(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板状部と前記板状部の一方の面から突出したリブとを有する繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックにおける前記板状部の一部又は全部に積層された金属とを有する、繊維強化プラスチック複合体の製造方法であって、
シート状基材を複数枚積層して基材積層体とする積層工程と、
前記基材積層体を加熱する、基材加熱工程と、
前記リブを形成するための凹部を有するリブ型と前記凹部のないスキン型との間の型内で、前記基材積層体と金属とを、加圧装置を用いて加圧することで一体化する成形工程とを含み、
前記金属は平均厚さが0.5〜3mmであり、
前記基材積層体は、シート状基材として、一方向に配向した繊維と樹脂とを有するプリプレグに繊維を横切る複数の切込が挿入された切込プリプレグを複数枚含み、
前記成形工程において、リブ型に最も近い位置に配置された切込プリプレグに含まれる一方向に配向した繊維の配向方向が前記リブ型の凹部における長手方向となす鋭角側の角度の絶対値をθsとすると、θsが60°よりも小さい、繊維強化プラスチック複合体の製造方法。
板状部と前記板状部の一方の面から突出したリブとを有する繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックにおける前記板状部のリブが突出していない側の面の一部又は全部に積層された金属とを有する、繊維強化プラスチック複合体の製造方法であって、
シート状基材を複数枚積層して基材積層体とする積層工程と、
前記基材積層体を加熱する、基材加熱工程と、
前記リブを形成するための凹部を有するリブ型と前記凹部のないスキン型との間の型内で、前記基材積層体と金属とを、加圧装置を用いて加圧することで一体化する成形工程とを含み、
前記金属は平均厚さが0.5〜3mmであり、
前記基材積層体は、シート状基材として、一方向に配向した繊維と樹脂とを有するプリプレグに繊維を横切る複数の切込が挿入された切込プリプレグを複数枚含み、
前記成形工程において、リブ型に最も近い位置に配置された切込プリプレグに含まれる一方向に配向した繊維の配向方向が前記リブ型の凹部における長手方向となす鋭角側の角度の絶対値をθsとすると、θsが60°よりも小さい、繊維強化プラスチック複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、軽量性を維持しながら高い補強効果のある、金属と繊維強化プラスチックの複合体の製造方法を提供するために、鋭意検討し、板状部と前記板状部の一方の面から突出したリブとを有する繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックにおける前記板状部の一部または全部に積層された金属とを有する、繊維強化プラスチック複合体の製造方法であって、シート状基材を複数枚積層して基材積層体とする積層工程と、前記基材積層体を加熱する基材加熱工程と、前記リブを形成するための凹部を有するリブ型と前記凹部のないスキン型との間の型内で前記基材積層体と金属とを、加圧装置を用いて加圧することで一体化する成形工程とを含み、前記金属は平均厚さが0.5〜3mmであり、前記基材積層体は、シート状基材として、一方向に配向した繊維と樹脂とを有するプリプレグに繊維を横切る複数の切込が挿入された切込プリプレグを複数枚含み、前記成形工程において、リブ型に最も近い位置に配置された切込プリプレグに含まれる一方向に配向した繊維の配向方向が前記リブ型の凹部における長手方向となす鋭角側の角度の絶対値をθsとすると、θsが60°よりも小さい、繊維強化プラスチック複合体の製造方法を採用するに到った。
【0010】
また、本発明の別の形態では、板状部と前記板状部の一方の面から突出したリブとを有する繊維強化プラスチックと、前記繊維強化プラスチックにおける前記板状部のリブが突出していない側の面の一部又は全部に積層された金属とを有する、繊維強化プラスチック複合体の製造方法であって、シート状基材を複数枚積層して基材積層体とする積層工程と、前記基材積層体を加熱する、基材加熱工程と、前記リブを形成するための凹部を有するリブ型と前記凹部のないスキン型との間の型内で、前記基材積層体と金属とを、加圧装置を用いて加圧することで一体化する成形工程とを含み、前記金属は平均厚さが0.5〜3mmであり、前記基材積層体は、シート状基材として、一方向に配向した繊維と樹脂とを有するプリプレグに繊維を横切る複数の切込が挿入された切込プリプレグを複数枚含み、前記成形工程において、リブ型に最も近い位置に配置された切込プリプレグに含まれる一方向に配向した繊維の配向方向が前記リブ型の凹部における長手方向となす鋭角側の角度の絶対値をθsとすると、θsが60°よりも小さい、繊維強化プラスチック複合体の製造方法を採用するに到った。
【0011】
本発明における繊維強化プラスチック複合体は、薄肉の金属に、板状部と、前記板状部の一方の面から突出したリブとを有する繊維強化プラスチックが複合された複合体である。板状部とは、本発明では板状体の繊維強化プラスチックを指し、板状部の一方の面からはリブが突出している。リブによって、リブのない板状の繊維強化プラスチックと比べて曲げ剛性が大きく向上するため、軽量性を維持しながら、高い補強効果を得ることができる。
【0012】
図1に示す通り、本発明に係る繊維強化プラスチック複合体においては、板状部2と、リブ3で構成された繊維強化プラスチックが金属1に接着されることで、複合体の強度及び軽量性の両立を実現する。板状部は、
図1に示す板状部2のように曲面状であってもよいし、もしくは平面状であってもよい。板状部は均質な厚みを有しても、部分的に異なる厚みを有していてもよい。リブは、
図1のように、複数本存在してもよく、互いに交差しているリブと交差しないリブのいずれが存在してもよい(
図1は1本のリブと2本のリブが交差する例である)。リブの配置やリブの幅、高さ等の形状は、対象とする構造体の重量と力学特性のバランスを考慮して適宜設計される。一般的には、細幅のリブとした方が、設計の自由度が向上し、好ましい。
【0013】
本発明に係る繊維強化プラスチック複合体における金属と繊維強化プラスチックの体積比は、一概に言えるものではないが、金属が大きいほど重量が重くなるため、軽量化の観点からは繊維強化プラスチックの体積が相対的に大きいほど好ましい。具体的には、金属に対する繊維強化プラスチックの体積比が1以上、好ましくは1.5以上である。
【0014】
積層工程では、繊維強化プラスチックを製造するためのシート状基材を複数枚積層して基材積層体を得る。シート状基材とは、繊維からなる繊維シート、繊維と樹脂とからなるプリプレグ、樹脂からなる樹脂シートのいずれかが挙げられる。本発明では、基材積層体に、シート状基材として、プリプレグの一種である切込プリプレグを複数枚含む。切込プリプレグとは、一方向に配向した繊維と樹脂とからなるプリプレグに、複数の切込を挿入することで、繊維を不連続としたプリプレグである。切込プリプレグは、切込によって全ての繊維が10〜30mmに分断されていることが好ましい。切込プリプレグを適用することで、成形工程で切込プリプレグ中の不連続な繊維が流動し、板状部と、板状部から突出したリブを有する繊維強化プラスチックを成形することができる。シート状基材に含まれる不連続な繊維の体積含有率(Vf)に関しては特に限定はなく、適宜選択することができるが、十分な力学特性及び形状追従性を発現させるためにはVf=40〜65%であることが好ましい。
【0015】
切込プリプレグを含む積層構成は、繊維方向を揃えて積層する一方向積層、繊維方向が直交するように積層するクロスプライ積層や、弾性率が擬似的に等方性となる擬似等方積層などのうちから、成形する対象が求める特性に応じて適宜選ぶことが好ましい。金属との間に生じる残留応力を打ち消すために、リブを含む繊維強化プラスチック表面が収縮するような積層構成でもよい。
【0016】
基材積層体は、切込プリプレグが複数枚含まれてさえいれば、繊維シート、樹脂シート又は切込プリプレグとは異なるプリプレグを必要に応じて追加で積層してもよいし、一方で切込プリプレグのみで構成していてもよい。基材積層体は、その体積の50%以上が切込プリプレグで構成されていることが、軽量化、高力学特性化のために好ましい。
【0017】
本発明において繊維は、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから好ましい。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。複数種の繊維が混在していてもよい。
【0018】
基材積層体に含まれる繊維の体積含有率(Vf)に関しては特に限定はなく、適宜選択することができるが、十分な力学特性及び形状追従性を発現させるためにはVf=20〜65%であることが好ましく、Vf=40〜65%であることがより好ましい。
【0019】
繊維シートは、繊維がシート面内にランダムに配向されているシートである。繊維シートは10〜30mmの長さの繊維で構成されていることが好ましい。
【0020】
樹脂シートは、成形工程にて基材積層体に含まれる切込プリプレグ中の不連続な繊維の流動性を向上させるために挿入してもよく、金属と繊維強化プラスチックとの間の接着層とするために挿入してもよい。
【0021】
また、切込プリプレグとは異なるプリプレグにおいては、繊維がシート面内にランダムに配向されていても、一方向に配向されていてもよい。
【0022】
基材加熱工程は、基材積層体を加熱することで、続く成形工程における賦形性を向上させる工程である。
【0023】
加熱する温度は、基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が熱硬化性樹脂の場合、未硬化の樹脂が流動し、その後比較的短時間で硬化する温度がよく、130〜190℃であることが好ましい。基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂の場合、樹脂の融点〜融点+100℃であることが好ましい。
【0024】
加熱する方法は、基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が熱硬化性樹脂の場合、成形工程で用いるリブ型とスキン型を予め加熱しておき、両方の型の間に挟むことで加熱する方法、または、どちらかの型の上において加熱する方法であることが好ましい。基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が硬化速度の速い熱硬化性樹脂の場合、型に接さないように型の近くで基材積層体を把持しつつ加熱する方法を適用または前記の方法と併用することも基材加熱工程における加熱する方法として好ましい。基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂の場合、成形工程で用いる型とは別にプレートを準備しておき、それに挟んで加熱する方法、および/または、非接触式のIRヒータなどを用いて加熱する方法を適用することが好ましい。基材積層体と成形工程において一体化する金属も本工程において基材積層体と同時に加熱してもよい。
【0025】
加熱する時間は、設備の形態や温度、被加熱部の大きさなど様々な因子に合わせて適宜設定することができるが、基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が熱硬化性樹脂の場合、未硬化の樹脂が流動する温度までシート状基材の温度が上昇すれば良く、10〜500秒が好ましい。基材積層体を構成するシート状基材に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂の場合、10〜2000秒が好ましい。
【0026】
成形工程では、加熱された基材積層体と金属とを加圧することで繊維強化プラスチックにリブを形成すると共に、繊維強化プラスチックと金属とを一体化する。リブ型とスキン型は予め基材積層体を硬化させるための所定の温度へ加熱しておくことが好ましい。リブ型とスキン型は同じ温度に加熱することが好ましいが、残留応力や、樹脂や不連続な繊維の流動性をコントロールするために、リブ型とスキン型を適宜異なる温度に設定してもよい。
【0027】
リブ型は、
図2の凹部6を有するリブ型4のように、基材積層体と接触する面に、リブを成形するための凹部を有する。凹部は複数存在していてもよく、複数の凹部が互いに交差していてもよい。樹脂が型に固着しないように、リブ型とスキン型に離型剤を塗布しておくことが好ましい。
【0028】
スキン型は、
図2のスキン型5のように、リブを成形するための凹部のない型である。ただし、必ずしも平面状ではなく、製造対象とする繊維強化プラスチック複合体の形状に合わせて適宜凹凸を設けることで、
図1のように曲面状を得ることができる。
【0029】
スキン型やリブ型は少なくとも一部が金属と接触するため、金属との摩擦によって傷がつかないように、油剤等でコーティングしておくことが好ましい。リブ型とスキン型は、どちらを上型あるいは下型にしてもよい。
【0030】
成形工程ではまず、基材積層体と金属とを、リブ型とスキン型の間に配置するが、基材加熱工程において既に基材積層体と金属とがリブ型とスキン型の間に配置されていてもよい。このとき、金属はスキン型側とリブ型側のどちらに配置してもよく、両側に配置してもよい。金属と基材積層体とは配置前に予め密着されていても、別々に型の間に配置してもよい。金属がスキン型側やリブ型側に配置されることで繊維強化プラスチックの強度を向上させることができ、表面外観にも優れる。また、スキン型側とリブ型側の両方に配置することで、リブを有する繊維強化プラスチックで軽量化されながらも、十分な強度を有する繊維強化プラスチック複合体が得られる。
【0031】
また、本発明の別の形態では、金属をスキン型側のみに配置し、基材積層体をリブ型側に配置する。金属と基材積層体とは配置前に予め密着されていても、別々に型の間に配置してもよい。こうすることにより、より広範囲にリブを形成することができ、また必要となる金属が最低限に抑えられるため重量が減り軽量な繊維強化プラスチック複合体が得られる。
【0032】
次に、加熱されている基材積層体および金属を加圧することで、基材積層体に含まれる切込プリプレグ中の不連続な繊維を樹脂と共に流動させることにより板状部の形状を賦形すると同時にリブを生成し、併せて繊維強化プラスチックと金属とを一体化する。このとき、基材積層体が積層構造を維持しながらリブを生成することが理想であるが、必ずしも積層構造を維持しなくてもよい。成形工程における圧力はリブを生成するのに十分な圧力が必要であり、板状部に付与される圧力としては5〜10MPaが好ましい。
【0033】
本発明において、積層工程、基材加熱工程、成形工程を含んでいれば、適宜塗装や切削加工など必要に応じて工程を追加し、繊維強化プラスチック複合体を完成させてもよい。
【0034】
本発明において、樹脂は熱可塑性樹脂であってもよいが、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体あるいは、2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。硬化剤や硬化促進剤が含まれていてもよい。より好ましい樹脂としては、所定の温度にて5分以内で硬化し、繊維強化プラスチックが脱型可能となる樹脂が挙げられる。樹脂の硬化速度が速いほど、成形サイクルが速くなり、好ましい。さらに好ましい樹脂の硬化に要する時間は2分以内である。ここで、樹脂の硬化とは、脱型可能であれば特に指定はなく、例えば硬化度が70%以上ある状態などを指す。
【0035】
本発明において、金属の厚さは0.5mm〜3mmである。ここでいう金属の厚さとは、成形工程においてリブ型とスキン型の間に挿入する前における金属の厚さであり、マイクロメータやノギスなど、任意の方法で測定可能である。金属の厚さが薄すぎると、得られる繊維強化プラスチック複合体に飛翔体が衝突した際に、たやすく削られてしまう可能性がある。また、成形工程でシワが生じてしまう可能性がある。厚すぎると、重量が増加する。より好ましい金属の厚さは0.7mm〜2.7mm、さらに好ましくは0.9mm〜2.4mmである。上記の上限と下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0036】
金属の材質としては特に限定はなく、公知のものであってよい。例えばアルミニウム、鉄、銅、チタン、モリブデン、クロム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、鉛、錫などの純金属が挙げられる。また、炭素鋼、高張力鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ジューコール鋼、ハッドフィールド鋼、超強靱鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、銅合金(例えば真鍮、すず青銅、アルミニウム青銅など)、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金、ニッケル合金、亜鉛合金、鉛合金、すず合金などの少なくとも2種以上の金属の合金、または非金属と金属との合金であってもよい。
【0037】
このなかでも、軽量性や強度、耐衝撃性に優れている点で、チタン、ステンレス鋼、ジュラルミンまたはチタン合金が好ましく用いられる。用途に応じて適宜炭素が配合されていてもよいし、表面または成分のうち一部が酸化されていてもよい
金属の表面処理については特に限定はないが、微小な凹凸が設けられていることで金属と繊維強化プラスチックとの接着性が向上する。例えば、研磨紙やサンドブラストによって物理的に表面処理されたものでもよく、化学薬品処理によってさらに微小な凹凸を設けられたものもよい。
【0038】
本発明では、基材積層体に複数枚の切込プリプレグが含まれており、成形工程において、リブ型に最も近い位置に配置された切込プリプレグ(以下、表層の切込プリプレグという)に含まれる一方向に配向した繊維の配向方向が、前記リブ型の凹部における長手方向となす鋭角側の角度の絶対値をθsとすると、θsが60°よりも小さくなるように配置する。上記θsを60°より小さくすることで、リブ型の凹部に繊維が流入しやすくなり、繊維が充填された高いリブを形成することができる。該角度は45°より小さいことがより好ましい。複数の凹部が存在するリブ型を用いる場合でも、各凹部における長手方向と表層の切込プリプレグに含まれる一方向に配向した繊維の配向方向を60°よりも小さくすることで、各凹部へ繊維が流入しやすくなる。特に、リブ型が細幅の凹部を有する場合には顕著な効果がある。本態様は、凹部の長手方向に直角方向の幅が0.1〜1.5mmの場合に好ましく適用することができる。一方、θsが60°より大きくなると凹部を長手方向に対して横切る繊維が突っ張るため、リブ成形性が低下する。
【0039】
成形工程において、基材積層体から切込プリプレグ中の不連続な繊維と樹脂とがリブ型の凹部に流入し、板状部からリブが突出した繊維強化プラスチックを形成するが、かかる不連続な繊維と樹脂とがリブ型の凹部に流入する際、リブの内部へ板状部の繊維を引き込むため、その量が多すぎると、板状部の力学特性が低くなる場合がある。突出させるリブが細いほど、板状部の力学特性を保ったままリブを突出させることができる。構造体として、一般には、太幅のリブを一つ配置するより、細幅のリブを複数配置する方が、表面積が大きくなり、放熱効果も期待できることから好ましい。
【0040】
さらに本発明では、基材積層体に含まれる複数枚の切込プリプレグにおいて、それぞれの切込プリプレグに含まれる一方向に配向した繊維の配向方向がリブ型の凹部における長手方向となす鋭角側の角度の絶対値をθとすると、θが45°よりも小さい切込プリプレグが、θが45°以上の切込プリプレグと同数またはより多く含まれることが好ましく、より多く含まれる態様がより好ましい。さらに好ましい態様は、基材積層体に複数枚の切込プリプレグが含まれており、表層の切込プリプレグ、すなわち成形工程において、リブ型に最も近い位置に配置された切込プリプレグのθsが60°よりも小さく、かつ、複数枚の切込プリプレグにおいて、θが45°よりも小さいプリプレグが、θが45°以上のプリプレグと同数またはより多く含まれる態様であり、より多く含まれる態様がより好ましい。基材積層体の表層の切込プリプレグだけでなく、内側の切込プリプレグも凹部における長手方向と近い角度とすることで、リブを板状部から突出させやすくなり、これによりリブの力学特性も向上する。一方で、リブに対して直角に近い方向の力学特性を維持するために、基材積層体中の少なくとも1層の切込プリプレグは、θが45°以上であることが好ましい。別の態様としては、基材積層体中に少なくとも1層がθが60°以上の切込プリプレグである場合に、θが30°よりも小さい切込プリプレグが、θが60°以上の切込プリプレグと同数またはより多く含まれる態様であり、より多く含まれる態様がより好ましい。本態様においても、上記と同じく凹部の長手方向に直角方向の幅が0.1〜1.5mmの場合に好ましく適用することができる。
【0041】
本発明では、繊維強化プラスチックに一体化される金属板の弾性率(GPa)と厚み(mm)の積が、50〜300であることが好ましい。この積が50未満であると、基材積層体を加圧し、リブを突出させる際に、リブ突出によるヒケの痕が残る場合がある。金属表面のヒケは、リブ周辺の繊維がリブへ流入する際に、形成されるリブの反対側の面に配置された金属に圧縮荷重を与えてしまうことが原因と推定され、金属の厚みが厚いほど、弾性率が高いほど、金属の表面に、リブが突出することによるヒケの痕が残りにくくなり、金属表面の外観が向上する。この積が300よりも大きい場合は、重量が重くなりすぎる場合や、金属のみで十分な剛性を有する場合が考えられ、繊維強化プラスチックのリブによる補強効果が得られにくい。より好ましい、金属板の弾性率(GPa)と厚み(mm)の積としては、60〜250である。上記の上限と下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。なお、ここでの厚みとは金属板一枚の厚みを指し、金属板が複数含まれる場合は全ての金属板がそれぞれ上記を満たすことが好ましい。
【0042】
本発明では、リブ型の凹部の長手方向と直角の方向の幅(以下、単に凹部の幅という)が、型における凹部の奥行きの方向に行くにしたがい狭くなることが好ましい。凹部の幅が奥行き方向に行くにしたがい狭くなることで、硬化した繊維強化プラスチック複合体を、リブ型から外しやすくなる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に記載の発明に限定される訳ではない。
【0044】
<プリプレグの製造>
以下に示す原料を用いてエポキシ樹脂組成物および、プリプレグを製造した。
【0045】
まず、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:40重質量部、ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”1007FS:25質量部、DIC(株)製”EPICLON(登録商標)”N740:35質量部)と、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K:3重量部)とを、ビーカー内に投入し、80℃まで昇温させ30分加熱混練を行った。
【0046】
樹脂温度を30℃まで降温した後、硬化剤シジミンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5質量部と硬化促進剤2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)(ピイ・ティ・アイジャアン(株)製”オミキュア(商標登録)”24)2重量部とを加え、10分間攪拌させることで、ニーダー中から取り出してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0047】
得られたエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターを用いてシリコーンコーティングされた厚さ100μmの離型紙上に塗布し、29g/m
2の樹脂フィルムを作製した。
【0048】
次に、シート状に一方向に整列させた炭素繊維(東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T700S−12K−50C)の両面から樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することで樹脂組成物を含浸させ、炭素繊維目付け100g/m
2、炭素繊維の重量分率が63%で、炭素繊維が一方向に配向したプリプレグを作成した。
【0049】
<切込プリプレグの製造>
所定の位置に刃が複数配置された回転刃を押し当てることで、上記により得られたプリプレグにプリプレグを貫通する切込を挿入した。回転刃は、回転方向の進行方向となす角度が+14°の刃と−14°の刃とが交互に配置されており、プリプレグの全ての繊維が15mmに切断されるように配置されているものを用いた。
【0050】
<積層工程>
得られた切込プリプレグを、所定の角度・サイズに切り出し、積層した。1枚積層するごとに、真空引きを30秒間行い、基材積層体中に空気が残らないようにした。本実施例では、0°とは、縦横が100mm×100mmである切込プリプレグを正面から見て、縦方向に繊維が配向されている切込プリプレグ、90°とは、縦横が100mm×100mmである切込プリプレグを正面から見て、横方向に繊維が配向されている切込プリプレグ、45°とは、縦横が100mm×100mmである切込プリプレグを正面から見て、右斜め45°に繊維が配向されている切込プリプレグ、−45°とは、縦横が100mm×100mmである切込プリプレグを正面から見て、左斜め45°に繊維が配向されている切込プリプレグを意味する。
【0051】
<金属の準備>
市販の金属板を、100mm×100mmに切り出して、片方の表面を#1500のサンドペーパーで磨き、スキン型側金属板とした。また、同じく市販の金属板を20mm×100mmに切り出して、片方の表面を#1500のサンドペーパーで磨き、リブ型側金属板とした。磨いていない方の表面が金型に接するように、力を加えてスキン型やリブ型へ沿う形状へ加工した。
【0052】
<基材加熱工程>
予め150℃に加熱されたリブ型を上型として、スキン型を下型として、2つの型の間に基材積層体及び金属を配置して、20秒加熱した。実施例1では、まずスキン型にスキン型側金属板を配置し、その上から基材積層体を配置し、さらにその上からリブ型側金属板を配置し、リブ型を上から乗せた。このとき、リブ型の凹部が金属で覆われることの無いよう、金属の位置を調整した。また、実施例2以降ではまず、スキン型にスキン型側金属板を配置し、その上から基材積層体を配置し、リブ型を上から乗せた。その際、リブ型の重量分だけ基材積層体には圧力が付与されるが、基材に含まれる切込プリプレグ中の不連続な繊維や樹脂が流動するほどの圧力ではなかった。リブ型とスキン型はプレス機内にあり、20秒間の加熱時間の間に、上方のプレス盤面をリブ型に近づけた。
【0053】
<成形工程>
前述の20秒間の加熱後、プレス盤面を下ろして、基材積層体に6MPaの圧力を付与した。圧力を付与した状態で、15分間保持した。その後、プレス盤面を上げて型を取り出し、脱型し、繊維強化プラスチック複合体を得た。成形時にはリブの長手方向と基材積層体の0°方向をそろえて基材積層体を配置した。
【0054】
<成形性評価>
図2に示す、2本の凹部を有するリブ型および、曲面を有するスキン型を用いて、繊維強化プラスチックと金属との複合体を製造した。実施例6を除いて、凹部の幅として、2本とも2.0mmの場合、2本とも1.0mmの場合の2パターン用意し、リブへの繊維の充填具合を下記3段階で評価した。凹部の深さはいずれも5mmであった。
A:リブに炭素繊維が完全に充填した。
B:リブにある程度炭素繊維が充填し、リブ内の炭素繊維の高さが4〜5mmまで達した。
C:リブに炭素繊維が充填しきっておらず、リブ内の炭素繊維の高さが4mmより低かった。
【0055】
<金属のヒケ評価>
リブの裏側に相当する金属表面へ浮き出るヒケについて、下記3段階で評価した。
A:ヒケは全く見えず、手触りで凹凸も確認できない。
B:ヒケが見えているが、手触りで凹凸は確認できない。
C:ヒケが見えており、手触りで凹凸も確認できる。
【0056】
(実施例1)
基材積層体の積層構成を[+45°/0°/−45°/90°]sとした。金属はHikari製の0.5mmの厚さのアルミニウム板HA0513を用いた。金属板の弾性率(70GPa)と厚み(0.5mm)の積は35であった。成形工程では、基材積層体表面の繊維方向とリブの長手方向とのなす角が45°となるように基材積層体を金型に配置した。このとき、上記角度θs=45°であった。また金属板をスキン型とリブ型の両方に配置した。
【0057】
幅2.0mm、幅1.0mmのリブ共によく充填した。繊維強化プラスチックはスキン側、リブともに金属が配置されており、指で押しても凹まず高い剛性を有していた。
【0058】
(実施例2)
成形工程にて、金属板をスキン型側にのみ配置したこと以外は、実施例1と同様に繊維強化プラスチック複合体を製造した。
【0059】
幅2.0mm、幅1.0mmのリブ共によく充填した。繊維強化プラスチックを指で押しても凹まず、また実施例1と比べて軽量な繊維強化プラスチックが得られた。
【0060】
(実施例3)
基材積層体の積層構成を[0°/90°/0°/0°/90°/0°]とした。また、成形工程では基材積層体表面の繊維方向とリブの長手方向が同じ方向となるように基材積層体を金型に配置した。このとき、上記の角度θが45°よりも小さい切込プリプレグが、角度θが45°以上の切込プリプレグより多く含まれていた。そのほか、実施例2と同様に、幅1.0mmの凹部を有するリブ型を用いて繊維強化プラスチック複合体を製造した。実施例2よりもリブへの充填の度合いが向上した。
【0061】
(実施例4)
金属をHikari製の1.0mmの厚さのアルミニウム板HA1013とした以外は、実施例3と同様に、幅1mmの凹部を有するリブ型を用いて繊維強化プラスチック複合体を製造した。金属板の弾性率(70GPa)と厚み(1.0mm)の積は70であった。実施例3までは金属にヒケが確認できたが、本例ではヒケが確認されなかった。
【0062】
(実施例5)
金属はHikari製の0.5mmの厚さのステンレス(SUS430)板HS0531とした以外は実施例3と同様に、幅1.0mmの凹部を有するリブ型を用いて繊維強化プラスチック複合体を製造した。金属板の弾性率(200GPa)と厚み(0.5mm)の積は100であった。実施例4よりも金属の厚さは薄くなっているが、ヒケは同様に確認されなかった。
【0063】
(実施例6)
凹部の長手方向と直角方向の幅が、凹部の奥行きに行くにしたがい狭くなるリブ型を用いたこと以外は実施例4と同様に繊維強化プラスチック複合体を製造した。この幅は、凹部の根元箇所では1.0mm、先端、すなわち奥の箇所では0.6mmとなっていた。
【0064】
得られた繊維強化プラスチック複合体は実施例4と同様であったが、スムーズに脱型できた。
【0065】
(比較例1)
基材積層体の積層構成を[90°/0°]3sとし、成形工程において基材積層体表面の繊維方向とリブ長手方向とのなす角度が90°となるように基材積層体を金型に配置し、上記の角度θsを60°よりも大きくしたこと以外は、実施例2と同様に、繊維強化プラスチック複合体を製造した。
【0066】
幅2.0mmのリブへは、ある程度充填した。幅1.0mmのリブへの充填は明らかに不足していた。
【0067】
(比較例2)
プリプレグに切込を挿入しなかったこと以外は実施例2と同様に、繊維強化プラスチック複合体を製造した。その結果、幅2.0mmのリブ、幅1.0mmのリブいずれとした場合も明らかな繊維の充填不足が見られた。
【0068】
(比較例3)
プリプレグを切断し、幅1.0mm、長さ25mmのチョップドストランドを得て、シート状にし、70℃で加熱しながらプレートで加圧することで、繊維がランダムに配向され、1mmの厚さのSMCを得た。このSMCを用いたこと以外は、実施例2と同様に、繊維強化プラスチック複合体を製造した。その結果、幅2.0mmのリブも、幅1.0mmのリブもどちらも明らかな繊維の充填不足が見られた。
【0069】
【表1】