【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物は、ガラス繊維強化樹脂組成物の全量に対し10〜90質量%の範囲のガラス繊維と、90〜10質量%の範囲の樹脂とを含有するガラス繊維強化樹脂組成物であって、該ガラス繊維は、ガラス繊維全量に対し57.0〜60.0質量%の範囲のSiO
2と、17.5〜20.0質量%の範囲のAl
2O
3と、8.5〜12.0質量%の範囲のMgOと、10.0〜13.0質量%の範囲のCaOと、0.5〜1.5質量%の範囲のB
2O
3とを含み、かつ、SiO
2、Al
2O
3、MgO及びCaOの合計量が98.0質量%以上であ
り、Al2O3の含有率(質量%)に対するB2O3の含有率(質量%)とCaOの含有率(質量%)との積の比((B2O3(質量%)×CaO(質量%))/Al2O3(質量%))が0.25〜0.75の範囲である組成を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス繊維強化樹脂組成物は、前記組成を備えるガラス繊維を含有することで、高い引張強度、高い曲げ強度、高い曲げ弾性率、及び、高い衝撃強さを兼ね備えた成形品を実現することができる。
【0011】
本発明のガラス繊維強化樹脂組成物は、該ガラス繊維強化樹脂組成物の全量に対しガラス繊維の含有量が10質量%未満又は樹脂の含有量が90質量%を超えるときには、該ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品において十分な引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率及び衝撃強さを得ることができない。一方、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物は、該ガラス繊維強化樹脂組成物の全量に対しガラス繊維の含有量が90質量%を超えるか又は樹脂の含有量が10質量%未満であるときには、該ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の製造が困難となる。
【0012】
本発明のガラス繊維強化樹脂組成物は、射出成形により成形品を形成する場合には、成形品の強度と、成形品の製造容易性とを両立するという観点から、20〜70質量%の範囲のガラス繊維と、80〜30質量%の範囲の樹脂とを含有することが好ましく、25〜60質量%の範囲のガラス繊維と、75〜40質量%の範囲の樹脂とを含有することがより好ましく、30〜50質量%の範囲のガラス繊維と、70〜50質量%の範囲の樹脂とを含有することがさらに好ましい。
【0013】
本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維の全量に対するSiO
2の含有量が57.0質量%未満であると、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を十分に向上させることができない。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維の全量に対するSiO
2の含有量が60.0質量%を超えると1000ポイズ温度及び液相温度が高くなり、ガラス繊維の製造が困難になる。
【0014】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するSiO
2の含有量は、58.2〜59.8質量%の範囲とすることが好ましく、58.4〜59.7質量%の範囲とすることがより好ましく、58.6〜59.6質量%の範囲とすることがさらに好ましく、58.8〜59.5質量%の範囲とすることが特に好ましく、58.9〜59.4質量%の範囲とすることが最も好ましい。前記ガラス繊維において、SiO
2の含有量がこのような範囲となることで、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率と、ガラス繊維の製造容易性とを両立させることができる。
【0015】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAl
2O
3の含有量が17.5質量%未満であると、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を十分に向上させることができない。一方、ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAl
2O
3の含有量が、20.0質量%を超えると液相温度が高くなるため作業温度範囲が狭くなってガラス繊維の製造が困難になり、また、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の衝撃強さを十分に向上させることができない。
【0016】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAl
2O
3の含有量は、18.0〜19.5質量%の範囲とすることが好ましく、18.2〜19.3質量%の範囲とすることがより好ましく、18.3〜19.1質量%の範囲とすることがさらに好ましく、18.4〜18.9質量%の範囲とすることが特に好ましい。前記ガラス繊維においては、Al
2O
3の含有量がこのような範囲となることで、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率及び衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性とを両立させることができる。
【0017】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するMgOの含有量が8.5質量%未満であると、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を十分に向上させることができない。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するMgOの含有量が12.0質量%を超えると液相温度が高くなるため作業温度範囲が狭くなってガラス繊維の製造が困難になる。
【0018】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するMgOの含有量は、8.8〜11.5質量%の範囲とすることが好ましく、9.0〜11.0質量%の範囲とすることがより好ましく、9.2〜10.5質量%の範囲とすることがさらに好ましく、9.3〜10.2質量%の範囲とすることが特に好ましく、9.4〜9.9質量%の範囲とすることが最も好ましい。前記ガラス繊維においては、MgOの含有量がこのような範囲となることで、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性とを両立させることができる。
【0019】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量が10.0質量%未満であると液相温度が高くなるため作業温度範囲が狭くなってガラス繊維の製造が困難になり、また、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の衝撃強さを十分に向上させることができない。一方、前記ガラス繊維おいて、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量が13.0質量%を超えると、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を十分に向上させることができない。
【0020】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量は、10.3〜12.5質量%の範囲とすることが好ましく、10.5〜12.3質量%の範囲とすることがより好ましく、10.7〜12.1質量%の範囲とすることがさらに好ましく、10.9〜11.9質量%の範囲とすることが特に好ましく、11.1〜11.8質量%の範囲とすることが最も好ましい。前記ガラス繊維においては、CaOの含有量がこのような範囲となることで、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性とを両立させることができる。
【0021】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するB
2O
3の含有量が0.5質量%未満であると、ガラス繊維を製造する際にガラス繊維の切断が生じ易くなり、製造効率が低下する。一方。前記ガラス繊維において。ガラス繊維全量に対するB
2O
3の含有量が1.5質量%超であると、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を十分に向上させることができない。
【0022】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するB
2O
3の含有量は、0.5〜1.2質量%の範囲とすることが好ましく、0.5〜1.0質量%の範囲とすることがより好ましい。前記ガラス繊維においては、B
2O
3の含有量がこのような範囲となることで、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率と、優れたガラス繊維の製造効率性とを両立させることができる。
【0023】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するSiO
2、Al
2O
3、MgO及びCaOの合計量が、98.0質量%未満であると、他の不純物成分の含有量が相対的に多くなる。この結果、作業温度範囲が狭くなってガラス繊維の製造が困難になり、あるいは、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度曲げ弾性率、及び衝撃強さを十分に向上させることができない。
【0024】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するSiO
2、Al
2O
3、MgO及びCaOの合計量は、98.0質量%以上99.5質量%未満であることが好ましく、98.5質量%以上99.0質量%未満であることがより好ましい。前記ガラス繊維において、SiO
2、Al
2O
3、MgO及びCaOの合計量をこのような範囲にすることにより、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性とを両立させることができる。
【0025】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、Al
2O
3の含有率(質量%)に対するCaOの含有率(質量%)の比(CaO(質量%)/Al
2O
3(質量%))が0.50〜0.72の範囲であり、かつ、Al
2O
3の含有率(質量%)に対するB
2O
3の含有率(質量%)とCaOの含有率(質量%)との積の比((B
2O
3(質量%)×CaO(質量%))/Al
2O
3(質量%))が0.22〜1.00の範囲であることが好ましく、CaO(質量%)/Al
2O
3(質量%)が0.55〜0.67の範囲であり、かつ、(B
2O
3(質量%)×CaO(質量%))/Al
2O
3(質量%)が0.25〜0.75の範囲であることがより好ましく、CaO(質量%)/Al
2O
3(質量%)が0.57〜0.65の範囲であり、かつ、(B
2O
3(質量%)×CaO(質量%))/Al
2O
3(質量%)が0.27〜0.65の範囲であることがさらに好ましい。このようにすることにより、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さと、優れたガラス繊維の製造効率性とを両立させることができる。
【0026】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維は、前記の成分に加えて、Na
2O及びK
2Oを含んでいてもよい。Na
2O及びK
2Oは、通常、ガラスの粘度を下げて溶けやすくするために加えられるが、ガラス繊維の強度や耐薬品性が低下するため、ガラス繊維全量に対するNa
2O及びK
2Oの合計量は、0.05〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0027】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維は、Fe
2O
3を含んでいてもよい。Fe
2O
3は、通常、ガラス原料中の不純物として存在するが、溶融ガラス中の輻射熱の吸収やガラス繊維の着色に影響するため、ガラス繊維全量に対するFe
2O
3の含有量は0.05〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、Na
2O、K
2O及びFe
2O
3を含む場合、ガラス繊維全量に対するNa
2O、K
2O及びFe
2O
3の合計量は、0.1〜2.0質量%の範囲とすることが好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0029】
なお、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維において、前述した各成分の含有率の測定は、軽元素であるBについてはICP発光分光分析装置を用いて、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0030】
測定方法としては、初めに、ガラス繊維強化樹脂組成物又はガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品を、例えば、300〜650℃のマッフル炉で0.5〜24時間程度加熱する等して、有機物を分解する。次に、残ったガラス繊維を白金ルツボに入れ、電気炉中で1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化する。軽元素であるBについてはガラス粉末をアルカリ溶融分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素はガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から前述した各成分の含有率を求めることができる。
【0031】
本発明において、ガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維は、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)が2.0〜10.0の範囲にあり、断面積を真円に換算したときの繊維径(以下、換算繊維径ということもある)が3.0〜35.0μmの範囲にある扁平断面を備えることが好ましい。ガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維がこのような断面を備える場合、ガラス繊維が円形断面を備える場合と比較して、組成以外は同一の条件でEガラス繊維を用いた際ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さを基準とした、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さの向上率が極めて高くなる。
【0032】
前記ガラス繊維において、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)は、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性との両立との観点から、2.2〜6.0の範囲であることが好ましく、3.2〜4.5の範囲であることがより好ましい。なお、ガラス繊維が複数本のガラスフィラメントが集束されて形成される場合、ガラス繊維の断面形状は、ガラス繊維を形成するガラスフィラメントの断面形状を意味する。
【0033】
また、前記ガラス繊維において、換算繊維径は、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さと、ガラス繊維又はガラス繊維強化樹脂組成物を製造する際の製造容易性との両立の観点から、6.0〜20μmの範囲であることが好ましく、6.5〜16.0μmであることがより好ましい。なお、ガラス繊維が複数本のガラスフィラメントが集束されて形成される場合、ガラス繊維の繊維径は、ガラス繊維を形成するガラスフィラメントの繊維径を意味する。
【0034】
また、前記ガラス繊維において、扁平断面の形状としては、ガラス繊維強化樹脂組成物から成形品を製造する際の流動性に優れることから、繭形、楕円形又は長円形(長方形の両端に半円状の形状を付けたもの、あるいはそれに類似した形状をいう)が好ましく、長円形がより好ましい。
【0035】
本発明において、ガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、これらの樹脂の混合物で被覆されることが好ましい。前記ガラス繊維がこれらにより被覆されることで、ガラス繊維と樹脂との接着性が高まり、ガラス繊維強化樹脂組成物からなる成形品の高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さが実現される。なお、前記ガラス繊維が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、これらの樹脂の混合物で被覆されていれば、前記ガラス繊維は、これらの樹脂に加えて、これらの樹脂以外の成分で被覆されていてもよい。
【0036】
前記ガラス繊維において、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、これらの樹脂の混合物は、これらに被覆されていない状態のガラス繊維の質量を基準として、0.1〜1.0質量%の割合でガラス繊維を被覆することが好ましい。前記ガラス繊維は、この範囲でウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、これらの樹脂の混合物により被覆されることで、ガラス繊維と樹脂との接着性を確実に高めることができる。
【0037】
本発明の成形品は、前述した本発明のガラス繊維強化樹脂組成物からなる。より具体的には、本発明の成形品は、本発明のガラス繊維強化樹脂組成物を、射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、中空成形法、発泡成形法(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング法、シートモールディングコンパウンド法、バルクモールディングコンパウンド法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等の公知の成形法で成形して得られるものである。