【文献】
T.T Ershova et al.,ION-EXCHANGE INTERACTION BETWEEN LITHIUM SILICATE GLASSES CONTAINING SESQUIOXIDES AND MELTS OF SODIUM,GLASS PHYSICS AND CHEMISTRY,1980年,Volume 6, Number 4,p. 273-279, 全9頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のガラス粉末は、低温で軟化流動するが、熱膨張係数が高いため、絵付層の熱膨張係数を低下させることが困難である。絵付層の熱膨張係数が高いと、絵付層付き結晶化ガラス基板にクラックが発生し易くなる。この傾向は、結晶化ガラス基板の熱膨張係数が低い程、顕在化し易くなる。なお、このクラックは、耐水性、耐酸性等の特性を劣化させるだけでなく、その内部に汚れが滞留して、美観を損ねるという問題も発生させる。
【0007】
更に、絵付層の熱膨張係数が高いと、絵付層に過大な引張応力が入り、外力により絵付層の機械的強度が劣化し易くなる。
【0008】
また、調理器用トッププレートは、使用時に熱湯、果汁、調味料に曝される。このため、絵付層には、高い耐水性、耐酸性が求められることがある。具体的には、絵付層が調理器用トッププレートの調理面側に配置される場合、調理面とは反対側に絵付層が配置される場合であっても、ガス器具等を通すために穴開け加工がなされる場合等は、高い耐水性、耐酸性が求められる。これに伴い、ガラス粉末にも高い耐水性、耐酸性が求められる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、低温で軟化流動すると共に、熱膨張係数が低く、しかも耐水性、耐酸性が高いガラス粉末及び複合粉末を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の検討を行った結果、SiO
2−B
2O
3−Al
2O
3系ガラス粉末において、Li
2Oを所定量導入すると共に、SiO
2の含有量を増加させると共に、B
2O
3の含有量を低下させることにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SiO
2 48〜75%、B
2O
3 5〜23%、Al
2O
3 5〜25%、Li
2O 5〜30%、ZnO 0〜25%を含有し、モル比SiO
2/B
2O
3が3.23以上であることを特徴とする。ここで、「SiO
2/B
2O
3」は、SiO
2の含有量をB
2O
3の含有量で割った値である。
【0011】
本発明のガラス粉末は、ガラス組成中にSiO
2を48〜75モル%、B
2O
3を5〜23モル%、Al
2O
3を5〜25モル%、Li
2Oを5〜30モル%含む。これにより、焼成時に、良好に軟化流動した後に低膨張のβ−石英固溶体を析出させることができる。結果として、軟化流動性と低膨張係数を両立させることが可能になる。
【0012】
一方、ガラス組成中のSiO
2の含有量を低下させつつ、B
2O
3の含有量を増加させると、ガラス粉末の軟化流動性が向上するものの、β−石英固溶体が析出した後にガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が低下し易くなる。そこで、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中のモル比SiO
2/B
2O
3を3.23以上に規制している。これにより、結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が向上するため、絵付層の耐水性、耐酸性を的確に高めることができる。
【0013】
第二に、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中のB
2O
3の含有量が16モル%以下であることが好ましい。
【0014】
第三に、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中のZnOの含有量が0.1〜7.6モル%であることが好ましい。このようにすれば、焼成時に、異種結晶の析出を抑制しつつ、β−石英固溶体の析出量を増加させることができる。結果として、熱膨張係数の焼成温度依存性を低下させることが可能になり、焼成後に局所的に歪な応力が残留したり、局所的に熱膨張係数が異なる箇所が発生する事態を防止し易くなる。また製造ロット間で絵付層の熱膨張係数が異なる事態を防止し易くなる。
【0015】
第四に、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中に更にTiO
2とZrO
2を合量で0.1〜15モル%含むことが好ましい。
【0016】
第五に、本発明のガラス粉末は、ガラス組成中に実質的にPbOとBi
2O
3を含まないことが好ましい。ここで、「実質的に〜を含まない」とは、明示の成分が不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、明示の成分の含有量が0.1質量%未満の場合を指す。
【0017】
第六に、本発明のガラス粉末は、700℃10分間の条件で焼成した後の熱膨張係数が25×10
−7/℃以下であることが好ましい。ここで、「熱膨張係数」は、TMA装置を用いて、30〜350℃の温度範囲で測定した値である。なお、測定試料として、ガラス粉末の圧粉体を700℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0018】
第七に、本発明のガラス粉末は、700℃10分間の条件で焼成すると、主結晶としてβ−石英固溶体が析出することが好ましい。ここで、「主結晶」は、X線回折法で測定した時に、ピーク強度が最も大きい結晶を指す。
【0019】
第八に、本発明のガラス粉末は、マクロ型DTA装置で測定した軟化点が550〜700℃であることが好ましい。ここで、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、
図1に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。なお、マクロ型DTA装置による測定は、空気中で行い、昇温速度を10℃/分とする。
【0020】
第九に、本発明の複合粉末は、ガラス粉末 55〜100質量%、無機顔料粉末 0〜45質量%、耐火性フィラー粉末 0〜40質量%を含有する複合粉末であって、ガラス粉末が、上記のガラス粉末であることが好ましい。
【0021】
第十に、本発明の複合粉末は、無機顔料粉末がCr-Cu系複合酸化物であることが好ましい。ここで、「〜系複合酸化物」とは、明示の成分を必須成分として含む複合酸化物を指す。
【0022】
第十一に、本発明の絵付層付き低膨張基板は、低膨張基板の表面に絵付層を有する絵付層付き低膨張基板であって、絵付層が複合粉末の焼結体であり、且つ複合粉末が上記の複合粉末であることが好ましい。ここで、「低膨張基板」は、30〜350℃の温度範囲における熱膨張係数が35×10
−7/℃以下の基板を指す。
【0023】
第十二に、本発明の絵付層付き低膨張基板は、絵付層にβ−石英固溶体が析出していることが好ましい。
【0024】
第十三に、本発明の絵付層付き低膨張基板は、低膨張基板が透明結晶化ガラス基板であり、且つ主結晶としてβ−石英固溶体が析出していることが好ましい。
【0025】
第十四に、本発明の絵付層付き低膨張基板は、低膨張基板が石英基板であることが好ましい。
【0026】
第十五に、本発明の絵付層付き低膨張基板は、調理器用トッププレートに用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SiO
2 48〜75%、B
2O
3 5〜23%、Al
2O
3 5〜25%、Li
2O 5〜30%、ZnO 0〜25%を含有し、モル比SiO
2/B
2O
3が3.23以上であることを特徴とする。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指す。
【0029】
SiO
2は、ガラス骨格を形成する成分であり、またβ−石英固溶体の結晶構成成分であり、更に結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性を高める成分である。SiO
2の含有量は48〜75%であり、好ましくは50〜68%、52〜66%、54〜64%、特に56〜62%である。SiO
2の含有量が少な過ぎると、熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。また焼成時にβ−石英固溶体が析出し難くなり、結果として絵付層の熱膨張係数を低下させ難くなる。更に結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が低下し易くなる。一方、SiO
2の含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。
【0030】
B
2O
3は、ガラス骨格を形成する成分であり、また熱膨張係数を上昇させずに、軟化点を低下させる成分である。B
2O
3の含有量は5〜23%であり、好ましくは7〜19%、9〜16%、10〜14%、特に10〜12%である。B
2O
3の含有量が少な過ぎると、熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。更に軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。一方、B
2O
3の含有量が多過ぎると、結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が低下し易くなる。
【0031】
モル比SiO
2/B
2O
3は3.23以上であり、好ましくは3.5以上、3.9以上4.2〜10、4.5〜8、4.8〜7、特に5〜6である。モル比SiO
2/B
2O
3が小さ過ぎると、結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が低下し易くなり、絵付層の耐水性、耐酸性が低下し易くなる。一方、モル比SiO
2/B
2O
3が大き過ぎると、β−スポジュメン等の異種結晶が析出して、β−石英固溶体の析出量が低下し易くなる。
【0032】
Al
2O
3は、β−石英固溶体の結晶構成成分であり、また耐酸性を高める成分である。Al
2O
3の含有量は5〜25%であり、好ましくは6〜20%、7〜16%、8〜13%、特に9〜11%である。Al
2O
3の含有量が少な過ぎると、焼成時にβ−石英固溶体が析出し難くなり、結果として絵付層の熱膨張係数を低下させ難くなる。Al
2O
3の含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。
【0033】
Li
2Oは、β−石英固溶体の結晶構成成分であり、また熱膨張係数を上昇させずに、軟化点を低下させる成分である。Li
2Oの含有量は5〜30%であり、好ましくは7〜25%、10〜22%、12〜20%、13〜18%、特に14〜16%である。Li
2Oの含有量が少な過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。更に焼成時にβ−石英固溶体が析出し難くなり、結果として絵付層の熱膨張係数を低下させ難くなる。一方、Li
2Oの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下し易くなる。
【0034】
ZnOは、熱膨張係数をあまり上昇させずに、軟化点を低下させる成分である。また結晶化を促進させる成分である。ZnOの含有量は0〜25%であり、好ましくは0〜20%、0〜16%、1〜14%、2〜12%、3〜10%、特に4〜7.6%である。また、異種結晶の析出を抑制しつつ、β−石英固溶体の析出量を増加させたい場合、ZnOの含有量は0.1〜7.6%、1〜5%、特に1.5〜3%である。ZnOの含有量が多過ぎると、結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が低下し易くなり、更にLi−Si−Zn系の異種結晶が析出し易くなり、β−石英固溶体の析出量が低下し易くなる。
【0035】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を導入してもよい。
【0036】
Na
2OとK
2Oは、軟化点を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、焼成時にβ−石英固溶体が析出し難くなり、結果として絵付層の熱膨張係数を低下させ難くなる。更に耐酸性が低下し易くなる。よって、Na
2OとK
2Oの合量は、好ましくは0〜8%未満、0〜6%、0〜4%、0〜2%、特に0〜1%未満である。Na
2Oの含有量は、好ましくは0〜8%未満、0〜6%、0〜4%、0〜2%、特に0〜1%未満である。K
2Oの含有量は、好ましくは0〜8%未満、0〜6%、0〜4%、0〜2%、特に0〜1%未満である。モル比Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、好ましくは0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、特に0.9以上である。なお、「Li
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)」は、Li
2Oの含有量をLi
2O、Na
2O及びK
2Oの合量で割った値である。
【0037】
TiO
2とZrO
2は、結晶性を高める成分であり、また結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。更に熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。TiO
2とZrO
2の合量は、好ましくは0〜15%、0〜12%、0.1〜10%、1〜8%、特に2〜6%である。TiO
2の含有量は、好ましくは0〜15%、0〜12%、0.1〜10%、1〜8%、特に2〜6%である。ZrO
2の含有量は、好ましくは0〜10%、0〜5%、0〜3%未満、0〜2%、特に0〜1%である。
【0038】
MgOは、熱的安定性を高める成分である。MgOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%である。MgOの含有量が多過ぎると、軟化点が上昇して、ガラス粉末の軟化流動性が低下し易くなる。
【0039】
BaOは、熱的安定性を高める成分である。BaOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、特に0.1〜3%である。BaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に上昇して、絵付層の熱膨張係数を低下させ難くなる。
【0040】
CuOは、ガラスを黒色に着色させるための成分である。CuOの含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%である。CuOの含有量が多過ぎると、熱的安定性が不当に低くなり、ガラス粉末が十分に焼結する前に結晶が析出し易くなる。
【0041】
上記成分以外にも、必要に応じて、他の成分を例えば15%、10%、5%、特に1%まで導入することができる。具体的には、CaO、SrO、Cr
2O
3、MnO、SnO
2、CeO
2、P
2O
5、La
2O
3、Nd
2O
3、Co
2O
3、F、Cl等を合量又は個別に、例えば15%、10%、5%、特に1%まで導入することができる。
【0042】
なお、環境的観点から、実質的にPbOを含有させないことが好ましく、実質的にBi
2O
3も含有させないことが好ましい。
【0043】
ガラス粉末の平均粒子径D
50は15μm以下、0.5〜10μm、特に0.7〜5μmが好ましい。ガラス粉末の粒度が大き過ぎると、スクリーン印刷性が低下し易くなり、また絵付層の色調が不均一になり易い。ここで、「平均粒子径D
50」」とは、レーザー回折装置で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す(以下、同様)。
【0044】
マクロ型DTA装置で測定したガラス粉末の軟化点は、好ましくは550〜700℃、570〜695℃、590〜690℃、特に620〜685℃である。軟化点が低い程、焼成温度を低下させることが可能になり、無機顔料粉末の発色性が向上するが、軟化点が低過ぎると、他の特性、特に結晶析出後のガラスマトリクスの耐水性、耐酸性が低下し易くなる。一方、軟化点が高過ぎると、焼成温度が不当に上昇し、焼成コストを高騰させる虞がある。
【0045】
マクロ型DTA装置で測定したガラス粉末の結晶化温度は、好ましくは650〜750℃、660〜740℃、特に670〜730℃である。結晶化温度が低過ぎると、焼成時にガラス粉末が十分に焼結する前に、結晶が析出してしまい、絵付層の緻密性が低下し易くなる。一方、結晶化温度が高過ぎると、焼成時に絵付層に結晶が析出し難くなり、絵付層の熱膨張係数を低下させることが困難になる。ここで、マクロ型DTA装置で測定した結晶化温度は、
図1に示す結晶析出による発熱ピーク温度(Tc)を指す。
【0046】
700℃10分間の焼成条件でガラス粉末を焼成した後の焼結体の熱膨張係数は、好ましくは25×10
−7/℃以下、15×10
−7/℃以下、10×10
−7/℃以下、特に−10×10
−7〜5×10
−7/℃である。ガラス粉末の焼結体の熱膨張係数が高過ぎると、絵付層の熱膨張係数を低下させ難くなり、絵付層付き低膨張基板にクラックが発生し易くなる。また絵付層の脱落等も発生し易くなる。
【0047】
700℃10分間の条件でガラス粉末を焼成すると、主結晶としてβ−石英固溶体が析出することが好ましい。このようにすれば、絵付層の熱膨張係数が大幅に低下するため、絵付層付き低膨張基板にクラックが発生する事態を的確に防止することができる。
【0048】
本発明の複合粉末は、少なくともガラス粉末と無機顔料粉末を含み、必要に応じて、耐火性フィラー粉末等を含む。ガラス粉末は、無機顔料粉末を分散させて、低膨張基板に固着させるための成分である。無機顔料粉末は、黒色等に着色させて、装飾性を高めるための成分である。耐火性フィラー粉末は、任意成分であり、機械的強度を高める成分であり、また熱膨張係数を調整するための成分である。なお、上記以外にも、発色性を高めるために、Cu粉末等の金属粉末を添加してもよい。
【0049】
本発明の複合粉末は、ガラス粉末 55〜100質量%、無機顔料粉末 0〜45質量%、耐火性フィラー粉末 0〜40質量%を含有することが好ましい。
【0050】
ガラス粉末の含有量は、好ましくは55〜100質量%、55〜95質量%、55〜90質量%、55〜85質量%、60〜80質量%、特に65〜75質量%である。ガラス粉末の含有量が少な過ぎると、絵付層と低膨張基板の固着性が低下し易くなる。なお、ガラス粉末の含有量が多過ぎると、無機顔料粉末が相対的に少なくなり、絵付層の装飾性が低下し易くなる。
【0051】
無機顔料粉末の含有量は、好ましくは0〜45質量%、5〜45質量%、10〜45質量%、13〜45質量%、特に15〜30質量%である。無機顔料粉末の含有量が少な過ぎると、装飾性が低下し易くなる。一方、無機顔料粉末の含有量が多過ぎると、ガラス粉末が相対的に少なくなり、絵付層と低膨張基板の固着性が低下し易くなる。更に無機顔料粉末の含有量が多過ぎると、絵付層の表面平滑性が低下して、絵付層の耐水性、耐酸性が低下し易くなる。
【0052】
無機顔料粉末は、種々の材料が使用可能であり、例えばNiO(緑色)、MnO
2(黒色)、CoO(黒色)、Fe
2O
3(茶褐色)、Cr
2O
3(緑色)、TiO
2(白色)等の着色酸化物、Cr−Al系スピネル(ピンク色)、Sn−Sb−V系ルチル(グレー色)、Ti−Sb−Ni系ルチル(黄色)、Zr−V系バデライト(黄色)等の酸化物、Co−Zn−Al系スピネル(青色)、Zn−Fe−Cr系スピネル(茶色)、Cr−Cu−Mn系スピネル等の複合酸化物、Ca−Cr−Si系ガーネット(ビクトリアグリーン色)、Ca−Sn−Si−Cr系スフェイン(ピンク色)、Zr−Si−Fe系ジルコン(サーモンピンク色)、Co−Zn−Si系ウイレマイト(紺青色)、Co−Si系カンラン石(紺青色)等のケイ酸塩があり、これらは所望の色を得るように、上記の割合で混合することができる。また、上記無機顔料粉末の他に、例えば、絵付層の隠蔽性及び耐磨耗性を向上させるために、ZrSiO
4やタルク等を適量混合させてもよい。
【0053】
無機顔料粉末の平均粒子径D
50は9μm以下、特に0.5〜4μmが好ましい。無機顔料粉末の最大粒子径D
maxは10μm以下、特に2〜8μmが好ましい。無機顔料粉末の粒度が大き過ぎると、スクリーン印刷性が低下し易くなり、また絵付層の発色性が低下し易くなる。
【0054】
耐火性フィラー粉末の含有量は、好ましくは0〜40質量%、0〜20質量%、0〜15質量%、0〜10質量%、0〜5質量%、0〜1質量%、特に0〜0.1質量%未満である。耐火性フィラー粉末の含有量が多過ぎると、絵付層と低膨張基板の固着性が低下し易くなる。
【0055】
耐火性フィラー粉末として、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズ、ムライト、シリカ、β−ユークリプタイト、β−スポジュメン、β−石英固溶体、リン酸タングステン酸ジルコニウム等が使用可能である。
【0056】
本発明の複合粉末は、ビークルと混合して、複合粉末ペーストとして使用に供される。ビークルは、主に溶媒と樹脂で構成される。溶媒は、樹脂を溶解させつつ、複合粉末を均一に分散させる目的で添加される。樹脂は、ペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。
【0057】
樹脂として、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、エチルセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0058】
溶媒として、パインオイル、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0059】
複合粉末ペーストは、例えば、複合粉末とビークルを混合した後、3本ロールミルで均一に混練することにより作製される。
【0060】
複合材料ペーストは、スクリーン印刷機等の塗布機を用いて低膨張基板上に塗布された後、乾燥工程、焼成工程に供される。これにより、低膨張基板の表面に絵付層を形成することができる。乾燥工程の条件は、70〜150℃で10〜60分間が一般的である。焼成工程は、樹脂を分解揮発させると共に、複合粉末を焼結させて、低膨張基板の表面に絵付層を固着させる工程である。焼成工程の条件は、650〜850℃で5〜30分間が一般的である。焼成工程で焼成温度が低い程、生産効率が向上すると共に、無機顔料粉末の発色性が向上するが、その一方で絵付層と低膨張基板の固着性が低下する。
【0061】
本発明の絵付層付き低膨張基板は、低膨張基板の表面に絵付層を有する絵付層付き低膨張基板であって、絵付層が複合粉末の焼結体であり、且つ複合粉末が上記の複合粉末であることが好ましい。本発明の絵付層付き低膨張基板は、本発明の複合粉末の技術的特徴を含むが、その内容は記載済みであるため、便宜上、その説明を省略する。
【0062】
本発明の絵付層付き低膨張基板は、絵付層にβ−石英固溶体が析出していることが好ましい。このようにすれば、絵付層の熱膨張係数が大幅に低下するため、絵付層付き低膨張基板にクラックが発生する事態を的確に防止することができる。
【0063】
本発明の絵付層付き低膨張基板において、低膨張基板は、結晶化ガラス基板(特に透明結晶化ガラス基板)が好ましく、また主結晶としてβ−石英固溶体が析出していることも好ましい。このようにすれば、加熱耐久性、耐熱衝撃性を高めることができる。
【0064】
結晶化ガラス基板の熱膨張係数は、−10×10
−7〜30×10
−7/℃、特に−5×10
−7〜10×10
−7/℃が好ましい。結晶化ガラス基板の熱膨張係数を低下させると、結晶化ガラス基板の加熱耐久性、耐熱衝撃性が向上する。その結果、使用時に急加熱、急冷却による熱衝撃が加わる調理器用トッププレートに好適となる。なお、調理器としては、電磁調理器、電気調理器、ガス調理器等がある。
【0065】
本発明の絵付層付き低膨張基板において、絵付層の厚みは1〜30μm、特に2〜10μmが好ましい。絵付層の厚みが小さ過ぎると、絵付の模様が不明確になる虞がある。一方、絵付層の厚みが厚過ぎると、絵付の模様にクラックが発生する虞がある。
【実施例1】
【0066】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0067】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜9)及び比較例(試料No.10、11)を示している。
【0068】
【表1】
【0069】
まず表中に記載のガラス組成になるように、原料を調合し、均一に混合し、ガラスバッチを得た後、ガラスバッチを白金坩堝に入れて、1400℃で3時間溶融した。その後、溶融ガラスをフィルム状に成形した。続いて、得られたガラスフィルムをボールミルにて粉砕した後、空気分級して、平均粒子径D
50が2.5μmのガラス粉末を得た。
【0070】
各ガラス粉末について、マクロ型DTA装置を用いて、軟化点及び結晶化温度を測定した。ここで、測定は、空気中で行い、昇温速度を10℃/分とした。なお、軟化点は、第四変曲点の温度を指しており、結晶化温度は、結晶析出による発熱ピーク温度を指している。
【0071】
主結晶は、ガラス粉末の圧粉体を700℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを測定試料とし、X線回折法で測定した時に、ピーク強度が最も大きかった結晶である。
【0072】
ガラス粉末の熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜350℃の温度範囲で測定した値である。ここで、測定試料として、ガラス粉末の圧粉体を700℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0073】
以下のようにしてガラス粉末の耐水性を評価した。すなわち、ガラス粉末の圧粉体を700℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを測定試料とし
、90℃の水に2時間浸漬した時に、外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が認められたものを「×」として評価した。
【0074】
次に、ガラス粉末と無機顔料粉末を表中に記載の割合(合計100%)で混合し、複合粉末を得た。ここで、無機顔料粉末として、Cr−Cu−Mn系複合酸化物(平均粒径D
50が1.5μm、最大粒径D
maxが4.0μm)を用いた。
【0075】
更に、得られた複合粉末とビークルを混合後、3本ロールミルで均一に混練し、複合粉末ペーストを得た。なお、ビークルとして、エチルセルロースをα−テルピネオールに溶解させたものを用い、質量比で複合粉末/ビークルを2〜3に調整した。
【0076】
続いて、複合粉末ペーストを10cm角の透明結晶化ガラス基板(日本電気硝子株式会社製N−0、主結晶:β−石英固溶体)の片面全体にスクリーン印刷した後、120℃で20分間乾燥した上で、700℃の電気炉に投入して、10分間焼成し、室温まで自然冷却することにより、厚み10μmの絵付層付き透明結晶化ガラス基板を得た。
【0077】
クラックの有無は、絵付層付き透明結晶化ガラス基板を観察して、クラックが認められなかったものを「○」、クラックが認められたものを「×」として評価した。
【0078】
耐摩耗性は、#1000のサンドペーパーを用いて、絵付層を荷重1.3kg、片道100mm/秒の速度で100回往復した後、絵付層が剥離しなかったものを「○」、絵付層が剥離したものを「×」として評価した。
【0079】
絵付層の耐水性は、90℃の水に24時間浸漬した時に、絵付層に外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が僅かに認められたものを「△」、外観変化が明確に認められたものを「×」として評価した。
【0080】
絵付層の耐酸性は、40℃の0.1質量%HCl水溶液に1時間浸漬した時に、絵付層に外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が僅かに認められたものを「△」、外観変化が明確に認められたものを「×」として評価した。
【0081】
表1から明らかなように、試料No.1〜9は、熱膨張係数が低く、耐水性、耐酸性の評価が良好であった。一方、試料No.10は、モル比SiO
2/B
2O
3が小さかったため、耐水性、耐酸性の評価が不良であった。また、試料No.11は、焼成後に結晶が析出せず、絵付層付き透明結晶化ガラス基板とした場合に、クラックが発生した。
【実施例2】
【0082】
表2は、本発明の実施例(試料No.12〜16)を示している。
【0083】
【表2】
【0084】
まず表中に記載のガラス組成になるように、原料を調合し、均一に混合し、ガラスバッチを得た後、ガラスバッチを白金坩堝に入れて、1400℃で3時間溶融した。その後、溶融ガラスをフィルム状に成形した。続いて、得られたガラスフィルムをボールミルにて粉砕した後、空気分級して、平均粒子径D
50が2.5μmのガラス粉末を得た。
【0085】
各ガラス粉末について、マクロ型DTA装置を用いて、軟化点及び結晶化温度を測定した。ここで、測定は、空気中で行い、昇温速度を10℃/分とした。なお、軟化点は、第四変曲点の温度を指しており、結晶化温度は、結晶析出による発熱ピーク温度を指している。
【0086】
主結晶は、ガラス粉末の圧粉体を700℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを測定試料とし、X線回折法で測定した時に、ピーク強度が最も大きかった結晶である。なお、試料No.12〜16の内、試料No.16がβ−石英固溶体の析出量が最も多く、異種結晶(β−スポジュメン)の析出量が最も少なかった。
【0087】
ガラス粉末の熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜350℃の温度範囲で測定した値である。ここで、測定試料として、ガラス粉末の圧粉体を表中の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0088】
以下のようにしてガラス粉末の耐水性を評価した。すなわち、ガラス粉末の圧粉体を700℃10分間の焼成条件で緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを測定試料とし、90℃の水に2時間浸漬した時に、外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が認められたものを「×」として評価した。
【0089】
次に、ガラス粉末と無機顔料粉末を表中に記載の割合(合計100%)で混合し、複合粉末を得た。ここで、無機顔料粉末として、Cr−Cu−Mn系複合酸化物(平均粒径D
50が1.5μm、最大粒径D
maxが4.0μm)を用いた。
【0090】
更に、得られた複合粉末とビークルを混合後、3本ロールミルで均一に混練し、複合粉末ペーストを得た。なお、ビークルとして、エチルセルロースをα−テルピネオールに溶解させたものを用い、質量比で複合粉末/ビークルを2〜3に調整した。
【0091】
続いて、複合粉末ペーストを10cm角の透明結晶化ガラス基板(日本電気硝子株式会社製N−0、主結晶:β−石英固溶体)の片面全体にスクリーン印刷した後、120℃で20分間乾燥した上で、700℃の電気炉に投入して、10分間焼成し、室温まで自然冷却することにより、厚み10μmの絵付層付き透明結晶化ガラス基板を得た。
【0092】
クラックの有無は、絵付層付き透明結晶化ガラス基板を観察して、クラックが認められなかったものを「○」、クラックが認められたものを「×」として評価した。
【0093】
耐摩耗性は、#1000のサンドペーパーを用いて、絵付層を荷重1.3kg、片道100mm/秒の速度で100回往復した後、絵付層が剥離しなかったものを「○」、絵付層が剥離したものを「×」として評価した。
【0094】
絵付層の耐水性は、90℃の水に24時間浸漬した時に、絵付層に外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が僅かに認められたものを「△」、外観変化が明確に認められたものを「×」として評価した。
【0095】
絵付層の耐酸性は、40℃の0.1質量%HCl水溶液に1時間浸漬した時に、絵付層に外観変化が認められなかったものを「○」、外観変化が僅かに認められたものを「△」、外観変化が明確に認められたものを「×」として評価した。
【0096】
表2から明らかなように、試料No.12〜16は、熱膨張係数が低く、耐水性、耐酸性の評価が良好であった。特に、試料No.12、14、16は、ガラス組成中にZnOを少量含むため、焼成温度が変動しても、熱膨張係数の変動幅が小さかった。つまり熱膨張係数の焼成温度依存性が小さかった。