成されるグリス保持部が構成され、それに撥水性グリス10が保持されている。また、第2グリス保持部形成部材9と第2シール部52bとから構成されるグリス保持部が構成され、それに撥水性グリス10が保持されている。これらのグリス保持部はコの字状に屈曲した狭隘な空間を形成しているため、撥水性グリス10を保持する効果が高い。そのため、ラインローラ3の外部から海水が軸受部材4の周囲まで侵入することを効果的に抑制でき、海水等を原因とする軸受部材4の不具合を抑制することができる。
【0069】
(実施形態2)
以上、実施形態1として、軸受部材4が1つの軸受からなるラインローラ3を説明した。しかし軸受は1つに限らず2つ以上の軸受を有するものでもよい。以下に、2つの軸受を有する本発明の実施形態2に係るラインローラ3Aについて、
図7を用いて説明する。なお、実施形態1と共通する部材については共通の符号を付し、実施形態1のラインローラ3と異なる部分を中心に説明する。
【0070】
ラインローラ3Aは、
図7(a)に示すように支持軸24の外周に2つのボールベアリング(軸受部材)4A、4Bと、規制部材45と、第1グリス保持部形成部材8と、第2グリス保持部形成部材9と、第1保持部材(カラー部材)51と、第2保持部材(カラー部材)52と、案内部材6と、を備える。なお、
図7(a)では撥水性グリスは図示していない。
【0071】
軸受部材4Aは、内輪41Aと外輪42Aとを備え、その間に複数の転動体43Aを保持している。軸受部材4Bは、内輪41Bと外輪42Bとを備え、その間に複数の転動体43Bを保持している。なお、軸受部材4A、4Bは、側面が閉止された閉止タイプのボールベアリングである。
【0072】
図7(b)に示すように、軸受部材4Aの内輪41Aの第1端部41Aaは、第1グリス保持部形成部材8の筒部8bに当接している。また内輪41Aの第2端部41Abは、規制部材45の第1端部45aに当接している。軸受部材4Bの内輪41Bの第1端部41Baは、第2グリス保持部形成部材9の筒部9bと当接している。また内輪41Bの第2端部41Bbは、規制部材45の第2端部45bと当接している。即ち、軸受部材4A、4Bは、両側の第1グリス保持部形成部材8及び第2グリス保持部形成部材9と中間の規制部材45とによってその位置が規制されている。
【0073】
外輪42Aの外周は第1保持部材51の内周と係合している。第1保持部材51の軸方向内側の端部51cは内周方向に延出し、外輪42Aの第2端部42Abと当接している。第1保持部材51の端部51cの反対側の端部は、外輪42Aの軸方向外側端面の位置から外周方向に延出し、さらに軸方向外側に屈曲して環状凸部51bが形成されている。
【0074】
外輪42Bの外周は第2保持部材52の内周と係合している。第2保持部材52の軸方向内側の端部52cは内周方向に延出し、外輪42Bの第2端部42Bbと当接している。第2保持部材52の端部52cの反対側の端部は、外輪42Bの軸方向外側端面の位置から外周方向に延出し、さらに軸方向外側に屈曲して環状凸部52bが形成されている。
【0075】
案内部材6の内周は、第1保持部材51と第2保持部材52の外周に係合している。そのため、案内部材6は、第1保持部材51と第2保持部材52を介して軸受部材4A、4Bの外輪42A、42Bとともに回転する。
【0076】
第1グリス保持部形成部材8は、支持軸24に接する筒部(環状凸部)8b、筒部8bから径方向に延出する平板部8dとから構成されている。平板部8dの軸方向の幅は筒部8bよりも小さい。そのため平板部8dと第1保持部材51及び軸受部材4Aとの間に隙間(空間)8fが形成されている。
【0077】
第1グリス保持部形成部材8は、軸方向外側の端部がベール23の第1端部23aの内側に設けた凹部23cに当接している。平板部8dの外周8gと凹部23cの壁部23dとの間に空間(環状凹部8a)が形成されている。この環状凹部8aに、第1保持部材51の環状凸部51bが隙間(環状凹部8aと環状凸部51bとがなす空間)8aを形成するように対向されている。
【0078】
隙間8fと隙間8aには撥水性グリス10が保持されている。隙間8fに保持された撥水性グリス10は、軸受部材4Aの外輪42Aの外側面42Acに接するように保持されており、海水等が軸受部材4Aの表面まで到達することを抑制する。
【0079】
第2グリス保持部形成部材9は、支持軸24に接する筒部(環状凸部)9b、筒部9bと径方向に間隔をあけて形成された筒部(環状凸部)9cを備える。筒部9bと筒部9cの間は、平板部9eで結合されている。平板部9eは、筒部9cの側に陥凹部(環状凹部)9aが形成されている。環状凹部9aには、第2保持部材52の環状凸部52bが隙間(環状凹部9aと環状凸部52bとがなす空間)9aを形成するように対向配置されている。また、環状凹部9aを除く平板部9eの軸方向の面と軸受部材4Bとの間は隙間9fが形成されている。
【0080】
隙間9fと隙間9aには撥水性グリス10が保持されている。隙間9fに保持された撥水性グリス10は、外輪42Bの外側面42Bcに接するように保持されており、海水等が軸受部材4Bの表面まで到達することを抑制する。
【0081】
筒部9cは第2グリス保持部形成部材9の最も外周側に配設されており、その内周にグリス受部9gが形成されている。撥水性グリス10は通常の使用条件下で流れ出すことのないよう十分な稠度を有するように調製されている。しかしラインローラには
図7(b)の上方向に強い遠心力が働くため、一部が流れ出る可能性がある。グリス受部9gは、万一撥水性グリス10が流れ出た場合にそれを受け止めるための空間である。なお、このようなグリス受部9gを、第1グリス保持部形成部材8の側にも設けてもよい。
【0082】
以上の構成を有するラインローラ3Aは、軸受部材4A、4Bの周囲に屈曲した狭隘な空間(ラビリンス)を形成したグリス保持部を有しているため、撥水性グリス10を保持する効果が高い。そのため、海水等がラインローラ3Aの外部から軸受部材4A、4Bの周囲まで侵入することを効果的に抑制でき、海水等を原因とする軸受部材4A、4Bの不具合を抑制することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて以下のように種々の変更が可能である。また、各部材の材質についても例示のものに限られず、必要な機能と耐久性を有する公知の材料を適宜用いることができる。
【0084】
(変形例1)
実施形態1では、第1グリス保持部形成部材8及び第2グリス保持部形成部材9は1つの環状凹部材として構成した。しかし第1及び第2グリス保持部形成部材8、9の構成はこれに限られず、複数の部材で構成してもよい。
【0085】
変形例1に係るラインローラ3は、
図8に示すように、第1グリス保持部形成部材8の環状凹部8aは、筒部8cと径方向に延在する平板部8dを有する部材8Aに、支持軸24の周囲に形成された筒状部材8Bを当接させて形成されている。
【0086】
筒部8cと筒状部材8Bとの間隔や、筒状部材8Bの軸方向の長さは、環状凹部8aに第1シール部51bを対向させたときに、両者の間に隙間(環状凹部8aと第1シール部51bとがなす空間)8aが形成される寸法に構成されている。この空間8aに撥水性グリス10が保持されている。なお、筒状部材8Bは軸受部材4の位置を規制する規制部材を兼ねている。また第2グリス保持部形成部材9にも同様な構成を用いている。即ち、部材9Aと筒状部材9Bとを組み合わせて隙間(環状凹部9a)を構成し、第2シール部52bと対向させ、その隙間(環状凹部9aと第2シール部52bとがなす空間)9aに撥水性グリス10が保持されている。このような構成でも実施形態1と同様の効果が得られる。
【0087】
変形例1では、実施形態1に比べて第1及び第2グリス保持部形成部材8、9の製造が容易となり、安価にグリス保持部を形成することができる。例えば、部材8Aはプレス部材とし、筒状部材8Bは切削部材として製造することができ、一体成形や削り出しで成形する第1グリス保持部形成部材8よりも安価に製造できる。
【0088】
(変形例2)
第1及び第2グリス保持部形成部材8、9の構造として、ベール23の第1端部23aや第1ベール支持部材21の第2端部21bの一部を組み合わせることができる。変形例2では、
図9に示すように、ベール23の第1端部23aの内側に凹部23cが形成されている。凹部23cの端部に接するように、筒状部材8Bが配置されている。凹部23cと筒状部材8Bの外表面との間に環状凹部8aが形成されている。この環状凹部8aと第1保持部材51の第1シール部51bとを対向させると、両者の間に隙間(空間)が生じる寸法で第1端部23aと筒状部材8Bが構成されている。そしてこの空間に撥水性グリス10が保持されている。
【0089】
また第1ベール支持部材21の第2端部21bの内側に、突起21eとさらにその内側に凹部21dが形成されている。規制部材7が凹部21dの側面に当接して配置され、支持軸24に接して形成された筒状部材9Bが規制部材7と軸受部材4の内輪41に挟まれて配置されている。突起と規制部材7と筒状部材9Bとに囲まれた領域が環状凹部9aとなる。環状凹部9aと第2シール部52bとを対向させて形成される隙間(空間)に撥水性グリス10が保持されている。このような構成でも実施形態1と同様の効果が得られる。
【0090】
変形例2では、ベール23の第1端部23aや第1ベール支持部材21の第2端部21bの構造を一部変更するだけで、変形例1に比べて部材8Aや部材9Aを省略することができ、製造コストをさらに削減することができる。
【0091】
(変形例3)
実施形態1では、環状凹部を形成してグリス保持部を構成した。しかしグリス保持部の構造はこれに限られない。例えば、軸方向に、互いに対向する方向に一以上の環状凸部(材)を隙間(空間)を有して隣接して配置し、その空間に撥水性グリス10を保持してもよい(図示せず)。
【0092】
実施形態1では、コの字状に屈曲した隙間(空間)を形成してその間に撥水性グリス10を保持したが、必ずしもコの字状に屈曲した隙間でなくともよい。上記のように、2つの環状凸部の直線状の隙間(空間)に撥水性グリス10を保持する構成でもよい。また、隙間がクランク状に屈曲するように凸部材、凹部材等を組み合わせてもよい。この場合もベール部材やベール支持部材を利用してもよい。
【0093】
(変形例4)
実施形態1や2では、軸受部材4の回転軸方向に延出する環状凸部や軸方向に陥凹する環状凹部を形成してグリス保持部が構成されている。しかしこれに限らず、軸方向に直交する方向(径方向)に環状凸部や環状凹部を形成して組み合わせてもよい(図示せず)。
【0094】
(変形例5)
実施形態1、2では、環状凹部と環状凸部を形成してグリス保持部を構成した。しかしグリス保持部はこれに限定されない。
【0095】
図10に示す変形例5に係るラインローラ3は、軸受部材4の両側に弾性部材からなるリップシール80、90を形成して撥水性グリス10を保持している。リップシール80、90は、合成ゴム又は天然ゴムなどによって形成することができ、具体的にはブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であるニトリルブタジエンゴム等によって形成することができる。
【0096】
変形例5に係るラインローラ3は、案内部材6と軸受部材4との間に保持部材5を設けていない。リップシール80は、案内部材6の一方の端部に形成された段差部6aに固定された固定部81と、固定部81から先端部に向かって厚さが薄くなるリップ部82とからなる。リップシール90は、案内部材6の他方の端部に形成された段差部6bに固定された固定部91と、固定部91から先端部に向かって厚さが薄くなるリップ部92とからなる。
【0097】
リップ部82、92の先端は、それぞれ軸受部材4の位置を規制する規制部材7A、7Bに接している。撥水性グリス10は、リップシール80と軸受部材4との間、及びリップシール90と軸受部材4との間に保持されている。この構造により、海水等が軸受部材4に到達することを抑制できる。
【0098】
なお、規制部材7A、7Bを設けずに、リップ部82、92が支持部材24に直接接するようにしてもよい。またリップシール80、90は、規制部材7A、7B(又は支持部材24)に固定部81、91を固定して、案内部材6の方向にリップ部82、92を向けて構成してもよい。また、保持部材5を設けて保持部材5にリップシール80、90を固定してもよい(いずれも図示せず)。
【0099】
(変形例6)
実施形態1、2では、軸受部材4としてボールベアリングを用いた。しかし軸受部材4はこれに限られない。例えば、軸受部材4として滑りスライダ軸受を用いてもよい。
【0100】
図11に示す変形例6のラインローラ3Aの軸受4A、4Bは環状のスライダ軸受である。案内部材6は、案内部材6を軸受4A、4Bと結合する第1及び第2保持部材51、52と一体となって軸受4A、4Bの外周面を摺動して回転する。軸受4A、4Bは金属や合成樹脂製とすることができ、合成樹脂製のものが好ましく用いられる。また、油膜等の潤滑剤を用いずに第1及び第2保持部材51、52が摺動しやすいものがメンテナンス上好ましい。スライダ軸受用の合成樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂やポリアセタール樹脂などの自己潤滑性を有する樹脂を用いることができる。
【0101】
また、軸受4A、4Bと案内部材6との間に第1及び第2保持部材51、52を設けなくともよい(図示せず)。その場合は、金属製の案内部材6の内周に合成樹脂層を配し、合成樹脂製の軸受4A、4Bと摺動させるようにしてもよい。また、金属製の案内部材6と金属製の軸受4A、4Bとを組み合わせてもよい。また、金属製の案内部材6と合成樹脂製の軸受4A、4Bとを組み合わせてもよい。
【0102】
(変形例7)
上記の実施形態において、グリスの保持性能をより高めるため、グリス保持空間を設けてもよい。実施形態2に係るラインローラ3Aにグリス保持部を設けた変形例7を
図12を参照して説明する。
【0103】
図12に示すように、第1グリス保持部形成部材8は、平板部8dの、軸受部材4Aの外輪42Aの外側面に面する位置に陥凹部であるグリス保持部(保持空間)8eを設けている。そしてグリス保持部8e、隙間8f、隙間8aに撥水性グリス10が保持されている。グリス保持部8eを設けたことにより、図の上方向に働く遠心力に対してグリスの保持力がさらに向上する。
【0104】
また、第2グリス保持部形成部材9の側においても、段差9dの、軸受部材4Bの外輪42Bの外側面に面する位置に陥凹部であるグリス保持部(保持空間)9hを設けている。そしてグリス保持部9f、隙間9j、隙間9aに撥水性グリス10が保持されている。グリス保持部9fを設けたことにより、図の上方向に働く遠心力に対してグリスの保持力がさらに向上する。
【0105】
(変形例8)
実施形態2のように2つの軸受部材4A、4Bを配置するタイプのラインローラ3Aにおいて、2つの軸受部材4A、4Bの間に潤滑専用のグリスを配置してもよい(図示せず)。軸受部材4A、4Bの両側には撥水性グリス10が保持されているが、撥水性グリス10は海水等が浸入することを防止するために撥水性を重視したグリスである。そのため、軸受部材4A、4Bの間に潤滑専用のグリスを配置することで、軸受部材4A、4Bの周囲に海水等が侵入することを抑制するとともに、潤滑性も向上させたラインローラとすることができる。
【0106】
さらに、軸受部材4A、4Bがボールベアリングである場合、ボールベアリングの内部にも潤滑用のグリスを充填してもよい。この構成により、軸受部材4A、4Bの潤滑性をさらに高めることができる。
【0107】
なお、撥水性グリス10は、軸受部材4、4A、4Bの側面や外周面に塗布して保持してもよい。また撥水性グリス10は、軸受部材4、4A、4Bの側面や外周面からグリス保持部の内部までの一部に充填してもよいし、全体にわたって充填してもよい。