(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記対象物と前記複数の光源のそれぞれのカットオフラインの相対位置との関係に基づいて前記複数の光源の点灯状態を調整することを特徴とする請求項1記載の車両の配光制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような従来の配光制御は、光源の機械的な部分遮光により眩惑を防止するようにしており、また、先行車両のテールライトや対向車両のヘッドライト等の発光する物体を検知して眩惑防止の対象としているため、緻密な配光パターンでの制御は困難である。
【0006】
例えば、
図5に示すように、道路P1を走行中、ハイビームの照射領域に、歩道上の歩行者H、先行車両C1、対向車両C2、道路P2から道路P1に左折或いは右折しようとする他車両C3が存在する場合、従来では、ロービームの照射領域L0のカットオフラインから前方の先行車両C1を含む領域Lc2全体と対向車両C2を含む領域Lc3全体が遮光される。また、歩行者Hnや側方から進入しようとしている他車両C3等の自身で発光していないものは検知対象とされないことから、歩行者Hnを含む領域Lc1全体と他車両C3の前部を含む領域Lc4全体に照明光が照射されてしまう。尚、
図5においては、便宜上、照明光が照射された領域を薄く塗りつぶして示している。
【0007】
このため、歩行者Hや他車両C3のドライバに眩惑を与えるばかりなく、ロービームのカットオフラインから先行車両C1下部のリヤバンパを含む領域や対向車両C2の手前までの領域が眩惑の虞がないにも拘わらず遮光されてしまい、夜間視界の確保が不十分となる虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、夜間視界を最大限に確保しつつ周辺他者への眩惑を抑制し、安全な交通環境の実現に寄与することのできる車両の配光制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による車両の配光制御装置は、複数の光源によって形成される所定の配光パターンの照明光を車両前方に照射する照明装置と、車両前方を撮像した画像を処理して前記照明光によって照射された対象物と前記照明光の輪郭とを認識する認識装置と、前記認識装置の認識結果に基づいて、前記複数の光源の点灯状態を個別に制御する制御装置とを備え、前記照明装置は、前記複数の光源の個々の照射領域毎にカットオフラインを設け
て前記カットオフラインの位置を記憶しておき、前記制御装置は、前記対象物に眩惑を与える可能性があるか否かを前記複数の光源の個々の照射領域毎に判断し、各照射領域毎の眩惑可能性に応じて前記複数の光源の点灯状態を個別に制御するとともに、
前記カットオフラインの現在の位置と記憶してある位置とを比較して前記カットオフラインのずれが発生しているか否かを調べ、ずれが発生している場合、該ずれを考慮して補正した照射領域の位置に基づいて前記複数の光源の点灯状態を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、夜間視界を最大限に確保しつつ周辺他者への眩惑を抑制することができ、安全な交通環境の実現に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、自動車等の車両の前方に照射する照明光の配光特性を制御する配光制御装置であり、車両前方を照明する照明装置10と、車両前方を撮像して前方の物体を検出する物体検出装置20と、物体検出装置20の検出結果に基づいて照明装置10を制御する制御装置30とを主として構成されている。
【0013】
尚、物体検出装置20と制御装置30は、車内ネットワーク100に接続されており、車内ネットワーク100に接続されるナビゲーション装置60、エンジン制御装置70、変速機制御装置80、ブレーキ制御装置90等の他の装置と各種データを送受信して必要な情報を取得する。
【0014】
照明装置10は、車両前方に向けてロービーム及びハイビームの照明光を照射するヘッドランプ部11と、ヘッドランプ部11の照射方向を可変するアクチュエータ部12と、ヘッドランプ部11及びアクチュエータ部12を駆動する駆動部13とを備えて構成されている。アクチュエータ部12には、照明光の光軸を左右方向に偏向させるスイブルアクチュエータと、照明光の光軸を上下方向に偏向させるレベリングアクチュエータとが備えられている。
【0015】
ヘッドランプ部11とアクチュエータ部12と駆動部13は、車両の左右に配置されており、左右の相違に関する構成を除いて基本的な構成は同様である。尚、駆動部13は、左右のヘッドランプ部11及びアクチュエータ部12をまとめて駆動する1つの装置として設けても良い。
【0016】
ヘッドランプ部11は、例えば発光ダイオード(LED)等からなる光源11aを、ランプハウジング内に複数配置して構成されている。これらの複数の光源11aは、ロービーム及びハイビームの照射領域のうち、少なくともハイビームの照射領域を複数の格子状の領域を組み合わせて形成するように配置されている。このため、各光源11aには、例えば矩形状の照射範囲となるようにリフレクタや投射レンズが配置されており、各光源11aの点灯/消灯が駆動部13によって個別に制御される。
【0017】
本実施の形態においては、
図2に示すように、ロービームの照射領域を単一の照射領域L0として、ハイビームの照射領域を、L1〜L8の8個の格子状の領域を配列して形成する。ロービームの照射領域L0及びハイビームの照射領域を形成する各格子の照射領域L1〜L8は、それぞれ1つの光源11aに対応している。各光源11aは、それぞれの照射範囲の周縁が互いに若干の重なりを有するように配置されており、ロービームとハイビームとの照射領域のカットオフラインは勿論のこと、ハイビームの照射領域内においても、個々の光源11a毎の点灯/消灯によって明瞭なカットオフラインを自由度高く設定することが可能となっている。
【0018】
駆動部13は、ヘッドランプ部11の各光源11aの点灯状態を個別に制御する点灯制御回路13aと、アクチュエータ部12のスイブルアクチュエータ及びレベリングアクチュエータを、それぞれ駆動するアクチュエータ駆動回路13bとを主として構成されている。点灯制御回路13a及びアクチュエータ駆動回路13bは、制御装置30によって制御され、点灯制御回路13aを介して複数の光源11aの点灯状態が制御されて配光パターンが形成されると共に、アクチュエータ駆動回路13bを介して照明光の光軸が調整され、適正な配光が維持される。
【0019】
尚、複数の光源11aによる格子状の照射領域がより細分化されてカットオフラインを実用上十分な範囲で自由に設定可能な場合には、アクチュエータ部12(スイブルアクチュエータ、レベリングアクチュエータ)は不要とすることができる。
【0020】
物体検出装置20は、車両前方を撮像するカメラユニット20aと、カメラユニット20aで撮像した画像を処理して自車の前方領域に存在する対向車両、先行車両、歩行者等の物体を検出する画像処理ユニット20bとを備えて構成されている。この物体検出装置20は、昼間の太陽光や夜間の照明装置10からの照明光によって照射された前方の対象物を認識する認識装置としての機能を有し、車両配光制御用の専用の認識装置として構成しても良く、自動ブレーキ制御、クルーズ制御、車線維持制御等の運転支援システムにおける交通環境情報取得装置の一部として構成されるものであっても良い。
【0021】
カメラユニット20aは、1台の単眼のカメラ、或いは距離情報を取得可能な2台1組のステレオカメラで構成され、車両前方をカラー又はモノクロ画像で撮像する。画像処理ユニット20bは、カメラユニット20aで撮像した画像を処理して自車両の走行車線上の前方を走行する先行車両や、対向車線を自車両に向かって走行してくる対向車両、道路側方の自転車や歩道上の歩行者、信号機や歩道橋等の物体を検出し、眩惑を与える可能性のある対象物を検出する。
【0022】
例えば、画像中の光の明るさや光の動き、色(例えば、ブレーキランプの発光色や反射光の色等)等の特徴量を抽出し、抽出した特徴量が所定の条件(明るさ、色、大きさ、パターン、動き等)を満たすか否かを調べ、先行車両、対向車両、歩行者等を、その形状も含めて検出する。このとき、物体検出装置20は、ナビゲーション装置60からの位置情報(カメラユニット20aがステレオカメラである場合には、物体と自車両との間の距離情報)に基づく自車両周囲の交通環境情報、エンジン制御装置70や変速機制御装置80等からの走行情報を取得し、自車両に対する物体の位置、速度等も併せて検出する。
【0023】
制御装置30は、物体検出装置20による対象物の検出結果に応じて、照明装置10を制御し、自車両前方に存在する先行車両や対向車両のドライバ、歩行者等に対する眩惑を防止するともに、照明装置10からの照明光の配光パターンを適切に制御し、前方領域の視認性を向上させる。対象物に眩惑を与える可能性があるか否かは、複数の光源11aの個々の照射領域毎に判断し、各照射領域毎の眩惑可能性に応じて複数の光源11aの点灯状態を個別に制御する。
【0024】
例えば、
図2に示すように、照明装置10から車両前方に向けてロービーム及びハイビームの照明光を照射しながら道路P1を走行中に、前方に先行車両C1、対向車両C2、歩道上の歩行者Hを検出し、また、対向車線側で交差する道路P2から左折或いは右折しようとする他車両C3の側面を検出した場合を例に取って説明する。このとき、制御装置30は、ハイビーム側の照射領域L1〜L8に対応する各光源を個別に点灯制御して、最適な配光パターンとなるように制御する。尚、
図2においては、便宜上、照明光が照射された領域を薄く塗りつぶして示している。
【0025】
具体的には、照明光によって照明された歩行者Hを認識した場合、歩行者Hの上半身に該当する領域L1の光源をOFF(消灯)とし、歩行者Hの下半身に該当する領域L5の光源はON(点灯)に維持する。従来の可変シェードによる配光制御では、発光していない場所には照明光を照射するため、歩行者Hの全身に照明光を照射して眩惑を与える虞があったが、本実施の形態においては、歩行者Hを認識した場合には直ちに上半身への照射を止めて下半身のみを照射する。これによ、歩行者Hに眩惑を与えることなく歩行者Hの足元を明るく照らすることができ、安全な歩行をアシストすることが可能となる。
【0026】
先行車両C1に対しては、先行車両C1の車室上部に該当する領域L2の光源をOFF、先行車両C1の後部バンパーに該当する領域L6の光源をONとする。すなわち、従来の可変シェード等による配光制御では、先行車両C1のテールライトの発光や反射光を検出して先行車両C1全体に照明光が照射されないようにして先行車両C1のドライバに眩惑を防止するようにしているのに対して、本実施の形態においては、先行車両C1の車室上部に照明光が照射されないようにして先行車両C1のドライバに対する眩惑を防止しつつ、自車両前方から先行車両C1の後部バンパー付近までを照らすようにしている。これにより、夜間視界を拡大して突発的な飛び出し等に対する自車両のドライバの視認を容易とし、安全を確保することができる。
【0027】
また、対向車両C2に対しても同様であり、従来のようにハイビーム側の対向車両C2を含む領域全体に照明光が照射されないようにするのではなく、ハイビームの照射領域で対向車両C2の手前側の領域L7の光源をONにしながら、対向車両C2に該当する領域L3の光源をOFFとする。これにより、対向車両C2のドライバに対する眩惑を防止しつつ、自車両前方から対向車両C2の手前までを照らして突発的な飛び出し等に対する自車両のドライバの視認を容易とし、安全を確保することができる。
【0028】
更に、道路P2からの発光が直接検出されない他車両C3に対しては、従来、他車両C3の前部側面に照明光を照射して他車両C3のドライバに眩惑を与える虞があったが、本実施の形態においては、他車両C3の車室上部に該当する領域L4の光源をOFFとして照明光が照射されないようにして、他車両C3のドライバに対する眩惑を防止する。他車両C3のフェンダ部分に該当する領域L8の光源はONに維持し、他車両Cの動きを容易に把握できるようにする。
【0029】
この場合、領域L1〜L8の点灯状態は、自車両に対する対象物の位置の変化に応じて調整する必要がある。また、積載重量の増加、タイヤの空気圧の変化等の要因によって照明光の光軸が規定の位置からずれてしまい、眩惑防止の各対象物に対して必ずしも最適な適切な配光とならない場合もある。
【0030】
従って、制御装置30は、領域L1〜L8の配光パターンが適切か否かを、各対象物の位置と各領域L1〜L8の格子毎のカットオフラインの位置との関係から判断し、その判断結果に基づいて複数の光源11aの点灯状態を調整する。また、必要に応じてスイブルアクチュエータやレベリングアクチュエータを駆動して照明光の光軸を調整する。これにより、常に最適な配光特性を維持することができる。
【0031】
次に、制御装置30で実行される配光制御のプログラム処理について、
図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0032】
この配光制御処理は、例えばライトスイッチをONして照明装置10から照明光を前方に照射したときに実行される処理であり、先ず、最初のステップS1において、車内ネットワーク100を介して自車両の現在位置や現在の車速等の走行環境情報を読み込む。
【0033】
次に、ステップS2へ進み、照明光によって照射された対象物の検出結果を物体検出装置20から読み込む。そして、ステップS3で、各照射領域毎に対象物に眩惑を与える領域(グレア領域)か否かを判断する。このグレア領域の判断は、例えば、認識した先行車両、対向車両、歩行者等の対象物の種別に応じて眩惑を与える画像上の位置を特定し、特定した位置を予め記憶されている画像上の各領域の位置と比較することで行う。照射領域に対応する画像領域内に、直接或いはバックミラー等を介して間接的に人物の顔の部分が含まれると想定される場合、その照射領域はグレア領域であると判断する。
【0034】
ステップS3において、所定の照射領域がグレア領域ではないと判断された場合、ステップS4で該当する照射領域の光源をONとしてステップS6へ進み、グレア領域と判断された場合、ステップS5でグレア領域とされた照射領域の光源をOFFとしてステップS6へ進む。そして、ステップS6で全照射領域の処理が完了したか否かを調べ、全照射領域の処理が完了していないときにはステップS3へ戻って上述の処理を繰り返し、全照射領域の処理が完了したとき、ステップS7へ進む。
【0035】
ステップS7では、各照射領域のカットオフラインの位置が規定位置からずれているか否かを調べる。カットオフラインの規定位置は、予め規定の車高で照明装置10のヘッドランプ部11と物体検出装置20のカメラユニット20aとを規定の状態に保持したとき、ヘッドランプ部11の複数の光源11aの点灯状態に応じて形成されるカットオフラインの画像中の位置であり、ロービームの照射領域とハイビームの照射領域との境界を含めて、複数の点灯状態のパターンにおけるカットオフラインの位置を記憶しておく。
【0036】
そして、現在のカットオフラインの位置を記憶してある位置と比較して、ずれが発生しているか否かを調べ、ずれが発生している場合、ステップS7からステップS8へ進み、カットオフラインのずれを考慮して補正した照射領域の位置に基づいてグレア領域を再判定する。そして、再判定の結果、グレア領域となる照射領域があれば、その光源をOFFし、また、グレア領域でないと再判定された照射領域があれば、その光源をONすることで、カットオフラインを調整(移動)して適正な配光パターンとなるようにする。
【0037】
このように本実施の形態においては、複数の光源によって形成される配光パターンで車両前方を照明する際、照明光によって照射された対象物の認識結果に基づいて、対象物に眩惑を与える可能性があるか否かを複数の光源の個々の照射領域毎に判断する。そして、各照射領域毎の眩惑可能性に応じて複数の光源の点灯状態を個別に制御するため、夜間視界を最大限に確保しつつ周辺他者への眩惑を抑制し、安全な交通環境の実現に寄与することができる。
【0038】
ここで、配光のカットオフラインは天候や周囲の環境により常に輪郭が明確に表れないことがあり、カットオフラインと認識装置で認識された対象物の相対関係の精度低下につながることがある。特に、点灯/消灯を判断する対象の照射範囲が単独では認識しにくい場合、精度低下が懸念される。この際には複数配光のそれぞれのカットオフラインの相対位置を認識し、照射範囲の端末認識位置を補正することで、点灯/消灯を判定しようとしている光源の照射範囲の更なる適正化が可能となる(判定したい照射範囲が他の照射範囲に対し、相対的に輪郭を認識しにくい環境下においては有効な精度向上手段となる)。
【0039】
例えば、
図4に示すように、歩行者Hに対する照射領域L5のカットオフラインAが明瞭でない場合、領域L1,L5のそれぞれのカットオフラインの相対位置よりAのラインの端末認識位置を特定し、領域L1,L5に対応する各光源の点灯/消灯の制御を補正することで、1つの照射範囲のカットオフラインから判断するよりも精度を向上することができる。