特許第6700926号(P6700926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6700926防黴防菌剤、揮発性空間防黴防菌剤、固体状防黴防菌材、及び黴若しくは菌の発生を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6700926
(24)【登録日】2020年5月8日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】防黴防菌剤、揮発性空間防黴防菌剤、固体状防黴防菌材、及び黴若しくは菌の発生を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20200518BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20200518BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20200518BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20200518BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20200518BHJP
   A61L 9/04 20060101ALI20200518BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20200518BHJP
   A61L 101/32 20060101ALN20200518BHJP
   A61L 101/34 20060101ALN20200518BHJP
【FI】
   A01N31/02
   A01P3/00
   A01N25/08
   A01N25/18 102C
   A61L9/01 M
   A61L9/04
   A61L2/20
   A61L101:32
   A61L101:34
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-80836(P2016-80836)
(22)【出願日】2016年4月14日
(65)【公開番号】特開2017-190302(P2017-190302A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390015853
【氏名又は名称】理研香料ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 桂太
【審査官】 長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−132666(JP,A)
【文献】 特表2003−510343(JP,A)
【文献】 特開2014−136685(JP,A)
【文献】 特開昭53−069833(JP,A)
【文献】 特開平07−291809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール又は2,6−ジメチル−4−ヘプタノールを有効成分として含有することを特徴とする防黴防菌剤。
【請求項2】
更に、(A)鎖状モノテルペンアルコール、(B)環式モノテルペンアルコール、(C)環式モノテルペンケトン及び(D)環式セスキテルペンよりなる群から選ばれる1種以上の併用化合物を含有する請求項1に記載の防黴防菌剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の防黴防菌剤であって、空間に揮発させて使用するものであることを特徴とする揮発性空間防黴防菌剤。
【請求項4】
請求項に記載の揮発性空間防黴防菌剤を担持体に担持させてなるものであることを特徴とする固体状防黴防菌材。
【請求項5】
上記担持体が、シリカ、ゼオライト、不織布、繊維、合成樹脂、鉱物、合成鉱物、珪藻土、活性白土、ベントナイト、黒ボク土及び活性炭よりなる群から選ばれる担持体である請求項に記載の固体状防黴防菌材。
【請求項6】
請求項又は請求項に記載の固体状防黴防菌材を、10-4以上200m以下の空間に常温で揮散させることを特徴とする黴又は菌の発生を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアルコールを有効成分として含有する防黴防菌剤に関し、更に、該防黴防菌剤を空間に揮発させて使用するものである揮発性空間防黴防菌剤、該揮発性空間防黴防菌剤を担持体に担持させてなるものである固体状防黴防菌材、及び、黴若しくは菌の発生を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黴や菌等の微生物は一般に高温高湿を好み、洗濯機、靴箱、収納場所等の極めて狭い密閉空間で発生し易いことは勿論、浴室、トイレ、台所、居室等、断熱性や密閉性の高い空間で多く発生する。また、衣類、履物、書類、布製品等を移送中、保管中等にも頻繁に発生する。
【0003】
例えば、黴が発生すると、不快臭(黴臭)や、黒色、黄色等の点状の汚れの原因となり、上記した場所の床、天井、壁等を傷め、上記した製品(物品)に被害を与える。更には、黴から発生した胞子が室内に浮遊してアレルギー性疾患を誘発する場合もある。
このように、黴や菌は、実際に物的損害や健康被害を与えるのみならず、不快感を与える等、多くの問題を引き起こしている。
【0004】
黴や菌等の微生物の増殖を防ぐ手段としては、接触型の抗黴剤、抗菌剤等が用いられることが多い。しかしながら、一般に使用される接触型の抗黴剤や抗菌剤は、次亜塩素酸ナトリウム、ヒドロキシ安息香酸エステル、安息香酸塩、フェニルフェノール、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム等を主成分として含む、噴霧剤、塗布剤等の接触型のものであり、浴室、トイレ等の水周りであれば、使用後に洗い流すことができるが、それ以外の場所では、強い刺激臭と人体に対する安全性への懸念があった。
また、接触型の抗黴剤や抗菌剤は、主に掃除のときに使用するものであり、一定期間に亘り定常的に使用するためのものではなかった。
このように、一般的な抗黴剤、抗菌剤は、接触させなければ防黴性や防菌性を十分に付与することができず、また、一定期間に亘り使用できるものではなかった。
【0005】
一方、精油に抗菌活性があることは知られており、非接触の蒸気状態でも活性を示すことが知られている(特許文献1〜3)。しかしながら、その空間防黴性能や空間防菌性能は低いものであった。
【0006】
これらを改良するものとして、特許文献4、5には、洗濯槽、下駄箱、流し台下収納庫等の極めて狭い空間で、非接触で使用できる抗菌防黴剤が記載されている。
しかしながら、これらの化合物は、空間防黴性が十分でなかったり、上記した洗濯槽、下駄箱、流し台下収納庫等より広い空間で、密封性が低く気化した蒸気がもれたりするような空間での黴や菌の繁殖を十分に防ぐことは困難であった。
【0007】
また、特許文献6には、分岐鎖状飽和脂肪族炭化水素基を有する特定の1価の1級アルコールが、非接触で防黴効果があることが記載されている。
しかしながら、これらの分岐アルコールや1級アルコールには、臭質、臭いの強さ、蒸気圧等の全てが好適であると言うものはなく、また、衣類等に付いた臭いが残留して容易には消えない等、総合的には十分満足できるものはなかった。また、最終製品としての外観が液状であるか、又は、紙や布等に染み込ませた形態で効力を発揮するもので、粉体に担持させたり、粉体と混合したりして、外観を固体状にして効果を発揮するものではなく、使い勝手の良い固体状揮発性空間防黴剤組成物としては十分なものではなかった。
【0008】
ある程度の容積を持った空間でも防黴防菌効果を奏する防黴防菌剤に対する要求は、ますます高くなってきており、かかる公知技術では不十分であり、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平3−077161号公報
【特許文献2】特開平6−024952号公報
【特許文献3】特開平11−335219号公報
【特許文献4】特開2003−171202号公報
【特許文献5】特開2003−286114号公報
【特許文献6】特開2009−132666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、防黴防菌効果に優れ、接触又は非接触でも十分に該効果を発揮し、臭質や臭いの強さに関して優れ、衣類等に一旦付着した臭いの残留が少ない防黴防菌剤を提供することにあり、またそれを用いた黴や菌の発生を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、防黴防菌剤としては新規の「特定の化学構造を持ったアルコール」が上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、9個の炭素原子、1個の酸素原子、及び、水素原子のみからなり、2個以上の分岐アルキル基を有する1価アルコールを有効成分として含有することを特徴とする防黴防菌剤を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール又は2,6−ジメチル−4−ヘプタノールを有効成分として含有する上記の防黴防菌剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、更に、(A)鎖状モノテルペンアルコール、(B)環式モノテルペンアルコール、(C)環式モノテルペンケトン及び(D)環式セスキテルペンよりなる群から選ばれる1種以上の併用化合物を含有する上記の防黴防菌剤を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記の防黴防菌剤であって、空間に揮発させて使用するものであることを特徴とする揮発性空間防黴防菌剤を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記の揮発性空間防黴防菌剤を担持体に担持させてなるものであることを特徴とする固体状防黴防菌材を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記の固体状防黴防菌材を、10−4以上200m以下の空間に常温で揮散させることを特徴とする黴又は菌の発生を抑制する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記問題点と上記課題を解決し、持続性に優れ、黴や菌の発生を長期間防止する防黴防菌剤を提供することができる。すなわち、黴や菌の増殖を抑制し、該黴や菌による、壁面、床面、天井面等の面;衣類、靴、書類等の対象物;等に発生するしみや汚れを防止することができ、また該黴や菌による臭気も抑制することができる。
例えば、洗濯槽等より広い空間に常温で揮散させても、本発明の防黴防菌剤は、不快な臭いではなく、蒸気圧が好適であることも加わって臭いが強過ぎることがなく、また衣類・履物、布製品に付着した臭い等も一定期間処理後に通風環境(解放状態)におけば、容易にその臭いを取ることができる。
また、本発明の防黴防菌剤は、毒性が強くなく人体に対して安全性が高く、一方で、接触型又は非接触型で使用しても防黴防菌性能に優れている。
【0019】
また、2−エチルヘキサノール、ターピネオール、リナロール、シトラール等の特定のアルコールやモノテルペン系化合物等と組み合わせて使用すれば(併用すれば)、特に本発明の防黴防菌剤にあっては、両者の相乗効果が顕著に表れて、臭質、臭いの強さ、付着臭気残留性等が更に向上する。すなわち、単独では防黴防菌性能を示さないような低濃度同士の混合比でも防黴防菌性能を示させることができると共に、単独で使用したときの臭質を改善させることができる。
【0020】
また、本発明の揮発性空間防黴防菌剤は、有効成分が揮発することによって生じた蒸気によって防黴防菌効果を発揮するので、スプレー等で直接黴や菌に該揮発性空間防黴防菌剤を触れさせる必要がない。また、揮発性空間防黴防菌剤は常温で使用することができ、加熱等する必要がないため、使用方法や使用用途が広がる。また、加温、超音波照射等をすることにより効果を早めることが可能である。
【0021】
更に、本発明の揮発性空間防黴防菌剤を、シリカ、ゼオライト、不織布、繊維、合成樹脂、鉱物、合成鉱物、珪藻土、活性白土、ベントナイト、黒ボク土及び活性炭よりなる群から選ばれる担持体に担持させて固体状防黴防菌材とすると、更に不快臭がなく、徐放性となり、臭いが強過ぎず、安全性にも優れ、使い勝手が優れたものができる。
【0022】
本発明の揮発性空間防黴防菌剤、それを担持体に担持させた固体状防黴防菌材は、洗濯機、靴箱、クローゼット、押し入れ、収納器等の極めて狭い密閉空間;浴室、トイレ、台所、居室等の上記空間より広い閉鎖空間;等で好適に使用できると共に、衣類、履物、書類、布製品等の黴の発生する物品を、コンテナ等に収納して移送している間や、コンテナ等に保管中等に特に好適に使用できて、黴や菌の発生を好適に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0024】
本発明は、9個の炭素原子、1個の酸素原子、及び、水素原子のみからなり、2個以上の分岐アルキル基を有する1価アルコールを有効成分として含有することを特徴とする防黴防菌剤である。
該有効成分は、1種で用いることもでき、2種以上を混合して用いることもできる。
【0025】
本明細書において、「菌」には、細菌、酵母、真菌等を含む。
本発明の防黴防菌剤は、黴や菌の増殖阻害(繁殖抑制)に対して効果を有する。
【0026】
<9個の炭素原子、1個の酸素原子、及び、水素原子のみからなり、2個以上の分岐アルキル基を有する1価アルコール>
ここで、上記「9個の炭素原子、1個の酸素原子、及び、水素原子のみからなり、2個以上の分岐アルキル基を有する1価アルコール(以下、「分岐C脂肪族1価アルコール」と略記する場合がある)」は、1級アルコール、2級アルコール及び3級アルコールを含有する。好ましくは1級アルコール又は2級アルコールであり、特に好ましくは1級アルコールである。
特に1級アルコールであると、防黴防菌性能に優れ;臭質に優れ;臭いが強過ぎず;付着臭気が残留し難い;香料のような有機化合物と混合した場合、3級アルコールに比べて化学反応が起きにくい;室温での蒸気圧が高いため、空間防黴防菌効果を発揮し易い;等の利点がある。
【0027】
また、上記分岐C脂肪族1価アルコールは、炭素間単結合の他、炭素間二重結合や三重結合を有していてもよく、シクロ炭化水素環を有していてもよい。本発明の効果をより発揮させる観点等から、炭素間二重結合が存在しないことが好ましい。
シクロ炭化水素環の炭素数は、通常4〜7個であるが、5〜6個であることが好ましく、6個であること(シクロヘキサン環であること)が、シクロ炭化水素環の安定性、合成容易性等のために好ましい。シクロ炭化水素環を有していると、防黴防菌性が高い(傾向がある)という長所を有する。
【0028】
上記分岐C脂肪族1価アルコールは、2個以上の分岐アルキル基を有する。上記効果を発揮する点等より、該1価アルコールは、2個又は3個の分岐アルキル基を有していることが好ましく、2個又は3個の分岐メチル基を有していることがより好ましい。なお、該アルキル置換基の炭素原子(数)は、上記分岐C脂肪族1価アルコールの「9個の炭素原子(全部の炭素原子)」(数)の中に含まれる。
【0029】
上記分岐C脂肪族1価アルコールは引火点が70℃以上の1価アルコールであることが好ましい。引火点が70℃以上であると、安全でありかつ安心して使用することができる。
【0030】
本発明の防黴防菌剤は、分岐C脂肪族1価アルコールを有効成分として含有するが、より好ましくは、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール又は2,6−ジメチル−4−ヘプタノールである。1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール又は2,6−ジメチル−4−ヘプタノールであると、防黴防菌性能に優れている。また、蒸気圧や沸点が好適範囲に入っていたり化学構造上臭いが強過ぎたりせず;嫌な臭いが少なく臭質に優れ;衣類等に付着した臭気が残留し難く;通風状態では早期に臭気が取れ;合成が比較的容易で容易に入手できるものもあり;安価であり経済的である;等の利点がある。また、2価以上のアルコールは粘度が高くなり、担持体への吸着がやや難しくなる。
特許文献6に記載のイソノナノール(例えば、商品名オキソコール900(KHネオケム(株)製))は、炭素数が9個であるが、防黴防菌性能に劣り本発明には含まれない。
【0032】
本発明の防黴防菌剤は、黴や菌等の微生物が増殖している又は増殖するのを防止したい場所で使用することができる。
また、小容器、小箱、梱包パック、トラック、貨車、コンテナ等の移送空間、保管空間のような例えば10−4〜200m程度の空間に常温で揮散させたときに、空間防黴防菌性能が特異的に優れ、臭質に優れ、また特に、常温での蒸気圧が好適であることもあって臭いが強過ぎず、付着臭気残留性にも優れている。
更に、後記する併用化合物と組み合わせて使用したときに両化合物の相乗効果が顕著に表れる。すなわち、単独では防黴防菌性能を示さない低濃度同士の混合比でも防黴防菌性能を示させることができると共に、単独で使用したときの臭質を更に改善させることができる。
【0033】
<併用化合物>
本発明の防黴防菌剤における分岐C脂肪族1価アルコールは、そこに更に、「(A)鎖状モノテルペンアルコール、(B)環式モノテルペンアルコール、(C)環式モノテルペンケトン及び(D)環式セスキテルペンよりなる群から選ばれる1種以上の化合物」(本発明において、「 」内を以下単に「併用化合物」と略記することがある)を含有させると、特に本発明の前記効果の向上が顕著である。
【0034】
(A)鎖状モノテルペンアルコールの具体例としては、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、ジヒドロリナロール、ムゴール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、オシメノール、ラバンジュロール等が挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
(B)環式モノテルペンアルコールの具体例としては、イソプレゴール、メントール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テルピネオール−4、カルベオール、ジヒドロカルベオール、ペリラアルコール、ミルテノール、ノボール、ピノカルベオール、フェンキルアルコール、ボルネオール、イソボルネオール、ツヤノール等が挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
(C)環式モノテルペンケトンの具体例としては、カルボン、メントン、イソメントン、カンファ等が挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
(D)環式セスキテルペンの具体例としては、ビサボレン、カリオフィレン、バレンセン、グアイエン、セドレン、カジネン、ツヨプセン及びロンギホレン等が挙げられ、これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
「分岐C脂肪族1価アルコール」の質量(G1)及び「併用化合物」の質量(G2)との割合(配合割合)は、特に限定はないが、両者の合計質量(G=G1+G2)に対して、G1が20質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上90質量%以下がより好ましく、35質量%以上85質量%以下が特に好ましく、40質量%以上80質量%以下が更に好ましい。
上記範囲であれば、前記及び下記した(併用の)効果を好適に発揮する。
【0039】
(A)鎖状モノテルペンアルコール、(B)環式モノテルペンアルコール、(C)環式モノテルペンケトン及び(D)環式セスキテルペンには、芳香を有するものが多いので、本発明の「分岐C脂肪族1価アルコール」の臭質を更に改善する。また、モノテルペン系アルコール自体に防黴防菌効果があるので、単独では防黴防菌性能を示さない低濃度同士の混合でも防黴防菌性能を示させることができる。
【0040】
上記防黴防菌剤は、黴や菌の増殖を抑制したい場所に直接噴霧又は塗布等して、該黴や菌に直接接触させることによって、防黴防菌性能を発揮することができる。また、下記に示すように、担持体に担持させ、揮発した有効成分の蒸気によって、防黴防菌性能を発揮することができる。
【0041】
<揮発性空間防黴防菌剤>
本発明の揮発性空間防黴防菌剤は、上記防黴防菌剤であって、空間に揮発させて使用するものであることを特徴とする。
【0042】
本発明の揮発性空間防黴防菌剤は、例えば、後述する担持体に担持させる方法等により使用することができる。
【0043】
<固体状防黴防菌材>
本発明の揮発性空間防黴防菌剤の揮発速度は、包装材、容器等の開口面積等の構成により調整することができ、また、溶剤やゲル中に溶解させたり、樹脂等と共に混練成形したり、マイクロカプセル化したりして調整し徐放性にすることもできる。
ゲル化剤としては特に限定はないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、セルロース、デンプン等、又は、それらの誘導体若しくはそれらの塩等の水溶性有機高分子;酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系エマルジョン、ゴム系ラテックス等のエマルジョン;カラギーナン、寒天、ゼラチン、ペクチン等の動植物、藻類等から抽出される天然物由来のゲル化剤等を挙げることができる。
【0044】
前記した本発明の揮発性空間防黴防菌剤は、担持体に担持させて固体状防黴防菌材として、取扱いを容易にすると共に徐放性にして用いることが特に好ましい。
【0045】
上記「分岐C脂肪族1価アルコール」も上記「併用化合物」も、常温(15℃〜25℃)のみならず使用予定温度(−20℃〜40℃)で液体であるので、ここで「固体状」とは、防黴防菌材としての外観が全体として固体状であることを言い、別固体に液体状のもの(本発明の上記「分岐C脂肪族1価アルコール」)が付着していたり染み込んでいたりして、絞る、遠心分離等の操作をして容易に該液体状のもの(本発明の上記「分岐C脂肪族1価アルコール」)が分離できる状態は除かれる。
該「別個体」としては、ろ紙等の紙;不織布、織布等の布;天然綿、化学綿等の綿;ポリウレタンスポンジ等のスポンジ;ガラス繊維(集合体);軽石、芯棒、多孔膜、等の「粗面化してあったり内部に気泡等の表面積を大きくする空間を有したりする1個の大きさが0.5cm以上の塊」等は除かれる。
【0046】
上記別固体に、単に付着していたり、単に染み込んでいたりするものでは、分岐C脂肪族1価アルコールの場合、蒸気圧が高いことが多く、蒸発速度が速過ぎて使用期間が短くなる、直接肌に触れた場合に防黴防菌成分が身体に付着する等の場合がある。
【0047】
担持させて固体状防黴防菌材とするための担持体としては、シリカ、ゼオライト、不織布、繊維、合成樹脂、鉱物、合成鉱物、珪藻土、活性白土、ベントナイト、黒ボク土及び活性炭等が挙げられる。
これらは、数平均粒径が、好ましくは0.1μm〜10mm、より好ましくは0.3μm〜3mm、特に好ましくは1μm〜1mmの粉末状であることが望ましい。
【0048】
本発明の固体状防黴防菌材は、「分岐C脂肪族1価アルコール」及び/又は「併用化合物」を、上記粉末の吸油量より少なく担持させて、全体として粒子状、粉末状、塊状等の流動性のない固体状を保っている形態が好ましい。
本発明の固体状防黴防菌材は、上記液体が担持体に担持されてなるものであるが、ここで「担持」とは、化学的・物理的な吸着、ファンデルワールス力での吸着等によるものが挙げられる。
【0049】
好ましい担持体としては、シリカゲル等のシリカ;ゼオライト、珪藻土、活性炭、繊維、鉱物、合成鉱物等が挙げられる。
【0050】
「分岐C脂肪族1価アルコール」及び「併用化合物」の合計質量(G)と、担持体の質量(H)との割合は、特に限定はないが、G/(G+H)として0.5質量%〜80質量%が好ましく、10質量%〜70質量%がより好ましく、20質量%〜50質量%が特に好ましい。Gが大き過ぎると、担持されないものが出てきて液体が分離したり、分岐C脂肪族1価アルコールや併用化合物が無駄になったりする場合があり、一方、Gが小さすぎると、担持体の重さの分だけ使用し難くなる場合がある。
【0051】
本発明の固体状防黴防菌材は、「分岐C脂肪族1価アルコール」及び/又は「併用化合物」を担持体に担持させているので、徐放性となり、臭いが強過ぎず、臭いが付着しない、安全性にも優れ、使い勝手の優れたものができる。
本発明の揮発性空間防黴防菌剤は、固体状防黴防菌材とすることによって、液体状や布等に濡らして使用するより2倍〜100倍、使用期間を延長することができる。
【0052】
本発明の揮発性空間防黴防菌剤又は固体状防黴防菌材は、包接化合物との併用を排除するわけではないが、包接化合物を併用しなくても前記効果を発揮できる。また、透過性フィルム等の使用による徐放性化を排除するわけではないが、それらを使用しなくても前記効果を発揮できる。
【0053】
<他の成分>
本発明の揮発性空間防黴防菌剤又は固体状防黴防菌材には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外に、一般に添加される各種の溶剤、油剤、無機塩、アミノ酸、有機酸塩、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、殺菌・抗菌剤、消臭剤、香料、色素、紫外線吸収剤、水等の他の成分を含有することができる。
【0054】
<使用形態>
本発明の揮発性空間防黴防菌剤、それを担持体に担持させた固体状防黴防菌材は、ビン、箱等の容器に入れて使用することもでき、洗濯機、靴箱、クローゼット、押し入れ、収納器等の極めて狭い密閉空間(A);浴室、トイレ、台所、居室等の上記密閉空間より広い閉鎖空間(B);等で好適に使用できると共に、衣類、履物、書類、布製品等の黴の発生する物品を、コンテナ等に収納して移送している間や、コンテナ等に保管中等に該空間(C)で特に好適に使用できて、黴や菌の発生を好適に防止できる。
【0055】
<黴又は菌の発生を抑制する方法>
本発明の他の形態は、前記の揮発性空間防黴防菌剤又は固体状防黴防菌材を、10−4以上200m以下の空間に常温で揮散させることを特徴とする黴又は菌の発生を抑制する方法である。
好適には、上記した空間(B)又は空間(C)での使用である。
また、10−4以上200m以下の空間での使用が好ましく、0.3m以上200m以下の空間での使用がより好ましく、1m以上100m以下の空間での使用が特に好ましい。上記体積範囲の空間での使用は、他の揮発性空間防黴防菌剤等との揮発性防黴防菌効果の優位性の確認・比較や、日常生活環境に近く機能的で効率的な効果を期待できる等の点から特に好ましい。
【0056】
本発明の揮発性空間防黴防菌剤又は固体状防黴防菌材を使用後は、例えば上記空間(A)(B)(C)等の密閉・閉鎖空間から、処理対象物を開放空間に移動させたり、該空間(の内壁等)を開放状態にしたりして、一定時間経過させることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
評価例
<空間防黴性の評価方法>
縦18cm×横13cm×高さ6cmの密閉容器(フタ:ポリエチレン、本体:ポリプロピレン)を用意した。
フタの裏に、20mm×20mm×厚さ6mmの不織布を接着させ、マイクロピペットで、試料を100μL塗布した。
【0059】
培養していた黒黴(Aspergillus niger)を、直径9cmのシャーレ中のポテトデキストロース寒天培地(栄研化学(株)製)に、白金耳を使って塗布して、該シャーレを密閉容器の底に置きフタで密封した。
【0060】
密閉容器は、30℃に設定した恒温器で72時間静置した後に、黒黴の有無をシャーレの上から目視で確認し、以下の判定基準で判定した。
【0061】
<空間防黴性の判定基準>
◎:シャーレ全体が全く黒くなっていない
○:かなり良好な制御力を示すが、僅かに黴の育成を認める
△:表面積1/5位に黴の育成を認める
×:表面積1/2位に黴の育成を認める
××:シャーレ全面に黴が育成する
【0062】
<接触防黴性の評価方法>
濾紙を直径12mmに切り、試料を30μL塗布した。
培養していた黒黴(Aspergillus niger)を、直径9cmのシャーレ中のポテトデキストロース寒天培地に白金耳を使って塗布し、その上の試料を塗布した濾紙を置いた。空間防黴性試験にも使用した密閉容器にシャーレを入れ、フタを閉めて密封した。30℃に設定した恒温器で72時間静置した後に、黒黴の発育状況を目視で確認し、以下の判定基準で評価した。
【0063】
<接触防黴性の判定基準>
◎:シャーレ全体が全く黒くなっていない
○:濾紙の周りに阻止帯(細菌が増殖しない領域)があり、その幅は2mm以上
△:濾紙の周りに阻止帯はあるが、その幅は2mm未満
×:阻止帯ができていない
【0064】
<防菌性の評価方法>
濾紙を直径12mmに切り、試料を30μL塗布した。
培養していた大腸菌(Escherichia coli)を、直径9cmのシャーレ中の普通寒天培地(栄研化学(株)製)に白金耳を使って塗布し、その上の試料を塗布した濾紙を置いた。シャーレに蓋をして、30℃に設定した恒温器で72時間静置した後に、大腸菌の発育状況を目視で確認し、以下の判定基準で評価した。
【0065】
<防菌性の判定基準>
○:濾紙の周りに阻止帯があり、その幅は2mm以上
△:濾紙の周りに阻止帯はあるが、その幅は2mm未満
×:阻止帯ができていない
【0066】
<臭質の評価方法>
60mLの遮光瓶に10mLの試料を入れ、液温度を25℃に調整した。瓶口に鼻を近づけて臭いを嗅ぎ、以下の判定基準で判定した。
【0067】
<臭質の判定基準>
◎:全く気にならない臭いであり、実際の使用条件では全く問題なし
○:殆ど気にならない臭い、もしくは不快ではないため、実際の使用条件では問題なし
△:不快に感じる者もいるが、使用条件によっては問題なし
×:不快臭であり、実際の使用条件でも問題あり
××:極めて不快臭があるか刺激臭があり、実際の使用条件でも問題あり
【0068】
<臭いの強さの評価方法>
上記空間防黴性の評価試験で使用した密閉容器を開けて臭いを嗅ぎ、以下の判定基準で判定した。
【0069】
<臭いの強さの判定基準>
◎:臭いをほとんど又は全く感じない
○:臭いを容易に感じる
△:強い臭いを感じる
×:強烈な臭いを感じる
【0070】
<付着臭気残留性の評価方法>
容積が20Lの密閉できる容器に、試料を1mL入れたコニカルビーカーと、キムタオル(登録商標、日本製紙クレシア(株)製)1枚を入れ、室温で3日間静置させた。取り出したキムタオルの臭いを嗅ぎ、以下の判定基準で判定した。
【0071】
<付着臭気残留性の判定基準>
◎:全く臭いは付着していない
○:臭いは付着しているが、開放空間に3時間静置した場合には臭いはなくなる
△:臭いは付着しているが、開放空間に3時間静置した場合には臭いは弱くなる
×:臭いが付着し、開放空間に3時間静置しても強い臭いが残る
【0072】
<引火性の判定基準>
○:引火点が70℃以上
×:引火点が70℃未満
【0073】
<有害性の評価方法>
JIS Z7252のGHSに基づく化学物質等の分類方法によって、混合物又は単一化合物を評価した。原料の有害性情報は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のデータを使用した。NITEに掲載されていない場合は、試薬会社から発行されるMSDSの情報を使用した。
【0074】
<有害性の判断基準>
○:GHSに基づく分類分けをした結果、注意喚起語がない
△:GHSに基づく分類分けをした結果、注意喚起語が警告である
×:GHSに基づく分類分けをした結果、注意喚起語が危険である
【0075】
<総合評価の判定基準>
A:防黴防菌剤として優れている(空間防黴性、接触防黴性、防菌性に△も×もなく(◎か○であり)、かつその他の項目で×がなく、△の数が2つ以下)
B:防黴防菌剤として適している(空間防黴性、接触防黴性、防菌性に×がなく、△の数が3つ以下)
C:防黴防菌剤として条件によっては使用可能だが劣っている(空間防黴性、接触防黴性、防菌性に×がなく、かつその他の項目に×がある又は△の数が4つ以上)
D:防黴防菌剤として劣っており使用不可能である(空間防黴性、接触防黴性、防菌性の何れかに×がある)
【0076】
実施例1
表1に組成を示した試料を上記のような評価方法で評価して判定した。評価結果を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表2の結果より、分岐C脂肪族1価アルコールである試料番号1及び2の試料は何れも、空間防黴性、接触防黴性及び防菌性が「○」以上だった。その他の評価項目も「×」がなく、「△」も2個以下であり、上記総合評価が「A」と優れていた。
【0080】
一方、炭素原子が8個の分岐アルコールである試料番号11及び12の試料は何れも、接触防黴性及び防菌性が「△」、引火性が「×」であり、総合評価が「C」であった。
炭素原子が9個の直鎖アルコールである試料番号13及び14の試料は何れも、空間防黴性及び付着臭気残留性が「△」以下、有害性が「△」であり、総合評価が「C」以下だった。
炭素原子が9個であり、分岐メチル基を0〜1個有する試料番号15の試料は、空間防黴性及び防菌性が「△」、付着臭気残留性が「×」であり、総合評価が「C」であった。
炭素原子が10個であり、分岐メチル基を2個有する試料番号16の試料は、空間防黴性及び付着臭気残留性が「×」であり、総合評価が「D」であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の揮発性空間防黴剤やそれを担持体に担持させた固体状揮発性空間防黴剤組成物は、非接触で使用して空間防黴効果に優れ、安全性が高く、臭質、臭いの強さ、付着臭気残留性等に優れるため、家庭用品としての使用のみならず、輸送・保管等の業務上の使用にも好適であるため、家庭向け分野と業務向け分野の両産業分野に広く利用されるものである。