特許第6701714号(P6701714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6701714-ゴム組成物及び空気入りタイヤ 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6701714
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20200518BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20200518BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20200518BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20200518BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200518BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08K3/36
   C08K5/54
   C08L23/08
   B60C1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-247849(P2015-247849)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-110163(P2017-110163A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】田邊 祐介
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−093337(JP,A)
【文献】 特開2004−256575(JP,A)
【文献】 特開平10−087900(JP,A)
【文献】 特開2010−235685(JP,A)
【文献】 特開2017−110159(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/104776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00− 13/08
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、シリカと、シランカップリング剤と、エチレン、ビニルエステル及び無水マレイン酸の三元共重合体とを含有し、
前記シリカの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜150質量部であり、
前記シランカップリング剤の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記三元共重合体の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記シランカップリング剤と前記三元共重合体との合計含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜30質量部であり、
前記無水マレイン酸に由来する繰り返し単位が、前記三元共重合体の主鎖の一部を構成する、ゴム組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤の含有量に対する前記三元共重合体の含有量の質量比(三元共重合体/シランカップリング剤)が、0.2〜29である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ビニルエステルが、酢酸ビニルである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
空気入りタイヤを形成するために使用される、請求項1〜のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて形成される空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、タイヤに求められる性能は多岐にわたる。なかでも、自動車の低燃費化のため、タイヤを構成するゴムの発熱性を低減すること等が強く求められている。
そして、低発熱性と湿潤路面での安定性とを両立させるために、タイヤ用ゴム組成物に、補強性フィラーとして、シリカが配合されている。
【0003】
一方、特許文献1には、良好な成形加工性を有するゴム組成物の提供と、高剛性(硬度)、機械的性質(伸び性)およびゴム弾性をバランスよく有するゴム成形体の提供とを目的として、
[I]合成ゴムを100重量部、
[II]融点が60〜120℃であり、かつ、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体またはそのアイオノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種である熱可塑性樹脂を3〜40重量部、及び
[III]補強材を5〜200重量部、含有することを特徴とするゴム組成物が記載されている。
特許文献1には、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、他のビニルモノマーを共重合した多元共重合体であってもよいが、このような他の単量体を多く含むものは一般に柔軟で融点が低く、耐熱性を損なうことがあると記載されている(段落0034)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−235685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようななか、特許文献1を参考に合成ゴム、熱可塑性樹脂及び補強材を含有するゴム組成物を調製し評価したところ、このようなゴム組成物は、低発熱性が昨今要求されているレベルを満足しない場合があることが明らかとなった。
本発明は、低発熱性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、空気入りタイヤを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、エチレン、ビニルエステル及び無水マレイン酸の三元共重合体を使用することによって所定の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0007】
1. ジエン系ゴムと、シリカと、シランカップリング剤と、エチレン、ビニルエステル及び無水マレイン酸の三元共重合体とを含有し、
前記シリカの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜150質量部であり、
前記シランカップリング剤の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記三元共重合体の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記シランカップリング剤と前記三元共重合体との合計含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜30質量部である、ゴム組成物。
2. 前記シランカップリング剤の含有量に対する前記三元共重合体の含有量の質量比(三元共重合体/シランカップリング剤)が、0.2〜29である、上記1に記載のゴム組成物。
3. 前記ビニルエステルが、酢酸ビニルである、上記1又は2に記載のゴム組成物。
4. 前記無水マレイン酸に由来する繰り返し単位が、前記三元共重合体の主鎖の一部を構成する、上記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
5. 空気入りタイヤを形成するために使用される、上記1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
6. 上記1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いて形成される空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム組成物は低発熱性に優れる。また、本発明は低発熱性に優れる空気入りタイヤを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、成分が2種以上の物質を含む場合、上記成分の含有量とは、2種以上の物質の合計の含有量を指す。
【0011】
本発明のゴム組成物(本発明の組成物)は、
ジエン系ゴムと、シリカと、シランカップリング剤と、エチレン、ビニルエステル及び無水マレイン酸の三元共重合体とを含有し、
前記シリカの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜150質量部であり、
前記シランカップリング剤の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記三元共重合体の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上であり、
前記シランカップリング剤と前記三元共重合体との合計含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜30質量部である、ゴム組成物である。
【0012】
本発明の組成物はこのような構成をとるため、所望の効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
すなわち、上記所定の三元共重合体は、無水マレイン酸に由来するジカルボン酸無水物基及びビニルエステルに由来するエステル結合を有する。上記のジカルボン酸無水物基及びエステル結合は、シリカと相互作用ができる官能基である。
エチレンと不飽和カルボン酸とから形成される二元共重合体は、シリカと相互作用できる官能基として、カルボキシ基しか有さない。
したがって、上記所定の三元共重合体は上記二元共重合体よりも、シリカと相互作用できる官能基の種類が多くシリカと多様に相互作用できため、シリカの分散性をより向上させることができると推察される。このことによって本発明は優れた低発熱性を発現させうると本発明者らは考える。
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
【0013】
[ゴム組成物]
<ジエン系ゴム>
本発明のゴム組成物が含有するジエン系ゴムは、主鎖に二重結合を有するものであれば特に限定されない。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、スチレン−イソプレンゴム、イソプレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム等が挙げられる。
ジエン系ゴムはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なかでも、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム、NR、BRが好ましい。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴムが挙げられる。なかでもSBRが好ましい。
【0014】
ジエン系ゴムの重量平均分子量は特に限定されないが、加工性の観点から、50,000〜3,000,000であることが好ましく、100,000〜2,000,000がより好ましい。なお、ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値である。
【0015】
ジエン系ゴムが芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム及びBRからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む場合、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム及びBRからなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は、低発熱性とウェットグリップ性のバランスに優れるという観点から、ジエン系ゴムに対して、5〜100質量%であることが好ましい。
【0016】
ジエン系ゴムが芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム及びBRを含む場合、BRに対する芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴムの含有量の割合(芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム/BR)は、10〜1000質量%であることが好ましい。
【0017】
<シリカ>
本発明のゴム組成物に含有されるシリカはゴム組成物に一般的に使用することができるものと同様のものが挙げられる。具体的には例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。
【0018】
上記シリカは、シリカの凝集を抑制する観点から、CTAB吸着比表面積が50〜300m2/gであることが好ましく、80〜250m2/gがより好ましい。
ここで、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面への臭化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217−3:2001「第3部:比表面積の求め方−CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
シリカはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明において、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜150質量部であり、低発熱性がより優れる点で、5〜140質量部であることが好ましく、10〜130質量部がより好ましい。
【0020】
<シランカップリング剤>
本発明のゴム組成物に含有されるシランカップリング剤は特に制限されない。なかでも硫黄原子を有するシランカップリング剤(含硫黄シランカップリング剤)が好ましい態様の1つとして挙げられる。
含硫黄シランカップリング剤は、硫黄原子を有するシランカップリング剤であれば特に制限されない。例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドのようなポリスルフィド系シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−[エトキシビス(3,6,9,12,15−ペンタオキサオクタコサン−1−イルオキシ)シリル]−1−プロパンチオール(エボニック・デグサ社製Si363)のようなメルカプト系シランカップリング剤;3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシランのようなチオカルボキシレート系シランカップリング剤;3−チオシアネートプロピルトリエトキシシランのようなチオシアネート系シランカップリング剤が挙げられる。
なかでも、ポリスルフィド系シランカップリング剤が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドがより好ましい。
シランカップリング剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
シランカップリング剤として、上記シランカップリング剤の1種又は2種以上を予め縮合したものを使用してもよい。シランカップリング剤を縮合する方法は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
【0021】
本発明において、シランカップリング剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上である。シランカップリング剤の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、ジエン系ゴム100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、1〜25質量部がより好ましい。
【0022】
<三元共重合体>
本発明のゴム組成物に含有される三元共重合体は、エチレン、ビニルエステル及び無水マレイン酸からなる共重合体である。つまり、エチレン、ビニルエステル及び無水マレイン酸にそれぞれ由来する繰り返し単位のみで構成される共重合体である。
本発明のゴム組成物は三元共重合体を含有することによって、低発熱性に優れるほか、加工性、加硫物性にも優れる。
【0023】
<エチレン>
三元共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れ、ジエン系ゴムへの分散に優れる点で、三元共重合体全体に対して、70〜98質量%であることが好ましく、75〜95質量%がより好ましい。
【0024】
<ビニルエステル>
本発明において、ビニルエステルは、モノマーとしてはC=C−O−CO−なる構造を有する化合物である。
ビニルエステルとしては例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

式(3)中、A、B及びDはそれぞれ独立に水素原子であり、Eは炭化水素基である。
炭化水素基は特に制限されない。炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基(直鎖状、分岐状、環状を含む)、芳香族炭化水素基、これらの組合せが挙げられる。炭化水素基は不飽和結合を有してもよい。炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は1〜10個であることが好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基が挙げられる。
【0025】
三元共重合体が有する、ビニルエステルに由来する繰り返し単位としては、例えば、下記式(4)で表される構造が挙げられる。
【化2】

式(4)中、A、B、D、Eはそれぞれ上記式(3)のA、B、D、Eと同様である。
【0026】
ビニルエステルは、本発明の効果により優れ、ジエン系ゴムへの分散およびシリカとの相互作用のバランスに優れるという観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0027】
三元共重合体中のビニルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、三元共重合体全体に対して、5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0028】
<無水マレイン酸>
【0029】
三元共重合体中の無水マレイン酸に由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、三元共重合体全体に対して、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.15〜3.0質量%がより好ましい。
【0030】
・ビニルエステル及び無水マレイン酸の繰り返し単位の合計量
ビニルエステル及び無水マレイン酸の繰り返し単位の合計量は、本発明の効果がより優れる点で、三元共重合体全体に対して、5〜45質量%であることが好ましく、10〜35質量%がより好ましい。
【0031】
三元共重合体としては例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体が挙げられる。
【0032】
本発明の効果がより優れ、ジエン系ゴムへの分散に優れる点で、無水マレイン酸に由来する繰り返し単位が、三元共重合体の主鎖の一部を構成することが好ましい態様の1つとして挙げられる。無水マレイン酸に由来する繰り返し単位が三元共重合体の主鎖の一部を構成する場合、無水マレイン酸がグラフトされている場合よりも、親水性が低下し、このことによって、上記の場合の三元共重合体は疎水的なジエン系ゴムとの馴染みがよくなるためと推察される。
【0033】
三元共重合体としては例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
【0034】
式(1)中、X、Yはエチレンに由来する繰り返し単位数をそれぞれに表す。X、Yは同時に0ではない。
mはビニルエステルに由来する繰り返し単位数を表す。
nは無水マレイン酸に由来する繰り返し単位数を表す。
Rは炭化水素基を表す。炭化水素基は特に制限されない。なかでもアルキル基が好ましい。炭化水素基は上記式(4)中のEと同様である。アルキル基も上記式(4)中のEと同様である。
なお、X及びYの合計量、m、nはそれぞれ、上述の各繰り返し単位の含有量に対応する数値範囲とすることができる。
【0035】
三元共重合体の融点は、本発明の効果がより優れ、ジエン系ゴムへの分散に優れる点で、50〜120℃であることが好ましく、60〜110℃がより好ましい。
本発明において、融点は、ASTM D3418に準じて示差走査熱量測定(DSC)により、10℃/minの昇温速度で測定された。
【0036】
三元共重合体のメルトマスフローレート(MFR)は、本発明の効果がより優れる点で、1〜250g/10minであることが好ましく、2〜200g/10minがより好ましい。
本発明において、メルトマスフローレートは、ASTM D1238に準じてキャピラリーレオメーターにより、190℃、荷重2.16kgの条件下で測定された。
【0037】
三元共重合体はその製造方法について特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
また三元共重合体として市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、OREVAC(登録商標)Tグレード(アルケマ社製)が挙げられる。OREVAC(登録商標)Tグレードは上記式(1)で表される化合物に該当する。
三元共重合体はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
本発明において、三元共重合体の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上である。三元共重合体の含有量は、本発明の効果がより優れ、引張特性(加硫物性)に優れる点で、ジエン系ゴム100質量部に対して、3〜28質量部であることが好ましく、4〜25質量部であることがより好ましい。
【0039】
本発明において、シランカップリング剤と三元共重合体との合計含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜30質量部である。上記合計含有量が上記範囲である場合、本発明の効果及び引張特性(加硫物性)に優れる。上記合計含有量は、本発明の効果がより優れ、引張特性(加硫物性)に優れる点で、ジエン系ゴム100質量部に対して、6〜30質量部であることが好ましく、7〜25質量部がより好ましい。
【0040】
シランカップリング剤の含有量に対する三元共重合体の含有量の質量比(三元共重合体/シランカップリング剤)は、本発明の効果がより優れ、引張特性(加硫物性)に優れる点で、0.2〜29であることが好ましく、0.4〜20がより好ましい。
【0041】
(その他の成分)
本発明のゴム組成物は、目的、効果を損なわない範囲で必要に応じてその他の成分(添加剤)を更に含有することができる。添加剤としては、例えば、シリカ以外の充填剤(例えば、カーボンブラック);ジエン系ゴム及び上記三元共重合体以外の重合体;加硫剤、架橋剤、加硫促進剤のような加硫系成分;酸化亜鉛、ステアリン酸のような加硫促進助剤;加硫遅延剤、オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されうるものが挙げられる。添加剤の含有量は適宜選択することができる。
【0042】
(カーボンブラック)
本発明のゴム組成物は更にカーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、ゴム組成物に一般的に使用することができるカーボンブラックと同様のものが挙げられる。具体的には例えば、SAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEF、GPE、SRF等が挙げられる。なかでも、SAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEFが好ましい。
【0043】
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、ゴム組成物の加工性により優れるという観点から、30〜250m2/gであることが好ましく、40〜240m2/gがより好ましい。
ここで、N2SAは、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K 6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
カーボンブラックはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、3〜90質量部がより好ましい。
【0045】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、例えば、上記成分を混合する方法が挙げられる。
混合する際の温度(混合温度)は例えば10〜180℃とすることができ、50〜170℃が好ましく、70〜170℃がより好ましい。
上記成分に必要に応じて使用することができる添加剤を更に加えてもよい。
【0046】
また、加硫剤、加硫促進剤等のような加硫系成分以外の成分を予め混合し、これに加硫系成分を加えてもよい。このとき、予め混合する際及び加硫系成分を加えた後混合する際のうちの少なくともいずれか又は両方における混合温度は、上記の混合温度と同様とすることができる。
【0047】
上記成分を混合する際に使用される装置は特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
本明細書において混合は混練を含むものとする。
【0048】
本発明のゴム組成物は例えば従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0049】
本発明のゴム組成物は、例えば、空気入りタイヤ用として使用することができる。
【0050】
[空気入りタイヤ]
次に、本発明の空気入りタイヤについて説明する。
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を用いて形成される空気入りタイヤである。
本発明の空気入りタイヤに使用されるゴム組成物は本発明のゴム組成物であれば特に制限されない。
【0051】
ゴム組成物を空気入りタイヤを構成する構造部材に使用することができる。
構造部材としては、例えば、タイヤトレッド部、サイドウォール部、ビード部、カーカス層、ベルト層が挙げられる。
【0052】
なかでも、タイヤトレッド部を本発明のゴム組成物で形成することが好ましく、キャップトレッド及びアンダートレッドからなる群から選ばれる少なくとも1種を本発明のゴム組成物で形成することがより好ましく、キャップトレッドがさらに好ましい。
【0053】
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示す。なお本発明は添付の図面に限定されない。
図1において、空気入りタイヤは、ビード部1、サイドウォール部2及びタイヤトレッド部3を有する。左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ビード部1においては、リム(図示せず。)に接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0054】
本発明の空気入りタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、例えば、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
<ゴム組成物の製造>
下記の各表に示す配合において、加硫系(硫黄、含硫黄加硫促進剤、加硫促進剤)を除く各成分を同表に示す量(質量部)で用いて、これらを1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで170℃の条件下で5分間混練した後、得られた混合物をミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、上記混合物に上記加硫系を同表に示す量(質量部)で加え、これらをオープンロールで140℃の条件下で混練し、ゴム組成物を製造した。
【0056】
<加硫ゴム試験片の調製>
上記のとおり製造されたゴム組成物を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。
【0057】
<評価>
上記のとおり製造された、ゴム組成物、加硫ゴム試験片について以下に示す試験法で物性を測定した。結果を各表に示す。
各例の評価の結果を、第1表では比較例1の結果を100とする指数で表示した。第2表では比較例5の結果を100とする指数で表示した。第3表では比較例6の結果を100とする指数で表示した。
【0058】
・ムーニー粘度(加工性)
JIS K6300−1:2013に準拠して、上記のとおり製造されたゴム組成物のムーニー粘度を100℃の条件下で求めた。
ムーニー粘度の指数が小さいほど、ゴム組成物の加工性が優れることを示す。
【0059】
・硬度(20℃)(加硫物性)
上記のとおり製造された加硫ゴム試験片について、JIS K6253−3:2012に従って、20℃で硬度(タイプAデュロメータ硬さ)を測定した。
【0060】
・モジュラス(M100、M300)、破断時伸び(Eb)(加硫物性)
上記のとおり製造された加硫ゴム試験片からJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、JIS K−6251:2010に準拠して引張速度500mm/分で引張試験を行い、100%伸び時における引張応力(M100)、300%伸び時における引張応力(M300)、破断時伸び(Eb)を20℃の条件下で測定した。
【0061】
・tanδ(60℃)
上記のとおり製造された加硫ゴム試験片について、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で、損失正接tanδ(60℃)を測定した。
tanδ(60℃)の指数が小さいほど、低発熱性に優れることを意味する。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
上記の各表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
・ジエン系ゴム1:乳化重合により製造されたスチレンブタジエンゴム(E−SBR)、Nipol1502、日本ゼオン社製、重量平均分子量400,000
・ジエン系ゴム2:ブタジエンゴム(BR)、日本ゼオン社製 Nipol BR 1220、重量平均分子量400,000
【0066】
・三元共重合体1(E−VA−MAH):エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体。三元共重合体中の酢酸ビニルに由来する繰り返し単位の含有量26質量%、無水マレイン酸に由来する繰り返し単位の含有量0.16質量%。無水マレイン酸に由来する繰り返し単位は三元共重合体1の主鎖の一部を構成する。融点77℃。MFR7g/min。商品名OREVAC T9304、アルケマ社製。
【0067】
・三元共重合体2(E−VA−MAH):エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体。三元共重合体中の酢酸ビニルに由来する繰り返し単位の含有量18質量%、無水マレイン酸に由来する繰り返し単位の含有量0.16質量%。無水マレイン酸に由来する繰り返し単位は三元共重合体2の主鎖の一部を構成する。融点85℃。MFR7g/min。商品名OREVAC T9318、アルケマ社製。
【0068】
・比較二元共重合体1(E−VA):エチレン−酢酸ビニル共重合体、商品名Novatec LV430、日本ポリエチレン社製
【0069】
・シランカップリング剤:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド。スルフィド系シランカップリング剤、デグッサ社製 Si69
【0070】
・シリカ:湿式シリカ、CTAB吸着比表面積170m2/g、日本シリカ社製 ニップシールAQ
・カーボンブラック:昭和キャボット社製ショウブラックN339M、N2SA81m2/g、HAF
・酸化亜鉛:正同化学社製亜鉛華3号
・ステアリン酸:日本油脂社製ステアリン酸
・老化防止剤:住友化学社製アンチゲン6C(S−13)
・オイル:昭和シェル石油社製エクストラクト4号S
・硫黄:軽井沢精錬所社製油処理硫黄
・含硫黄加硫促進剤(CZ):N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、三新化学社製サンセラーCM−PO
・加硫促進剤(DPG):ジフェニルグアニジン、三新化学社製サンセラーD−G
【0071】
第1表に示すように、比較例1を基準として、更に比較二元共重合体1を含有する比較例2は、低発熱性の効果が高くなかった。
三元共重合体を含有するがシランカップリング剤を含有しない比較例4(三元共重合体1:15質量部)は、実施例2(三元共重合体とシランカップリング剤との合計含有量15質量部)よりも低発熱性に劣った。
また、三元共重合体とシランカップリング剤との合計含有量が特定の範囲外である比較例3は、比較例1よりも低発熱性に劣った。
【0072】
以上に対して、第1表において、本発明の組成物は低発熱性に優れた。詳細には実施例1と比較例1、3とを比較すると、実施例1は比較例1、3よりも低発熱性に優れた。また、実施例2〜4と比較例2、4とを比較すると、実施例2〜4は比較例2、4よりも低発熱性に優れた。
実施例1〜3を比較すると、三元共重合体の含有量が多くなるほど、加工性、硬度、M100に優れ、低発熱性により優れた。
【0073】
第2表に示すように、比較例5を基準として、シランカップリング剤の量を増やした比較例6は比較例5よりも低発熱性に劣った。
三元共重合体を含有するがシランカップリング剤を含有しない比較例4は、実施例6よりも低発熱性に劣った。
また、三元共重合体とシランカップリング剤との合計含有量が特定の範囲外である比較例7は低発熱性の効果が高くなかった。
【0074】
以上に対して、第2表において、本発明の組成物は低発熱性に優れた。詳細には実施例5と比較例5〜7とを比較すると、実施例5は比較例5〜7よりも低発熱性に優れた。また、実施例6、7と比較例4とを比較すると、実施例6、7は比較例4よりも低発熱性に優れた。
実施例5〜7を比較すると、三元共重合体の含有量が多くなるほど、加工性、硬度に優れ、低発熱性により優れた。
【0075】
第3表に示すように、本発明の組成物は低発熱性に優れた。詳細には実施例8と比較例6とを比較すると、実施例8は比較例6よりも低発熱性に優れた。また、実施例9、10と比較例4とを比較すると、実施例9、10は比較例4よりも低発熱性に優れた。
実施例8〜10を比較すると、三元共重合体の含有量が多くなるほど、加工性、硬度、M100に優れ、低発熱性により優れた。
【0076】
このように、本発明のゴム組成物は、低発熱性に優れるほかにも、加工性、加硫物性に優れる。
【符号の説明】
【0077】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 タイヤトレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション
図1