(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
振動子から超音波を送信し前記振動子の振動に伴い受波信号を生成する超音波センサ(30)を複数用い、前記超音波センサで受信した反射波に基づいて、移動体(10)の周囲に存在する物体を検知する物体検知装置(20)であって、
複数の前記超音波センサのうち、前記超音波を送信し前記反射波を受信したセンサを送波センサ、前記送波センサが送信した超音波の前記反射波を受信したセンサを受波センサとし、
前記送波センサが受信した反射波である直接波、及び前記受波センサが受信した反射波である間接波に基づいて前記物体を検知する物体検知部と、
前記振動子から前記超音波が送信された後の残響のうなり状態を検出するうなり検出部と、
前記うなり検出部による前記うなり状態の検出結果に基づいて、前記受波センサが前記受波信号を前記間接波に基づく信号として取得を開始する取得開始時期を可変に設定する時期設定部と、
を備える物体検知装置。
前記時期設定部は、前記うなり検出部により検出されたうなり状態が正常時と異なる場合に、前記取得開始時期を、前記うなり状態が正常時のときよりも遅い時期に設定する、請求項1に記載の物体検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0012】
(第1実施形態)
本実施形態の物体検知システムは、移動体としての車両に搭載されている。
図1に示す物体検知システムは、車両10に搭載された超音波センサ30の測距結果を用いて、車両10の周囲に存在する物体(例えば、他の車両や道路構造物等)を検知する。
【0013】
超音波センサ30は、超音波を探査波として送信し、探査波が周囲の物体で反射した反射波を受信することにより、車両周囲に存在する物体の有無や物体までの距離を検出するセンサである。超音波センサ30は、車両10の運転支援制御(例えば、衝突回避制御等)を実施する運転支援ECU40と通信可能に接続されており、運転支援ECU40からの指令に基づいて物体検知情報を出力する。物体検知情報には、車両10の周囲に存在する物体の位置や距離、方位に関する情報が含まれている。
【0014】
車両10には、複数の超音波センサ30が搭載されている。本実施形態では、車両10の前部及び後部のバンパにそれぞれ、例えば4個のセンサが車幅方向に並べて所定間隔で取り付けられている。なお、
図1には便宜上、複数の超音波センサ30として3個のセンサ30a〜30cを図示している。複数の超音波センサはいずれも同じ構成であるため、
図1ではセンサ30aのみについて具体的構成を図示している。
【0015】
超音波センサ30は、送受波部21と、物体検知装置としての検知ECU20とを備えている。送受波部21は振動子を有し、1個の振動子が送波と受波とを兼用する構成となっている。送受波部21は、例えばバンパの前面に配置されている。なお、超音波センサ30の数及び取付位置は任意であり、例えば車両10の側方に取り付けられていてもよい。
【0016】
検知ECU20は、送波部22、受波部23及び制御部24を備えており、これらにより送受波機能を実現する。送波部22は、制御部24からの送信指令に基づき、超音波領域の所定周波数の正弦波をパルス変調することでパルス信号を生成して送受波部21に出力し、送受波部21から所定の送信周期で振動子を振動させる。これにより、探査波として超音波を出力させる。受波部23は、制御部24からの受信指令に基づいて振動子の振動を電気信号に変換し、受波信号として波形処理部25に出力する。
【0017】
制御部24は、運転支援ECU40からの指令に基づいて、送波部22及び受波部23に対して送受波の指令信号を出力するとともに、反射波に基づき認識した物体検知情報を運転支援ECU40に出力する。検知ECU20は、波形処理部25、振幅計測部26及び周波数計測部27を更に備えており、物体検知部としての制御部24に、物体検知のための各種情報を入力する。
【0018】
波形処理部25は、波形処理として、受波信号に対してフィルタ処理及び増幅処理を行い、包絡線検波回路にて包絡線を検波する。振幅計測部26は、受信波(残響及び反射波を含む。)の振幅値を計測する。本実施形態では、振幅値の上限値が定められており、振幅値がその上限値よりも大きい場合には、振幅値が上限値Amaxで固定される。周波数計測部27は、受信波の周波数を計測する。例えば、電圧が正の値から負の値へ変化する点をゼロクロス点とし、そのゼロクロス点間の時間の逆数を周波数とする。制御部24は、振幅計測部26から入力した受信波(残響及び反射波を含む。)の振幅と、振幅閾値との比較結果に基づいて、車両周囲の物体検知を行う。
【0019】
運転支援ECU40は、CPU、各種メモリ等から構成されたマイコンを主体として構成され、超音波センサ30から取得した物体検知情報に基づいて、車両10の運転支援制御を実施する。運転支援制御としては、車両10が物体に接触しないように車両10の運転者に対して警報音による報知を行ったり、あるいは、物体との接触回避のための制動制御やステアリング制御等の各種制御を行ったりする。また、車両10には、外気温度を検出する外気温センサ41が取り付けられている。
【0020】
各々の超音波センサ30は、自らが送信した探査波の反射波を直接波として受信し、送波から受波までの時間である反射波時間を距離情報として取得する。また、他の超音波センサ30が送信した探査波の反射波を間接波として受信し、その反射波時間を距離情報として取得する。検知ECU20は、直接波により取得した距離情報と、間接波により取得した距離情報とを用いて、車両10に対する物体の相対的な位置(座標)を算出する。なお、以下では、探査波を送信した超音波センサ30を「送波センサ」、間接波を受信した超音波センサ30を「受波センサ」と称する。各々の超音波センサ30及び運転支援ECU40は、例えばデイジーチェーン方式やスター結線方式等で、図示しない信号線により接続されており、互いに通信可能になっている。
【0021】
図2は、送波センサから送信された探査波Vが物体Pで反射して、送波センサ及び受波センサに反射波として受信された場合を模式的に示している。
図2中、隣り合う2つの超音波センサ30a,30bのうち、センサ30aは、探査波Vを送信してその反射波を直接波Wとして受信する送波センサであり、センサ30bは、センサ30aから送信された探査波の反射波を間接波Xとして受信する受波センサである。センサ30aが取得した距離情報と、センサ30bが取得した距離情報とによれば、三角測量の原理を利用して物体Pの座標(x,y)を算出することができる。
【0022】
図3を参照して、超音波センサ30による物体検知について説明する。
図3中、(a)は送波センサについて、(b)は受波センサについて示している。
図3(a)の横軸は時間であり、縦軸は振幅値Aである。
図3(a)には包絡線検波した波形を表している。
【0023】
まず、送波センサについて説明する。送波部22は、制御部24からの制御指令に応じて、時刻t10から時刻t11までの間、パルス信号を送受波部21に出力する。これにより、送受波部21の振動子が振動し、所定周波数の超音波が送受波部21から送信される(時刻t10〜t11)。送波終了の時刻t11以降の期間(t11〜t12)では、送信波の残響が生じる。残響は、送波のための振動停止後において振動子の機械的な慣性振動が継続することにより発生する。
【0024】
時刻t10から時刻t11の期間に送信された超音波が、車両周囲に存在する物体で反射し、送受波部21に受信されると、物体との距離に応じた時刻(
図3(a)では時刻t13)で振幅値Aが増大する。制御部24は、このときの反射波の振幅値Aと振幅閾値Athとを比較し、振幅値Aが振幅閾値Athよりも大きいことにより物体有りと判定する。車両10と物体との距離が短いほど、反射波が早い時刻で受信される。
【0025】
送波センサにおいて、残響が継続している期間t11〜t12では、残響を反射波と誤認識して、物体の検知を誤るおそれがある。そこで、送波センサの制御部24は、超音波の送信指令の終了から所定のマスク時間(以下、「第1マスク時間TmA」という。)が経過するまでは、反射波の読み込みを禁止する。そして、第1マスク時間TmAが経過すると、反射波の読み込みを開始して、反射波の振幅値に基づく物体検知を行う。第1マスク時間TmAは、超音波の送信指令が終了した時刻t11を始点とし、残響終了の時刻t12を終点とする期間に対応するように設定される。残響の終了判定について、本実施形態では、超音波の送信終了後に振幅値Aが振幅閾値Athよりも小さくなってから所定時間Tyが経過したことにより残響終了と判定する。
【0026】
なお、残響の終了判定に用いる振幅閾値と、物体検知に用いる振幅閾値とを同じ値としたが、異なる値としてもよい。符号Tcは超音波の送信周期であり、送信周期Tcごとに(例えば、数百ミリ秒間隔で)、同一又は異なる超音波センサ30の送受波部21から超音波が送信される。第1マスク時間TmAについては、超音波センサの送信指令の開始から残響終了までの期間としてもよい。
【0027】
続いて、受波センサによる物体検知について説明する。受波センサでは、
図2に示すように、送波センサから送信された探査波が物体Pでの反射波としてではなく、送波センサから直接、超音波Yが受波センサで受信される「横飛び」が生じることがある。かかる場合、実際にはその位置に物体が存在していないにも関わらず、横飛びによる超音波Yの受信に基づき、受波センサで物体有りと検知されるおそれがある。
【0028】
そこで、受波センサの制御部24は、
図3(b)に示すように、送波センサに対して探査波の送信開始の指令が出力されてから所定のマスク時間(以下、「第2マスク時間TmB」という。)が経過するまでの期間は反射波の受信を禁止し、第2マスク時間TmBが経過した後に、受信波を反射波として読み込み開始する。そして、その読み込んだ反射波により物体検知を行う。第2マスク時間TmBは、センサ間の距離(ピッチ)と音速とに基づいて定められる。
【0029】
送波センサの残響部分では、周波数が異なる複数の波が干渉して合成波が生成されることにより「うなり」が発生することがある。すなわち、
図3(a)に示すように、時刻t11で送波を終了した以降の残響継続期間において、残響の振幅値Aが増減変動することがある。本システムでは、超音波センサ30の正常時に残響でうなりが発生するように、超音波センサ30内のコイルやコンデンサ等の回路構成が設計されている。したがって、超音波センサ30が物体を正常に検知可能な状態であれば、残響波形は
図3(a)に示すような増減変動した波形となる。
【0030】
ここで、超音波センサ30の送受波部21に水や汚れ等の異物が付着していると、送受波部21の指向性が広がり、隣接するセンサに送波センサから探査波が直接入り込む横飛びが生じやすくなる。こうした指向性の変化による不要検知を低減するには、受波センサのマスク時間(第2マスク時間TmB)を長めに設計することが考えられる。しかしながら、第2マスク時間TmBを長くすると、探査波の送信指令後において、反射波に基づく物体検知が禁止される期間が長くなり、車両10の近距離に存在する物体に対する検知精度が低下することが懸念される。
【0031】
超音波センサ30の送受波部21に異物が付着している場合、残響の振動特性に違いが現れ、残響波形が正常時の状態からずれた場合には、送受波部21に異物が付着していると推定できる。本実施形態では、残響のうなり状態の変化に着目し、残響のうなり状態が正常時と異なる場合には、送受波部21に異物の付着ありとみなし、受波センサのマスク時間である第2マスク時間TmBを正常時よりも長く設定する。これにより、受波センサが、受波信号を反射波に基づく信号として取得開始する取得開始時期を遅らせることとしている。
【0032】
具体的には、各超音波センサ30の検知ECU20は、
図1に示すように、自らが送波センサのときに残響のうなり状態を検出するうなり検出部28を備えている。受波センサの制御部24は、残響のうなり状態の検出結果を送波センサから取得し、その取得した残響のうなり状態に基づいて第2マスク時間TmBを設定する。
【0033】
残響のうなり状態の検出方法について、残響にうなりが発生している場合とそうでない場合とでは、残響の振幅値Aが減少傾向にある期間での振幅値Aの傾きが異なる。具体的には、残響でうなりが発生している場合には、
図3に示すように、残響の振幅値Aがゼロに向けて単調減少する期間(以下、「振幅立ち下がり期間Td」という。)での振幅値Aの傾きは比較的急峻である。これに対し、残響でうなりが発生していない場合には、
図4に示すように、振幅立ち下がり期間Tdでの振幅値Aの傾きは、うなりが発生している場合に比べて緩やかである。この点に着目し、うなり検出部28は、振幅立ち下がり期間Tdでの振幅値Aの傾きに基づいて残響のうなりの有無を検出する。
【0034】
具体的には、送波センサにおいて、うなり検出部28は、
図1に示すように、傾き算出部28aとうなり判定部28bとを備える。傾き算出部28aは、自らが送信した探査波の残響が継続している期間、より具体的には、探査波の送信後に振幅値Aが振幅閾値Athを下回る前の期間において、振幅立ち下がり期間Tdでの振幅値Aの傾きの絶対値(以下、「立ち下がり傾きα」という。)を算出する。なお、立ち下がり傾きαが「振幅傾き」に相当する。
【0035】
うなり判定部28bは、傾き算出部28aで算出した立ち下がり傾きαと、うなり判定値αthとを比較する。立ち下がり傾きαがうなり判定値αth以下の場合、つまり、残響が減衰するときの振幅値Aの低下が緩慢である場合には、残響にうなりは発生していないと判定する。一方、立ち下がり傾きαがうなり判定値αthよりも大きい場合、つまり、残響が減衰するときの振幅値Aの低下が急峻である場合には、残響にうなりが発生していると判定する。うなり検出部28は、残響のうなり状態の検出結果をうなり情報として制御部24に出力する。
【0036】
なお、残響にうなりが発生している場合、
図3に示すように、残響が継続している期間内において振幅値Aが増減変動することによって、1回の残響期間内で、残響の振幅値Aが減少傾向にある期間が複数回出現する。うなり検出部28は、振幅値Aが減少する毎に振幅値Aの傾きを算出して都度書き替えることにより、最後の振幅立ち下がりApでの振幅値Aの傾きを認識し、これを立ち下がり傾きαとしてうなり判定を行う。
【0037】
受波センサの制御部24は、残響のうなり情報を、送波センサの制御部24から信号線を介して取得し、その取得したうなり情報に応じて第2マスク時間TmBを可変に設定する。本実施形態の超音波センサ30は、送受波部21に異物が付着していない正常時には、残響でうなりが発生するように設計されており、制御部24は、残響のうなり状態が正常時の状態、つまり残響でうなりが発生している状態であれば、第2マスク時間TmBとして基準値Tm1を設定する。また、残響でうなりが発生しておらず、残響のうなり状態が正常時と異なる場合には、第2マスク時間TmBとして、基準値Tm1よりも長い時間である補正値Tm2(Tm1<Tm2)を設定する。受波センサの制御部24は、設定した第2マスク時間TmBを用いて、反射波に基づく物体検知を行う。なお、本実施形態では、制御部24が「時期設定部」として機能する。
【0038】
送受波部21に異物が付着した場合の第2マスク時間TmBについて、
図5を用いて説明する。送波センサの送受波部21に異物が付着し、送波センサの残響にうなりが発生していないことが検出された場合(
図5(a))、受波センサの制御部24は、
図5(b)に示すように、送波センサに対して探査波の送信開始の指令が出力された時刻t20から、補正値Tm2が経過するまでの期間を第2マスク時間TmBとして設定する。これにより、反射波の取得開始時期が、残響のうなり状態が正常時のときよりも遅い時期に設定され、時刻t20から補正値Tm2が経過した以降で物体検知が行われる。
【0039】
次に、本実施形態の物体検知装置で実行される処理について、
図6〜
図8のフローチャートを用いて説明する。
【0040】
図6には、残響のうなり検出処理の処理手順を示す。
図6の処理は、送波センサの送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、送波センサの検知ECU20により所定周期毎に実行される。
【0041】
図6において、ステップS101では、残響を受波部23で受信する。ステップS102では、その受信した残響の振幅値Aが振幅閾値Athを下回る前の期間で、振幅値Aの立ち下がり傾きαを算出する。
【0042】
ステップS103では、立ち下がり傾きαがうなり判定値αthよりも大きいか否かを判定する。立ち下がり傾きαがうなり判定値αthよりも大きい場合には、ステップS104へ進み、残響でうなりが発生していると判定し、その判定結果をうなり情報として記憶する。一方、立ち下がり傾きαがうなり判定値αth以下の場合には、ステップS105へ進み、残響でうなりが発生していないと判定し、その判定結果をうなり情報として記憶する。その後、本処理を終了する。
【0043】
次に、第2マスク時間TmBを設定するマスク設定処理(
図7)、及び反射波(間接波)による物体検知処理(
図8)の処理手順について説明する。
図7及び
図8の処理は、送波センサの送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、受波センサの検知ECU20により所定周期毎に実行される。
【0044】
図7において、ステップS201では、残響のうなり情報を送波センサの検知ECU20から取得する。続くステップS202では、取得したうなり情報に基づいて、残響にうなりが発生しているか否かを判定する。残響でうなりが発生している場合には、ステップS203へ進み、第2マスク時間TmBとして基準値Tm1を設定する。
【0045】
一方、残響でうなりが発生していない場合には、ステップS204へ進み、外気温センサ41によって検出された外気温情報に基づいて、外気温度が所定温度以上変化していないか否かを判定する(温度変化判定部)。ここでは、所定の短時間(例えば数分〜数十分)の間に外気温度が所定温度以上の急激な温度変化がなければ肯定判定される。急激な温度変化が生じる状況は、例えば車両10がガレージやトンネル、屋内駐車場等といったような外部と遮断された空間に進入した場合に生じ得る。
【0046】
外気温度が所定温度以上変化していない状況であれば、ステップS204で肯定判定されてステップS205へ進み、第2マスク時間TmBとして補正値Tm2を設定する。一方、外気温度が所定温度以上変化した状況であれば、ステップS203へ進み、第2マスク時間TmBとして基準値Tm1を設定する。外気温度が急激に大きく変化した状況の場合、残響のうなりが消失した原因は、送受波部21への異物の付着によるものではなく、超音波センサ30内の回路の温度特性によるものと考えられるためである。その後、本処理を終了する。
【0047】
次に、
図8の受波センサによる物体検知処理について説明する。
図8において、ステップS301では、
図7で設定した第2マスク時間TmBを取得し、送波センサに対して探査波の送信指令が出力されてから第2マスク時間TmBが経過したか否かを判定する。第2マスク時間TmBが経過するまでは、反射波の読み込みを行わず、一旦本ルーチンを終了する。一方、第2マスク時間TmBが経過した場合には、ステップS301で肯定判定されてステップS302へ進み、受信波を反射波として読み込む。続くステップS303では、反射波(間接波)の振幅値と振幅閾値Bthとを比較する。なお、間接波による物体検知で用いる振幅閾値Bthは、直接波による物体検知で用いる振幅閾値Athと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
【0048】
反射波の振幅値が振幅閾値Bth以下である場合にはステップS304へ進み、物体無しと判定する。一方、反射波の振幅値が振幅閾値Bthよりも大きい場合にはステップS305へ進み、物体有りと判定する。そして本処理を終了する。
【0049】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0050】
送波センサが送信した探査波の残響のうなり状態に基づいて、受波センサのマスク時間である第2マスク時間TmBを可変に設定することにより、受波センサが受波信号を反射波に基づく信号として取得開始する取得開始時期を可変に設定する構成としたため、送波センサの送受波部21における付着物の有無に応じたマスク時間を用いて、間接波に基づく物体検知を行うことができる。これにより、近距離物体の検知性能の向上と、物体の不要検知の抑制との両立を図ることができる。
【0051】
具体的には、うなり検出部28により検出された残響のうなり状態が、送波センサの送受波部21に付着物がない正常時の状態と異なる場合に、受波センサにおいて反射波の取得開始時期がより遅くなるように第2マスク時間TmBを変更する構成とした。この構成によれば、送受波部21に付着物がない場合には、第2マスク時間TmBを短く設定するため、車両10の近距離に存在する物体を精度良く検知することができる。また、送受波部21に付着物がある場合には、第2マスク時間TmBを長い時間に設定するため、送波センサからの探査波が受波センサの送受波部21に直接入り込む横飛びによって不要な物体検知が行われることを抑制することができる。
【0052】
外気温度が所定温度以上変化していないことを条件に、残響のうなり状態の検出結果に基づいて第2マスク時間TmBを可変に設定する構成とした。外気温度が所定温度以上変化した状況下では、残響のうなり状態が変化した要因は、送受波部21への異物の付着ではなく、超音波センサ30内の回路の温度特性によることが考えられる。つまり、外気温度が所定以上変化していない状況で残響のうなり状態が変化した場合には、送受波部21に異物が付着している蓋然性が高い。この点を考慮して上記構成とすることにより、送受波部21の付着物の有無の判定精度を高めることができる。
【0053】
残響のうなり状態に応じて、残響波の振幅の立ち下がり傾きαが異なる点に着目し、立ち下がり傾きαに基づいて、残響のうなり状態を検出する構成とした。この構成によれば、最後の振幅立ち下がりApの期間において振幅値Aの傾きを少なくとも算出すればよいため、少ない処理負荷で残響のうなり状態を検出することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態では、残響波形の立ち下がり部分の傾きの絶対値である立ち下がり傾きαに基づいて、残響のうなり状態を検出する構成とした。これに対し、本実施形態では、残響の振幅値Aが所定以上の変化で増減変動する頻度を検出することにより、残響のうなり状態を検出する。
【0055】
図9は、本実施形態の物体検知システムの概略構成図である。なお、
図9は、
図1と異なる部分を示している。
図9において、うなり検出部28は、変動検出部28cとうなり判定部28dとを備える。変動検出部28cは、超音波を送信した後に振幅値Aが振幅閾値Athを下回る前の期間で、残響の振幅値Aが所定値以上の変動量で増減変動した回数(以下、「うなり回数δ」という。)を計測する。例えば
図10に示すように、探査波の送信指令の終了時刻t31以降の期間において、振幅値Aが変動閾値Dthを下回る極小点Pの出現回数をカウントし、その出現回数をうなり回数δとして設定する。変動閾値Dthは、上限値Amaxよりも小さく、かつ振幅閾値Athよりも大きい値に設定されている。
【0056】
うなり判定部28dは、変動検出部28cで検出したうなり回数δと、うなり判定値δthとを比較し、うなり回数δがうなり判定値δth以下の場合には、残響でうなりは発生していないと判定する。一方、うなり回数δがうなり判定値δthよりも大きい場合には、残響でうなりが発生していると判定する。
【0057】
本実施形態における残響のうなり検出処理の処理手順について
図11のフローチャートを用いて説明する。この処理は、送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、送波センサの検知ECU20により所定周期毎に実行される。
【0058】
図11において、ステップS401では、残響を受波部23で受信する。ステップS402では、その受信した残響の振幅値Aが振幅閾値Athを下回る前の期間において、残響の振幅値Aに基づいてうなり回数δを算出する。
【0059】
ステップS403では、うなり回数δがうなり判定値δthよりも大きいか否かを判定する。うなり回数δがうなり判定値δthよりも大きい場合には、ステップS404へ進み、残響でうなりが発生していると判定し、その判定結果をうなり情報として記憶する。一方、うなり回数δがうなり判定値δth以下の場合には、ステップS405へ進み、残響でうなりが発生していないと判定し、その判定結果をうなり情報として記憶する。
図11の処理で記憶したうなり情報は、上記
図7のマスク時間設定処理で用いられ、上記
図8の物体検知処理により物体検知が行われる。
【0060】
以上詳述した第2実施形態によれば、残響のうなり状態に応じて、残響波の振幅が増減変動する頻度が異なる点に着目し、当該頻度を表すうなり回数δに基づいて、残響のうなり状態を検出する構成とした。この構成によれば、残響のうなりを直接検出でき、うなり状態をより精度良く検出することができる。その結果、物体の不要検知の抑制と物体の検知性能向上との両立の観点において、好適な第2マスク時間TmBを設定することができる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態では、立ち下がり傾きαに基づいて残響のうなり状態を検出する構成としたが、本実施形態では、残響の周波数に基づいてうなり状態を検出する。
【0062】
残響周波数に基づくうなり検出処理について、
図12及び
図13を用いて説明する。
図12は、送波センサにおいて、残響でうなりが発生している場合を表し、
図13は、残響でうなりが発生していない場合を表す。
図12及び
図13中、上段は合成波の振幅値Aの推移を表し、下段は、低周波数成分及び高周波数成分のそれぞれの振幅値Aの推移を表したものである。
【0063】
残響のうなりは、周波数が異なる複数の波が干渉して合成波が生成されることにより生じる。残響でうなりが発生している場合には、
図12に示すように、低周波数成分と高周波数成分との振幅値Aは経時的にほぼ同じ変化となり、周波数計測部27では、高周波数成分の周波数が計測される。これに対し、残響が低周波数側にシフトしており、周波数計測部27で低周波数成分の振動の周波数が計測されている場合、
図13に示すように、残響にうなりは発生しない。この点に着目し、本実施形態では、残響の周波数に基づいてうなり状態を検出することとしている。
【0064】
図14は、本実施形態の物体検知システムの概略構成図である。なお、
図14は、
図1と異なる部分を示している。うなり検出部28は、探査波の送信指令の終了後に計測した残響周波数(以下、「残響計測周波数fa」という。)を周波数計測部27から入力し、その入力した残響計測周波数faに基づいて、残響にうなりが発生しているか否かを判定する。本実施形態では、基準温度時(例えば常温時)の残響周波数と駆動周波数との高低の関係を示す周波数情報を予め記憶部に記憶しておき、その周波数情報を用いて残響のうなり状態を検出する。なお、本実施形態では、基準温度において残響でうなりが発生するように超音波センサ30が設計されており、送受波部21に異物が付着していない正常時では、残響周波数として、振幅成分の大きい高周波数成分の周波数(駆動周波数よりも高い周波数)が計測される。基準温度は、通常の車両走行時における環境温度であり、例えば出荷地域等に応じて設定されていてもよい。
【0065】
具体的には、うなり検出部28は、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が、基準温度時の残響周波数と駆動周波数との関係と同じか否かを判定する。両者の関係が基準温度時と同じであれば、残響部分にうなりは発生しているものと判定する。一方、両者の関係が基準温度時と異なっている場合には、残響部分にうなりが発生していないものと判定する。
【0066】
次に、本実施形態のマスク時間設定処理について、
図15のフローチャートを用いて説明する。この処理は、送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、送波センサの検知ECU20により所定周期毎に実行される。
【0067】
図15において、ステップS501では、残響を受波部23で受信する。ステップS502では、残響計測周波数faを取得し、ステップS503で、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じか否かを判定する。残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じ場合、ステップS504へ進み、残響でうなりが発生していると判定し、その判定結果をうなり情報として記憶部に記憶する。一方、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じでない場合には、ステップS505へ進み、残響でうなりが発生していないと判定し、その判定結果をうなり情報として記憶部に記憶する。
図15の処理で記憶したうなり情報は、上記
図7のマスク時間設定処理で用いられ、上記
図8の物体検知処理により物体検知が行われる。
【0068】
以上詳述した第3実施形態によれば、残響のうなり状態に応じて、残響周波数の現れ方が異なる点に着目し、残響周波数に基づいて残響のうなり状態を検出する構成とした。この構成によれば、残響周波数を用いて、残響のうなり状態を比較的簡単に検出することができる。また、その検出結果を用いて第2マスク時間TmBを可変に設定することにより、物体の不要検知の抑制と、近距離物体の検知性能向上との両立を図ることができる。
【0069】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されず、例えば以下のように実施されてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、超音波センサ30の正常時に残響でうなりが発生するように設計されているシステムに適用する場合について説明したが、正常時に残響でうなりが発生しないように設計されている超音波センサを備えるシステムに適用してもよい。この場合、残響でうなりが発生していない状態から、うなりが発生している状態に変化した場合に、第2マスク時間TmBを長い時間に変更する。
【0071】
・上記実施形態では、うなり検出部28によって残響のうなりの有無を検出したが、うなりの強弱の度合いを検出し、その検出結果に基づいて第2マスク時間TmBを可変に設定する構成としてもよい。具体的には、立ち下がり傾きαに基づいて残響のうなり状態を検出する構成において、正常時の立ち下がり傾きαからの乖離量が大きいほど、第2マスク時間TmBを長くすることにより、反射波の取得開始時期を遅い時期に設定する。あるいは、うなり回数の数に応じて第2マスク時間TmBを設定する構成において、正常時のうなり回数からの乖離量が大きいほど、第2マスク時間TmBを長くすることにより、反射波の取得開始時期を遅い時期に設定する。
【0072】
・第2マスク時間TmBを、外気温度やセンサ個体の温度情報に応じて可変に設定してもよい。具体的には、温度が高いほど第2マスク時間TmBを短く設定する。
【0073】
・上記第3実施形態では、基準温度時の残響周波数と駆動周波数との関係を示す周波数情報を予め定めておき、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じか否かを判定することによって残響のうなり状態を検出したが、残響の周波数に基づくうなり状態の検出方法はこれに限定されない。例えば、残響が生じている期間内で、駆動周波数に対する残響周波数の高低が変化したか否かを判定し、その判定結果に基づいて残響のうなり状態を検出する構成としてもよい。具体的には、残響が生じている期間内で、残響計測周波数faが駆動周波数よりも高い周波数から低い周波数へ遷移した場合、又は残響計測周波数faが駆動周波数よりも低い周波数から高い周波数へ遷移した場合に、残響でうなりが発生していないものと判定する。また、残響が生じている期間内で、残響計測周波数faが駆動周波数よりも高い状態が継続している場合に、残響でうなりが発生しているものと判定する。
【0074】
・残響のうなり状態につき、複数の検出方法を組み合わせて検出する構成としてもよい。例えば、立ち下がり傾きαとうなり回数δとに基づいて残響のうなり状態を検出する構成や、立ち下がり傾きαと残響周波数とに基づいて残響のうなり状態を検出する構成等が挙げられる。複数の検出方法を組み合わせる構成によれば、残響のうなり状態をより精度良く検出することができる。
【0075】
・上記第1実施形態では、振幅値Aが単調減少する期間、つまり振幅立ち下がりApでの立ち下がり傾きαを認識し、これに基づきうなり判定を行う構成としたが、振幅値Aが単調減少する期間よりも前で生じた振幅値Aの増減変動について、振幅の単位時間当たりの減少量を算出し、これに基づきうなり判定を行ってもよい。
【0076】
・上記実施形態では、超音波センサ30の検知ECU20が物体検知装置として機能する場合について説明したが、車両30側のECUが物体検知装置として機能する構成としてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、車両に搭載された物体検知装置を一例に挙げて説明したが、例えば、鉄道車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載することもできる。
【0078】
・上記の各構成要素は概念的なものであり、上記実施形態に限定されない。例えば、一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分散して実現したり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素で実現したりしてもよい。