特許第6700912号(P6700912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6700912軋み音低減材料及びそれを含む塗料組成物並びに塗装物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6700912
(24)【登録日】2020年5月8日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】軋み音低減材料及びそれを含む塗料組成物並びに塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20200518BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20200518BHJP
   C08F 255/02 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/40
   C08F255/02
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-69306(P2016-69306)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179135(P2017-179135A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】野村 博幸
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−241885(JP,A)
【文献】 特開平08−027409(JP,A)
【文献】 特開2015−105335(JP,A)
【文献】 特開2015−212371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B05D 1/00− 7/26
C08F 251/00−251/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他部材と接触する皮膜を与える塗料組成物に配合する軋み音低減材料であって、
ゴム質重合体に由来するゴム質重合体部と、ビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂部とを備え
前記ゴム質重合体がエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体であり、
前記ゴム質重合体部と前記樹脂部とが化学的に結合している軋み音低減材料。
【請求項2】
前記ゴム質重合体部及び前記樹脂部の質量割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、40〜90質量%及び10〜60質量%である請求項1に記載の軋み音低減材料。
【請求項3】
前記ビニル系単量体が、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む請求項1又は2に記載の軋み音低減材料。
【請求項4】
皮膜形成用樹脂と、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の軋み音低減材料とを含有する軋み音低減塗料組成物。
【請求項5】
前記軋み音低減材料の含有量が、前記皮膜形成用樹脂の含有量を100質量部とした場合に1〜30質量部である請求項4に記載の軋み音低減塗料組成物。
【請求項6】
基材の表面の少なくとも一部に、請求項4又は5に記載の軋み音低減塗料組成物を用いて得られた皮膜が形成されてなる塗装物品。
【請求項7】
前記基材が熱可塑性樹脂を含む請求項6に記載の塗装物品。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の塗装物品の複数を組み付けてなる複合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他部材との接触により軋み音の発生が低減され、且つ、外観性に優れる皮膜を与える塗料組成物及びそれに配合される軋み音低減材料並びに塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料組成物は、有機材料、無機材料、天然材料等の表面に塗布されて、各種用途に応じた性能を有する皮膜形成に用いられている。そして、このような皮膜を有する塗装物品は、車両、OA(オフィスオートメーション)機器、精密機器、家庭電化機器、家具、日用品、玩具等の分野において、広く利用されている。これらの用途において、例えば、外観性を損なわないようにする等のために、塗装物品どうし、又は、塗装物品と他の物品とを限りなく接触状態とする、あるいは、密着させることは少なくない。しかしながら、これらの態様において、振動、回転、ねじれ、摺動、衝撃等により、一方若しくは両方が移動又は変形して動的に接触し、不快な軋み音(擦れ音)の発生が好ましくない場合があるため、塗装皮膜及び塗料組成物の改良が試みられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクリル−塩化ビニル系塗料用樹脂に、平均粒径が1〜50μmの範囲にある球形又は塊状のゴム系微粒子(NBRゴム微粒子又はSBRゴム微粒子)を固形分として1〜60重量%の範囲で含有させたことを特徴とする軋み音防止表面処理剤が開示されている。特許文献2には、アクリルを40〜60重量%の範囲で含有するアクリル−塩化ビニル系着色塗料用樹脂に、該塗料用樹脂100重量%に対し、平均粒径が1〜50μmの範囲にある球状のウレタン粒子を固形分として2〜70重量%と、平均分子量4000〜20000の範囲にある球状のポリエチレンワックスを固形分として2〜6重量%とを含有させたことを特徴とする軋み音防止表面処理剤が開示されている。特許文献3には、表面処理剤に、平均粒径5〜200nmの球状セラミック粒子(酸化ケイ素又は酸化アルミニウム)を含有させて成ることを特徴とする軋み音防止表面処理剤が開示されている。また、特許文献4には、塗膜が形成されたプラスチック成形体と金属メッキ層が形成されたプラスチック成形体とを組み付けた組付構造体に使用される、塗膜が形成されたプラスチック成形体が開示されており、塗膜が、(A)水酸基含有アクリル樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、(C)着色顔料及び/又は光輝性顔料、(D)シリカ系艶消し剤、並びに(E)シリコーン系添加剤を含む塗料組成物から形成された塗膜であることが記載されている。
【0004】
ここで、軋み音は、二つの物体が擦れ合った際に発生するスティックスリップ現象に起因する音であり、物体どうしの摺動性とは異なるものといわれている。
スティックスリップ現象は、図6に示されるように、摩擦力が周期的に大きく変動する現象として理解されており、より具体的には、図7に示されるようにして発生する。即ち、図7(a)のモデルで示されるように駆動速度Vで動く駆動台の上にバネでつながれた物体Mが置かれた場合、物体Mは、先ず、静摩擦力の作用により駆動速度Vで移動する台とともに図7(b)のように右方向に移動する。そして、バネによって元に戻されようとする力が、この静摩擦力と等しくなったとき、物体Mは駆動速度Vと逆の方向に滑り出す。このときに、物体Mは動摩擦力を受けることになるので、バネの力とこの動摩擦力が等しくなった図7(c)の時点で滑りが止まり、即ち、駆動台に付着することになり、再び駆動速度Vと同じ方向に移動することになる(図7(d))。これをスティックスリップ現象といい、図6に示されるように、静摩擦係数μsと、ノコギリ波形下端の摩擦係数μlとの差Δμが大きいと、軋み音が発生しやすくなるといわれている。尚、動摩擦係数は、μs及びμlの中間の値になる。よって、静摩擦係数の絶対値が小さくても、Δμが大きければ、軋み音が発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−27409号公報
【特許文献2】特開平8−176491号公報
【特許文献3】特開2006−28444号公報
【特許文献4】特開2013−226814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軋み音は、自動車室内、オフィス内、住宅室内等の快適性や静粛性を損ねる大きな原因となっており、軋み音の発生の抑制や低減が強く要求されている。
本発明の目的は、同一若しくは他の材料からなる他の部品に接触させて複合構造物としたり、わずかな隙間を介して隣接させたりするのに好適な塗装物品であって、この塗装物品及び他の部品の一方若しくは両方が移動又は変形して動的接触した場合に、軋み音の発生が低減され、且つ、外観性に優れる皮膜を与える塗料組成物及びそれに配合される軋み音低減材料並びに塗装物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
1.他部材との接触により軋み音の発生が低減される皮膜を与える塗料組成物に配合する軋み音低減材料であって、
ゴム質重合体に由来するゴム質重合体部と、ビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂部とを備える軋み音低減材料。
2.上記ゴム質重合体部及び前記樹脂部の質量割合が、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、40〜90質量%及び10〜60質量%である上記項1に記載の軋み音低減材料。
3.上記ゴム質重合体がエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体である上記項1又は2に記載の軋み音低減材料。
4.皮膜形成用樹脂と、上記項1乃至3のいずれか一項に記載の軋み音低減材料とを含有する軋み音低減塗料組成物。
5.上記軋み音低減材料の含有量が、前記皮膜形成用樹脂の含有量を100質量部とした場合に1〜30質量部である上記項4に記載の軋み音低減塗料組成物。
6.基材の表面の少なくとも一部に、上記項4又は5に記載の軋み音低減塗料組成物を用いて得られた皮膜が形成されてなる塗装物品。
7.上記基材が熱可塑性樹脂を含む上記項6に記載の塗装物品。
8.上記項6又は7に記載の塗装物品の複数を組み付けてなる複合物。
【0008】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基を、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軋み音低減材料によれば、他部材との接触により軋み音の発生が低減され、且つ、外観性に優れる皮膜の形成に好適な塗料組成物、表面改質剤組成物等を与えることができる。
本発明の塗料組成物によれば、他部材との接触により軋み音の発生が低減され、且つ、外観性に優れる皮膜を与えることができる。
本発明の塗装物品によれば、他部材との接触により軋み音の発生を低減させることができ、且つ、外観性に優れる。
本発明の複合物によれば、振動、回転、ねじれ、摺動、衝撃等により、一方若しくは両方の塗装物品が移動又は変形して動的に接触した場合に、軋み音の発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の塗装物品の一例を示す概略図である。
図2】本発明の複合物の一例を示す概略図である。
図3】本発明の複合物の他例を示す概略図である。
図4】本発明の塗装物品を他の部材(樹脂部品)と組み合わせてなる他の複合物の一例を示す概略図である。
図5】〔実施例〕における軋み音評価の方法を示す概略斜視図である。
図6】スティックスリップ現象の説明図である。
図7】(a)、(b)、(c)、(d)はスティックスリップのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.軋み音低減材料
本発明の軋み音低減材料は、ゴム質重合体に由来するゴム質重合体部(以下、「ゴム質重合体部(a1)」ともいう)と、ビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂部(以下、「樹脂部(a2)」ともいう)とを備え、好ましくは、ゴム質重合体部(a1)と、樹脂部(a2)とが化学的に結合しているグラフト樹脂からなる。本発明の軋み音低減材料は、これを含有する塗料組成物、表面改質剤組成物等として、塗布後に形成される皮膜等の好ましくは最表面に配置させて、他の部材と動的接触した場合の軋み音の発生を低減させる材料である。以下、ゴム質重合体部と、樹脂部とを備えるグラフト樹脂について、詳述する。
【0012】
上記ゴム質重合体部(a1)を形成するゴム質重合体は、25℃でゴム質(ゴム弾性を有する)であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。また、ゴム質重合体は、非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム質重合体」という)及びジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム質重合体」という)のいずれを用いてもよい。また、これらのゴム質重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。
【0013】
上記非ジエン系ゴム質重合体としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体を水素添加(但し、水素添加率は80%以上。)させてなる水素添加重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0014】
また、上記ジエン系ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、アクリロニトリル・イソプレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は、水素添加(但し、水素添加率は80%未満。)されたものであってもよい。
【0015】
本発明において、上記ゴム質重合体は、非ジエン系ゴム質重合体であるエチレン・α−オレフィン系共重合体からなるゴム質重合体(以下、「エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体」ともいう)であることが好ましい。
【0016】
上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体は、エチレンに由来する構造単位と、α−オレフィンに由来する構造単位とを含むものであれば、特に限定されない。
α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。α−オレフィンの炭素原子数は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、更に好ましくは3〜8である。
【0017】
上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体に含まれる、エチレンに由来する構造単位及びα−オレフィンに由来する構造単位の含有割合は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、両者の合計を100質量%とした場合に、好ましくは5〜95質量%及び95〜5質量%、より好ましくは50〜95質量%及び50〜5質量%、更に好ましくは60〜95質量%及び40〜5質量%である。
【0018】
本発明において、好ましいエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体は、JIS K 7121−1987に準ずる融点(以下、「Tm」と表記する)が0〜120℃の範囲にあるゴム質重合体であり、その限りにおいて、他の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。他の単量体としては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類等の非共役ジエン化合物が挙げられ、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネン及びジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエン化合物は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。非共役ジエン化合物に由来する構造単位の含有量の上限は、上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体を構成する構造単位の全量を100質量%とした場合に、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%、更に好ましくは3質量%である。尚、上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体のTmは、より好ましくは0〜100℃、更に好ましくは20〜80℃である。上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体のTmが0〜100℃の範囲に存在することは、結晶性を有することを意味し、このような結晶性部分が存在する軋み音低減材料を含む皮膜が他の部材と動的接触した場合、スティックスリップ現象の発生が抑制されるため、軋み音の発生が低減されるものと考えられる。
【0019】
上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、エチレンに由来する構造単位と、α−オレフィンに由来する構造単位とからなるエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。中でも、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0020】
上記ゴム質重合体部(a1)がエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体に由来する部分(以下、「ゴム質重合体部(a11)」ともいう)である場合、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、グラフト樹脂に含まれるゴム質重合体部(a11)の割合は、上記グラフト樹脂を100質量%とした場合に、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
【0021】
本発明において、上記ゴム質重合体部(a1)は、エチレン・α−オレフィン系ゴム重合体に由来するゴム質重合体部(a11)、及び、その他のゴム質重合体に由来するゴム質重合体部(以下、「ゴム質重合体部(a12)」ともいう)からなるものとすることができる。他のゴム質重合体としては、例えば、1,3−ブタジエン又はイソプレンに由来する構造単位を有する(共)重合体からなるジエン系ゴム質重合体を用いることができる。
【0022】
上記ゴム質重合体部(a1)が、ゴム質重合体部(a11)及び(a12)を含む場合、両者の含有割合は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは15〜98質量%及び2〜85質量%、より好ましくは25〜95質量%及び5〜75質量%、更に好ましくは35〜90質量%及び10〜65質量%である。
【0023】
また、上記グラフト樹脂に対する、ゴム質重合体部(a11)及び(a12)の合計量の割合、即ち、ゴム質重合体部(a1)の割合は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、上記グラフト樹脂を100質量%とした場合に、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは40〜85質量%、更に好ましくは55〜80質量%である。
【0024】
上記樹脂部(a2)は、好ましくは、ビニル系樹脂に由来する部分である。このビニル系樹脂は、ビニル系単量体(以下、「ビニル系単量体(m1)」ともいう。)に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体であり、好ましくは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体である。即ち、上記樹脂部(a2)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の一種又は二種以上からなるビニル系(共)重合体部であってよいし、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の一種又は二種以上と、他のビニル系単量体に由来する構造単位の一種又は二種以上と、からなるビニル系共重合体部であってもよい。
尚、上記樹脂部(a2)を構成するビニル系樹脂に含まれる、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、上記樹脂部(a2)全体を100質量%とした場合に、好ましくは55質量%、より好ましくは65質量%、更に好ましくは70質量%である。
【0025】
上記芳香族ビニル化合物は、少なくとも一つのビニル結合と、少なくとも一つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されない。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0026】
また、他のビニル系単量体としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。また、上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリルが好ましい。
【0028】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのうち、N−フェニルマレイミドが好ましい。また、これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。尚、上記樹脂部(a2)に、マレイミド系化合物に由来する構造単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸の不飽和ジカルボン酸無水物を共重合し、その後イミド化する方法でもよい。
【0030】
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記アミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジエチルアミノメチル、アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、メタクリル酸ジエチルアミノメチル、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、p−アミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N−メチルアクリルアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アミド基含有不飽和化合物としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルにε−カプロラクトンを付加して得られた化合物等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、2−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、3−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−α−メチルスチレン、4−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−ビニルナフタレン、4−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、7−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、8−ヒドロキシメチル−1−イソプロペニルナフタレン、p−ビニルベンジルアルコール、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記エポキシ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは二つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン、4−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0034】
上記樹脂部(a2)を構成するビニル系樹脂が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、他のビニル系単量体に由来する構造単位とからなる場合、他のビニル系単量体としては、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物等を含むことが好ましい。
上記ビニル系単量体(m1)が、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、これらの合計使用量は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、ビニル系単量体(m1)全量に対し、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは60〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%である。また、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用比率は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、これらの合計を100質量%とした場合、それぞれ、好ましくは55〜95質量%及び5〜45質量%、より好ましくは65〜90質量%及び10〜35質量%、更に好ましくは70〜85質量%及び15〜30質量%である。
【0035】
上記グラフト樹脂を構成するゴム質重合体部(a1)及び樹脂部(a2)の含有割合は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは40〜90質量%及び10〜60質量%、より好ましくは45〜85質量%及び15〜55質量%、更に好ましくは50〜80質量%及び20〜50質量%である。
【0036】
上記グラフト樹脂は、ゴム質重合体として、好ましくはエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体(m1)を重合する方法によって得られたゴム強化樹脂組成物に含まれるエチレン・α−オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂からなる非ジエン系グラフト樹脂であり、特に好ましくは、エチレンに由来する構造単位と、α−オレフィンに由来する構造単位とからなるエチレン・α−オレフィン共重合体の存在下に、ビニル系単量体(m1)を重合する方法によって得られたゴム強化樹脂組成物に含まれるエチレン・α−オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂である。
【0037】
上記ゴム強化樹脂組成物を製造するために、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体(m1)を重合する方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法が挙げられる。これらの重合方法においては、適宜、適切な重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を用いることができる。
【0038】
上記の重合法により製造されたゴム強化樹脂組成物は、主として、グラフト樹脂を含み、更に、未反応のゴム質重合体や、ゴム質重合体部(a1)に化学的に結合していない、ビニル系単量体(m1)に由来する構造単位を含むビニル系(共)重合体を含むことがある。
【0039】
上記グラフト樹脂におけるグラフト率は、軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果の観点から、好ましくは10〜100%であり、より好ましくは20〜85%、更に好ましくは30〜75%である。
【0040】
上記グラフト率は、下記式(1)により求められる。
グラフト率(質量%)={(S−T)/T}×100 (1)
(式中、Sは、製造されたゴム強化樹脂組成物1gをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離・乾燥して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム強化樹脂組成物1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。)
【0041】
本発明の軋み音低減材料は、塗料組成物(液体塗料及び粉体塗料)、表面改質剤組成物等の原料成分として、これら組成物の固形分(軋み音低減材料を含む)を100質量%とした場合に、好ましくは25質量%以上、より好ましくは20質量%以上の含有量とし、塗布、皮膜化等を行った後、得られる皮膜に含まれる軋み音低減材料の割合を、好ましくは0.1g/m以上とすることにより、本発明における軋み音発生の十分な低減効果を得ることができる。
【0042】
2.軋み音低減塗料組成物
本発明の軋み音低減塗料組成物(以下、単に、「塗料組成物」ともいう。)は、上記本発明の軋み音低減材料と、皮膜形成用樹脂とを含有する組成物であり、自然乾燥用塗料、熱硬化性塗料、光硬化性塗料等のいずれでもよい。また、本発明の塗料組成物における軋み音低減材料の含有量は、この軋み音低減材料を含む皮膜における軋み音発生の低減効果を備えつつ、外観性に優れた皮膜を与えることから、皮膜形成用樹脂の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、更に好ましくは3〜20質量部である。尚、皮膜は、硬化触媒(硬化剤等)の作用により形成される場合とそうでない場合とがあるが、塗料組成物が硬化触媒(硬化剤等)を含有する場合には、皮膜形成用樹脂は、硬化用樹脂と硬化触媒(硬化剤)とからなるものとする。
本発明の塗料組成物は、液体塗料又は粉体塗料とすることができる。これらのうち、液体塗料が好ましい。
【0043】
本発明の塗料組成物が液体塗料である場合、溶剤系塗料及び水系塗料のいずれでもよい。
溶剤系塗料の場合、皮膜形成用樹脂に用いられる樹脂(硬化用樹脂を含む)として、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂又はその前駆体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ガムロジン、ライムロジン等のロジン系樹脂、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ニトロセルロース、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のロジン変性樹脂、石油樹脂等を用いることができる。
また、水系塗料の場合、皮膜形成用樹脂に用いられる樹脂(硬化用樹脂を含む)として、アクリル樹脂、スチレン・マレイン酸共重合樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂又はその前駆体、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0044】
本発明の塗料組成物が液体塗料である場合、更に、着色剤、油脂、消泡剤、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化触媒、防カビ剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含有することができる。また、溶剤系塗料の場合には、溶剤として、大豆油、トルエン、キシレン、シンナー、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット等の石油系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;脂肪族炭化水素等を用いることができる。そして、水系塗料の場合には、水系媒体として、水と、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルキレングリコール;グリセリン、2−ピロリドン等の水溶性有機溶剤とを組み合わせたものとすることができる。
【0045】
本発明の塗料組成物は、溶剤系塗料であることが好ましく、外観性に優れた皮膜を与える、1液型ポリウレタン塗料組成物、2液型ポリウレタン塗料組成物、メラミン樹脂硬化系塗料組成物、酸−エポキシ硬化系塗料組成物等とすることができる。これらのうち、1液型ポリウレタン塗料組成物及び2液型ポリウレタン塗料組成物が好ましく、2液型ポリウレタン塗料組成物が特に好ましい。
【0046】
上記2液型ポリウレタン塗料組成物は、通常、ヒドロキシル基含有樹脂を含む主剤成分(t1)と、硬化触媒であるポリイソシアネートを含む硬化剤成分(t2)とを、塗装前に混合して調製されるものであり、軋み音低減材料は、主剤成分(t1)及び硬化剤成分(t2)のいずれに含有されていてもよく、塗装前に配合されてもよい。
【0047】
上記主剤成分(t1)に含まれるヒドロキシル基含有樹脂は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂等であって、分子中に少なくとも2個のヒドロキシル基を有するものであることが好ましい。主剤成分(t1)に含まれるヒドロキシル基含有樹脂は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。本発明において、ヒドロキシル基含有樹脂は、ヒドロキシル基を2個以上有するアクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0048】
ヒドロキシル基を2個以上有するアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸と炭素原子数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸と炭素原子数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物のε−カプロラクトン変性体、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコ−ル、分子末端がヒドロキシル基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有アクリル系単量体に由来する構造単位と、必要に応じて、他の単量体に由来する構造単位とを含むものとすることができる。
尚、(メタ)アクリル酸と炭素原子数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
他の単量体としては、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルコキシシリル基を有する重合性不飽和化合物、マレイミド系化合物、ビニルエステル、アミノ基を有する重合性不飽和化合物、アミド基を有する重合性不飽和化合物、エポキシ基を有する重合性不飽和化合物、カルボキシル基を有する重合性不飽和化合物等が挙げられる。
【0050】
ヒドロキシル基を2個以上有するアクリル樹脂の固形分あたりの水酸基価は、皮膜形成性の観点から、好ましくは5〜200mgKOH/gである。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量は、好ましくは3000〜100000である。
【0051】
本発明において、ヒドロキシル基含有樹脂が、更に、ヒドロキシル基を2個以上有するポリエステル樹脂を含むことも好ましい態様である。
【0052】
上記主剤成分(t1)は、ヒドロキシル基含有樹脂以外に、着色剤、界面活性剤、消泡剤、硬化触媒、防カビ剤、沈降防止剤、溶剤等を含有することができる。
【0053】
上記硬化剤成分(t2)に含まれるポリイソシアネートは、1分子中に遊離のイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、従来、公知の化合物を使用することができる。例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、これらポリイソシアネートの誘導体等を挙げることができる。
【0054】
ポリイソシアネートの誘導体としては、上記の各ポリイソシアネートのダイマー、トリマー、ビュウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、クルードTDI等が挙げられる。
【0055】
上記硬化剤成分(t2)は、ポリイソシアネート以外に、界面活性剤、消泡剤、硬化触媒、防カビ剤、沈降防止剤、溶剤等を含有することができる。
【0056】
上記2液型ポリウレタン塗料組成物は、通常、別々に保管された主剤成分(t1)及び硬化剤成分(t2)を、使用者が塗装前に混合して得られるものであり、これらの使用量は、主剤成分(t1)に含まれるヒドロキシル基1当量に対し、硬化剤成分(t2)に含まれるイソシアネート基の当量比が好ましくは0.3〜1.6、より好ましくは0.5〜1.4の範囲に入るように調整される。
【0057】
上記2液型ポリウレタン塗料組成物は、常温(18℃〜35℃程度)で硬化することができ、必要に応じて、40℃〜90℃程度の温度で加熱硬化させてもよい。
【0058】
本発明の塗料組成物が液体塗料である場合、その種類によらず、初期調製時の粘度(20℃におけるフォードカップNo.4による測定値)は、好ましくは10〜30秒である。
【0059】
本発明の塗料組成物を用いて、有機材料又は無機材料からなる表面部を有する物品(被塗物)の該表面部、即ち、塗装面に対して、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り、流し塗り、静電塗装、粉体塗装、電着塗装等の方法で塗膜を形成した後、乾燥処理等を行うことにより、軋み音低減効果を有する皮膜を得ることができる。尚、塗装面には、必要に応じて、予め、下塗り層の形成、表面処理等を行ってもよい。
【0060】
3.塗装物品及び複合物
本発明の塗装物品は、基材の表面の少なくとも一部に、上記本発明の軋み音低減塗料組成物を用いて得られた塗装皮膜(以下、「軋み音低減皮膜」という)が形成されてなる物品である。
図1は、本発明の塗装物品の一例であり、基材11の表面に軋み音低減皮膜13を有する塗装物品10を示す図である。本発明の塗装物品は、基材11の全面に軋み音低減皮膜13を有するものであってよいし、基材11の表面に軋み音低減皮膜13と、塗装、印刷、蒸着、スパッタリング、鍍金等により形成された他の皮膜とを有するものであってもよい(いずれも図示せず)。
【0061】
本発明の塗装物品において、上記基材を構成する材料は、特に限定されず、有機材料及び無機材料のいずれでもよいし、これらを含む複合材料でもよい。有機材料としては、熱可塑性樹脂、硬化樹脂等を、無機材料としては、金属、合金、セラミックス等を用いることができる。
【0062】
上記基材の形状も、特に限定されず、板状、線状、球状、環状、管状、網状又はこれらの変形物、更には、不定形状とすることができる。また、上記基材は、中実体又は中空体のいずれであってもよい。
【0063】
上記皮膜の厚さは、軋み音の低減効果、及び、皮膜の外観性の観点から、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜40μm、更に好ましくは7〜30μmである。また、上記皮膜に含まれる軋み音低減材料の割合は、好ましくは0.1g/m以上、より好ましくは0.2〜10g/m、更に好ましくは0.5〜8g/mである。
【0064】
本発明の塗装物品の複数を組み付けて、本発明の複合物とすることができる。本発明の複合物を構成する塗装物品の数は、2つでも、3つ以上でもよい。
図2及び図3は、本発明の複合物の例であり、図2の複合物20は、図1で示した塗装物品の2つを用いて軋み音低減皮膜13どうしが面するように組み付けたものである。また、図3の複合物20は、異なる形状の塗装物品どうしを組み付けたものである。図3において、軋み音低減皮膜13を肉厚に描写しているが、各塗装物品の軋み音低減皮膜13どうしが非接触であるか、あるいは、点又は線接触とした態様である。本発明では、図2及び図3のいずれの場合も、振動、回転、ねじれ、摺動、衝撃等により、一方若しくは両方の塗装物品が移動又は変形して動的に接触した場合に、軋み音の発生を低減させることができる。
【0065】
また、本発明の塗装物品を用いて、図4に示される他の複合物30とすることができる。図4は、基材11及び軋み音低減皮膜13を有する上記本発明の塗装物品と一部が、凹部を有する他の部材40の該凹部に嵌合された物品を示す図である。
【0066】
本発明の塗装物品及び複合物は、軋み音の低減効果及び外観性に優れ、車両、家電、建材等の分野における部材として好適である。例えば、高外観性が要求される、メーターバイザー、コンソールボックス、グローブボックス、カップホルダー等の車両内装用途、メーターフロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ等の車両外装用途に好適である。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0068】
1.軋み音低減材料
軋み音低減塗料組成物の製造に用いた軋み音低減材料は、以下の通りである。尚、グラフト率、極限粘度[η]等の測定は、上記記載の方法に準じて行った。
【0069】
実施例1−1
エチレン単位及びプロピレン単位の含有量がそれぞれ78%及び22%であるエチレン・プロピレン共重合体(Tm:40℃、Tg:−50℃、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):20)からなるゴム質重合体25部の存在下、スチレン52.5部及びアクリロニトリル22.5部を重合して得られたグラフト樹脂を軋み音低減材料(A1)として用いた。このグラフト樹脂は、エチレン・プロピレン共重合体に由来するゴム質重合体部25%と、スチレン単位45%と、アクリロニトリル単位30%とからなり、グラフト率は50%、極限粘度[η]は0.38dl/gである。
【0070】
実施例1−2
上記実施例1−1で用いたエチレン・プロピレン共重合体からなるゴム質重合体30部の存在下、スチレン52.5部及びアクリロニトリル17.5部を重合して得られたグラフト樹脂を軋み音低減材料(A2)として用いた。このグラフト樹脂は、エチレン・プロピレン共重合体に由来するゴム質重合体部30%と、スチレン単位55%と、アクリロニトリル単位25%とからなり、グラフト率は50%、極限粘度[η]は0.32dl/gである。
【0071】
実施例1−3
エチレン単位、プロピレン単位及びジシクロペンタジエンの含有量がそれぞれ63%、32%及び5%であるエチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体(Tm:なし、Tg:−52℃、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):33)からなるゴム質重合体30部の存在下、スチレン44部及びアクリロニトリル24部を重合して得られたグラフト樹脂を軋み音低減材料(A3)として用いた。このグラフト樹脂は、エチレン・プロピレン共重合体に由来するゴム質重合体部30%と、スチレン単位35%と、アクリロニトリル単位35%とからなり、グラフト率は60%、極限粘度[η]は0.40dl/gである。
【0072】
2.軋み音低減塗料組成物及び塗装物品の製造並びに評価
実施例2−1
日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製主剤樹脂溶液「トップコートR−241」(商品名)100部と、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製硬化剤溶液「R−255」(商品名)7部とを混合した2液硬化型塗料に、軋み音低減材料(A1)の5%トルエン溶液37部を加え、更に、組成物の初期粘度として、フォードカップNo.4による測定値が12〜15秒(20℃)の範囲に入るように、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製シンナー「T−801」(商品名)を加えて、混合し、軋み音低減塗料組成物(S1)を得た(表1参照)。
次に、テクノポリマー社製PC/ABSアロイ「エクセロイCK20」(商品名)を射出成形して得られた板状試験片(150mm×60mm×4mm)の表面に、軋み音低減塗料組成物(S1)をスプレー塗装し、20℃で5分間静置した後、電気オーブンを用いて80℃で30分間の熱処理を行った。これにより、厚さ20μmの皮膜を有する塗装板(M1)を得た。
【0073】
得られた塗装板(M1)について、下記の評価を行い、その結果を表1に併記した。
(1)スティックスリップ試験(異音リスク指数)
図5に示す要領で、塗装板(M1)(図5における符号50)の皮膜部13と、テクノポリマー社製PC/ABSアロイ「エクセロイCK20」(商品名)を射出成形して得られた板状試験片(50mm×25mm×4mm、図5における符号60)とを、ジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機「SSP−02」(型式名)にセットし、塗装板(M1)の皮膜部13の面と、板状試験片60の表面とを3回擦り合わせて、異音リスク指数を測定した。測定条件は、温度:23℃、湿度:50%RH、振幅:20mmであり、荷重は5N又は40N、速度は1mm/秒又は10mm/秒とした。尚、この評価は、擦り合わせる2枚の板を、予め、80℃±5℃に調整したオーブン内に300時間放置した後、取り出して、25℃で24時間静置し、熱老化(エージング)させたものについても行った。
異音リスク指数が小さいほど、軋み音の発生リスクが低くなる。
(2)外観観察
塗装面の光沢を、下記基準で判定した。
○:塗装面全体が観察する角度によらず均一な光沢が得られた。
△:観察する角度によって、一部光沢のよい個所と悪い個所があった。
×:塗装面全体に塗膜が波うち、光沢が得られなかった。
【0074】
実施例2−2
軋み音低減材料(A1)の5%トルエン溶液の使用量を75部とし、フォードカップNo.4による測定値が12〜15秒(20℃)の範囲に入るように、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製シンナー「T−801」(商品名)を加えた以外は、実施例2−1と同様の操作を行い、軋み音低減塗料組成物(S2)及び塗装板(M2)を製造し、評価した(表1参照)。
【0075】
実施例2−3
軋み音低減材料(A1)の5%トルエン溶液の使用量を112部とし、フォードカップNo.4による測定値が12〜15秒(20℃)の範囲に入るように、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製シンナー「T−801」(商品名)を加えた以外は、実施例2−1と同様の操作を行い、軋み音低減塗料組成物(S3)及び塗装板(M3)を製造し、評価した(表1参照)。
【0076】
実施例2−4
軋み音低減材料(A1)に代えて、軋み音低減材料(A2)を用いた以外は、実施例2−2と同様の操作を行い、軋み音低減塗料組成物(S4)及び塗装板(M4)を製造し、評価した(表1参照)。
【0077】
実施例2−5
軋み音低減材料(A1)に代えて、軋み音低減材料(A3)を用いた以外は、実施例2−2と同様の操作を行い、軋み音低減塗料組成物(S5)及び塗装板(M5)を製造し、評価した(表1参照)。
【0078】
比較例2−1
日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製主剤樹脂溶液「トップコートR−241」(商品名)100部と、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製硬化剤溶液「R−255」(商品名)7部と、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製シンナー「T−801」(商品名)60部とを混合して塗料組成物(T1)を得た後、塗装板(N1)を製造し、評価した(表1参照)。
【0079】
比較例2−2
軋み音低減材料(A1)に代えて、JSR社製スチレン・ブタジエンゴム「JSR 1500」(商品名、スチレン単位:23.5%、ムーニー粘度((ML1+4,100℃):52)を用いた以外は、実施例2−2と同様の操作を行い、塗料組成物(T2)及び塗装板(N2)を製造し、評価した(表1参照)。
【0080】
比較例2−3
軋み音低減材料(A1)に代えて、JSR社製アクリロニトリル・ブタジエンゴム「JSR N241」(商品名、アクリロニトリル単位:29%、ムーニー粘度((ML1+4,100℃):56)を用いた以外は、実施例2−2と同様の操作を行い、塗料組成物(T3)及び塗装板(N3)を製造し、評価した(表1参照)。
【0081】
比較例2−4
軋み音低減材料(A1)に代えて、上記実施例1−1で用いたエチレン・プロピレン共重合体からなるゴム質重合体を用いた以外は、実施例2−2と同様の操作を行い、塗料組成物(T4)及び塗装板(N4)を製造し、評価した(表1参照)。
【0082】
【表1】
【0083】
表1より、以下のことが分かる。
比較例2−1は、軋み音低減材料を含有しない組成物を用いた例であり、軋み音の低減効果が得られなかった。比較例2−2及び2−3は、本発明の軋み音低減材料に代えて、スチレン・ブタジエンゴム又はアクリロニトリル・ブタジエンゴムを含む組成物を用いた例であり、いずれも、軋み音の低減効果が得られなかった。また、比較例2−4は、本発明の軋み音低減材料に代えて、エチレン・プロピレンゴムを含む組成物を用いた例であり、軋み音の低減効果は得られたが、外観性が劣っていた。
一方、実施例2−1〜2−5によれば、軋み音の低減効果に優れ、且つ、外観性に優れた塗装板を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の軋み音低減材料によれば、他部材との接触により軋み音の発生が低減され、且つ、外観性に優れる皮膜の形成に好適な塗料組成物、表面改質剤組成物等を与えることができる。本発明の塗料組成物によれば、他部材との接触により軋み音の発生が低減され、且つ、外観性に優れる皮膜を与えることができる。本発明の塗装物品によれば、他部材との接触により軋み音の発生を低減させることができる。また、本発明の複合物によれば、塗装物品どうしの動的接触により軋み音の発生を低減することができる。従って、本発明は、塗装分野、表面処理分野をはじめ、軋み音低減皮膜を備える物品を利用する、車両、OA機器、精密機器、家庭電化機器、建材、家具、日用品、玩具等の分野において好適である。
【符号の説明】
【0085】
10:塗装物品、11:基材、13:皮膜(軋み音低減皮膜)、20:複合物、30:他の複合物、40:他の部材、45:板状試験片、50:塗装板、60:軋み音評価用未塗装板状試験片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7