特許第6702419号(P6702419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702419
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】干渉分光光度計
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/18 20060101AFI20200525BHJP
   G01J 3/45 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H02K33/18 B
   G01J3/45
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-529408(P2018-529408)
(86)(22)【出願日】2017年6月7日
(86)【国際出願番号】JP2017021051
(87)【国際公開番号】WO2018020847
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-145487(P2016-145487)
(32)【優先日】2016年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】丸野 浩昌
(72)【発明者】
【氏名】森谷 直司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 豊之
(72)【発明者】
【氏名】村松 尚
(72)【発明者】
【氏名】勝 秀昭
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特表平06−505804(JP,A)
【文献】 特開平05−054523(JP,A)
【文献】 特開2014−170018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 33/18
G01J 3/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を出射する光源部と、
固定鏡と、
移動鏡および当該移動鏡を往復移動させるボイスコイルモータを備えた移動鏡ユニットと、
前記光源部からの光を受けて、前記固定鏡と前記移動鏡とに向けて2分割するとともに、前記固定鏡で反射して戻ってきた光と前記移動鏡で反射して戻ってきた光とを受けて、干渉光に合成するビームスプリッタと、
試料が配置され、当該試料を透過又は反射した干渉光を検出する光検出部と、を備えた干渉分光光度計であって、
前記ボイスコイルモータは、
筒状部を有するヨークと、当該筒状部内に設置されたマグネットとが固定された固定部と、
前記ヨークの筒状部と前記マグネットとの間に配置される筒形状のコイルと、前記移動鏡とが固定された移動部と、
前記コイルと電源とを接続する電力供給線とを備え、
前記ヨークの筒状部には、前記電力供給線が通される第一のスリットが形成されており、
前記ヨークの第一スリットとは筒状部の中心軸で対称となる位置に第二のスリットが形成され、
前記コイルが前記電力供給線を介して給電されて前記マグネットにより形成される電磁力を受けることにより、前記移動部に固定された前記移動鏡が前記固定部に対して往復移動するように形成されることを特徴とする干渉分光光度計。
【請求項2】
前記電力供給線を介しての給電を制御することにより前記移動鏡の移動速度又は移動距離を制御する制御部を備えた請求項1に記載の干渉分光光度計。
【請求項3】
前記第一のスリットには前記電力供給線に接続される電力供給端子が配置され、前記第二のスリットにはダミー電力供給端子が配置されている請求項1に記載の干渉分光光度計。
【請求項4】
前記第一のスリットだけに前記電力供給線が通してある請求項1に記載の干渉分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイスコイルモータ(以下、「VCM」と略す)を用いたフーリエ変換赤外分光光度計(以下、「FTIR」と略す)等の干渉分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
FTIRに利用されるマイケルソン二光束干渉計では、赤外光源から発した赤外光をビームスプリッタで固定鏡と移動鏡との2方向に分割し、固定鏡で反射して戻ってきた光と移動鏡で反射して戻ってきた光とをビームスプリッタで合成して1つの光路へ送るという構成を有している。このとき、移動鏡を入射光軸方向(前後方向)で前後に移動させると、分割された二光束の光路長の差が変化するから、合成された光は移動鏡の位置に応じて光の強度が変化する干渉光(インターフェログラム)となる。
【0003】
図6は、従来のFTIRの要部の構成を示す図であり、図7は、図6に示す移動鏡ユニットの水平断面図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
FTIR101は、主干渉計主要部140と、赤外光を出射する光源部10と、インターフェログラムを検出する光検出部20と、コンピュータ(制御部)130とを備える。
【0004】
光源部10は、赤外光を出射する赤外光源と、集光鏡と、コリメータ鏡とを備える。これにより、赤外光源から出射された赤外光は、集光鏡、コリメータ鏡を介して主干渉計主要部140のビームスプリッタ42に照射されるようになっている。
光検出部20は、楕円面鏡と、インターフェログラムを検出する光検出器とを備える。これにより、試料Sに照射された光は、試料Sを透過(又は反射)して、楕円面鏡により光検出器へ集光されるようになっている。
【0005】
主干渉計主要部140は、筐体41と、ビームスプリッタ42と、移動鏡53を備えた移動鏡ユニット150と、固定鏡61とアライメント機構62とを備えた固定鏡ユニット60とを備える。
移動鏡ユニット150は、前後方向(X方向)に中心軸を有する円筒形状の中空パイプ51と、中空パイプ51内で前後方向に往復移動が可能となるように配置された円柱形状のピストン52と、ピストン52の前部に固定された移動鏡53と、VCM170とを備える(例えば特許文献1参照)。
【0006】
VCM170は、固定部171と移動部172とを備える。
固定部171は、前後方向に中心軸を有する円筒形状の筒状部173aと円板形状の後側壁73bとを有する鉄製(磁性材料製)のヨーク173と、前後方向に中心軸を有する円柱形状の2個のマグネット74(74a、74b)と、前後方向に中心軸を有する円柱形状のポールピース75とを備える。第一マグネット74aとポールピース75と第二マグネット74bとは、この順でヨーク173の後側壁73bの前面中心部に固定されることで、ヨーク173の筒状部173a内に設置されている。そして、筒状部173aの前部は、筐体41(中空パイプ51)の後部に取り付けられている。また、ヨーク173の筒状部173aの右側壁には、前後方向に伸びた長孔形状のスリット173cが形成されている。
【0007】
移動部172は、前後方向に中心軸を有する円筒形状のボビン72aと、ボビン72a後部の外周面に巻かれた円環形状のコイル72bとを備える。そして、ボビン72a前部はピストン52後部に取り付けられている。また、コイル72bは、ヨーク173の筒状部173aとポールピース75との間に配置されて、スリット173c内を上下方向(Y方向)に貫通するように配置された電力供給端子(電力供給線)72cを介して電源(図示略)と電気的に接続されている。
【0008】
したがって、コイル72bに電力供給端子72cを介して電流を流すと、コイル72bがヨーク173とポールピース75との間に形成される磁界により電磁力(ローレンツ力)を受けて前後方向に移動することによって、ピストン52に固定された移動鏡53も前後方向に移動するようになっている。
【0009】
このようなFTIR101では、スループットを充分に確保してS/Nが高い試料Sの測定を行うためには、移動鏡53と固定鏡61との角度ずれを1秒以下に抑える必要がある。そのため、コンピュータ130は、移動鏡53の角度ずれに対してアライメント機構62を用いて固定鏡61の角度をリアルタイムで制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表平6−505804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、FTIR等の干渉分光光度計においては、測定モード(試料Sの測定の種類)により移動鏡53の短ストローク高速駆動や長ストローク低速駆動が要求されてきている。
しかしながら、上述したようなFTIR101では、短ストローク高速駆動時には折り返し時に大きな加速度がかかるため、コンピュータ130による固定鏡61の角度制御が追従しないという課題があった(図5(b)参照)。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高速駆動時にも移動鏡53と固定鏡61との角度ずれを1秒以下に抑える方法について検討を行った。ここで、図4は、ヨーク173の筒状部173aの右側壁(スリット173cあり)と、筒状部173aの左側壁(スリット173cなし)とでの磁束密度の違いをシミュレーションした結果を示す表であって、「スリットあり」側では磁束が弱くなっていることがわかる。磁束密度は推力(ローレンツ力)に比例するので、磁束密度の差と同様の推力差が生じていることになる。
【0013】
そして、ボビン72aに巻かれたコイル72bに電流が流れることにより、ボビン72aに固定されたピストン52は、前方向(−X方向)の力や後方向(X方向)の力を受けてスライドする。このとき、スリット173cのある側は推力の発生が弱いため、ピストン52が中空パイプ51に保持された状態でも、移動鏡53の面はあおられる方向に向くことがわかった。具体的には、コイル72bが前方向に動くときにはZ方向を回転軸として右への回転を伴うようなモーメントが、後方向に動くときには左への回転を伴うようなモーメントが可動部(ピストン52等)に加わっている。
【0014】
そこで、ヨークの筒状部の軸対称側にもスリットを設けることにより、推力差を解消することを見出した。ここで、図5(b)は、ヨークの筒状部の片側のみにスリットを設けた場合での角度ずれの評価結果(3.4秒pp)であり、図5(a)は、ヨークの筒状部の両側にスリットを設けた場合での角度ずれの評価結果(0.6秒pp)である。片側のみにスリットを設けた場合に対し、両側にスリットを設けた場合は角度ずれを約1/5(0.6秒pp)に低減することができた。
【0015】
すなわち、本発明の干渉分光光度計は、光を出射する光源部と、固定鏡と、移動鏡および当該移動鏡を往復移動させるボイスコイルモータを備えた移動鏡ユニットと、前記光源部からの光を受けて、前記固定鏡と前記移動鏡とに向けて2分割するとともに、前記固定鏡で反射して戻ってきた光と前記移動鏡で反射して戻ってきた光とを受けて、干渉光に合成するビームスプリッタと、試料が配置され、当該試料を透過又は反射した干渉光を検出する光検出部と、を備えた干渉分光光度計であって、前記ボイスコイルモータは、筒状部を有するヨークと、当該筒状部内に設置されたマグネットとが固定された固定部と、前記ヨークの筒状部と前記マグネットとの間に配置される筒形状のコイルと、前記移動鏡とが固定された移動部と、前記コイルと電源とを接続する電力供給線とを備え、前記ヨークの筒状部には、前記電力供給線が通される第一のスリットが形成されており、前記ヨークの第一スリットとは筒状部の中心軸で対称となる位置に第二のスリットが形成され、前記コイルが前記電力供給線を介して給電されて前記マグネットにより形成される電磁力を受けることにより、前記移動部に固定された前記移動鏡が前記固定部に対して往復移動するように形成されている。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の干渉分光光度計によれば、ボイスコイルモータのスリットをヨークの中心軸の対称側にも設けることにより、推力の差が解消され、移動部での回転運動を起こすモーメントの発生をなくすことができる。これにより、高速駆動時の移動鏡と固定鏡との角度ずれを小さくすることができる。
【0017】
上記発明において、前記電力供給線を介しての給電を制御することにより前記移動鏡の移動速度又は移動距離を制御する制御部を備えてもよい。
【0018】
上記発明において、前記第一のスリットには前記電力供給線に接続される電力供給端子が配置され、前記第二のスリットにはダミー電力供給端子が配置されていてもよい。
【0019】
上記発明において、前記第一のスリットだけに前記電力供給線が通してあるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るFTIRを示す要部構成図。
図2図1に示す移動鏡ユニットの水平断面図。
図3図2に示すVCMの断面図。
図4】スリットの有無による磁束密度の違いのシミュレーション結果を示す表。
図5】角度ずれの評価結果を示す表。
図6】従来のFTIRを示す要部構成図。
図7図6に示す移動鏡ユニットの水平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれる。
【0022】
本発明に係る干渉分光光度計の構成例として、FTIRを例にして図1にその要部の構成を示す。そして、図2は、図1に示す移動鏡ユニット50の水平断面図である。また、図3は、図2に示すVCM70の断面図であって、図3(a)は縦断面図であり、図3(b)は水平断面図である。なお、上述したFTIR101と同様のものについては、同じ符号を付すことにより説明を省略する。
FTIR1は、主干渉計主要部40と、赤外光を出射する光源部10と、インターフェログラムを検出する光検出部20と、コンピュータ(制御部)30とを備える。
【0023】
主干渉計主要部40は、筐体41と、ビームスプリッタ42と、移動鏡53を備えた移動鏡ユニット50と、固定鏡61とアライメント機構62とを備えた固定鏡ユニット60とを備える。
移動鏡ユニット50は、前後方向(X方向)に中心軸を有する円筒形状の中空パイプ51と、中空パイプ51内で前後方向に往復移動が可能となるように配置された円柱形状のピストン52と、ピストン52の前部に固定された移動鏡53と、VCM70とを備える。
【0024】
VCM70は、固定部71と移動部72とを備える。
固定部71は、前後方向に中心軸を有する円筒形状の筒状部73aと円板形状の後側壁73bとを有する鉄製(磁性材料製)のヨーク73と、前後方向に中心軸を有する円柱形状の2個のマグネット74(74a、74b)と、前後方向に中心軸を有する円柱形状のポールピース75とを備える。第一マグネット74aとポールピース75と第二マグネット74bとは、この順でヨーク73の後側壁73bの前面中心部に固定されることで、ヨーク73の筒状部73a内に設置されている。そして、筒状部73aの前部は、筐体41(中空パイプ51)の後部に取り付けられている。
【0025】
ヨーク73の筒状部73aの右側壁には、前後方向に伸びた長孔形状の第一スリット73cが形成されるとともに、ヨーク73の筒状部73aの左側壁には、前後方向に伸びた長孔形状の第二スリット73dが形成されている。すなわち、第一スリット73cと第二スリット73dとは、ヨーク73の筒状部73aの中心軸(X方向)で点対称となる位置に形成されている。
【0026】
移動部72は、前後方向に中心軸を有する円筒形状のボビン72aと、ボビン72a後部の外周面に巻かれた円環形状のコイル72bとを備える。そして、ボビン72a前部はピストン52後部に取り付けられている。また、コイル72bは、ヨーク73の筒状部73aとポールピース75との間に配置されて、第一スリット73c内を上下方向(Y方向)に貫通するように配置された電力供給端子(電力供給線)72cを介して電源(図示略)と電気的に接続されている。さらに、移動部72には、第二スリット73d内をY方向に貫通するように配置され、電力供給端子72cと同形状のダミー電力供給端子72dが形成されている。すなわち、電力供給端子72cとダミー電力供給端子72dとは、ヨーク73の筒状部73aの中心軸(X方向)で点対称となる位置に形成されている。
【0027】
これにより、コイル72bに電力供給端子72cを介して電流を流すと、コイル72bはヨーク73とポールピース75との間に形成される磁界によって電磁力(ローレンツ力)を受けて前後方向に移動することで、ピストン52に固定された移動鏡53も前後方向に移動するようになっている。このとき、ヨーク73の筒状部73aの左右側壁のどちらにも、図4に示す「スリットあり」側の磁束密度が発生している。
【0028】
コンピュータ30は、CPU31や入力装置32を備える。また、CPU31が処理する機能をブロック化して説明すると、光検出部20からインターフェログラムを取得する光強度情報取得部31aと、試料Sの吸光度スペクトル等を算出する試料測定部31bと、入力装置32で入力された入力情報に基づいて移動鏡ユニット50における移動鏡速度や移動距離を制御する移動鏡制御部31cと、固定鏡ユニット60におけるアライメント機構62を制御する固定鏡制御部31dとを有する。
【0029】
以上のように、本発明のFTIR1によれば、第一スリット73cと第二スリット73dとがヨーク73の中心軸で対称となる位置に設けられているので、推力差が解消されて回転運動を起こすモーメントの発生がなくなり、高速駆動時の移動鏡53と固定鏡61との角度ずれを1秒以下に抑えることができる(図5(a)参照)。
【0030】
<他の実施形態>
(1)上述したFTIR1では、ダミー電力供給端子72dを設けた構成を示したが、コイルが電力供給端子を介して電源と電気的に接続されるとともにダミー電力供給端子を介して電源と電気的に接続されるような構成としてもよい。
【0031】
(2)上述したFTIR1では、ダミー電力供給端子72dを設けた構成を示したが、ダミー電力供給端子を設けない構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、フーリエ変換赤外分光光度計等の干渉分光光度計に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 FTIR(干渉分光光度計)
70 VCM(ボイスコイルモータ)
71 固定部
72 移動部
72b コイル
72c 電力供給端子(電力供給線)
73 ヨーク
73a 筒状部
73c、73d スリット
74 マグネット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7