特許第6702439号(P6702439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6702439記録ヘッド及びそれを備えたインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702439
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】記録ヘッド及びそれを備えたインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   B41J2/165 401
   B41J2/165 303
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-561803(P2018-561803)
(86)(22)【出願日】2017年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2017035772
(87)【国際公開番号】WO2018131226
(87)【国際公開日】20180719
【審査請求日】2019年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2017-3925(P2017-3925)
(32)【優先日】2017年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】乾 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】佐武 健一
(72)【発明者】
【氏名】荒木 拓馬
【審査官】 馬渕 貴洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−326517(JP,A)
【文献】 特開2013−049246(JP,A)
【文献】 特開2012−201102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 〜 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上にインクを吐出する複数のインク吐出口が開口するインク吐出領域を含むインク吐出面を備えた記録ヘッドであって、
前記インク吐出領域に対して、前記インク吐出面をワイパーが拭く方向であるワイピング方向の上流側には、複数の凹部が設けられており、
前記各凹部の内部には、クリーニング液を供給するクリーニング液供給口が前記ワイピング方向に沿って2つ以上設けられ、
前記各凹部は、前記ワイピング方向に沿って延びるように形成されており、
前記複数の凹部は、前記ワイピング方向と直交する方向に互いに所定の間隔を隔てて配置されていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記凹部は、平面視において矩形状であり、
前記凹部の外縁部のコーナー部は、平面視においてR形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記凹部の外縁部は、前記ワイパーが拭く面と交わる部分が断面視においてR形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記各凹部の内部には、前記ワイピング方向に沿って配置された2つ以上の前記クリーニング液供給口からなる供給口列が、前記ワイピング方向と直交する方向に複数列設けられていることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記各凹部の前記ワイピング方向と直交する方向の長さは、1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
請求項1に記載の記録ヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙のような記録媒体にインクを吐出するインク吐出口を有する記録ヘッド及びそれを備えたインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリ、複写機、プリンターのような記録装置として、インクを吐出して画像を形成するインクジェット記録装置が、高精細な画像を形成できることから広く用いられている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、画像記録のためのインク滴と共に吐出される微小なインク滴(以下、ミストと称する)や、インク滴が記録媒体に付着した際に発生する跳ね返りミストが、記録ヘッドのインク吐出面に付着して固化する。インク吐出面のミストが徐々に増加しインク吐出口に重なると、インクの直進性の悪化(飛翔曲がり)や不吐出等が発生して記録ヘッドの印字性能が低下する。
【0004】
そこで、記録ヘッドのインク吐出面を清浄化するために、インク吐出面のうちの複数のインク吐出口が開口するインク吐出領域の外側(ワイパーのワイピング方向上流側)の部分に、クリーニング液供給口を複数個設けたインクジェット記録装置が知られている。このインクジェット記録装置では、クリーニング液供給口からクリーニング液を供給した後、ワイパーをクリーニング液供給口よりも外側からインク吐出面に沿って移動させることによって、ワイパーでクリーニング液を保持しながらインク吐出面を拭くことができる。このようにして、記録ヘッドの回復処理を行うことができる。
【0005】
なお、記録ヘッドのインク吐出面にクリーニング液供給口を複数個設けたインクジェット記録装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−83496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のインクジェット記録装置では、記録ヘッドの回復処理を行う度にワイパーがクリーニング液供給口上を通過するため、クリーニング液供給口の縁部によってワイパーの先端に傷が生じるという問題点がある。なお、ワイパーの先端の傷が大きくなりワイパーの先端に欠けが生じると、ワイパーの拭き取り性能は著しく低下し、拭き残しが生じる。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ワイパーが損傷するのを抑制しながら、インク吐出面を清浄化することが可能な記録ヘッド及びそれを備えたインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面の記録ヘッドは、記録媒体上にインクを吐出する複数のインク吐出口が開口するインク吐出領域を含むインク吐出面を備えた記録ヘッドであって、インク吐出領域に対して、インク吐出面をワイパーが拭く方向であるワイピング方向の上流側には、複数の凹部が設けられており、各凹部の内部には、クリーニング液を供給するクリーニング液供給口がワイピング方向に沿って2つ以上設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の局面の記録ヘッドによれば、インク吐出領域に対してワイピング方向の上流側には、複数の凹部が設けられており、各凹部の内部には、クリーニング液を供給するクリーニング液供給口が設けられている。これにより、クリーニング液供給口からクリーニング液を供給した後、ワイパーを凹部よりもワイピング方向上流側からインク吐出面に沿って移動させることによって、ワイパーでクリーニング液を保持しながらインク吐出面を拭くことができる。このため、インク吐出面を清浄化することができる。
【0011】
また、各凹部の内部には、クリーニング液供給口がワイピング方向に沿って2つ以上設けられている。これにより、記録ヘッドの回復動作を行う際に、ワイパーが凹部の縁部を通過する回数は、ワイパーがクリーニング液供給口の縁部を通過する回数よりも少なくなる。すなわち、ワイパーの先端が縁部と擦れる回数を低減することができる。このため、ワイパーの先端が損傷するのを抑制することができる。
【0012】
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置の構造を示す図
図2図1に示すインクジェット記録装置の第1搬送ユニット及び記録部を上方から見た図
図3】記録部のラインヘッドを構成する記録ヘッドの図
図4】記録ヘッドをインク吐出面側から見た図
図5】記録ヘッドのクリーニング液供給部材の凹部およびクリーニング液供給口を下方から見た図
図6】記録ヘッドのクリーニング液供給部材の凹部およびクリーニング液供給口の構造を示す図
図7】記録ヘッド、タンクおよび補給タンク周辺の構成を示す図
図8】メンテナンスユニットを記録部の下方に配置した状態を示す図
図9】記録ヘッドのクリーニング液供給部材の凹部およびクリーニング液供給口の構造を示す図であり、クリーニング液の液面がクリーニング液供給口に形成された状態を示す図
図10】ワイパーを記録ヘッドの下方に配置した状態を示す図
図11】記録ヘッドのクリーニング液供給部材の凹部およびクリーニング液供給口の構造を示す図であり、クリーニング液供給口からクリーニング液を供給した状態を示す図
図12図10の状態からワイパーを上昇させクリーニング液供給部材に圧接させた状態を示す図
図13図12の状態からワイパーをクリーニング液供給部材に圧接させた状態で矢印A方向に移動させた状態を示す図
図14】記録ヘッドのクリーニング液供給部材の凹部およびクリーニング液供給口の構造を示す図であり、ワイパーによってクリーニング液供給面を拭いた後の状態を示す図
図15図13の状態からワイパーをさらに矢印A方向に移動させた状態を示す図
図16図15の状態からワイパーをさらに矢印A方向に移動させた後、ワイパーを下降させインク吐出面から離間させた状態を示す図
図17】本発明の変形例の記録ヘッドのクリーニング液供給部材の凹部およびクリーニング液供給口を下方から見た図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態のインクジェット記録装置100の左側部には用紙S(記録媒体)を収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された用紙Sを、最上位の用紙Sから順に一枚ずつ後述する第1搬送ユニット5へと搬送給紙するための給紙ローラー3と、給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4とが設けられている。
【0016】
用紙搬送方向(矢印X方向)に対し給紙ローラー3及び従動ローラー4の下流側(図1の右側)には、第1搬送ユニット5及び記録部9が配置されている。第1搬送ユニット5は、第1駆動ローラー6と、第1従動ローラー7と、第1駆動ローラー6及び第1従動ローラー7に掛け渡された第1搬送ベルト8とを含む構成であり、インクジェット記録装置100の制御部110からの制御信号により第1駆動ローラー6が時計回り方向に回転駆動されることにより、第1搬送ベルト8に保持された用紙Sが矢印X方向に搬送される。
【0017】
記録部9は、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、及び11Kを備えている。これらのラインヘッド11C〜11Kは、第1搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、図2に示すように、用紙搬送方向と直交する用紙幅方向(図2の上下方向)に沿って延びる1個以上(ここでは1個)の記録ヘッド17によって構成されている。
【0018】
図3及び図4に示すように、記録ヘッド17のヘッド部18のインク吐出面F1には、インク吐出口18a(図2参照)が多数配列されたインク吐出領域R1が設けられている。
【0019】
各ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17には、それぞれインクタンク(図示せず)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のインクがラインヘッド11C〜11Kの色毎に供給される。
【0020】
各記録ヘッド17は、制御部110(図1参照)からの制御信号により外部コンピューターから受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Sに向かってインク吐出口18aからインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト8上の用紙Sにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。
【0021】
また、記録ヘッド17には、クリーニング液を供給するクリーニング液供給部材60が設けられている。クリーニング液供給部材60は、ヘッド部18に対して後述するワイパー35のワイピング方向上流側(図3の右側)に隣接して配置されている。クリーニング液供給部材60は、クリーニング液を供給するクリーニング液供給口60a(図5参照)が多数配列されたクリーニング液供給領域R2を含むクリーニング液供給面F2を有する。なお、ヘッド部18の少なくともインク吐出面F1は、例えばSUS(ステンレス鋼)によって形成されており、クリーニング液供給部材60の少なくともクリーニング液供給面F2は、例えばSUSや樹脂によって形成されている。
【0022】
クリーニング液供給面F2は、インク吐出面F1と面一に形成されている。また、クリーニング液供給部材60のクリーニング液供給面F2に対してワイピング方向上流側(図3の右側)の部分には、傾斜面62が形成されている。
【0023】
ここで、クリーニング液供給部材60のクリーニング液供給領域R2には図5および図6に示すように、複数の凹部64がヘッド幅方向(矢印BB´方向、ワイピング方向と直交する方向)に互いに所定の間隔を隔てて配置されている。なお、図5では、ヘッド幅方向に沿って配置される複数の凹部64からなる列を1列のみ描いているが、この列はワイピング方向(矢印A方向)に隣接して複数列設けられていてもよい。
【0024】
また、各凹部64の内部には、クリーニング液を供給するクリーニング液供給口60aが複数(ここでは4つ)設けられている。クリーニング液供給口60aは、凹部64の上面に接続されている。
【0025】
図7に示すように、クリーニング液供給部材60のクリーニング液供給口60a(図5参照)には、クリーニング液23が通過するチューブからなるクリーニング液供給経路70の下流端が接続されている。クリーニング液供給経路70の上流端は、クリーニング液供給部材60に供給するクリーニング液23を収容するサブタンク(タンク)71に接続されている。クリーニング液供給経路70の上流端は、クリーニング液23に浸かっている。クリーニング液供給経路70には、クリーニング液23をサブタンク71から汲み上げてクリーニング液供給部材60に送る供給ポンプ72が設けられている。なお、図では、理解を容易にするために、クリーニング液23にハッチングを施している。
【0026】
また、サブタンク71には、クリーニング液23が通過するチューブからなるクリーニング液補給経路80の下流端が接続されている。クリーニング液補給経路80の上流端は、サブタンク71に補給するクリーニング液23を収容する補給タンク(メインタンクとも言う)81に接続されている。クリーニング液補給経路80の上流端は、クリーニング液23に浸かっている。クリーニング液補給経路80には、クリーニング液23をメインタンク81から汲み上げてサブタンク71に送る補給ポンプ82が設けられている。供給ポンプ72および補給ポンプ82としては、例えば、チューブポンプ、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプ等を用いることができる。ただし、供給ポンプ72は、供給を停止している時に供給ポンプ72の流入口と流出口との間を遮断した状態と連通した状態とに切り替えることができるように構成されている。なお、クリーニング液供給部材60、サブタンク71およびメインタンク81周辺の詳細構造については、後述する。
【0027】
このインクジェット記録装置100では、記録ヘッド17のインク吐出面F1を清浄にするために、長期間停止後の印字開始時及び印字動作の合間には、全ての記録ヘッド17のインク吐出口18aからインクを強制的に排出し、並行して全ての記録ヘッド17のクリーニング液供給口60a(図5参照)からクリーニング液供給領域R2にクリーニング液23を供給し、後述するワイパー35によりインク吐出面F1を拭き取り、次の印字動作に備える。
【0028】
図1に戻って、用紙搬送方向に対し第1搬送ユニット5の下流側(図1の右側)には第2搬送ユニット12が配置されている。第2搬送ユニット12は、第2駆動ローラー13と、第2従動ローラー14と、第2駆動ローラー13及び第2従動ローラー14に掛け渡された第2搬送ベルト15とを含む構成であり、第2駆動ローラー13が時計回り方向に回転駆動されることにより、第2搬送ベルト15に保持された用紙Sが矢印X方向に搬送される。
【0029】
記録部9にてインク画像が記録された用紙Sは第2搬送ユニット12へと送られ、第2搬送ユニット12を通過する間に用紙S表面に吐出されたインクが乾燥される。また、第2搬送ユニット12の下方にはメンテナンスユニット19及びキャップユニット90が配置されている。上述したワイパー35による拭き取り動作を実行する際には、第1搬送ユニット5が下降し、メンテナンスユニット19は、記録部9の下方に移動し、記録ヘッド17のインク吐出口18aから強制排出されたインクおよびクリーニング液供給口60aから供給されたクリーニング液23を拭き取り、拭き取られたインクおよびクリーニング液23を回収する。記録ヘッド17のインク吐出面F1(図3参照)をキャッピングする際には、第1搬送ユニット5が下降し、キャップユニット90は、記録部9の下方に水平移動し、さらに上方に移動して記録ヘッド17の下面に装着される。
【0030】
また、用紙搬送方向に対し第2搬送ユニット12の下流側には、画像が記録された用紙Sを装置本体外へと排出する排出ローラー対16が設けられており、排出ローラー対16の下流側には、装置本体外へと排出された用紙Sが積載される排出トレイ(図示せず)が設けられている。
【0031】
メンテナンスユニット19は、インク吐出面F1に沿って移動可能な複数のワイパー35(図10参照)と、複数のワイパー35が固定された略矩形状のキャリッジ(図示せず)と、キャリッジを支持する支持フレーム(図示せず)とで構成されている。キャリッジ(図示せず)は支持フレーム(図示せず)に対し矢印AA′方向に摺動可能に支持される。
【0032】
ワイパー35は、各記録ヘッド17のクリーニング液供給口60a(図5参照)から供給されたクリーニング液23を拭き取るための弾性部材(例えばEPDMからなるゴム製の部材)である。ワイパー35は、クリーニング液供給部材60のクリーニング液供給領域R2(図4参照)に対してワイピング方向上流側の部分(ここでは、傾斜面62)に圧接され、キャリッジ(図示せず)の移動によりクリーニング液供給面F2およびインク吐出面F1を所定方向(矢印A方向)に拭く。
【0033】
次に、クリーニング液供給部材60、サブタンク71およびメインタンク81周辺の構造を詳細に説明する。
【0034】
図7に示すように、サブタンク71の所定位置には、クリーニング液23を検知する第1検知センサー73が設けられている。第1検知センサー73は、電圧が印加されるとともにサブタンク71内に配置される電極対(図示せず)を有する。第1検知センサー73は、電極間の通電の有無に基づいて、クリーニング液23の有無を検知可能である。第1検知センサー73によって液無し(通電無し)が検知されると、液有り(通電有り)が検知されるまで、補給ポンプ82によってメインタンク81からサブタンク71にクリーニング液23が補給される。これにより、サブタンク71内のクリーニング液23の液面(上面)は、略一定の高さに維持される。
【0035】
メインタンク81の下部には、クリーニング液23を検知する第2検知センサー83が設けられている。第2検知センサー83は、電圧が印加されるとともにメインタンク81内に配置される電極対(図示せず)を有する。第2検知センサー83は、電極間の通電の有無に基づいて、クリーニング液23の有無を検知可能である。第2検知センサー83によって液無しが検知されると、インクジェット記録装置100の表示パネル(図示せず)にメインタンク81が空になったことが報知される。これにより、ユーザーまたは作業者によって、メインタンク81が新品に交換、又はメインタンク81にクリーニング液23が補充される。
【0036】
サブタンク71は、メインタンク81よりも上方に配置されているとともに、記録ヘッド17のクリーニング液供給面F2よりも下方に配置されている。また、サブタンク71には、内部空間の気圧を大気圧と等しくするための大気開放口71aが設けられている。このため、供給ポンプ72がオフした状態において供給ポンプ72の流入口と流出口との間を連通状態にすると、クリーニング液供給口60aのクリーニング液23には負圧がかかる。
【0037】
図5に示すように、各凹部64は、平面視において(図6の下方向から見て)略矩形状に形成されているとともに、ワイピング方向に沿って延びるように形成されている。各凹部64のワイピング方向の長さは例えば数mm以上であり、ヘッド幅方向(矢印BB´方向)の長さは例えば1mm以下である。各凹部64の内部には、クリーニング液供給口60aがワイピング方向に沿って2つ以上(ここでは4つ)設けられている。
【0038】
また、凹部64の外縁部の4つのコーナー部64aは、平面視においてR形状に形成されている。このR形状の大きさ(半径)は、例えば0.5mm以上、1mm以下である。
【0039】
また、凹部64の外縁部は、図6に示すようにクリーニング液供給面F2(ワイパー35が拭く面)と交わる部分が断面視においてR形状に形成されている。言い換えると、凹部64の内側面64bとクリーニング液供給面F2とが交わる部分は、断面視においてR形状に形成されている。このR形状は、凹部64の外縁部の全周に設けられている。また、R形状の大きさ(半径)は、例えば0.5mmである。
【0040】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置100における、メンテナンスユニット19を用いた記録ヘッド17の回復動作について説明する。なお、以下で説明する記録ヘッド17の回復動作は、制御部110(図1参照)からの制御信号に基づいて記録ヘッド17、メンテナンスユニット19、供給ポンプ72等の動作を制御することによって実行される。
【0041】
記録ヘッド17の回復動作を行う場合、先ず、図8に示すように、制御部110(図1参照)は記録部9の下方に位置する第1搬送ユニット5を下降させる。そして、制御部110は第2搬送ユニット12の下方に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置する。この状態では、メンテナンスユニット19のワイパー35(図10参照)は記録ヘッド17のインク吐出面F1およびクリーニング液供給面F2(図3参照)よりも下方に配置されている。このとき、供給ポンプ72はオフ状態になっており、図9に示すように、クリーニング液23の液面はクリーニング液供給口60aに形成されている。
【0042】
(クリーニング液供給動作)
ワイピング動作(後述の拭き取り動作)に先立って、制御部110(図1参照)によって供給ポンプ72(図7参照)が駆動(オン)され、図10に示すようにクリーニング液23が記録ヘッド17に供給され、所定時間経過後、供給ポンプ72が停止(オフ)され、供給ポンプ72の流入口と流出口との間は遮断される。このとき、記録ヘッド17には、クリーニング液供給面F2に供給する量に凹部64の容積を加えた量のクリーニング液23が供給され、クリーニング液23は図11に示す状態になる。つまり、クリーニング液23は凹部64から凸状にクリーニング液23の表面張力で突出した状態になる。
【0043】
(インク押出動作)
また、ワイピング動作(後述の拭き取り動作)に先立って、図10に示すように、制御部110(図1参照)によってインク22が記録ヘッド17に供給される。供給されたインク22はインク吐出口18aから強制的に押出(パージ)される。このパージ動作により、インク吐出口18a内の増粘インク、異物や気泡がインク吐出口18aから排出される。このとき、パージインク22はインク吐出口18aの存在するインク吐出領域R1の形状に沿ってインク吐出面F1に押出される。なお、図では、理解を容易にするために、インク(パージインク)22にハッチングを施している。
【0044】
(拭き取り動作)
制御部110は図12に示すように、ワイパー35を上昇させて記録ヘッド17のクリーニング液供給部材60の傾斜面62に所定の圧力でワイパー35を接触させる。このとき、ワイパー35の上面がインク吐出面F1およびクリーニング液供給面F2よりも約1mmだけ高くなるように、ワイパー35を上昇させる。これにより、インク吐出面F1およびクリーニング液供給面F2に対するワイパー35の食い込み量(オーバーラップ量)が約1mmになる。なお、ワイパー35を上昇させた時点では、ワイパー35は傾斜面62に圧接されていなくてもよい。すなわち、ワイパー35を図12よりも右側の位置で上昇させてもよい。
【0045】
ワイパー35の先端がクリーニング液供給部材60の傾斜面62に圧接した状態から、制御部110はワイパー35を図13に示すようにクリーニング液供給面F2に沿ってインク吐出領域R1の方向(矢印A方向)に移動させる。これにより、ワイパー35は、凹部64から凸状に突出した状態のクリーニング液23を掬い取る(この際、凹部64内のクリーニング液23の一部もワイパー35側に移動する)ことで、クリーニング液23を保持した状態でインク吐出領域R1の方向に移動する。このとき、クリーニング液供給部材60のクリーニング液23は図14に示す状態になり、凹部64内にクリーニング液23が留まった状態になる。つまり、凹部64内(凹部64の外縁部)にクリーニング液23のメニスカスが張った状態になる。このことで、クリーニング液23が振動や衝撃等の外力の作用で凹部64から流れ出すことを阻害することが可能となる。
【0046】
ワイパー35の先端がクリーニング液供給領域R2を通過すると、供給ポンプ72の流入口と流出口との間は連通状態に切り替えられる。これにより、クリーニング液供給口60aのクリーニング液23には負圧がかかり、凹部64内のクリーニング液23がクリーニング液供給口60aに吸い込まれ、図9の状態に戻る。
【0047】
そして、図15に示すように、ワイパー35は、クリーニング液23を保持した状態を維持しながらインク吐出面F1を左方向(矢印A方向)に移動する。このとき、クリーニング液23およびインク(パージインク)22によって、インク吐出面F1に付着して固化したインク滴(廃インク)が溶解し、ワイパー35によって拭き取られる。そして、ワイパー35は、さらに左方向(矢印A方向)に移動し、インク吐出領域R1に対してクリーニング液供給領域R2とは反対側の位置に到達すると、左方向への移動が停止される。なお、ワイパー35によって拭き取られたクリーニング液23および廃インクは、メンテナンスユニット19に設けられたクリーニング液回収トレイ(不図示)に回収される。
【0048】
(離間動作)
拭き取り動作の実行後、図16に示すように、制御部110はワイパー35を下降させてインク吐出面F1から離間させる。
【0049】
最後に、制御部110は、記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて第2搬送ユニット12の下方に配置し、第1搬送ユニット5を所定の位置まで上昇させる。このようにして、記録ヘッド17の回復動作を終了する。
【0050】
本実施形態では、上記のように、インク吐出領域R1に対してワイピング方向の上流側には、複数の凹部64が設けられており、各凹部64の内部には、クリーニング液23を供給するクリーニング液供給口60aが設けられている。これにより、クリーニング液供給口60aからクリーニング液23を供給した後、ワイパー35を凹部64よりもワイピング方向上流側からインク吐出面F1に沿って移動させることによって、ワイパー35でクリーニング液23を保持しながらインク吐出面F1を拭くことができる。このため、インク吐出面F1を清浄化することができる。
【0051】
また、各凹部64の内部には、クリーニング液供給口60aがワイピング方向に沿って2つ以上(ここでは4つ)設けられている。これにより、記録ヘッド17の回復動作を行う際に、ワイパー35が凹部64の縁部(外縁部)を通過する回数は、ワイパー35がクリーニング液供給口60aの縁部を通過する回数よりも少なくなる。すなわち、ワイパー35の先端が縁部と擦れる回数を低減することができる。このため、ワイパー35の先端が損傷するのを抑制することができる。
【0052】
また、複数の凹部64は、インク吐出領域R1に対してワイピング方向の上流側に配置されたクリーニング液供給領域R2に設けられている。これにより、記録ヘッド17におけるインク通過経路とクリーニング液通過経路とを別々に(離れて)形成することができるので、記録ヘッド17の構造が複雑になるのを抑制することができる。
【0053】
また、上記のように、凹部64の外縁部のコーナー部64aは、平面視においてR形状に形成されている。これにより、ワイパー35の先端が損傷するのをより抑制することができる。
【0054】
また、上記のように、凹部64の外縁部は、クリーニング液供給面F2と交わる部分が断面視においてR形状に形成されている。これにより、ワイパー35の先端が損傷するのをさらに抑制することができる。
【0055】
また、上記のように、凹部64のヘッド幅方向の長さは、1mm以下である。これにより、クリーニング液供給動作時に、凹部64の外縁部で容易にメニスカスを張ることができる。
【0056】
また、凹部64が大きくなるのを抑制することができる。すなわち、凹部64の総容積が大きくなるのを抑制することができる。このため、凹部64をクリーニング液23で満たすために必要なクリーニング液23の量が多くなるのを抑制することができるとともに、クリーニング液23の供給時間が長くなるのを抑制することができる。
【0057】
また、凹部64が大きくなるのを抑制することができるので、用紙Sが撓んでいた場合であっても用紙Sが凹部64内に入り込むのを防止することができる。
【0058】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0059】
例えば、上記実施形態では、凹部64およびクリーニング液供給口60aが形成されたクリーニング液供給部材60をヘッド部18とは別体で設けた例について示したが、本発明はこれに限らない。クリーニング液供給部材60を設けず、凹部64およびクリーニング液供給口60aをヘッド部18に形成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、凹部64の外縁部を略矩形状に形成する例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば、凹部64の外縁部をオーバル形状(楕円形状、長円形状等)や円形状に形成してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、各凹部64の内部に、ワイピング方向に沿って配置された4つのクリーニング液供給口60aを設ける例について示したが、本発明はこれに限らない。例えば図17に示した本発明の変形例の記録ヘッド17のように、各凹部64の内部に、ワイピング方向に沿って配置された2つ以上(ここでは4つ)のクリーニング液供給口60aからなる供給口列D1を、ヘッド幅方向に複数列(ここでは2列)設けてもよい。このように構成すれば、凹部64の外縁部のうちのワイピング方向に延びる部分の数を減らすことができるので、ワイパーの先端が損傷するのをより抑制することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、クリーニング液23およびインク(パージインク)22を用いて記録ヘッド17の回復動作を行う例について示したが、クリーニング液23だけを用いて記録ヘッド17の回復動作を行ってもよい。すなわち、インク押出動作を行わなくてもよい。
【0063】
また、上述した実施形態および変形例の構成を適宜組み合わせて得られる構成についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
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