【実施例】
【0039】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)低アルブミン値を示す慢性肝疾患によるそう痒症患者の血清アルブミン値に対する作用:
低アルブミン値を示す慢性肝疾患によるそう痒症患者の血清アルブミン値に対する、上記の一般式(I)で示される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の作用を評価した。
【0041】
上記の一般式(I)で示される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩として、(−)−17−(シクロプロピルメチル)−3,14β−ジヒドロキシ−4,5α−エポキシ−6β−[N−メチル−トランス−3−(3−フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩(以下の化合物1)を用いた。
【化4】
【0042】
慢性肝疾患によるそう痒症患者(以下、被験者)に、化合物1を2.5μg/日又は0μg/日(0μg/日は、化合物1を含まない偽薬;以下、偽薬)をそれぞれの被験者に経口投与し、対照実験を行った。投与開始前の血清アルブミン値が3.0g/dL以下を示す被験者について、投与開始前と投与開始後15日目及び29日目の血清アルブミン値を比較した。血清アルブミン値はBCG法にて測定した。統計解析は、対応のないt検定(unpaired t検定)を用いた。統計解析の結果、P値が0.05未満の場合に統計学的に有意であると判断した。
【0043】
投与開始後15日目の結果を
図1及び
図2に示す。
図1の縦軸は、被験者に化合物1(2.5μg/日)又は偽薬を投与する前の血清アルブミン値(g/dL)を基準値として、化合物1(2.5μg/日)又は偽薬を投与開始後15日目の血清アルブミン値(g/dL)が投与前の基準値からどの程度変化したかの変化値を示し、横軸の「偽薬」は偽薬投与群、「化合物1」は化合物1投与群を示す。また、図中の記号*(アスタリスク)は、偽薬投与群と比較して統計学的に有意(対応のないt検定;P<0.05)であることを示す。
【0044】
また、
図2の縦軸は、化合物1(2.5μg/日)又は偽薬を、それぞれの被験者に投与する前の血清アルブミン値(g/dL)及び投与開始後15日目の血清アルブミン値(g/dL)を示し、左図の「偽薬」は偽薬投与群、右図の「化合物1」は化合物1投与群を示す。
図2は、「偽薬」又は「化合物1」を投与する前及び投与開始後15日目の各被験者の血清アルブミン値の点を一本の直線で繋いだ図であり、各被験者の投与前後の血清アルブミン値の変動の様子を示す。
【0045】
投与開始後29日目の結果を
図3及び
図4に示す。
図3の縦軸は、被験者に化合物1(2.5μg/日)又は偽薬を投与する前の血清アルブミン値(g/dL)を基準値として、化合物1(2.5μg/日)又は偽薬を投与開始後29日目の血清アルブミン値(g/dL)が投与前の基準値からどの程度変化したかの変化値を示し、横軸の「偽薬」は偽薬投与群、「化合物1」は化合物1投与群を示す。また、図中の記号*(アスタリスク)は、偽薬投与群と比較して統計学的に有意(対応のないt検定;P<0.05)であることを示す。
【0046】
また、
図4の縦軸は、化合物1(2.5μg/日)又は偽薬を、それぞれの被験者に投与する前の血清アルブミン値(g/dL)及び投与開始後29日目の血清アルブミン値(g/dL)を示し、左図の「偽薬」は偽薬投与群、右図の「化合物1」は化合物1投与群を示す。
図4は、「偽薬」又は「化合物1」を投与する前及び投与開始後29日目の各被験者の血清アルブミン値の点を一本の直線で繋いだ図であり、各被験者の投与前後の血清アルブミン値の変動の様子を示す。
【0047】
図1〜4に示した結果から、投与開始後15日目及び29日目のいずれにおいても、化合物1投与群の血清アルブミン値は増加し、偽薬投与群の血清アルブミン変化値と比較して化合物1投与群の血清アルブミン変化値は統計学的に有意に増大した。したがって、化合物1の投与により低アルブミン血症の改善作用が示された。なお、正常血清アルブミン値を示す被験者の場合には、化合物1を投与しても血清アルブミン値の変動は認められなかった。
【0048】
したがって、上記の一般式(I)で示される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩は、低アルブミン血症を改善する作用を有することが示された。
【0049】
(実施例2)低アルブミン血症モデルマウスに対する作用:
Huynhらの方法(Molecular cancer therapeutics、2007年、第6巻、P.2959−2966)に従って、卵巣癌細胞の腹膜播種による低アルブミン血症モデルマウスを作製し、低アルブミン血症に対する、上記の一般式(I)で示される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩の作用を評価した。
【0050】
上記の一般式(I)で示される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩として、(−)−17−(シクロプロピルメチル)−3,14β−ジヒドロキシ−4,5α−エポキシ−6β−[N−メチル−トランス−3−(3−フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩(以下の化合物1)を用いた。
【化5】
【0051】
ヒト卵巣癌細胞株OV−90(CRL−11732;American type culture collection)を、15%ウシ胎仔血清を含むMEM培地を用いて、37℃、5%CO
2インキュベータで培養し維持した。OV−90細胞をトリプシン/EDTAにて剥離し回収した後、PBS(−)で洗浄した。OV−90細胞をPBS(−)に懸濁して、OV−90細胞懸濁液を調製した。雌性SCIDマウス(C.B.−17/lcr−scid/scid−jcl、7〜8週齢;日本クレア株式会社)の腹腔内に、OV−90細胞懸濁液(5×10
6細胞/匹)を移植した。なお、ヒト卵巣癌細胞を移植しなかった同一週齢の雌性SCIDマウスを、対照群とした(n=3)。
【0052】
細胞懸濁液移植の37日後から化合物1の投与を開始した(この日を投与開始日とする)。化合物1の投与液は、生理食塩水に溶解して調製し、30μg/kgの用量で、皮下隔日投与した(n=6;化合物1投与群)。溶媒投与群として、化合物1の代わりに、同容量の溶媒を同様に投与した(n=7)。
【0053】
4回目の投与が終了した1日後(投与開始日から44日後)に、対照群、溶媒投与群及び化合物1投与群の各個体の腋下静脈からイソフルラン吸入麻酔下にて採血した。採取した血液に抗凝固剤としてEDTAを添加した後、血漿を得た。
【0054】
血漿中のアルブミン濃度測定は、生化学分析装置(DRY−CHEM 4000S、富士フィルム)により測定した。血漿は一旦凍結保存したものを測定当日に融解し、原液10μLを富士ドライケムスライド(ALB−PS、富士フィルム株式会社)に滴下し、マニュアルに従いアルブミン濃度を測定した。
【0055】
統計解析は、溶媒投与群と化合物1投与群との間の2群間で行い、等分散性の検定(F検定)によりStudentのt検定を行った。統計解析の結果、P値が0.05未満の場合に統計学的に有意であると判断した。
【0056】
その結果を
図5に示す。
図5の縦軸は、血漿中アルブミン濃度(g/dL)(平均値±標準誤差;n=3〜7)を示し、横軸の「対照」は対照群、「溶媒」は溶媒投与群、「化合物1」は化合物1投与群を示す。また、図中の記号*(アスタリスク)は、溶媒投与群と比較して統計学的に有意(Studentのt検定;P<0.05)であることを示す。
【0057】
溶媒投与群は、対照群と比較して血漿中アルブミン濃度の低下が認められ、低アルブミン血症であることが示された。化合物1の投与により、この血漿中アルブミン濃度の低下は抑制された(溶媒投与群の血漿中アルブミン濃度と比較して化合物1投与群の血漿中アルブミン濃度は、統計学的に有意に増大した(P<0.05))。したがって、化合物1は、低アルブミン血症を改善することが示された。
【0058】
したがって、上記の一般式(I)で示される化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩は、慢性肝疾患とは異なる疾患である卵巣癌細胞の腹膜播種による低アルブミン血症においても、低アルブミン血症を改善する作用を有することが示された。