特許第6701040号(P6701040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000002
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000003
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000004
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000005
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000006
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000007
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000008
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000009
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000010
  • 特許6701040-ガス発生器用フィルタおよびガス発生器 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6701040
(24)【登録日】2020年5月8日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】ガス発生器用フィルタおよびガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20200518BHJP
   B01J 7/00 20060101ALI20200518BHJP
   B01D 39/10 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   B60R21/264
   B01J7/00 A
   B01D39/10
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-179557(P2016-179557)
(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公開番号】特開2018-43621(P2018-43621A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌宏
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−237389(JP,A)
【文献】 特開2001−171472(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/068250(WO,A1)
【文献】 再公表特許第2005/075050(JP,A1)
【文献】 国際公開第2012/073461(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
B01D 39/10
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材の巻回体にて構成された中空略円筒状のガス発生器用フィルタであって、
前記金属線材は、当該金属線材の延在方向と直交する断面形状がV字状である長尺状の部材からなり、
前記金属線材によって規定されるV字溝が、当該ガス発生器用フィルタの中空部側を向いており、
前記V字溝の溝角度が、130[°]以上140[°]以下である、ガス発生器用フィルタ。
【請求項2】
前記V字溝の深さ方向に沿った前記金属線材の最大外形寸法が、前記V字溝の幅方向に沿った前記金属線材の最大外形寸法よりも小さい、請求項1に記載のガス発生器用フィルタ。
【請求項3】
前記金属線材が、当該ガス発生器用フィルタの軸方向の一端部および他端部においてその巻回方向が折り返されることで斜め方向に巻き回されることにより、当該ガス発生器用フィルタが、網目状の形状を有するように構成されている、請求項1または2に記載のガス発生器用フィルタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のガス発生器用フィルタを備えた、ガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に組み込まれるガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタ(以下、単にフィルタとも称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張および展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。
【0003】
ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニットからの通電によって点火器を着火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量のガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張および展開させる機器である。
【0004】
通常、ガス発生器には、燃焼室にて発生した燃焼ガスを冷却するとともに、当該ガス中に含まれる残渣(スラグ)を捕集する目的で、フィルタが設けられる。当該フィルタは、一般に金属線材の巻回体または編組体にて構成された中空略円筒状の部材からなり、内側に位置する中空部から径方向外側に向けてガスがフィルタ中を通過することとなるように、ハウジングの内部に収容される。
【0005】
上述した構成のガス発生器用フィルタが開示された文献としては、たとえば特開2014−237389号公報(特許文献1)がある。当該特許文献1に開示されたガス発生器用フィルタにおいては、金属線材として、その延在方向に沿って延びるように形成された溝部を有するものが用いられ、当該溝部がガス発生器用フィルタの中空部側を向くように構成されている。
【0006】
このように構成することにより、フィルタの内部におけるガスの流路が複雑化することになるとともに、溝部に吹き付けられたガスに含まれるスラグが効果的に捕集されることになるため、小型かつ軽量で高い冷却性能およびスラグ捕集性能を備えたガス発生器用フィルタとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−237389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、溝部が設けられた金属線材を用いてフィルタを構成する場合であっても、金属線材の具体的な形状如何によっては、そもそもの金属線材に対する形状加工が困難になったり、金属線材の巻き回し時に型崩れが生じて歪な形状のフィルタになり易くなってしまったりするといった生産性の面での問題が生じ得る。
【0009】
また、金属線材の具体的な形状如何によっては、フィルタの圧力損失が増大したり、フィルタに目詰まりが生じ易くなってスラグの放出量が増加してしまったり、フィルタが動作時において変形してしまったりするといった性能面での問題も生じ得る。
【0010】
したがって、本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、高性能で生産性の高いガス発生器用フィルタおよびこれを備えたガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づくガス発生器用フィルタは、金属線材の巻回体にて構成された中空略円筒状のものである。上記金属線材は、当該金属線材の延在方向と直交する断面形状がV字状である長尺状の部材からなる。上記金属線材によって規定されるV字溝は、当該ガス発生器用フィルタの中空部側を向いており、上記V字溝の溝角度は、130[°]以上140[°]以下である。
【0012】
上記本発明に基づくガス発生器用フィルタにあっては、上記V字溝の深さ方向に沿った上記金属線材の最大外形寸法が、上記V字溝の幅方向に沿った上記金属線材の最大外形寸法よりも小さいことが好ましい。
【0013】
上記本発明に基づくガス発生器用フィルタにあっては、上記金属線材が、当該ガス発生器用フィルタの軸方向の一端部および他端部においてその巻回方向が折り返されることで斜め方向に巻き回されることにより、当該ガス発生器用フィルタが、網目状の形状を有するように構成されていることが好ましい。
【0014】
本発明に基づくガス発生器は、上述した本発明に基づくガス発生器用フィルタを備えてなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高性能で生産性の高いガス発生器用フィルタおよびこれを備えたガス発生器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態におけるディスク型ガス発生器の概略図である。
図2】本発明の実施の形態におけるガス発生器用フィルタの概略斜視図である。
図3図2に示すガス発生器用フィルタを構成する金属線材の形状を示す図である。
図4図2に示すガス発生器用フィルタを通過するガスの流れを模式的に示す図である。
図5図4に示すガスの流れをより詳細に示す模式図である。
図6】金属素線から図3に示す金属線材に形状加工する工程を示す模式図である。
図7図6に示す圧延部の模式断面図である。
図8図3に示す金属線材から図2に示すガス発生器用フィルタを製造する際の巻き回し加工を示す図である。
図9】第1検証試験の試験結果を示したグラフである。
図10】第2検証試験の試験結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイールに搭載されるエアバッグ装置に好適に組み込まれるディスク型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタに本発明を適用したものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態におけるディスク型ガス発生器の概略図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1は、軸方向の一端部および他端部が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に設けられた収容空間に、内部構成部品としての保持部30、点火器40、カップ状部材50、伝火薬56、ガス発生剤61、下部側支持部材62、上部側支持部材63、クッション材64およびフィルタ70等が収容されることで構成されている。また、ハウジングの内部に設けられた収容空間には、上述した内部構成部品のうちのガス発生剤61が主として収容された燃焼室60が位置している。
【0020】
短尺略円筒状のハウジングは、下部側シェル10と上部側シェル20とを含んでいる。下部側シェル10および上部側シェル20の各々は、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。下部側シェル10および上部側シェル20を構成する金属製の板状部材としては、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用され、好適には440[MPa]以上780[MPa]以下の引張応力が印加された場合にも破断等の破損が生じないいわゆる高張力鋼板が利用される。
【0021】
下部側シェル10および上部側シェル20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口面同士が向き合うように組み合わされて接合されることによってハウジングが構成されている。下部側シェル10は、底板部11と周壁部12とを有しており、上部側シェル20は、天板部21と周壁部22とを有している。これにより、ハウジングの軸方向の一端部および他端部は、それぞれ底板部11と天板部21とによって閉塞されている。なお、下部側シェル10と上部側シェル20との接合には、電子ビーム溶接やレーザ溶接(YAGレーザ溶接、CO2レーザ溶接等)、摩擦圧接等が好適に利用できる。
【0022】
下部側シェル10の底板部11の中央部には、天板部21側に向かって突出する突状筒部13が設けられており、これにより下部側シェル10の底板部11の中央部には、窪み部14が形成されている。突状筒部13は、上述した保持部30を介して点火器40が固定される部位であり、窪み部14は、保持部30に雌型コネクタ部34を設けるためのスペースとなる部位である。
【0023】
突状筒部13は、有底略円筒状に形成されており、その天板部21側に位置する軸方向端部には、平面視した状態において非点対称形状(たとえばD字状、樽型形状、長円形状等)の開口部15が設けられている。当該開口部15は、点火器40の一対の端子ピン42が挿通される部位である。
【0024】
点火器40は、火炎を発生させるためのものであり、点火部41と、上述した一対の端子ピン42とを備えている。点火部41は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。一対の端子ピン42は、点火薬を着火させるために点火部41に接続されている。
【0025】
より詳細には、点火部41は、カップ状に形成されたスクイブカップと、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン42が挿通されてこれを保持する基部とを備えており、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン42の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
【0026】
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、点火部41の外表面を規定するスクイブカップは、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0027】
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2[ms]以下である。
【0028】
点火器40は、突状筒部13に設けられた開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態で底板部11に取付けられている。具体的には、底板部11に設けられた突状筒部13の周囲には、樹脂成形部からなる保持部30が設けられており、点火器40は、当該保持部30によって保持されることにより、底板部11に固定されている。
【0029】
保持部30は、型を用いた射出成形(より特定的にはインサート成形)によって形成されるものであり、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15を経由して底板部11の内表面の一部から外表面の一部にまで達するように絶縁性の流動性樹脂材料を底板部11に付着させてこれを固化させることによって形成されている。
【0030】
点火器40は、保持部30の成形の際に、開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態とされ、この状態において点火器40と下部側シェル10との間の空間を充填するように上述した流動性樹脂材料が流し込まれることにより、保持部30を介して底板部11に固定される。
【0031】
射出成形によって形成される保持部30の原料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料が好適に選択されて利用される。その場合、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂に限られず、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂を利用することも可能である。これら熱可塑性樹脂を原材料として選択する場合には、成形後において保持部30の機械的強度を確保するためにこれら樹脂材料にガラス繊維等をフィラーとして含有させることが好ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂のみで十分な機械的強度が確保できる場合には、上述の如くのフィラーを添加する必要はない。
【0032】
保持部30は、下部側シェル10の底板部11の内表面の一部を覆う内側被覆部31と、下部側シェル10の底板部11の外表面の一部を覆う外側被覆部32と、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15内に位置し、上記内側被覆部31および外側被覆部32にそれぞれ連続する連結部33とを有している。
【0033】
保持部30は、内側被覆部31、外側被覆部32および連結部33のそれぞれの底板部11側の表面において底板部11に固着している。また、保持部30は、点火器40の点火部41の下方端寄りの部分の側面および下面と、点火器40の端子ピン42の上方端寄りの部分の表面とにそれぞれ固着している。
【0034】
これにより、開口部15は、端子ピン42と保持部30とによって完全に埋め込まれた状態となり、当該部分におけるシール性が確保されることでハウジングの内部の空間の気密性が確保されている。なお、開口部15は、上述したように平面視非点対称形状に形成されているため、当該開口部15を連結部33で埋め込むことにより、これら開口部15および連結部33は、保持部30が底板部11に対して回転してしまうことを防止する回り止め機構としても機能する。
【0035】
保持部30の外側被覆部32の外部に面する部分には、雌型コネクタ部34が形成されている。この雌型コネクタ部34は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れるための部位であり、下部側シェル10の底板部11に設けられた窪み部14内に位置している。この雌型コネクタ部34内には、点火器40の端子ピン42の下方端寄りの部分が露出して配置されている。雌型コネクタ部34には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
【0036】
また、保持部30によって覆われることとなる部分の底板部11の表面の所定位置に予め接着剤層が設けられてなる下部側シェル10を用いて上述した射出成形を行なうこととしてもよい。当該接着剤層は、上記底板部11の所定位置に予め接着剤を塗布してこれを硬化させることにより、その形成が可能である。
【0037】
このようにすれば、底板部11と保持部30との間に硬化した接着剤層が位置することになるため、樹脂成形部からなる保持部30をより強固に底板部11に固着させることが可能になる。したがって、底板部11に設けられた開口部15を囲うように上記接着剤層を周方向に沿って環状に設けることとすれば、当該部分においてより高いシール性を確保することが可能になる。
【0038】
ここで、底板部11に予め塗布しておく接着剤としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を原料として含むものが好適に利用され、たとえばシアノアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂を原料として含むものが特に好適に利用される。なお、上述の樹脂材料以外にも、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂等の各種の樹脂材料を原料として含むものが、上述した接着剤として利用可能である。
【0039】
上記においては、樹脂成形部からなる保持部30を射出成形することで下部側シェル10に対して点火器40を固定した場合の構成例を具体的に例示したが、下部側シェル10に対する点火器40の固定にかしめ等の他の固定方法を用いることも可能である。
【0040】
底板部11には、突状筒部13、保持部30および点火器40を覆うようにカップ状部材50が組付けられている。カップ状部材50は、底板部11側の端部が開口した有底略円筒状の形状を有しており、内部に伝火薬56が収容された伝火室55を含んでいる。カップ状部材50は、その内部に設けられた伝火室55が点火器40の点火部41に面することとなるように、ガス発生剤61が収容された燃焼室60内に向けて突出して位置するように配置されている。
【0041】
カップ状部材50は、上述した伝火室55を規定する頂壁部51および側壁部52と、側壁部52の開口端側の部分から径方向外側に向けて延設された延設部53とを有している。延設部53は、下部側シェル10の底板部11の内表面に沿って延びるように形成されている。具体的には、延設部53は、突状筒部13が設けられた部分およびその近傍における底板部11の内底面の形状に沿うように曲成された形状を有しており、その径方向外側の部分にフランジ状に延出する先端部54を含んでいる。
【0042】
延設部53の先端部54は、ハウジングの軸方向に沿って底板部11と下部側支持部材62との間に配置されており、これによりハウジングの軸方向に沿って底板部11と下部側支持部材62とによって挟み込まれている。ここで、下部側支持部材62は、その上方に配置されたガス発生剤61、クッション材64、上部側支持部材63および天板部21によって底板部11側に向けて押し付けられた状態にあるため、カップ状部材50は、その延設部53の先端部54が下部側支持部材62によって底板部11側に向けて押し付けられた状態となり、底板部11に対して固定されることになる。これにより、カップ状部材50の固定にかしめ固定や圧入固定を利用せずとも、カップ状部材50が底板部11から脱落することが防止される。
【0043】
カップ状部材50は、頂壁部51および側壁部52のいずれにも開口を有しておらず、その内部に設けられた伝火室55を取り囲んでいる。このカップ状部材50は、点火器40が作動することによって伝火薬56が着火された場合に伝火室55内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものであり、その機械的強度は比較的低いものが使用される。
【0044】
そのため、カップ状部材50としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属製の部材や、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂等の樹脂製の部材からなるものが好適に利用される。
【0045】
なお、カップ状部材50としては、このようなものの他にも、鉄や銅等に代表されるような機械的強度の高い金属製の部材からなり、その側壁部52に開口を有し、当該開口を閉鎖するようにシールテープが貼着されたもの等を利用することも可能である。また、カップ状部材50の固定方法も、上述した下部側支持部材62を用いた固定方法に限られず、かしめ等の他の固定方法を利用してもよい。
【0046】
伝火室55に充填された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬56としては、ガス発生剤61を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3、B/NaNO3、Sr(NO32等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物や、水素化チタン/過塩素酸カリウムからなる組成物、B/5−アミノテトラゾール/硝酸カリウム/三酸化モリブデンからなる組成物等が用いられる。伝火薬56は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬56の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0047】
ハウジングの内部の空間のうち、上述したカップ状部材50が配置された部分を取り巻く空間であってフィルタ70によって取り囲まれた空間には、ガス発生剤61が収容された燃焼室60が位置している。具体的には、上述したように、カップ状部材50は、ハウジングの内部に形成された燃焼室60内に突出して配置されており、このカップ状部材50の側壁部52の外表面に面する部分に設けられた空間ならびに頂壁部51の外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室60として構成されている。
【0048】
ガス発生剤61は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火されて燃焼することでガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤61としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体としてガス発生剤61が形成される。
【0049】
燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。
【0050】
酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅等の塩基性硝酸塩や、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。
【0051】
添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては、窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0052】
ガス発生剤61の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ディスク型ガス発生器1が組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤61の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤61の形状の他にもガス発生剤61の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0053】
上述したように、燃焼室60をハウジングの径方向に取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ70が配置されている。フィルタ70は、中空略円筒状の外形を有しており、その中心軸がハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されている。これにより、フィルタ70は、ガス発生剤61が収容された燃焼室60を径方向において取り囲んでいる。ここで、フィルタ70は、ディスク型ガス発生器1の形状に適合するように、比較的大径の短尺円筒状の形状とされている。
【0054】
フィルタ70は、燃焼室60にて発生したガスがこのフィルタ70中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれるスラグを除去する除去手段としても機能する。なお、フィルタ70の詳細については、後述することとする。
【0055】
フィルタ70は、ハウジングの周壁部を構成する上部側シェル20の周壁部22および下部側シェル10の周壁部12との間で所定の大きさの間隙部80が形成されることとなるように、当該周壁部12,22からそれぞれ離間して配置されている。この間隙部80が設けられることにより、燃焼室60にて発生したガスがフィルタ70中のほぼ全域を通過するようになり、フィルタ70の利用効率を高めることができる。
【0056】
燃焼室60のうち、底板部11側に位置する端部近傍には、下部側支持部材62が配置されている。下部側支持部材62は、環状の形状を有しており、フィルタ70と底板部11との境目部分を覆うように配置されている。下部側支持部材62は、フィルタ70の底板部11側に位置する内周面に接触することでフィルタ70を位置決めして保持するとともに、底板部11との間でカップ状部材50の先端部54を挟み込むことでカップ状部材50を保持している。
【0057】
燃焼室60のうち、天板部21側に位置する端部には、上部側支持部材63が配置されている。上部側支持部材63は、略円盤状の形状を有しており、フィルタ70と天板部21との境目部分を覆うように配置されている。上部側支持部材63は、フィルタ70の天板部21側に位置する内周面に接触することでフィルタ70を位置決めして保持するとともに、その内部に配置されたクッション材64を保持している。
【0058】
下部側支持部材62および上部側支持部材63は、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ70の内部を経由することなくフィルタ70の下端と底板部11との間の隙間およびフィルタ70の上端と天板部21との間の隙間から流出してしまうことを防止する。下部側支持部材62および上部側支持部材63は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
【0059】
上部側支持部材63の内部には、燃焼室60に収容されたガス発生剤61に接触するように環状形状のクッション材64が配置されている。これにより、クッション材64は、燃焼室60の天板部21側の部分において天板部21とガス発生剤61との間に位置することになり、ガス発生剤61を底板部11側に向けて押圧している。
【0060】
このクッション材64は、成形体からなるガス発生剤61が振動等によって粉砕されてしまうことを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体やロックウール、発泡樹脂(たとえば発泡シリコーン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等)、クロロプレンおよびEPDMに代表されるゴム等からなる部材にて構成される。
【0061】
フィルタ70に対面する部分の上部側シェル20の周壁部22には、ガス噴出口23が複数個設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ70を通過したガスをハウジングの外部に導出するためのものであり、ハウジングの周方向に沿って並んで設けられている。
【0062】
また、上部側シェル20の周壁部22の内周面には、上記複数個のガス噴出口23を閉鎖するようにシールテープ24が貼付されている。このシールテープ24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用でき、当該シールテープ24によって燃焼室60の気密性が確保されている。
【0063】
次に、図1を参照して、上述した本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1の動作について説明する。
【0064】
本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。伝火室55に収容された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬56の燃焼によってカップ状部材50は破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室60へと流れ込む。
【0065】
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室60に収容されたガス発生剤61が着火されて燃焼し、多量のガスを発生させる。燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ70中を通過し、その際、フィルタ70によって熱が奪われて冷却されるとともに、ガス中に含まれるスラグがフィルタ70によって除去されてハウジングの外周縁部に設けられた上記間隙部80に流れ込む。
【0066】
ハウジングの内圧の上昇に伴い、上部側シェル20のガス噴出口23を閉塞していたシールテープ24による封止が破られ、ガス噴出口23を介してガスがハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ディスク型ガス発生器1に隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。
【0067】
図2は、図1において示した本実施の形態におけるガス発生器用フィルタの概略斜視図であり、図3は、図2に示すガス発生器用フィルタを構成する金属線材の形状を示す図である。次に、これら図2および図3を参照して、本実施の形態におけるガス発生器用フィルタ70について詳説する。
【0068】
図2に示すように、フィルタ70は、所定の形状を有する金属線材71を巻き回すことによって製作された中空略円筒状の巻回体にて構成されている。フィルタ70は、軸方向に沿って貫通する中空部73を有しており、当該中空部73が、ガス発生剤61が収容される燃焼室60を構成することになる(図1参照)。
【0069】
フィルタ70を構成する金属線材71は、フィルタ70の径方向に沿って幾重にも巻き回されている。これにより、フィルタ70は、その径方向に沿って金属線材71が層状に積み重ねられた構造を有している。また、金属線材71は、フィルタ70の周方向および軸方向の双方に交差して延在することとなるように斜め方向に向けて巻き回されており、軸方向の一端部および他端部においてその巻回方向が折り返されることにより、網目状の形状を有している。
【0070】
なお、図2においては、理解を容易とするために、フィルタ70の外周面側の表層部および内周面側の表層部に位置する部分の金属線材71のみを図示しているが、実際には、フィルタ70は、これら図示した部分の金属線材71の間の隙間部においても、より内層側または外層側に位置する部分の金属線材71によって覆われた構成を有している。
【0071】
図3に示すように、金属線材71は、その延在方向における任意の位置の断面形状が相互に一致する長尺状の部材にて構成されている。具体的には、金属線材71は、その延在方向と直交する断面形状がV字状である屈曲板状の外形を有しており、所定の角度をもって交差する第1板状部71aおよび第2板状部71bを含んでいる。
【0072】
第1板状部71aおよび第2板状部71bは、金属線材71の幅方向の中央部において繋がっており、これにより金属線材71の谷側の表面によってV字溝72が規定されることになる。ここで、第1板状部71aと第2板状部71bとが成す角度のうちの小さい方の角度であるV字溝72の溝角度αは、130[°]以上140[°]以下である。
【0073】
金属線材71の材質としては、ステンレス鋼や鉄鋼、ニッケル合金、銅合金等が挙げられ、特にオーステナイト系ステンレス鋼が好適である。金属線材71は、後述するように、たとえば一対の圧延ロールを用いた形状加工等によってその外形が上述した断面V字状の屈曲板状に成形されてなるものである。なお、フィルタ70は、1本の金属線材71にて構成されていてもよいし、複数本の金属線材71にて構成されていてもよい。
【0074】
金属線材71の厚み(すなわち、第1板状部71aおよび第2板状部71bの各々の厚み)tは、特に制限されるものではないが、好ましくは0.145[mm]以上0.210[mm]以下とされ、より好ましくは、0.160[mm]以上0.200[mm]以下とされる。
【0075】
ここで、金属線材71においては、V字溝72の深さ方向に沿った最大外形寸法L1が、V字溝72の幅方向に沿った最大外形寸法L2よりも小さく構成されていることが好ましい。なお、金属線材71の上記最大外形寸法L1は、0.5[mm]以上5.0[mm]以下であることが好ましく、金属線材71の上記最大外形寸法L2は、上記最大外形寸法L1よりも大きいことを条件に0.5[mm]以上5.0[mm]以下であることが好ましい。
【0076】
図2に示すように、フィルタ70においては、上述した金属線材71によって規定されるV字溝72が、当該フィルタ70の中空部73側を向くように構成されている。すなわち、V字溝72を規定する金属線材71の谷側の表面が、フィルタ70の径方向内側を向くように配置されているとともに、金属線材71の山側の表面が、フィルタ70の径方向外側を向くように配置されている。
【0077】
図4は、図2に示すガス発生器用フィルタを通過するガスの流れを模式的に示す図であり、図5は、図4に示すガスの流れをより詳細に示す模式図である。次に、これら図4および図5を参照して、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1の作動時におけるガスの流れについて詳説する。
【0078】
上述したように、ディスク型ガス発生器1の作動時においては、図4に示すように、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ70中を通過してガス噴出口23に至る(図1も併せて参照のこと)。その際、図4に示すように、燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ70の中空部73側からフィルタ70中に侵入し(図中に示す矢印AR1参照)、概ねフィルタ70の径方向に沿って移動した後に、フィルタ70の外部へと向けて放出される(図中に示す矢印AR2参照)。
【0079】
ここで、上述したように、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1においては、フィルタ70を構成する金属線材71によって規定されるV字溝72が上記中空部73側(すなわち燃焼室60側)を向いている。そのため、フィルタ70の内部においてガスが通過することとなる流路が複雑化することによってフィルタ70のガスに対する接触面積が増加するばかりでなく、図5に示すように、V字溝72に吹き付けられたガス(図中においては、当該ガスの流れを模式的に矢印AR11で示している)が、当該V字溝72内において向きを変える際に微小な渦流を発生させることでガスの流れが大幅に掻き乱される(図中においては、掻き乱されたガスの流れを模式的に矢印AR12,AR13で示している)ことになり、これらが相まって高い冷却性能が得られることになる。
【0080】
また、図5に示すように、V字溝72に吹き付けられたガスに含まれるスラグSがV字溝72の表面において効率的に捕集されることになるため、V字溝72からスラグSが再度離脱してしまうことが防止できる。したがって、高いスラグ捕集性能も得られることになり、ディスク型ガス発生器1の外部へのスラグSの放出量が大幅に低減できることにもなる。
【0081】
また、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1においては、上述したように金属線材71によって規定されるV字溝72の溝角度αが140[°]以下に構成されているため、上述したようにフィルタ70の内部におけるガスの流路を複雑化しつつも、フィルタ70の圧力損失が増大してしまうことが防止できることになる。そのため、フィルタの70の圧力損失を小さく抑えることが可能になり、動作時におけるフィルタ70の変形が抑制可能になる効果ばかりでなく、フィルタに目詰まりが生じ難くなってスラグSの放出量が低減できる効果も得られる。
【0082】
ここで、フィルタ70の圧力損失は、ディスク型ガス発生器1の動作時におけるフィルタ70の入口側でのガスの圧力とフィルタ70の出口側でのガスの圧力との差(すなわち、燃焼室60の内圧と間隙部80の内圧との圧力差)で表わされる値である。
【0083】
図6は、金属素線から図3に示す金属線材に形状加工する工程を示す模式図であり、図7は、図6に示す圧延部の模式断面図である。また、図8は、図3に示す金属線材から図2に示すガス発生器用フィルタを製造する際の巻き回し加工を示す図である。次に、これら図6ないし図8を参照して、上述した本実施の形態におけるガス発生器用フィルタ70の具体的な製造方法について説明する。
【0084】
本実施の形態におけるフィルタ70は、要約すると、断面が円形状の金属素線を断面V字状の屈曲板状に圧延することで図3に示した如くの形状を有する長尺状の金属線材71を製作し、この金属線材71を中空略円筒状に巻き回すことによって製造される。
【0085】
図6および図7に示すように、金属素線75の圧延に際しては、所定位置に周方向に沿って延びる凸型部101が設けられてなる圧延ロール100Aと、所定位置に周方向に沿って延びる凹型部102が設けられてなる圧延ロール100Bとを用いて金属素線75に形状加工を施すことで金属線材71を得る。
【0086】
より詳細には、凸型部101と凹型部102とが対面するように一対の圧延ロール100A,100Bを対向配置させ、これら一対の圧延ロール100A,100Bをそれぞれ図中に示す矢印B方向および矢印C方向に回転させながら、凸型部101と凹型部102との間に図中に示す矢印A方向に沿って金属素線75を供給する。これにより、金属素線75が圧延されるとともに、凸型部101および凹型部102の形状が金属素線75に転写され、図中に示す矢印D方向に沿って排出された金属線材71が上述した断面V字状の屈曲板状に成形されることになる。
【0087】
図8に示すように、金属線材71の巻き回しに際しては、円柱状の形状を有する芯材200の所定位置に金属線材71の先端を固定し、この状態において芯材200を図中に示す矢印F方向に回転させることで図中に示す矢印E方向に沿って金属線材71を芯材200に供給させながらこれを芯材200に巻き付ける。その際、芯材200に供給される金属線材71の芯材200の軸方向に対する位置を図中に示す矢印G方向に沿って往復移動させることにより、金属線材71を芯材200に対して斜めに巻き付ける。
【0088】
また、このとき、金属線材71の谷側の表面が芯材200側を向くように金属線材71を芯材200に供給する。これにより、金属線材71によって規定されるV字溝72が芯材200側を向くことになる。芯材200に対する金属線材71の巻き回しが終了した後には、金属線材71を切断し、得られた巻回体から芯材200を抜き取る。
【0089】
こうして製作された巻回体には、その後、焼結のための熱処理が施され、これにより金属線材71が相互に焼き付けられる。以上により、本実施の形態におけるフィルタ70が製造されることになる。
【0090】
なお、上述したフィルタ70の具体的な製造方法は、本実施の形態におけるガス発生器用フィルタを得るためのあくまでも一例であり、他の製造方法によっても当然にその製造が可能である。
【0091】
ここで、本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1においては、上述したように金属線材71によって規定されるV字溝72の溝角度αが130[°]以上に構成されているため、金属線材71に対する形状加工が比較的容易に行なえる効果が得られるとともに、所望の形状のフィルタ70が確実に製造できる効果が得られる。これは、仮に上記V字溝72の溝角度αを130[°]よりも小さくした場合に、金属素線75の圧延時における成形性が悪化してしまうことに起因する。
【0092】
すなわち、上記V字溝72の溝角度αを130[°]よりも小さくした場合には、圧延ロール100Aと圧延ロール100Bとが対向する部分であってかつ凸型部101と凹型部102とが対向する部分の両外側に位置する隙間Gに金属素線75の一部が食み出し易くなり、製作された金属線材71が歪な形状をその一部に有してしまうことが避け難くなる。
【0093】
そのため、一部に歪な形状を有する金属線材71を芯材200に巻き回す際に、当該形状に起因して巻き付け位置にずれが生じてしまうことで型崩れが発生し、中空略円筒状に形成されるべきフィルタ70にも意図しない歪な形状の部位が発生してしまう。そのため、このような歪な形状のフィルタ70は、その使用が行なえないことになり、歩留まりが大幅に悪化してしまう問題も発生する。
【0094】
これに対し、上述した本実施の形態におけるディスク型ガス発生器1においては、このような問題の発生が回避できるため、金属線材71に対する形状加工が比較的容易に行なえる効果が得られるとともに、所望の形状のフィルタ70が確実に製造できる効果が得られる。
【0095】
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器用フィルタ70およびこれを備えたディスク型ガス発生器1とすることにより、高性能で生産性の高いガス発生器用フィルタおよびこれを備えたガス発生器とすることができる。
【0096】
次に、本発明の効果を確認するために行なった第1検証試験について詳説する。第1検証試験においては、金属線材によって規定されるV字溝の溝角度を種々変更した場合に、金属線材の厚みとフィルタの圧力損失との関係がどのように変化するかを確認した試験である。図9は、当該第1検証試験の試験結果を示したグラフである。
【0097】
図9に示すように、第1検証試験においては、偏平板状の金属線材と、V字溝の溝角度αがそれぞれ140[°]、135[°]、130[°]の断面V字状の屈曲板状の金属線材とをそれぞれ巻き回してなる合計で4種類のフィルタについて、それらの金属線材の厚みtを種類ごとに種々変更したものを実際に製造し、それらの各々に1000[L/min]の流量でガスを通流させた際の圧力損失ΔPをそれぞれ実測することとした。
【0098】
その結果、図9から理解されるように、V字溝の溝角度αが130[°]以上140[°]以下の金属線材を巻き回してフィルタを製造した場合に、フィルタの圧力損失ΔPが低く抑えられることが確認できた。また、偏平板状の金属線材を巻き回して製造したフィルタに比べ、屈曲板状の金属線材を巻き回して製造したフィルタとすることにより、金属線材の厚みtを薄くした場合におけるフィルタの圧力損失ΔPの増加が抑制できていることも確認でき、特に金属線材の厚みtを0.145[mm]以上0.185[mm]以下の範囲とすることにより、フィルタの圧力損失ΔPが最大でも約7.5[kPa]に抑制できることが確認できた。
【0099】
次に、本発明の効果を確認するために行なった第2検証試験について詳説する。第2検証試験においては、冷却性能がほぼ同等に設定されたフィルタにおいてフィルタの圧力損失を抑制した場合に、スラグ放出量がどのように変化するかを確認した試験である。図10は、当該第2検証試験の試験結果を示した表である。
【0100】
図10に示すように、第2検証試験においては、フィルタの冷却性能をほぼ同等に設定するために、その表面積がほぼ同等となるように金属線材の周長および総長さが変更された検証例1〜4に係る4つのフィルタを実際に製造し、それらの各々を図1に示す如くのディスク型ガス発生器に組み込み、当該ディスク型ガス発生器を個別に実際に動作させることでその圧力損失ΔPとスラグの放出量とをそれぞれ実測することとした。
【0101】
ここで、金属線材の周長は、金属線材の延在方向と直交する断面における金属線材の輪郭線の長さであり、金属線材の総長さは、フィルタの製造に要した金属線材の延在方向における長さのことである。なお、検証例1〜4に係る4つのフィルタでは、その表面積を概ね7.51〜7.60×104[mm2]の範囲に一致させた。
【0102】
その結果、図10から理解されるように、フィルタの圧力損失ΔPが小さくなるにつれ、スラグの放出量も低減する傾向にあることが確認された。これは、フィルタの圧力損失ΔPが小さく抑えられることにより、ディスク型ガス発生器の動作時にフィルタに目詰まりが生じ難くなり、スラグの放出量が低減できるためと考察される。
【0103】
以上において説明した第1および第2検証試験の結果から、上述した実施の形態におけるガス発生器用フィルタ70およびこれを備えたディスク型ガス発生器1とすることにより、高性能のガス発生器用フィルタおよびこれを備えたガス発生器とすることができることが実験的にも確認できたと言える。
【0104】
以上において説明した本発明の実施の形態においては、いわゆるディスク型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタに本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明は、いわゆるシリンダ型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタにも当然に適用が可能である。シリンダ型ガス発生器は、たとえばサイドエアバッグ装置やカーテンエアバッグ装置等に好適に組み込まれるものであり、その外形がディスク型ガス発生器に比べて細長い。そのため、当該シリンダ型ガス発生器に具備されるガス発生器用フィルタは、比較的小径の長尺円筒状のものとされる。
【0105】
ここで、シリンダ型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタに本発明を適用する場合には、フィルタの軸方向の強度を高めるために、フィルタの周方向および軸方向の双方に交差して延在することとなるように斜め方向に向けて巻き回される金属線材を、より軸方向に平行な状態になるように傾斜させて巻き回すことが好ましい。
【0106】
今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0107】
1 ディスク型ガス発生器、10 下部側シェル、11 底板部、12 周壁部、13 突状筒部、14 窪み部、15 開口部、20 上部側シェル、21 天板部、22 周壁部、23 ガス噴出口、24 シールテープ、30 保持部、31 内側被覆部、32 外側被覆部、33 連結部、34 雌型コネクタ部、40 点火器、41 点火部、42 端子ピン、50 カップ状部材、51 頂壁部、52 側壁部、53 延設部、54 先端部、55 伝火室、56 伝火薬、60 燃焼室、61 ガス発生剤、62 下部側支持部材、63 上部側支持部材、64 クッション材、70 フィルタ、71 金属線材、71a 第1板状部、71b 第2板状部、72 V字溝、73 中空部、75 金属素線、80 間隙部、100A,100B 圧延ロール、101 凸型部、102 凹型部、200 芯材、G 隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10