(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702325
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】炭素分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20200525BHJP
G01N 31/12 20060101ALI20200525BHJP
C01B 33/107 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
G01N31/00 D
G01N31/12 Z
C01B33/107 Z
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-532499(P2017-532499)
(86)(22)【出願日】2016年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2016071523
(87)【国際公開番号】WO2017022515
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2018年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-155098(P2015-155098)
(32)【優先日】2015年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕務
【審査官】
倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−131864(JP,A)
【文献】
特開2010−022936(JP,A)
【文献】
特開2004−346390(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/054496(WO,A1)
【文献】
特開平11−281541(JP,A)
【文献】
特開2009−186197(JP,A)
【文献】
特開2002−122581(JP,A)
【文献】
特公平04−044695(JP,B2)
【文献】
特表2009−519201(JP,A)
【文献】
米国特許第08309361(US,B1)
【文献】
米国特許第07273588(US,B1)
【文献】
CHANG MING-MING et al.,Chemical Purification of Silicon Part II. Determination of Impurities in Trichlorosilane and Crude Silicon,Journal of The Chinese Institute of Chemical Engineers,1974年12月,Vol.5, No.2,pp.99-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00,31/12,
G01N 1/28,
C01B 33/107,
C07F 7/02,
C08K 3/00−13/08,
C08L 1/00−101/14,
C08G 77/00−77/62,
H01L 21/312−21/32,
H01L 21/47−21/475,
H01L 21/64−21/66,
H01L 21/3205−21/3213,
H01L 21/522,21/532,21/768
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性を有するハロゲン化金属化合物及び有機成分を含む原料と、水とを混合して、前記ハロゲン化金属化合物を加水分解させて、加水分解物を形成した後、該加水分解物及び前記有機成分の混合物を回収し、該混合物の炭素分析によって炭素量を得る方法であって、前記加水分解物を得た際に副生したハロゲン化水素を、不活性ガス雰囲気下で30〜180℃の加熱により除去した後に炭素分析することを特徴とする、炭素分析方法。
【請求項2】
前記水が、全有機炭素の含有量が500ppb以下の純水である請求項1に記載の炭素分析方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化金属化合物を構成する金属原子がケイ素原子、ゲルマニウム原子又はタングステン原子であり、前記ハロゲン原子が塩素原子である請求項1又は2に記載の炭素分析方法。
【請求項4】
加水分解性を有するハロゲン化金属化合物及び有機成分を含む原料と、水とを混合して、前記ハロゲン化金属化合物を加水分解させて、加水分解物を形成した後、該加水分解物及び前記有機成分の混合物を回収し、該混合物の炭素分析によって炭素量を得る方法であって、前記加水分解物が液体であり、前記ハロゲン化金属化合物は、担体に担持させて用いられることを特徴とする、炭素分析方法。
【請求項5】
加水分解性を有し、ハロゲン原子及び炭素原子を含む金属化合物を、水により加水分解させて、前記炭素原子を含む加水分解物を形成した後、該加水分解物を炭素分析して炭素量を得る方法であって、前記加水分解物を得た際に副生したハロゲン化水素を、不活性ガス雰囲気下で30〜180℃の加熱により除去した後に炭素分析することを特徴とする、炭素分析方法。
【請求項6】
前記水が、全有機炭素の含有量が500ppb以下の純水である請求項5に記載の炭素分析方法。
【請求項7】
前記金属化合物を構成する金属原子がケイ素原子又はゲルマニウム原子であり、前記ハロゲン原子が塩素原子である請求項5又は6に記載の炭素分析方法。
【請求項8】
加水分解性を有し、ハロゲン原子及び炭素原子を含む金属化合物を、水により加水分解させて、前記炭素原子を含む加水分解物を形成した後、該加水分解物を炭素分析して炭素量を得る方法であって、前記加水分解物が液体であり、前記金属化合物は、担体に担持させて用いられることを特徴とする、炭素分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性ハロゲンを有するハロゲン化金属化合物を含有する原料に含まれる炭素量を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の分野では、素子の微細化が進んでいるため、製造プロセスで使用されるガスの原料である液体材料に対してより一層高純度化が要求されている。これまで、液体材料に含まれる不純物として金属成分については十分管理されてきた。
【0003】
しかしながら、特許文献1には、特定の構造を有するシリコン含有化合物のガスと、金属含有化合物のガスとを用いた原子層蒸着法により、基板上に金属シリケートから構成された高誘電率膜を形成する方法において、製造プロセスに使用される材料に炭素が多く含まれていると、高誘電率膜に炭素が残留してリーク電流が発生しやすくなるため、リーク電流の発生を抑制する手段として、ケイ素原子に対する炭素原子の組成比を規定した材料を用いる方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、リーク電流の少ない層間絶縁膜を得るため、ケイ素原子に対する炭素原子の組成比を規定した材料を用いることを特徴とする半導体用絶縁材料が記載されている。
【0005】
このように、半導体の製造プロセスで使用される材料に含まれる不純物等に由来する炭素量を管理することが必要となっている。
【0006】
一方、炭素量を測定する方法として、特許文献3には、燃料電池用各種金属製部品及びセラミック製部品に付着残留している油分の分析方法として、油分を構成する炭化水素類を酸素と反応させて一酸化炭素又は二酸化炭素に変換し、これを赤外線検出器で測定して炭素量を求める分析方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、金線に付着した有機物を高温で熱分解して、生成したメタンとエチレンを熱分解ガスクロマトグラフ装置で測定して全炭素量を定量する方法が記載されている。
【0008】
更に、特許文献5には、ガスクロマトグラフを用いて炭素を分析する方法として、試料をメタンコンバータで処理し、試料中に含まれる一酸化炭素、二酸化炭素及び有機化合物等を水素で還元して炭素をメタンに変換し、そのメタンをガスクロマトグラフで検出することによって炭素を定量する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−5365号公報
【特許文献2】特開2014−67829号公報
【特許文献3】特開平11−281541号公報
【特許文献4】特開2002−122581号公報
【特許文献5】国際公開2006−28035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載された炭素の定量方法は、燃焼赤外線吸収法と称され、液体試料でも分析可能であり、炭素の検出限界も1質量ppmまで達しており、優れた炭素の定量分析方法である。しかしながら、この方法で炭素原子を含むハロゲン化金属化合物原料を燃焼させたり、特許文献4の方法で炭素原子を含むハロゲン化金属化合物原料を熱分解させたりすると、ハロゲンガスやハロゲン化水素ガスが発生して分析装置の金属部を腐食させるおそれがあるため、燃焼赤外線吸収法や熱分解ガスクロマトグラフによりハロゲン化金属化合物原料に含まれる炭素を定量することは困難である。
【0011】
また、特許文献5に記載されたメタンコンバータを用いて試料中の炭素をメタンに変換する方法を、炭素原子を含むハロゲン化金属化合物原料に適用すると、副生成物として腐食性の高いハロゲン化水素やハロゲンガスが生成する。これにより、例えば、ニッケル化合物等からなる還元触媒が失活したり、分析装置の金属部の腐食が発生したりするため、メタンコンバータの使用は困難である。更に、ハロゲン化金属化合物である塩化シラン類を水素で還元すると、発火や爆発等の反応活性の高い金属水素化物であるシラン類となるため、ハロゲン化金属化合物原料の分析作業の危険性が非常に高くなる問題もある。
【0012】
本発明は、装置の腐食や作業の危険性のない安全な方法で、加水分解性を有するハロゲン化金属化合物と、不純物等に由来する有機成分とを含む原料に含まれる炭素、又は、加水分解性を有し、ハロゲン原子及び炭素原子を含む金属化合物に含まれる炭素を定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ハロゲン化金属化合物の加水分解を利用して、加水分解性を有するハロゲン化金属化合物と、不純物等に由来する有機成分とを含む原料に含まれる炭素、又は、加水分解性を有し、ハロゲン原子及び炭素原子を含む金属化合物に含まれる炭素の量を効率よく定量可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の第1発明及び第2発明である。
第1発明は、加水分解性を有するハロゲン化金属化合物(以下、「ハロゲン化金属化合物(P)」という)及び有機成分を含む原料と、水とを混合して、上記ハロゲン化金属化合物(P)を加水分解させて、加水分解物を形成した後、該加水分解物及び上記有機成分の混合物を回収し、該混合物の炭素分析によって炭素量を得ることを特徴とする、炭素分析方法である。
第1発明において、上記水は、全有機炭素の含有量が500ppb以下の純水であることが好ましい。
第1発明において、上記ハロゲン化金属化合物(P)を構成する金属原子がケイ素原子、ゲルマニウム原子又はタングステン原子であり、上記ハロゲン原子が塩素原子であることが好ましい。
第1発明において、上記加水分解物を得た際に副生したハロゲン化水素を、30〜180℃の加熱により除去することが好ましい。
第1発明において、上記加水分解物が液体の場合、上記ハロゲン化金属化合物(P)は、担体に担持させて用いることが好ましい。
第2発明は、加水分解性を有し、ハロゲン原子及び炭素原子を含む金属化合物(以下、「ハロゲン化金属化合物(Q)」という)を、水により加水分解させて、上記炭素原子を含む加水分解物を形成した後、該加水分解物を炭素分析して炭素量を得ることを特徴とする、炭素分析方法である。
第2発明において、上記水は、全有機炭素の含有量が500ppb以下の純水であることが好ましい。
第2発明において、上記ハロゲン化金属化合物(Q)を構成する金属原子がケイ素原子又はゲルマニウム原子であり、上記ハロゲン原子が塩素原子であることが好ましい。
第2発明において、上記加水分解物を得た際に副生したハロゲン化水素を、30〜180℃の加熱により除去することが好ましい。
第2発明において、上記加水分解物が液体の場合、上記ハロゲン化金属化合物(Q)は、担体に担持させて用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素分析方法によれば、生成する加水分解物がハロゲン成分を含有しないので、炭素量を、従来の定量方法を用いて効率よく分析することができる。そして、炭素分析装置の金属部の腐食等を回避することができる。第1発明によれば、不純物等として含まれる有機成分に由来する炭素量を得ることができ、ハロゲン化金属化合物(P)が、炭素原子を含む化合物である場合には、不純物等として含まれる有機成分に由来する炭素量との合計炭素量を得ることができる。また、第2発明によれば、分析対象のハロゲン化金属化合物(Q)の炭素量を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0017】
本発明における分析対象は、炭素量を管理する必要がある、半導体等の製造で用いられる、ハロゲン原子と、このハロゲン原子に結合する金属原子とを含む加水分解可能なハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)を主とする原料である。尚、「加水分解性を有する」及び「加水分解可能な」は、対象化合物と水との反応により、ハロゲン化水素を発生させつつ、加水分解物を形成することを意味する。
加水分解性ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子等が挙げられる。これらのうち、塩素原子が好ましい。また、ハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)を構成する金属原子としては、ケイ素原子、チタン原子、ゲルマニウム原子、ジルコニウム原子、モリブデン原子、スズ原子、ハフニウム原子、タングステン原子等が挙げられ、これらのうち、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はタングステン原子が好ましい。
上記ハロゲン化金属化合物(P)及び(Q)は、固体及び液体のいずれでもよい。
【0018】
第1発明で用いられるハロゲン化金属化合物(P)は、ハロゲン原子及び金属原子を含み、炭素原子を含んでいてもよい化合物である。本発明においては、ハロゲン原子及び金属原子の結合、若しくは、ハロゲン原子及び金属原子の結合並びに炭素原子及び金属原子の結合を有する、塩化ケイ素化合物、塩化ゲルマニウム化合物又は塩化タングステン化合物が好ましい。炭素原子は、炭化水素基として含まれることが好ましい。塩化ケイ素化合物としては、トリクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン、テトラクロロシラン、ヘキサクロロジシラン等が挙げられる。また、塩化ゲルマニウム化合物としては、トリクロロメチルゲルマニウム、トリクロロジメチルアミノゲルマニウム、塩化ゲルマニウム(II)、塩化ゲルマニウム(IV)等が挙げられる。更に、塩化タングステン化合物としては、塩化タングステン(III)、塩化タングステン(IV)、塩化タングステン(VI)等が挙げられる。尚、テトラクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、トリクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン等のクロロシラン化合物の加水分解物は、通常、ポリシロキサンである。
第1発明で用いられるハロゲン化金属化合物(P)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
上記ハロゲン化金属化合物(P)は、ハロゲン原子及び金属原子からなる化合物を含むことが好ましい。
【0019】
また、第2発明で用いられるハロゲン化金属化合物(Q)は、ハロゲン原子、炭素原子及び金属原子を含む化合物である。本発明においては、塩化ケイ素化合物及び塩化ゲルマニウム化合物が好ましい。塩化ケイ素化合物としては、トリクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン等が挙げられる。また、塩化ゲルマニウム化合物としては、トリクロロメチルゲルマニウム、トリクロロジメチルアミノゲルマニウム等が挙げられる。
第2発明で用いられるハロゲン化金属化合物(Q)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0020】
第1発明における有機成分は、通常、油分であり、不純物等として微量に含有する成分である。この有機成分の加水分解性は、定量性に影響を与えないことから、特に限定されない。
【0021】
第1発明及び第2発明では、初めに、ハロゲン化金属化合物(P)及び有機成分を含む原料又はハロゲン化金属化合物(Q)を水により加水分解させる。水は、特に限定されないが、純水が好ましい。この純水における全有機炭素(TOC)の含有量は、好ましくは500質量ppb以下であり、更に好ましくは100質量ppb以下、特に好ましくは50質量ppb以下(超純水)である。
加水分解では、ハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)に含まれるハロゲン原子の当量より過剰な量の水を清浄な容器に収容し、そこにハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)を少量ずつ添加することが好ましい。この時に発熱が激しい場合は、発熱の程度に応じて内容物を冷却することが好ましい。加水分解に要する時間は、ハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)の種類又は量によるが、一般に、約25℃で24時間以上放置することが好ましい。
【0022】
水の使用量は、加水分解の反応性の観点から、ハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)1質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、更に好ましくは5〜50質量部である。
水の使用量が1質量部未満では、加水分解が十分に進まないことがある。尚、水の使用量が多すぎると、後工程で水の除去に手間がかかることがある。
【0023】
上記ハロゲン化金属化合物(P)又は(Q)の加水分解により得られる加水分解物は、一般に、固体であり、加水分解後には、その水相が、塩化水素等のハロゲン化水素を含む懸濁液となる。このハロゲン化水素は、分析装置に悪影響を及ぼすため、常圧又は減圧下、懸濁液の加熱乾燥を行い、水と共に除去することで、分析に適した固体物質を得る。
【0024】
第1発明では、加水分解後に、加水分解物及び有機成分の混合物が、通常、加水分解物に有機成分が包含された形態となって得られる。尚、第1発明では、有機成分が加水分解性を有する場合、ハロゲン化金属化合物(P)の加水分解物、及び、上記有機成分の加水分解物の混合物が得られる。
【0025】
上記加熱乾燥の条件として温度は、加水分解物を変質させることなく、ハロゲン化水素を効率よく除去させられることから、好ましくは30〜180℃、更に好ましくは80〜120℃である。加熱温度が30℃未満では乾燥が不十分でハロゲン化水素が残留して分析装置に悪影響を及ぼす可能性がある、また、乾燥温度が180℃を超えると加水分解物に包含された有機成分が揮発したり、分解したりする可能性が高くなるため好ましくない。
更に、加熱乾燥の雰囲気は、特に限定されないが、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、加水分解物の乾燥が促進され、有機成分の酸化分解も抑制できる。不活性ガスとしては、窒素を用いることが好ましい。
【0026】
上記加熱乾燥は、好ましくは、水で湿らせたpH試験紙を排気ガスにかざして、pH6以上及び恒量となったことを確認して終了とする。
その後、回収物を、炭素分析に供することにより、炭素量を得ることができる。
【0027】
尚、ハロゲン化金属化合物(P)の加水分解により得られる加水分解物が固体にならないことがある。加水分解物が液体の場合は、ハロゲン化金属化合物(P)と、担体とを併用することが好ましい。
担体は、特に限定されないが、後に分析の障害にならないようにするため、炭素の含有量が分析装置の定量下限未満の化合物からなる粉体を用いることが好ましい。上記担体としては、例えば、高純度のテトラエトキシシランをアンモニアで加水分解した後、焼成させて得られた粒径が0.3〜3μmのシリカを用いることができる。特に、燃焼赤外線吸収法で求めた炭素量が0.003〜0.001質量%未満であるシリカが、好適である。
担体を用いる場合、容器に、担体と、ハロゲン化金属化合物(P)を含む原料とを加え、過剰な水を加えて加水分解を行う。尚、予め、担体の炭素量を分析しておくことにより、正確な炭素量を得ることができる。
【0028】
上記担体の使用量は、作業性の観点から、ハロゲン化金属化合物1質量部に対して、好ましくは5〜100質量部、更に好ましくは10〜50質量部である。
【0029】
液体の加水分解物を与えるハロゲン化金属化合物(P)と、担体とを併用した場合、加水分解後には、水と、液体の加水分解物と、担体と、有機成分とからなる混合液(懸濁液)が得られる。そして、この混合液を加熱乾燥すると、液体の加水分解物及び有機成分が担体に付着した複合物が得られる。
その後、回収物を、炭素分析に供することにより、炭素量を得ることができる。
【0030】
一方、第2発明において、加水分解物が固体である場合には、加水分解後に、上記のように、加熱乾燥を行って、加水分解物を回収し、これを炭素分析することにより、炭素量を得ることができる。また、加水分解物が液体である場合には、上記のように、担体と、ハロゲン化金属化合物(Q)とを併用して加水分解を行い、次いで、加熱乾燥を行うことにより、加水分解物が担体に付着した複合物が得られる。
その後、回収物を、炭素分析に供することにより、炭素量を得ることができる。
【0031】
第1発明及び第2発明において、炭素分析を行う場合には、回収物を高温で燃焼させ、生成する二酸化炭素を赤外線検出器で定量する装置が好適に用いられる。
例えば、LECO社製炭素・硫黄分析装置(CS844型又はCS744型)、堀場製作所製炭素・硫黄分析装置(EMIA−920V2又はEMIA−810W)、エレメンタール社製全有機炭素測定装置(vario TOC cube)等を用いることができる。
【0032】
液体の加水分解物を与えるハロゲン化金属化合物と併用する担体や、使用する容器には、不純物としての有機成分が付着していることがあるため、加水分解及び加熱乾燥の後の回収物は、この有機成分を含むことがある。従って、担体の炭素分析、又は、加水分解及び加熱乾燥の操作に従って、担体、水及び容器を接触させた後、水を除去して得られた担体乾燥物の炭素分析、を前もって行っておくことが好ましい。以下、分析例を示す。
【0033】
分析例1
高純度のテトラエトキシシランをアンモニアで加水分解させ、析出したシリカを900℃で焼成することで粒径2μmの球状シリカを得た。球状シリカを超純水で洗浄してから乾燥させたものを「担体X」とした。この担体乾燥物の炭素量を、燃焼赤外線吸収法で求めた結果、0.001質量%であった。
【0034】
分析例2
清浄なガラス容器に、1.10質量部の担体X及び20.00質量部の超純水を入れて30分間撹拌後、ガラス容器ごと窒素気流下、90℃で8時間、更に120℃で19時間乾燥させた。次いで、得られた担体乾燥物の炭素量を、燃焼赤外線吸収法で求めた結果、0.003質量%であった。
したがって、加水分解及び加熱乾燥に伴って増大した炭素量は0.002質量%であった。同様な操作をもう一度繰り返す試験、及び、超純水の添加量を5質量部に減らした試験を行ったが、増大した炭素量は、それぞれ0.001質量%及び0.003質量%であった。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0036】
実施例1
清浄なガラス容器に20.04質量部の超純水(全有機炭素の含有量:18質量ppb)を入れた。そして、ガラス容器に氷水を接触させて超純水を冷却しながら、常圧で蒸留精製した1.95質量部の六塩化二ケイ素原料(以下、「HCD原料」と略す。)を少しずつ添加した。これによりHCDは加水分解され、生成した加水分解物(ポリシロキサン)により白濁したスラリーを得た。次いで、ガラス容器を密封して約25℃で24時間放置した後、開封したガラス容器ごと窒素気流下、90℃で8時間、更に120℃で19時間加熱した。これにより乾燥物(白色固体)を得た。事前に測定しておいた風袋との質量差より、白色固体の質量は0.86質量部であった。得られた白色固体の炭素量を燃焼赤外線吸収法で求めたところ、0.001質量%であった。この分析値を基に、加水分解前のHCD原料に含まれる炭素量(A)は、下記式(1)から4質量ppmとなった。
A=〔(B×C/100)/D〕×1000000 (1)
ここで、AはHCD原料に含まれる炭素量(質量ppm)、Bは加水分解物を加熱乾燥させた後の白色固体の質量、Cは燃焼赤外線吸収法で求めた炭素量(質量%)、Dは加水分解に供したHCD原料の質量である。
しかしながら、分析例1及び2から、加水分解操作によって、炭素量の分析値が0.001〜0.002質量%高くなることが確認されている。上記のように、白色固体の炭素量は、0.001質量%であるため、HCD原料に含まれる炭素量は、実質的にゼロであると考えられる。従って、炭素成分が含まれていたとしても、炭素量を、定量下限未満の4質量ppmと決定した。
【0037】
実施例2
ガラスビンに室温で2年間保管したHCD(以下、「HCD試料」と略す。)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、炭素分析を行った。得られた加水分解物である白色固体の炭素量を燃焼赤外線吸収法で求めたところ、0.054質量%であった。加水分解操作で炭素量は0.001〜0.002質量%増えることが分かっているので、0.054質量%から0.002質量%を引いた0.052質量%を白色固体の炭素量とした。そして、上記式(1)により、加水分解前のHCD試料に含まれた炭素量を求めると、226質量ppmであった。
尚、HCDを保管していたガラスビンにはポリエチレン製の内蓋があったが、黒褐色に変色して硬くなっており、全く柔軟性はなくなっていた。また、内蓋は、ガラスビンの開口部内壁に固く固着しており、内蓋とガラスの界面には白い付着物があった。そして、採取したHCD試料は薄く黄色に着色していた。
この実施例2で226質量ppmの炭素が検出されたのは、ポリエチレン製の内蓋の劣化や変質に伴って有機物がHCD中に混入したためと推察される。
【0038】
実施例3
清浄なガラス容器に5.15質量部の超純水(全有機炭素の含有量:18質量ppb)を入れた。そして、ガラス容器に氷水を接触させて超純水を冷却しながら、1.93質量部の蒸留精製したHCDに0.02質量部のトリクロロメチルシラン(以下、「TCMS」と略す)を加えた混合液を超純水に少しずつ添加し、全て添加後5時間放置した。HCD及びTCMSは加水分解され、白濁したスラリーを得た。以下、実施例1と同様の操作を行い、0.83質量部の白色固体を得た。得られた白色固体の炭素量を燃焼赤外線吸収法で求めたところ、0.161質量%であった。この分析値を基に、HCD及びTCMSの混合液に含まれる炭素量(E)は、下記式(2)から690質量ppmとなった。
E=〔(B×C/100)/(D+F)〕×1000000 (2)
ここで、EはHCD及びTCMSの混合液に含まれる炭素量(質量ppm)、Bは加水分解物を加熱乾燥させた後の白色固体の質量、Cは燃焼赤外線吸収法で求めた炭素量(質量%)、DとFはそれぞれ加水分解に供したHCD及びTCMSの質量である。
【0039】
実施例4
2.04質量部の担体X及び0.65質量部のジクロロジメチルシラン(DCDMS)を清浄なガラス容器に入れ、更に、5.09質量部の超純水(全有機炭素の含有量:18質量ppb)を入れて、これらを30分間撹拌した。その後、ガラス容器を密封して約25℃で24時間放置した。次に、開封したガラス容器ごと窒素気流下、90℃で8時間、更に120℃で19時間加熱した。これにより乾燥物2.27質量部を得た。この乾燥物の炭素量を燃焼赤外線吸収法で求めたところ、4.32質量%であった。
以上より、担体XとDCDMSの混合物に含まれる炭素量は、式(2)から3.65質量%と求められた。担体Xの炭素量は0.001質量%と微量なので無視すると、DCDMSに含まれる炭素量は15.1質量%と求めることができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明における炭素分析方法は、安全かつ簡易な方法で、半導体の製造において管理される炭素の量を正確に定量できる方法であるため、半導体等の電子材料分野で有用な分析方法である。