【実施例】
【0027】
平均粒径50μm(D50)の純鉄粉末にリン酸鉄被覆を施したリン酸鉄被覆鉄粉または純鉄粉を用意した。
前記リン酸鉄被覆純鉄粉末(軟磁性粉末)300gに対しTEOS由来のSiO
2皮膜厚として16.9nm、軟磁性粉末に対しコーティング液中のシリコーンレジンとして0.2質量%含有する第1実施例作製用の成形用原料混合粉末を以下の工程に従い作製した。
前記リン酸鉄被覆純鉄粉末(軟磁性粉末)300gに対しTEOS由来のSiO
2皮膜厚33.8nm、軟磁性粉末に対しコーティング液中のシリコーンレジンとして0.41質量%含有する第2実施例作製用または第3実施例作製用の成形用原料混合粉末を以下の工程に従い作製した。
前記リン酸鉄被覆純鉄粉末(軟磁性粉末)300gに対しTEOS由来のSiO
2皮膜厚67.5nm、軟磁性粉末に対しコーティング液中のシリコーンレジンとして0.54質量%含有する第4実施例作製用の成形用原料混合粉末を以下の工程に従い作製した。
前記純鉄粉末(軟磁性粉末)300gに対しTEOS由来のSiO
2皮膜厚33.8nm、軟磁性粉末に対しコーティング液中のシリコーンレジンとして0.41質量%含有する第5実施例作製用の成形用原料混合粉末を以下の工程に従い作製した。この粉末は下地皮膜を略した軟磁性粉末を用いた例に相当する。
【0028】
各々の成形用原料混合粉末の作製手順を以下に説明する。
メチル系シリコーンレジンを液温45℃の2−プロパノール(IPA)に混合し2時間攪拌して溶解し、この溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)を室温にて4時間攪拌して混合した。混合撹拌時間はマグネチックスターラーを用いて攪拌速度150rpmで撹拌する際の時間を意味する。以下、撹拌する場合の撹拌条件は同等としている。
この後、12NHClを添加し、24時間攪拌し(液温35℃)、シリカゾル‐ゲルコーティング液を得た。
【0029】
第1実施例作製用のシリカゾル‐ゲルコーティング液は、シリコーンレジン:0.61g、IPA:6.70g、TEOS:1.86g、水:0.32g、12NHCl:0.008g、合計9.496gの割合で各成分を混合した。
第2実施例作製用と第3実施例作製用のシリカゾル‐ゲルコーティング液は、シリコーンレジン:1.22g、IPA:13.39g、TEOS:3.73g、水:0.65g、12NHCl:0.017g、合計18.992gの割合で各成分を混合した。
第4実施例作製用のシリカゾル‐ゲルコーティング液は、シリコーンレジン:1.62g、IPA:8.597g、TEOS:7.45g、水:1.288g、12NHCl:0.066g、合計19.021gの割合で各成分を混合した。
第5実施例作製用のシリカゾル‐ゲルコーティング液は、シリコーンレジン:1.22g、IPA:13.39g、TEOS:3.73g、水:0.65g、12NHCl:0.017g、合計18.992gの割合で各成分を混合した。
比較例2作製用のコーティング液は、前記第4実施例用のコーティング液と同じ成分量で同じ方法により作製される。
これらシリカゾル‐ゲルコーティング液中のシリコーンレジンは、鉄粉に対し0.20質量%(第1実施例作製用)、0.41質量%(第2、第3実施例作製用)、0.54質量%(第4実施例作製用)、0.41質量%(第5実施例作製用)に設定している。シリコーンレジンは粒径1mm以下のグレード品を用いた。
【0030】
[IPA]/[TEOS]の割合は、第1〜第4実施例作製用のシリカゾル‐ゲルコーティング液において順次モル比で12(第1実施例作製用)、12(第2、第3実施例作製用)、4(第4実施例作製用)、12(第5実施例作製用)に設定している。
TEOS添加量は、TEOS由来のSiO
2皮膜厚として計算し、比表面積が4.0×10
−2m
2/gの軟磁性粉末をベースに換算した。
TEOS由来のSiO
2皮膜の膜厚は、比表面積(BET3点法による測定値)、SiO
2密度(水晶の物性値2.65g/cm
3)を用いて以下の式から算出した。
SiO
2皮膜の膜厚(nm)=TEOSの物質量(mol)×SiO
2原子量(g/mol)/SiO
2密度(g/cm
3)/軟磁性粉末の比表面積(m
2/g)/軟磁性粉末重量(g)(*)
【0031】
(計算例)
TEOS重量7.45g、鉄粉比表面積4.0×10
−2m
2/g、鉄粉重量300gの場合、上記計算式(*)にTEOS原子量208.1g/mol、SiO
2原子量60.1g/molを代入して、SiO
2被膜の膜厚=7.45(g)/208.1(g/mol)×60.1(g/mol)/2.65(g/cm
3)/4.0×10
−2(m
2/g) /300(g)=6.76×10
−8(m)=67.6(nm)
【0032】
水の添加量は、[H
2O]/[TEOS]=2とした。
⇒(H
2O質量)=(TEOS質量/(208.33g/mol(TEOS原子量)))×2×18.016g/mol(H
2Oの分子量)
希塩酸の添加量は、[12NHCl]/[TEOS]=0.025とした。
⇒[100%HCl]/[TEOS]=0.009
⇒(12NHCl質量)=(TEOS質量/(208.33g/mol(TEOS分子量)))×0.025×36.458g/mol(HClの分子量)
あるいは、(12NHCl質量)=(TEOS質量/(208.33g/mol(TEOS分子量)))×0.009×36.458g/mol(HClの分子量)×100/36で計算できる。
なお、12NHCl質量を表す二つ目の式は、塩酸試薬12NHClのHCl濃度を36%として計算する。
【0033】
前記リン酸鉄被覆鉄粉または純鉄粉にヘンシェルミキサーを用いて前記シリカゾル‐ゲルコーティング液を塗布した。
95℃に加熱したヘンシェルミキサーの容器内で撹拌されているリン酸鉄被覆鉄粉(300g)に対し前述の工程で得たコーティング液9.496gの1/3(3.165g)を供給して減圧乾燥し、リン酸鉄被覆鉄粉温度がコーティング開始温度の例えば94℃まで回復してから撹拌と加熱をさらに3分間続ける一連の操作を繰り返した。上述の比率で鉄粉とコーティング液を用いることでTEOS由来のSiO
2皮膜厚16.9nmのコーティング鉄粉(実施例1作製用)を得た。
ヘンシェルミキサーでの鉄粉へのゾル‐ゲルコーティングにおいて、鉄粉表面を覆うゾル‐ゲルコーティング液(シリカ系絶縁皮膜形成用コーティング液)の塗布を大気中95℃で3分間加熱し続けると、繰り返しコーティング液を供給する度にゾル‐ゲルコーティング液膜が溶解することなく鉄粉上に塗り重ねられて定着していく。95℃3分間未満の加熱時間であると、ゾル‐ゲルコーティング液膜が鉄粉表面上に定着せずに剥離しやすくなるので、3分間以上処理することが好ましい。
【0034】
次に、95℃に加熱したヘンシェルミキサーの容器内で撹拌されているリン酸鉄被覆鉄粉(300g)に対し前述の工程で得たコーティング液18.992gの1/6(3.165g)を供給し、上記と同等の処理により、上述の比率で鉄粉とコーティング液を用いることでTEOS由来のSiO
2皮膜厚33.8nmのコーティング鉄粉(実施例2、3作製用)を得た。
また、以下の手順で実施例4、5のコーティング鉄粉を得た。
95℃に加熱したヘンシェルミキサーの容器内で撹拌されているリン酸鉄被覆鉄粉(300g)に対し前述の工程で得たコーティング液19.021gの1/6(3.17g)を供給し、上記と同等の処理により、上述の比率で鉄粉とコーティング液を用いることでTEOS由来のSiO
2皮膜厚67.5nmのコーティング鉄粉(実施例4作製用)を得た。
95℃に加熱したヘンシェルミキサーの容器内で撹拌されている純鉄粉(300g)に対し前述の工程で得たコーティング液18.992gの1/6(3.165g)を供給し、上記と同等の処理により、上述の比率で鉄粉とコーティング液を用いることでTEOS由来のSiO
2皮膜厚33.8nmのコーティング鉄粉(実施例5作製用)を得た。
【0035】
この後、ゾル‐ゲルコーティング液膜を塗布したリン酸鉄被覆鉄粉もしくは純鉄粉を大気中で200℃に0.5時間加熱し乾燥することでシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉を得た。
実施例1作製用のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉に対しシリコーンレジン粉末を0.09質量%添加し、ワックス系潤滑剤を鉄粉に対し0.6質量%添加して実施例1の原料混合粉末を得た。
実施例2作製用のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉に対しシリコーンレジン粉末を0.03質量%添加し、ワックス系潤滑剤を鉄粉に対し0.6質量%添加して実施例2の原料混合粉末を得た。
実施例3作製用のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉に対しシリコーンレジン粉末を0.18質量%添加し、ワックス系潤滑剤を軟磁性粉末に対し0.6質量%添加して実施例3の原料混合粉末を得た。
実施例4作製用のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉に対しシリコーンレジン粉末を0.03質量%添加し、ワックス系潤滑剤を軟磁性粉末に対し0.4質量%添加して実施例4の原料混合粉末を得た。
実施例5作製用のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉に対しシリコーンレジン粉末を0.18質量%添加し、ワックス系潤滑剤を軟磁性粉末に対し0.6質量%添加して実施例5の原料混合粉末を得た。
【0036】
これら実施例1〜5の原料混合粉末をそれぞれ用い、成形圧790MPa(8t/cm
2)で80℃温間成形によりリング状の成形体を得た。
前記リング状の成形体を窒素雰囲気中において650℃に加熱し30分間焼成し、焼成後徐冷して圧粉磁心を得た。リング状圧粉磁心のサイズは、OD35×ID25×H5mmである。
なお、純鉄粉末の表面に被覆したコーティング液膜は650℃の焼成により一部の成分が消失するが液膜中のSiが主体として残留し、SiとFeのそれぞれの酸化物あるいはSiとFeと酸素を含有する複合酸化物となって隣接する純鉄粉末粒子間の粒界に粒界層として残留する。
また、比較例1として、シリコーンレジン皮膜を備えた試料を作製した。前記リン酸鉄被覆純鉄粉末(軟磁性粉末)300gに対し0.72質量%のシリコーンレジンを添加してコーティングを行いコーティング鉄粉を得た後、大気中で乾燥処理を施し、その後に潤滑剤添加、成形、熱処理して比較例1のリング状成形試料を得た。成形条件と熱処理条件は実施例1〜5と同等条件としている。
比較例2として、実施例4と同じコーティング液組成で、シリコーンレジンと溶媒との混合撹拌時間を30分間に短縮した点のみが異なり、その他の条件は同等とした場合に得られた試料を作製した。
【0037】
上述の如く得られた各リング状試料を用いて磁束密度(磁界10kA/m)と比抵抗(μΩm)と鉄損(W/kg)と抗折強度(MPa)を測定した。また、粒界層に存在するFeの平均値(at%)も測定した。
前記10kA/mでの磁束密度の測定は、リング状試料を用いてB−Hトレーサ(横河電機(株)製直流磁化測定装置B積分ユニット TYPE3257)で行った。
以上の結果を以下の表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示す結果から、シリコーンレジンとTEOSを溶媒に添加したゾル‐ゲルコーティング液を軟磁性粉末に塗布し、これを乾燥後、圧縮成形し焼成して得た実施例1〜5の圧粉磁心は、比抵抗が高く、磁束密度、鉄損ともに優れ、軟磁気特性に優れていることがわかる。更に、実施例1〜5の圧粉磁心は十分な抗折強度を有することも判った。
実施例1〜5の圧粉磁心はいずれも650℃に焼成して得られているので、耐熱性に優れ、500〜650℃程度に加熱しても、比抵抗がそれほど低下せず、優れた軟磁気特性を有することが明らかである。
また、それぞれの圧粉磁心試料断面の粒界層について10箇所の元素分析を実施した。粒界層に存在するFeの値は、10箇所での分析値の平均値である。
なお、後に説明する実施例3のTEM分析結果は具体的な例として示しており、この他の実施例、比較例に示す粒界層に存在するFeの値は、10箇所の元素分析を行った平均値を指している。よって、実施例3において、粒界層に存在するFeの(平均)値は0.60at%となる。
実施例1〜5において粒界層のFe含有量は0.4〜5.7at%の範囲であった。10kA/mでの磁束密度が同程度で、コーティング液組成の同じ実施例3、5に特に着目すると、Fe含有量の値が大きくなるにつれて圧粉磁心の抗折強度が向上する傾向があることが確認された。
【0040】
図6は上述の実施例3の圧粉磁心の粒界層を含む軟磁性粒子の部分断面組織を電界放射型走査電子顕微鏡により低加速電圧で観察した結果(SEM二次電子像)を示す写真である。
SEMは、Carl Zeiss製 Ultra55、EDSソフトウェア:NoranSystem Sevenを用い、観察条件:加速電圧 1kV、EDS面分析条件:加速電圧4kV、電流量1nA、WD3mmにて分析を行った。
図6から軟磁性粉末粒子の周面に薄いリン酸鉄被覆が形成されており、隣接する軟磁性粉末粒子間に粒界層が形成されていることがわかる。一例として挙げた
図6の視野におけるこの実施例の粒界層は1〜2μm程度の厚さであることがわかる。また、粒界層の所々に最大径0.5μm程度の略楕円形状の濃淡模様が分散されていることがわかる。なお、
図6に示す濃淡模様の略楕円形領域はEDS面分析(エネルギー分散型X線分析)結果から、Cの濃度が薄い領域であることがわかった。
【0041】
図7は先の実施例4で作製したゾル‐ゲルコーティング液を塗布したリン酸鉄被覆鉄粉を大気中で200℃に0.5時間加熱し乾燥することで得たシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉のSEM拡大写真である。倍率を2000倍としてSEM画像一杯に1つのシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉が入る拡大率とした。
このシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉に対し、減圧不活性ガス雰囲気中で650℃に30分間加熱する熱処理を施したSEM画像を
図8に示す。観察は、ESEM(環境制御型電子顕微鏡:FEI製Quanta450FEG)を用い、加速電圧15kVにて昇温観測した。
熱処理は、減圧不活性ガス雰囲気中(試料を収容したチャンバー内を300Pa程度となるように減圧し、常時微量(30cc/min)の窒素ガスを流入している雰囲気)において650℃に保持することで行った。昇温速度は2〜10℃/分としている。試料外周面の状態は殆ど変わらないが、詳細に観察すると、熱処理後のシリカ系絶縁被覆鉄粉外面の底部側には微細な凹凸部分が若干生成されている。
この微細な凹凸はシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉の表面に生成した酸化鉄の微結晶である。
【0042】
図9は実施例4で用いたゾル‐ゲルコーティング液の代わりに、溶媒にシリコーンレジンのみを添加し、TEOS、塩酸、水の添加を略し、その他は同等の工程を経て得た、従来のシリコーン被覆鉄粉のSEM拡大写真である。この鉄粉に対し、減圧不活性ガス雰囲気中で650℃に30分間加熱する熱処理を施したSEM画像を
図10に示す。加熱条件は
図8に示す試料の条件と同等である。
外周面の状態は容易に判別できるほど変化が現れ、熱処理後の鉄粉表面全体に微細な凹凸部分が多数新たに生成されている。
これらの微細凹凸は酸化鉄の結晶が成長したものである。このように純鉄の軟磁性粉末の外周面に微細な酸化鉄微結晶が多数生成することは、純鉄の軟磁性粉末を覆っているシリコーンレジン皮膜に多数の欠陥が存在することを意味し、酸化鉄の微結晶の数は熱処理前の皮膜の欠陥の数に相当すると考えられる。熱処理前の皮膜に存在する欠陥の数は一般的な分析方法では解析できないので、減圧不活性ガス雰囲気における昇温中に酸化鉄の微結晶が生成する数を把握することで皮膜に存在する欠陥の数を推定できる。このため、微結晶の数を調べることで熱処理前の皮膜中に存在する欠陥の数を推定することができる。従って、酸化鉄の微結晶の析出が多い皮膜では皮膜中の欠陥が多いため、この軟磁性粉末の粒子からなる圧粉磁心では比抵抗が大幅に低下する原因になると推定できる。
このため、
図8に示す熱処理後のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉において酸化鉄微結晶の析出が殆ど見られないことから、熱処理前のこのシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉を圧縮して粒界層と共に焼成した圧粉磁心は、650℃程度に加熱されたとしても、比抵抗の低下が起こる可能性が低く、このため本発明の粉末を用いて圧粉磁心を製造するならば優れた耐熱性を具備している圧粉磁心を製造できることがわかる。
【0043】
表1に示したそれぞれの実施例についてシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉の表面に生成した酸化鉄微結晶の個数を計測した。
計測方法は、各試料の中から任意選択したシリカ系絶縁被覆鉄粉10個のそれぞれに対し、2000倍の写真から画像解析を行い、鉄粉の周面に存在する粒径500nm以上の酸化鉄微細結晶の数を計測し、その平均値を算出した。酸化鉄微結晶数の平均値は、不活性ガス雰囲気で加熱する前のシリカ系絶縁被覆鉄粉表面の皮膜に存在する欠陥の数と等価であると考えられる。
より詳細には、シリカ系絶縁被覆鉄粉10個のそれぞれに対し、2000倍の視野で撮影したSEM観察写真(加熱前の粉末写真)から投影面積を算出しておく。ここで投影面積とは、2000倍の視野で観察した場合に確認できる粉末1個当たりの実体像の面積範囲のことである。次に、加熱後の粉末表面を2000倍の倍率で撮影したSEM観察写真(ESEM観察写真)から皮膜表面に生成した酸化鉄微結晶数を計測する。
次に、(酸化鉄微結晶数)/(加熱前の粉末の投影面積)を計算し、この計算を10個の粉末毎に行えば、各粉末表面の乾燥皮膜に存在する欠陥数を把握できる。具体的には、「粉末の投影面積あたりの酸化鉄微結晶数」を酸化鉄微結晶数計測した粉末の個数で割って平均を取り、粉末1個あたりに対し、「粉末の拡大投影面積あたりの酸化鉄微結晶数」を投影面積あたりの皮膜に存在する欠陥の数と定義することができる。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示す結果から、比較例1、2の試料は皮膜に存在する欠陥数が多いため、表1に示す如く比抵抗が低い結果となった。
【0046】
前述のシリカゾル‐ゲル被覆鉄粉を製造する場合、メチル系シリコーンレジンを液温45℃の2−プロパノール(IPA)に混合し2時間攪拌して溶解し、この溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)を室温にて4時間攪拌して混合していた。
これに対し、メチル系シリコーンレジンを液温45℃の2−プロパノール(IPA)に混合する場合の攪拌時間を30分に変更し、その他の処理は同等とした場合に得られた試料(表1の比較例2)の加熱試験結果(SEM画像)を
図11に示す。
図11は減圧不活性ガス雰囲気中において500℃到達時、600℃到達時、650℃到達時、650℃で0.5時間保持後のそれぞれの時点での粉末試料の表面状態を示す写真である。加熱条件は
図8に示す試料の条件と同等である。
図11に示す結果から、TEOS+シリコーンレジンであっても、溶媒にシリコーンレジンとTEOSをいかに良好に混合撹拌して分散させることが重要であるかわかる。
なお、この試験は、減圧不活性ガス雰囲気中で500℃到達、600℃到達、650℃到達、650℃で30分保持のそれぞれの後に冷却した試料をSEM観察しても良く、同等の結果が得られた。
この試料の熱履歴において、650℃×0.5時間加熱する条件においては多少酸化鉄微結晶の析出を確認できたが、この試料において酸化鉄微結晶の析出個数は268個であった。この結果から、シリカゾル‐ゲル被覆鉄粉を製造する場合、シリコーンレジンとテトラエトキシシラン(TEOS)を溶媒に混合する工程が重要であることがわかる。
【0047】
図12は比較のために、先の実施例を製造する工程において溶媒に対しシリコーンレジンのみを溶解し、この溶液をコーティング液としてリン酸鉄被覆鉄粉に塗布し、これを乾燥して得たコーティング鉄粉の加熱試験結果(比較例1)を示す。試料製造条件において、その他の条件は先の実施例の場合と同様である。
また、
図12に先の実施例を製造する工程において溶媒に対しTEOSゾル‐ゲルのみを混合撹拌し、この溶液をコーティング液としてリン酸鉄被覆鉄粉に塗布し、これを乾燥して得たコーティング鉄粉の加熱試験結果を示す。試料製造条件において、その他の条件は先の実施例の場合と同様である。
各試料とも、減圧不活性ガス雰囲気中において500℃到達時、600℃到達時、650℃到達時、650℃×0.5時間保持直後のそれぞれの時点での試料の表面状態を昇温観察したESEM画像で示す。昇温条件は
図8に示す試料の条件と同等である。
図12に示すSEM画像では650℃到達時の段階から酸化鉄微細結晶が大量に生成していることがわかる。このことから、シリコーンレジンのみ、あるいは、TEOSのみを溶媒と混合撹拌して得たコーティング鉄粉は昇温とともに皮膜に欠陥が生じやすいため特性が低下すると想定できる。
なお、この試験は、減圧不活性ガス雰囲気中で500℃到達、600℃到達、650℃到達、650℃で30分保持のそれぞれの後に冷却した試料をSEM観察しても良く、同じ結果が得られた。
【0048】
図13は比較例2で用いたゾル‐ゲルコーティング液の代わりに、シリコーンレジン添加量を0.54質量%、0.72質量%にそれぞれ設定し、シリコーンレジンと溶媒との混合撹拌時間を2時間に変更し、さらにこれらにTEOSを添加した後の撹拌混合時間を4時間)に変更し、その他の条件は同等として製造したコーティング液を塗布し乾燥させたコーティング鉄粉のESEMでの昇温観察の結果を示す。昇温条件は先の例と同等である。
図13に示すSEM画像では500〜650℃加熱において酸化鉄微結晶の析出を殆ど確認できなかった。650℃×0.5時間加熱では多少の酸化鉄微結晶の析出を確認できたが、酸化鉄微細結晶の数は52個であり、極めて少ない数であった。
このことからも、シリコーンレジン、TEOSの攪拌混合を十分に行うことが重要であることがわかった。
【0049】
次に、実施例3で得られた圧粉磁心の粒界層の一部を分析した結果を示す。
実施例で得られた圧粉磁心の粒界層について、任意の10カ所を選択し、STEMでのEDSによる元素分析を行った結果を以下に示す。以下の分析値で%はat%を示す。
第1の分析位置「O:57.17%、Si:41.86%、Fe:0.97%」
第2の分析位置「O:65.40%、Si:33.96%、P:0.20%、Fe:0.44%」
第3の分析位置「O:64.16%、Si:35.41%、P:0.11%、Fe:0.32%」
第4の分析位置「O:64.20%、Si:35.40%、Fe:0.40%」
第5の分析位置「O:61.32%、Si:38.37%、Fe:0.31%」
第6の分析位置「O:67.64%、Si:31.6%、Fe:0.76%」
第7の分析位置「O:68.89%、Si:29.73%、Fe:1.37%」
第8の分析位置「O:68.26%、Si:31.36%、Fe:0.38%」
第9の分析位置「O:70.09%、Si:29.47%、Fe:0.44%」
第10の分析位置「O:70.36%、Si:29.06%、Fe:0.58%」
【0050】
この分析結果から、粒界層のいずれの部分においてもFeの存在を確認することができ、粒界層にFeの軟磁性粒子からFeが拡散されていることで、上述の如く優れた磁気特性が得られたと推定できる。