特許第6702078号(P6702078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6702078誘電体多層膜付ガラス板の製造方法及び膜付ガラス板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702078
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年5月27日
(54)【発明の名称】誘電体多層膜付ガラス板の製造方法及び膜付ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20200518BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20200518BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20200518BHJP
   G02B 1/115 20150101ALN20200518BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
   B32B7/023
   B32B17/06
   !G02B1/115
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-158420(P2016-158420)
(22)【出願日】2016年8月12日
(65)【公開番号】特開2018-24561(P2018-24561A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 建太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐原 啓一
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−041207(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/065371(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/34
B32B 7/023
B32B17/06
G02B 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の上に誘電体多層膜を形成する工程と、
前記誘電体多層膜の上に、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜を形成して膜付ガラス板を製造する工程と、
アルカリ洗浄により、前記酸化ケイ素膜の厚みを薄くする工程とを備え
前記誘電体多層膜の最外層が、酸化タンタルから構成されている、誘電体多層膜付ガラス板の製造方法。
【請求項2】
膜付ガラス板を製造する工程において、厚みが、1nm以上となるように前記酸化ケイ素膜を形成する、請求項1に記載の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ洗浄により、前記酸化ケイ素膜を実質的に完全に除去する、請求項1または2に記載の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板の両方の主面上に前記誘電体多層膜及び前記酸化ケイ素膜がそれぞれ形成されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体多層膜付ガラス板の製造方法及び膜付ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板上に誘電体多層膜が設けられた、誘電体多層膜付ガラス板が用いられている。上記誘電体多層膜は、反射防止膜、赤外線反射膜、バンドパスフィルター、ミラーなどの光学機能膜として利用されている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、酸化タンタル、酸化チタンなどの高屈折材料層と、酸化ケイ素などの低屈折率材料層を交互に積層した誘電体多層膜がガラス板の上に形成されている。誘電体多層膜の最外層は、一般に、保護層を兼ねて酸化ケイ素層が形成される場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−209516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、誘電体多層膜が形成されたガラス板の成膜面の汚れを除去する目的で、アルカリ洗浄が施される場合がある。アルカリ洗浄を実施すると、汚れが除去されるが、最外層の酸化ケイ素層がアルカリ溶液で溶解し、最外層の厚みが薄くなり、所望の光学特性が得られないことがある。
【0006】
本発明の目的は、汚れの付着が少なく、かつ光学特性が低下するのを抑制することができる誘電体多層膜付ガラス板の製造方法及び膜付ガラス板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法は、ガラス板の上に誘電体多層膜を形成する工程と、誘電体多層膜の上に、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜を形成して膜付ガラス板を製造する工程と、アルカリ洗浄により、酸化ケイ素膜の厚みを薄くする工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
膜付ガラス板を製造する工程において、厚みが、1nm以上となるように酸化ケイ素膜を形成することが好ましい。
【0009】
アルカリ洗浄により、酸化ケイ素膜を実質的に完全に除去することが好ましい。
【0010】
誘電体多層膜の最外層は、酸化タンタルから構成されていることが好ましい。
【0011】
ガラス板の両方の主面上に誘電体多層膜及び酸化ケイ素膜がそれぞれ形成されていてもよい。
【0012】
本発明の膜付ガラス板は、ガラス板と、ガラス板の上に設けられる誘電体多層膜と、誘電体多層膜の上に設けられる、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜とを備えることを特徴としている。
【0013】
誘電体多層膜の最外層が、酸化タンタルから構成されていることが好ましい。
【0014】
ガラス板の両方の主面上に誘電体多層膜及び酸化ケイ素膜がそれぞれ設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、汚れの付着が少なく、かつ光学特性が低下するのを抑制することができる誘電体多層膜付ガラス板の製造方法及び膜付ガラス板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態の誘電体多層膜付ガラス板の製造方法を説明するための模式的断面図である。図1には、後述するアルカリ洗浄前の膜付ガラス板10を示している。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の膜付ガラス板10は、ガラス板2と、ガラス板2の上に設けられる誘電体多層膜3と、誘電体多層膜3の上に設けられる、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜7とを備える。ガラス板2は、互いに対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。本実施形態において、誘電体多層膜3は、ガラス板2の第1の主面2a上に設けられている。
【0020】
ガラス板2を構成するガラスとしては、例えば、SiO−B−RO(RはMg、Ca、SrまたはBa)系ガラス、SiO−B−R’O(R’はLi、NaまたはKa)系ガラス、SiO−B−RO−R’O系ガラス、SnO−P系ガラス、TeO系ガラス又はBi系ガラスなどを用いることができる。
【0021】
ガラス板2の厚みとしては、特に限定されないが、例えば、0.1mm〜1.1mmとすることができる。
【0022】
誘電体多層膜3は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層することにより構成されている。高屈折率層は、例えば、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム等により構成することができる。低屈折率層は、例えば、酸化ケイ素等により構成することができる。誘電体多層膜3を構成する膜の層数は、特に限定されない。誘電体多層膜3を構成する膜の層数は、好ましくは3層以上であり、好ましくは、50層以下である。
【0023】
高屈折率層及び低屈折率層の1層あたりの膜厚としては、特に限定されないが、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは1.5nm以上であり、好ましくは180nm以下であり、より好ましくは150nm以下である。
【0024】
本実施形態における誘電体多層膜3では、低屈折率層として酸化ケイ素層4を形成し、第1の高屈折率層として酸化ニオブ層5を形成し、第2の高屈折率層として酸化タンタル層6を形成している。具体的には、ガラス板2の上に酸化ケイ素層4と酸化ニオブ層5を交互に形成し、最外層に酸化タンタル層6を形成している。本実施形態における誘電体多層膜3は、反射防止膜として形成されており、誘電体多層膜3を構成する膜の層数は、3〜25とすることが好ましい。
【0025】
誘電体多層膜3の上には、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜7が設けられている。酸化ケイ素膜7は、後述するアルカリ洗浄で少なくとも一部が除去される膜である。酸化ケイ素膜7の少なくとも一部を除去することにより、酸化ケイ素膜7に付着した汚れを取り除くことができる。酸化ケイ素膜7の厚みは、アルカリ洗浄で酸化ケイ素膜7が残存した場合に、誘電体多層膜3の光学特性に悪影響を与えない厚みであることが好ましい。このような観点から、本発明では酸化ケイ素膜7の厚みを、30nm以下に規定しており、好ましくは、1〜20nmの範囲内であり、さらに好ましくは、5〜15nmの範囲内である。酸化ケイ素膜7の厚みが薄すぎると、アルカリ洗浄により汚れを十分に取り除くことができない場合がある。
【0026】
以下、図2に示す誘電体多層膜付ガラス板1を製造する方法について説明する。
【0027】
まず、図1に示す膜付ガラス板10を作製する。図1に示すように、ガラス板2の上に誘電体多層膜3を形成する。誘電体多層膜3は、低屈折率層及び高屈折率層を交互に積層することにより形成する。本実施形態では、ガラス板2の上に酸化ケイ素層4と酸化ニオブ層5を交互に形成し、最外層として酸化タンタル層6を酸化ケイ素層4の上に形成する。各層の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スパッタリング法により形成することができる。
【0028】
誘電体多層膜3の上に、すなわち酸化タンタル層6の上に、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜7を形成する。酸化ケイ素膜7の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スパッタリング法により形成することができる。
【0029】
以上のようにして、膜付ガラス板10を作製することができる。
【0030】
次に、膜付ガラス板10をアルカリ洗浄する。アルカリ洗浄に用いる洗浄液は、表面の酸化ケイ素膜7を除去することができるものであれば特に限定されない。一般には、水酸化ナトリウム水溶液を主成分とする洗浄液が用いられる。水酸化ナトリウムの濃度は、例えば、1.0〜5.0質量%が好ましく用いられる。また、アルカリ洗浄の際、洗浄液の温度は、40〜80℃程度することが好ましい。
【0031】
アルカリ洗浄で酸化ケイ素膜7の少なくとも表面を除去し、酸化ケイ素膜7の厚みを薄くすることにより、酸化ケイ素膜7に付着した汚れを除去することができる。
【0032】
以上のようにして、図2に示す誘電体多層膜付ガラス板1を製造することができる。本実施形態では、酸化ケイ素膜7を実質的に完全に除去し、酸化ケイ素膜7の下の酸化タンタル層6を露出させている。なお、酸化ケイ素膜7を実質的に完全に除去するとは、酸化ケイ素膜7の厚みが0.5nm未満となるまで除去することをいう。酸化ケイ素膜7の下の層は、アルカリ洗浄に対し耐性を有するものであることが好ましい。酸化タンタル層6は、優れた耐薬品性を有しており、アルカリ洗浄に対して耐性を有している。そのため、酸化タンタル層6が、アルカリ洗浄による誘電体多層膜3の溶解を抑制することができ、所望の光学特性を発揮させることができる。
【0033】
本実施形態では、酸化ケイ素膜7を実質的に完全に除去しているが、必ずしも実質的に完全に除去しなくてもよい。誘電体多層膜3の光学特性に悪影響を与えない厚み、例えば、0.5nm〜3nmであれば、アルカリ洗浄後において酸化ケイ素膜7が残存していてもよい。
【0034】
なお、アルカリ洗浄時間は、酸化ケイ素膜7が実質的に除去された時に終了するように調整することが好ましい。アルカリ洗浄時間が過度に長い場合、誘電体多層膜3の最外層の厚みが薄くなる場合がある。アルカリ洗浄により誘電体多層膜3が除去される場合、除去される誘電体多層膜3の厚みは、0nm超、3nm以下であることが好ましい。
【0035】
本実施形態では、誘電体多層膜3の最外の高屈折率層にのみ酸化タンタル層6を形成しているが、酸化ニオブ層5の少なくとも一部または全部を酸化タンタル層6に置き換えて誘電体多層膜3を形成してもよい。また、最外の高屈折率層である酸化タンタル層6を酸化ニオブ層5に置き換えて誘電体多層膜3を形成してもよい。また、高屈折率層として、酸化チタン、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化ジルコニウムなどから選ばれる少なくとも1種以上の層を用いてもよい。
【0036】
本実施形態において、誘電体多層膜3は第1の主面2aの上に設けられているが、第2の主面2b上にも設けられていてもよい。すなわち、誘電体多層膜3は、第1の主面2a及び第2の主面2bのうち一方の主面上にのみに設けられていてもよいし、両側の主面上に設けられていてもよい。
【0037】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0038】
(実施例1)
図1に示す膜付ガラス板10を作製した。具体的には、ガラス板2の上に酸化ケイ素層4と酸化ニオブ層5を交互に形成し、最外層として酸化タンタル層6を酸化ケイ素層4の上に形成した。誘電体多層膜3の層数に関しては、酸化ケイ素層4を5層、酸化ニオブ層5を4層、酸化タンタル層6を1層形成した。酸化タンタル層6の上に、酸化ケイ素膜7を形成した。各層は、スパッタリング法より形成した。酸化ケイ素膜7の厚みは、10nmとした。ガラス板2のサイズは、28.3mm×34.3mmのものを用いた。作製したサンプル数は、16である。
【0039】
作製した膜付ガラス板10をアルカリ洗浄した。洗浄液としては、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、洗浄液の温度を60℃とした。酸化ケイ素膜7は、アルカリ洗浄により、実質的に完全に除去した。
【0040】
膜付ガラス板10をアルカリ洗浄することにより得られた誘電体多層膜付ガラス板1について、汚れの付着を肉眼で観察した。その結果、汚れが付着していたのは、16個中1個であった。したがって、汚れ付着の発生割合は、1/16であった。
【0041】
(比較例1)
酸化ケイ素膜7を形成しない以外は、実施例1と同様にして、膜付ガラス板10を作製し、アルカリ洗浄した。アルカリ洗浄後の誘電体多層膜付ガラス板1について、汚れの付着を実施例1と同様にして観察した。その結果、汚れが付着していたのは、16個中11個であった。したがって、汚れ付着の発生割合は、11/16であった。
【0042】
本発明によれば、誘電体多層膜の上に、厚み30nm以下の酸化ケイ素膜を形成することにより、この酸化ケイ素膜をアルカリ洗浄して、容易に汚れを除去することができる。また、この酸化ケイ素膜は、誘電体多層膜の光学特性に影響を与えるものでないので、アルカリ洗浄を行っても、光学特性が低下するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…誘電体多層膜付ガラス板
2…ガラス板
2a,2b…第1,第2の主面
3…誘電体多層膜
4…酸化ケイ素層
5…酸化ニオブ層
6…酸化タンタル層
7…酸化ケイ素膜
10…膜付ガラス板
図1
図2